ジェンス・シュワンボーン(Jens Schwamborn)(ドイツ)

2023年3月10日掲載 

ワンポイント:シュワンボーンはドイツのミュンスター大学・院生として2005年(27歳?)に研究博士号(PhD)を取得した。8年後の2013年(35歳?)、ルクセンブルグ大学・教授になったが、ミュンスター大学・院卒2年後にミュンスター大学から出版した2論文にデータねつ造が発覚し、2014~2015年に撤回された。ドイツ研究評議会(DFG)は1年間の締め出し処分を科した。2023年3月9日(45歳?)現在、シュワンボーンはルクセンブルグ大学で大きな研究室を抱えている。国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ジェンス・シュワンボーン(Jens Schwamborn、Jens C Schwamborn、Jens Christian Schwamborn、ORCID iD:https://orcid.org/0000-0003-4496-0559、写真出典)は、ドイツのミュンスター大学・院生として2005年(27歳?)に研究博士号(PhD)を取得した。

2013年(35歳?)、ルクセンブルグのルクセンブルグ大学(Université du Luxembourg、University of Luxembourg)・教授になった。医師免許は所持していない。専門は幹細胞学(神経生物学)である。

2013年(35歳?)、ドイツのミュンスター大学から出版したシュワンボーンの2007年の2論文にデータねつ造がある、と匿名の内部告発者が指摘した。

ドイツ研究評議会(DFG)とミュンスター大学の両方が、ネカト疑惑を調査した。それで、本記事では、事件の国をルクセンブルグではなくドイツとした。

両ネカト委員会は、2013年末と2014年の初めに、シュワンボーンをネカトでクロと結論した。

ただ、この時、シュワンボーンはルクセンブルグのルクセンブルグ大学(Université du Luxembourg、University of Luxembourg)・教授になっていた。

ルクセンブルグ大学は無処分で、ドイツ研究評議会(DFG)は1年間の締め出し処分を科した。つまり、ドイツ研究評議会(DFG)に研究費を申請できないという、ほぼ無意味な処分である。

ミュンスター大学(ヴェストファーレン・ヴィルヘルム大学、Westfälische Wilhelms-Universität Münster)・統合細胞生物学および生理学研究所(Institut für Integrative Zellbiologie und Physiologie)。写真出典

ルクセンブルグ大学(Université du Luxembourg)。写真出典

  • 国:ドイツ
  • 成長国:ドイツ
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:ミュンスター大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1978年1月1日生まれとする。2005年に研究博士号(PhD)を取得した時を27歳とした
  • 現在の年齢:46 歳?
  • 分野:幹細胞学(神経生物学)
  • 不正論文発表:2007年(29歳?)
  • 発覚年:2013年(35歳?)
  • 発覚時地位:ルクセンブルグ大学・教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は匿名の内部告発者
  • ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、レオニッド・シュナイダーのブログ、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ミュンスター大学・調査委員会。②ドイツ研究評議会(DFG)・調査委員会
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:発表なし(✖)。ドイツ研究評議会(DFG)は匿名発表(Ⅹ)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:2報撤回
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:ドイツ研究評議会(DFG)から1年間の締め出し処分
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は2億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:Jens Schwamborn (0000-0003-4496-0559)

  • 生年月日:不明。仮に1978年1月1日生まれとする。2005年に研究博士号(PhD)を取得した時を27歳とした
  • 1999~2002年(21~24歳):ドイツのヴィッテン・ヘァデッケ大学(Universität Witten/Herdecke)で修士号(?)取得:生化学
  • 2002~2005年(24~27歳?):ドイツのミュンスター大学(ヴェストファーレン・ヴィルヘルム大学、Westfälische Wilhelms-Universität Münster)で研究博士号(PhD)を取得:動物学と遺伝学
  • 2006~2009年(28~31歳?):オーストリアの分子バイオテク研究所(Institute of Molecular Biotechnology)・ポスドク
  • 2009~2013年(31~35歳?):ドイツのミュンスター大学(ヴェストファーレン・ヴィルヘルム大学、Westfälische Wilhelms-Universität Münster)・ジュニア・グループ・リーダー
  • 2013年(35歳?):ルクセンブルグのルクセンブルグ大学(Université du Luxembourg、University of Luxembourg)・教授
  • 2013年(35歳?):ミュンスター大学から出版した2論文の研究不正が発覚
  • 2013~2014年(35~36歳?):ドイツ研究評議会(DFG)とミュンスター大学の両方がクロと結論
  • 2023年3月9日(45歳?)現在:ルクセンブルグ大学・教授職を維持:Jens Christian Schwamborn

