2022年9月25日掲載
ワンポイント:2019年、イーライリリー社の大ヒット糖尿病薬であるトルリシティ(trulicity)を製造するニュージャージー州のブランチバーグ工場で、人事責任者のアムリット・ムラ(Amrit Mula、女性)がイーライリリー社の医薬品製造不正と記録改ざん(manufacturing irregularities and records tampering)を訴えた。2020年3月、食品医薬品局(FDA)が査察し、「強制措置指示(Official Action Indicated)」を出した。2021年5月、米国司法省(U.S. Justice Department)は犯罪捜査(criminal investigation)を始めた。2022年9月24日現在、犯罪捜査の結論は出ていない。最終的には、刑事告発、民事的な制裁になるかもしれないが、何もなく、捜査を終える可能性もある。事件内容は公表されていない。国民の損害額(推定)は現状では1億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.日本語の解説
3.事件の経過と内容
4.白楽の感想
5.主要情報源
6.コメント
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●1.【概略】
世界規模の大きな製薬企業である米国のイーライリリー社(Eli Lilly and Company)が起こした製造不正と記録改ざん(manufacturing irregularities and records tampering)事件である。
2019年、イーライリリー社の大ヒット糖尿病薬であるトルリシティ(trulicity、画像出典)を製造するニュージャージー州のブランチバーグ工場で、人事責任者のアムリット・ムラ(Amrit Mula、女性)が製造不正と記録改ざん(manufacturing irregularities and records tampering)を訴えた。
2019年春、イーライリリー社幹部のリディア・ワイブル(Lydia Wible)は不正を指摘した社員のアムリット・ムラを解雇した。
2020年3月、これらを受け、食品医薬品局(FDA)が査察し、「強制措置指示(Official Action Indicated)」を出した。
2021年5月、米国司法省(U.S. Justice Department)は、ブランチバーグ工場の製造不正と記録改ざん(manufacturing irregularities and records tampering)容疑で犯罪捜査(criminal investigation)を始めた。
2021年7月、食品医薬品局(FDA)は2度目の査察をした。
2022年9月24日現在、しかし、犯罪捜査(criminal investigation)の結論が出ていない。
最終的には、刑事告発、民事的な制裁になるかもしれないが、何もなく、捜査を終える可能性もある。
2022年9月24日現在、事件内容は公表されていない。
不正告発から3年経ってこの状況である。捜査は遅すぎ、とてもマズイと思うが、重大事件かもしれない。
なお、製薬企業に対して、詐欺で捜査(criminal fraud)するのは珍しくないけど、犯罪で捜査(criminal investigation)するのはは珍しい。
ニュージャージー州ブランチバーグ(Branchburg, New Jersey)のイーライリリー社(Eli Lilly and Company)。写真REUTERS/Mike Segar、出典
- 国:米国
- 集団名:イーライリリー社
- 集団名(英語):Eli Lilly and Company
- ウェブサイト(英語):https://www.lilly.com/
- 日本支社:ある。ウェブサイト(日本語):https://www.lilly.co.jp/
- 集団の概要(日本支社のサイト①②から抽出):イーライリリー社はグローバルな研究開発型製薬会社で、会長兼最高経営責任者はデイビッド・A・リックス(David A. Ricks)である。1876年5月10日、設立。本社は米国インディアナ州インディアナポリスにある。社員数は約35,000名(2021年末日現在)。研究開発に従事する社員数:約8,100名。研究開発費:70億2600万ドル
- 事件の首謀者:ブランチバーグ工場幹部で品質責任者のリディア・ワイブル(Lydia Wible)
- 分野:製薬
- 不正年:~2019年
- 社会に不正公表年:2021年
- ステップ1(発覚):第一次追及者はブランチバーグ工場の人事責任者アムリット・ムラ(Amrit Mula、女性)で、イーライリリー社、そして、後に食品医薬品局(FDA)に公益通報
- ステップ2(メディア): 「Reuters」のマリサ・テイラー記者とダン・レヴィン記者(Marisa Taylor and Dan Levine)
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ): ①米国・食品医薬品局(FDA)。②米国・司法省、FBI
- 不正:製造不正と記録改ざん
- 不正論文数:論文不正ではないので、0論文
- 被害(者):調査中で不明
- 国民の損害額:総額は調査中なので算出できないが、あえて言うと、現状では1億円(大雑把)
- 結末:調査中で不明
●2.【日本語の解説】
日本語の解説は見つからなかった。
●3.【事件の経過と内容】
同時期にイーライリリー社(Eli Lilly and Company)には以下の複数事件が起こっていた。本記事で解説する事件とは基本的には別件である。詳細には触れない。
- 食品医薬品局(FDA)の査察官は、イーライリリー社・インディアナポリス工場で無菌状態に保つ手順が守られていないことを見つけた。
- ジョシュ・スマイリー(Josh Smiley、写真出典)最高財務責任者(CFO)は従業員と不適切な関係が発覚し辞任・退社した。2021年2月10日の「Bloomberg」記事:イーライリリーCFOが辞任、従業員との不適切な個人的関係が判明 – Bloomberg
