盗博:経済学:ダニーロ・メディーナ(Danilo Medina)(ドミニカ)

2017年10月12日掲載。

ワンポイント:現在、ドミニカ共和国の大統領(男性)である。1984年(32歳)にサント・ドミンゴ工科大学に提出した博士論文が、28年後の2012年(60歳)、大統領選挙中に盗用だとサント・ドミンゴ自治大学のジェノヴェ・グネコ教授に指摘された。サント・ドミンゴ工科大学は調査していない。指摘したグネコ教授は解雇され、盗博はウヤムヤになった。メディーナは大統領に選ばれた。損害額の総額(推定)は1000億円(当てずっぽう)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

ダニーロ・メディーナ(Danilo Medina、写真出典)は、2012年8月16日(60歳)から2017年10月11日現在までドミニカ共和国の大統領である。

1984年(32歳)、サント・ドミンゴ工科大学(Instituto Tecnológico de Santo Domingo、英語:Santo Domingo Institute of Technology)で経済学の研究博士号(PhD)を取得した。

2012年2月(60歳)、大統領選のさなか、28年前にサント・ドミンゴ工科大学で取得した博士号の博士論文が盗用だと、サント・ドミンゴ自治大学のジェノヴェ・グネコ教授(Genove Gneco)に指摘された。

サント・ドミンゴ工科大学は申し立てを調査せず、サント・ドミンゴ自治大学は指摘したジェノヴェ・グネコ教授を解雇した。

2012年5月20日(60歳)、大統領選でメディーナは51%の票を獲得し、2012年8月16日(60歳)、ドミニカ共和国の大統領に就任した。

メディーナは2016年5月15日の大統領選でも再び勝利し、2017年10月11日現在(65歳)、ドミニカ共和国の大統領である。

サント・ドミンゴ工科大学(Instituto Tecnológico de Santo Domingo、英語:Santo Domingo Institute of Technology)。写真出典

  • 国:ドミニカ
  • 成長国:ドミニカ
  • 研究博士号(PhD)取得:サント・ドミンゴ工科大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:1951年11月10日
  • 現在の年齢:72 歳
  • 分野:経済学
  • 最初の不正論文発表:1984年(32歳)
  • 発覚年:2012年(60歳)
  • 発覚時地位:ドミニカの大統領候補
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はサント・ドミンゴ自治大学のジェノヴェ・グネコ教授(Genove Gneco)で、メディアに伝えた
  • ステップ2(メディア): 「acento.com」、他のメディア
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):当局であるサント・ドミンゴ工科大学は調査していない
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 不正:盗博
  • 不正論文数:1報
  • 時期:人生の初期
  • 損害額:総額(推定)は1000億円。内訳 → ①盗博が糾弾されたが調査されず、博士号がはく奪されなかった。しかし、大統領が盗博者だということによる政界の権威・公正・信頼が崩壊した。その影響は1000億円(当てずっぽう)。
  • 結末:辞職なし。大統領当選2回

●2.【経歴と経過】

  • 1951年11月10日:ドミニカに生まれる
  • 1972年(20歳):サント・ドミンゴ工科大学(Instituto Tecnológico de Santo Domingo、英語:Santo Domingo Institute of Technology)に入学。専攻:化学工学
  • 1979年(27歳):同大学を卒業
  • 1984年(32歳):サント・ドミンゴ工科大学(Instituto Tecnológico de Santo Domingo、英語:Santo Domingo Institute of Technology)で経済学の研究博士号(PhD)を取得
  • 1987年(35歳):結婚
  • 2012年2月(60歳):サント・ドミンゴ工科大学の博士論文が盗用と指摘された
  • 2012年8月16日(60歳):ドミニカの大統領に選出された
  • 2016年5月15日(64歳):ドミニカの大統領選に再び選出された
  • 2017年10月11日現在(65歳):ドミニカの大統領

●3.【動画】

【動画】
テレビ番組でのジェノヴェ・グネコ教授の主張:「公務員の論文盗用を非難(Acusan Funcionarios Publicos de haber plagiado tesis – YouTube.flv) 」(スペイン語)2分10秒
gneco genove が2012/05/09 に公開
以下のリンクが切れた時 → 保存版

