2017年6月17日掲載。
ワンポイント:【長文注意】。米国の一般社会・メディア・出版界・学術界・政治家はネカトへの関心が高い。米国は科学研究全般で世界を牽引してきたが、ネカト対策でも優れたシステムを構築し、世界を牽引している。しかし、一皮剥いた内情は、省庁間での不統一が大きく、研究分野間で大きく異なる状況を生み出している。また、科学庁(NSF)は問題を抱え、食品医薬品局(FDA)はネカト隠ぺい体質が非難されている。さらに、ネカト対策の模範を示してきた研究公正局(生命科学系)は、2017年6月16日現在、組織的問題が深刻で、内紛が激しく、トランプ大統領の科学軽視も重なり、崩壊の危機を迎えている。とはいえ、日本は、米国のネカト対策を驚くほど知らないし、学んでいない。
【追記】
●2017年11月21日:研究公正局・所長のキャシー・パーティンが2017年12月4日、解雇。①Director of U.S. HHS Office of Research Integrity temporarily removed from post – Retraction Watch at Retraction Watch、②Director of HHS scientific fraud office is out after stormy 2-year tenure | Science | AAAS
●2017年10月22日:グラント・システム変更? Rand Paul takes a poke at U.S. peer-review panels | Science | AAAS
●2017年10月17日:研究公正局・調査監査部門長のスーザン・ガーフィンケルは2017年11月10日、辞職。Division director leaving U.S. research watchdog after nearly 15 years – Retraction Watch at Retraction Watch
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.5つの誤解:あなた、誤解してません?
3.研究公正局が崩壊?
4.他省庁のネカト対策
5.トランプ政権による激変
6.各視点から
7.日本語記事
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
研究公正局・前所長のデビッド・ライト(David Wright)が、「研究公正局・所長の仕事は最高だが、最悪だった」と発言。画像出典。
「米国の研究ネカト問題」をどう解説しようかと、白楽はかなり迷った。本記事は、迷いつつ書いた。結果として、長文なのに、実情を十分伝えられていない感がある。それに、未完成・未推敲の部分もあって一部不正確である。ゴメン。
実は、伝えるベキ情報がたくさんある。十分伝えようとすると1~2冊の本になる。軽く読むためには、かなり削らねばならない。
で、本記事にはエッセンスしか書いてない、と思って読んでね。
まず、米国の研究ネカト問題の特徴を3点示そう。
第一点は、国家機関として研究公正局(ORI、Office of Research Integrity)があり、世界で最高のネカト対策システムが構築されている。
第二点は、ところが、ネカトでクロと判定された者の人数を国別でみると、他国に比べ圧倒的に多く、ダントツの世界一位である。
第三点は、研究倫理に関する研究者数や担当者数を国別でみると、他国に比べこれも圧倒的に多く、世界一位である。
つまり、世界で最高のネカト対策システムが構築されているのに、皮肉なことに、世界で最多数のネカト者が摘発されている。
両方を一緒に捉えれば、真実が見えてくる。
つまり、米国は、ネカトの関心が高く、議論・意識が高いために、結果的に、ネカト者が多数摘発される。
裏を返せば、ネカト者の摘発が少ない国は、ネカト対策がしっかりしているのではなく、ほぼまったく機能していないと理解すべきなのだ。
米国には、ネカト問題を研究する学者が多い。新聞メディアがネカト記事を詳細に報道し、ネカトを糾弾する。また、一般国民も、政治家も、もちろん知識人も、ネカト問題に対する意識が高い(客観的測定値はない)。
ネカト予算も世界一位で、ネカト研修、ネカト・シンポジウムの質も量も世界一位である。
早い話、米国がネカトのすべての面で圧倒的に世界一位である。
日本人は米国文化に親近感が強く、第二次大戦後、米国のシステムを猿真似のように取り入れてきた。
ところが、ネカト対策に関しては、日本は驚くほど取り入れていない。
政治家は論外なほど、そして、一般国民も知識人も、さらにメディアも学者も、日本はネカト問題に対する意識が低く、米国の状況とは大きく異なる。どうしてなんだろう?
ここまで米国をほめてきたが、マッ、もちろん、米国のネカト対策システムにも問題点が結構ある。
●【全体像と契機】
★全体像
- 国:米国
- 日本を標準として、研究倫理を比べると:「①とても良い」、②良い、③日本と同等、④悪い、⑤とても悪い。
- 国の専門管理組織:ある
- 論文数:275,625報で世界第1位(2008年)(日本は第5位)(論文成果に見る我が国の状況:文部科学省)
- 研究開発費:2013年の統計値だが、研究開発費は4579億USドル(約46兆円)で世界第1位。日本は1602億USドル(約16兆円)で米中に次いで世界第3位。GDPに占める研究開発費は2.73%(日本は3.47%)。Report – S&E Indicators 2016 | NSF – National Science Foundation
- 研究博士号(PhD)取得者数:毎年約25,000人(DAAD Tokyo)
- 大学数:米国は3,026 校で、世界第1位(Higher education in the United States – Wikipedia)。日本は779校(文部科学統計要覧(平成28年版):文部科学省)。
- 研究者数:
- 研究ネカト数:毎年約35人公表。内訳 → ①研究公正局が10~15人。②科学庁が約15人。③他、5人?
- 研究ネカト対処公的機関:①大学・研究所。②研究公正局。③科学庁。④連邦捜査局(FBI)。⑤裁判所
- 研究ネカト対処私的機関:①撤回監視(リトラクション・ウオッチ:Retraction Watch)。②パブピア(PubPeer)。
★有名な事件と改革の契機
- 有名な国内事件①:1980年、エリアス・アルサブティ (Elias Alsabti)事件。分野は生命科学。テンプル大学などに所属したイラク出身の留学生が、そっくり盗用した論文を次々と出版した。盗用論文数は約60報ととても多い。
- 有名な国内事件②:1981年、ジョン・ダーシー(John Darsee)事件。分野は生命科学。ハーバード大学の天才的研究者のデータねつ造事件。
- 有名な国内事件③:1981年、マーク・スペクター(Mark Spector)事件。分野は生命科学。コーネル大学の天才的院生のデータねつ造事件。
3つとも、生命科学の分野でのネカトである。②と③は、米国のトップクラスの大学で、ボスはノーベル賞級の研究者だった。事件の後遺症もあり、ボスはもちろん、ノーベル賞を受賞できていない。
上記のネカト事件は、新聞に大々的に報道され、「サイエンス(Science)」などの学術誌も取り上げた。
1982年、ウィリアム・ブロード(William J. Broad)、ニコラス・ウェイド(Nicholas Wade)が著書『Betrayers of the Truth』を出版した(写真出典)。ネカトを正面から記述し、社会に衝撃を与えた。日本語訳は、1988年、牧野賢治訳・『背信の科学者たち』である。
なお、ウィリアム・ブロード(写真出典)は、1986年と1987年の2度のピューリッツァー賞、2002年にエミー賞、2007年にデュポン賞を受賞した。それら受賞対象は宇宙科学などネカトとは別の報道だが、米国社会では優れた科学ジャーナリストとして認められている。
上記の3大ネカト事件と『Betrayers of the Truth』の出版が契機となって、1980年代、学術出版界、大学・研究機関、科学アカデミー、そして連邦政府の研究助成機関が研究ネカトに真剣に取り組むようになった。
