銃規制反対学:ジョン・ロット(John Lott)(米)

2022年9月20日掲載 

ワンポイント:ロットはアメリカンエンタープライズ研究所(American Enterprise Institute)・研究員だが、学術研究者というより、作家・社会活動家で銃規制反対の主要な論客である。有名な著書『銃が多いほど、犯罪は少ない』(1998年)で、データねつ造が指摘された。また、銃規制反対論に賛同するメアリー・ロッシュ(Mary Rosh)のなりすまし(ソックパペット)をしたこと、「2001年10月のJournal of Law & Economics」論文でのデータ改ざんが指摘された。所属機関からのネカト調査はなく、処分なし。国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ジョン・ロット(John Lott、John R. Lott Jr.、ORCID iD:?、写真出典)は、米国のいくつもの大学や研究所に在籍した研究者だが、本記事ではアメリカンエンタープライズ研究所(American Enterprise Institute)・研究員とする。

活動は学術研究者というより、作家・社会活動家と呼ぶ方がふさわしい。専門は経済学だが、経済学よりも銃規制反対論で有名なので、銃規制反対学とした。

日本語に翻訳されていないが、有名な『銃が多いほど、犯罪は少ない(More Guns, Less Crime)』(1998年)、『銃規制神話(Gun Control Myths)』(2020年)など多数の著書がある(本の表紙出典はアマゾン)。

2000年1月(42歳?)、著書『銃が多いほど、犯罪は少ない』(1998年)でデータねつ造が指摘された。

その後、銃規制反対論の社交メディアでの議論で、ロットは女性の元・学生・メアリー・ロッシュ(Mary Rosh)という架空人物になりすまし(ソックパペット)、自説を擁護した。

結局、なりすまし(ソックパペット)はバレた。

2004年には、ロットの「2001年10月のJournal of Law & Economics」論文のデータ改ざんが指摘された。

所属機関からのネカト調査はなく、ロットは処分されていない。

アメリカンエンタープライズ研究所(American Enterprise Institute)。写真By Carol M. Highsmith – Library of Congress、出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:カリフォルニア大学ロサンゼルス校
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1958年1月1日生まれとする。1980年に学士号を取得した時を22歳とした
  • 現在の年齢:64 歳?
  • 分野:銃規制反対学
  • 不正論文発表:1998~2000年(40~42歳?)の3年間
  • 発覚年:2000年(42歳?)
  • 発覚時地位:アメリカンエンタープライズ研究所・研究員
  • ステップ1(発覚):データねつ造の第一次追及者はカリフォルニア大学サンタバーバラ校のオーティス・ダドリー・ダンカン教授(Otis Dudley Duncan)で、論文で指摘した。なりすましは、ケイトー研究所(Cato Institute)のジュリアン・サンチェス上級研究員(Julian Sanchez)が見つけた。データ改ざんはジョンズ・ホプキンズ・ブルームバーグ公衆衛生大学院 (Johns Hopkins Bloomberg School of Public Health)のダニエル・ウェブスター教授(Daniel Webster)らが論文で指摘した。
  • ステップ2(メディア):「Science」、「Reason」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):なし
  • 大学・研究所・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学・研究所の透明性:調査していない(✖)
  • 不正:ねつ造・改ざん、なりすまし(ソックパペット)
  • 不正数:少なくとも著書1冊、論文1報、社交メディアでの議論
  • 時期:研究キャリアの中期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。銃規制反対説が間違っていると、国民の損害額は数兆円以上の巨額になるだろうが・・・。

