「アカハラ」:天文学:マルセラ・カロロ(Marcella Carollo)(スイス)

2018年4月28日掲載。

ワンポイント:スイス連邦工科大学チューリッヒ校(Eidgenossische Technische Hochschule Zurich、英語:ETH Zurich)・教授(女性)で、世界的に著名な研究者である。2017年2月(52歳?)、研究室の複数の院生がカロロ教授からアカハラを受けたと大学に訴えた。大学は、アカハラ調査を正式に開始する前に、研究室閉鎖、サバティカルという名の休職処分にした。大学は現在、正式なアカハラ調査中である。損害額の総額(推定)は10億8千万円。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

マルセラ・カロロ(C. Marcella Carollo、写真出典同)は、スイス連邦工科大学チューリヒ校(Eidgenössische Technische Hochschule Zürich、英語:ETH Zurich)・教授で、専門は天文学(銀河の形成と進化)である。この分野で重要な発見をした世界的に著名な研究者である。

夫のサイモン・リリー(Simon Lilly)もスイス連邦工科大学チューリヒ校・天文学の教授である。

2017年2月(52歳?)、研究室の複数の院生が、カロロ教授からアカハラを受けたと大学(スイス連邦工科大学チューリヒ校)に訴えた。

2017年8月(52歳?)、スイス連邦工科大学チューリヒ校はカロロ教授の天文学研究所を閉鎖し、カロロ教授と夫のリリー教授にサバティカル休暇を取らせた。

2017年10月25日(52歳?)、スイス連邦工科大学チューリヒ校はカロロ教授のアカハラ調査を正式に開始した。

2018年4月27日(53歳?)現在、スイス連邦工科大学チューリヒ校はカロロ教授のアカハラ事件を調査中である。

スイス連邦工科大学チューリヒ校は、チューリヒ工科大学とも呼ばれるが、ドイツ語では「Eidgenössische Technische Hochschule Zürich」で、これを略した「ETH Zürich」または「ETHZ」が多用されている。大学自身が「ETH Zürich」と表記している。英語では「Swiss Federal Institute of Technology Zurich」だが、一般的には、「ETH Zürich」の「ü」を「u」に変えた「ETH Zurich」が使われる。日本語の読み方は「イーティーエッチ、チューリヒ」である。

スイス連邦工科大学チューリヒ校は、「Times Higher Education」の大学ランキングで世界第9位、欧州第4位(英国を除くと第1位)の名門大学である(World University Rankings 2017 | Times Higher Education)。

ETH_Zürich_-_Hauptgebäude_-_Polyterasse_2011-08-06_18-21-28_ShiftN2 スイス連邦工科大学チューリヒ校中央棟(Main building of ETH Zürich)
ETH-Hoenggerberg-2008スイス連邦工科大学チューリヒ校ヘンガーベルク・キャンパス(ETH Hönggerberg Campus)の全景。写真出典

  • 国:スイス
  • 成長国:イタリア
  • 研究博士号(PhD)取得:ドイツのミュンヘン大学
  • 男女:女性
  • 生年月日:不明。仮に1964年1月1日とする。1982年にパレルモ大学に入学した時を18歳とした
  • 現在の年齢:54 歳?
  • 分野:天文学
  • 最初のアカハラ行為:2007年(42歳?)
  • 発覚年:2017年(52歳?)
  • 発覚時地位:スイス連邦工科大学チューリヒ校・教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は指導下の院生(複数)で、院生(複数)が大学に訴えた
  • ステップ2(メディア): 「Science」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①スイス連邦工科大学チューリヒ校・調査委員会
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:プレスリリースあり。調査中なので、調査報告書はない
  • 大学の透明性:匿名発表(Ⅹ)
  • 不正:アカハラ
  • 被害者:10年、複数の院生
  • 時期:研究キャリアの中期から
  • 損害額:総額(推定)は10億8千万円。内訳 → ①研究者になるまで5千万円。②研究者の給与・研究費など年間2000万円が22年間=4億4千万円。③院生の損害が1人1000万円だが院生数は不明なので、額は②に含めた。④外部研究費の額は不明。推定で5億円とした。⑤調査経費(大学)が5千万円。⑥裁判経費なし。⑦論文出版・撤回作業が1報につき100万円、撤回論文の共著者の損害が1報につき100万円だが、撤回論文はないので、損害額はゼロ円。⑧研究者の時間の無駄と意欲削減が4千万円
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分: 研究室閉鎖。サバティカル休暇
  • 日本人の弟子・友人: 小野寺仁人(国立天文台ハワイ観測所・助教)