そして、ついに、議会が対処に乗り出し、公聴会を重ね、連邦政府の法令を制定する方向に動き出した。
●2.【5つの誤解:あなた、誤解してません?】
詳細な「米国の研究ネカト問題」に入る前に、幾つかの誤解を解いておきたい。
というのは、日本の大半の人が米国のネカト対策システムを誤解しているフシがあるからだ。一部の研究倫理専門家でも誤解しているフシがある。
以下に「5つの誤解」を示すが、あなたが、1つも誤解していなかったなら、ご立派! OKです。
★ 1.研究公正局は米国のネカト調査の総元締めである → 誤解
研究公正局が調査するネカトは、簡単に言えば、NIHから研究助成を受けた研究者・院生の研究ネカトだけである。
対象となる人は、厳密には、NIH所内の研究員、NIH所外の研究員でNIH研究助成金の申請者と受給者、健康福祉省(HHS)・監察総監室(Office of Inspector General)研究助成金の申請者と受給者である。
再度、簡単に言うと、生命科学系が対象者で、それ以外は対象者ではない。
つまり、研究公正局は、米国のネカトを一手に調査する政府機関ではない。そもそもそういう政府機関は米国に存在しない。
生命科学系でもNIHから研究助成を受けていない研究者(例えば製薬企業の研究者、食品医薬品局(FDA)管轄の研究者)は対象外である。
逆に、NIHから研究助成を受けていれば、米国人でなくても対象になる。
カナダ在住のカナダ人でも、欧州在住の欧州人でも、対象者で、調査の結果、クロなら処分する。
カナダ在住のカナダ人の例に、ロジャー・ポアソン(Roger Poisson)を挙げ、欧州在住の欧州人の例に、ヨン・スドベ (Jon Sudbø) (ノルウェー)を挙げておこう。
だから、日本在住の日本人でも、NIHから研究助成を受けていて、ネカト疑惑が生じれば、研究公正局が調査に入る。
ただ、NIHから研究助成を受けている日本在住の日本人研究者は数年前に1人いた程度でとても少ない。白楽が院生だった40数年前、隣の研究室の岡崎令治・教授は受給者だった。
なお、研究公正局がネカトを調査すると書いたが、実際に調査するのは、ネカト疑惑者の所属する大学・研究機関である。
大学・研究機関の調査を、研究公正局が精査し、シロクロを決めて、発表するのである。
研究公正局の方針に大学・研究機関が従わない場合や、大規模なネカトなどの特殊なケースだけ、研究公正局が直接調査する。
★ 2.米国でのネカトは生命科学系に多発している → 誤解
ネカトが生命科学系に多発しているかどうか不明である。ネカト発生件数は分野を問わず、統計的な数値がないので多い・少ないと判定するのは難しい。
「研究ネカトは増えているか、減っているか? 誰もわからない」と、研究公正局の前所長・デビッド・ライト(David Wright)は述べている。(出典:2014年4月4日のジョスリン・カイザー(Jocelyn Kaiser)の記事:Former U.S. Research Fraud Chief Speaks Out on Resignation, ‘Frustrations’ | Science/AAAS | News)
質問(カイザー記者):研究ネカトは増えていますか? 研究ネカトが増えているから、論文撤回が増えているのですか?
答(デビッド・ライト):誰れも知らないと思う。1つの見方として、研究ネカトの実際の行為数は増えていないけど、検出技術とオンライン出版が増えたことで、研究ネカトを検出することが容易になったという意見はある。
また、研究ネカトの「実際の行為数」=「メディア報道数」ではない。
生命科学系の試算では、実際のネカト行為数の1%程度しか報道されない。つまり、実際のネカト行為のほとんどは事件として報道されていない。
そして、ネカト事件が報道される割合は分野によっても大きく異なる。
というのは、生命科学系のネカトを調査する研究公正局は、調査の結果、クロなら実名、シロなら匿名で発表する。実名が発表されたネカト者は、新聞などのメディアが取材しやすい。有名人なら確実に記事にする。概算では、研究公正局がクロとした人の9割は新聞記事になっている。院生やテクニシャンなど無名人は新聞記事にならないことがある。
ところが、工学、自然科学、人文社会学のネカトを扱う科学庁(NSF)では、クロでも実名報道をしない。さらには、事件そのものを秘匿する政府機関もある。
クロでも実名報道をしないと、誰がネカト者か特定できないので、取材できない。従って、メディアは記事にできない。情報がモレてくる有名人だけが、新聞や雑誌の記事になる。印象では、科学庁(NSF)がクロと結論した人の1~3割しか新聞記事になっていない。
というわけで、事件報道数が少ないからネカト行為数が少ないと考えるのは大きな誤解である。
また、報道されたネカト事件数を根拠に、特定の学問分野にはネカト行為が少ないとか、特定の職域にはネカト行為が少ないなどと判定すると、事実を見誤るだろう。
★ 3.生命科学系では盗用は少なく、工学・文系に盗用が多い → 誤解
「生命科学系のネカトを扱う研究公正局」、対する、「工学、自然科学、人文社会学のネカトを扱う科学庁(NSF)」と2大別して、両者を比較しよう。
研究公正局は、発足以来259件のネカト者を発表しているが、そのうち、盗用でクロとされた人は16人(6%)である。2011 ~ 2017年現在までの7年間では、2011年に1人、2012年に2人、2013年に1人だった。そして、2014~ 2017年6月現在までの3年半は誰もいない。
これは何を意味しているかというと、研究公正局は、ここ3年半、盗用を調査対象にしていないし、それ以前も消極的だった、ということだ。
盗用には患者の健康被害をもたらす心配がない。それで、調査に余力がない研究公正局は、データねつ造・改ざんに集中し、盗用は放置している。
一方、科学庁(NSF)は盗用を放置していない。ネカトでクロとした数の82%は盗用である。
従って、クロとされたネカト者の統計だけみると、「研究公正局では盗用は少なく、科学庁に盗用が多い」。
このことで、「生命科学系では盗用行為者は少なく、工学・文系に盗用行為者が多い」と考えるのは大きな間違いである。
★ 4.米国にはネカトが多い → 誤解
本記事は「米国の研究ネカト問題」なので、米国を他国と比較するのは本旨ではないが、誤解している人が多いので書いておく。
先に、「事件報道数が少ないからネカト行為数が少ないと考えるのは大きな誤解である」と書いた。
ネカト事件が全く、あるいは、ほとんど報道されない国は世界中に多数ある。そもそもネカトの調査をしない国も多い。調査しても、調査そのものが不正、過程と結果が不透明、ネカト者を匿名にするなど、ネカト調査報告書を公表しない国は日本を含めて多い。
米国も、工学、自然科学、人文社会学ではネカト者を匿名にしたりネカト調査報告書を公表しない。一方、生命科学系では実名報道し調査報告書をそこそこ公表する。
そして、生命科学系での事件報道が多いので、全体として、他国に比べ米国は、世界で最も積極的にネカト事件を報道する国という印象が強い。だから、米国にはネカト事件の報道が多く、「米国にはネカト行為が多い」と誤解する人がでてくる。
報道されないネカト事件・ネカト行為は誰も探知できない。ネカト汚染が深刻な国では、ネカト事件はほとんど報道されない。
それは、コクハラ(告発に対するハラスメント)が激しいのでネカト告発が命がけになり、ネカト告発数が少ないという結果になる。例えば、中国やロシアで政府高官の盗博を告発しようとしたら、逮捕されかねない。命がけになる。
タイで激しい攻撃を受けたケースもある。
→ スパチェー・ロロワカーン(Supachai Lorlowhakarn)(タイ) | 研究倫理(ネカト)
また、専制的な中東・アジア・アフリカの国々では、大学教授や研究者の権威・権力・地位がとても高い。そのような国では、ネカト行為が文化習慣化し許容されていたり、追及がタブーになっている。このような国では、ネカト事件はほとんど報道されないが、ネカト汚染は深刻に思える。
推定だが、国ごとにネカト行為数を総研究者で割ると、米国は世界で最も少ない国群に入るだろう。
★ 5.警察はネカトを捜査しない → 誤解
日本では、ネカトは犯罪ではないとされている。
→ 平田容章 (2006). “研究活動にかかわる不正行為”. 立法と調査: 112-121.
