「レイプ」:マーティン・フィルバート(Martin Philbert)(米)

2022年11月10日掲載 

ワンポイント:フィルバートはミシガン大学(University of Michigan)のプロボスト(provost、統括理事、学長に次ぐ地位)である。全米医学アカデミー・会員の著名な研究者で、人間的魅力にあふれたカリスマ的人物だ。1997~2019年(35~57歳?)の約22年間に3人の女性職員と性的関係を持ち、20人の女性院生・職員に性不正(性的暴行、セクハラ)行為を繰り返していた。2020年に性不正が発覚した時、ミシガン大学は既に3回の告発を受けていたが調査してこなかった。2020年6月、ミシガン大学を辞職した。処罰なし。対応が悪くかつセクハラ行為があったマーク・シュリッセル学長(Mark Schlissel)も、2022年1月15日に解雇された。国民の損害額(推定)は20億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

マーティン・フィルバート(Martin Philbert、写真出典)は、英国のロンドン大学王立大学院医科大学(London University Royal Postgraduate Medical School)で研究博士号(PhD)を取得後、米国に渡り、ミシガン大学・公衆衛生科大学院(University of Michigan School of Public Health)の助教授に就任した。その後、準教授、正教授、そして、プロボスト(provost、統括理事、学長に次ぐ地位)になった。専門は毒物学で、この分野では著名な学者だった。

フィルバートは学術研究が優れていただけでなく、人間的な魅力にあふれ、ミシガン大学のカリスマ的存在だった。

彼の理想主義、才能、人柄の温かさに惹かれ、多くの院生・職員がフィルバートを熱烈に支持していた。大学職員の中にファンクラブがあったそうだ。

1995年(33歳?)、米国のミシガン大学・公衆衛生科大学院(University of Michigan School of Public Health)・助教授に就任した。その数年後から女性院生・女性教員・女性職員への性不正行為をはじめた。

2005年(43歳?)、2010年(48歳?)、ミシガン大学は2回も性不正の告発を受けたが、調査しなかった。

それから10年が経過した。

その間、フィルバートは性不正行為を繰り返していた。

2017年10月5日、本事件とは異なる事件が勃発した。映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインの性不正を「ニューヨーク・タイムズ」新聞が報道。この報道が切っ掛けで全米に「#MeToo」運動が広まった。

2020年(58歳?)、3回目の性不正告発を受け、ミシガン大学はワシントン DC に本拠を置く法律事務所・ウィルマーヘイル社(WilmerHale)に調査を依頼した。

調査の結果、フィルバートは1997~2019年(35~57歳?)の約22年間に少なくとも3人の女性職員と性的関係を持ち、少なくとも20人の女性院生・職員に性不正(性的暴行、セクハラ)行為を繰り返していたことがハッキリした。

2020年6月30日(58歳?)、3か月前にプロボスト職を解任されていたフィルバートはミシガン大学・教授職を放棄(relinquish)した。解雇(fired)されたのではない。

2022年11月9日(60歳?)現在、ミシガン大学はフィルバートにまともなペナルティを科していない。そして、刑事事件にもなっていない。

なお、対応が悪くかつセクハラ行為があったマーク・シュリッセル学長(Mark Schlissel)は、2022年1月15日に解雇された。

ミシガン大学(University of Michigan)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:英国
  • 研究博士号(PhD)取得:英国のロンドン大学王立大学院医科大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1962年1月1日生まれとする。1984年に大学・学部を卒業した時を22歳とした
  • 現在の年齢:62 歳
  • 分野:毒物学
  • 性不正行為:1997~2019年(35~57歳?)の約22年間
  • 最初に訴えられた:2003年(41歳?)
  • 社会に公表年:2020年(58歳?)
  • 社会に公表時地位:ミシガン大学・プロボスト(provost、統括理事、学長に次ぐ地位)
  • ステップ1(発覚):被害者の女性が大学に公益通報
  • ステップ2(メディア):「Detroit Free Press」新聞のデイヴィッド・ジェシー(David Jesse)記者の記事、と多数のその追従メディア
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ミシガン大学が依頼した法律事務所・ウィルマーヘイル社(WilmerHale
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:あり。https://regents.umich.edu/files/meetings/01-01/Report_of_Independent_Investigation_WilmerHale.pdf
  • 大学・処分のウェブ上での公表:あり
  • 大学の透明性:大学が依頼した法律事務所・ウィルマーヘイル社(WilmerHale)が詳細をウェブ公表したが、実名を記載していない(Ⅹ)
  • 不正:性的暴行・レイプ、セクハラ
  • 被害者数:少なくとも3人の女性職員と性的関係を持ち、少なくとも20人の女性院生・職員に性不正(性的暴行、セクハラ)行為
  • 時期:研究キャリアの中期から
  • 職:教授職を放棄(relinquish)(Ⅹ)
  • 処分:プロボスト解任
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は20億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:Workshop Agenda – NCBI Bookshelf

