盗修:教育学:ローラ・ウッタサリ(Laura Huhtasaari)(フィンランド)

2018年1月25日掲載。

ワンポイント:ウッタサリは38歳の国会議員で、3日後の2018年1月28日(日)のフィンランド大統領選の候補者。大統領選投票日の12日前、自由党(Liberal Party)党首のトゥオマス・ティイネン(Tuomas Tiainen)に、14年前の2003年(24歳)の修士論文が盗用だと指摘された。接戦だが、大統領に当選するでしょうか? 損害額の総額(推定)は10億円(当てずっぽう)。

【追記】
・2018年8月27日記事:University finds more plagiarism issues with Finns Party MP’s master’s thesis | Yle Uutiset | yle.fi
・2018年5月10日記事:Huhtasaari says plagiarism allegations are starting to feel like witch hunt
・2018年1月29日:フィンランド大統領選、現職ニーニスト氏が圧勝 写真4枚 国際ニュース:AFPBB News

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

ローラ・ウッタサリ(Laura Huhtasaari、ラウラ・フフタサーリ、ラウラ・フッタサリ、写真出典)は、フィンランドの政治家で野党「真のフィンランド人」党の国会議員である。2017年8月、38歳で、「真のフィンランド人」党から次期フィンランド大統領の候補者に選ばれた。

そして、今日から3日後の2018年1月28日が大統領選の投票日である。

2018年1月16日(38歳)、大統領選投票日の12日前、自由党(Liberal Party)党首のトゥオマス・ティイネン(Tuomas Tiainen)が、ウッタサリのユヴァスキュラ大学(Jyväskylä University)の修士論文が盗用だとブログで指摘した。14年前の2003年(24歳)の修士論文である。

2018年1月18日(38歳)、盗修と指摘された翌々日の「Suomen Uutiset」新聞は、ウッタサリの修士論文は、約20年前の教員養成大学ではかなり受け入れられた方法で執筆されていて、当時、この程度の盗用は大きな罪とはみなされていなかった、というティモ・サロビータ教授(Timo Saloviita)のコメントを掲載した。

大統領選投票日の12日前に勃発した盗修騒動。3日後の2018年1月28日(日曜日)、フィンランド大統領の選挙結果にどんな影響があるのでしょう?

投票日6日前の記事は、ウッタサリは、僅差だが、現職のサウリ・ニーニスト(Sauli Niinistö)大統領より有利だと報道している。
→ 2018年1月22日記事:Finns candidate Laura Huhtasaari most favored candidate in ‘election compass’…… – The Tundra Tabloids…….

ウッタサリは、泡沫候補との記事もある。
→ 2017年12月15日のirrさんのツイート:“しかし大統領選の世論調査では、支持率3%の悲しき泡沫候補であることは事実らしい。… “

ユヴァスキュラ大学(Jyväskylä University)。写真出典By Tiia Monto投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, Link

  • 国:フィンランド
  • 成長国:フィンランド
  • 修士号取得:ユヴァスキュラ大学で教職修士(専門職)(Master of Education
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:女性
  • 生年月日:1979年3月30日
  • 現在の年齢:44 歳
  • 分野:教育学
  • 修士論文タイトル:Kulttuuriset käytännöt monikulttuurisessa perusopetusryhmässä
    (英語訳):Cultural Practices in Multicultural Basic Education Groups
    (日本語訳):多文化基礎教育グループにおける文化慣行
  • 修士論文閲覧サイト:論文PDF
  • 修士論文ページ数:71ページ
  • 修士論文指導教授:?
  • 修士論文提出:2003年(24歳)
  • 盗修発覚年月日:2018年1月16日(38歳)
  • 盗用ページ率:不明
  • 盗用文字率:不明
  • 修士号はく奪状況:はく奪なし(今のところ)
  • 発覚時地位:フィンランドの国会議員で次期フィンランド大統領・候補者
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は自由党(Liberal Party)党首のトゥオマス・ティイネン(Tuomas Tiainen)で、ブログで指摘
  • ステップ2(メディア): 多数の新聞
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ユヴァスキュラ大学・調査委員会。結論は出ていない。
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 不正:盗用
  • 不正論文数:1報
  • 時期:キャリアの初期
  • 損害額:総額(推定)は10億円(当てずっぽう)。内訳 → ①盗修なら政治家としてその国と政界の権威・公正・信頼を失墜させ、学術界を腐敗させる。普通の国の現職大統領は1000億円、閣僚は100億円、知事は10億円(当てずっぽう)。国会議員で大統領候補なので、10億円
  • 結末:辞職なし、大統領・候補を降りなかった。大統領選投票日は本記事の3日後

http://meritwager.nu/allmant/finland-infor-presidentvalet-2018-nr-3-laura-huhtasaari-sannfinlandarna/
https://mvlehti.net/2017/12/21/mtvn-vaalikone-laura-huhtasaari-ylivoimainen-ykkonen/