実際、ネカトで刑務所刑が科された事件はない。つまり、日本では、警察はネカトを捜査しない。
しかし、米国では捜査する。
日本では、社会通念として、大学教授・研究者の地位は高く、根拠はないのだが、「悪いことをしない」人たちと思われている。学者はかつて「清貧」というイメージでとらえられ、「貧」はまだしも、「清」のイメージは現代にも生きている。
そして、伝統的に日本の大学は警察を排除する思想が強い。かつては、警察が大学教授の言論・思想をチェックし、大学自治と学問の自由をおびやかした時代があった。それで、現在でも、警察官が大学キャンパスに入るのを極端に嫌う体質(警察アレルギー)がある。
一方、米国の大学には警察アレルギーはない。そもそも大学の組織の一部に大学ポリス(キャンパス・ポリス)がある。
→ Campus police – Wikipedia
10数年前、白楽は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の大学ポリス(UCPD)に駐車違反の切符を切られた。なお、切符は間違って切られたので、翌日、大学ポリスの事務室に行って、間違っている旨を伝え、了承された。白楽は罰金を払っていない。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校の大学ポリス(UCPD)には警察官が62人もいる。街の警官と同じような制服を着て、パトカーも持っている。学内でおきた犯罪の捜査をし、逮捕もする。大学外のロサンゼルス警察と連携している。
→ Home | UCLA Police(写真も)
つまり、米国の大学に警察アレルギーはない。
実際、大学ポリスがネカト事件の捜査もしている。
→ ヴィプル・ブリグ(Vipul Bhrigu)(米)
そして、米国の警察や連邦捜査局(FBI)は、約25人の大学教授・研究者を研究ネカトで、既に逮捕し、裁判にかけている。調査した人数はもっとズット多いだろう。
→ 研究者の犯罪事件・特殊事件 | 研究倫理(ネカト)
つまり、警察や連邦捜査局(FBI)は、大学教授・研究者を研究ネカトで捜査してきた。今後はもっと捜査するだろう。
→ 参考:1‐5‐5.研究ネカトは警察が捜査せよ! | 研究倫理(ネカト)
以上、「5つの誤解」を示したが、なになに、アナタは、1つも誤解していなかった。スバラシイ、ご立派! パチパチ。
●3.【研究公正局が崩壊?】
研究公正局は、長年、ネカト調査が「遅すぎる」、ネカト者への処分が「甘すぎる」と大きく批判されてきた。「甘すぎる」のは訴追権がないという規則のためでもある。
長年、これらの批判に対して、大きな改善をしてこなかった。
2015年12月28日、約2年間、空席が続いた所長職に、コロラド州立大学・神経科学教授だったキャシー・パーティン(Kathy Partin、写真出典)が就任した。
2017年6月16日現在、パーティンが所長に就任して以来、ここ1年半ほど、研究公正局は崩壊するのではないかと思うほどの異常な事態である。
★ 1.ここ9か月、ネカト者の発表がない
1993年にネカト者を5人発表して以来、2016年までの24年間、毎年10数人のネカト者を発表していた。
2015年12月28日、研究公正局にキャシー・パーティン所長が就任した。
2016年5月、所長就任以来の4か月の沈黙を破って、研究公正局は、ケネス・ウォーカー(Kenneth Walker)のねつ造・改ざん事件を報告した。
→ ケネス・ウォーカー(Kenneth Walker)(米) | 研究倫理(ネカト)
その後、8月までの4か月間に5件の報告をした。最後は、2016年8月30日のアンドリュー・カリネイン(Andrew R. Cullinane)の報告である。
→ アンドリュー・カリネイン(Andrew R. Cullinane)(米) | 研究倫理(ネカト)
そして、2016年9月以降、2017年6月16日現在までの9か月間、ネカト者を1人も発表していない。発足以来の24年間にはなかったことだ。
年次リストでみると、2017年はまだ誰もいない。毎年10数名リストされているのに、とてもヘンである。
【追記】
2017年6月19日、ブランディ・ボーマン(Brandi M. Baughman)のネカトを発表した。2017年の最初の報告である。
2017年6月29日、フランク・ザウアー(Frank Sauer)のネカトを発表した。
2017年7月3日保存の年次リストでは、上記2名が追加されている。
★ 2.2016年8月:内部紛争
2015年12月28日にパーティン所長が就任して8か月経った頃、「Science」誌が内紛を報道した。
→ 2016年8月24日のジョスリン・カイザー(Jocelyn Kaiser)記者の「Science」記事:①New leader of NIH’s research watchdog faces staff revolt | Science | AAAS、(保存版) 。②Q&A: Kathryn Partin, new ORI head | Science | AAAS
→ 2016年9月20日のレニー・バーンスタイン(Lenny Bernstein)記者の「Washington Post」記事:Turmoil at federal agency threatens oversight of biomedical research – The Washington Post 、(保存版)
2016年8月(?)、パーティン所長は、科学庁(NSF)・監査総監室(NSF’s Office of Inspector General)で13年間ネカト調査をしてきたスコット・ムーア(Scott Moore、写真出典)を副所長に任命した。
2016年5月10日、研究公正局に8人しかいない科学捜査官のうちの6人が、パーティン所長に不満であるという以下の手紙を監督省庁の健康福祉省・長官補佐のカレン・デサルボ(Karen B. DeSalvo)に提出した。
- パーティン所長は研究公正局の規則をちゃんと理解していない。
- パーティン所長は2人しかいない部門長を2人とも解雇しようとしている。パーティン所長は、2人の部門長と一緒に仕事ができないようだ。
- パーティン所長の管理には透明性が欠如している。特に副所長・スコット・ムーアの選任を所員に相談も通知もしないで行なった。
- 研究公正局の所員は現在、「緊張と紛争」で引き裂かれている。
改革しようと着任した新任の所長と、従来のやり方に固執する所員たち(含・部門長)の戦いという図式は一般的にはどの組織でも起こる。しかし、8人しかいない科学捜査官のうちの6人がパーティン所長に不満を表明しているのは異常である。
昨年(2015年末)退任した、元・副所長のジョン・ダーベルグ(John Dahlberg)は、研究公正局が「崩壊している」と述べている。
「Science」記事では次の問題も伝えている。
科学庁(NSF)がクロと判定したネカト者の82%は盗用である。ところが、研究公正局がクロと判定したネカト者はここ数年ゼロである。パーティン所長は研究公正局にもっと盗用を調査させ、この偏りを是正させたい。
しかし、従来の職員は現状の調査で手一杯である。盗用まで調査の手を広げると、スタッフには過重労働になる。
ネカト者への処分が「甘すぎる」と大きく批判されてきた点について、研究公正局・前所長のデビッド・ライト(David Wright)は、「研究公正局は、召喚令状権(subpoena power)を持つべきであり、時には独自の調査を行うべきだ」とアドバイスしている。
ところが、パーティン所長は「規則を変える必要が明白になった時、研究公正局がすべきことは、規則変更の検討を始めることです」と、規則変更に非常に慎重というか否定的である。
★ 3.2016年12月頃:部門長が1人辞職
2016年12月頃、公正教育部門長のゼー・ハマット(Zoe Hammatt、写真出典)が、辞職した。
ハマットは、2014年6月2日に部門長に就任したので、在職期間は1年半と短い。新任のパーティン所長と衝突したと思われる。
★ 4.2017年1月:パーティン所長の苦しい言い訳
ネカト者の発表が少ないのは、研究公正局内で異常事態が起こっているからだ。撤回監視がパーティン所長にインタビューした。
→ 2017年1月3日のアリソン・マクック(Alison McCook)記者の「撤回監視」記事:ORI misconduct findings fell in 2016. Why? We ask the director – Retraction Watch at Retraction Watch
- 問(マクック記者):どうしてネカト者の公表数が少ないのですか?
