2025年9月15日掲載
ブリティッシュコロンビア大学・殊勲教授で前立腺がんの医薬品開発やリキッドバイオプシーで著名なスーパースター研究者で、2017年にカナダ勲章(Order of Canada)を受章した。高被引用者で、約120億円の研究費を獲得している。オンコジェネックス・ファーマシューティカルズ社(OncoGenex Pharmaceuticals)を創設した。その会社が特許を持つ2つの抗がん薬のカスティルセン(Custirsen、別名OGX-011)とアパトールセン(Apatorsen、別名OGX-427)は、第3相・第2相の臨床試験まで進めたが、2017年に抗癌効果がないことがわかった。そして、2024年6月、グリーブの数十本の論文に研究不正疑惑があるとクレア・フランシス(Claire Francis)が「パブピア(PubPeer)」で指摘した。先の2つの抗がん薬は、ネカト疑惑論文を基に開発を進めたわけだから、臨床試験が失敗したのは、当然と言えば当然だった。現在、シュプリンガー・ネイチャー社は調査中、大学はネカト調査中かどうか不明。なお、日本人はグリーブが大好きで、多数の日本人研究者との共著論文がある。国民の損害額(推定)は120億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
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●1.【概略】
マーティン・グリーブ(Martin Gleave、Martin E Gleave、ORCID iD:?、写真出典)は、カナダのブリティッシュコロンビア大学(University of British Columbia)・殊勲教授(Distinguished Professor)でバンクーバー前立腺センター(Vancouver Prostate Centre)の共同設立者・医師で、専門は泌尿器学(前立腺がん)である。
グリーブは、高被引用者で、約120億円の研究費を獲得している。
2017年にカナダ勲章(Order of Canada)を受章したスーパースター研究者である。
日本人はグリーブが大好きで、多数の日本人研究者がグリーブ研究室のポスドクに行き、グリーブと共著の論文があり、日本泌尿器科学会はグリーブを講演者として何回も招いている。
前立腺がんの医薬品開発のバイオベンチャー企業として、グリーブはオンコジェネックス・ファーマシューティカルズ社(OncoGenex Pharmaceuticals)を創設した。その会社が特許を持つ2つの抗がん薬のカスティルセン(Custirsen、別名OGX-011)は第3相の臨床試験まで、アパトールセン(Apatorsen、別名OGX-427)は第2相の臨床試験進めたが、抗癌効果がないことがわかり、医薬品開発は失敗した。
一方、2024年6月、グリーブの数十本の論文に研究不正疑惑があるとクレア・フランシス(Claire Francis)が「パブピア(PubPeer)」で指摘した。
第3相・第2相臨床試験で失敗した2つの抗がん薬は、何らかのデータ不正または不備があったネカト疑惑論文を基に開発を進めたわけだから、医薬品開発の失敗は、当然と言えば当然である。
グリーブの研究不正疑惑は、現在、シュプリンガー・ネイチャー社が調査中であるが、ブリティッシュコロンビア大学は調査中かどうか回答していない。
ブリティッシュコロンビア大学のバンクーバー・キャンパス(University of British Columbia’s Vancouver campus)。写真出典
- 国:カナダ
- 成長国:カナダ
- 医師免許(MD)取得:ブリティッシュコロンビア大学
- 研究博士号(PhD)取得:なし
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1960年1月1日生まれとする。現在、65歳と仮定した(根拠なし)
- 現在の年齢:65歳?
- 分野:泌尿器学
- 不正疑惑論文発表:2004~2020年(44~60歳?)の17年間
- 不正疑惑論文発表時の地位:ブリティッシュコロンビア大学・教授、同・殊勲教授
- 発覚年:2024年(64歳?)