- リー・アン・ピュージー上級副社長(Leigh Ann Pusey、女性、写真出典)が性不正で訴えられた。 → 2021年3月28日の「ロイター」記事:Exclusive: Ex-lobbyist sues Eli Lilly alleging sexual discrimination, harassment | ロイター
→2021年3月30日の「Forbes」記事:Eli Lilly Is Facing A Lawsuit Alleging A ‘Sexually Hostile Work Environment’ From A Former Lobbyist
★告発
米国のニュージャージー州ブランチバーグにイーライリリー社(Eli Lilly and Company)の医薬品製造工場がある。
2019年春、ブランチバーグ工場の人事責任者(top human resources officer)だったアムリット・ムラ(Amrit Mula、女性)は、解雇された。
アムリット・ムラはイーライリリー社の大ヒット糖尿病薬であるトルリシティ(trulicity、画像出典)、コロナ(COVID-19)治療薬のバムラニビマブ(bamlanivimab)、いくつかの抗がん剤を含む複数の薬、それらはどれもブランチバーグ工場の製品だが、それらの製造上に問題があること、及び、データ改ざんを指摘していた。
なお、本記事では医薬品の代表としてトルリシティ(trulicity)を中心に記述した。
製造上の問題とデータ改ざんを会社に指摘していたのは、アムリット・ムラを含む13人の従業員だった。
問題の責任者は工場幹部リディア・ワイブル(Lydia Wible)だった。
アムリット・ムラは製造上の問題とデータ改ざんを食品医薬品局(FDA)にも告発した。
★査察
2019年11月、イーライリリー社(Eli Lilly and Company)・ブランチバーグ工場に食品医薬品局(FDA)が査察に入った。ブランチバーグ工場は、大ヒットしている糖尿病薬のトルリシティ(trulicity)などを製造していた。
査察官は、工場のさまざまな製造プロセスに関するデータが削除され、適切に監査されていないことを見つけ、査察文書に記載した。
2020年3月、食品医薬品局(FDA)は査察の結果を「強制措置指示(Official Action Indicated)」とした。
「強制措置指示(Official Action Indicated)」は、株式会社イーコンプライアンスのお役立ち情報・「FDA査察における評価、(保存版)」に以下の説明がある。
FDA査察の評価
査察における評価は、以下の3種類がある。
NAI:No Action Indicated(措置指示無し)
指摘事項なし
VAI:Voluntary Action Indicated(自主的措置指示)
指摘はあったが、行政からは何の措置もない
OAI:Official Action Indicated(強制措置指示)
重大な指摘があり、行政措置がとられる。
つまり、「強制措置指示(Official Action Indicated)」されるということは、製薬企業にとって、とても深刻ということだ。
「強制措置指示(Official Action Indicated)」はブランチバーグ工場で製造した医薬品の販売を禁止することもできる。
ただ、この時、食品医薬品局(FDA)はそれ以上の行動をとらなかった。
2021年5月27日、米国証券取引委員会(U.S. Securities and Exchange Commission : SEC)は、イーライリリー社が、米国司法省(U.S. Department of Justice)から特定の文書の作成を要求する召喚状を受けとったと「Form 8-K」で公表した。 → Form 8-K
なお「Form 8-K」とは?、は以下である。
米国における株式公開企業が米国証券取引委員会(SEC)への提出が義務付けられている財務状況や株価に影響を与える可能性のある重要事項に関する報告書式のことで、会社支配権の変更、買収、処分、監査人の変更、取締役の退任、破産などの特別な事象について、発生から1か月以内の提出と、報告内容の迅速な対外発表が求められている。Form 8-Kとは? | 証券取引用語集
イーライリリー社は内容を公表した。
最近、当社の製造工場の1つが、米国食品医薬品局(FDA)の一般的な査察を受けました。査察官は厳格な適正製造基準(GMP)とFDAによって設定された品質基準の順守を調査し、データ処理に関連するいくつかの問題を見つけました。そのことで、私たちは強制措置指示(OAI)通知を受け取りました。
2020年7月、1回目の査察から8か月後、食品医薬品局(FDA)の査察官は、再び査察をし、さらにいくつかの問題を発見した。その中には、会社が製造ミスや品質管理不備の再発を防ぐための適切な調査をしなかった点も見つけた。
以下は2回目の査察文書(2020年8月21日提出)の冒頭部分(出典:同)。全文(6ページ)は → https://www.fda.gov/media/143340/download
★犯罪捜査
2021年5月27日、米国司法省(U.S. Justice Department)は、ブランチバーグ工場の製造不正と記録改ざん(manufacturing irregularities and records tampering)容疑で犯罪捜査(criminal investigation)を始めた。
捜査は、ワシントンの検察が関与し、FBI(Federal Bureau of Investigation)の捜査官が行なっている。
イーライリリー社は捜査の性質や対象についえ何も開示していないが、捜査に全面的に協力していると述べた。
ニュージャージー州の米連邦地検(New Jersey U.S. attorney’s office)の広報官は、記者の問い合わせに、捜査しているかどうか否定も肯定もせずに、回答を拒否している。 ワシントンの司法省、食品医薬品局(FDA)、FBIもコメントを拒否している。
捜査は初期段階と思われる。最終的には、刑事告発、民事的な制裁になるかもしれないが、何もなしで、捜査を終える可能性もある。
食品医薬品局(FDA)の「製造製品品質局(Office of Manufacturing and Product Quality)」の元責任者であるスティーブン・リン(Steven Lynn、写真出典)は、イーライリリー社の不正は深刻だと予測している。