  • 生年月日:不明。仮に1962年1月1日生まれとする。1984年に大学・学部を卒業した時を22歳とした
  • 1984年(22歳?):英国のケンブリッジ芸術技術大学(College of Arts and Technology at Cambridge)で学士号取得
  • 1987年(25歳?):英国のロンドン大学王立大学院医科大学(London University Royal Postgraduate Medical School)で研究博士号(PhD)を取得
  • 1987年(25歳?):米国のラトガース大学(Rutgers University)・ポスドク
  • 1995年(33歳?):米国のミシガン大学・公衆衛生科大学院(University of Michigan School of Public Health)・助教授
  • 2000年(38歳?):同大学・準教授
  • 2003年(41歳?):女性研究助手のレイプ・愛人化が発覚
  • 2004年(42歳?):同大学・正教授
  • 2004~2010年(42~48歳?):同大学・副学部長
  • 2005年(43歳?):性不正(性的暴行)告発1人目
  • 2010年(48歳?):性不正告発2人目
  • 2010年(48歳?):同大学・学部長
  • 2012年(50歳?):全米医学アカデミー(National Academy of Medicine)・会員
  • 2017年(55歳?):同大学・プロボスト(provost、統括理事)、学術担当副学長
  • [2017年10月5日:本事件とは異なる事件。映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインの性不正を「ニューヨーク・タイムズ」新聞が報道。この報道が切っ掛けで「#MeToo」運動が全米に広まる]
  • 2020年1月xx日(58歳?):性不正告発3人目
  • 2020年1月xx日(58歳?):ミシガン大学は法律事務所・ウィルマーヘイル社に調査依頼
  • 2020年3月(58歳?):プロボスト(provost、統括理事)を解任(fired)
  • 2020年6月30日(58歳?):ミシガン大学・教授職を放棄(relinquish)
  • 2020年7月31日(58歳?):ウィルマーヘイル社の調査終了

●3.【動画】

【動画1】
「マーティン・フィルバート」と呼ばれた。
ニュース動画:「U of M provost, VP for Academic Affairs Martin Philbert facing sexual misconduct allegations – YouTube」(英語)1分38秒。
WXYZ-TV Detroit | Channel 7(チャンネル登録者数 67万人)が2020/01/23 に公開

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★マーティン・フィルバート(Martin Philbert)の人生

マーティン・フィルバート(Martin Philbert、写真出典)は米国のトップクラスの公衆衛生学者で世界的に著名だった。2012年(50歳?)、全米医学アカデミー(National Academy of Medicine)・会員に選出された。

1995年(33歳?)、ミシガン大学・公衆衛生科大学院(University of Michigan School of Public Health)の助教授に就任し、その後、準教授、正教授、学部長、プロボスト(provost、統括理事、学長に次ぐ地位)と、とんとん拍子で昇進し、次期学長の有力候補になった。2020年時点の年収は570,000ドル(約5700万円)だった。

フィルバートは学術研究が優れていただけでなく、人間的な魅力にあふれ、ミシガン大学のカリスマ的存在だった。

彼の理想主義、才能、人柄の温かさに惹かれ、多くの院生・職員がフィルバートを熱烈に支持していた。大学職員の中にファンクラブがあったそうだ。

フィルバートは若々しいユーモアのセンスも発揮したが、時に、そのユーモアが、部下に関する性的なコメントにも及んだ。

フィルバートは結婚し子供が1人いるらしい。それで、レイプ事件を起こした時、結婚し子供がいたと想定した。ただ、配偶者の名前や職業、レイプ事件後の婚姻状態は不明である。 → Who Is Martin Philbert Wife? Wiki- University Of Michigan Sexual Assault Case Update

なお、性不正事件と結婚や家族などの個人生活がどう絡むか不明であるが、関係していると考え、一応、記載している。

★マーティン・フィルバート(Martin Philbert)のセクハラ事件概略

2020年1月xx日(58歳?)、ミシガン大学(University of Michigan)は、プロボスト(provost、統括理事)のマーティン・フィルバート(Martin Philbert)から性不正被害を受けたという告発を受け、フィルバートを出勤停止にした。

