ヒュンイン・ムン(문형인、Hyung-In Moon)(韓国)

2014年12月30日掲載。2022年3月7日改訂 

ワンポイント:ムンは、査読偽装の先駆者、パイオニア、元祖。2012年(38歳?)、イタリアのフィレンツェ大学・教授のクラウディウ・スープラン編集長(Claudiu Supuran)が、東亜(とんあ)大学(Dong-A University)・教授だったムン の査読偽装を見破った。結局、ムンの2005~2011年(31~37歳?)の7年間の35論文が撤回され、現在、「撤回論文数」世界ランキング の第16位である。その後、ムンは研究者を廃業した模様。国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)。この事件は、白楽指定の重要ネカト事件である:学術出版界が査読偽装という研究不正を初めて認識した事件で、その後、類似の不正行為が2桁数見つかっている。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

141225 moon[1]ヒュンイン・ムン(문형인、Hyung-In Moon、Hyun Im Moon、写真出典)は、韓国・釜山の東亜(とんあ)大学(Dong-A University)・教授。専門は薬学である。

2012年(38歳?)、自分が投稿した論文の査読を別人を装って彼自身が行なう査読偽装が発覚した。

結局、ムンの2005~2011年(31~37歳?)の7年間の35論文が撤回された。

ムンの査読偽装は研究不正事件の関係者に衝撃を与えた新しい方法だった。

査読偽装したムンの最古の論文は2015年で、査読偽装の先駆者、パイオニア、生みの親、元祖である。

ムンの撤回論文数は35報で、2015 年6月18日時点では第7位だったが、2022年3月6日現在、「撤回論文数」世界ランキング の第16位である。30位以内のランキング入りしている韓国の研究者では唯一人である。

「The Scientist」誌の2012年の科学トップ・スキャンダルの第4位である。 → 2012年ネカト世界ランキング | 白楽の研究者倫理

13.「Listverse」誌の「フィクションを事実として発表した面汚し科学者10人」:2015年12月17日の3番目である。 → 全期間ネカト世界ランキング(1) | 白楽の研究者倫理

東亜大学(Dong-A University)。写真出典

  • 国:韓国
  • 成長国:韓国
  • 博士号取得:成均館(せいきんかん、ソンギュングァン)大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1974年1月1日生まれとする
  • 現在の年齢:48歳?
  • 分野:薬学
  • 不正論文発表:2005~2011年(31~37歳?)の7年間
  • 発覚年:2012年(38歳?)
  • 発覚時地位:東亜大学(Dong-A University)・教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は学術誌・編集長のクラウディウ・スープラン教授(Claudiu Supuran、イタリア)
  • ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」、「Chronicle of Higher Education」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②東亜大学は調査していない
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査していない
  • 大学の透明性:調査していない、発表なし(✖)。
  • 不正:査読偽装
  • 不正論文数:2005~2011年の 35報が撤回。
  • 時期:研究キャリアの初期から?
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)をやめた・続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分:東亜大学・教授を辞職(解雇?)
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:https://archive.ph/wip/7A47V

  • 仮に1974年1月1日生まれとする
  • 19xx年(xx歳):韓国のxx大学卒業
  • 1997~2001年(27歳?):成均館大学(せいきんかん、ソンギュングァン、Sungkyunkwan University:SKKU) ・薬学部(Department of Pharmacy)で博士号 (PhD) を取得
  • 2001~ 2010年(27~36歳?):ソウル大学(Seoul National University)、圓光大学校(Wonkwang University)、東国大学(Dongguk University)と移籍
  • 2005年(31歳?):査読偽装を始めた
  • 2010年(36歳?)(推定):東亜大学(Dong-A University)・教授
  • 2012年(38歳?):査読偽装が発覚する
  • 2018年(42歳?)(推定):東亜大学・教授を辞職

●4.【日本語の解説】

★日本語版ウィキペディア:ムン・ヒュンイン – Wikipedia

ムン・ヒュンイン(朝鮮語: 문형인、Moon Hyung-In、漢字表記不明)は、大韓民国の科学者(薬学博士)で、東亜大学校の元教授である。ムン・ヒュンインは、2001年に成均館大学校 (Sungkyunkwan University (SKKU)) の薬学部 (Department of Pharmacy) にて博士号 (PhD) を取得した。また、Department of Medicinal Biotechnologyの会員である[1]

ムン・ヒュンインは、科学論文を科学雑誌に投稿した際に、彼自身が管理できるようにしていた偽名科学者の偽のメールアドレスを、論文の査読者の連絡先として推薦し、彼自身で自分の論文を査読し、受理させるよう働いたという前代未聞の研究不正が発覚し、合計35報の論文が撤回されるに至った[2][3][4]

2014年2月22日:論文捏造:「Hyung-In Moonの論文は素晴らしい!」と、Hyung-In Moonは称賛した。

出典 → ココ、(保存版

大韓民国の東亜大学校(Dong-A University)の元教授のムン・ヒュンイン(Hyung-In Moon)は、科学論文を科学雑誌に投稿した際に、彼自身が管理できるようにしていた偽名科学者の偽のEメールアドレスを、論文の査読者の連絡先として推薦し、彼自身で自分の論文を査読(審査)し、受理させるよう働いたという前代未聞の研究不正事件が明らかとなり、合計35報の論文が撤回されるに至った。

