オラツィオ・スキッラーチ(Orazio Schillaci)(イタリア)

2023年10月25日掲載

ワンポイント:スキッラーチは、2022年10月22日(56歳)、イタリアの保健大臣に就任した。それ以前は、2001年(35歳)から21年間、ローマ・トル・ヴェルガータ大学(Tor Vergata University of Rome)の準教授・教授・学部長・学長だった。2023年9月(57歳)、イタリアの新聞「イル・マニフェスト(Il Manifesto)」のアンドレア・カポッチ(Andrea Capocci)記者とネカトハンターのエリザベス・ビックが、スキッラーチの2018~2022年の8論文に重複画像があると指摘した。ネカト発覚後まだ1か月なので、事態がどう動くのか不明である。大学は調査を開始していない。スキッラーチは、保健大臣職を維持している。国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

オラツィオ・スキッラーチ(Orazio Schillaci、写真出典)は、2022年10月22日(56歳)、イタリアの保健大臣に就任した。その前は、ローマ・トル・ヴェルガータ大学(Tor Vergata University of Rome)の準教授・教授・学部長・学長だった。医師免許を持ち、専門は核医学である。

2023年9月(57歳)、イタリアの新聞「イル・マニフェスト(Il Manifesto)」のアンドレア・カポッチ(Andrea Capocci)記者とネカトハンターのエリザベス・ビックが、スキッラーチの2018~2022年の8論文に重複画像があると指摘した。

ローマ・トル・ヴェルガータ大学はネカト調査を開始していない。

2023年10月24日現在、スキッラーチは、保健大臣職を維持している。

ネカト発覚後まだ1か月なので、事態がどう動くのか不明である。ローマ・トル・ヴェルガータ大学(Tor Vergata University of Rome、イタリア語:Universita di Roma “Tor Vergata”)。これは建設予定? 広大な原野に超斬新な建物。写真出典

ローマ・トル・ヴェルガータ大学(Tor Vergata University of Rome、イタリア語:Universita di Roma “Tor Vergata”)。2018年建設の超斬新な建物。写真By Nericci – Own work, CC BY-SA 4.0,出典

  • 国:イタリア
  • 成長国:イタリア
  • 医師免許(MD)取得:ローマ・ラ・サピエンツァ大学
  • 研究博士号(PhD)取得:ローマ・ラ・サピエンツァ大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:1966年4月27日
  • 現在の年齢:58 歳
  • 分野:核医学
  • 不正論文発表:2018~2022年(52~56歳)の5年間
  • ネカト行為時の地位:ローマ・トル・ヴェルガータ大学・医学部長、同・学長
  • 発覚年:2023年(57歳)
  • 発覚時地位:保健大臣
  • ステップ1(発覚):①第一次追及者はイタリアの新聞「イル・マニフェスト(Il Manifesto)」のアンドレア・カポッチ(Andrea Capocci)記者で、新聞で発表。②ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)がパブピアで指摘
  • ステップ2(メディア):「Il Manifesto」、「パブピア(PubPeer)」、「Science」、「EL PAIS English」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ローマ・ラ・サピエンツァ大学は調査するのかどうか不明
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:調査していない、発表なし・隠蔽(✖)
  • 不正:ねつ造
  • 不正疑惑論文数:8報
  • 時期:研究キャリアの後期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:Orazio Schillaci CV保存版

  • 1966年4月27日:イタリアのローマで生まれる
  • 1990年(24歳):ローマ・ラ・サピエンツァ大学(Sapienza University of Rome、イタリア語:Universita di Roma “La Sapienza”)で学士号取得:外科学
  • 2000年(34歳):同大学で研究博士号(PhD)を取得:核医学
  • 2001~2006年(35~40歳):ローマ・トル・ヴェルガータ大学(Tor Vergata University of Rome、イタリア語:Universita di Roma “Tor Vergata”)・準教授
  • 2013年(47歳):同大学・医学部長
  • 2018~2022年(52~56歳):後で問題視される論文を発表
  • 2019年(53歳):同大学・学長
  • 2022年10月22日(56歳):保健大臣
  • 2023年9月14日(57歳):不正が発覚
  • 2023年10月24日(57歳)現在:保健大臣職を維持

●3.【動画】

保健大臣なので、動画はそれなりに公開されている。
以下は事件の動画ではない。

【動画1】
ローマで開催された「職業とヘルスケア」イベントでのインタビュー動画:「Orazio Schillaci, a margine dell’evento “Professioni & Sanità”, organizzato a Roma- YouTube」(イタリア語)0分32秒。
Sanità33(チャンネル登録者数 240人)が2023/04/05 に公開

 

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★研究人生

オラツィオ・スキッラーチ(Orazio Schillaci)は医師で、核医学の博士号を取得している。

2001年(35歳)、ローマ・トル・ヴェルガータ大学(Tor Vergata University of Rome)の準教授に就任し、その後、教授・学部長・学長と昇進した。ローマ・トル・ヴェルガータ大学に21年間勤務している。

