2016年9月18日掲載。
ワンポイント:95人死亡した加湿器殺菌剤が危険と判定されたのに、企業に依頼され、反論のため、その安全性データをねつ造・改ざんし、見返りに金銭を受け取った。2016年春に大騒動になり、逮捕された。今、裁判中。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
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●1.【概略】
ミョンヘイン・チョ、조명행、(Myung-haing Cho、写真出典)は、韓国・ソウル大学(Seoul National University)・獣医学部・教授で、専門は毒性学である。韓国毒性学会(Korean Society of Toxicology)の2014・2015年の会長だった。
ユ教授(Yoo、姓名の名が不明、顔写真不明)は、韓国・湖西(ホソ)大学(Hoseo University)・教授で、専門は毒性学である。
2011年8月、韓国政府は、オキシー・レキットベンキーザー社の加湿器殺菌剤により、2001年から2011年に221人が被害を受け、そのうち95人が死亡したと報告した。
2011年(チョ教授51歳、ユ教授56歳)、韓国政府の指摘に反論するため、オキシー・レキットベンキーザー社の依頼を受け、2012年4月、加湿器殺菌剤は安全だとの報告書を提出した。しかし、報告書のデータはねつ造・改ざんしたものだった。
2016年5月(チョ教授56歳、ユ教授61歳)は、データねつ造・改ざんの見返りに金銭授受があったとする収賄や背任で逮捕された。
この事件の報道では、実名報道もあるが、チョ教授、ユ教授の2人を匿名にし顔写真をボカす報道もある。この事件でなぜ実名・匿名の混在報道なのか? 白楽は理由を理解していないが、ブログ方針により実名を使用した。
但し、ユ教授の名前は姓(Yoo)しか報道されていない。ところが、湖西(ホソ)大学(Hoseo University)の毒性学にYoo教授はいない。毒性学研究者で同じ読みのYu教授(Il Je Yu)はいる。誰の意図か知らないが、このYu教授を隠蔽するためにYoo教授という英語名を使用したと思える。
この事件の日本語解説はたくさん(3つ以上)あった。「産経ニュース」「Huffington Post」「NHKニュース」「朝日新聞」「Yahoo!ニュース」の文章を本文に引用した。
なお、ソウル大学は、「Times Higher Education」の大学ランキングで韓国第2位、アジア第9位の大学である(Asia University Rankings 2016 – Times Higher Education)。
韓国・ソウル大学の正門。写真出典
★ミョンヘイン・チョ、조명행、(Myung-haing Cho)
- 国:韓国
- 成長国:韓国
- 研究博士号(PhD)取得:米国・カリフォルニア大学デービス校(University of California, Davis, CA, USA)
- 男女:男性
- 生年月日:1960年2月10日
- 分野:毒性学
- 最初の不正報告書:2012年(52歳)
- 発覚年:2016年(56歳)
- 発覚時地位:韓国・ソウル大学・教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は不明。推定で書くと、第一次追及者は韓国政府の疾病管理本部の研究員で、研究員が、検察に公益通報した
- ステップ2(メディア):
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):大学の調査委員会は出る幕なし? ①韓国の検察。②韓国の裁判所
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:不正報告書が1報。パブメドの論文リストでは撤回論文なし
- 時期:研究キャリアの後期から
- 結末:逮捕。解雇?
★?・ユ(? Yoo)
本当はYu教授(Il Je Yu)?
省略
●2.【経歴と経過】
★ミョンヘイン・チョ、조명행、(Myung-haing Cho)
主な出典:Home > member > search、(保存版)
- 生年月日: 1960年2月10日
- 1985年(25歳):ソウル大学(Seoul National University)・獣医学部を卒業。獣医師免許
- 1987年(27歳):ソウル大学(Seoul National University)・獣医学部で修士号を取得した
- 1992年(32歳):米国・カリフォルニア大学デービス校(University of California, Davis, CA, USA)で研究博士号(PhD)を取得した
- 1992-1994年(32-34歳):米国・ノースカロライナ大学チャペルヒル校(University of North Carolina at Chapel Hill, NC, USA)でポスドク
- 1994年(34歳):韓国・ソウル大学(Seoul National University)・獣医学部・助教授。後に准教授、正教授に昇格
- 2012年4月(52歳):データねつ造・改ざんした報告書をオキシー・レキットベンキーザー社に提出
- 2016年5月8日(56歳):逮捕された
★?・ユ(? Yoo)
詳細は不明。姓名の名も不明。本当はYu教授(Il Je Yu)?
