7-101 JBCの新しい研究公正部長はネカト者

2022年5月7日掲載 

白楽の意図:「合わせて1本」編。2022年1月、学術誌「JBC」の新しい研究公正部長(Data Integrity Manager)にエレナ・ガイダマコワ(Elena Gaidamakova)が採用された。このガイダマコワの2論文にネカトがあった。指摘したレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)の「2022年4月のFor Better Science」論文を読んだので、紹介しよう。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.日本語の予備解説
2.アメリカ生化学・分子生物学会の2022年4月記事
3.レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)の2022年4月記事
9.白楽の感想
10.コメント
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【注意】

学術論文ではなくウェブ記事なども、本ブログでは統一的な名称にするために、「論文」と書いている。

「合わせて1本」編の記事は、特定のテーマに沿った数報の新聞記事やウェブ記事などをつまみ食いし、合わせて、1つの記事にするシリーズです。

「論文」ポイントのみの紹介で、白楽の色に染め直し、さらに、理解しやすいように白楽が写真・解説など加え、色々加工している。

研究者レベルの人で、元情報を引用するなら、自分で元情報を読んでください。

●1.【日本語の予備解説】

★2022年2月23日:ジュフン・ハ(하주헌、Joohun Ha)(韓国) | 白楽の研究者倫理

カオル・サカベ(Kaoru Sakabe)が学術誌「J Biol Chem.」の研究公正部長(Data Integrity Manager)を辞職する。

正義を通した学術誌「J Biol Chem.」のカオル・サカベ研究公正部長(Kaoru Sakabe)もスゴイと思う。

ただ、2021年10月21日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログに、カオル・サカベは学術誌「J Biol Chem.」をまもなく辞職し製薬業界に移籍すると書いてある。とても残念だ。 → 2021年10月21日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ: How JBC sold its Soul to the Devil – For Better Science

【動画1】
インタビュー動画:「Interview with Kaoru Sakabe, ASBMB’s Data Integrity Manager – YouTube」(英語)。
WebsEdgeMedicineチャンネル登録者数 1.4万人2019/04/09にアップ 

●2.【アメリカ生化学・分子生物学会の2022年4月記事】

★2022年4月14日:アメリカ生化学・分子生物学会の「4月・5月号」記事

アメリカ生化学・分子生物学会(American Society for Biochemistry and Molecular Biology)は2022年初めに2人の新しいデータ公正係員(New data integrity team members)を採用した。

1人は、エレナ・ガイダマコワ(Elena Gaidamakova)で、2022年1月、アメリカ生化学・分子生物学会の研究公正部長(Data Integrity Manager)に採用した。

ガイダマコワはロシア科学アカデミー(Russian Academy of Sciences)の細胞学・遺伝学シベリア研究所で生物学の博士号を取得した。その後、彼女は米国のNIH、そして、米国軍保健科学大学(Uniformed Services University of the Health Sciences)で20年間、研究者として過ごした。

もう1人は、ジェシカ・ゴールドスミス(Jessica Goldsmith)で、2022年11月、アメリカ生化学・分子生物学会の画像アナリスト(mage analyst)に採用した。

●3.【レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ記事】

★白楽の概説

エレナ・ガイダマコワ(Elena Gaidamakova)は、アメリカ生化学・分子生物学会の新しい研究公正部長(Data Integrity Manager)、つまり、カオル・サカベ(Kaoru Sakabe)の後任である。

アメリカ生化学・分子生物学会は生化学の名門学術誌である「Journal of Biological Chemistry」を出版している。ここでは、「Journal of Biological Chemistry」を略して、「J Biol. Chem.」、もっと略して「JBC」(日本語でジェービーシー)を使う。

カオル・サカベ(Kaoru Sakabe)時代の「JBC」は、「ネカト・ゼロ」を掲げ、ネカト論文の大量撤回をしてきた。

しかし、2021年1月、「JBC」がエルゼビア社(Elsevier Inc)の傘下に入り、「JBC」出版体制が激変した(と思われる)。 → 2020年05月18日記事:Elsevier社、ASBMBとハイブリッドジャーナルのOAジャーナルへの転換に関するパートナーシップを締結 | STI Updates | 科学技術情報プラットフォーム
 → 2021年10月12日記事:How JBC sold its Soul to the Devil – For Better Science

