2019年7月8日掲載
ワンポイント:ジェッセルはコロンビア大学・神経発生学のスター教授(男性)で、発覚の経緯は不明だが、2017年12月(66歳)、コロンビア大学がセクハラ調査を開始した。2018年3月7日(66歳)、コロンビア大学は「研究室員(院生?)と201x年-2017年(6x-66歳)の数年間、性的な関係」をもっていた理由でジェッセルを解雇した。2019年4月28日(67歳)、セクハラ騒動が勃発した1年数か月後、本記事の2か月半前、ジェッセルは進行性核上性麻痺(Progressive Supranuclear Palsy, PSP)で亡くなった。国民の損害額(推定)は5億円(大雑把)。
【追記】
・2019年7月8日、ツイッターにコメントがありました:山形方人(nihonGO) @yamagatm3 3 時間前
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
トーマス・ジェッセル(Thomas M Jessell、Tom Jessell、写真出典)は、コロンビア大学(Columbia University)・神経科学/生化学/分子生物物理学科(Departments of Neuroscience and Biochemistry & Molecular Biophysics)・教授で医師ではない。専門は神経発生学で、この分野では著名な学者だった。本記事の2か月半前、2019年4月28日(67歳)、病死した。
発覚の経緯は不明だが、セクハラ被災者が大学に告発したと思われる。
2017年12月x日(66歳)、コロンビア大学が調査を開始した。
2018年3月7日(66歳)、コロンビア大学はジェッセルが「コロンビア大学の規則に対する重大な違反を犯したので」を彼を解雇したと発表した。しかし、どのような違反なのか、誰が調査したのかなどの詳細を発表しなかった。
2018年4月12日(66歳)、「コロンビア・デイリー・スペクテーター(Columbia Daily Spectator)」新聞は、ジェッセルが「研究室員(院生?)と数年に渡り性的な関係をもっていた」と報道した。コロンビア大学は規則として、教員が監督下の研究室員と性的関係を結ぶのは、合意があろうがなかろうが禁止していた。
2019年4月28日(67歳)、セクハラ騒動が勃発した1年数か月後、ジェッセルは進行性核上性麻痺(Progressive Supranuclear Palsy, PSP)で亡くなった。
なお、両者の合意があってもなくても、性的な関係はセクハラではないが、本記事では、セクハラ事件として扱った。
コロンビア大学・ジェローム・グリーン科学センター(Jerome L. Greene Science Center, Columbia University)。Photograph by © Columbia University/ Frank Oudeman。写真出典
- 国:米国
- 成長国:英国
- 研究博士号(PhD)取得:英国のケンブリッジ大学
- 男女:男性
- 生年月日:1951年8月2日
- 2019年4月28日没:享年67歳
- 分野:神経発生学
- セクハラ行為:201x年-2017年(6x-66歳)の数年間
- 最初に訴えられた年:2017年(66歳)
- 社会に公表年:2018年(66歳)
- 社会に公表時地位:コロンビア大学・教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は不明
- ステップ2(メディア):「Columbia Daily Spectator」紙、「Science」、と多数のメディア
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①コロンビア大学・調査委員会
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学・処分のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:機関は実名発表したが、調査報告書のウェブ公表なし(△)
- 不正:研究室員(院生?)と数年に渡り性的な関係
- 被害者数:1人(?)
- 時期:研究キャリアの後期
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
- 処分:解雇
- 日本人の弟子・友人:ポスドクだった田辺康人(TANABE Yasuto)(京都大学・医学研究科・客員研究員)、山本 融(YAMAMOTO, Tohru)(香川大学・医学部・教授)、吉村 恵(YOSHIMURA Megumu)(熊本保健科学大学・医学部・教授)など(資料:JESSELL LAB)
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は5億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
主な出典:Thomas Jessell | Gruber Foundation
- 1951年8月2日:英国のロンドンで生まれた
- 1973年(22歳):英国のロンドン大学(University of London)で学士号取得:薬理学
- 1977年(26歳):英国のケンブリッジ大学(University of Cambridge)で研究博士号(PhD)を取得。指導教授はLeslie Iversen
- 1977年(26歳):東京医科歯科大学に研究留学
- 1978年(27歳):ハーバード大学医科大学院(Harvard Medical School)・ジェラルド・フィッシュバック教授(Gerald Fischbach)のポスドク
- 1981年(30歳):同・助教授
- 1985年(34歳):コロンビア大学(Columbia University)・神経科学/生化学/分子生物物理学科(Departments of Neuroscience and Biochemistry & Molecular Biophysics)・準教授、その後、正教授
- 1985年(34歳):兼任:ハワード・ヒューズ医学研究所(Howard Hughes Medical Institute)・研究員
- 2002年(51歳):米国科学アカデミー(National Academy of Sciences)・会員
