心理学:ケン・ウィンターズ(Ken Winters)(米)

2020年11月26日掲載 

ワンポイント:ウィンターズはミネソタ大学(University of Minnesota)・教授で青年期の薬物乱用を研究していた。この種の研究では、患者が薬物犯罪に巻き込まれる恐れがある。それで、NIHは助成金受領者に「機密保持証明書(Certificate of Confidentiality)」を発行している。2015年(62歳)、ウィンターズは発行を待ちきれず、自分で書類を作り、NIH担当官のサインをし、大学に提出した。この書類ねつ造がバレ、同年、大学を退職した。大学からの処分なし。刑事事件になっていない。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ケン・ウィンターズ(Ken Winters、Ken C. Winters、ORCID iD:?、写真出典)は、米国のミネソタ大学(University of Minnesota)・教授で、専門は心理学(青年期の薬物乱用やギャンブル依存症などの中毒の評価と治療)である。この分野の著名な研究者である。

ウィンターズはNIHのグラントを得ていたことから、ウィンターズ事件は生命科学の枠にもリストした。

日本語に翻訳されていないが、編著書に『青年期の薬物乱用治療の臨床マニュアル(Clinical Manual of Adolescent Substance Abuse Treatment)』(2010年)、『現代のマリファナ健康問題Contemporary Health Issues on Marijuana』(2018年)、など数冊ある(本の表紙出典はアマゾン)。

2015年(62歳)、ウィンターズは、違法薬物を服用している10代の若者に関する新しい研究(NIH助成研究)を進める必要があったが、研究は遅れていた。しかし、ウィンターズはNIH・国立薬物乱用研究所(National Institute on Drug Abuse)からまだ「機密保持証明書(Certificate of Confidentiality)」をもらっていなかった。

「機密保持証明書(Certificate of Confidentiality)」は、研究対象者(麻薬中毒者など)の個人生活など機密性の高い情報を研究と関係ない人に開示することを禁止し、研究対象者(麻薬中毒者など)のプライバシーを保護する証明書である。研究対象者が違法行為で逮捕・召喚されたとしても、患者の情報を警察などに開示する必要がないという書類である。NIHの研究助成を受けた研究者には、助成金交付通じて自動的に機密保持証明書が発行される。

ウィンターズは発行が待ちきれず、自分で書類を作り、NIH担当官のサインをし、大学に提出した。この、書類ねつ造がバレ、同年、大学を退職した。

ミネソタ大学(University of Minnesota)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校
  • 男女:男性
  • 生年月日:1953年3月31日
  • 現在の年齢:68 歳
  • 分野:心理学
  • 不正発表:2015年(62歳)
  • 発覚年:2015年(62歳)
  • 発覚時地位:ミネソタ大学・教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は研究室のスタッフで、大学に公益通報
  • ステップ2(メディア):「FOX 9 Minneapolis-St. Paul」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ミネソタ大学・調査委員会。②研究公正局?
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)
  • 不正:「機密保持証明書(Certificate of Confidentiality)」のねつ造
  • 不正数:1回
  • 時期:研究キャリアの後期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分:退職
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

  • 1953年3月31日:米国で生まれる
  • 1975年(22歳)?:ミネソタ大学(University of Minnesota)で学士号取得:文学
  • 1980年(27歳)?:ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校(State University of New York at Stony Brook)で研究博士号(PhD)を取得:心理学(臨床)
  • 19xx年(xx歳):ミネソタ大学(University of Minnesota)・教授
  • 1992年(39歳):ミネソタ大学(University of Minnesota)・青年期薬物乱用研究センター(Center for Adolescent Substance Abuse Research)・設立
  • 2015年(62歳):書類(機密保持証明書)をねつ造。そして、発覚
  • 2015年7月(62歳):ミネソタ大学・退職(retired)
  • 2015年(62歳):オレゴン研究所(Oregon Research Institute)・上級研究員、ミネソタ大学・非常勤教授

受賞

  • 2008 recipient of the Research to Evidence-Based Practice Award from a national organization on effective treatment for adolescents (JMATE)
  • 2005 the Senior Investigator Award by the National Center for Responsible Gaming (NCRG).

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
講演動画:「CLEAN Recovery Speaker Series: Ken Winters, Ph.D – YouTube」(英語)1時間9分3秒。
The College of St. Scholasticaが2014/03/12に公開

【動画2】
英語が上手い!(当然?)。Webinar講演動画:「Ken C. Winters | Adolescent Brain Development (ISSUP Expert Days) – YouTube」(英語)1時間4分59秒。
ISSUPが2020/02/20 に公開
以下のURLをクリック。

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★優秀な研究者

ケン・ウィンターズ(Ken Winters)は1990~2014年の25年間に70件のグラントを取得したとても優秀な研究者である(Grantome: Search)。以下に2013~2014年の6件を示す。

★発覚の経緯

2015年(62歳)、ウィンターズは、違法薬物を服用している10代の若者に関する新しい研究(NIH助成研究)を進める必要があったが、研究は遅れていた。しかし、ウィンターズはNIH・国立薬物乱用研究所(National Institute on Drug Abuse)からまだ「機密保持証明書(Certificate of Confidentiality)」をもらっていなかった。