●2.【経歴と経過】

  • 生年月日:不明。仮に1958年1月1日生まれとする。1980年に学士号を取得した時を22歳とした
  • 1980年(22歳?):カリフォルニア大学ロサンゼルス校(University of California, Los Angeles)で学士号取得:経済学
  • 1982年(24歳?):同大学で修士号取得:経済学
  • 1984年(26歳?):同大学で研究博士号(PhD)を取得:経済学
  • 1984~1994年(26~36歳?):イェール大学法科大学院、フーバーインスティテュート、UCLA、ウォートンビジネススクール、テキサスA&M大学、ライス大学(Yale Law School, the Hoover Institution, UCLA, the Wharton Business School, Texas A&M University, and Rice University)などで教員
  • 1994~1999年(36~41歳?):シカゴ大学(University of Chicago)・客員教授とフェロー
  • 1998年(40歳?):後で問題視される著書『銃が多いほど、犯罪は少ない(More Guns, Less Crime)』を出版
  • 2001~2006年(43~48歳?):アメリカンエンタープライズ研究所(American Enterprise Institute)・研究員
  • 2007年7月~2010年(49~52歳?):メリーランド大学財団(University of Maryland Foundation at the University of Maryland)の上級研究者

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
講演動画:「John Lott – More Guns, Less Crime – YouTube」(英語)40分19秒。
Instituto Juan de Mariana(チャンネル登録者数  7.59万人) が2020/06/08 に公開

●4.【日本語の解説】

★2018年3月14日:篠原 匡(日経ビジネス副編集長)、長野 光(日経ビジネスニューヨーク支局記者)[日経ビジネス]:「何人殺されても銃乱射はなくならない」

出典 → ココ、(保存版) 

米国は学校など公共の場所をガン・フリー・ゾーンに設定している。銃器を持ち込めば処罰の対象になる。公共の場に銃の持ち込みを禁ずるべきだというのは当然のことのように思えるが、銃乱射を目論む人間にとって、ガン・フリー・ゾーンは武装している人間がいないということを意味する。つまり、安心して目的を達せられるということだ。

「1950年以降に起きた銃乱射事件の98%はガン・フリー・ゾーンで起きている。2012年に起きたコロラド州オーロラの映画館で起きた銃乱射事件での場合、犯人は当初、コロラド国際空港をターゲットにしていた。だが、下見の段階で武装したセキュリティがいるのを見て、映画館にターゲットを変更した。銃乱射をしようと思う人間はクレイジーだがバカではない。乱射による被害をなくすのであれば、ガン・フリー・ゾーンをやめるべきだ」

銃規制反対派の論客として知られるジョン・ロットはこう指摘する。

・・・中略・・・

ロットは経済学者としてスタンフォード大やシカゴ大、イエール大など名門大学で教鞭に立った。シカゴ大では、銃規制を進めようとしたオバマの同僚だったという。もともとは銃規制推進派だったが、犯罪と銃の関係を調べるうちに銃規制の論拠が誤っていると考えるようになり、銃規制反対派に転向した。それ以来、銃規制を巡る議論から抜け出せなくなった。

続きは、原典をお読みください。

★2022年7月4日:MAKI(アメリカinfo):「アメリカの銃規制!賛成派と反対派の意見と理由を聞いてみよう」

出典 → ココ、(保存版) 

ジョン・R・ロット・ジュニア博士は、

「銃規制法の問題は、法律を守っている市民から銃を取りあげ、犯罪者がそれを無視することだ」

と言っています。

★2021年7月10日:著者名不記載(アソボアド):「失われた命を視覚化して銃規制を訴える動画の戦慄」

出典 → ココ、(保存版) 

ふたつ目の動画に登場するのは、『More Guns, Less Crimes(銃が増えれば犯罪が減る)』の著者で活動家のジョン・ロット氏です。 ロット氏もキーン氏同様、学校名の由来であるジェームズ・マディソンと憲法修正第2条に触れます。

「銃を禁止して犯罪が減った場所などどこにもない」

そして、ロット氏のリハーサルスピーチの間に、乱射事件のまっただ中にある高校生と警察との電話のやりとりが挿入されます。

ロット氏のスピーチは「皆さんには明るい未来が待っています」と締めくくられ、画面には次のメッセージが表示されます。

「簡単な身元調査があれば、彼らの多くが助かっただろう」

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★銃規制反対

ジョン・ロット(John Lott)は銃規制反対派の中心的な論客である。

有名な著書『銃が多いほど、犯罪は少ない(More Guns, Less Crime)』(表紙出典)の初版は1998年だが、2000年に第二版、2010年に第三版を出版している。つまり、賛同する読者が後を絶たない。

