モナ・ティルチェルヴァン(Mona Thiruchelvam)(米)更新

2014年12月27日掲載、2021年9月1日更新 

ワンポイント:2012年6月28日、研究公正局は、ニュージャージー医科歯科大学(University of Medicine and Dentistry of New Jersey)の助教授だったティルチェルヴァン(37歳?)のネカトを公表した。2件の研究費申請書、2005年の2報の発表論文、2006年の1つのポスター発表、2006年の1本の論文原稿、のデータに意図的なねつ造・改ざんがあった、と発表した。2012年6月13日から7年間の締め出し処分を科した。国民の損害額(推定)は3億円(大雑把)。

ーーーーーーー
目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
ーーーーーーー

●1.【概略】

モナ・ティルチェルヴァン(Mona Thiruchelvam、写真出典)はニュージャージー医科歯科大学(University of Medicine and Dentistry of New Jersey)の助教授で、専門は神経科学だった。

ニュージャージー医科歯科大学は2013年7月1日、ラトガース大学(Rutgers University)に移管したが、ここでは当時の名称を使う。

2005年(30歳?)、ティルチェルヴァンは、後でねつ造と断定された論文を2報発表した。2つの論文とも、パーキンソン病(PD:Parkinson’s disease)の神経細胞に対する殺虫剤・除草剤の影響に関する研究である。

共同研究者が論文データのねつ造に気がついて、大学に公益通報した。この通報者は、エリック・リッチフィールド(Eric K. Richfield)と思われる。

2006年頃(正確な年月は不明)、ニュージャージー医科歯科大学(UMDNJ)が調査を始めた。

調査されたティルチェルヴァンは。証拠隠滅や知人との口裏合わせ工作をするなど、悪質度の高いことをした。

2012年6月28日、しかし、結局、研究公正局は、ティルチェルヴァン(37歳?)の2件の研究費申請書、2005年の2報の発表論文、2006年の1つのポスター発表、2006年の1本の論文原稿、のデータに意図的なねつ造・改ざんがあったと、公表した。

そして、研究公正局は、 2012年6月13日から7年間の締め出し処分を科した。7年間は処分としてはかなり重い。

以下はニュージャージー医科歯科大学(University of Medicine and Dentistry of New Jersey)の紹介のYouTube:出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 博士号取得:ロチェスター医科歯科大学
  • 男女:女性
  • 生年月日:不明。仮に1975年1月1日生まれとする。2002年に博士号を取得した時を27歳とした
  • 現在の年齢:49 歳?
  • 分野:神経科学
  • 不正論文発表:2005年(30歳?)
  • 発覚年:2006年(31歳?)?
  • 発覚時地位:ニュージャージー医科歯科大学・助教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は共同研究者のエリック・リッチフィールド(Eric K. Richfield)
  • ステップ2(メディア):ヘイリー・ダニング(Hayley Dunning)記者の『科学者』誌(The Scientist)、「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ニュージャージー医科歯科大学・調査委員会。②研究公正局
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:実名報道でウェブ公表(含・研究公正局でクロ判定)(〇)[大学以外が詳細をウェブ公表]
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:2報撤回。2件の研究費申請書、2005年の2報の発表論文、2006年の1つのポスター発表、2006年の1本の論文原稿
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)をやめた・続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分: NIHから 7年間の締め出し処分。大学辞職(解雇?)
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は3億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

不明点多し。出典:Mona Thiruchelvam, PhD | Parkinson’s Disease保存版

  • 生年月日:不明。仮に1975年1月1日生まれとする。2002年に博士号を取得した時を27歳とした
  • xxxx年(xx歳):サンノゼ州立大学(San Jose State University)を卒業:生化学
  • 2002年(27歳?):ロチェスター医科歯科大学(University of Rochester School of Medicine and Dentistry)で博士号取得:神経科学
  • 2002年(27歳?):同大学でポスドク。ボスはデボラ・コリー=シュレヒタ教授(Deborah Cory-Slechta)
  • 2003年(28歳?):コリー=シュレヒタ教授の移籍に伴い、ニュージャージー医科歯科大学・助教授に着任
  • 2005年(30歳?):後でねつ造と断定された論文を発表
  • 2006年(31歳?)?:不正発覚
  • 2010年2月(35歳?):ニュージャージー医科歯科大学・調査委員会は、2005年の論文2報をねつ造と結論
  • 2010年2月(35歳?):ニュージャージー医科歯科大学を退職した(解雇?)。
  • 2012年6月28日(37歳?):米国・研究公正局が不正研究(ねつ造)と発表