「機密保持証明書(Certificate of Confidentiality)」は、研究対象者(麻薬中毒者など)の個人生活など機密性の高い情報を研究と関係ない人に開示することを禁止し、研究対象者(麻薬中毒者など)のプライバシーを保護する証明書である。研究対象者が違法行為で逮捕・召喚されたとしても、患者の情報を警察などに開示する必要がないという書類である。NIHの研究助成を受けた研究者には、助成金交付通じて自動的に機密保持証明書が発行される。 → What is a Certificate of Confidentiality? | grants.nih.gov

以下は機密保持証明書(Certificate of Confidentiality)の2頁目の冒頭部分(出典:同)。本事件とは関係ない研究者への証明書だが、参考になるだろう。全文は3頁 → https://www.niehs.nih.gov/research/atniehs/labs/epi/studies/gulfstudy/protocol/gulf_study_certificate_of_confidentiality_508.pdf

この機密保持証明書(Certificate of Confidentiality)の最後に、発行した職員の名前と署名が以下のように記載される。

ウィンターズは機密保持証明書が送付されてくるのを待つのにうんざりしていた。

そこで彼はその証明書をねつ造し、NIH・国立薬物乱用研究所・職員の名前を署名し、大学の審査委員会に提出し、彼の研究にゴーサインを出してもらおうとした。

どうしてねつ造書類とバレたのか?

ミネソタ大学(University of Minnesota)は発覚の経緯を発表していないが、ウィンターズ研究室のスタッフがねつ造書類ではないかと疑ったらしい。スタッフがこの書類のことで、ウィンターズと大騒動になったとある。

ミネソタ大学は、「問題の研究は開始されておらず、さらに問題が発覚した時点で研究は承認されていませんでした。患者の安全が損なわれることはありませんでした。また、新しい治療法や治療法を開発するために大学で行なっている科学的研究に対する脅威もありませんでした」とミネソタ大学は声明を発表した。

2015年7月末(62歳)、ウィンターズは自主的に退職した。解雇ではない。

ウィンターズに過ちの責任を負わせたくないという大学の温かい配慮が働いた、とネカトウオチャーは深読みした。

【ねつ造・改ざんの具体例】

NIH・国立薬物乱用研究所が発行する機密保持証明書(Certificate of Confidentiality)をねつ造した。具体的にはNIH・職員の名前を自分で署名するというねつ造である。既に例示したので再掲しない。

論文のデータねつ造ではない。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2020年11月25日現在、パブメド( PubMed )で、ケン・ウィンターズ(Ken Winters)の論文を「Ken Winters [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、1999~2020年の22年間の108論文がヒットした。

「Winters KC」で検索すると、1981~2020年の40年間の132論文がヒットした。

2020年11月25日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2020年11月25日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでケン・ウィンターズ(Ken Winters)を「Ken Winters」で検索すると、 0論文が訂正、0論文が懸念表明、0論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2020年11月25日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ケン・ウィンターズ(Ken Winters)の論文のコメントを「Ken Winters」で検索すると、10論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》他人のサイン 

公式書類の署名をねつ造した事件である。マー、なんというか、研究上の不正と言えば不正だが、研究結果には何も影響しない。著作権も侵害しない。従来の「ねつ造・改ざん・盗用」とはタイプが異なる。

このタイプのねつ造事件は白楽ブログで初めて記事にした。

そういえば、昔、白楽がNIHポスドクだった時、アジア系の秘書が研究室にきて、ボスと書類の話をしていた。ボスに「アナタはなんて面倒なの。いいわよ、私がサインするから」と他人のサインをしていた。どんな書類だったか忘れたが、その秘書は日常的に他人のサインをしていたようだった。そうでなければ、事務的仕事が進まないということだったのだろう。

「機密保持証明書(Certificate of Confidentiality)」が重要な書類ではあるが、研究助成者には自動的に送付される。それが遅いからと、ケン・ウィンターズ(Ken Winters)は他人のサインをして書類をねつ造した。

これは大学を退職するほどの事件なのだろうか?

規則違反ではあるが、実害はまったくないし、チョッとやり過ぎの気がする。

さて、日本に置き換えると、サインは捺印と同等だ。研究者が他人のハンコを押す行為は多いのか少ないのか?

秘書はボスの暗黙の了解下に、多くの書類にポンポンと捺印しているだろう。

日本は押印廃止を叫び始めたが、本人確認をどうするのだろう?

サインに切り替える? サインが本人確認手段なら、簡素化ともデジタル化とも関係ない。日本のサインで本人確認できるのは確かだろうか?

秘書がボスの代わりに押印するのと同じで、代理でサインすることになるのだろうか?

http://www.citypages.com/news/u-of-m-professor-ken-winters-caught-forging-research-document-7500290

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●9.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:Ken Winters – Wikipedia
② 2015年7月15日の「FOX 9 Minneapolis-St. Paul」記事:Another ethics scandal for the University of Minnesota Dept. of Psychiatry
③ 2015年7月16日のジェフ・バイロン(Jeff Baillon)記者の「FOX 9 Minneapolis-St. Paul」記事:Another ethics scandal for the University of Minnesota Dept. of – KMSP-TV
④ 2015年7月22日のスーザン・デュ(Susan Du)記者の「City Pages」記事:U of M Professor Ken Winters caught forging research document | City Pages、(保存版
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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