ウィキペディア英語版には著書『銃が多いほど、犯罪は少ない(More Guns, Less Crime)』のページまである → More Guns, Less Crime – Wikipedia

★データねつ造

2000年1月(42歳?)、カリフォルニア大学サンタバーバラ校のオーティス・ダドリー・ダンカン教授(Otis Dudley Duncan – Wikipedia、写真出典)が、「2000年1・2月号のCriminologist」論文で、ロットのデータねつ造を指摘した。
 → 「2000年1・2月号のCriminologist」論文: Criminologist/2000/January-February

ロットの著書『銃が多いほど、犯罪は少ない(More Guns, Less Crime)』(1998年)は、1997年の全国アンケート調査で得た2,424人の回答がベースになっている。その回答を根拠にロットは銃擁護論を展開していた。

ダンカン教授が2,424人のアンケート回答の元データを示すようにロットに要求した。しかし、ロットは、元データを示さなかった。理由はハードドライブがクラッシュしたからだと弁解した。

また、ロットはシカゴ大学からイェール大学へと研究室を引っ越したが、その時、元データを廃棄した、とも弁解した。

さらに、当時、一緒に作業した院生の名前を思い出せない、とも弁解した。

[白楽注:ハードドライブがクラッシュ、引っ越しで元データを廃棄、重要な関係者名を思い出せない、というのは、データねつ造者が頻繁に使う見え透いた嘘の常套句である。通常の研究活動では、どれも「あり」エマセン!]。

★なりすまし(ソックパペット)

インターネットの社交メディアで銃擁護論が議論されている時、ロットの元学生(女性)であるメアリー・ロッシュ(Mary Rosh、顔写真なし)がロットを熱心に擁護した。

彼女は、「ロットは今までで最高の教授でした」とロットを称賛し、ロットを批判するスタンフォード法科大学院のジョン・ドノヒュー教授(John Donohue 、写真出典)などの銃規制論者を攻撃した。

ところが、メアリー・ロッシュ(Mary Rosh)はロットのなりすまし(ソックパペット)で、架空人物だということがバレた。

ケイトー研究所(Cato Institute)のジュリアン・サンチェス上級研究員(Julian Sanchez、写真出典)が、なんとなく、メアリー・ロッシュがコメントした時のIPアドレスを調べた。すると、ロットが自宅から送信した電子メールのIPアドレスと同じだったのだ。

それをロットに伝えると、ロットはなりすまし(ソックパペット)を認めた。

★データ改ざん

2001年10月(43歳?)、ジョン・ロットは「2001年10月のJournal of Law & Economics」論文を発表した。

安全保管銃法(safe-storage gun laws)は、少年の自殺や銃の偶発的な死亡を減らしたが、同時に、暴力犯罪や財産犯罪の発生を増加させた、とこの論文は述べていた。

ジョンズ・ホプキンズ・ブルームバーグ公衆衛生大学院 (Johns Hopkins Bloomberg School of Public Health)のダニエル・ウェブスター教授(Daniel Webster、写真出典)らは、以下に示す「2004年8月のJAMA」論文でジョン・ロットの上記論文は特定のデータを選択するというデータ改ざんをしていたと指摘した。

若者の自殺に関するデータが非常に偏っている。また、暴力犯罪や財産犯罪の発生増加データは家庭外でのデータである。など、ロットは特定のデータを選択していたと、ウェブスター教授は批判した。

【ねつ造・改ざんの具体例】

上記したので省略

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

論文数のデータは省略した。

★撤回監視データベース

2022年9月19日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでジョン・ロット(John Lott)を「John Lott」で検索すると、 0論文が訂正、0論文が懸念表明、0論文が撤回されていた。「Lott」で検索してもヒットしなかった

★パブピア(PubPeer)

2022年9月19日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ジョン・ロット(John Lott)の論文のコメントを「John Lott」と「John R. Lott Jr.」と「Lott, John R」で検索すると、0論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》調査できない 

