サム・リー(Sam W. Lee)(米)

2019年6月2日掲載。

ワンポイント:ハーバード大学医科大学院(Harvard Medical School)とマサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital)の準教授。2012年、ネカトハンターのポール・ブルックス(Paul Brookes)がサム・リー(50歳?)の論文にねつ造・改ざんがあると研究公正局に通報した。それから7年が経過した現在、マサチューセッツ総合病院、それに、研究公正局はいまだにネカト調査中と思われる。調査結果が未発表なのでサム・リーがネカト者かどうか不確定。しかし、2004、2009、2011年の3論文が撤回された。撤回論文の共著者に大内睦子(Mutsuko Ouchi)と大内徹(Toru Ouchi、ロズウェルパーク癌センターの教授)、佐賀大学医学部・講師の井手貴雄(Takao Ide)など7人の日本人がいる。国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)。

【追記】
・2021年12月16日(李 寒腕 様からの情報):① 2021年8月6日 :Former Newton Scientist Agrees to Pay $215,000 to Resolve Allegations of False Statements in Grant Application | USAO-MA | Department of Justice。② 2021年8月6日 : Harvard Scientist Agrees to Pay $215,000 to Resolve Allegations that He Made False Statements to Get NIH Grants; Scientist Also Agrees Not to Deny Government’s Allegations – Newman & Shapiro
今までに数多の論文で発覚した研究不正に関しては、論文のretractionやMGHからの解雇だけで済まされた(現に今もYaleで雇われてる)ようですが、今回はNIHのgrant application内での不正が政府によって公式に認定されたと言うことで、Samは2千万円くらい返金しなきゃいけなくなり、かつ今回の米国政府の判断に対して一切文句を言えないという条件が付けられているようですね。一方で、当時彼を雇っていたMGHは一億円近く返金させられてますが・・・。
・2021年8月16日掲載:7-76 記事削除の要請を拒否 | 白楽の研究者倫理
・李 寒腕 様から。2020年1月21日現在、サム・リー(Sam W. Lee)はイェール大学医科大学院の研究者(職位:Associate Research Scientist)とのことです。①:Sam Lee < Yale School of Medicine、②2020年1月17日出版論文:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31949051

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

サム・リー(Sam W. Lee、写真出典)は、米国のハーバード大学医科大学院(Harvard Medical School)とマサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital)の準教授で医師ではない。専門はがん生化学だった。

2012年(50歳?)、ネカトハンターのポール・ブルックス(Paul Brookes)がサム・リー(Sam W. Lee)の論文ネカトを研究公正局に通報した。ネカトは画像のねつ造・改ざんである。

それから7年もかかっているが、

2019年6月1日現在、ハーバード大学医科大学院とマサチューセッツ総合病院、それに研究公正局はサム・リーのネカトを調査中で、結果を発表していない。

というわけで、サム・リーがネカト者かどうか不確定である。ただし、ネカト者と発表される前の2つの兆候がある。①マサチューセッツ総合病院を辞職(解雇?)したらしく、病院スタッフを検索してもヒットしない(Find A Researcher at Massachusetts General Hospital)。②ウェブ上の情報が徹底的に削除されている。

つまり、ネカト者濃厚である。

2019年6月1日現在、2004、2009、2011年の3論文が撤回されている。

撤回論文の著者に7人の日本人がいる。大内睦子(Mutsuko Ouchi)と大内徹(Toru Ouchi、Roswell Park Cancer Instituteの教授)、佐賀大学医学部・講師の井手貴雄(Takao Ide)などである。サム・リーが共著者になっていない大内徹の論文もネカト疑惑が起こっている。研究公正局の調査結果が発表されていないが、大内徹はネカトに関与しているかもしれない。大内徹は別記事にした。