この時、少なくとも 20人の女性が被害を申し立てた。

ミシガン大学はこれらの被害者のうち、3件については以前から知っていたと発表した。

ミシガン大学は、ワシントン DC に本拠を置く法律事務所・ウィルマーヘイル社(WilmerHale)に調査を依頼した。

2020年3月(58歳?)、告発2か月後、フィルバートはプロボスト(provost、統括理事)を解任され、2020年6月に「自発的かつ取消不能な退職願い」を提出することになった。

ウィルマーヘイル社の調査で、結局、フィルバートは 1997~2019年(35~57歳?)の約22年間に少なくとも3人の女性職員と性的関係を持ち、少なくとも20人の女性院生・職員に性不正(性的暴行、セクハラ)行為を繰り返していたことが判明した。

以下は2020年7月31日の調査報告書(ウィルマーヘイル社)の冒頭部分(出典:同)。全文(94ページ)は →
https://regents.umich.edu/files/meetings/01-01/Report_of_Independent_Investigation_WilmerHale.pdf、(保存版

調査報告書(ウィルマーヘイル社)には次のことが述べられていた。 → 2020年7月31日記事:https://record.umich.edu/articles/report-details-decades-of-sexual-misconduct-by-philbert/

  • フィルバートの性不正は、彼が助教授だった時からプロボスト(provost、統括理事、学長に次ぐ地位)までの約20年間続いた。
  • 学部長の時、フィルバートは大学のオフィスで性的関係を持った女性職員を含め、ミシガン大学・公衆衛生科大学院の少なくとも3人の女性職員と性的関係を持っていた。
  • フィルバートは、プロボスト(provost、統括理事、学長に次ぐ地位)の任期のほぼ全期間にわたって、少なくとも2人の女性職員(上記3人のうちの2人)と同時に性的関係を持っていた。彼は大学のオフィスで性的関係を持ち、その1人の女性とはほぼ毎日、性的関係を持った。
  • ミシガン大学の担当者は、フィルバートがミシガン大学に着任して直ぐに、彼の性不正行為についての告発を受けていた。しかし、ミシガン大学・機会均等事務局(Office for Institutional Equity)は公式な調査をしなかった。
  • マーク・シュリッセル学長(Mark Schlissel)と複数の 職員は、フィルバートに対する性不正の申し立てを知っていたが、追求しなかった

2020年11月、ミシガン大学は、訴訟せずに、フィルバートの性不正被害者8人の女性(大学の現・元職員)に925万ドル(約9億2500万円)を払うことで和解した。白楽が単純に割り算をすると、1人1億1千万円強になった。 → 2020年11月18日のリック・フィッツジェラルド広報担当(Rick Fitzgerald)の大学記事:University reaches settlement regarding abuse by former provost | The University Record

なお、925万ドル(約9億2500万円)の内、350 万ドル(約3億5000万円)は保険会社の「ミュンヘン再保険アメリカ社(Munich Reinsurance America)」から 払い戻しを受けるそうだ。 → 2022年6月5日記事:UMich receives $3.5 million reimbursement for Philbert settlement

★シュリッセル学長(Mark Schlissel)も解雇

2022年1月15日、マーティン・フィルバート(Martin Philbert)のレイプ事件の対処の悪さもあって、ミシガン大学・理事会はマーク・シュリッセル学長(Mark Schlissel、2014年7月1日就任、写真出典)を解雇した。 → 2022年1月15日:University of Michigan President Mark Schlissel fired by board

シュリッセル学長、フィルバート事件の対処が悪かっただけではなかった。

実は、シュリッセル学長自身も軽微な性不正行為をしていた。それで「合わせて一本」としたようだ。

シュリッセル学長は定期的に女性事務員に不適切なメールを何度も送っていた。

例えば、2019 年 10 月、女性事務員にクニッシュ(knish、写真出典)をあげたとき、女性事務員は「もちもちしたスナック菓子が好きです」と答えた。すると、シュリッセル学長は「クニッシュであなたを誘惑できますか?」と電子メールした。

他にも、2021 年 9 月 1 日、部下の女性の大学の公式メール アドレス宛に「とってもセクシー(sexier)」と書き込んだ。

2021 年 11 月 4 日、学長の公務の一環として出席する予定だったミシガン大学のバスケットボール試合で、部下の女性に次のメールを送信した。「私が行くのに同意した唯一の理由はあなたと一緒だったからです」 。一緒に観戦できないのに失望した、とメールしたのだ。

シュリッセル学長のセクハラ行為は軽微だけど、理事会はシュリッセル学長を解雇した。

【性不正の具体例】

少なくとも 20人の女性が大学に性不正被害を申し立てたというから、マーティン・フィルバート(Martin Philbert)はかなり多数の女性に性不正行為をしてきたと思われる。

★女性を雇うので男性研究員を解雇:2003年:フィルバート(41歳?)