- 生年月日:不明。仮に1955年1月1日生まれとする。2016年5月の逮捕時に61歳だったので。
- 19xx年(xx歳):xx大学を卒業
- 19xx年(xx歳):xx大学で研究博士号(PhD)を取得
- xxxx年(xx歳):韓国・湖西(ホソ)大学(Hoseo University)・教授
- 2012年4月(57歳):データねつ造・改ざんした報告書をオキシー・レキットベンキーザー社に提出
- 2016年5月8日(61歳):逮捕された
●3.【動画】
【動画1】
職場や家庭で殺菌剤入り加湿器が使用されている:「Humidifier disinfectants cause over 200 deaths in South Korea – YouTube」(英語)0分43秒。
CCTV Newsが2016/04/24 に公開
【動画2】
オキシー社の謝罪のニュース:「Oxy Reckitt Benckiser offers belated apology to victims – YouTube」(英語)2分11秒。ARIRANG NEWSが2016/05/02に公開
●4.【日本語の解説】
★2016年5月3日:産経ニュース記事 「1500人死傷の韓国殺菌剤事件、企業が謝罪し補償約束 「家の中のセウォル号事件」」
出典 → 1500人死傷の韓国殺菌剤事件、企業が謝罪し補償約束 「家の中のセウォル号事件」 – 産経ニュース、保存済
韓国で加湿器に使う殺菌剤が原因で1500人超が死傷した事件で、最も被害の大きかった殺菌剤を製造・販売した多国籍企業の韓国法人「オキシー・レキット・ベンキーザー」の代表が2日、ソウルで記者会見し謝罪、補償を行うと約束した。
事件は2011年春に発覚。問題のあった殺菌剤製品は10種類に及び、関係企業には有害だと認識しながら販売し、発覚後に証拠を隠蔽した疑惑もあり、「家の中のセウォル号事件」とも呼ばれる。いずれの製品も日本では販売されていない。
韓国メディアによると、オキシー社は01年の殺菌剤の販売開始前に、原料の製造会社から化学物質が有害だと知らされていた疑いがある。(共同)
写真出典:Charges Filed After a Branded Disinfectant Is Linked to at Least 70 Deaths in South Korea | TIME
★2016年5月6日:吉野太一郎のHuffington Post記事 「韓国「加湿器殺菌剤」事件、大学教授の実験報告書はこうして歪められた」
出典 → 韓国「加湿器殺菌剤」事件、大学教授の実験報告書はこうして歪められた、保存済
イギリスの殺菌剤メーカーレキットベンキーザーの日本・韓国法人「オキシー・レキットベンキーザー」は、韓国政府の疾病管理本部が2011年8月に、加湿器殺菌剤を肺損傷のリスク要因と発表したことに反論するため、韓国で毒性学の権威だった両教授のチームに、原因物質とされたポリヘキサメチレングアニジン(PHMG)の吸入毒性試験を依頼した。両教授は、毒物学の分野で国内最高権威として知られる。
依頼を受けたソウル大の教授チームは3カ月かけて、妊娠したマウスと通常のマウスを使い、PHMGがどのような影響を与えるか実験した。教授は2011年11月14日、「妊娠したマウスの胎児は、15匹中13匹が死亡した」とする中間報告を、オキシー社に提出した。
しかし、オキシー社は教授に対し、妊娠したマウスの実験と、一般のマウスの実験を、別々の報告書にするよう求めた。対照実験の原則からすると異例の要求だが、教授はこれを受け入れ、2012年4月に別の報告書を作成。一般マウスの実験結果と「加湿器殺菌剤と肺疾患の因果関係は明確ではない」との内容が含まれていた。同社は一般マウスの報告書だけを正式に受け取った。
オキシー社に対する検察の捜査が本格化すると、同社は「因果関係が明確でない」とする後者の報告書だけを検察に任意提出したほか、この報告書をもとに、アメリカに本拠を置くコンサルティング会社に別の報告書作成を依頼。同社に対し遺族らが起こした民事訴訟にも反論資料として提出した。
オキシー社は、研究費としてソウル大に2億5000万ウォン(約2300万円)、湖西大学に1億ウォン(約920万円)をそれぞれ支払った。それとは別に、両教授の個人口座に数千万ウォンの諮問料も振り込んでおり、収賄や背任の疑いが持たれている。ソウル大の教授は、一部を私的に流用した疑いも報じられた。
★2016年5月8日:NHKニュース「韓国 殺菌剤問題 大学教授を逮捕」
出典 → 韓国 殺菌剤問題 大学教授を逮捕 | NHKニュース、保存済