答(パーティン所長):調査中のいくつかの事件は終わりに近いので、まもなく、発表の予定です。(白楽注:と言ってから、半年近くたつ2017年6月16日現在まで、発表はない)
ただ、研究公正局の調査結果が3件、裁判で訴えられていて対応に時間がとらています。
また、複数の複雑で巨大なネカト事件を調査中なのです。例えば、100以上の図が不正だと指摘されている事件の調査です。長年にわたり数千万ドル(数十億円)の研究助成をしてきた研究にもネカトが発覚し、調査に多くの時間がかかっているのです。
それに、ここ何年も、調査監査部門(Division of Investigative Oversight、人員は13人)の人員が少ない状態でした。私が着任してから3人の新人を採用できましたが、まだ訓練が必要で、そのことにも時間がとられています。 - 問(マクック記者):私たちは、研究公正局の方針に不満を持っている貴所の調査官と話をしました。調査官は、ネカト行為の意図性を証明する能力がパーティン所長にかけていると指摘しました。つまり、大学は、意図的である(つまり、不注意や、間違いではない)ことを証明しないでネカト行為があったと結論できます。しかし、研究公正局は、意図的だったと証明できなければ、法律チームの了承が得られず、クロと結論できない。この指摘に同意しますか?
答(パーティン所長): いいえ。
ネカトは連邦規則.42 CFR 93.104に基づき、研究公正局も大学も同じ基準です。つまり、以下の3点です。
(a)関連する研究コミュニティが許容している慣行から大きズレていること。
(b)違法行為は意図的、それと分かっていながら、無謀に行われる。
(c)申し立ては、証拠で証明されるべきである。
ネカトが行われたと確信しているにもかかわらず、要件を満たす証拠が得られずクロと結論できない時はあります。そうなると、研究公正局と大学の両方に欲求不満が生まれます。対処方法は、できるだけ熟練した人にネカトを調査してもらうことです。このため、研究公正局は大学の研究公正官の訓練を支援しています。
★ 5.前所長は怒って2年で辞職
初代所長のクリス・パスカル(Chris B. Pascal)は、1996–2009年の14年間、所長を務めたが、2016年3月24日、66歳で亡くなった(CHRIS PASCAL Obituary)。
クリス・パスカル所長(Chris B. Pascal)の後に就任したデビッド・ライト所長(David Wright)は、2年間勤めて、2014年2月、辞職した。政府官僚機構の無能さに頭にきての辞職だという(2014年3月13日、ジョスリン・カイザー(Jocelyn Kaiser)の記事:Top U.S. Scientific Misconduct Official Quits in Frustration With Bureaucracy)。
研究公正局には構造的な問題があるということだ。
●4.【他省庁のネカト対策】
研究公正局の事情をたくさん書いてきたが、研究公正局は米国の研究ネカト対処組織の一部に過ぎない。他省庁を含め、全体を鳥瞰・比較しておこう。
●【省庁によるネカト調査・処分の違い)】
米国は、各省庁ごとに傘下の研究員と研究費受給者の研究ネカトを扱っている。
大きく2大別すれば、
「生命科学系のネカトを扱う研究公正局」と、
「工学、自然科学、人文社会学のネカトを扱う科学庁(NSF)・監査総監室」である。
その2つでも次の違いがある。
- 処分:研究公正局 はネカト者が任意(voluntary)で研究費申請しないという調停合意である。
一方、科学庁(NSF)・監査総監室 は、締め出し処分(debarment)である - 調査:研究公正局 は、 まず、大学・研究機関が調査をし、それを追認する。
一方、科学庁(NSF)・監査総監室は、 大学・研究機関と独立に調査することが可能である。 - 召喚令状権:研究公正局 は、 罰則つき召喚令状を 発行できない。つまり、召喚令状権(subpoena power)がない。
一方、科学庁(NSF)・監査総監室は、 召喚令状権(subpoena power)がある。 - 人物特定:研究公正局 は、 クロだと 実名・所属を発表し、誰もが人物を特定できる。
一方、科学庁(NSF)・監査総監室は、ネカト者や所属機関が特定されないように編集して発表する。
→ Jeffrey Mervis: Science, 28 Oct 2016:Vol. 354, Issue 6311, pp. 410, DOI: 10.1126/science.354.6311.410: Name that offender? It depends | Science
研究公正局には訴追権がないが。しかし、調査したネカトに訴追が必要と判断すれば、上部組織の健康福祉省(Department of Health and Human Services, HHS)の監査総監室(OIG)(https://oig.hhs.gov/)に依頼して、訴追してもらうことが可能である。ただし、この依頼は難しいし、とても少ない。
●【科学庁(NSF)】
科学庁(NSF)の監査総監室(OIG:Office of the Inspector General)のネカト調査のデータを少し詳しく見ていこう。
科学庁(NSF)は、工学、自然科学、人文社会学の研究者に研究費を配分している(NSF OIG – FOIA Information)。その配分研究費での研究にネカトがあれば、科学庁(NSF)の監査総監室(OIG)が出動することになる。
★科学庁(NSF)のネカト調査
2つのグラフと内容の出典 → 2017 年3月24日のジェフリー・マーヴィス(Jeffrey Mervis)記者の「Science」記事:Data check: NSF sends Congress a garbled message on misconduct numbers | Science | AAAS
科学庁(NSF)の監査総監のアリソン・ラーナー(Allison Lerner、写真出典)が民主党委員会に提出したメモによると、科学庁(NSF)・監査総監室(OIG)のネカト取扱件数は、2005年以来、毎年40~110件だった。
そして、クロと判定した件数は以下のようで、2005年以来、毎年6~26件だった。傾向としては増加している。
申し立て件数もクロ判定件数もかなりばらつきがある。しかし、盗用が圧倒的に多い。ねつ造・改ざんの申し立て件数はこの12年は平均2.6件、ここ5年間では平均3.2件である。科学庁(NSF)が助成している研究数の僅か0.0064%と少ない。
2005年以来、クロと判定した169件のネカト事件では、その82%は盗用だった。
下院の宇宙科学技術委員会・委員長のラマー・スミス議員(Rep. Lamar Smith、写真出典)は、科学庁(NSF)・監査総監室(OIG)は十分に仕事をしていないと受け取っている。
ある時、フランス・コルドバ科学庁長官(France Córdova)に「研究ネカトを防ぐために何をしているのか? そしてどんな制裁を科しているか?」と問い詰めていた。
★科学庁(NSF)は、監査総監室(OIG)の報告をいい加減に扱っている
→ 2017 年2月12日のラクラン・マーケイ(Lachlan Markay)記者の記事:Federal Agency Eased Sanctions for Plagiarism
科学庁(NSF)は、ネカトでクロとなった研究者に研究助成を続けている。
2015年と2016年、研究費申請書や助成研究成果に、少なくとも23件の盗用、8件のねつ造・改ざんを見つけた。多くは一時的に申請不可の処分を科したが、科学庁(NSF)はこれら監査総監室(OIG)からの報告を無視して、一部に研究助成をしたのである。
1つの例を示す。
2015年11月に調査終了した事件で、A研究者に「故意に盗用した文章が研究費申請書の5か所見つかった」。
監査総監室(OIG)の調査報告書は、「これらの行為は研究コミュニティの基準から大きくハズれたものであり、研究不正行為である」と結論した。
監査総監室(OIG)は、A研究者が盗用したと科学庁(NSF)に正式に伝え、A研究者に「適切な研究方法のコース」を受講させること。その後3年間、科学庁(NSF)のコンサルタント、顧問、ピアレビューアの禁止すること。さらに、その後3年間のA研究者のすべての研究に盗用がないことを証明すること、と科学庁(NSF)に勧告した。