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★パーキンソン病の理解

モナ・ティルチェルヴァン(Mona Thiruchelvam)はパーキンソン病の研究をしていた。

それで、この際、パーキンソン病を理解しよう(出典:パーキンソン病って、どんな病気?。リンク切れた。保存版)。

パーキンソン病の主な初期症状には、「ふるえ」「固縮」「無動」「姿勢障害」の4つが知られています。

ふるえは、「静止時振戦(せいしじしんせん)」といわれ、じっとしている時に手や足にふるえが現れることが特徴です。例えば、手を膝に置き、じっと座っていると膝の上の手がふるえだします。手を膝から離して何かをしようとするとふるえは消えます。

この病気は、脳の中の神経に異常が起こることで発病しますが、若い人には少なく、普通40~50歳以降にみられることが多いとされます。

脳は、大脳、小脳、脳幹(のうかん)に大別されます。パーキンソン病では、脳幹に属する中脳の「黒質(こくしつ)」という部分と、大脳の大脳基底核(だいのうきていかく)にある「線条体(せんじょうたい)」という部分に異常が起こっていることが明らかにされています。

パーキンソン病では、黒質に異常が起こって正常な神経細胞を減少させるため、そこでつくられるドパミンの量が低下し、黒質から線条体に向かう情報伝達経路がうまく働かなくなっている状態ということがわかっています。このため、姿勢の維持や運動の速度調節がうまく行えなくなるなど、パーキンソン病特有の症状が現れると考えられています。

黒質でつくられるドパミンの量が正常な人の20%以下まで低下すると、パーキンソン病の症状が現れるといわれています。

141222 Blausen_0704_ParkinsonsDisease[1]図1.脳全体(左)と中脳(右)。パーキンソン病患者(右下)と健常人(右上)。パーキンソン病患者の黒質(substantia nigra)の神経細胞が減少している。出典:Blausen.com staff. “Blausen gallery 2014“. Wikiversity Journal of Medicine. DOI:10.15347/wjm/2014.010. ISSN 20018762

141222 parkn1図2.中脳。上図右の器官像に相当(上下逆転)。パーキンソン病患者(左)と健常人(右)。黒質(substantia nigra)に顕著な差がある。出典:Anatomy & Physiology Disease O’Week

141222 parkn1b図3.黒質(substantia nigra)の組織化学像。パーキンソン病患者(左)は健常人(右)に比べ、黒質の神経細胞が減少している。出典:Anatomy & Physiology Disease O’Week

★不正発覚の発端

141222 1457[1]2003年、ボスのデボラ・コリー=シュレヒタ教授(Deborah Cory-Slechta、写真出典保存版)が、ロチェスター医科歯科大学からニュージャージー医科歯科大学(University of Medicine and Dentistry of New JerseyI)・環境地域医学・学科長(Chair of the Department of Environmental and Community Medicine)に移籍した。

2003年(28歳?)、モナ・ティルチェルヴァン(Mona Thiruchelvam)は、上司のコリー=シュレヒタ教授の移籍に伴い、ロチェスター大学・ポスドクからニュージャージー医科歯科大学・助教授に着任した。

2005年(30歳?)、ティルチェルヴァンは、後でねつ造と断定された論文を2報発表した。2つの論文とも、パーキンソン病(PD:Parkinson’s disease)の神経細胞に対する殺虫剤・除草剤の影響に関する研究である。

  1. Rodriguez, V.M., Thiruchelvam, M., & Cory-Slechta, D.A. “Sustained Exposure to the Widely Used Herbicide, Atrazine: Altered Function and Loss of Neurons in Brain Monamine Systems.” Environ Health Perspect. 113(6):708-715, 2005.
  2. Thiruchelvam, M., Prokopenko, O., Cory-Slechta, D.A., Richfield, E.K., Buckley, B., & Mirochnitchenko, O. “Overexpression of Superoxide Dismutase or Glutathione Peroxidase Protects against the Paraquat + Maneb-induced Parkinson Disease Phenotype.” J. Biol. Chem. 280(23):22530-22539, 2005.