今回問題になった論文は、この時の論文で、2018~2022年に発表した論文である。

2022年10月22日(56歳)、イタリア初の女性首相になったメローニ首相に指名され、スキッラーチは保健大臣に就任した。

保健大臣なのでウェブ上に写真はたくさんある:以下出典:Orazio Schillaci – Google Search

これじゃ、多すぎて、見えないですね。1~2段の左上だけ以下に示そう。

これで。顔が認識できる。

★発覚の経緯

オラツィオ・スキッラーチ(Orazio Schillaci)は、2013年にローマ・トル・ヴェルガータ大学(Tor Vergata University of Rome)医学部長、2019年に学長に就任した。

スキッラーチは、論文を多作し、科学文献データベースのスコーパス(Scopus)で調べると、400報以上の論文を出版していた。 → Schillaci, Orazio – 著者詳細 – Scopus Preview

ここ数年間、平均すると、12日間に1論文を発表していた。2022年にイタリア政府の保健大臣に就任した後も、多くの論文を出版し続けている。

スキッラーチが論文を多作していたことで、イタリアの新聞「イル・マニフェスト(Il Manifesto)」のアンドレア・カポッチ(Andrea Capocci)記者(写真出典)は、スキッラーチの論文の質を、ネカトの視点からチェックしようと考えた。

具体的には、「 ImageTwin 」というソフトウェアを使って、スキッラーチの論文の画像に問題が無いかをチェックした。

すると、8論文に重複画像が見つかった。

以下は「 ImageTwin 」の説明動画。

★報道

2023年9月14日(57歳)、アンドレア・カポッチ(Andrea Capocci)記者は、オラツィオ・スキッラーチ(Orazio Schillaci)の2018~2022年の8報の論文に重複画像があった、とイタリアの新聞「イル・マニフェスト(Il Manifesto)」で報道した(以下)。

2023年9月14日のアンドレア・カポッチ(Andrea Capocci)記者の「Il Manifesto」記事:Immagini truccate e ricerche riciclate. A firmarle e Schillaci | il manifesto

異なる組織や異なるがん細胞なのに同じ画像が使用され、異なる患者の細胞なのに同じ画像が使用されていた。つまり、重複画像というデータねつ造である。

出典:https://ilmanifesto.it/edizioni/il-manifesto/il-manifesto-del-14-settembre-2023/pdf

不正が指摘された時、スキッラーチは保健大臣だったが、不正論文を出版時はローマ・トル・ヴェルガータ大学の学部長・学長だった。

しかし、スキッラーチは不正をしていないと、主張した。

スキッラーチは問題の8論文の内4論文で連絡著者(責任著者)である。

ただ、スキッラーチ以外に3人の研究者が8論文すべての共著者になっていた。

有名なネカトハンターの以下は、ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik、写真出典)は、重複画像に疑いの余地はないとした。

この重複画像は、少なくとも「ズサン」なので、論文の他の実験結果も「ズサン」の可能性があり、論文全体が信用できない。

また、重複画像は論文の論旨に沿っているので、意図的な不正の可能性が高い、と指摘した。

オーストラリアのシドニー大学・教授(分子腫瘍学)のジェニファー・バーン(Jennifer Byrne、、写真左出典)も、重複画像は正当な実験結果の提示ではないと指摘した。

ただ、画像公正のコンサルタント会社である「Image Data Integrity」社のマイク・ロスナー社長(Mike Rossner)は、「作成者がその図のパネルを作る時、間違ったファイルを使った可能性があります」と、重複画像は不注意による可能性がある、と慎重な発言をした。

ジェニファー・バーン教授は、しかし、たとえそれが単純なエラーだったとしても、「特定のグループが同じエラーを繰り返している場合、そのグループのデータ処理プロセスに欠陥があったことを示している」と述べた。

エリザベス・ビックは、スキッラーチの多くの論文に不正な重複画像があるので、大学はネカト調査をすべきだと、と指摘した。

英国の研究倫理学者・ダニエル・ファネーリ(Daniele Fanelli、写真出典)は、「今回の事件では、独立したネカト調査委員会が絶対に必要です。評判の高い大学がすべきことは、利益相反のない独立した調査委員会がネカト調査をし、必要に応じてペナルティを科すことです」とエリザベス・ビックの意見に同意した。

「サイエンス」誌がローマ・トル・ヴェルガータ大学にコメントを要請したが、ノーコメントだった。

誰が複製画像を作ったのかは不明のままである。

しかし、実際に論文をまとめた人は、誰が、その画像を作ったのか知っているハズだ。

【ねつ造・改ざんの具体例】

「パブピア(PubPeer)」では、オラツィオ・スキッラーチ(Orazio Schillaci)の論文のコメントを「Orazio Schillaci」で検索すると、7論文にコメントがあった。

どれも撤回されていない。

4論文を選んで、エリザベス・ビックが指摘した異常部分を以下に示す。論文の詳細な書誌情報は略記した。

―――――――以下は「Journal of Clinical Medicine (2019)」論文―――

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/CF872068A8F63AA7A1C2B3DC616118