ジョン・ロット(John Lott)はアメリカンエンタープライズ研究所(American Enterprise Institute)・研究員だったが、それ以前は、複数の大学の教員を勤め、毛所属機関をコロコロと変えてきた。

ジョン・ロットの活動は学術研究者というより、作家・社会活動家と呼ぶ方がふさわしい。

米国は(日本も同じ)、ネカト調査や処分は所属大学・機関が行なっている。

このような人の著書や論文にデータねつ造・改ざんがあった場合、現行システムでは、そのネカト調査をする大学・機関は、ほぼ「ない」。

盗用は著作権法違反なので、刑事・民事事件になるが、データねつ造・改ざんは法律違反ではないので、刑事・民事事件にはならない。

所属がコロコロ変わるとネカト調査されないのは、なんか、おかしくないか?

データねつ造・改ざんを禁止する法律を作り、所属とは無関係に、第三者機関(ネカト取締部)が調査すべきでしょう。

《2》科学的根拠のない言説

白楽ブログの趣旨に反するので、本記事では、銃規制に賛成・反対の議論はしない。

賛成・反対の議論はしないが、主張の根拠となる科学的データがねつ造されていたり、解釈の改ざんがあれば、これは真っ当な議論にならない。

実は、「科学的調査の結果」と科学を盾に、自説(自社製品)に都合のよい主張をするケースは、「研究者の学術研究」以外の日常社会に充ち溢れている。

白楽ブログで扱う対象は「研究者の学術研究」でのねつ造・改ざんに限定しているが、本当に怖いのは、「研究者の学術研究」以外のところで、まことしやかに定説化している科学的根拠のない言説である。

これは反論するにも、「科学的根拠のない言説」なので、「根拠」部分のねつ造・改ざんを指摘できない。

ジョン・ロット事件のように、銃規制反対論は信念(と金銭的損得)・文化価値観が先行していて、「科学的根拠らしい言説」は後付けである。

だから、「科学的根拠らしい言説」の「根拠」部分のねつ造・改ざんを指摘しても、信念・文化価値観を変えることはない。

銃規制の賛成・反対などの信念(と金銭的損得)・文化価値観が先行する場合、科学的根拠を主張しても、賛成・反対のバイアスがかかってしまう。

論者本人は研究公正を保っていると主張しても、受け手が信用しない。つまり、科学的根拠の力は弱い。

信念(と金銭的損得)・文化価値観が先行するケースとして、銃規制以外に、米国の進化論、原子力発電所の安全性、遺伝子組み換え食品の安全性、人工妊娠中絶の賛成・反対などたくさんある。

「人為的な地球温暖化が異常気象を引き起こしている」も信念(と金銭的損得)・文化価値観の気がしている。

《3》防ぐ方法

ジョン・ロット(John Lott)のデータねつ造、なりすまし(ソックパペット)、データ解釈の改ざんをどのように防げるか?

どうすると、いいんでしょうか?

防ぐ方法を考えていると、いろいろと示唆に富んでいる。

ロット事件から約20年が経過した2022年現在でも、しかし、同じようなデタラメ言説があちこちにある。

ジョン・ロットは、ねつ造・改ざん、なりすまし(ソックパペット)のデタラメな人だが、彼の信奉者は多く、政治力もある。

米国では銃規制反対論者は多い。多いどころか主流である。ロットは、2022年現在も現役で、米国民に大きな影響力を持っている。以下は、2021年7月10日のC-SPAN動画である。

以下は静止画。

ジョン・ロット(John Lott)。https://www.c-span.org/video/?c4970298/user-clip-john-lott-gun-violence-us

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●9.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:John Lott – Wikipedia
② 2000年のオーティス・ダドリー・ダンカン教授(Otis Dudley Duncan – Wikipedia)の「2000年1・2月号のCriminologist」論文: Criminologist/2000/January-February
③ 2003年4月18日のドナルド・ケネディ(Donald Kennedy)編集長の「Science」記事:Research Fraud and Public Policy
④ 2003年5月1日のジュリアン・サンチェス(Julian_Sanchez)記者の「Reason」記事:The Mystery of Mary Rosh
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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