「1」の「2005年のEnviron Health Perspect.」論文では、除草剤であるアトラジン(atrazine)を5 mg/kgまたは10 mg/kgをエサに混ぜて6か月間摂取させたマウスとラットは、ヒト・パーキンソン病患者と同じ症状を示すと報告した。

そのようなパーキンソン病状態のマウスとラットの脳の中の黒質線条体の神経細胞数を数えた(「★パーキンソン病の理解」で示した図3のような写真から)。

実験を13回行ない、その結果を報告した。

黒質線状体は脳の主要なドーパミン回路であり、この領域の神経細胞の欠失はパーキンソン病の特徴の1つだった。

しかし、エモリー大学のゲーリー・ミラー教授(Gary Miller、写真出典)は、殺虫剤・除草剤がパーキンソン病の原因だとする論文に懐疑的だった。

ミラー教授は、「何年も研究したが、殺虫剤・除草剤とパーキンソン病の間に何らかの関連はあるが、作用している化合物を特定するのは難しかった」と述べている。

★不正の証拠と弁明

細かい解説を省くが、問題の「2005年のEnviron Health Perspect.」論文の図4(出典)は以下の図である。アトラジン(atrazine)の濃度0、5、10 mg/kgの3点(横軸)で細胞数(縦軸)を数えている。

141222 ehp0113-000708f4[1]

ところが、ティルチェルヴァンの研究室には細胞数を測定する設備はなかった。

以前、共同研究者が細胞数の測定をティルチェルヴァンに依頼され、測定したが、今回は測定を依頼されていない。

それなのに、細胞数を測定したデータが論文に示されていた。

誰が測定したのだろうという疑念から調べ始め、データねつ造と確信した共同研究者は、ニュージャージー医科歯科大学にデータねつ造ではないかと、公益通報をした。

この通報者は、後の「★撤回監視データベース」の項で示すエリック・リッチフィールド(Eric K. Richfield)と思われる。本記事では、そのように記載した。

2006年頃(正確な年月は不明)、ニュージャージー医科歯科大学(UMDNJ)は調査を始めた。

初期の調査では、ティルチェルヴァンは、細胞はカリフォルニアの研究者に数えてもらったと主張した。その研究者は、英国に移動していた。

調査委員会が英国に移動した研究者に電話で確かめると、「自分が細胞を数えました」とティルチェルヴァンの話とつじつまがあう証言をした。

しかし、ニュージャージー医科歯科大学がさらに追及すると、その証言はウソだとわかったのである。

ティルチェルヴァンにその事実を突きつけると、今度は、細胞を数えた人として、カリフォルニアの別の研究者をあげた。

そして、調査委員会が連絡し、事実かどうかを確かめると、その研究者は、「ティルチェルヴァンに何もデータを提供していない」と述べたのである。

ティルチェルヴァンは、それでも、データをねつ造していないと主張した。

★研究公正局の助太刀

ティルチェルヴァンは、実際に、マイクロ・ブライト・フィールド社(Micro Bright Field)の共焦点顕微鏡写真のデータが293ファイルあると抗弁した。

調査委員会が293ファイルのデータを受け取り、マイクロ・ブライト・フィールド社に分析を依頼した。すると、ナント、ファイルは壊れていて、データが事実かねつ造なのかを判断できないとの返事だった。

ティルチェルヴァンに、データが壊れていて、正常にアクセスできないと伝えると、コンピュター・ウイルスに感染してデータが壊れてしまったと釈明した。

ニュージャージー医科歯科大学・調査委員会は、研究公正局に事件を報告し、助力を仰いだ。

研究公正局は、データファイルを受け取り、犯罪科学用のコンピュターソフトで分析した。すると、ファイル名と日付けはすべて異なるが、多くのファイルは同一の内容であることが判明した。

そして、コンピューター・ウイルスによってファイルが破壊されたのではなく、少なくともある程度は、ティルチェルヴァンが意図的にファイルを破壊したことがわかった。

研究公正局は修復したファイルをマイクロ・ブライト・フィールド社に送付し、再度、分析してもらった。

すると、293ファイルのすべてのデータは、ティルチェルヴァンが2002年8月18日にロチェスター大学で作成した1つのファイルに由来していたことが判明した。

ニュージャージー医科歯科大学・調査委員会は、研究公正局からの調査結果を受け取った。

調査結果は、「パーキンソン病の神経細胞に対する殺虫剤・除草剤の影響に関する研究論文で細胞数の測定データが発表されているが、実際は、細胞数は一度も測定されていなかった。ティルチェルヴァンが細胞数データをねつ造した、と判定した」というものだった。