- 発覚時地位:ブリティッシュコロンビア大学・殊勲教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者はクレア・フランシス(Claire Francis)で、「パブピア(PubPeer)」で指摘
- ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」、「For Better Science」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①シュプリンガー・ネイチャー社・編集部。②ブリティッシュコロンビア大学が調査中かどうか不明
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査中かどうか不明
- 大学の透明性:調査中かどうか不明(ー)
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:「パブピア(PubPeer)」で27論文にコメント
- 時期:研究キャリアの中期+後期
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
- 処分:なし。調査中かどうか不明だから
- 対処問題:大学隠蔽
- 特徴:共著者に日本人研究者多い
- 日本人の弟子・友人:多数。例えば、林 哲太郎(日本赤十字社 松山赤十字病院・副部長)
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は120億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
不明な点が多い。主な出典:Dr Martin Gleave | Vancouver Prostate Centre
- 生年月日:不明。仮に1960年1月1日生まれとする。現在、65歳と仮定した(根拠なし)
- xxxx年(xx歳):カナダのブリティッシュコロンビア大学(University of British Columbia)で学士号取得
- xxxx年(xx歳):同大学で医師免許取得
- xxxx年(xx歳):カナダのブリティッシュコロンビア大学(University of British Columbia)・教員、後に殊勲教授(Distinguished Professor)
- 1991年(31歳?):オンコジェネックス・ファーマシューティカルズ社(OncoGenex Pharmaceuticals)を設立
- 2003年(43歳?):ブリティッシュコロンビア大学・優秀学者賞(Distinguished University Scholar at UBC)を受賞
- 2004~2020年(44~60歳?):この17年間に出版した27論文に「パブピア(PubPeer)」でコメントがある
- [間違いかも]2007~2011年(47~51歳?)頃:米国のフレッド・ハッチンソンがんセンター(Fred Hutchinson Cancer Center)・在職
- [間違いかも]2016~2017年(56~57歳?)頃:米国のフレッド・ハッチンソンがんセンター(Fred Hutchinson Cancer Center)・在職
- 2017年(57歳?):カナダ勲章(Order of Canada)を受章:Dr. Martin Gleave | The Governor General of Canada
- [間違いかも]2023~2024年(63~64歳?):米国のフレッド・ハッチンソンがんセンター(Fred Hutchinson Cancer Center)・在職
- 2024年(64歳?):研究不正が発覚
- 2025年9月14日(65歳?)現在:従来職を維持
●3.【動画】
以下は事件の動画ではない。
【動画1】
インタビュー動画:「Dr. Martin Gleave – YouTube」(英語)2分47秒。
theprostatenet(チャンネル登録者数 57人) が2014/12/02 に公開
【動画2】
インタビュー動画:「PROSTATE CANCER TRUTHS w/ Dr. Martin Gleave, Surgeon and Director of Vancouver Prostate Centre. – YouTube」(英語)2分47秒。
CHEK Media(チャンネル登録者数 2.7万人) が2023/11/24に公開
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★研究人生
マーティン・グリーブ(Martin Gleave、Martin E Gleave、写真出典)はカナダのスーパースター研究者である。
ブリティッシュコロンビア大学(UBC)泌尿器科の教授で、バンクーバー前立腺センターの創設所長、アカデミー会員でもある。
論文数は600報以上、被引用数は60,000回の高被引用者で、H指数122である。獲得研究費は1億2,000万ドル(約120億円)と研究費の獲得額はトップクラスである。 → Dr Martin Gleave | Vancouver Prostate Centre
2017年11月29日(57歳?)、カナダ勲章(Order of Canada)を受章した。写真の右の女性はカナダ総督のジュリー・ペイエット(Julie Payette)である(写真出典)。 → Dr. Martin Gleave | The Governor General of Canada
グリーブはオンコジェネックス・ファーマシューティカルズ社(OncoGenex Pharmaceuticals)の共同創業者で、疑惑視された論文のいくつかは、同社の特許に関連している。
★獲得研究費
前節で述べたように、マーティン・グリーブ(Martin Gleave、Martin E Gleave)は、1億2,000万カナダ・ドル(約120億円)の研究費を獲得していた。そのうちの一部は米国NIHからの研究費だと思われる。
白楽が調べると、2007~2011年、2016~2017年、2023~2024年、米国のフレッド・ハッチンソンがんセンター(Fred Hutchinson Cancer Center)所属で、米国NIH・NCIの研究費を獲得していた。5件のプロジェクトで2,533,932USドル(約2億5千万円)、12件のサブプロジェクトで 3,382,713USドル(約3億4千万円)とある。 → RePORT ⟩ Martin Gleave
公表している経歴(Dr Martin Gleave | Vancouver Prostate Centre)を見る限り、カナダのことしか書いていないが、米国のフレッド・ハッチンソンがんセンターにも在職していたのだろうか?