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
ジェンス・シュワンボーン(Jens Schwamborn)教授の講義動画:「Hautzellen und Mini-Gehirne im Labor – YouTube」(ドイツ語)26分12秒。
Parkinson: Recherche au Luxembourg@NCERPD(チャンネル登録者数 1130人)が2020/07/15に公開

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★2014~2015年に2論文撤回

ジェンス・シュワンボーン(Jens Schwamborn)は、現在はルクセンブルグ大学の正教授だが、2002~2005年(24~27歳?)にドイツのミュンスター大学に院生として在籍し、研究博士号(PhD)を取得した。

指導教授はアンドレアス・プシェル教授(Andreas W Püschel、写真出典)だった。

2013年6月(35歳?)、シュワンボーンがルクセンブルグ大学に移籍した後、匿名の内部告発者が、シュワンボーンの2論文のデータ疑惑を、学術誌「EMBO J」と学術誌「J Biol Chem」、ドイツ研究評議会(DFG)、米国のネカトハンターのポール・ブルックス(Paul Brookes)に伝えた。

学術誌「EMBO J」はそのネカト疑惑を確認し、シュヴァンボーンが博士院生で出版した「2007年3月のEMBO J」論文を2014年12月17日に撤回した。

シュワンボーンとプシェル教授は元データが既にみつからないので、自ら撤回を要請した形になっている。

学術誌「J Biol Chem」は調査に少し手間取ったが、2015年6月19日にシュワンボーンの「2007年11月のJ Biol Chem」論文を撤回した。

内部告発者によるデータ疑惑の指摘は、画像の回転、ミラーリング、ストレッチを含む画像の複製、およびゲルバンドの疑わしいスプライシングで、どう見てもデータねつ造・改ざんだった。

★ドイツ研究評議会(DFG)とミュンスター大学の両方がネカト調査をした

ルクセンブルグ大学の公式声明として、ルートヴィヒ・ネイセス研究担当副学長(Ludwig Neyses、写真出典)が次のように述べた。

ドイツ研究評議会(DFG)とミュンスター大学の両方が、「2007年3月のEMBO J」論文と「2007年11月のJ Biol Chem」論文のネカト疑惑を調査しました。両委員会は、2013年末と2014年の初めにネカトでクロという結論に達しました。

2014年3月28日(36歳?)、ドイツ研究評議会(DFG)は、シュワンボーンに1年間(2014年3月~2015 年3月)、ドイツ研究評議会(DFG)への研究費申請を禁止する処分を科したとプレスリリースした。 → 2014年3月28日のドイツ研究評議会(DFG)のプレスリリース:DFG – Deutsche Forschungsgemeinschaft – Antragssperre und Rügen: DFG ahndet erneut wissenschaftliches Fehlverhalten、(保存版

但し、隠蔽体質のドイツ研究評議会(DFG)は、いつものことだが、ネカト者の姓名を記載していない。

ミュンスター大学はシュワンボーンの処分を発表していない。「処分なし」だと白楽は解釈した。

★欧州のネカト軽視

2016年(38歳?)、ネカト・クロ認定の2年後、シュワンボーンはパーキンソン病治療の研究を主体とした欧州共同プログラムの神経変性疾患研究(JPND)チームの代表者として、150万ユーロ(約1億8千万円)の研究費を獲得した。

ルクセンブルグ大学はシュワンボーンの研究費獲得を自慢げに記事にしている。 → 2016年3月21日記事:Jens Schwamborn leads international consortium on Parkinson’s disease

ネカトでクロとされたのに、シュワンボーンの研究費獲得に大きな影響を与えなかった、ということだ。

欧州のネカト者集団が欧州の研究費を食い物にしている、という指摘もある。

2019年から欧州委員会委員長を務めているウルズラ・フォンデアライエン(Ursula G. von der Leyen)が盗博者なのだから、そういう事実・状況もあるだろう。 → 盗博VP152:ウルズラ・フォンデアライエン(Ursula G. von der Leyen)(ドイツ) | 白楽の研究者倫理

★アンドレアス・プシェル教授(Andreas W Püschel)

2020年(42歳?)、シュワンボーンの院生時代の指導教授だったアンドレアス・プシェル教授(Andreas W Püschel、写真出典)に対するネカト調査が始まった。

以下の手紙は2020年4月2日のミュンスター大学の学長会議で、プシェル教授の画像二重使用についてネカト調査をすると書かれている。

 

