2018年3月17日掲載。
ワンポイント: 2018年2月20日(34歳?)、研究公正局はコリーン・スカウがネカトをしたと発表し、3年間の締め出し処分を科した。NIH・国立心肺血液研究所(NHLBI; National Heart, Lung, and Blood Institute)のポスドクで、医師ではない。2017年(33歳?)、NIHのポスドク時代に、ボスのクレア・ウォーターマン部長(Clare Waterman)がネカトに気が付き、告発したと思われる。損害額の総額(推定)は1億8500万円。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
コリーン・スカウ(Colleen T. Skau、写真出典)は、米国のNIH・国立心肺血液研究所(NHLBI; National Heart, Lung, and Blood Institute)のポスドクで、医師ではない。2017年(33歳?)、NIHのポスドク時代の論文にネカトが発覚したが、研究公正局が発表した時は、テキサス大学サウスウェスタンメディカルセンター(University of Texas Southwestern Medical Center)の助教授(?)で、テキサス州政府から200万ドル(約2億円)の助成金が支給されることになっていた(後に撤回)。専門は細胞生物学。
2017年初頭(33歳?)、ボスのNIH・国立心肺血液研究所 (NHLBI; National Heart, Lung, and Blood Institute)のクレア・ウォーターマン部長(Clare Waterman)がデータねつ造・改ざんに気が付いて、健康福祉省・研究公正局に通報したと思われる。
2018年2月20日(34歳?)、研究公正局はコリーン・スカウがネカトをしたと発表した。締め出し期間は標準の3年間を科した。
- 国:米国
- 成長国:米国
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:シカゴ大学
- 男女:女性
- 生年月日:不明。仮に1984年1月1日生まれとする。2008年にシカゴ大学・院生として最初の論文(第二著者)を発表している。2006年に大学院に入学したと仮定し、この時を22歳とした
- 現在の年齢:40 歳?
- 分野:細胞生物学
- 最初の不正論文発表:2015年(31歳?)
- 発覚年:2017年(33歳?)
- 発覚時地位:NIH・国立心肺血液研究所のポスドク
- ステップ1(発覚):第一次追及者は、推定だが、ボスのクレア・ウォーターマン部長(Clare Waterman)で、データねつ造・改ざんに気が付いて研究公正局に通報した
- ステップ2(メディア):
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①研究公正局
- 調査報告書のウェブ上での公表:あり
- 透明性:研究公正局でクロ判定(〇)。
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:2論文
- 時期:研究キャリアの初期から
- 損害額:総額(推定)は1億8500万円。内訳 → ①研究者になるまで5千万円。②研究者の給与・研究費など年間2000万円が2年間=4千万円。③院生の損害はない。④外部研究費の額はテキサス州政府の癌予防研究所(Cancer Prevention and Research Institute of Texas)から200万ドル(約2億円)支給されるハズだったが、撤回された。選考などの損害は100万円。⑤調査経費(学術誌出版局と研究公正局)が5千万円。⑥裁判経費なし。⑦論文出版・撤回作業が1報につき100万円、撤回論文の共著者の損害が1報につき100万円。2報問題視されているので=400万円。⑧研究者の時間の無駄と意欲削減が4千万円
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)をやめた・続けられなかった(Ⅹ)
- 処分: NIHから 3年間の締め出し処分
●2.【経歴と経過】
ほとんど不明。
- 生年月日:不明。仮に1984年1月1日生まれとする。2008年にシカゴ大学・院生として最初の論文(第二著者)を発表している。2006年に大学院に入学したと仮定し、この時を22歳とした
- xxxx年(xx歳):xx大学(xx University)で学士号取得
- 2006年?(22歳?):シカゴ大学(University of Chicago)・生物物理学専攻・大学院に入学
- 2011年?(27歳?):シカゴ大学(University of Chicago)・生物物理学専攻・大学院で研究博士号(PhD)を取得
- 2011年‐2014年?(27-30歳?):不明(出産・育児?)。2012年‐2014年に論文出版なし
- 2014年?(30歳?):NIH・国立心肺血液研究所 (NHLBI; National Heart, Lung, and Blood Institute)のポスドク。ボスはクレア・ウォーターマン部長(Clare Waterman)
- 2015年(31歳?):あとで問題視される論文発表
- 2017年(33歳?):ネカトが発覚
- 2017年5月(33歳?):テキサス大学サウスウェスタンメディカルセンター(University of Texas Southwestern Medical Center)・助教授(?)になることで、テキサス州政府の癌予防研究所(Cancer Prevention and Research Institute of Texas)から5年間で200万ドル(約2億円)の助成金が約束された
- 2017年7月(33歳?):NIHからネカト調査しているとの通知を受け、上記助成金が撤回された
- 2017年(33歳?):同大学・解雇(推定)
- 2018年2月20日(34歳?):研究公正局がネカトと発表した
●5.【不正発覚の経緯と内容】
2011年?(27歳?)、コリーン・スカウ(Colleen Skau)はシカゴ大学(University of Chicago)・生物物理学専攻・大学院で研究博士号(PhD)を取得した。