★日本との関係
マーティン・グリーブ(Martin Gleave、Martin E Gleave)は、日本人研究者に大人気である。ウェブで軽く検索すると以下がヒットした。
- 広島大学・助教(当時)の林 哲太郎(現・日本赤十字社 松山赤十字病院・副部長)がポスドク留学。
- 2012年7月、赤松 秀輔(現・名古屋大学・教授)がポスドク留学。
- 2019年10月、福岡で開催の日本泌尿器腫瘍学会第5回学術集会で招待講演
- 2020年12月、神戸で開催の第108回日本泌尿器科学会総会で招待講演。写真(出典)左から2人目(赤枠白楽)。
- 2025年4月、福岡で開催の第112回日本泌尿器科学会総会で招待講演
★発覚の経緯
2024年6月(64歳?)、マーティン・グリーブ(Martin Gleave、Martin E Gleave)の数十論文にネカト疑惑があると、クレア・フランシス(Claire Francis)が「パブピア(PubPeer)」で指摘した。疑惑はImageTwinソフトで検出した画像重複だった。
「撤回監視(Retraction Watch)」の問い合わせに、グリーブは「コメントを真摯に受け止め、現在研究室で調査中です。問題を理解し、対応するには数か月かかると思ます」と回答した。
ブリティッシュコロンビア大学のメディア担当者は、大学が論文の研究不正を調査中かどうかについてノーコメントだと答えた。
疑惑視された数十論文のうちの1報・「2012年6月のBr J Cancer」論文は日本の神戸大学・腎泌尿器科の三宅 秀明(Miyake Hideaki)教授(当時・准教授)との共著論文だが、2024年12月3日、懸念表明が付いた。
- Clusterin inhibition using OGX-011 synergistically enhances antitumour activity of sorafenib in a human renal cell carcinoma model.
Kususda Y, Miyake H, Gleave ME, Fujisawa M.
Br J Cancer. 2012 Jun 5;106(12):1945-52. doi: 10.1038/bjc.2012.209. Epub 2012 May 15.PMID: 22588555
連絡著者はグリーブではなく三宅 秀明・教授(Miyake Hideaki、当時・准教授)である。 → KAKEN — 研究者をさがす | 三宅 秀明 (60379435)
2024年6月、Pleiacanthus spinosus(クレア・フランシスの別名?)が画像の重複使用を指摘した。画像は水平方向と垂直方向にサイズ変更をしているので、意図的な操作をしたと思われる。そして、著者(グリーブ? 三宅 秀明・教授?)は元データがないので元データを提出できない、と答えたので、2024年12月3日、「懸念表明」が付いた。
以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/08A295E42FAFF9BBA26D466706DDEB
★複数論文
前節で述べたように、マーティン・グリーブ(Martin Gleave、Martin E Gleave)の数十論文のネカト疑惑が「パブピア(PubPeer)」で指摘されている。
シュプリンガー・ネイチャー社(Springer Nature)のアリス・ケイ広報担当(Alice Kay)は、「問題点を認識し、調査している。事実関係が判明次第、適切な措置を講じる」、と述べた。
疑惑視された数十論文のうちの15論文は、バンクーバー前立腺センターの上級研究員で、ブリティッシュコロンビア大学・教授でもあるシュエセン・ドン(Xuesen Dong、写真出典)の研究室から発表されている。シュエセン・ドンはグリーブとの共著論文が27報ある。
「撤回監視(Retraction Watch)」の問い合わせに、シュエセン・ドンは、院生が誤った画像を間違って使用したと説明した。ドン氏によると、問題の多くはウェスタンブロットの画像で、もともと「非常に似たように見える」か、「似たような実験で得た」図だった。それを最大30個組み合わせる複合図にしたので間違いに気が付かなかったとのことだ。
17論文は、バンクーバー前立腺センターの上級研究員で、ブリティッシュコロンビア大学・教授でもあるアミナ・ズベイディ(Amina Zoubeidi、写真は後で掲載)と共著である。ズベイディはグリーブと共著の論文が43報ある。
なお、バンクーバー前立腺センターの上級研究員で、ブリティッシュコロンビア大学・教授でもあるキム・チ(Kim N Chi、写真出典)は、グリーブとの共著論文が35論文あるが、「パブピア(PubPeer)」でコメントされた論文は1論文しかない。
★臨床試験の失敗:カスティルセン(Custirsen、別名OGX-011)
クラステリン(Clusterin – Wikipedia)は、細胞外に分泌されるシャペロン(タンパク質)で、体液中のミスフォールドタンパク質に結合してその毒性を中和する。多くの癌はクラステリンを過剰発現し、毒性を中和すると同時に、治療薬物の効果も中和してしまう。
カスティルセン(Custirsen、別名OGX-011、以下に構造図 By Vaccinationist – Own work, Public Domain, 出典)は、このクラステリンの発現を抑えるアンチセンスオリゴヌクレオチドで、クラステリンの発現を抑えることで抗がん剤の作用を保ち、クラステリンを発現する癌を治療できると想定した医薬品である。