韓国でかつて、加湿器に使う殺菌剤に含まれていた有害物質が原因で多くの乳幼児などが死亡した問題を巡り、検察は、殺菌剤を販売していた企業から現金を受け取り、企業側に有利な報告書をまとめた疑いなどで、大学教授を逮捕しました。
この問題は、韓国で2001年から2011年にかけて販売された加湿器用の複数の殺菌剤に有害な化学物質が含まれ、これを吸い込んだ多くの乳幼児や母親などが肺を損傷する被害を受けたものです。
韓国政府は2011年に殺菌剤と肺の損傷との因果関係を認定し、これまでに221人が被害を受け、そのうち95人が死亡したとしています。
韓国の検察は7日夜、殺菌剤を製造、販売した企業の1つでイギリスに本社がある日用品メーカー「オキシー・レキット・ベンキーザー」側からおよそ1200万ウォン(日本円で110万円相当)を受け取って、殺菌剤の人体への影響は明確ではないと企業側に有利な報告書をまとめた疑いなどで、ソウル大学獣医学部の56歳の男性教授を逮捕しました。
検察によりますと、この教授は動物実験の結果について、企業側に有利なようにデータを改ざんした疑いもあるということです。
★2016年6月9日:東岡徹の朝日新聞記事「加湿器殺菌剤で死傷者200人超 韓国検察が本格捜査へ」
出典 → 加湿器殺菌剤で死傷者200人超 韓国検察が本格捜査へ:朝日新聞デジタル、保存済
韓国で販売された加湿器の殺菌剤で200人を超える死傷者が出ており、韓国検察当局が捜査を本格化させている。今月に入り、最も多い死傷者を出した殺菌剤の販売元、英日用品大手の韓国法人元代表を事情聴取。金品を受け取って企業側に有利な報告書をまとめた疑いなどで大学教授を逮捕した。
韓国環境省によると、2011年に原因不明の肺疾患患者の発生が続き、12年に加湿器の殺菌剤との因果関係が認められた。殺菌剤には有害な化学物質が含まれていたという。問題の殺菌剤は今は販売されていない。9日現在で、被害者として認定された人は死者95人を含め、計221人にのぼる。韓国政府もこうした被害者に対し、医療費などを支援している。
一方、被害者らは販売元などに抗議活動を続けてきた。検察当局は最近になって捜査に着手。英日用品大手の韓国法人代表も2日、ソウル市内で記者会見を開き、初めて被害者に謝罪し、補償する考えを表明したが、被害者らは引き続き不買運動を展開している。
韓国では今回問題になった殺菌剤のように日常的に使われる化学製品の安全をどう確保するか見直しを求める声が高まっている。(ソウル=東岡徹)
★2016年9月6日:Yahoo!ニュース「オキシー報告書操作問題”湖西大教授に懲役2年を求刑」
出典 → <加湿器殺菌剤事件>“オキシー報告書操作問題”湖西大教授に懲役2年を求刑=韓国 (WoW!Korea) – Yahoo!ニュース、保存済
オキシー・レキット・ベンキーザー(オキシー)から金を受け取り、有利にはたらくよう実験結果を操作した容疑で裁判にかけられた湖西大学のユ某教授(61)に検察が懲役2年を求刑した。
ソウル中央地裁で6日に開かれたユ教授に対する結審公判で検察は「いまだ自分の責任を認めず反省していない」とし、このように求刑した。
検察は「ユ教授は研究の責任者として、オキシーに有利な報告書を作成した」とし「自身の専門的な知識を利用してオキシーのため、政府の実験結果批判を主導し、対応戦略を誘導した」と指摘した。
続けて「ユ教授の犯行は、取引の品位や研究倫理を侵害したもので非常に重大な犯罪」とし「加湿器殺菌剤事件で製造会社だけでなく、ユ教授の過ちを明白に明らかにし、今後このような悪習が繰り返されないよう、厳重な責任を問うべきだ」と強調した。
これに対しユ教授の弁護人は「捜査記録を5回読んだが、不正な請託があったと認める直接的な証拠が出ていない」と主張した。
●5.【不正発覚の経緯と内容】
一般的に、韓国の研究ネカト事件は、韓国の新聞の日本語版記事を読むと、ほぼ全貌がつかめる。記事が詳しい。
本事件は、韓国の新聞の日本語版記事が多数あり、前述の【4.日本語の解説】でほぼ全貌がつかめる。
以下は補遺である。
★加湿器殺菌剤事件
2001年、英国に本社があるレキットベンキーザー社(Reckitt Benckiser)が、韓国でオキシー社を設立し、加湿器殺菌剤(PHMG:ポリヘキサメチレングアニジン)の販売権を得た。
以下の出典 → ポリヘキサメチレングアニジン – Wikipedia
ポリヘキサメチレングアニジン(PHMG)は、殺生物性消毒薬として利用されているグアニジン誘導体である。殺真菌力と、グラム陽性菌及びグラム陰性菌の両方に対する殺バクテリア力があることが示されている。