●2.【経歴と経過】

https://www.satakunnankansa.fi/kotimaa/huhtasaari-liikehti-sinisten-ajatusten-voimalla-eteenpain-14002300/

資料:①Esittely | Laura Huhtasaari (PS) 、②Esittely | Laura Huhtasaari (PS)

  • 1979年3月30日:フィンランドで生まれる
  • 2004年(25歳):フィンランドのユヴァスキュラ大学(Jyväskylä University)で教職修士(専門職)(Master of Education)取得。修士論文は前年の2003年(24歳)に提出
  • 2004年(25歳):フィンランドのヨエンスー 大学(Joensuun yliopisto、日/英語:東フィンランド大学/University of Eastern Finland)・教員:宗教学
  • 2008年(29歳):フィンランドのヘルシンキ大学(Helsingin yliopisto)・教員
  • 2012年(33歳):フィンランドのポリ市(Pori)・市会議員に当選
  • 2015年4月(36歳):フィンランドの国会議員に当選。野党「真のフィンランド人」党に所属
  • 2017年8月(38歳):野党「真のフィンランド人」党の次期フィンランド大統領・候補者に選出
  • 2018年1月16日(38歳):盗修と指摘された
  • 2018年1月28日(38歳):フィンランド大統領選・投票日

●3.【動画】

大統領候補なので、政治がらみの動画は多いが、盗修事件の動画は見つからなかった。

【動画1】
2017年6月14日(38歳)のインタビュー動画
「ローラ・ウッタサリ14.6.2017.(Laura Huhtasaari , 14.6.2017. – YouTube)」(フィンランド語)7分34秒。
tarkka71が2017/06/13 に公開

【動画2】
2018年1月28日(38歳)の大統領選での宣伝動画
「フィンランドのEU懐疑的指導者、ローラ・ウッタサリ、キャンペーン広告(Finnish EU skeptic party leader Laura Huhtasaari, campaign advert – YouTube)」(フィンランド語、英語字幕付き)2分24秒。
Vlad Tepesblog が2017/12/05 に公開

【動画3】
2018年1月28日(38歳)の大統領選での選挙演説(公式?)
「ローラ・ウッタサリ17.1.(Laura Huhtasaari 17.1. – YouTube)」(フィンランド語)1分21秒。
Verkkomedia Perussuomalaisetが2018/01/16 に公開

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★大統領の候補者

2015年4月(36歳)、ローラ・ウッタサリ(Laura Huhtasaari)は、フィンランドの国会議員に当選した。野党「真のフィンランド人」党に所属していた。

2017年8月(38歳)、「真のフィンランド人」党から次期フィンランド大統領の候補者に選ばれた。38歳である。

2018年1月28日(38歳)は、フィンランドの大統領選投票日である。本記事を掲載した2018年1月25日の3日後である。

http://www.radiorock.fi/#!/muu/Laura%20Huhtasaari

★1年前にブログの盗用

2017 年1月29日(37歳)、フィンランドの自由党(Liberal Party)党首のトゥオマス・ティイネン(Tuomas Tiainen、写真出典)が、ウッタサリのブログ文章に盗用があると指摘した。
→ 2017 年1月29日の「トゥオマス・ティイネン(Tuomas Tiainen)」の記事:Kansanedustaja Laura Huhtasaaren kirjoitukset ovat plagioituja — Epäilevä Tuomas(保存版)

以下、ブログ文章の盗用を3件例示しよう。

[2010年12月21日の記事]:盗用部分は赤字。下段は被盗用文献

[2016年1月12日の記事]:盗用部分は赤字。下段は被盗用文献

[2017年1月5日の記事]:盗用部分は赤字。下段は被盗用文献

★大統領選12日前に盗修指摘

2018年1月16日(38歳)、大統領選投票日の12日前である。ウッタサリのブログ文章に盗用があると1年前に指摘していた自由党(Liberal Party)党首のトゥオマス・ティイネン(Tuomas Tiainen)は、今度は、ウッタサリの修士論文にも盗用があるとブログで指摘した。
→ 2018年1月16日記事:Laura Huhtasaaren gradu sisältää plagiointia — Epäilevä Tuomas