この調査は、シュワンボーンのネカトとは別件のようでもある。

白楽は、今日は疲れた(少し喉も痛い)ので、解説はここでやめる。ゴメン。

【ねつ造・改ざんの具体例】

★「2007年3月のEMBO J」論文

シュヴァンボーンが博士卒2年後、院生を過ごしたミュンスター大学から出版した「2007年3月のEMBO J」論文が2014年12月17日に撤回された。

ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)が以下の図をパブピアで示している:https://pubpeer.com/publications/EFEAF8CE91877CEFF654F51EE690F7

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2023年3月9日現在、パブメド(PubMed)で、ジェンス・シュワンボーン(Jens Schwamborn、Jens C Schwamborn)の論文を「Jens Schwamborn[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2003~2022年の20年間の104論文がヒットした。

2023年3月9日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、2論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2023年3月9日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでジェンス・シュワンボーン(Jens Schwamborn、Jens C Schwamborn)を「Jens C Schwamborn」で検索すると、 1論文が訂正、0論文が懸念表明、2論文が撤回されていた。

シュヴァンボーンが博士院生で出版した「2007年3月のEMBO J」論文が2014年12月17日に撤回され、「2007年11月のJ Biol Chem」論文が2015年6月19日に撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2023年3月9日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ジェンス・シュワンボーン(Jens Schwamborn、Jens C Schwamborn)の論文のコメントを「Jens C Schwamborn」で検索すると、9論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》博士論文は? 

ジェンス・シュワンボーン(Jens Schwamborn)は、2002~2005年(24~27歳?)、ドイツのミュンスター大学(ヴェストファーレン・ヴィルヘルム大学、Westfälische Wilhelms-Universität Münster)で研究博士号(PhD)を取得した。

その院生時代の研究成果を卒業の2年後、「2007年3月のEMBO J」論文と「2007年11月のJ Biol Chem」論文に出版し、2014~2015年に撤回された。

この事実から見て、2005年に提出した博士論文はデータねつ造論文だと思う。

しかし、ミュンスター大学はネカト疑惑だと指摘された「2007年3月のEMBO J」論文と「2007年11月のJ Biol Chem」論文だけしかネカト調査をしなかった。

なんか、ヘンだ。

ただ、博士論文がねつ造データと認定すれば、博士号の剥奪になる。博士号がなければ、ルクセンブルグ大学・教授に採用されていなかっただろうから、ルクセンブルグ大学・教授は解雇されるだろう。

シュワンボーンの研究人生はひっくり返る。

《2》処分の効果 

ドイツのミュンスター大学からの論文なので、ミュンスター大学とドイツ研究評議会(DFG)がネカト調査をした。

その結果、クロだったので、ドイツ研究評議会(DFG)はシュワンボーンに1年間の締め出し処分を科した。

シュワンボーンは既にドイツにいない。ルクセンブルグ大学・教授になっている。

このような、全く形式的で実効性がない処分って、どういうつもりなんだろう?

米国の研究公正局も日本も同じような処分を科すが、「処分の効果、処分の妥当性、処分の意味」を調査したことがあるのだろうか?

長年、いつも、疑問に思う。

《3》院生・ポスドクはどう思う 

2023年3月9日現在、ジェンス・シュワンボーン(Jens Schwamborn)はルクセンブルグ大学としては大きな研究室を抱えている。

研究室に入りたい若い院生・研究員は多い。

現状では、過去のネカトでシュワンボーン教授を解雇するのは、副作用が大きすぎるかもしれない。

ただ、自分の先生がネカト者だったと知ったら、講義を受ける学部生、研究指導を受ける院生・ポスドクはどう思うだろう? 

講義を受ける学部生はともかく、院生・ポスドクは、研究室に入る前にネカト者だと知っていても、研究室に入るだろうか?

ルクセンブルグ大学の同僚はシュワンボーンがネカト者だったと院生・ポスドクに忠告しないのだろうか?

ルクセンブルグ大学のシュワンボーン研究室員の写真1 出典

ルクセンブルグ大学のシュワンボーン研究室員の写真2 出典

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●9.【主要情報源】

① 〇 2015年7月17日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)の「Laborjournal」記事:Laborjournal online: Null und nichtig
② 2015年1月20日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)の「Laborjournal」記事: Verdacht via Vermittler
③ 2014年12月18日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Stem cell researcher retracts neuron paper for “image aberrations” – Retraction Watch
④ 2015年7月15日のミーガン・スクデラリ(Megan Scudellari)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:JBC retraction on neuron development marks second for two biologists – Retraction Watch
⑤ 2015年7月22日のシャノン・パラス(Shannon Palus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:“There has been negligence”: Biologist banned for one year by German funding agency – Retraction Watch
⑥ 2020年8月17日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ記事:Münster charges Jens Schwamborn’s mentor Andreas Püschel with research misconduct, again – For Better Science
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