●2.【経歴と経過】

出典:Prof. Dr. Marcella Carollo – AcademiaNet

  • 生年月日:不明。仮に1964年1月1日とする。1982年にパレルモ大学に入学した時を18歳とした
  • 1982 – 1987年(18 –23歳?):イタリアのパレルモ大学(University of Palermo)で学士号・修士号取得:物理学
  • 1991 – 1994年(27 –30歳?):ドイツのミュンヘン大学(Ludwig-Maximilians Universität, Munich)で研究博士号(PhD)を取得:天体物理学
  • 1994 – 1996年(30 –32歳?):オランダのライデン大学(Leiden University)でポスドク
  • 1997 – 1999年(33 –35歳?):米国のジョンズ・ホプキンス大学(Johns Hopkins University)でポスドク
  • 1999 – 2001年(35 –37歳?):米国のコロンビア大学(Columbia University)・助教授
  • 2002 – 2006年(38 –42歳?):スイス連邦工科大学チューリヒ校(ETH Zurich)・準教授
  • 2007年(42歳?):同・正教授
  • 2017年8月(52歳?):アカハラが発覚し、研究室閉鎖。サバティカル休暇

受賞
2013年: Winton Capital Research Prize
2012年:Top Italian Scientist list from VIA Academy:Top Italian Scientists

●3.【動画】

【動画1】
講演の動画:「バスケットに全部入っている:サイズの成長、形態変化、消光-マルセラ・カロロ-(All in One Basket: Size Growth, Morphological Transformations, Quenching – Marcella Carollo – YouTube)」(英語)31分14秒。
UC-HiPACCが2014/08/18 に公開

【動画2】
講演の動画:「マルセラ・カロロ(ETH Zurigo) -ビッグバンに戻る:望遠鏡としてのスーパーコンピュータ(Marcella Carollo (ETH Zurigo) – Ritorno al Big Bang: Il supercomputer come telescopio – YouTube)」(イタリア語)46分29秒。
cscschが2012/09/21 に公開

●4.【日本語の解説】

この事件の日本語解説は見つからなかった。研究成果の解説が見つかった。

★1999年10月6日:「渦状銀河の起源の手がかりをハッブルがスナップ」

出典 → ココ (保存版

ニューヨークのコロンビア大学のC. Marcella Carollo に率いられる 2つ目の天文学者のチームは、全体にわたっている棒状構造の比較的小さなバルジを持つ銀河を調査しました。

Carolloは、ハッブルは科学者達に銀河の年齢に関する新しい情報を与えたと言っています。

「我々は、この巨大なバルジは本質的に非常に古いシステムだと知りました。」と、Carollaは言っています。

「この事は我々に、銀河の基本成分の形成は宇宙が非常に若かった初期の時代に起こったという事を教えるものです。」

以下略

★2015年9月24日 (ハワイ現地時間) : 小野寺仁人、「銀河の「化石」が明らかにした大質量銀河の形成と進化」

出典 → ココ (保存版

チューリッヒ工科大学の研究者を中心とした研究チームは、すばる望遠鏡に搭載された近赤外線多天体撮像分光装置 MOIRCS を使い、ビッグバンから 40 億年後の宇宙に存在している、既に星形成活動を終えた銀河を観測しました。その結果、このような遠方銀河の恒星の性質が、近傍宇宙で観測される楕円銀河のものとよく一致することがわかりました。また、恒星に刻まれた情報を元にこれらの銀河の祖先をあぶり出し、およそ 110 億年にわたる楕円銀河進化の様子を描くことに成功しました。

以下略

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★アカハラの訴え

2017年2月(52歳?)、スイス連邦工科大学チューリヒ校のマルセラ・カロロ教授(Marcella Carollo)の研究室の複数の院生が、カロロ教授からアカハラを受けたと大学に訴えた。

2017年3月(52歳?)、スイス連邦工科大学チューリヒ校は、カロロ教授の院生を別の研究室に移籍させ、必要なら、カロロ教授の指導を受けることができるように手配した。

院生の訴えによると、カロロ教授は10年以上も院生を虐待(アカハラ)していたが、天文学研究所はアカハラの訴えを無視していた。

スイス連邦工科大学チューリヒ校は、その原因を、カロロ教授の夫のサイモン・リリー教授(Simon Lilly 、写真出典)が天文学研究所・所長だったためだろうと考えた。

