2021年10月22日掲載
ワンポイント:カワスは、ヨルダン出身で、米国のアティラ・ファーマ社(Athira Pharma)・社長になった。2011~2015年(30~34歳?)、米国のワシントン州立大学(Washington State University)の院生・ポスドク時代に出版した6報に、2021年6月(40歳?)、ネカト疑惑が生じた。直ぐ、ワシントン州立大学がネカト調査を始めた。株価は暴落し、カワスは休職。調査開始し4か月経過したが、まだ調査中と思われる。この騒動で時価総額が概算で240億円減ったので国民の損害額(推定)は240億円(大雑把)。
【追記】
・2023年7月28日記事:Dr. Leen Kawas – Fraud Exposed in Research Papers – Complaint Box
・2021年10月21日記事:カワスは辞任した:Leen Kawas officially out at Athira after investigation finds doctored research – Puget Sound Business Journal
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
リーン・カワス(Leen Kawas、Leen H Kawas、ORCID iD:?、写真出典)は、ヨルダン出身で、米国のワシントン州立大学(Washington State University)で院生・ポスドクをし、米国のアティラ・ファーマ社(Athira Pharma)・社長になった。専門は神経科学(医薬品開発)である。
2021年6月18日(40歳?)、ワシントン州立大学はカワスが同大学・ポスドク時代に出版した論文のネカト調査を始めたと発表した。
ネカト疑惑の発端は、「パブピア(PubPeer)」の指摘だった。2011~2015年(30~34歳?)に出版した6報が「パブピア(PubPeer)」で疑惑視された。
アティラ・ファーマ社は社員約22人のバイオ・ベンチャー企業だが、アルツハイマー病やパーキンソン病の治療薬の開発で、急成長を遂げていた。
ネカト調査の発表の前日、アティラ・ファーマ社の株価は暴落した。この騒動でアティラ・ファーマ社は時価総額が概算で240億円減った。
カワスは直ちにアティラ・ファーマ社の社長を休職した。
2021年10月21日現在、ネカト発覚から4か月が経過した。
ワシントン州立大学はネカト調査結果を発表していない。研究公正局が掌握するネカト事件になるのかどうか不明である。
アティラ・ファーマ社(Athira Pharma)。Athira Pharma, 18706 North Creek Parkway, Suite 104, Bothell, WA 98011。写真出典。住所からグーグルマップで白楽が作成
- 国:米国
- 成長国:ヨルダン
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:ヨルダン大学と米国のワシントン州立大学
- 男女:女性
- 生年月日:不明。仮に1981年1月1日生まれとする。2008年に研究博士号(PhD)を取得した時を27歳とした
- 現在の年齢:43 歳?
- 分野:神経科学
- 疑惑論文発表:2011~2015年(30~34歳?)の5年間
- 発覚年:2021年(40歳?)
- 発覚時地位:アティラ・ファーマ社・社長
- ステップ1(発覚):第一次追及者(詳細不明)がパブピアに公益通報
- ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」、多数のビジネス関連メディア
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ワシントン州立大学・調査委員会は調査中
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査中
- 大学の透明性:調査中(ー)。
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正疑惑論文数: 2011~2015年(30~34歳?)に出版した6報。4論文が懸念表明。撤回論文はない
- 時期:研究キャリアの中期
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を休職(▽)
- 処分:
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:この騒動で、アティラ・ファーマ社の時価総額が概算で240億円減ったので240億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:不明。仮に1981年1月1日生まれとする。2008年に研究博士号(PhD)を取得した時を27歳とした
- 2003 – 2008年(22 – 27歳?):ヨルダンのヨルダン大学(University of Jordan)で研究博士号(PhD)を取得:薬学・化学
- 2008 – 2011年(27 – 30歳?):米国のワシントン州立大学(Washington State University)で研究博士号(PhD)を取得:分子薬理学・毒物学
- 2011年8月 – 2014年1月(30 – 33歳?):アティラ・ファーマ社(Athira Pharma)・研究担当副社長
- 2013年1月 – 2015年2月(32 – 34歳?):米国のワシントン州立大学(Washington State University)・ポスドク
- 2014– 2015年(33 – 34歳?):米国のワシントン大学(University of Washington)・フォスター経営学大学院(Foster School of Business)で経営者教育号を取得
- 2014年1月 – 2021年6月(33 – 40歳?):アティラ・ファーマ社(Athira Pharma)・社長
- 2021年6月(40歳?):ワシントン州立大学・ポスドク時代の論文にネカト発覚
- 2021年6月(40歳?):アティラ・ファーマ社(Athira Pharma)・休職
●3.【動画】
以下は事件の動画ではない。
【動画1】
討論動画:「Millennials: Growing Up Tech at the GeekWire Summit 2016 – YouTube」(英語)38分25秒。
GeekWireが2016/10/15に公開
【動画2】
「リーン・カワス」と紹介。