2004年、グリーブが所有しているオンコジェネックス・ファーマシューティカルズ社(OncoGenex Pharmaceuticals、オンコジェネックス社と略す)とアイシス・ファーマシューティカルズ社(Isis Pharmaceuticals、アイシス社と略す)は、カスティルセンが前立腺癌組織のクラステリン発現を用量依存的に最大91%減少させたと報告した。
前臨床試験の動物実験では、カスティルセンは毒性を増強することなく、前立腺癌への従来の化学療法効果を10倍以上向上させた。また、カスティルセンは、前立腺、非小細胞肺、膀胱、腎臓を含む多くの腫瘍モデル系において、疾患の進行を著しく遅らせた。
2009年8月、オンコジェネックス社(OncoGenex)はグリーブの前臨床データに基づいて抗がん剤であるカスティルセンの特許を取得した。 → 2009年8月10日記事:OncoGenex Pharmaceuticals Inc. Announces Issuance of Key Patent for OGX-011 – BioSpace
2012年、グリーブは、第1相臨床試験の結果、カスティルセンの抗癌作用は非常に有望だと発表した。 → Phase I/II Trial of Custirsen (OGX-011), an Inhibitor of Clusterin, in Combination with a Gemcitabine and Platinum Regimen in Patients with Previously Untreated Advanced Non-small Cell Lung Cancer – Journal of Thoracic Oncology
第2相臨床試験の結果を2010年にすでにグリーブ論文として発表していた。第一著者のキム・チ(Kim Chi)はバンクーバー前立腺センターの上級研究員で、ブリティッシュコロンビア大学・教授でもある。さらに、カナダの政府機関BC Cancerの医療責任者および副会長でもある。 → Randomized Phase II Study of Docetaxel and Prednisone With or Without OGX-011 in Patients With Metastatic Castration-Resistant Prostate Cancer | Journal of Clinical Oncology
ところが、2014年4月28日、カスティルセン(OGX-011)とドセタキセル(docetaxel)、プレドニゾン(prednisone)の併用療法は、転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)の男性に対する第一選択治療として、生存期間を有意に延長できなかった。 → 2014年4月28日記事:Custirsen Fails to Improve Survival in mCRPC
そして、2017年、カスティルセンの第3相臨床試験は大失敗だったと、グリーブは論文発表した → Custirsen in combination with docetaxel and prednisone for patients with metastatic castration-resistant prostate cancer (SYNERGY trial): a phase 3, multicentre, open-label, randomised trial – The Lancet Oncology
同じ2017年、オンコジェネックス社が資金提供した別の第3相臨床試験で、グリーブが著者になっていない論文も、カスティルセン(OGX-011)の治療効果がないこと、つまり、臨床試験が再び失敗に終わったと報告した。 → Custirsen (OGX-011) combined with cabazitaxel and prednisone versus cabazitaxel and prednisone alone in patients with metastatic castration-resistant prostate cancer previously treated with docetaxel (AFFINITY): a randomised, open-label, international, phase 3 trial – The Lancet Oncology
なお、カスティルセン(Custirsen、別名OGX-011)の「ClinicalTrials.gov」サイトはココ → Study Details | Docetaxel and Prednisone With/Out OGX-011 in Recurrent or Metastatic Prostate Cancer That Did Not Respond to Previous Hormone Therapy | ClinicalTrials.gov
★失敗の本質:カスティルセン(Custirsen、別名OGX-011)
第1相,第2相と順調に進んだと思われるカスティルセンの第3相臨床試験の失敗派は、本当に予想外だったのか?