ティルチェルヴァンに結果を示し、反証を待ったが、ティルチェルヴァンは何も反証しなかった。

★ようやく結末が訪れる

2010年2月(35歳?)、ニュージャージー医科歯科大学・調査委員会は、2005年の論文2報をねつ造と結論し、発表した。

2010年2月(35歳?)、ティルチェルヴァンは、ニュージャージー医科歯科大学を退職した(解雇?)。

2012年6月28日(37歳?)、研究公正局は調査結果を公表し、ティルチェルヴァンは、「2005年のEnvironmental Health Perspective」論文と「2005年の Journal of Biological Chemistry」論文の2報の論文でデータをねつ造した、と結論した。

研究公正局の報告書では、ティルチェルヴァン自身はねつ造を認めていない。しかし、政府研究費等への申請をしない書類「Voluntary Exclusion Agreement」(不正研究者への罰)にサインしている。また、2005年の2つの論文撤回手続きをすることを認めている。実質上、不正研究を認めたか、あるいは不正研究ではないと抗弁することをあきらめたと想定される。

そして、研究公正局はティルチェルヴァンに、2012年6月13日から7年間の締め出し処分を科した。7年間はかなり重い処分である。

ティルチェルヴァンは意図的にねつ造・改ざんしただけでなく、発覚後の追及で、証拠隠滅や知人との口裏合わせを工作するなど、悪質度の高い対応をしたからである。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2021年8月31日現在、パブメド(PubMed)で、モナ・ティルチェルヴァン(Mona Thiruchelvam)の論文を「Mona Thiruchelvam[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2012年の11年間の22論文がヒットした。

「Thiruchelvam M」で検索すると、1997~2012年の16年間の33論文がヒットした。

2021年8月31日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、本文で取り上げた「2005年のEnvironmental Health Perspective」論文・1論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2021年8月31日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでモナ・ティルチェルヴァン(Mona Thiruchelvam)を「Thiruchelvam, Mona」で検索すると、1論文が訂正後に撤回され、結局、計2論文が撤回されていた。

本記事で問題にした「2005年のEnvironmental Health Perspective」論文が2012年7月2日、「2005年のJ Biol Chem. 」論文が 2012年8月10日、に撤回された。

なお、「2005年のJ Biol Chem. 」論文は、2008年11月7日に一度訂正されている。

141222 profile-ER[1]訂正点は、共著者だったエリック・リッチフィールド(Eric K. Richfield、写真出典)が共著者から除かれたことだった。

記者が、リッチフィールドに共著者から除かれた理由を質問したが、「ノーコメント」だった。彼が公益通報者なのだろう。本記事では、彼を公益通報者とした。

★パブピア(PubPeer)

2021年8月31日現在、「パブピア(PubPeer)」で、モナ・ティルチェルヴァン(Mona Thiruchelvam)の論文のコメントを「Mona Thiruchelvam」で検索すると、1論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》ティルチェルヴァンはスケープゴート?

モナ・ティルチェルヴァン(Mona Thiruchelvam)の2005年の論文にデータねつ造があり、2010年に所属していたニュージャージー医科歯科大学・調査委員会が不正研究だと結論した。

ティルチェルヴァンの上司・コリー=シュレヒタ教授は論文の共著者である。

コリー=シュレヒタ教授はロチェスター大学に所属していた時、ティルチェルヴァンを院生として研究室に受け入れ、博士号を取得させ、その後、ポスドクとして雇用した。2003年にニュージャージー医科歯科大学に移籍する時もポスドクだったティルチェルヴァンを一緒に連れて行って助教授にした。

2007年、コリー=シュレヒタ教授は、ネカト発覚のゴタゴタのさなか、ニュージャージー医科歯科大学から古巣のロチェスター大学に転籍していった。

研究者の事件を追っていると、若手外国人がスケープゴートにされ、トカゲの尻尾のように切られ、地位の高い人は無傷に逃れていく事件を多く目にする。

コリー=シュレヒタ教授も不正研究に何らかの加担をしていた、あるいは、そういう環境を育成していたという責任があるのではないだろうか?