ボスはデビッド・コバール準教授(David R Kovar、写真出典 )だった。コバール準教授と共著で、2008- 2011年に7論文を出版している。
2017年(33歳?)、NIH・国立心肺血液研究所 (NHLBI; National Heart, Lung, and Blood Institute)のクレア・ウォーターマン部長(Clare Waterman、写真出典)のポスドクの時に出版した論文がネカトと指摘された。ウォーターマン部長と共著で、2015- 2016年に3論文を出版している。
2017年5月(33歳?)、NIH・ポスドクの後、テキサス大学サウスウェスタンメディカルセンター(University of Texas Southwestern Medical Center)・助教授(?)にリクルートされ、テニュアを取得するまで、テキサス州政府の癌予防研究所(Cancer Prevention and Research Institute of Texas) から5年間で200万ドル(約2億円)の助成金が支給されることになった。
→ Cancer Prevention Research Institute of Texas
2017年7月(33歳?)、NIHからコリーン・スカウのネカトを調査しているとの通知を受け、癌予防研究所は上記助成金を撤回した。
2017年(33歳?)、テキサス大学サウスウェスタンメディカルセンターは、コリーン・スカウを解雇した(辞職した?)。
2018年2月20日(34歳?)、研究公正局はコリーン・スカウがネカトをしたと発表した。締め出し期間は標準の3年間を科した。
●【ねつ造・改ざんの具体例】
研究公正局は「2015年のProc Natl Acad Sci USA」論文と「2016年のCell」論文にねつ造・改ざんがあったと発表した。書誌情報を以下に示す。
- Inverted formin 2 in focal adhesions promotes dorsal stress fiber and fibrillar adhesion formation to drive extracellular matrix assembly.
Skau CT, Plotnikov SV, Doyle AD, Waterman CM.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2015 May 12;112(19):E2447-56. doi: 10.1073/pnas.1505035112. Epub 2015 Apr 27.
PMID:25918420 - FMN2 Makes Perinuclear Actin to Protect Nuclei during Confined Migration and Promote Metastasis.
Skau CT, Fischer RS, Gurel P, Thiam HR, Tubbs A, Baird MA, Davidson MW, Piel M, Alushin GM, Nussenzweig A, Steeg PS, Waterman CM.
Cell. 2016 Dec 1;167(6):1571-1585.e18. doi: 10.1016/j.cell.2016.10.023. Epub 2016 Nov 10.
PMID:27839864
★「2015年のProc Natl Acad Sci USA」論文
「2015年のProc Natl Acad Sci USA」論文の書誌情報は上に示した。2018年3月12日に撤回された。
この論文では、細胞の高解像度の微細構造がとても美しい。バックグランドもきれいだ。細胞像から判断して、かなり高価な機器と高度なテクニックを使っていると思われる。以下がその典型的な細胞像(図2A)である。図2Aにねつ造・改ざんは指摘されていない。
この論文にはまた、見事な動画も添付されている。以下に2つリンク先を示す。
http://movie-usa.glencoesoftware.com/video/10.1073/pnas.1505035112/video-1
http://movie-usa.glencoesoftware.com/video/10.1073/pnas.1505035112/video-6
研究公正局が指摘したねつ造・改ざんは以下の6点である。
結論を先に言うと、6点とも、図2Aに示したような細胞像を基に、数値化し、棒グラフにしたデータである。実際に分析した細胞数よりもを多い数値を論文に記載したねつ造・改ざんである。この種のねつ造・改ざんは第三者が論文を見ても決してわからない。生データを見せてもらうか、共同研究者しか発見できない。
【図1E】
論文ではトロポミオシン(Tpm)の解析で6個の細胞を解析したと記載した。実験記録には3個の細胞とあった。
【図2C】
論文ではトロポミオシン(Tpm)の解析では20個の細胞を解析したと記載した。実験記録にはControlで16個、INF2KDで16個、Rescue で5個の細胞とあった。
【図3A】【図3C】
省略
【図7D】
図は省略するが、細胞数を過大に記載した。
★「2016年のCell」論文
「2016年のCell」論文の書誌情報も上に示した。2018年3月16日現在、撤回されていない。
研究公正局が指摘したねつ造・改ざんは以下の9点である。
結論を先に言うと、9点とも、論文では解析した細胞の実数より多い数値を記載した。「2015年のProc Natl Acad Sci USA」論文のデータねつ造・改ざんと同じである。この種のねつ造・改ざんは第三者が論文を見ても決してわからない。生データを見せてもらうか、共同研究者しか発見できない。
【図2B】
論文では、上の図では10個の細胞を解析した記載した。実験記録にはFMN2KDで9個、Rescue で8個の細胞とあった。
論文では、下の図では10個の細胞を解析した記載した。実験記録にはRescue で8個の細胞とあった。
【図3B】【図5A】【図6D】【図7D】【図S2E】【図S4C】【図S5B】【図S6E】
省略するが、上記と同じような棒グラフで、細胞数を過大に記載した。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