スイス連邦工科大学チューリヒ校はカロロ教授とリリー教授夫妻を同じ研究所の別々の教授として採用していた。

2017年8月(52歳?)、スイス連邦工科大学チューリヒ校は、天文学研究所を閉鎖し、カロロ教授と夫のリリー教授にサバティカル休暇を取らせた。また、天文学研究所の他のスタッフを新しい粒子物理学・天体物理学研究所(Institute for Particle Physics and Astrophysics)に移籍した。

2017年10月25日(52歳?)、スイス連邦工科大学チューリヒ校はカロロ教授のアカハラ調査を正式に開始したとのプレスリリースを発表した(以下)。

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★アカハラの内容

一般的に米国では、院生の教育は研究室で主導するにしても、研究科(department)全体で行なう部分がある。一方、スイスの学術システムは日本と同じように、院生は特定の研究室に所属し、1人の教授が指導する。研究科(department)全体で行なう部分はほとんどない。

スイスでは、院生に給料が支払われるので、実質上、教授は院生を雇うという形になる。この状況下で指導教授ともめると、院生は逃げ場がない。

上記の状況で、以下のことが起こっていたと理解してください。

院生の訴えによると、カロロ教授は、一言でいえば、院生に「超人的な研究遂行」を要求した。

つまり、①カロロ教授は、院生に週末でも連絡できることを要求した。②院生は稀にしか休暇を取れなかった。③夜の研究会が深夜に及ぶこともあった。

また、カロロ教授は、女子院生に、化粧に費やす時間を減らしもっと研究するよう指示していた。

カロロ教授の院生の3割は博士号を取得できずに退学し、ポスドクの多くは論文を十分に出版できず、天文学とは異なる分野に進んだ。

★反論

マルセラ・カロロ(Marcella Carollo) http://www.academia-net.org/profil/prof-dr-marcella-carollo/1163410

カロロ教授と夫のリリー教授は、立場上、上記の訴えにコメントできない。

カロロ教授の元院生たち、客員研究者たち、チューリヒ地区の研究者たち、スイス以外に在籍する国際的著名な研究者たちは、「公開手紙(open letter)」を発表して、院生のアカハラ主張に反論している(この項下段にPDFを貼り付けた)。

ポイントを羅列すると以下のようだ。

①カロロ教授と夫のリリー教授は、設立して10年も経たないうちに大学の天文学研究所を世界最高レベルにした。

②カロロ教授の最初の5人の院生はすべて終身在職コース(tenure-track)の学術研究職に就いている。この実績はとても優れている。それだけカロロ教授の指導が素晴らしいということだ。2012年の米国の統計では、終身在職コース(tenure-track)の学術研究職は博士号取得5年後で、約15%しか取得できていない。天文学の分野ではもっと低いし、最近はもっと低い。

③優れた博士コースでは、院生の3割が博士号を取得できずに脱落することは珍しいことではない。

④カロロ教授は院生たちにとても熱心に指導してきた。カロロ教授が研究に熱心なのは、院生の能力とキャリア・チャンスをなんとか最大限に引き出そうとしているからだ。

Zurich Physics Colloquium 2015

スイス連邦工科大学チューリヒ校の物理学科には、50人の教授がいるが、女性はわづか2人しかいない。

「公開手紙(open letter)」に署名したチューリヒ大学(Institute for Computational Science, UZH)・物理学者のジョージ・レイク教授(George Lake、写真出典)は、「女性研究者は、男性以上に積極的・攻撃的でなければ、ETH Zurichではやっていけません。男性の半分ほどの積極性・攻撃性でやっていけるのは、魔女だけです。カロロ教授は院生に厳しいかもしれません。しかし、私の同僚の5〜10%は同じよう院生に厳しい教授ですが、院生に訴えられていません」とカロロ教授を擁護している。

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★調査中

2018年4月27日(53歳?)現在、スイス連邦工科大学チューリヒ校はカロロ教授のアカハラ事件を調査中である。

●6.【論文数と撤回論文】

2018年4月27日(53歳?)現在、arXiv.org e-Print archiveで、マルセラ・カロロ(Marcella Carollo)の「物理学(Physics)」論文を検索すると、1997-2018年の22年間の32論文がヒットした。

●7.【白楽の感想】

《1》アカハラ

外国の研究室でのアカハラ事件は珍しい。

2018年4月27日(53歳?)現在、スイス連邦工科大学チューリヒ校はカロロ教授のアカハラ事件を調査中である。どのような、結論になるのか興味深い。最終報告書も是非公表して欲しい。