1年前にウッタサリのブログ文章に盗用があると指摘した時は、ウッタサリは単なる国会議員で、フィンランド国内でもさほど関心を集めなかった。しかし、その後、ウッタサリは、有力な大統領候補者になった。盗修の指摘は大統領選キャンペーンの終盤で、投票日の12日前である。

ウッタサリは盗用が多く、そもそも、自分の文章を書く能力が欠けていると、ティイネンは批判している。

ただ、修士論文は文章が電子化(テキスト)されていないので、盗用解析は手間と時間がかかる。正確な分析や盗用文字率などは発表されていない。

とはいえ、フィンランドの学術誌・編集者のトゥオモ・ラッパネイネン(Tuomo Lappalainen、写真出典)は、ウッタサリの修士論文をザット調べ、「文献引用なしに他の論文からから流用した文章がいくつも含まれている」と述べている。

2018年1月24日現在(38歳)、白楽が知る限り、盗用分析表は公表されていないので、白楽には、盗用の程度を判断できない。

一方、ウッタサリは、盗修を否定し、盗修の指摘は「汚い選挙選ゲーム」だと嫌悪感を示している。

そして、修士論文を合格としたフィンランドのユヴァスキュラ大学のケイジョ・ハマーレヒネン学長(Keijo Hämäläinen、写真出典)は、予備調査をすると述べた。

なお、「Suomen Uutiset」 新聞はユヴァスキュラ大学のティモ・サロビータ教授(Timo Saloviita、写真出典)の次のコメントを掲載した。

「ウッタサリの教職修士論文が盗用だとの指摘されている。しかし、この修士論文は、約20年前のの教員養成大学では、かなり受け入れられた方法で執筆されている。当時、この程度の盗用は大きな罪とはみなされていなかった。実際、論文執筆の教科書である『探索して書く(Tutki ja kirjoita)』には、文章を流用した時、引用符を取り除き、文章の最後に文献をリストすることを推奨していた。ウッタサリは当時の教育指針に従って修士論文を執筆しただけだと思える」。
→ 2018年1月18日の「Suomen Uutiset」記事:Kasvatustieteen professori Saloviita Huhtasaaren gradusta: ”Huhtasaari näköjään teki, kuten neuvottiin” – Suomen Uutiset(保存版)

大統領選投票日の12日前に勃発した盗修騒動。今日から3日後の日曜日の2018年1月28日、フィンランド大統領の選挙結果にどんな影響があるだろうか?

投票日6日前の記事は、ウッタサリは、僅差だが、現職のサウリ・ニーニスト(Sauli Niinistö)大統領より有利だと報道している。
→ 2018年1月22日記事:Finns candidate Laura Huhtasaari most favored candidate in ‘election compass’…… – The Tundra Tabloids…….

ウッタサリは、泡沫候補との記事もある。
→ 2017年12月15日のirrさんのツイート:“しかし大統領選の世論調査では、支持率3%の悲しき泡沫候補であることは事実らしい。… “

https://www.suomenuutiset.fi/laura-huhtasaari-venajalla-pelottelu-johtaa-etta-suomi-ajautuu-eussa-ajopuun-asemaan/

●6.【論文数と撤回論文】

省略

●7.【白楽の感想】

《1》昔と今のルール

https://www.eduskunta.fi/EN/kansanedustajat/Pages/1333.aspx

約14年前に執筆した修士論文が、2018年に盗修だと指摘された。

この14年間で、盗用のルールが確実に変わったと思えないが、百歩譲って、変わったと仮定しよう。その場合、昔の行為を今のルールで裁く是非を考えたい。

日本では数十年前、既に、小説や文学では、盗用は非難されていた。しかし、学術論文での盗用は、引用ルールが厳格ではなかったこともあり、文献を示さずに他人の文章を「少し」流用する程度なら、許容されていた、と白楽は思う。なお、「少し」の程度は曖昧だった。

昭和人間である白楽は、大学・大学院で盗用ルールを習った覚えがない。ねつ造・改ざんは禁止と、大学・大学院の正規科目で習った覚えがない。そもそも、論文の書き方を体系的に教えてくれる科目はなかった(今でも日本の多くの大学・大学院でネカト規範を体系的に教えていないと思う)。