2003年12月、フィルバート研究室の年収6万ドル強(約600万円)の男性研究員(research associate)だったトーマス・コモロウスキー(Thomas Komorowski)(2001年以に雇用)は、フィルバートに解雇された。

直後、彼は大学に対して解雇は不当と訴訟を起こした。

ウォシュテナウ郡巡回裁判所の法廷文書では、フィルバートが女性研究者(既婚、女性Aとする)と肉体関係を持っていて、この若い愛人を研究員にするためにコモロウスキーを解雇したと、コモロウスキーは訴えた。

フィルバートは女性研究者Aのヌード写真をコモロウスキーに見せていた。また、その女性Aが研究室でフィルバートのお尻をつかんでいるのを別の人が見ていた。

フィルバートは、女性研究者Aの雇用するためにコモロフスキーを解雇したことを否定している。彼は、助成金がなくなったのでコモロウスキーを解雇したと述べている。

なお、この裁判は、ミシガン大学がコモロウスキーに20万ドル(約2000万円)払うという示談で終った。つまり、コモロウスキーの主張が正しかったのだ。 → 2020年2月17日記事:UM paid nearly $200K to settle 2004 suit against provost Philbert

★研究助手女性B(匿名):2005年:フィルバート(43歳?)

フィルバートの研究室で研究助手として働いていた女性で、上記の女性Aと同じ人物のようでもあるが、白楽には確証がないので女性Bとした。

女性BAは院生のとき、フィルバートに初めて会ったが、そのとき、フィルバートを温かい人柄の友好的な教授だと感じた。

フィルバートは女性Bを研究助手に雇用し、会うたびにハグをした。

フィルバートは抱きしめてから、女性Bの頬と首にキスをするようになった。

最終的に、フィルバートは女性Bにセックスを求め始め、ある時、彼は「机の上でセックスしよう」、「キャラメル色の赤ちゃんを産んでよ」と言った。

女性Bはひどく困惑し、学科の教員に打ち明けた。教員は、ミシガン大学の機会均等事務局(Office for Institutional Equity)のアンソニー・ウェールズビー局長(Anthony Walesby、写真出典)に申し立てた。

2005年後半、ウェールズビー局長は女性Bに性不正行為の詳細を話すよう要求した。

ただ、2005年に女性Bの被害をウェールズビー局長に伝えた教員は、ウェールズビー局長に「これ以上深入りするな」と警告された。

教員は、「ウェールズビー局長と何度か会ったことを覚えています。弁護士とも1回会ったことがあります・・・。非常に具体的な条件を示され、調査をやめるように言われました。私の責任は報告することであって、調査することではないと言われました。そのため、女性Bの被害状況について関連部門を回って調べることをしませんでした」と述べている。

最終的に、研究助手だった女性Bは2007年にミシガン大学を辞めた。

★女性C(匿名):2010年:フィルバート(48歳?)

省略

★エミリー・レンダ(Emily Renda)(当時28~30歳):2012~2014年11月:フィルバート(50~52歳?)

2012年(50歳?)、ミシガン大学で公衆衛生学の修士号を2009年に取得した28歳のエミリー・レンダ(Emily Renda、写真出典)は、ミシガン大学・公衆衛生学部の職員として働いていた。

ところが、元カレのストーキング被害にあっていた。

元カレがオフィスに現れた場合に備えて、同僚に相談するよう警察にアドバイスされ、レンダは当時学部長だったフィルバートに相談した。

事情を聞いたフィルバートは、レンダのことを心配し、自宅に帰る途中にレンダの家があるので、送っていくと提案した。それで、フィルバートがレンダを頻繁に送迎することになった。

当時のレンダは知らなかったが、フィルバートは毒物学の分野では著名な研究者だった。

また、フィルバート が2005 年と2010年の2回、性不正行為で大学に告発されていたことも知らなかった。というのは、2回とも大学は告発を握り潰して、性不正の調査をしなかったので、表沙汰になっていなかったからだ。