2018年3月16日現在、パブメド(PubMed)で、コリーン・スカウ(Colleen T. Skau)の論文を「Colleen T. Skau [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2008- 2016年の9年間の10論文がヒットした。
「Skau CT[Author]」で検索しても、同じ10論文がヒットした。
大学院時代の指導教員であるボスのデビッド・コバール準教授(David R Kovar)との共著論文を「Skau CT[Author] AND David R Kovar [Author]」で検索すると、2008- 2011年の7論文がヒットした。
ポスドク時代のボスであるNIH・国立心肺血液研究所 (NHLBI; National Heart, Lung, and Blood Institute)のクレア・ウォーターマン部長(Clare Waterman)との共著論文を「Skau CT[Author] AND Clare Waterman [Author]」で検索すると、2015- 2016年の3論文がヒットした。
2018年3月16日現在、「Skau CT[Author] AND retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、1論文が撤回されていた。
- Inverted formin 2 in focal adhesions promotes dorsal stress fiber and fibrillar adhesion formation to drive extracellular matrix assembly.
Skau CT, Plotnikov SV, Doyle AD, Waterman CM.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2015 May 12;112(19):E2447-56. doi: 10.1073/pnas.1505035112. Epub 2015 Apr 27.
Retraction in: Proc Natl Acad Sci U S A. 2018 Mar 12;:.
PMID:25918420
★パブピア(PubPeer)
2018年3月16日現在、「パブピア(PubPeer)」はコリーン・スカウ(Colleen T. Skau)の2論文にコメントがあった。ただし、研究公正局の報告をコピペしただけ。:PubPeer – Search publications and join the conversation.
●7.【白楽の感想】
《1》詳細は不明
この事件の詳細は不明です。
コリーン・スカウ(Colleen T. Skau)がどうしてネカトをする状況になったのか不明である。
ネカト防止策は、この事件からは学べない。
ただ、ボスのNIH・国立心肺血液研究所 (NHLBI; National Heart, Lung, and Blood Institute)のクレア・ウォーターマン部長(Clare Waterman)は、とても鋭い人だと思う。
「10個の細胞を解析したとあるが、実験記録には9個しかない」、なんて、普通の研究者は見抜けない。どうやって怪しいと感じたのだろうか?
コリーン・スカウは日常会話でも「話を盛る」人だったのだろうか? 一般的に、日常会話で研究者のネカト危険度を判定できるのだろうか? 白楽の経験からすると、判定できる気がする。誰か、しっかり研究して欲しい。
《2》研究初期のネカト
コリーン・スカウのデータねつ造・改ざんは、どれも、解析した細胞の数を実際より多く記載した行為である。
この種のねつ造・改ざんは第三者が論文を見ても決してわからない。生データを見せてもらうか、共同研究者しか発見できない。
そして、シカゴ大学の大学院時代にボスのデビッド・コバール準教授(David R Kovar)と共著で2008- 2011年に7論文も出版している。
法則:「ネカト癖は院生時代に形成されることが多い」。
大学院時代の7論文もねつ造・改ざんの可能性が高い。シカゴ大学はこれらの論文を調査すべきか? 「すべき」かと問われれば、「すべき」でしょうが、しかし、金もかかるし、シロクロつけても見返りは少ない。シカゴ大学は7年以上も昔の院生の論文を調査しないでしょうね。
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●8.【主要情報源】
① 研究公正局の報告:(1)2018年2月20日:【魚拓】Case Summary: Skau, Colleen T. | ORI – The Office of Research Integrity、(2)2018年2月23日:83 FR 8091 – Findings of Research Misconduct
② 2018年2月20日のアリソン・マクック(Alison McCook)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Target of $2M recruitment grant falsified several images: ORI – Retraction Watch
③ 2018年2月24日のトッド・アッカーマン(Todd Ackerman)記者の「Houston Chronicle」記事:Scientist’s falsified research led to withdraw of CPRIT-funded job offer – Houston Chronicle、(保存版)
④ 2018年2月22日のサブリヤ・ライス(Sabriya Rice)記者の「Dallas News」記事:UT Southwestern withdrew $2 million grant from a cancer researcher who allegedly falsified data | Health Care | Dallas News
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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