科学庁(NSF)は勧告の一部を受け入れたが、監査総監室(OIG)が提案した科学庁(NSF)のコンサルタント、顧問、ピアレビューアの禁止を受け入れなかった。それで、A研究者(ネカト者)は、科学庁(NSF)のコンサルタント、顧問、ピアレビューア、そして、研究助成を受けていたのである。
もう1つの例を示す。
2016年8月に調査終了した別の事件では、科学庁(NSF)の助成を受けたB大学教授に、監査総監室(OIG)は「科学庁(NSF)への4件の年次報告書と4件の研究費申請書にデータ改ざんがあった。この改ざんは、数年に及ぶ連続的なデータ改ざんで、研究不正行為の総計は12件に及んだ」と報告していた。
しかし、このB大学教授(ネカト教授)にも科学庁(NSF)はルーズな対応をしていたのである。
★一応、省庁間での連絡はある
科学庁(NSF)内では、監査総監室(OIG)の報告をいい加減に扱った例を示したが、省庁間の連絡システムは制度(米国イノベーションおよび競争力法)としてはある(十分機能しているかどうかを白楽は調査していない)。
「悪いリンゴ」が別の政府機関によって研究助成されないために、「米国イノベーションおよび競争力法」は、科学庁内にネカトがあったと発表したとき、科学庁(NSF)は他の連邦政府機関に通知しなければならないとある。ただ通知を公表しなければならないかどうかは明示していない。
→ 米国:イノベーション・競争力法「S.3084 – American Innovation and Competitiveness Act」(2017年1月6日成立)
→ 遠藤 悟「米国イノベーションおよび競争力法」
→ By Jeffrey MervisDec. 5, 2016 , 3:30 PM
Congress is poised to back NSF’s approach to research | Science | AAAS
●【食品医薬品局(FDA)】
★研究ネカトは各部門が担当する
食品医薬品局(Food and Drug Administration; FDA、写真出典)は、NIHや研究公正局と同じ健康福祉省(Department of Health and Human Services, HHS)配下の政府機関である。
研究公正局は、食品医薬品局(FDA)が管轄する食品・医薬品・化粧品の研究ネカトを担当しない。食品医薬品局(FDA)内の以下の各部が担当する。
→ パワポ
医薬品(Drugs)は食品医薬品局(FDA)内の「Division of Scientific Investigations (HFD-45), Office of Medical Policy, Center for Drug Evaluation and Research」が担当する。
生物製剤(Biological Products)は、食品医薬品局(FDA)内の「Office of Compliance and Biologics Quality, Division of Inspections and Surveillance, Center for Biologics Evaluation and Research, (HFM-650)」が担当する。
医療機器(Medical Devices)は、食品医薬品局(FDA)内の「Office of Compliance, Division of Bioresearch Monitoring, (HFZ-310), Center for Devices and Radiological Health」が担当する。
このように、縦割りで統一性に欠いている。
どのケースも、ネカト疑惑が強ければ、査察が入り、警告書「Warning Letters」を送付する。
→ I nspections, Compliance, Enforcement, and Criminal Investigations
そして、犯罪となれば、食品医薬品局(FDA)内の犯罪捜査部(Office of Criminal Investigations (OCI))が担当する。クロなら実名で報道する。このページの最下段の「Press Releases」をクリックすると、年毎のプレス・リリース一覧表が表出される。
そして、食品医薬品局(FDA)がクロと判定し、締め出し処分を科した場合、個人名リストを発表している。
→ FDA Debarment List (Drug Product Applications)
本部ブログで解説(含・予定)した以下の個人もリストにある。
- ポール・コーナック(Paul H. Kornak)(米)
- スコット・ルーベン(Scott S. Reuben)(米)
- ロバート・フィデス(Robert A. Fiddes)(米)
- レニー・プジョー(Renee Peugot)(米)
ここまで書くと、チャンと機能しているように受け取れる。
しかし、以下に述べるように、食品医薬品局(FDA)は、ネカトを隠蔽し、国民を守るよりも、ネカト者を守ることに熱心だと批判されている。
★食品医薬品局(FDA)のネカト調査の透明性は最悪
2015年、ニューヨーク大学のチャールズ・セイフェ教授(Charles Seife、写真出典)は、食品医薬品局(FDA)がネカトを隠蔽していると指摘している。
食品医薬品局(FDA)が管轄した約600件の臨床検査を調べ、約100件の医薬品・製薬会社を特定できた。情報公開法(Freedom of Information Act)でその文書を入手しすると、食品医薬品局(FDA)は医療界および公衆から研究ネカトを隠蔽していたことがわかった。
食品医薬品局(FDA)の検査ファイルを読むと、「狂気じみた科学者たち(Scientists Gone Wild)」というビデオのハイライトを見ているように感じる。偽のX線写真(Faked X-ray reports)、ねつ造した網膜スキャン(Forged retinal scans)、インチキ検査データ(Phony lab tests)、秘密で手足を切断(Secretly amputated limbs)などがあり、不気味な小描写を無限に見ているように感じる。これら狂気はすべて、科学の名前で行なわれた。科学者は誰も見ていないと思って行なった狂気である。
これらの狂気はまだそれほどショッキングではない。食品医薬品局(FDA)がこれらのネカトを発見した時、これらのネカトに基づいた医療実験の結果を信頼してはいけないと公衆、医療施設、科学界に通知していない。これは大ショックである。
通知しないどころか、10年以上にわたり、食品医薬品局(FDA)は違法行為の詳細を隠蔽してきたのだ。 その結果、どのデータが虚偽で、どの実験がインチキなのか、どの医薬品がネカトデータに基づいて認可され市場に出ているのか誰にも分からない状態になっている。大大大ショックである。
新薬を市場に出すべきかどうかを決定する時でも、食品医薬品局(FDA)は、公衆だけでなく、最も信頼できる科学者たちにも科学上の虚偽データを隠蔽してきた。危険薬物に関するネカト事件を調査した議会にさえ、正直なデータを提出しなかった。食品医薬品局(FDA)は、国民を虚偽の医学から守る機関なのに、虚偽の研究成果を発表する加害者を守ることに非常に多くの努力を費やしている。
この問題は、内容が多く、別の記事にまとめた方がいいかもしれない。本記事では、ここで止めておく。
情報公開法で入手した食品医薬品局(FDA)の調査報告書は黒塗り。出典;「食品医薬品局(FDA)」の項の文献②
【「食品医薬品局(FDA)」の項の文献】
① 2013年4月15日記事:FDA Let Drugs Approved on Fraudulent Research Stay on the Market – ProPublica、② 2015年2月9日のチャールズ・セイフェ教授(Charles Seife)の「Slate」記事:FDA inspections: Fraud, fabrication, and scientific misconduct are hidden from the public and doctors.