インタビュー動画:「Leen Kawas (M3 Biotechnologies) at the 2017 BIO International Convention – YouTube」(英語)1分53秒。
Biotechnology Innovation Organizationが2017/06/23に公開
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★優れた若手起業家
2011年3月、アティラ・ファーマ社(Athira Pharma Inc)が設立された(最初の名前はM3 Biotechnology)。ロゴ出典はhttps://www.athira.com/。
日本語の企業情報「アティラ・ファーマ【ATHA】:企業情報/株価 – Yahoo!ファイナンス」によると、従業員は22人で、以下の説明がある。
概要 アティラ・ファーマは米国のバイオテクノロジー企業。アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患の治療薬の開発に従事する。独自の「ATH」プラットフォームを応用して、特定の自然に発生する修復メカニズムを促進する低分子治療法に焦点を当てる。主要候補薬の「ATH-1017」は重要な修復経路のHGF/METを標的とする。本社所在地はワシントン州シアトル。
アティラ・ファーマ社(Athira Pharma Inc)の以下の集合写真(出典)はほぼ全従業員なのだろう。
アティラ・ファーマ社は社員約22人のバイオ・ベンチャー企業だが、アルツハイマー病やパーキンソン病の治療薬の開発で、急成長を遂げていた。
→ 2020年8月26日記事:Seattle’s Athira Pharma files for IPO to fund quest for Alzheimer’s and Parkinson’s breakthroughs – GeekWire
→ 2020年9月21日記事: WSU research behind potential game-changing Alzheimer’s drug – WSU Insider
★発覚の経緯
2021年6月18日(40歳?)、ワシントン州立大学はリーン・カワス(Leen Kawas)が同大学・ポスドク時代に出版した論文のネカト調査を始めたと発表した。
発端は、「パブピア(PubPeer)」がデータの異常を指摘し、大学に調査を依頼したためと思われる。データ異常を指摘した人の中に、ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)もいた。
2011~2015年(30~34歳?)、米国のワシントン州立大学(Washington State University)の院生・ポスドク時代に出版した6報にネカト疑惑が生じた。
疑惑6論文を次節で全部リストするが、指導教授であるジョセフ・ハーディング(Joseph Harding、Joe Harding、上の写真右:WASHINGTON STATE UNIVERSITY PHOTO SERVICES、出典)が全部共著者に入っていた。
2021年10月21日(40歳?)現在、ネカト調査から4か月が経過したが、ワシントン州立大学は調査結果を発表していない。調査中と思われる。
ウ~ン、記事を書くのが早すぎた。
★株価の暴落
2020年、アティラ・ファーマ社は株式を公開している。
アルツハイマー病治療薬(Alzheimer’s disease therapy)の開発が注目を浴び、2億400万ドル(約204億円)の収益を上げ、2020年のバイオテクノロジー新規上場株式のトップ30に入った。
2021年6月17日(木曜日)、ワシントン州立大学がカワスのネカト調査をすると正式に発表した前日、このニュースが株式市場に流れ、東部標準時午前10時50分時点で同社の株式は44%下落し、1株あたり10.79ドルになった。その後、下落したままの株価が続いている(出典:アティラ・ファーマ【ATHA】:チャート/株価 – Yahoo!ファイナンスの211020保存版)。
この騒動でアティラ・ファーマ社の時価総額は概算で240億円減った。
アティラ・ファーマ社・理事長の“ターチ”・ヤマダ(Tachi Yamada, MD、山田忠孝 – Wikipedia)は、次のように述べている。
アティラ・ファーマ社は研究公正を遵守しております。アルツハイマー病治療薬・ATH-1017は、アティラ・ファーマ社内で発見した科学データに基づいて開発し、特許が取得されました。当社は、認知症の治療におけるATH-1017の治療の可能性に自信を持っています。(出典:【主要情報源】①)
●【ねつ造・改ざんの具体例】
★疑惑6論文
パブピアでコメントがある疑惑論文は2011~2015年発表の以下の6論文である。このリストのあとに1報だけ疑惑点を具体的に示す。
- 懸念表明:Mimics of the dimerization domain of hepatocyte growth factor exhibit anti-Met and anticancer activity.
Kawas LH, Yamamoto BJ, Wright JW, Harding JW.
J Pharmacol Exp Ther. 2011 Nov;339(2):509-18. doi: 10.1124/jpet.111.185694. Epub 2011 Aug 22. - 懸念表明:Development of angiotensin IV analogs as hepatocyte growth factor/Met modifiers.J Pharmacol Exp Ther. 2012 Mar;340(3):539-48. doi: 10.1124/jpet.111.188136. Epub 2011 Nov 30.
- 懸念表明:Evaluation of metabolically stabilized angiotensin IV analogs as procognitive/antidementia agents.
McCoy AT, Benoist CC, Wright JW, Kawas LH, Bule-Ghogare JM, Zhu M, Appleyard SM, Wayman GA, Harding JW.
J Pharmacol Exp Ther. 2013 Jan;344(1):141-54. doi: 10.1124/jpet.112.199497. Epub 2012 Oct 10. - Nanoscale mapping of the Met receptor on hippocampal neurons by AFM and confocal microscopy.