「JBC」の新しい研究公正部長(Data Integrity Manager)になったエレナ・ガイダマコワ(Elena Gaidamakova)が問題で、過去にネカト論文があると、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)が指摘している。

ネカト論文と思われる論文は【エレナ・ガイダマコワ(Elena Gaidamakova)のねつ造・改ざんの具体例】で後述するが、シュナイダーがメールで指摘しても、ガイダマコワは無視し、返事をしてこない。

★エレナ・ガイダマコワ(Elena Gaidamakova)の経歴

主な出典:(14) Elena Gaidamakova | LinkedIn

  • 生年月日:不明。仮に1961年1月1日生まれとする。1979年に大学に入学した時を18歳とした
  • 1979 – 1985年(18 – 24歳?):ロシアのノヴォシビルスク大学(Новосибирский Государственный Университет)で修士号を取得:遺伝学
  • 1993 – 1997年(32 – 36歳?):ロシアの細胞遺伝学研究所(Institute of Cytology and Genetics)で研究博士号(PhD)を取得:遺伝学
  • 2001年11月 – 2021年12月(40 – 60歳?):米国軍保健科学大学(Uniformed Services University of the Health Sciences)・研究員
  • 2022年1月(61歳?):アメリカ生化学・分子生物学会・研究公正部長(Data Integrity Manager)

●エレナ・ガイダマコワ(Elena Gaidamakova)の【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2022年5月6日現在、パブメド(PubMed)で、エレナ・ガイダマコワ(Elena Gaidamakova)の論文を「Elena Gaidamakova[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2022年の21年間の23論文がヒットした。

「Gaidamakova EK」で検索すると、1991~2022年の32年間の30論文がヒットした。

2022年5月6日現在、「Retracted Publication」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2022年5月6日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでエレナ・ガイダマコワ(Elena Gaidamakova)を「Elena Gaidamakova」で検索すると、0論文が訂正、0論文が懸念表明、0論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2022年5月6日現在、「パブピア(PubPeer)」では、エレナ・ガイダマコワ(Elena Gaidamakova)の論文のコメントを「Elena Gaidamakova」で検索すると、2論文にコメントがあった。

【エレナ・ガイダマコワ(Elena Gaidamakova)のねつ造・改ざんの具体例】

「JBC」の新しい研究公正部長(Data Integrity Manager)になったエレナ・ガイダマコワ(Elena Gaidamakova)にはネカト論文があると、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)が指摘している。

★ガイダマコワの「2017年6月のVaccine」論文

書誌情報は以下。2022年5月6日現在、訂正も撤回もされていない。

2019年10月xx日、パブピアで「Actinopolyspora biskrensis」が、図1は同じ画像を再使用していると指摘している。(以下の図の出典:https://pubpeer.com/publications/2756BDEEEA4480B26A1EE50070DB9B?)

2019年10月xx日、「Leucanella acutissima」も、図1の別の画像で、同じ画像を再使用していると指摘している。(以下の図の出典:https://pubpeer.com/publications/2756BDEEEA4480B26A1EE50070DB9B?)

★ガイダマコワの「2007年9月のPLoS One」論文

書誌情報は以下。2022年5月6日現在、訂正も撤回もされていない。

  • Deinococcus geothermalis: the pool of extreme radiation resistance genes shrinks.
    Makarova KS, Omelchenko MV, Gaidamakova EK, Matrosova VY, Vasilenko A, Zhai M, Lapidus A, Copeland A, Kim E, Land M, Mavrommatis K, Pitluck S, Richardson PM, Detter C, Brettin T, Saunders E, Lai B, Ravel B, Kemner KM, Wolf YI, Sorokin A, Gerasimova AV, Gelfand MS, Fredrickson JK, Koonin EV, Daly MJ.
    PLoS One. 2007 Sep 26;2(9):e955. doi: 10.1371/journal.pone.0000955.