③ 2015年4月のチャールズ・セイフェ教授(Charles Seife)の「JAMA」論文:JAMA Intern Med. 2015;175(4):567-577. doi:10.1001/jamainternmed.2014.7774:
JAMA Network | JAMA Internal Medicine | Research Misconduct Identified by the US Food and Drug Administration: Out of Sight, Out of Mind, Out of the Peer-Reviewed Literature
④ 2015年2月9日のキャット・ファーガソン(Cat Ferguson)の「撤回監視」記事:FDA has repeatedly hidden evidence of scientific fraud,” says author of new study – Retraction Watch at Retraction Watch“FDA has repeatedly hidden evidence of scientific fraud,” says author of new study – Retraction Watch at Retraction Watch
⑤ 2017年4月17日のベラ・シャラフ(Vera Sharav)の「AHRP」記事:FDA conceals serious research misconduct–fraud, deception, even deaths | AHRP
●【農務省(USDA)】
農学領域は農務省(USDA)が研究助成している(USDA Science Policies | USDA)。
農務省(USDA)が研究助成した研究にネカトが見つかっても、実名報道はされない。人物が特定できない様式で発表される。
研究ネカト対処組織は、農務省(USDA)の「Office of the Chief Scientist (OCS) 」である。
→ Scientific Integrity and Research Misconduct | USDA
各部署ごとの科学公正官を公表しているが(Agency and Departmental Scientific Integrity Officers | USDA)、調査・処分の元締めは、農務省(USDA)の監査総監室(OIG:Office of the Inspector General)である。
→ USDA / Office of the Inspector General
●【国防総省(US Department of Defense:DoD)】
軍がらみの新技術開発および基礎研究は、国防総省の研究助成機関である国防高等研究計画局(ダーパ、DARPA:Defense Advanced Research Projects Agency )が管轄している。
かつて、白楽の教え子の1人が米国の大学講師に就任していた。教え子のボス(米国人)は、生命科学の基礎研究をしていたが、ダーパの研究費を受給していた。教え子が、その採択の実話を教えてくれた。
ある学会での帰り、急に大粒の雨が降りはじめた。タクシーが少なく、学会会場前には学会帰りの人であふれていた。効率よく乗車しようと、教え子、ボス、それにたまたま並んでいた知らない人とタクシーに同乗し空港に向かった。そのタクシーの中で教え子とボスが研究の話をしているうちに、知らない人は、実は、私はダーパ担当者で、その研究に興味がありますという成り行きになり、ダーパの研究費を受給することになったというのだ。
教え子は話を誇張したかもしれないが、NIHの研究費配分方式とはかなり違うなあと思った。
というような採択状況だから、ダーパの研究費で行なわれた研究にネカトが見つかっても、実名報道はされない、人物が特定できない様式で発表される、と聞いた時はなんとなく納得した(白楽は、ダーパのネカト対策システムをチャンと調べていない)。
米国の省庁ごとのネカト対策の項が長すぎなので、ここで止めておく。
●5.【トランプ政権による激変】
2017年6月現在、トランプ大統領(写真出典)が大胆に政策変更している。今まで述べてきた米国のネカト対処組織の実情と問題は大きく変わるかもしれない。
トランプ政権が米国の研究ネカト問題をどうしたいのか、実は、ハッキリしない。しかし、科学全般に関心が薄い。というか、軽視している。
大統領就任前から、科学研究予算を大幅に削減しようとしているので、研究公正局も科学庁(NSF)・監査総監室も大幅な予算削減に直面するだろう。
→ 2017年6月1日のアーメド・アルカハティーブ(Ahmed Alkhateeb)記者の「Scientific American Blog Network」記事: NIH Budget Cuts: It’s Not Just the Money – Scientific American Blog Network
ここでは、概略だけ述べる。
●【トランプ政権】
2017年1月20日、第45代アメリカ合衆国大統領に就任したドナルド・トランプは、従来のアメリカの政策をことごとく、しかも大きく、変えている。
白楽は、研究倫理に関する具体的施策の変化を把握していないが、科学技術政策の根本から変化しそうである。
関連する部分を概観しよう。
★2016年9月、大統領選中の質問と回答。
→ 出典:2016年米国大統領候補 科学技術政策について – 科学技術振興機構
科学的公正性に関して:政府は、科学者・連邦研究機関に対する政治的な介入を避けつつ、どのように科学の透明性・説明責任の文化を醸成するのか?
トランプ候補の回答:政治的なバイアス無しに、科学の透明性と説明責任を確保する
トランプ候補の回答:NIHに関しては、NIHに対する莫大な政府投資は無駄であり「ひどい」
★2017年5月27日:日経サイエンス「トランプ氏の科学軽視政策 背景に米社会の失望」
開かれた研究環境と厚待遇で世界中から頭脳を吸い上げ、国が主導して科学を発展させ、産業と軍事で優位に立つ。そんな米国の科学戦略が転換しつつある。トランプ大統領は科学予算の大幅削減を打ち出し、意に沿わない研究成果の自由な発表を差し止め、科学的な根拠や実現性を無視した発言を続ける。科学を意に介さない大統領が誕生した背景には、米国の社会が変容し、科学に対する見方が変わったことがある。
政権が議会に提出した2018会計年度予算教書では、科学研究の予算を大幅に減額した。EPAは前年比31%減と最大の減額幅。生命科学研究に資金を供給する米国立衛生研究所(NIH)も18%の減額だ。感染症対策を担う米疾病対策センター(CDC)が17%減、全米科学財団(NSF)が11%減と軒並み下がったが、米航空宇宙局(NASA)だけはほぼ前年並みとなった。
トランプ大統領が軽視するのは、データと論理に基づいて事実や実現性を判断するという科学の考え方そのものだ。そうした大統領が登場した背景には、科学に対する国民の意識の変化があると、専門家は指摘する。
科学史が専門の塚原東吾神戸大学教授は、「米国は第2次世界大戦中のマンハッタン計画以降、国家が科学を主導するマンハッタン・レジームで科学を伸ばしてきた」と指摘する。ケネディ政権のアポロ計画、ニクソン政権のがん征圧計画、クリントン政権の情報スーパーハイウェイ構想やナノテクイニシアチブなどだ。
そうした国策のもと、アメリカ人の多くは科学を信じてきたが、冷戦後から変化が出てきたという。「科学が肥大化して専門性による細分化が進み、政治家や市民に科学的な指針を示すことが難しくなった。科学成果の商品化が進む一方、貧困や環境問題の根本的解決にはならず、市民が科学を信頼しない傾向が強まってきた」(塚原教授)。
●6.【各視点から】
★政府の研究倫理確立の努力
- 組織:ネカト専門に対処する国家的機関がある。大雑把に、
①-2 研究公正局が生命科学系のネカトを扱い、
② 科学庁(NSF)・監査総監室(OIG: Office of Inspector General)が工学、自然科学、人文社会学のネカトを扱う。 - 政策と予算等:
政府全体の予算は約170億円(研究公正局の2倍とした。当てずっぽう)。
①健康福祉省。
①-2:研究公正局の2016年(?)の年間予算は8600万ドル(約86億円)。
①-3:食品医薬品局(FDA)。
②科学庁(NSF)・監査総監室(OIG)の2016年の年間予算は1500万ドル(約15億円)で科学庁(NSF)総予算の0.20%:(nsf17003 FY 2016 Performance and Financial Highlights | NSF – National Science Foundation)。