PHMG は比較的新しい化合物で、物性、有用性、効果についてまだ十分には知られていない。
1994年、油公(現:SKケミカル)がPHMGを使った加湿器殺菌剤を開発。
2001年以降、韓国では家庭用加湿器の微生物汚染を防ぐための消毒剤として広く使用されていた。
PHMG を含む加湿器用消毒剤は、Reckitt Benckiser(英語版)傘下のOxyなど、多くのブランドにより販売された。2011年、幼児および妊婦の死に繋がる重篤な肺症状とエアロゾルへの曝露との間の関連性が指摘され、禁止された[Donguk Park et al. (2014-09-02). “Exposure characteristics of familial cases of lung injury associated with the use of humidifier disinfectants”. Environmental Health 13 (70). doi:10.1186/1476-069X-13-70]。
複数の疫学的・実験的研究により、家庭用加湿器へのこの物質の使用と肺疾患との間の因果関係は確認されている[Dirk W. Lachenmeier (2015). “Chapter 24 – Antiseptic Drugs and Disinfectants”. Side Effects of Drugs Annual. 37. pp. 273–279. doi:10.1016/bs.seda.2015.06.005.]。
Reckitt Benckiser は当初責任を認めていなかったが、批判を受け2016年5月に責任を全て認めた。
2016年5月2日のBBCニュースによれば、約500人の女性と子供が死傷した(Reckitt Benckiser sold deadly sterilisers in South Korea – BBC News)。
写真出典:Prosecutors seek arrest warrant for former Oxy officials
★チョ教授、ユ教授の関与
2011年8月(チョ教授51歳、ユ教授56歳)、韓国政府の疾病管理本部(Korea Centers for Disease Control and Prevention:KCDC)は、オキシー・レキットベンキーザー社の加湿器殺菌剤により、2001年から2011年に221人が被害を受け、そのうち95人が死亡したと報告した(Oxy apologizes to S.Koreans for usage of toxic chemical in humidifier sterilizer – 抓站 News – SINA English)。
2011年?月(チョ教授51歳、ユ教授56歳)、オキシー・レキットベンキーザー社は疾病管理本部の指摘に反論するため、毒物学の分野で韓国では最高権威のチョ教授とユ教授に加湿器殺菌剤の安全性試験を依頼した。
2012年4月(チョ教授52歳、ユ教授57歳)、チョ教授とユ教授は、加湿器殺菌剤は安全だとの報告書を提出した。しかし、報告書のデータはねつ造・改ざんしたものだった。
2016年5月(チョ教授56歳、ユ教授61歳)、韓国の検察は、データねつ造・改ざんの見返りに金銭授受があったとする収賄や背任で、チョ教授とユ教授を逮捕した。
瑞草洞(ソチョドン)中央地方法院で令状実質審査を終え裁判所を出るチョ教授。なぜ顔にボカシを入れたのだろう? 出典:옥시보고서 조작` 서울대 수의대 조명행 교수, 가습기 수사 후 첫 구속 | 옴부즈맨뉴스
【追記:2016年9月30日】
→ 2016年9月30日:東亜日報「加湿器殺菌剤の有害性報告書を操作した教授に実刑判決」
ソウル中央地裁刑事合意32部(南成民部長判事)は29日、収賄後不正取扱などの容疑で起訴されたチョ被告の1審判決公判で、懲役2年、罰金2000万ウォン、追徴金1200万ウォンを判決した。
裁判部は、「チョ教授は、ソウル大学教授であり、国内毒性学分野の最高権威者として、その地位や影響力に相応する社会的・道徳的責任を負っている」とし、「にもかかわらず、チョ教授は収賄に止まらず、オキシー側に不利な実験データを意図的に外すなど、研究の公正性を傷つけた」と明らかにした。
チョ被告のほか、加湿器殺菌剤報告書を操作した容疑で拘束起訴された湖西(ホソ)大学のユ某被告(61)は、来月14日に1審判決を受ける。
●6.【論文数と撤回論文】
★ミョンヘイン・チョ、(Myung-haing Cho)