コリー=シュレヒタ教授は、ティルチェルヴァン研究室(コリー=シュレヒタ研究室の傘下? 隣接?)に細胞数を測定する設備がないことくらい百も承知だったハズだ。

2005年の共著論文の原稿を受け取った時、なぜ、「細胞数はどこで測定したの?」と聞かなかったのか?

コリー=シュレヒタ教授は、この事件に「ショックです。とても失望しました」とメディアに述べている。

だから、2007年にロチェスター大学に転籍した時、ティルチェルヴァンとの関係は完全に切れたのかと、思った。

ところが、不思議なことに、コリー=シュレヒタ教授は、事件が表面化した後、2007年にロチェスター大学に転籍した後も、ティルチェルヴァンと共著の論文を7報も発表している。2007年に3報、2008年に2報、2011年に1報、2012年に1報もある。

事件が表面化した後もティルチェルヴァンとコリー=シュレヒタ教授はつながっていたのである。2人の関係はどうなっているのだろう?

トカゲの尻尾切りをして悪かったと、過去を償っているのだろうか? イヤイヤ、人間、そんなに甘くない。もっと、利用できると思っていたんですね。

《2》公益通報者の重要性 

ティルチェルヴァンは、数えていない細胞数の数値データを「ねつ造」した。ティルチェルヴァン研究室に細胞数を測定する設備がないのはティルチェルヴァンに近い研究者でなければわからない。

以前、共同研究者が細胞数の測定を依頼され、測定した。それが、今度は測定を依頼されないのに細胞数のデータが載った論文が発表された。誰が測定したのだろうという疑念から「ねつ造」に気付いて、公益通報された。

これが発覚の発端である。内部からの公益通報がなければ、不正研究と気付くのはとても困難だったろう。

ネカト問題の解決に内部通報制度を充実させることは、トテモ、重要なんだけど、日本は全くと言っていいほど動きませんね。

《3》不正研究者の他の論文の信頼性 

ティルチェルヴァンの2005年の論文がねつ造とされたが、その2報だけにねつ造データを使ったのだろうか? その前後の論文は、どれも、同じ意図、つまりデータねつ造されたハズではないのか?

それなのに、問題視したのは公益通報された2報だけである。なんかヘンだ。

その3年前の2002年から2012年までの11年間にティルチェルヴァンは22論文を発表している。その内19論文が上司のコリー=シュレヒタ教授と共著である。これも、なんかヘンだ。

コリー=シュレヒタ教授は、ティルチェルヴァンの2005年の2報だけがおかしく、他の論文ではデータねつ造がないと、知っていたのか?

そうでないなら、一度、信頼を裏切った部下の他の研究論文をどういう理由で信頼しているのか?

データねつ造は細胞数だけではない。別の部分のデータもねつ造されているかもしれない。

事件が表面化した後でも、コリー=シュレヒタ教授はティルチェルヴァンと共著の論文を2007年に3報、2008年に2報、2011年に1報、2012年に1報出版している。これらに不正研究はないのだろうか?

ーーーーーーー
日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
ーーーーーー
ブログランキング参加しています。
1日1回、押してネ。↓

ーーーーーー

●9.【主要情報源】

①  研究公正局の報告:(1)2012年6月28日:Findings of Research Misconduct。(2)2012年6月28日の連邦官報:2012-15887.pdf 。(2A)2012年6月28日の連邦官報:Federal Register, Volume 77 Issue 125 (Thursday, June 28, 2012)(3)2012年7月号の米国・研究公正局:Printable。(4)2012年9月号の米国・研究公正局:ニュースレターp1
② 2012年7月2日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:ORI finds Parkinson’s-pesticides researcher guilty of faking data; two papers to be retracted – Retraction Watch at Retraction Watch
③◎2012年6月29日のヘイリー・ダニング(Hayley Dunning)の『科学者』誌(The Scientist)記事:Parkinson’s Researcher Fabricated Data | The Scientist MagazineR
④ 2009年?:RUTGERS EOHSI News Release

●コメント

注意:お名前は記載されたまま表示されます。誹謗中傷的なコメントは削除します