2023年9月、ネカトハンターのエリザベス・ビックが、図2に重複画像がある(赤色枠)と指摘した。また、2018年のスキッラーチの論文に使用した図(紫色枠)を再使用していると指摘した。

――――以下は「International Journal of Molecular Sciences (2019)」論文―――

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/48D61F42D7A9895D3309884F5FA56A

2023年9月、ネカトハンターのエリザベス・ビックが、図6の1部は、2018年のスキッラーチの論文に使用した図(赤色枠)を再使用していると指摘した。

―――――――以下は「Applied Sciences (2021)」論文―――

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/22B3834679BACC60FE07FA4D3F9B35

2023年9月、ネカトハンターのエリザベス・ビックが、図2の同色枠は同じ画像で、画像の使いまわしていると指摘した。

―――――――以下は「Journal of Clinical Medicine (2021)」論文―――

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/9143E2ADE131335AC6F5C007C52F5C

2023年9月、ネカトハンターのエリザベス・ビックが、図4Eの青色枠、2019年のスキッラーチの論文に使用した図を再使用していると指摘した。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

データベースに直接リンクしているので、記事を閲覧した時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えていると思います。

★パブメド(PubMed)

2023年10月24日現在、パブメド(PubMed)で、オラツィオ・スキッラーチ(Orazio Schillaci)の論文を「Orazio Schillaci [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2023年の22年間の312論文がヒットした。

2023年10月24日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2023年10月24日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでオラツィオ・スキッラーチ(Orazio Schillaci)を「Orazio Schillaci」で検索すると、0論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2023年10月24日現在、「パブピア(PubPeer)」では、オラツィオ・スキッラーチ(Orazio Schillaci)の論文のコメントを「Orazio Schillaci」で検索すると、7論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》イタリア 

白楽は約1,000件の外国のネカト事件を解説してきたが、欧州各国はおおむね米国よりネカトへの対処・処罰が甘い。その中でもイタリアは特に甘い。

オラツィオ・スキッラーチ(Orazio Schillaci)は大学の学長だった人で、現在、保健大臣である。ということは、イタリア国民の模範であるべき人だ。その人がネカト疑惑論文を出版していて、その行為に恥じない。

こういう国だと、研究倫理は、なかなか大変である。

とはいえ、オラツィオ・スキッラーチ(Orazio Schillaci)のデータねつ造疑惑は、顔写真入りで、新聞の1面にデカデカと掲載された。

日本のメディアでは、とてもできない力強い報道だ。外国のネカト事件を調べていると、日本のメディアは、国民に情報を伝えない点で、異常だと感じる。

「When(いつ)」「Where(どこで)」「Who(だれが)」「What(なにを)」「Why(なぜ)」「How(どのように)」の「5W1H」は報道の基本ではなかったのか?

 

オラツィオ・スキッラーチ(Orazio Schillaci)。2023年9月14日のイタリアの新聞「イル・マニフェスト(Il Manifesto)」の一面。出典:https://ilmanifesto.it/edizioni/il-manifesto/il-manifesto-del-14-settembre-2023/pdf

《2》どうする・どうなる?

今回の重複画像を見ていると、オラツィオ・スキッラーチ(Orazio Schillaci)本人がネカト犯とは思いにくい。共著者の誰かがネカト犯だろう。

スキッラーチを共著者にすることで、昇進や研究助成を受けやすいと考え、ギフトオーサーでスキッラーチを共著者にしたのだろうが、そのギフトに毒が入っていたということだ。

今回のネカト発覚を受けて、少なくとも、スキッラーチは保健大臣をやめるべきだろう。

なお、大学がネカト調査するのか、しないのか、調査しても、まともな調査なのか、不正調査なのか? 白楽は注視してる。

発覚から1か月が経った。しかし、何も動きがない。

曖昧なまま、過ぎ去ったことにしようとしているのか?

どうなるのだろう?

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●9.【主要情報源】

① 2022年11月2日の「ヴィズマーラ恵子」記者の「ニューズウィーク日本版」記事:イタリア政治体制内閣(全大臣のプロフィール紹介)|イタリア事情斜め読み
② ウィキペディア英語版:Orazio Schillaci – Wikipedia
③ 2023年9月14日のアンドレア・カポッチ(Andrea Capocci)記者の「Il Manifesto」記事:Immagini truccate e ricerche riciclate. A firmarle e Schillaci | il manifesto
④ ◎2023年9月14日のミケーレ・カタンツァーロ(Michele Catanzaro)記者の「Science」記事:Possible misconduct found in papers from Italian minister of health | Science | AAAS
⑤ 2023年9月15日のシャノン・ベイリー(Shannon Bailey)記者の「Hardwood Paroxysm」記事:The science that cheats papers: Why the Schillaci “case” reopens a case that was never closed
⑥ 2023年9月18日のルカ・タンクレディ・バローネ(Luca Tancredi Barone)記者の「EL PAIS English」記事:Orazio Schillaci: Italy’s health minister under scrutiny over his scientific studies on cancer | International | EL PAIS English
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