2014年12月15日:Chem-Station:ペリプラノン:そこまでやるか?ー不正論文驚愕の手口

出典 → ココ、(保存版) 

お隣韓国の Hyung-In Moonは、フリーのメールアカウントを複数取得し、適当な研究者をでっち上げた上で(中には実在する研究者の名前もあったようです)、審査員の候補者として推薦していました。当然審査の依頼は自分に来ることになりますので、論文の受理はほぼ間違いないでしょう。

審査員の推薦という制度の盲点を突いた不正といえます。編集者は専任というわけではなくどこかの大学の先生であることがほとんどですから、基本的に多忙です。自分の専門と少しずれた分野の論文であれば内容はともかく、審査員として誰が適しているのかを判断するのは容易ではありません。すると推薦された審査員をそのまま選んでしまうということがあり得るのです。

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★発覚

2008年4月(34歳?)、ムンは、間違いがあったという理由で、以下の「2005年のJ Ethnopharmacol.」論文を自ら撤回した。

2012年(38歳?)、「Enzyme Inhibition and Medicinal Chemistry」誌のクラウディウ・スープラン編集長(Claudiu Supuran、写真出典)は、ムンの論文査読者に疑念を抱いた。なお、スープラン編集長はイタリアのフィレンツェ大学(University of Florence)・教授である。

ムンは、原稿投稿時に、推奨査読者を示し、この研究者に論文を査読してもらいたいと連絡していた。

ところが、

  • 推奨査読者の電子メールアドレスがgmailなどで、大学や研究所ではない
  • 推奨査読者の電子メールアドレスは韓国だけである
  • 推奨査読者は、毎回、24時間以内に査読を終え、返送してくる

スープラン編集長は、疑念をムンに示し、問い合わせた。

すると、ムンはあっさり、自分が他人になりすまして査読していたことを認めた。

なお、ムンの所属大学・東亜大学に何度問い合わせても、何も返事が得られなかったそうだ。

★類似犯

ムンの査読偽装は研究不正事件の関係者に衝撃を与えた新しい方法だった。

中国・貴陽市(きようし)の公立大学・貴陽中医学院(Guiyang College of Traditional Chinese Medicine)のグワンジー・ホーァ(Guang-Zhi He)も同様な手口の査読偽装していた。 → グワンジー・ホーァ(Guang-Zhi He)事件: 2012年7月11日の「撤回監視(Retraction Watch)」が記事:Elsevier parasitology journal retracts paper after finding author made up peer reviewer email addresses – Retraction Watch

グワンジー・ホーァ(Guang-Zhi He)の査読偽装は、「2012年2月のExp Parasitol」論文である。ムンのは2015年からなので、査読偽装はムンの方が7年も早い。

査読偽装という新手の不正が発表され、その後、中国、インド、イラン、米国など、各独立した複数人の査読偽装者が摘発されるようになった。

ムンは、査読偽装の先駆者、パイオニア、生みの親、元祖として、研究不正事件の歴史に残る人物となった。

★その後:名前を変えた?

ムンは、事件が発覚する前は英語著者名を「Hyun -In Moon」としていたが、事件後、「Hyun Im Moon」と変えている。

この微妙な違いで、ウェブでの検索がヒットしなくなる。

パブメド(PubMed)で、「Hyung-In Moon [Author]」で検索すると、2003~2019年の17年間の135論文がヒットするが、「Hyun Im Moon」で検索すると、2012~2022年の32論文がヒトする。

なかなか巧妙である。

と思ったので所属や写真を調べた。

すると、あ~、ゴメン。「Hyun Im Moon」は、ブンダン・ジェセン病院(Bundang Jesaeng Hospital)所属の別人(女性、写真出典)だった。

一般的に、類似氏名の人はなんらかの被害があるでしょうね。

★その後:研究廃業?

ムンの最新の論文をパブメド(PubMed)で探ると、「2019 年1月のOncol Rep. 」論文である。

所属は「Department of Medicinal Biotechnology, College of Health Sciences, Dong-A University」となっている。

しかし、2022年3月6日現在、そのサイト「Department of Medicinal Biotechnology, College of Health Sciences, Dong-A University」の教員リストムンはのっていない。

2019 年1月のOncol Rep. 」論文以降、ムンは論文を出版していない。

それで、2018年(42歳?)頃、ムンは東亜大学・教授を辞職したと思われる。辞職し、研究職を廃業したと思われる。

★その後:副作用

141225 03992ad[1]2012年6月15日、ムンの論文を掲載し、その後、20報も撤回した「Immunopharmacology and Immunotoxicology」誌のイタリア人編集長エミリオ・ジリーロ(Emilio Jirillo)(バーリ大学・教授、写真出典)は編集長を辞任した。