- 2017年12月x日(66歳):コロンビア大学がセクハラ調査開始
- 2018年3月2日(66歳):ハワード・ヒューズ医学研究所はジェッセルを解雇し、2018年5月31日に研究助成を停止すると通告
- 2018年3月7日(66歳):コロンビア大学はジェッセルを解雇し、研究室を今後15か月間で閉鎖すると発表
- 2019年4月28日(67歳):進行性核上性麻痺(Progressive Supranuclear Palsy, PSP)で死亡
【受賞】
- Ralph W. Gerard Prize in Neuroscience (2016)
- Gruber Prize in Neuroscience (2014)
- Gairdner Foundation International Award (2012)
- Kavli Prize (2008)
- March of Dimes Prize in Developmental Biology (2001)
●3.【動画】
【動画1】
セクハラ事件の動画ではない。2014年のヴィルチェック賞(Vilcek Prize)の受賞講演動画:「Thomas Jessell receives the 2014 Vilcek Prize in Biomedical Science – YouTube」(英語)6分19秒。
The Vilcek Foundationが2014/04/23 に公開
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★トーマス・ジェッセル(Thomas essell)の人生
トーマス・ジェッセル(Thomas essell)は神経発生学では世界的に著名な研究者である。
英国で生まれ育ち、ケンブリッジ大学(University of Cambridge)で研究博士号(PhD)を取得後、一時、東京にも滞在した。
後に日本学術会議・会長を務めた東京大学医学部出身の金澤一郎は1974-1976年にケンブリッジ大学・薬理学教室に留学していた。ジェッセルは、その時、金澤一郎と一緒に研究をした。
金澤一郎の東京大学医学部の先輩である大塚正徳(おおつか まさのり)が東京医科歯科大学・薬理学の教授になっていた。それで、ジェッセルは、金澤一郎のつてで、大塚正徳研究室に滞在し、研究をした。
以下に示すように、金澤一郎、大塚正徳との共著の「1979年のBrain Res.」論文がある。
- Substance P: depletion in the dorsal horn of rat spinal cord after section of the peripheral processes of primary sensory neurons.
Jessell T, Tsunoo A, Kanazawa I, Otsuka M.
Brain Res. 1979 May 25;168(2):247-59.
1978年(27歳)、東京から、米国のハーバード大学医科大学院(Harvard Medical School)・ジェラルド・フィッシュバック教授(Gerald Fischbach)のポスドクになった。
その後、ハーバード大学医科大学院・助教授になったが、1985年(34歳)にコロンビア大学に神経科学科が新しくできるのに伴い、移籍した。そして、2018年3月7日(66歳)に解雇されるまでの34年間、コロンビア大学の神経科学の著名な教授として活躍した。
ジェッセルの弟子であるマーク・テシェール=ラヴィーン(Marc Tessier-Lavigne)はプリンストン大学・学長を経て、現在、スタンフォード大学・学長である。
2008年(56歳)、ジェッセルは第1回カヴリ賞(Kavli Prize)を受賞している。賞金は百万ドル(約1億円)で、受賞者で分け合った。
2018年3月7日(66歳)、コロンビア大学はジェッセルが「コロンビア大学の規則に対する重大な違反を犯したので彼を解雇した」と発表した。
2019年4月28日(67歳)、セクハラ騒動が勃発した1年数か月後、本記事の2か月半前、ジェッセルは進行性核上性麻痺(Progressive Supranuclear Palsy, PSP)で死亡した。
2019年6月7日、米国科学アカデミー(National Academy of Sciences)は、セクハラ者の米国科学アカデミー・会員を除名処分に科せる規則を整えた。2002年(51歳)に会員に選出したジェッセルも除名対象者だが、死亡したので、既に会員ではない。
→ 2019年6月7日記事:The National Academy of Sciences Will Now Expel Members for Sexual Harassment
私生活では、ジェッセルはケンブリッジ大学時代の同級生(同じ研究室の先輩・後輩かも)のジェーン・ドッド(Jane Dodd)と結婚し、1人娘(リネット・ジェッセル、Linnet Jessell)を儲けた(写真出典)。
つまり、セクハラ事件を起こした時、ジェッセルは妻子持ちだった。なお、妻のジェーン・ドッドはコロンビア大学の神経科学の教授である。
★トーマス・ジェッセル(Thomas essell)のセクハラ事件
発覚の経緯は不明だが、セクハラ被災者が大学に告発したと思われる。
2017年12月x日(66歳)、コロンビア大学が調査を開始した。
2018年1月(66歳)当時、ジェッセル研究室には10人のスタッフ、2人の院生、10人のポスドクがいた。男女数は不明である。
2018年3月7日(66歳)、コロンビア大学はジェッセルが「コロンビア大学の規則に対する重大な違反を犯したので彼を解雇した」と発表した。しかし、どのような違反なのか、誰が調査したのかなどの詳細を発表しなかった。
なお、テニュアを持つ教授を簡単には解雇できない。いくつかのステップを踏む必要がある(コロンビア大学の規則)。
2018年3月2日(66歳)、解雇発表の数日前、1985年以来兼業していたハワード・ヒューズ医学研究所(Howard Hughes Medical Institute)・研究員も解雇され、2018年5月31日に研究助成を停止すると通告された。
2018年4月12日(66歳)、「コロンビア・デイリー・スペクテーター(Columbia Daily Spectator)」新聞は、ジェッセルの不祥事は、彼の監督下にある研究室員(院生?)と数年に渡り性的に関係していたことだと報道した。