グリーブは第2相試験の段階でカスティルセン(OGX-011)の第3相臨床試験が失敗すると確信していたと思われる。
それでも前立腺がんの治療薬としてカスティルセン(OGX-011)売り込み続けた。
グリーブ社のカスティルセン(OGX-011) に関する前臨床データを見てみよう。
(1)2005年論文
「2005年のMolecular Cancer Therapeutics」論文で、「これらのデータは、クラステリンが有効な治療標的であることと、乳がんのマルチモダリティ(multimodality)治療でカスティルセン(OGX-011)を試験が重要と思える前臨床段階の証拠を示している」と述べている。
しかし、2024年9月、この「2005年のMolecular Cancer Therapeutics」論文に以下のように画像重複が指摘され、論文結果全体に不正の疑惑がもたれた。画像出典:https://pubpeer.com/publications/B2B5434B0211E2F4B3EE43FFE27072
(2)2012年論文
前々節で述べた「2012年6月のBr J Cancer」論文で、2024年12月3日に懸念表明が付いた。
- Clusterin inhibition using OGX-011 synergistically enhances antitumour activity of sorafenib in a human renal cell carcinoma model.
Kususda Y, Miyake H, Gleave ME, Fujisawa M.
Br J Cancer. 2012 Jun 5;106(12):1945-52. doi: 10.1038/bjc.2012.209. Epub 2012 May 15.PMID: 22588555
神戸大学・腎泌尿器科の三宅 秀明(Miyake Hideaki)教授(当時・准教授)が連絡著者の「2012年6月のBr J Cancer」論文は、カスティルセン(OGX-011)とソラフェニブのin vivo全身投与が、腎細胞癌の腫瘍を小さくしたと報告した。
しかし、この論文も、前々節で述べたように、データ画像に不正加工があった。
論文結果全体に不正の疑惑がもたれた。
(3)2010年論文
「2010年1月のMol Cancer Res.」論文にも、意図的な画像の不正加工があった。
- Clusterin facilitates COMMD1 and I-kappaB degradation to enhance NF-kappaB activity in prostate cancer cells.
Zoubeidi A, Ettinger S, Beraldi E, Hadaschik B, Zardan A, Klomp LW, Nelson CC, Rennie PS, Gleave ME.
Mol Cancer Res. 2010 Jan;8(1):119-30. doi: 10.1158/1541-7786.MCR-09-0277. Epub 2010 Jan 12.PMID: 20068069
第一著者のアミナ・ズベイディ(Amina Zoubeidii、写真出典)は当時グリーブ研究室のポスドクだった。
その後、ブリティッシュコロンビア大学・教授、グリーブ研究所バンクーバー前立腺センターの理事会メンバー、カナダのⅠ種・国選研究教授(Tier 1 Canada Research Chair)になり、スター研究者、女性科学者のロールモデルとしてとして称賛されている。 → Dr. Amina Zoubeidi: A Career Built on Philanthropy | VGH & UBC Hospital Foundation
ところが、画像の意図的な不正加工が指摘された。
画像出典:https://pubpeer.com/publications/6F131B28B1B83A27516648920A9049
(4)2013年論文:山口大学・泌尿器科と共著
「2013年8月のCancer Res.」論文は著者に5人の日本人がいた。
第一著者の松本 洋明(Matsumoto Hiroaki)は山口大学医学部・泌尿器科・助教で、第6著者の松山 豪泰(Matsuyama Hideyasu)が同・教授だった。
- Cotargeting Androgen Receptor and Clusterin Delays Castrate-Resistant Prostate Cancer Progression by Inhibiting Adaptive Stress Response and AR Stability.
Matsumoto H, Yamamoto Y, Shiota M, Kuruma H, Beraldi E, Matsuyama H, Zoubeidi A, Gleave M.