●5.【不正発覚の経緯と内容】

2012年(60歳)、4年に一度の大統領選で、ダニーロ・メディーナ(Danilo Medina)は大統領候補だった。投票日は2012年5月20日だった。

2012年2月16日(60歳)、サント・ドミンゴ自治大学のジェノヴェ・グネコ教授(Genove Gneco、写真出典)は、メディーナがサント・ドミンゴ工科大学に提出した博士論文が盗用だと主張した。また、学部時代に取得単位が不足なのに学士号を取得していたと非難した。
→ 2012年2月8日の記事:Cancelan profesor por decir que Danilo, Félix Bautista y Temístocles plagiaron tesis – Acento
→ 2012年2月16日の記事:Profesor Gneco demostró que Danilo plagió tesis y no es ingeniero químico

グネコ教授はメディーナだけでなく、上院議員のフェリックス・バウティスタ(Félix Bautista)、経済大臣のテンポストレ・モンタス(Temístocles Montás)の博士論文も盗用だと主張した。

2012年5月20日(60歳)、大統領選挙でメディーナは51%の票を獲得し勝利した。

2012年8月16日(60歳)、メディーナはドミニカ共和国の大統領に就任した(写真出典)。

メディーナは2016年5月15日(64歳)の大統領選でも再び勝利し、2017年10月11日現在(65歳)、ドミニカ共和国の大統領である。

★疑惑

サント・ドミンゴ工科大学の大学登録簿では、メディーナは1972年に入学し、1979年に最後の取得科目を登録していたが、その科目は体育だった。化学工学の単位は20%未満しか取得できていなかった。それで卒業した。[白楽注:通常、単位不足では大学を卒業できない。メディーナは名門の出自なので、何らかの忖度・圧力が働いたと思われる]。

グネコ教授に指摘され、テレビで疑惑が放映されたにも関わらず、サント・ドミンゴ工科大学はメディーナの盗博疑惑を調査しなかった。

逆に、グネコ教授はコクハラされたのである。理由は、閣僚の盗博を指摘したのは越権行為だとして、サント・ドミンゴ自治大学はグネコ教授を解雇した。[白楽注:ここでも、何らかの忖度・圧力が働いたと思われる]。

結局、グネコ教授の主張は貫徹できなかった。

では一体、メディーナの盗博はあったのかなかったのか?

盗用分析図を示していないが、盗用個所を指摘しているサイトがある。
→ 2014年1月8日の記事: CASO DE PLAGIO Y USURPACION DE TITULO DEL ACTUAL PRESIDENTE DE LA REPUBLICA DOMINICAN DANILO MEDINA

かなり見にくいが盗用を示すPDFもあった。

EVIDENCIAS-DE-PLAGIO-EN-LA-TESIS-DANILO-MEDINA

 

メディーナの盗博はあったと思われるが、いかんせん、相手は大統領である。

●6.【論文数と撤回論文】

省略

●7.【白楽の感想】

《1》大統領の盗博

メディーナ大統領(左)とマルガリータ・セデーニョ副大統領(Margarita Cedeño)(右)、写真photo via Diario Libre 出典 

大統領の盗博は厄介である。

政治的パワーが強すぎて、糾弾するのは容易ではない。

告発者のグネコ教授はコクハラ(告発ハラスメント)で解雇された。

ドミニカの社会、メディア、大学、学者は腰が引けていた。

大統領の盗博を調査するネカト国際機関はない。従って、このような事件では、ドミニカ以外の国の人が調査するのが現在では唯一の有効手段だろう。

例えば、ロシアのプーチン大統領の盗博を米国のブルッキングス研究所の研究者が指摘したようにだ。ただ、下手すると両国間の紛争になったり、告発者が国家転覆罪になるかもしれない。
→ 盗博:経済学:ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)(ロシア) | 研究倫理(ネカト)

http://elnacional.com.do/obama-responde-con-receptividad-carta-de-medina-sobre-libre-comercio-trans-pacifico/

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●8.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:Danilo Medina – Wikipedia
② 2016年5月16日のセルジオ・カストロ(Sergio J. Castro)の「Academia Stack Exchange」記事:cheating – Can a university retract a degree for actions taken after the degree is awarded? – Academia Stack Exchange(保存版)
③ 2014年の書籍・『Dominican Republic: US Assistance to the Dominican Republic Handbook – Strategic Information and Developments』:Dominican Republic: US Assistance to the Dominican Republic Handbook … – IBP, Inc. – Google ブックス
④ 2016年5月の「Noticias SC」記事:El Profesor Génove Gneco demostró que Danilo Medina plagió tesis y no es ingeniero químico « Noticias SC(保存版)
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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