1024px-2009_harvardmedicalschool_boston_3801149763ハーバード大学医科大学院(Harvard Medical School)、 2009年。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:カリフォルニア大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1962年1月1日生まれとする。1989年に研究博士号(PhD)を取得した時を27歳とした
  • 現在の年齢:62 歳?
  • 分野:がん生化学
  • 最初の不正論文発表:2004年(42歳?)
  • 不正論文発表:2004年(42歳?)、2009年(47歳?)、2011年(49歳?)
  • 発覚年:2012年(50歳?)
  • 発覚時地位:ハーバード大学医科大学院とマサチューセッツ総合病院の準教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はネカトハンターのポール・ブルックス(Paul Brookes)。サム・リー(Sam W. Lee)のネカトを研究公正局に通報した
  • ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②ハーバード大学医科大学院とマサチューセッツ総合病院の調査委員会。③研究公正局。未発表
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:機関以外が詳細をウェブ公表(⦿)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:8報(推定)、2004、2009、2011年の3論文が撤回
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)をやめた・続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分:失職
  • 日本人の弟子・友人:大内睦子(Mutsuko Ouchi)と大内徹(Toru Ouchi、Roswell Park Cancer Instituteの教授)、佐賀大学医学部・講師の井手貴雄(Takao Ide)は撤回共著論文あり

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

  • 生年月日:不明。仮に1962年1月1日生まれとする。1989年に研究博士号(PhD)を取得した時を27歳とした
  • 1984年1月-1989年1月(22-27歳?):米国のカリフォルニア大学(University of California)で研究博士号(PhD)を取得:遺伝学
  • 1989年(27歳?):カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UC San Francisco)でポスドク
  • 1993年7月(31歳?):ハーバード大学医科大学院(Harvard Medical School)・助教授
  • 1999年7月(37歳?):同・準教授
  • 2005年4月(43歳?):マサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital)・準教授で皮膚生物学研究センター副所長(Associate Director of Cutaneous Biology、Research Center)
  • 2012年(50歳?):ポール・ブルックスがネカトを通報
  • 2019年4月19日(57歳?):既にハーバード大学医科大学院とマサチューセッツ総合病院を辞職

●4.【日本語の解説】

★2015年9月7日:世界変動展望:大内睦子(Mutsuko Ouchi)と大内徹(Toru Ouchi)らの論文がデータ操作で撤回!

出典 → ココ、(保存版

大内睦子(Mutsuko Ouchi、筆頭著者)と大内徹(Toru Ouchi、責任著者Roswell Park Cancer Instituteの教授, Buffalo, NY, USA)らの論文がデータ操作で撤回された。

・・・中略・・・

撤回論文

Mutsuko Ouchi, Nobuko Fujiuchi, Kaori Sasai, Hiroshi Katayama, Yohji A. Minamishima, Pat P. Ongusaha, Chuxia Deng, Subrata Sen, Sam W. Lee and Toru Ouchi

JBC VOLUME 279 (2004) PAGES 19643–19648

撤回公告写し)によると

This article has been withdrawn by the authors. An investigation conducted at the Roswell Park Cancer Institute determined that the flow cytometry data shown in Fig. 5B had been manipulated.

Roswell Park Cancer Instituteの調査でFig.5Bが操作と公式に判定され、それが明記された。 共著者にSam W.Lee写し写し2写し3)とPat P. Ongusahaがいる。彼らは別論文で不正又はその疑義がある。Sam W.Leeが責任著者の別論文1編は不適切な画像操作で撤回された別で紹介したとおりこの論文の筆頭著者が井手貴雄(Takao Ide、佐賀大学医学系助教)。撤回公告写し)。

疑義や不正の多発さからいって、私はSam W.Leeのグループには何かあると思う。大内睦子大内徹Sam W.Leeのグループの不正に関わっているのか。組織的な研究不正をやっているのではないか。井手貴雄はそれに巻き込まれたのか。大内徹Sam W.Lee論文疑義はPubPeerで大量に指摘されている

★2015年9月8日:世界変動展望:井手貴雄(Takao Ide) 佐賀大学医学系助教らの論文が画像操作で撤回!

出典 → ココ、(保存版

井手貴雄(Takao Ide、筆頭著者、佐賀大学医学系助教)らの論文が不適切な画像操作で撤回された。

Molecular Cell 36, 379–392, November 13, 2009.