Cancer Res. 2013 Aug 15;73(16):5206-17. doi: 10.1158/0008-5472.CAN-13-0359. Epub 2013 Jun 20.PMID: 23786771
画像の不正加工があった。
画像出典:https://pubpeer.com/publications/E9240E60386B206B779AC2A7E2BEE2
(5)2014年論文
書誌情報と不正画像の提示を省略するが、「2014年12月のNature Communications」論文にも不正画像があった。
不正画像はココを参照 → https://pubpeer.com/publications/E9001D25ED3D6759538174F6AE70DB
(6)2011年論文
書誌情報と不正画像の提示を省略するが、「2011年8月のCancer Research」論文にも不正画像があった。第4著者は日本人の車 英俊(Hidetoshi Kuruma)である
不正画像はココを参照 → https://pubpeer.com/publications/76496FBFF7F8FB8DEF16FC76FD9A9D
なお、この論文はファイザー社のミン=ジーン・イン(Min-Jean Yin)と共著である。 → ミン=ジーン・イン(Min-Jean Yin)(米) | 白楽の研究者倫理
★臨床試験の失敗:アパトールセン(Apatorsen、別名OGX-427)
カスティルセン(Custirsen、別名OGX-011)が第3相臨床試験で失敗したが、アパトールセン(Apatorsen、別名OGX-427)は第2相臨床試験で失敗した。 → 2019年12月24日論文: A Randomized, Double-Blinded, Phase II Trial of Carboplatin and Pemetrexed with or without Apatorsen (OGX-427) in Patients with Previously Untreated Stage IV Non-Squamous-Non-Small-Cell Lung Cancer: The SPRUCE Trial – PubMed
アパトールセン(Apatorsen、別名OGX-427)も不確かな前臨床データに基づいて臨床試験に進めたと理解される。
カスティルセンと同様なので、詳細なデータを省く。
なお、アパトールセン(Apatorsen、別名OGX-427)の「ClinicalTrials.gov」サイトはココ →Study Results | OGX-427 in Metastatic Castrate-Resistant Prostate Cancer With Prostate-Specific Antigen Progression While Receiving Abiraterone | ClinicalTrials.gov
●【ねつ造・改ざんの具体例】
上記したので省略。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
データベースに直接リンクしているので、記事閲覧時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えている(ことがある)。
★パブメド(PubMed)
2025年9月14日現在、パブメド(PubMed)で、マーティン・グリーブ(Martin Gleave、Martin E Gleave)の論文を「Martin Gleave [Author]」で検索した。1996~2025年の29年間の570論文がヒットした。
シュエセン・ドン(Xuesen Dong)との共著論文は27論文がヒットした。
アミナ・ズベイディ(Amina Zoubeidi)との共著論文は43論文がヒットした。
キム・チ(Kim N Chi)との共著論文は35論文がヒットした。
2025年9月14日現在、つい先日まであった「Retracted Publication」のフィルターが消失していた。
数週間前、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、「2013年10月のFASEB J」論文・1論文が撤回されていた。なお、この撤回論文は同姓同名の別人の論文である。
★撤回監視データベース
2025年9月14日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでマーティン・グリーブ(Martin Gleave、Martin E Gleave)を「Gleave, Martin」で検索すると、1論文が撤回、1論文が訂正されていた。なお、撤回論文は同姓同名の別人の論文である。
★パブピア(PubPeer)
2025年9月14日現在、「パブピア(PubPeer)」では、マーティン・グリーブ(Martin Gleave、Martin E Gleave)の論文のコメントを「Martin Gleave」で検索すると、51論文に、「Martin E Gleave」で検索すると、27論文にコメントがあった。
27論文の出版年は2004~2020年だった。
●7.【白楽の感想】
《1》ネカト実行犯は日本人研究者?
マーティン・グリーブ(Martin Gleave、Martin E Gleave、写真出典)はCRPC(去勢抵抗性前立腺がん)の新規薬物療法の研究者で、カナダのスーパースター研究者である。
抗がん薬カスティルセン(Custirsen、OGX-011)とアパトールセン(Apatorsen、OGX-427)は第3相・第2相臨床試験まで進んだが、結果は思わしくなかった。
基盤となる前臨床試験の多数の論文にデータ捏造・改ざん疑惑が浮上している。「パブピア(PubPeer)」で51論文にコメントがある。
どうやら、データを捏造・改ざんして、開発中の医薬品を有効だと思わせた可能性がある。
グリーブは日本人研究者に大人気で、弟子や共同研究者が多数いる。
はてさて、大スキャンダルになるのか?
2024年6月にデータ不正疑惑が勃発したので、2025年9月14日現在はそれから1年3か月が経過した。
ブリティッシュコロンビア大学の調査結果は発表されていないが、そろそろ、次の動きがあるかもしれない。
まさかとは思うが、共著者になっている日本人研究者がネカト実行犯だったということになる、イヤイヤ、ならない、イヤイヤ、・・・わかりません。
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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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●9.【主要情報源】
① 2024年12月23日のロリ・ユームシャジェキアン(Lori Youmshajekian)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Journals investigating dozens of papers by leading Canadian urologists – Retraction Watch
② 2025年4月28日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ記事:Trials and Errors of Martin Gleave – For Better Science