というのは、連邦政府は、製造違反が非常に深刻で、会社がその問題にほとんど何も改善しない場合以外、製造違反で刑事告発を求めることはめったにないからだ。
つまり、製薬企業に対して、詐欺で捜査(criminal fraud)するのは珍しくないけど、犯罪で捜査(criminal investigation)するのはは珍しい、ということだ。
★裁判
製造不正と記録改ざん(manufacturing irregularities and records tampering)とは別の訴訟が提起されている。
2022年6月14日、イーライリリー社に不当に解雇されたと、元従業員・アムリット・ムラが裁判所に訴えた。
イーライリリー社の製造不正と記録改ざん(manufacturing irregularities and records tampering)問題を修正するようイーライリリー社に要請したために、彼女はイーライリリー社を解雇されたと主張している。
2022年9月24日現在、この裁判の決着はついていない。
●【ねつ造・改ざんの具体例】
イーライリリー社(Eli Lilly and Company)のトルリシティ(trulicity)事件は、製造不正と記録改ざん(manufacturing irregularities and records tampering)なのだが、何がどのように改ざんされたのか、2022年9月24日現在、公表されていない。
つまり、何がどのように改ざんされたのか、今のところ、具体的な公式発表はない。
FBI(Federal Bureau of Investigation)の捜査は初期段階と思われる。
それで、省略。
●4.【白楽の感想】
《1》不明
イーライリリー社(Eli Lilly and Company)のトルリシティ(trulicity)事件は、製造不正と記録改ざん(manufacturing irregularities and records tampering)なのだが、何がどのように改ざんされたのか、不明である。それで、ネカト対策に役立つ点は少ない。
2019年春、不正を指摘していた社員のアムリット・ムラ(Amrit Mula)が解雇されたが、それから、約3年が経過した。
食品医薬品局(FDA)が査察し、「強制措置指示(Official Action Indicated)」と評価し、FBIも捜査している。それなのに、事件内容が公表されない。大きな事件なのか? 何もなく霧散するのか?
3年経ってもこの状況である。捜査が遅すぎ。マズイと思うけど。
なお、日本では何も報道されない? なにかヘンだ。メディアが無知なのか?
イーライリリー社は、製造不正と記録改ざん(manufacturing irregularities and records tampering)容疑以外に、同じ時期に、最高財務責任者(CFO)と上級副社長の不祥事が表面化している。
組織で不祥事が起こるのは、トップや上層部が腐敗しているからなのだろうか?
イーライリリー社(Eli Lilly and Company)。写真出典
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●5.【主要情報源】
① 〇2021年3月11日のマリサ・テイラー記者とダン・レヴィン記者(Marisa Taylor and Dan Levine)の「Reuters」記事:Special Report: Insider alleges Eli Lilly blocked her efforts to sound alarms about U.S. drug factory | Reuters、(2)「yahoo.com」で同じ記事。(3)「Fox Business」で同じ記事:Insider alleges Eli Lilly blocked her efforts to sound alarms about US drug factory | Fox Business
② 2021年5月5日のダン・レヴィン記者とマリサ・テイラー記者(Dan Levine and Marisa Taylor)の「Reuters」記事:EXCLUSIVE Lilly hit by staff accusations, FDA scrutiny at COVID drug factories | Reuters
③ 2021年5月5日のメアリー・ケカトス(Mary Kekatos)記者の「Daily Mail Online」記事:Eli Lilly employees accuse top quality control official of rewriting documents about COVID drug | Daily Mail Online
④ 2021年5月28日のマリサ・テイラー記者とマイク・スペクター記者とダン・レヴィン記者(Marisa Taylor, Mike Spector and Dan Levine)の「Reuters」記事:EXCLUSIVE U.S. opens criminal probe into alleged lapses at Eli Lilly plant | Reuters⑤ 〇2021年5月28日のビングフイ・フーアン(Binghui Huang)記者の「Indystar」記事:Eli Lilly faces federal investigation at its New Jersey plant
⑥ 2022年6月14日のヘイデン・シュミット(Hayden Schmidt)記者の「PharmaNewsIntel」記事:Eli Lilly Sued by Whistleblower for Pharmaceutical Manufacturing Issue
⑦ 2022年6月10日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログの一部:Ely Lilly under criminal investigation
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