撤回公告写し)。

Lauren Brown-Endreも筆頭著者で、Sam W.Lee写し写し2写し3)が責任著者。PubPeerでの疑義指摘写し)。具体的にはこれを参照。Sam W.Leeの論文は他にもいくつか疑義だ出されており、ネイチャーCurrent Biologyの論文に大量訂正が公表されている。

以下略。

★2019年5月6日:ミスコン・プレイ 研究不正・盗用のツイート

●5.【不正発覚の経緯と内容】

2012年(50歳?)、ネカトハンターのポール・ブルックス(Paul Brookes)がサム・リー(Sam W. Lee)論文のネカトを研究公正局に通報した。

以下はポール・ブルックス(Paul Brookes)が指摘した画像のネカトである。
出典:https://imgur.com/a/Td3lKAF

 

2012年、ポール・ブルックスが研究公正局にネカトと通報した。それなのに、2012年以降もNIHのグラントを受給しているのはおかしいとネカトハンターのフェルナンド・ペソア(Fernando Pessoa)が2019年4月19日に指摘している。
→ https://retractionwatch.com/2019/04/19/harvard-cancer-lab-subject-to-federal-misconduct-probe/#comment-1670593

以下のリストに示すように、2016年に368,043ドル(約3,680万円)、2017年に358,222ドル(約3,582万円)も受給している。全リスト → Grantome: Search:http://grantome.com/search?q=@author%20%20Sam%20Lee

★調査

2018年7月25日のカタリーナ・ジマー(Katarina Zimmer)記者の「Scientist」記事によると、マサチューセッツ総合病院とハーバード大学医科大学院は調査中なのかどうかを明言していない。

「Scientist」の問い合わせに、「マサチューセッツ総合病院は研究ネカトを深刻な事件ととらえ、ハーバード大学医科大学院と緊密に連絡を取り合い、公正かつ非公開で調査する」と答えている。

2019年6月1日現在、マサチューセッツ総合病院とハーバード大学医科大学院、それに、研究公正局はサム・リーのネカト調査結果を発表していない。

というわけで、サム・リーがネカト者かどうか不確定である。ただし、ネカト者と発表される前の2つの兆候がある。

①マサチューセッツ総合病院を辞職(解雇?)したらしく、病院スタッフを検索してもヒットしない(Find A Researcher at Massachusetts General Hospital)。
②ウェブ上の情報が徹底的に削除されている。

つまり、ネカト者濃厚である。

【ねつ造・改ざんの具体例】

研究公正局が調査結果を公表していないのでパブピアから探ろう。

ポール・ブルックス(Paul Brookes)の指摘したネカトは既に上記した。それ以外を例示する。

★「2004年のJ Biol Chem」論文

「2004年のJ Biol Chem」論文の書誌情報を以下に示す。2015年9月4日に撤回された。共著者に日本人が6人もいるので、姓名を表示した。

上記した「2015年9月7日の世界変動展望」記事にあるように、2015年、ロズウェルパーク癌センター (Roswell Park Cancer Institute)は、図5Bが加工されていると結論した。
→ BRCA1 phosphorylation by Aurora-A in the regulation of G2 to M transition.

2014年8月1日、パブピアで、図5Bのネカトが指摘された「#7 Unregistered Submission: (commented August 1st, 2014 3:04 AM and accepted August 1st, 2014 3:04 AM)」。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/AB503FE52E95FA64E33D8101F419FB#7

2014年10月21日に、別の人が同じ図5Bのネカト部分を指摘した「#23 Peer 2: (ommented October 21st, 2014 5:30 AM and accepted October 21st, 2014 5:30 AM)」。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/AB503FE52E95FA64E33D8101F419FB#23

 

ロズウェルパーク癌センターは、図5Bのネカトしか指摘していないが、パブピアはこの論文の他の図のネカトも指摘している

2014年8月1日に、図3Dの電気泳動バンドは使い回しと指摘した「#11 Unregistered Submission (ommented August 1st, 2014 3:25 AM and accepted August 1st, 2014 3:25 AM)」。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/AB503FE52E95FA64E33D8101F419FB#11