2016年9月17日現在、パブメド(PubMed)で、ミョンヘイン・チョ(Myung-haing Cho)の論文を「Myung-haing Cho [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2016年の15年間の225論文がヒットした。
2016年9月17日現在、撤回論文はない。
★ユ教授(Yoo)
ユ教授(Yoo)は、韓国・湖西(ホソ)大学(Hoseo University)・教授で、専門は毒性学である。
パブメド(PubMed)で、ユ教授(Yoo)の論文を「(Yoo[Author]) AND Hoseo University[Affiliation]」で検索した。0論文がヒットした。
毒性学の権威なのに論文がゼロというのはとてもヘンだ。 ユ教授を「Il Je Yu」として、「(Il Je Yu[Author]) AND Hoseo University[Affiliation]」で検索した。
2010~2016年の7年間の27論文がヒットした。
ビンゴー。論文のタイトルと以下のPDFファイルの人物紹介から判断して、「Il Je Yu」が本記事のユ教授と思われる。
2010年以前の論文も合わせて調べるため、「Yu IJ[Author]」で検索したら、1991~2016年の26年間の118論文がヒットした。
2016年9月17日現在、撤回論文はない。
●7.【白楽の感想】
《1》なぜ? 御用学者の「成り行き説」
韓国政府の疾病管理本部が2011年8月に、加湿器殺菌剤を肺損傷のリスク要因と発表している。もちろん、その発表に科学的根拠がある。Donguk Park et al. (2014-09-02)の論文、Dirk W. Lachenmeier (2015)の論文が示されている。
それなのに、この2人の教授は、企業から依頼されて、改めて、安全性試験をした。安全性試験の結果、加湿器殺菌剤が危険だというデータを自分で得た。ところが、企業が有利になるように、危険だというデータを改ざんし「加湿器殺菌剤と肺疾患の因果関係は明確ではない」と、安全に味方する報告をした。
どうして、そんなことをしたのだろう?
検察の告発には、見返りとして、1200万ウォン(日本円で110万円相当)を受け取ったとある。しかし、韓国の大学教授にとって、危険を冒す大金とはとても思えない。1200万ウォン(日本円で110万円相当)は、もちろん、検察が証拠としてつかんだ表に出ている金額である。
実際は、オキシー・レキットベンキーザー社が加湿器殺菌剤を販売した2001年前後から、現金と便宜供与を受けていたのだろう。推察すれば、公表された現金110万円の10倍・20倍の金額を受け取っていただろう。10倍で1,100万円、20倍で2,200万円である。それでも、この金額だけで、大学教授が動いたと思えない。お金よりも人間関係だろう。
韓国政府の疾病管理本部がリスク要因だと発表しても、安易にオキシー・レキットベンキーザー社側の擁護をする御用学者なのだ。それで、成り行きで、会社に都合のよいようにデータを改ざんをし、報告した。つまり、10年以上の腐れ縁がある御用学者の「成り行き説」である。
《2》匿名・実名は、なぜ?
本文中に書いたが、この事件の報道では、実名報道もあるが、チョ教授、ユ教授の2人を匿名にし顔写真をボカす報道が多い。なぜ実名・匿名の混在報道なのか?
韓国の事件報道では、実名が多いが、匿名もそこそこある。しかし、1つの事件で実名・匿名の混在報道である。珍しい。どうしてなのだ?
また、ユ教授の名前は姓(Yoo)しか報道されていない。ところが、湖西(ホソ)大学(Hoseo University)の毒性学にYoo教授はいない。毒性学研究者で同じ読みのYu教授(Il Je Yu)はいる。
このYu教授を隠蔽するためにYoo教授という英語名を使用したと思える。
しかし、韓国の毒性学の分野の研究者なら、所属大学と姓の読み方がわかれば人物を特定できる。姓名の名を隠しても意味がないと思えるのだが、どういう意図なのだろう?
●8.【主要情報源】
① 2016年5月9日、JANG HYUK-JINとLEE YU-JUNGの「JoongAng Daily」記事:SNU professor claims he briefed Oxy on harm-INSIDE Korea JoongAng Daily(保存版)
② 2016年5月4日、「Yonhap」記事:SNU professor arrested over alleged manipulation of Oxy reports(保存版)
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。