2022年2月xx日、パブピアで「Cregya oculata」が、図7Bには同じ画像の再使用があると指摘している。(以下の図の出典:https://pubpeer.com/publications/D8B39F9A78DA9EEA47BF214D902793?)

●9.【白楽の感想】

《1》なぜ辞任? 

カオル・サカベ(Kaoru Sakabe)がなぜ、「JBC」の研究公正部長(Data Integrity Manager)を辞任したのか、白楽はよくわかっていない。レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)が推察(暴露)しているように、研究公正の力を弱めるために、エルゼビア社が解雇したのかもしれない。

シュナイダーの見方に沿えば、ネカトを直視しないエレナ・ガイダマコワ(Elena Gaidamakova)を後任に採用したのはエルゼビア社の方針かもしれない。確かに、過去にネカト論文がある人を研究公正部長ってのは、猫に魚の番である。

しかし、この人事を、生化学系の研究者は納得するのだろうか?

シュナイダーの見方に沿えば、大歓迎である? ネカト論文を掲載してくれるので、多くの研究者は大歓迎?「JBC」への投稿が増える! そんな、バナナ!

《2》なぜ調査しない? 

「2017年6月のVaccine」論文も「2007年9月のPLoS One」論文もエレナ・ガイダマコワ(Elena Gaidamakova)が米国軍保健科学大学(Uniformed Services University of the Health Sciences)・研究員の時の論文だ。

両論文とも、ガイダマコワは第一著者でも最後著者でもない。

だから、白楽が推定するに、ガイダマコワはネカト犯ではないだろう。共著者の誰かがネカト犯だろう。

しかし、米国軍保健科学大学がネカト調査をしないので、誰がネカト犯か不明である。それに、ガイダマコワは自分の共著論文がネカトと指摘されても放置していたと思われる。

可能性としては低いが、告発したけど米国軍保健科学大学に無視されたかもしれない。もし、そうなら、シュナイダーにメールで指摘された時、ガイダマコワは自分自身の潔癖を伝えただろう。シュナイダーのメールを無視して、返事をしないのは、JBCの研究公正部長としては、この点でも、失格である。

こんな人が研究公正部長になるなんて、ブツブツです。

エレナ・ガイダマコワ(Elena Gaidamakova)。写真出典:https://www.linkedin.com/in/elena-gaidamakova-52046941/

《3》「学術誌・編集部のネカト調査不正」 

以下は「材料科学:ロングウェイ・イン(尹龙卫、Longwei Yin)(中国) | 白楽の研究者倫理」から修正引用。

学術誌・編集部のネカト調査にも不正があるという「学術誌・編集部のネカト調査不正」を知る人は少ない。ここも死角になっている。

学術誌はビジネス(営利企業、または学会の学術誌にも営利企業的側面がある)なので、出版社は学術誌の市場価値を高めるのに必死である。

だから、一度掲載した論文に関して、不名誉で評判を落とす論文撤回をしたくない。できれば訂正で済ませたい。それに、大学教授が編集長や編集員とはいえ、編集部係員は出版社に雇われた身である。その係員が、編集長や編集員の人選をしている。編集部係員の学術知的レベルは、ソコソコで、人によるが、正義感よりカネが大事だろう。

それで、大多数の人は知らないが、実は、「学術誌・編集部のネカト調査不正」も、かなり多いと思われる。

エリザベス・ビック自身の経験で、ビックが学術誌・編集部にネカトを告発してから4~5年経っても、781報/1016報=77%、つまり、77%の論文は撤回も修正もされなかった。 → 7-97 ビックのネカト告発方法 | 白楽の研究者倫理

日本には、「学術誌・編集部のネカト調査不正」がどれだけあるのか、闇に中だが、日本の学術誌は世界から見るとナッシング状態なので、世界でも日本国内でも問題視する人はいない(いなかった)(多分)。

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●10.【コメント】

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