学部の時、必修科目である生化学実験実習の最初のオリエンテーションで、生化学の前田先生が学術文献のイロハを説明してくれたが、ネカト規範は教えてはくれなかった。

院生の時、「英語科学論文の書き方」本を独学で読み、見よう見まねで書き上げた英語論文原稿を指導教官に見せたら、その英語の下手さ加減にあきれられた。

気を取り直して修正し、勇敢にも米国の学術誌に投稿したら、今度は、外国人査読者から罵倒された。研究成果は掲載の価値があるが、「論文の書き方」がなっていない、「英語が下手すぎ」とひどく叱られた。しかし、今では考えられないほど何回も、査読者が修正してくれた。原稿改訂作業のやり取りを日米間の航空便でしてもらったのである。そして、何とか出版できた。修士2年の24歳の時だった。

つまり、ニガく苦しい経験を通して、「論文の書き方」を習得した。ヒドイもんである。オン・ザ・ジョブ・トレーニングである。

当時は、論文原稿の盗用はチェックされなかった。しかし、盗用するなど思いもよらなかった。

学術論文での盗用がチェックされ糾弾されるようになったのは、日本では、ここ10数年である。

話は変わる。

ここ数年、米国の映画界・スポーツ界・音楽界、そして学術界でも、有名人の過去のセクハラ行為が糾弾されている。この場合、20~40年前でも犯罪的とされた行為があるだろう。しかし、それとは異なり、軽度で当時許容されていた行為でも、現在、糾弾されている。

では、当時許容されていた行為を、現行のルール・価値観で裁くのは異常だろうか? 正義だろうか?

ウ~ン。難しいが、正義だろう。

昔の行為でも常に現行のルール・価値観で裁く。これが正義だ。

ナチスの残虐行為は当時、その組織で許容されていたとしても、現行のルール・価値観で裁かれる。

ネカトも、当時その組織で許容されていても、現行のルール・価値観で裁くのが正義だろう。

ユヴァスキュラ大学のティモ・サロビータ教授(Timo Saloviita)が、ウッタサリの修士論文は当時のルール・価値観では盗用ではないと主張しているが、現在は、現在のルール・価値観で判断するのが妥当だ。

ウッタサリの修士論文は盗用で、その責任はウッタサリと指導教員にあると思う。

https://www.satakunnankansa.fi/satakunta/haluan-lauran-tyttoystavakseni-huhtasaaren-ehdotus-hapearangaistuksista-kuohuttaa-verkossa/

《2》ネカトの政治利用

大統領選候補者の昔の悪行(今回は盗修)を指摘し、選挙で有利になる。

政治家は政策上の言動の不始末ではなく、他の行為の不始末でも失脚する。不倫(日本だけ?)や金銭でも失脚する。

ネカトブログで書いてきたように、世界中の多くの政治家が、政策上の言動の不始末ではなく、盗修・盗博事件で失脚してきた。

もちろん、ズルして出世したツケだと言われればそれまでだが、ウッタサリ事件では大統領選投票日の12日前に盗修が指摘された。

ネカトの政治利用は明らかだ。

こういう利用はネカト問題をゆがめてしまう、と白楽は危惧する。

https://www.uusisuomi.fi/kotimaa/230411-laura-huhtasaari-galluptuloksesta-en-ole-viela-edes-ehdolla-sauli-niinisto-ollut-hyva

https://www.laurahuhtasaari.fi/medialle

http://www.groteski-magazine.fi/2016/kategoria/ihmiset/page/3/

上の写真を参考にしたと思えるウッタサリのアニメ画がウェブにある(下記)。もう、アイドルである。

ローラ・ウッタサリ(Laura Huhtasaari)のアニメ画。Anonyymi Nro. 75517691 14.12.2017 https://ylilauta.org/anime/75517691

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●8.【主要情報源】

① ウィキペディア・フィンランド語版Ranbaxy Laboratories – Wikipedia
② 2018年1月17日の「Yle」記事:Finns Party presidential candidate Huhtasaari in plagiarism row | Yle Uutiset | yle.fi(保存版)
③ 2018年1月17日の「News Now Finland」記事:Academic Cheating Claims Hit Huhtasaari Campaign | News Now Finland(保存版)
④ 2018年1月18日の「Yle」記事:University of Jyväskylä probes plagiarism claims against Finns Party’s Laura Huhtasaari | Yle Uutiset | yle.fi、、(保存版)
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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