図3Dの電気泳動バンドが使い回しかどうか、白楽は微妙な気がした。よく似ているけど、正直、生データを見ないと判断できません。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

2019年6月1日現在、パブメド(PubMed)で、サム・リー(Sam W. Lee)の論文を「Sam W. Lee [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2018年の17年間の82論文がヒットした。

「Lee SW[Author]」で検索すると、1950~2019年の70年間の5542論文がヒットした。本記事で問題にしている研究者の論文ではない論文が多いと思われる。

2019年6月1日現在、「Lee SW[Author] AND Retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、8論文撤回+1撤回告知だった。このうち、3論文が本記事で問題にしている研究者の撤回論文と思える。

以下に3撤回論文を示す。2004、2009、2011年の論文で、共著者に日本人(下線)が含まれている。

  1. Selective killing of cancer cells by a small molecule targeting the stress response to ROS.
    Raj L, Ide T, Gurkar AU, Foley M, Schenone M, Li X, Tolliday NJ, Golub TR, Carr SA, Shamji AF, Stern AM, Mandinova A, Schreiber SL, Lee SW.
    Nature. 2011 Jul 13;475(7355):231-4. doi: 10.1038/nature10167. Erratum in: Nature. 2012 Jan 26;481(7382):534.Nature. 2015 Oct 22;526(7574):596. Retraction in: Nature. 2018 Sep;561(7723):420.
  2. GAMT, a p53-inducible modulator of apoptosis, is critical for the adaptive response to nutrient stress.
    Ide T, Brown-Endres L, Chu K, Ongusaha PP, Ohtsuka T, El-Deiry WS, Aaronson SA, Lee SW.
    Mol Cell. 2009 Nov 13;36(3):379-92. doi: 10.1016/j.molcel.2009.09.031. Retraction in: Mol Cell. 2013 Aug 22;51(4):552.
  3. BRCA1 phosphorylation by Aurora-A in the regulation of G2 to M transition.
    Ouchi M, Fujiuchi N, Sasai K, Katayama H, Minamishima YA, Ongusaha PP, Deng C, Sen S, Lee SW, Ouchi T.
    J Biol Chem. 2004 May 7;279(19):19643-8. Epub 2004 Feb 27. Retraction in: J Biol Chem. 2015 Sep 4;290(36):22311.

1と2の「Ide T」は佐賀大学・医から留学した井手貴雄(Ide Takao)である。この記事で話題にされている → 2019年5月7日:マウスに発生させた腫瘍が大きすぎて問題になっていた論文、撤回されていました│PEACE 命の搾取ではなく尊厳を

★撤回論文データベース

2019年6月1日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文データベースでサム・リー(Sam W. Lee)を検索すると、2000~2011年の8論文がヒットし、2004、2009、2011年の3論文が撤回されていた。Retraction Watch Databaseの上右「Nature of Notice」の右にチェックを入れ、「Retraction」にすると、撤回論文(数)が表示される。

★パブピア(PubPeer)

2019年6月1日現在、「パブピア(PubPeer)」はサム・リー(Sam W. Lee)の34論文にコメントしている:PubPeer – Search publications and join the conversation.

●7.【白楽の感想】

《1》グズ 遅すぎる

2012年(50歳?)、ネカトハンターのポール・ブルックス(Paul Brookes)がサム・リー(Sam W. Lee、写真出典)のネカトを研究公正局に通報した。

それから7年も経っているが、研究公正局はサム・リーのネカトを調査中で、結果を発表していない。

調査が遅すぎる。

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●8.【主要情報源】

① 2018年7月25日のカタリーナ・ジマー(Katarina Zimmer)記者の「Scientist」記事:Third Retraction for Harvard Cancer Biologist | The Scientist Magazine®、(保存版
② サム・リー(Sam W. Lee)に関する「撤回監視(Retraction Watch)」記事群:sam w. lee – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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