学内でフィルバートの性癖は噂されていたが、レンダはそれを知らなかった。

フィルバートと付き合うようになって、レンダのキャリアは半年で目覚ましく上昇した。

2013年(51歳?)、レンダは優秀職員賞(staff excellence award)にノミネートされ、同僚の1人からは「私は、レンダよりも優秀な同僚を知りません」という熱烈な推薦状をもらった。

レンダはディレクターに昇進し、フィルバートと緊密な時間がさらに増えた。「フィルバートと私は本当に良いチームだと思います」と彼女は述べていた。

2013年4月(51歳?)、フィルバートが最初に彼女の家まで送迎してから約6か月後、彼は大学のオフィスのソファでレンダの隣に座り、「貴女に恋してる」とささやいた。

29歳の独身女性のレンダは「私は、フィルバートが人生で一度も感じたことのないものを、感じさせました(セックスしたという意味?)。私はフィルバートをすごく尊敬し賞賛し、とことん夢中でした」。

彼女は彼のオフィスでキスをし、性的関係を持ち、その関係はその後、6か月間続いた。

2013年秋(51歳?)、愛人関係が半年続いた頃、しかし、レンダはフィルバートに幻滅し始めた(白楽はその理由をつかめていない)。

レンダは、「私は自分の人生を歩みたかった。私は愛人(mistress)になっているのがいやで、普通の関係(normal relationship)に戻りたかった」。

2014年11月(52歳?)、それから1年後、30歳のレンダはフィルバートとの愛人関係を終えた。

愛人関係を終えて、ホッとした。

以下は、2014年3月21日の「2014年入学生 の日」で新入生にミシガン大学を紹介する レンダの動画。出典:https://sph.mivideo.it.umich.edu/media/Admitted+Student+Day+2014+-+Emily+Renda%2C+MPH/1_iszjnqrr

2015年4月(53歳?)、愛人関係を終えて5か月後、レンダは仕事が順調で、16人の教授と院生の推薦で、ミシガン大学で最も権威があるスタッフ賞の1つを受賞した。

その頃、フィルバートは彼らの関係を再開しようと31歳のレンダに言い寄った。

「フィルバートは私のオフィスに入ってきて、長い間私を抱きし私の下腹部を触り始めました」。

レンダは、 「あ、あ、何をしているの? もう愛人関係は終わったって言いましたよね。私たちはもうセックスしません」。

その時は、フィルバートはそれ以上進まなかった。

しかし、その後、フィルバートはレンダを何度も自分のオフィスに呼んだり、レンダのところに来たりして、彼女を愛していると言った。

レンダは、フィルバートの要求を拒絶し続けた。

そして、レンダの仕事は劇的に変化していった。

フィルバートは、レンダが情熱を注いでいた重要なプロジェクトの責任者にするとレンダに伝えていた。

しかし、何の前触れもなく、フィルバートはその役割を別の人に割り振った。

他にも、次々と仕事上の障害がでてきた。

レンダは人生で初めてパニック発作を起こすようになった。仕事場である大学の建物に入るたびに身体の具合が悪くなった。

当時、レンダの上司だったシェラー・センツ(Shelagh Saenz、写真出典)は「彼女の性格は本当に変わりました。私たちはかつてとても親密な関係だったのが、彼女は仕事で秘密主義になり、疲れ果て、欲求不満になっているように感じました」。

2016年の春(54歳?)、32歳のレンダは、4年間勤めたミシガン大学・公衆衛生科大学院(University of Michigan School of Public Health)・事務職を辞めた。

★他に16人の被害者

フィルバートのセクハラ被害者は上記の4人だけでなく、確認できた女性に限っても、他に16人もいた。

各事件のセクハラ内容は省略する。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

省略

●7.【白楽の感想】

《1》ペナルティは?

マーティン・フィルバート(Martin Philbert)は、1997~2019年(35~57歳?)の約22年間に少なくとも3人の女性職員と性的関係を持ち、20人の女性院生・職員に性不正(性的暴行、セクハラ)行為を繰り返していた。

少なくとも 20人の女性が大学に被害を申し立てた。

実際の被害者数は推定するしかないが、2倍だと40人、3倍だと60人である。かなり多い被害者数になるだろう。

フィルバート事件で、フィルバートは自発的に退職しているが、ミシガン大学はフィルバートにペナルティを科していない。

そして、刑事事件にもなっていない。

ミシガン大学は、訴訟せずに、フィルバートの性不正被害者8人の女性(大学の現・元職員)に925万ドル(約9億2500万円)を払うことで和解した。白楽が単純に割り算をすると、1人1億1千万円強になった。