Kawas LH, Benoist CC, Harding JW, Wayman GA, Abu-Lail NI.
Nanomedicine. 2013 Apr;9(3):428-38. doi: 10.1016/j.nano.2012.08.008. Epub 2012 Sep 7. - 懸念表明:The procognitive and synaptogenic effects of angiotensin IV-derived peptides are dependent on activation of the hepatocyte growth factor/c-met system.
Benoist CC, Kawas LH, Zhu M, Tyson KA, Stillmaker L, Appleyard SM, Wright JW, Wayman GA, Harding JW.
J Pharmacol Exp Ther. 2014 Nov;351(2):390-402. doi: 10.1124/jpet.114.218735. Epub 2014 Sep 3. - Hepatocyte growth factor mimetic protects lateral line hair cells from aminoglycoside exposure.
Uribe PM, Kawas LH, Harding JW, Coffin AB.
Front Cell Neurosci. 2015 Jan 28;9:3. doi: 10.3389/fncel.2015.00003. eCollection 2015.
★「2013年4月のNanomedicine」論文
カワスが第一著者の「2013年4月のNanomedicine」論文の書誌情報を以下に示す。2021年10月21日現在、懸念表明されていない、撤回されていない。
- Nanoscale mapping of the Met receptor on hippocampal neurons by AFM and confocal microscopy..
Kawas LH, Benoist CC, Harding JW, Wayman GA, Abu-Lail NI.
Nanomedicine. 2013 Apr;9(3):428-38. doi: 10.1016/j.nano.2012.08.008. Epub 2012 Sep 7.
パブピアが、図4と図2Dに画像の重複使用があると指摘した。
以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/36F84FDB31C718C8CF8F52C717D15C
図4。電気泳動バンド(あるいはブロット)を切り取って貼り付けた。分析した画像をよく見ると、背景に切り取り跡がついている。明確なねつ造データだ。
図2D。なんでこの箇所に画像をコピペをしたのか、意図が不明だが、3か所、同じ画像がある。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2021年10月21日現在、パブメド(PubMed)で、リーン・カワス(Leen Kawas)の論文を「Leen Kawas[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2011~2020年の10年間の11論文がヒットした。
2021年10月21日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。
★撤回監視データベース
2021年10月21日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでリーン・カワス(Leen Kawas)を「Kawas」で検索すると、 4論文が懸念表明、0論文が撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2021年10月21日現在、「パブピア(PubPeer)」では、リーン・カワス(Leen Kawas)の論文のコメントを「Leen Kawas」で検索すると、2011~2015年(30~34歳?)に出版した6論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》企業の行方、カワスの行方
アティラ・ファーマ社(Athira Pharma)の開発医薬品にデータねつ造・改ざんが見つかったわけではない。
しかし、リーン・カワス社長(Leen Kawas)がワシントン州立大学の院生・ポスドクだった時の論文にデータねつ造・改ざんの疑惑が生じたのだ。2011~2015年(30~34歳?)の論文だから、今から6~10年前である。
現在、ワシントン州立大学がネカト調査中だが、パブピアの指摘を見れば、クロだろう。
ネカト疑惑公表の時点で、企業の信用を失い、アティラ・ファーマ社の時価総額は概算で240億円減った。大損害である。
つまり、現在、アティラ・ファーマ社が開発し、有望視されていたアルツハイマー病やパーキンソン病の治療薬は信頼を失った、ということだ。
ワシントン州立大学がネカトと結論すると、カワス社長の博士論文も含まれるだろうから、博士号剥奪になる公算が高い。カワスはビジネス界で再起できるだろうか。
一方、アティラ・ファーマ社はカワスを排除して(それとも、カワスをトップに据えたまま)、なんとか、苦境をカワスかもしれない(おやじギャグでした)。
2021年9月29日、アティラ・ファーマ社は、軽度の肝細胞増殖因子(HGF)とその受容体METの活性を高める新規小分子治療薬 ATH-1017 の第2相および第2/3相臨床試験の結果を、2021年11月9日~12日にボストンで開催されるアルツハイマー病臨床試験会議(2021 Clinical Trials on Alzheimer’s Disease (CTAD)conference)で発表する、と伝えた。 → 2021年9月29日記事:Athira Pharma to Present Updates from Phase 2/3 Trials of ATH-1017 at the 2021 Clinical Trials on Alzheimer’s Disease (CTAD) Conference | Athira Pharma
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●9.【主要情報源】
① 2021年6月15日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ記事:How to cure all diseases – For Better Science
② 2021年6月17日の「Athira Pharma」記事:Athira Pharma Chief Operating Officer, Mark Litton, Assumes
③ 2021年6月18日のカイル・ラフチク(Kyle LaHucik)記者の「fierce biotech」記事:Athira CEO placed on temporary leave following allegations she altered doctoral research images | FierceBiotech
④ Search Results for “leen kawas” – GeekWire
⑤ 2021年9月24日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Four papers by Athira CEO earn expressions of concern – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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