ジリーロは、「自分の時間を、不正研究防止に費やすより、高度な研究に費やしたい」と、辞任したそうだ。まあ、「バカに付き合ってるヒマはない!」ってとこでしょう。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2022年3月6日現在、パブメド(PubMed)で、ヒュンイン・ムン(Hyung-In Moon)の論文を「Hyung-In Moon [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2003~2019年の17年間の135論文がヒットした。

2022年3月6日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、34論文が撤回されていた。

「Moon HI[Author]」で検索すると、2000年~2022年の23年間の191論文がヒットした。この191論文には、上述したように、「Hyun Im Moon」の論文も入っています。

2022年3月6日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、 191論文の内の35論文が撤回されていた。最新の3報と最古の1報をリストする。

最新の3

  1. Hepatoprotective effects on alcoholic liver disease of fermented silkworms with Bacillus subtilis and Aspergillus kawachii.
    Cha JY, Kim YS, Moon HI, Cho YS.
    Int J Food Sci Nutr. 2012 Aug;63(5):537-47. doi: 10.3109/09637486.2011.607801. Epub 2011 Aug 15.
    Retraction in:
    Int J Food Sci Nutr. 2012 Sep;63(6):766
  2. Effect of fermented Angelicae gigantis Radix on carbon tetrachloride-induced hepatotoxicity and oxidative stress in rats.
    Cha JY, Ahn HY, Moon HI, Jeong YK, Cho YS.
    Immunopharmacol Immunotoxicol. 2012 Apr;34(2):265-74. doi: 10.3109/08923973.2011.600765. Epub 2011 Aug 19.
    Retraction in:
    Immunopharmacol Immunotoxicol. 2012 Dec;34(6):1077-8
  3. Isolated compounds from Sorghum bicolor L. inhibit the classical pathway of the complement.
    Moon HI, Lee YC, Lee JH.
    Immunopharmacol Immunotoxicol. 2012 Apr;34(2):299-302. doi: 10.3109/08923973.2011.602690. Epub 2011 Aug 19.
    Retraction in:
    Immunopharmacol Immunotoxicol. 2012 Dec;34(6):1077-8.

 最古の1

  1. Matrix metalloproteinase-1 expression inhibitory compound from the whole plants of Viola ibukiana Makino.
    Moon HI, Kim MR, Cho MK, Park S, Chung JH.
    Phytother Res. 2005 Mar;19(3):239-42.
    Retraction in:
    Phytother Res. 2007 Jun;21(6):600

★撤回監視データベース

2022年3月6日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでヒュンイン・ムン(Hyung-In Moon)を「Hyung-In Moon」で検索すると、35論文が撤回されていた。

2005~2011年出版された35論文が2006~2012年に撤回された。

★パブピア(PubPeer)

2022年3月6日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ヒュンイン・ムン(Hyung-In Moon)の論文のコメントを「Hyung-In Moon」で検索すると、3論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》事件の重要性

査読偽装は2012年に発覚した新しい不正だが、手口は簡単である。

白楽は、このような不正が起こることを学術出版界が想定していなかったことに驚いた。簡単な手口なので、想定し対策を立ててなかった学術出版界がお粗末だと思う。

現在の論文出版システムは、そのそも、査読制度に無理があり過ぎる。

研究者にとって査読は荷重なのに、無料奉仕である。優秀な研究者ほど査読依頼が来る。査読制度を抜本的に改善すべきだと思う。

捕食学術誌が跋扈する状況はよくわかる。

《2》情報が少ない

ムン事件では、事件を起こしたムンの背景が見えてこない。

ムンの経歴情報はコツコツと集めたので、それなりに判明した。

しかし、ムンの情報が少ない。人柄や考え方、事件を起こした研究環境が見えてこない。ウェブ情報を意図的に削除したのだろう。

スライドの出典:ラルフ・フルバン教授(Ralph Hruban)の2012年12月12日の38枚目のスライド、https://slideplayer.com/slide/6410655/

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●9.【主要情報源】

① ウィキペディア日本語版:ムン・ヒュンイン – Wikipedia
②  ヒュンイン・ムン(Hyung-In Moon)に関する「撤回監視(Retraction Watch)」記事群:hyung-in moon Archives – Retraction Watch at Retraction Watch
③ 2012年9月30日のジョシュ・フィッシュマン(Josh Fischman)記者の「Chronicle of Higher Education」記事: Fake Peer Reviews, the Latest Form of Scientific Fraud, Fool Journals
④  ◎2012年10月3日のジェフ・アキスト(Jef Akst)記者の『科学者』誌(The Scientist)記事:Scientists Review Own Papers | The Scientist Magazine®
⑤ Ferguson, C., Marcus, A. & Oransky, I. Publishing: The peer-review scam. Nature 515, 480–482 (2014). https://doi.org/10.1038/515480a
⑥  2012年8月24日のデイヴィッド・ワグナー(David Wagner)記者の「Atlantic Wire」記事:Researcher, Peer Review Thyself – David Wagner – The Atlantic Wire
⑦ :: 동아대학교 ::

★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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