コロンビア大学は規則として、教員が監督下の研究室員と性的関係を結ぶのは、合意があろうがなかろうが禁止していた。
2019年4月28日(67歳)、セクハラ騒動が勃発してから1年数か月後、ジェッセルは進行性核上性麻痺(Progressive Supranuclear Palsy, PSP)で亡くなった。
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★進行性核上性麻痺(指定難病5) しんこうせいかくじょうせいまひ(出典:難病情報センター | 進行性核上性麻痺(指定難病5))
2.原因
現在は不明である。
3.症状
40歳以降、平均60歳代で発症する。最大の特徴は、初期からよく転ぶことである。著明な姿勢の不安定さに加え、注意力や危険に対する認知力が低下するため、何度注意を促してもその場になると転倒を繰り返す。バランスを失った時に上肢で防御するという反応が起きないため、顔面直撃による外傷を負うことが多い。周囲に置いてあるものに手が伸び、つかもうとして、車椅子あるいはベッドから転落することがあり、長期にわたり介護上の大きな問題である。
●【セクハラの具体例】
セクハラの具体的行為は「研究室員と性的関係」だが、性的関係に至る状況や、性的関係した相手の名前は報道されていない。つまり、具体的状況と行為は不明である。
省略。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
2019年7月7日現在、パブメド(PubMed)で、トーマス・ジェッセル(Thomas M Jessell、Tom Jessell)の論文を「Thomas M Jessell [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2019年の18年間の85論文がヒットした。
「Jessell TM[Author]」で検索すると、1975~2019年の45年間の238論文がヒットした。
★撤回論文データベース
省略
★パブピア(PubPeer)
省略
●7.【白楽の感想】
《1》詳細不明
トーマス・ジェッセル(Thomas Jessell)のセクハラ事件は、詳細が報道されていない。つまり、セクハラの具体的行為は「研究室員と性的関係」だが、性的関係に至る状況や、性的関係した相手の名前は報道されていない。これだけの著名人で詳細が報道されないのは、米国ではとても珍しい。
どうしてなんだろうか?
コロンビア大学の特徴なんだろうか? 2019年7月7日現在、コロンビア大学では13件のセクハラが発覚している。しかし、白楽はコロンビア大学の他の事件を調べていないので、コロンビア大学の特徴かどうか判断できない。
考えられる理由が他に3つある。
1つ目は、ジェッセルのセクハラは「研究室員(院生?)と数年に渡り性的に関係」があったことだ。推定だが、両者の合意の性的関係、つまり、不倫だろう。不倫なら、コロンビア大学の規則違反であっても、性不正(sexual misconduct)に該当しない。だから悪質度が小さい。それで、詳細に報道されない。 → 3‐1‐1.性不正の分類・規則 | 研究者倫理
2つ目は、ジェッセルの妻・ジェーン・ドッド(Jane Dodd)が同じコロンビア大学の神経科学科・教授ということだ。妻・ドッドはジェッセルの不倫相手を知っているハズだ。しかし、事実を具体的に公表すれば、妻・ドッドが教授職を続けるのは耐え難いだろう。それで、コロンビア大学は事件の詳細を公表しなかった。公表すれば、妻・ドッドに訴えられる危険がある。
3つ目の理由は、セクハラ騒動が勃発してから1年数か月後、ジェッセルは進行性核上性麻痺(Progressive Supranuclear Palsy, PSP)で亡くなっている。つまり、セクハラ騒動の最中に既に症状が現れていた、あるいは病状が悪化していた。となると、調査は十分できず、本人の反論もまともにはできない。だから、コロンビア大学は調査不十分のまま何らかの結論を出さなくてはならなかった。しかし、調査不十分のまま具体的に発表するとツッコまれる。それで、詳細を隠蔽した。
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●8.【主要情報源】
① ウィキペディア英語版:Thomas Jessell – Wikipedia
② 2018年3月8日のメレディス・ワドマン(Meredith Wadman)記者の「Science」記事::Behavioral ‘violations’ cost prominent neuroscientist positions at Columbia, HHMI | Science | AAAS、(保存版)
③ 2018年4月12日のガブリエル・ヤコボビッツ(Gavrielle Jacobovitz)記者とカレン・シア(Karen Xia)記者の「Columbia Daily Spectator」記事:Before removal, MBBI director Thomas Jessell engaged in years-long relationship that violated Columbia policy – Columbia Daily Spectator、(保存版)
④ 2018年3月7日のベネディクト・キャリー(Benedict Carey)記者の「New York Times」記事:Columbia Removes Thomas Jessell, Renowned Neuroscientist, From His Posts – The New York Times、(保存済)
⑤ 2019年4月30日のシュブハム・サハラン(Shubham Saharan)記者の「Columbia Daily Spectator」記事:Thomas Jessell, prominent neuroscientist and former director of the Zuckerman Mind Brain Behavior Institute, is dead – Columbia Daily Spectator
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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