大学は925万ドル(約9億2500万円)を払ったのだから、財政的な損害を被った。ただ、350 万ドル(約3億5000万円)は保険会社から払い戻された。それにしても大学は評判が落ち入学希望者も減っただろう。

しかし、事件を調べると、フィルバートの処分はなきに等しい甘さなので、「性不正・レイプはやり得」という印象を受けた。

フィルバートにもっと強いペナルティを科すべきでしょう。例えば、財産没収など。

ただ、ミシガン大学は、性不正では有名な大学で、2008年に亡くなったロバート・アンダーソン医師(Robert Anderson)は1200人近くレイプしたと報じられている。 → 2021年10月6日記事:Nearly 1,200 rapes by late University of Michigan athletic doctor among crimes reported last year – mlive.com

《2》大学の責任 

フィルバートの性不正事件が公になったのは、2020年である。

しかし、1997~2019年(35~57歳?)の約22年間に少なくとも20人の女性院生・職員に性不正(性的暴行・レイプ、セクハラ)行為を繰り返していた。

2005年(43歳?)、2010年(48歳?)、ミシガン大学は2回も性不正の告発を受けたが、調査しなかった。

この時、大学が調査し、フィルバートを解雇しておけば、その後の数10人の性不正被害者はでなかったことになる。解雇でなくても厳罰を科すだけで数10人の女性を救えただろう。

しかし、大学の対処は悪かった。

結果として、ミシガン大学はオオカミを飼い育て、餌食となる女性を提供していたことになる。フィルバートは味をしめ、一層巧妙に、何度も何度も女性職員を性的に襲っていたのである。万一、発覚しても、処分はないと、自分の経験で学んでいる。

性的犯罪は麻薬と同じで常習性がある(推定)。また性癖、つまり癖(クセ)なので、悪いと知りつつも再犯を重ねる。

この事件では、ミシガン大学の責任は大きいと思う。

2022年1月15日、フィルバート事件の対処の悪さもあって、ミシガン大学・理事会はマーク・シュリッセル学長(Mark Schlissel、2014年7月1日就任)を解雇した。

一般論として、大学の責任は大きい。

ただ、米国に比べると、日本の大学はヒドイ。他もヒドイ。

大学の性不正事件に対して、日本は当該大学だけでなく、政府・学術界・高等教育界・メディアなど、主要なところは、ほぼ何も動かない。

そして、最大の被害者である学生は学内で抗議集会を開かない。両親も大学に抗議しない。 

以下は、フィルバート事件に抗議するミシガン大学の学生集会。

19歳の学部2年生・エマ・サンドバーグ(Emma Sandberg)が抗議集会を主催し、雪の降る中、ミシガン大学のキャンパス内で演説している。写真出典

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●8.【主要情報源】

① 2020年1月23日のエリザベス・レデン(Elizabeth Redden)記者の「insidehighered」記事:Michigan provost placed on leave for sexual misconduct allegations
② 2020年2月12日のデイヴィッド・ジェシー(David Jesse)記者の「Detroit Free Press」記事:U-M knew of sexual misconduct claims against provost, sources say
③ 2020年3月11日のデイヴィッド・ジェシー(David Jesse)記者の「Detroit Free Press」記事:U-M removes top administrator Martin Philbert from provost role
④ ○2020年7月13日のケイト・ウェルズ(Kate Wells)記者の「Michigan Radio」記事:For the first time, multiple women speak out about former U-M provost’s alleged sexual misconduct
⑤ 2020年7月31日のデイヴィッド・ジェシー(David Jesse)記者の「Detroit Free Press」記事:Investigation: Ex-U-M provost Philbert sexually harassed employees
⑥ 2020年11月18日のデイヴィッド・ジェシー(David Jesse)記者の「USA Today」記事:U-M reaches settlement with accusers of former provost Martin Philbert
⑦ 2020年11月18日のスティーブ・マロウスキー(Steve Marowski)記者の「Michigan Live」記事:University of Michigan to pay $9.25M settlement to victims of alleged sexual misconduct by former provost – mlive.com
⑧ 2020年11月18日のスーザン・スヴルガ(Susan Svrluga)記者の「Washington Post」記事:Settlement reached in sexual harassment case against Martin Philbert the former provost of the University of Michigan – The Washington Post
Martin Philbert | The University Record

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