《2》壊滅的な打撃

マルセラ・カロロ(Marcella Carollo) http://www.academia-net.org/news/giant-galaxies-die-from-the-inside-out/1343836

この事件で、スイス連邦工科大学チューリヒ校は天文学研究所を閉鎖してしまった。カロロ教授とリリー教授はサバティカルという名の休職になっている。

まだ本調査に着手する前なのに、スタッフと院生を他の研究室に移籍させ、アカハラでカロロ教授の研究室を閉鎖した。日本でのアカハラは停職2か月程度の処分である。ネカトの処分例から判断して、スイスがことさら厳しい国とは思えないが、日本では考えられないほど、アカハラに対する厳しい処分である。

これで、カロロ教授(52歳?)とリリー教授の天文学研究は壊滅的な打撃を受けたに違いない。それは当然の報いなのだろうか? 他に、対処法はなかったのだろうか?

アカラハは10年に及んだとあるので、アカラハ初期にイエローカードで警告するなどの方法が有効だった気がする。そうしてこなかったのはスイス連邦工科大学チューリヒ校の失態ではないだろうか。

《3》研究室いろいろ

白楽は厳しい教育に賛成である。

厳しくなければ若者は育たないのに、日本では、「ほめて育てる」が大流行である。なぜか? 教員と若者の両方が楽だからだ。楽だから人々に受けいれやすい。

しかし、最先端の科学界では「ほめるだけでは育たない」。「ほめるだけではダメになる」。

小学校・中学校の義務教育なら「ほめて育てる」でよい。大学でも普通は「ほめて育てる」でよい。

でも、10万人の中の1人か2人の頭脳の持ち主を集め、世界最高の研究をしようとする最先端の科学界では、「ほめて育てる」には限界がある。「ほめてしか育たない」院生は、世界最高の研究ができるとはとても思えない。

スポーツに例えよう。

世界最高の研究をしようとする最先端の科学界は、趣味のスポーツではなく、オリンピック強化選手なのである。好きなものを食べて、楽しくスポーツしましょうでは、金メダルはとても無理だ。死ぬ気で、自分の持ってる時間、能力、金銭のすべてを注ぎ込んで、ようやく、オリンピック選手の入口に立てる程度である。

100メートルを13秒台でしか走れない男子高校生に、10秒台で走るよう訓練したら、訓練がキツ過ぎて、ハラスメントになる。

カロロ教授は、世界の超一流大学のスイス連邦工科大学チューリヒ校で、世界最高峰の天文学研究を目指していた。そんな研究室なら、深夜まで研究し、週末も研究し、院生の3割が脱落しても、白楽は、そんなもんだろうと思う。

もともと10秒台で走れない院生が、自分の能力と努力を棚に上げて、カロロ教授をアカハラと訴えた印象だ。

「楽しく研究」したい13秒台でしか走れない院生は、最初から、世界3流の研究室で、「楽しく研究」することを選択すべきだったと思う。カロロ教授の研究室を選んではいけない。

白楽が院生の頃は(古い話です)、土日は研究室にいたし(当時、土曜日は半ドン)、平日は毎晩深夜まで研究していた。除夜の鐘も研究室で聞いたことがある。

と熱心さを強調しても仕方ないが、実際は、土日に下宿にいてもすることがない。土日でも研究室に行けば、友達の院生が研究室にいたので研究室に行ったのである。

そして、研究室にいけば、遊んでばかりではなく、ついでに研究もした。研究の合間に、漫画を読んだり(漫画は、当時、必須文献)、将棋を指したり、卓球したり、インスタントラーメンを食したりした。

筑波大学の講師時代もそうだったが、不思議なことに、土日に筑波大学に行くと、閑散としていて、いつも会うのは海洋微生物の関文威(せき ふみたけ)先生くらいだった。研究室の院生に土日はどうしているのときくと、「部屋でステレオ聞いてます」と答えられ、とても驚いたことを思い出す。

マルセラ・カロロ(Marcella Carollo) https://www.cscs.ch/publications/news/2012/open-day/

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●8.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:C. Marcella Carollo – Wikipedia
② 2017年10月25日のグレッチェン・フォーゲル(Gretchen Vogel)記者の「Science」記事:Swiss university dissolves astronomy institute after misconduct allegations | Science | AAAS、(保存版
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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