③農務省(USDA)・監査総監室(OIG)の2016年の年間予算は9600万ドル(約96億円)(2017 Budget Summary (PDF, 1.1 MB)) - 法律・ガイドライン:
①健康福祉省に関しては連邦規則.42 CFR 93「 42 CFR Part 93 – PUBLIC HEALTH SERVICE POLICIES ON RESEARCH MISCONDUCT」。
①-2:研究公正局に関しては連邦規則Title 42 › Chapter 6A › Subchapter III › Part H › § 289b:「 42 U.S. Code § 289b – Office of Research Integrity」。
①-3:食品医薬品局(FDA)。
②科学庁(NSF)・監査総監室(OIG )。
③農務省(USDA)の研究公正・ネカト規則( Scientific Integrity and Research Misconduct )は「 PART 422—RESEARCH INSTITUTIONS CONDUCTING USDA-FUNDED EXTRAMURAL RESEARCH; RESEARCH MISCONDUCTS 」。
④国防総省・監査総監室(OIG)。 - 時効ルール:
①-2:研究公正局に関しては6年。健康福祉省または大学・研究機関はネカト発生から6年以内の件のみ扱う。
但し、それ以前の発生でも、ネカト効果が継続している場合、健康被害や社会的リスクが想定される場合、また、既に受理した事件、は例外である(42 CFR 93.105 – Time limitations. | US Law | LII / Legal Information Institute)。
②科学庁(NSF)・監査総監室(OIG )は時効がない。
③他省庁は不明。多分、時効はない。
★研究助成機関の研究倫理ガバナンス
- 組織:各省庁ごとに組織がある
- 政策と予算等:既出(一部)
- 法律・ガイドライン:既出(一部)
- 研究ネカト調査員:
①-2:研究公正局に関しては「1‐4‐3.米国・研究公正局(ORI、Office of Research Integrity)」に記述。 - 研究ネカト調査の透明性:
①-2:研究公正局は高い・模範的(5点評価の5)。
②科学庁(NSF)・監査総監室(OIG)は悪い(5点評価の2) - 研究ネカト調査報告書のウェブ公開・保存:
①-2:研究公正局はウェブ公開あり。クロの場合、内容が詳細に示される。ネカト専門家が依頼すれば資料閲覧可能。保存もしっかりしていて、模範的(5点評価の5)。
②科学庁(NSF)・監査総監室(OIG)は悪い(5点評価の2)。結果だけがウェブ公開。 - 研究ネカト者の実名報告:
①-2:研究公正局はウェブで実名報告。模範的(5点評価の5)。
②科学庁(NSF)・監査総監室(OIG )はネカト者を特定できないように情報操作(5点評価の2)。 - 研究ネカト者の処分:研究公正局も科学庁(NSF)・監査総監室(OIG )もネカト者を学術界から排除する方針。処分は研究費申請不可を数年とする方法。
この処分では、実際は、しっかり排除されないという論文もある。 → 2017年2月25日。研究公正局でクロ判定された研究者の約半分の人が、研究を続けていた。・・2017年2月24日の「Science」記事: U.S. researchers guilty of misconduct later won more than $100 million in NIH grants, study finds | Science | AAAS - 研究倫理への研究助成:
①-2:研究公正局は、研究倫理研究を支援する研究費助成をしている
→ Awards Data | ORI – The Office of Research Integrity - 直面している問題、改善しようとしている点:
- 政策、システムの特徴:各省庁がバラバラ。
- ネカト(者)の発表サイト:
①-2:研究公正局は、Case Summaries | ORI。
②科学庁(NSF)・監査総監室(OIG )は、年度ごとの「SEMIANNUAL REPORTS」の一部に記述
★大学・研究機関の研究倫理ガバナンス(除・教育)
大学にとって、最大の外部研究費はNIH助成金なので、研究公正局の規則を中心に大学の研究倫理規則を制定する。研究公正局の要請として、研究倫理官も選任する必要がある。
また、2番目に多い外部研究費は科学庁(NSF)助成金なので、大学の研究倫理規則は科学庁(NSF)の規則にも配慮している。
- 組織:通常、研究担当副学長が研究公正を担当する。
①マサチューセッツ工科大学:Research Integrity and Compliance | Office of the Vice President for Research、
②セントルイス・ワシントン大学:Research Integrity - 政策と予算等:
- 学則・ガイドライン:各大学が研究公正局と科学庁(NSF)の意向に沿って制定している
- 研究倫理官:各大学は1人選任する。学長代理、学部長、管理職は選任されない
- 【追記:2017年8月20日】研究倫理官の実態:Knowing Our Partners: Survey of RCR Coordinators and RIOs | ORI – The Office of Research Integrity
- ネカト調査組織:ネカト申し立てがあると、研究倫理官が対応し、予備調査を行なう。本調査では大学内に調査員会(委員には学外者も入る)が設置される
- ネカト調査の透明性:大学によるが、透明度はかなり低い(5点評価の2)
- ネカト調査報告書のウェブ公開:ウェブ公開はない。研究公正局に報告する
- ネカト者の実名報告:実名公開は少ないが、研究公正局には実名を含め報告をる。クロなら、研究公正局が実名報道する
- 研究ネカト者の処分:通常、大学はネカト者を解雇する(またはネカト者が辞職)。通常、ネカトでクロだったことを隠して別の大学・研究機関に移籍しても、発覚すれば、大学はネカト前科者を解雇する。つまり、多くの大学・研究機関は学術界から排除する。
- 直面している問題、改善しようとしている点:
- 政策、システムの特徴:
★学術誌の研究倫理ガバナンス
掲載した論文にネカトがあれば、学術誌は対応しなければならない。編集長がネカト対策に熱心な場合、大きく進歩する。
国際的学術誌は米国と欧州で発行していることが多く、以下、国籍にとらわれず、「米国」と限定せずに記載する。
多くの学術誌編集局は、調査の結果を、「シロ(問題なし)」、「懸念表明(expression of concern)」、「論文訂正(correction)」、「論文撤回(retraction)」の4種のアクションをする。
エルゼビア社(アムステルダムを本拠に、医学・科学技術関係を中心に多数の学術雑誌を発行する世界最大の国際的出版社)は、以下の4種のアクションをする。
- Withdrawal(論文の取り下げ)
- Article Replacement(論文の差し替え)
- Article Retraction(論文の撤回)
- Article Removal(論文の削除)
→ 研究ジャーナルの論文撤回規定:デイビッド・レズニック(David B. Resnik)ら、2015年7月 | 研究倫理(ネカト)
ということで、学術誌編集局は、かなりしっかりしたネカト対策組織を作り、有能な人材を配置する必要がある。
学術誌によるが、しかし、ほとんどの場合、そうなっていない。
- 組織:
- 政策と予算等:
- 規則・ガイドライン:
①多くの学術誌は英国の出版規範委員会「COPE」に加盟し、国際基準でネカトに対応しようとしている。
→ 2‐3‐1.学術誌1:出版規範委員会「COPE」 | 研究倫理(ネカト)
②細胞生物学の一流誌「Journal of Cell Biology」は、かなり厳密に画像を精査している。ガイドラインや、サンプルも提示している。:3‐5.「改ざん」の具体例2:画像操作 | 研究倫理(ネカト)。
③生化学の一流誌「Journal of Biological Chemistry」の方針:The Journal of Biological Chemistry Editorial Policies。データ公正部長・カオル・サカベの講演。
④エルゼビア社:Research integrity - 研究倫理担当者:
①生化学の一流誌「Journal of Biological Chemistry」のデータ公正部長(Data Integrity Manager)は日系米国人のカオル・サカベ(Kaoru Sakabe、写真出典)である。カオル・サカベは、学部は、ノースカロライナ大学チャペルヒル校(生化学)、大学院は、ジョンス・ホプキンス大学医科大学院(生化学、細胞生物学、分子生物学)である - ネカト調査組織:
- ネカト調査の透明性:透明度はかなり低い(5点評価の2)。調査過程や調査員が公表されることはマレである
- ネカト調査報告書のウェブ公開:調査の結果、「懸念表明(expression of concern)」、「論文訂正(correction)」、「論文撤回(retraction)」のアクションをすれば、ウェブで公表する。その際、アクションの理由を記載する。
まれに、とても詳しい調査過程が公表される。
→ 教育学:ノエル・チア(Noel K. Chia)(シンガポール)の「JAASEP」の2016年春夏号:National Association of Special Education Teachers: Retraction Statement(保存版) - ネカト者の実名報告:論文がネカトかどうかの判定はするが、ネカト行為の実行者を特定する必要はないし、実際しない
- ネカト者の処分:悪質度が高いと、その後、該当ネカト者からの論文原稿の受理を拒否する
- 直面している問題、改善しようとしている点:
- 政策、システムの特徴:
★学術組織・学会の研究倫理ガバナンス
【米国科学アカデミー】
米国の米国科学アカデミー(National Academy of Sciences、NAS)は民間非営利団体とされているが、日本では国家組織の日本学術会議の米国版である。この米国科学アカデミーが、ネカトの基準を決める、啓蒙書を出版するなど、研究倫理活動で顕著な貢献をしてきた。
最近では、2017年4月に『Fostering Integrity in Research 』(284 頁)を出版した(写真出典)。
米国科学・工学・医学アカデミー(National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine:NASEM)による研究不正防止の為の提言をまとめた報告書です(2017年4月11日)。 同アカデミーが1992年に出した報告書『Responsible Science』の更新版で、研究におけるベストプラクティスを明らかにし、研究不正防止の為の実用的な選択肢を提言しています。独立した非営利組織「Research Integrity Advisory Board」の設立を訴え、注目されています。(海外動向・方針 | 研究不正について │ 研究公正ポータル │ 国立研究開発法人 科学技術振興機構)
書籍として購入できるが、ウェブで無料閲覧もできる。
【アメリカ科学振興協会(AAAS)】
米国の民間組織のアメリカ科学振興協会(American Association for the Advancement of Science; AAAS)が研究倫理活動で顕著な貢献をしている。
科学者間の協力を促進し、科学的自由を守り、科学界からの情報発信を奨励し、全人類の幸福のために科学教育をサポートする組織である。世界的にも最大級の学術団体で、有名な科学雑誌『サイエンス』の出版元としても知られている(アメリカ科学振興協会 – Wikipedia)。
【各専門学会】
また、各分野の専門学会は、研究倫理への姿勢が大きく異なる。
学会誌の編集長がネカト対策に熱心な場合、大きく進歩する。
学会がネカト調査をすることもある。
ネカト者を除名することもある。
- 組織:
- 政策と予算等:
- 規則・ガイドライン:
①米国細胞生物学会:3‐5.「改ざん」の具体例2:画像操作 | 研究倫理(ネカト)。
②米国政治学会:”A Guide to Professional Ethics in Political Science“。 - 研究倫理担当者:
- ネカト調査組織:
- ネカト調査の透明性:
- ネカト調査報告書のウェブ公開:
- ネカト者の実名報告:
- ネカト者の処分:悪質度が高いと、該当ネカト者を除名する
また、次のような対処もする。
米国糖尿病学会はブラジルのカンピーナス州立大学の調査がいい加減なので、「米国糖尿病学会が関連するすべての研究ジャーナルは、カンピーナス州立大学所属の研究者からの原稿を一切受理しません」と伝えた(マリオ・サード(Mario Saad)(ブラジル) | 研究倫理(ネカト))。 - 直面している問題、改善しようとしている点:
- 政策、システムの特徴:
★研究ネカトの研究者・専門家・ハンター・ブロガー・私人による代理訴訟
- 育成システム:ない
- ネカト研究を専門とする大学教員・研究者数: 2桁の人がいる。主要人物は、
①ニコラス・ステネック(Nicholas H. Steneck)。
②デイビッド・レスニック(David Resnik)。
③マーチンソン(Brian C. Martinson)。
④ミゲル・ロイグ(Miguel Roig)など。
⑤さらに、約2600校ある各大学につき1人の研究公正官がいるので約2600人 - ネカト学会:ない
- ネカト・シンポジウム:頻繁に開催されている。①研究公正局関連:Conferences | ORI – The Office of Research Integrity
- ネカト監視組織:
①研究公正局や科学庁(NSF)・監査総監室(OIG)など政府系組織。
②パブピア(1‐4‐9.パブピア(PubPeer) | 研究倫理(ネカト))。
③撤回監視(1‐4‐8.撤回監視(リトラクション・ウオッチ:Retraction Watch) | 研究倫理(ネカト))。
④ Promoting Scientific Integrity | Union of Concerned Scientists - ネカト・ブロガー:
①撤回監視 - ネカト・ハンター:
①クレア・フランシス(仮名)(Clare Francis)。
②ポール・ブルックス(Paul Brookes)。 - ネカト・私人による代理訴訟:
①ジョセフ・トーマス(Joseph Thomas)。
★研究ネカトのニュース・メディア
ネカトを専門とするニュース・メディアはないが、多くの新聞社はネカトを大きな社会問題ととらえている。ネカト記事の執筆に熱心である。
小さな事件は、地元紙が取材し記事にする。大きな事件は、ニューヨーク・タイムズ紙やロサンゼルス・タイムズ紙が昔から記事にしている。
米国のニュース・メディアは、日本と比べると、異質と思えるほど、記載内容が豊富で、事件を詳細に取材し、記者の視点・意見も述べてあり、読み応えのある立派な記事が多い。
対照的に、日本の新聞記事は電報文のようで、事件の状況がつかめず、記者の掘り下げが感じられないことが多い。
新聞記事がなければ、闇に葬られたと思える米国のネカト事件は多数存在する。それほど、新聞記者が活躍してきた。
- 記者育成システム:
- ニュース・メディアの具体例:①ハリエット・ライアン(Harriet Ryan)、 女、ロサンゼルス・タイムズ紙 記者(製薬企業:鎮痛薬・オキシコンチン(OxyContin)、オキシコドン(oxycodone):パーデュー・ファーマ社(Purdue Pharma)(米国) | 研究倫理(ネカト))
★大学・研究機関の学生・院生向け研究倫理教育
追記 → ①Despite policy’s weaknesses, NSF to reiterate stance on teaching good research habits | Science | AAAS、(保存版)
、②America Creating Opportunities to Meaningfully Promote Excellence in Technology, Education, and Science Act of 2007:America COMPETES Act – Wikipedia
以下は、「1‐5‐3.研究ネカト事件対処の4ステップ説 | 研究倫理(ネカト)」から、該当部分の再掲です。
2009年11月、米国・NIHは、研究倫理教育の受講していない訓練生(学生、院生、ポスドクなど)の奨学金申請を認めないとした(NOT-OD-10-019: Update on the Requirement for Instruction in the Responsible Conduct of Research(保存版))。
米国・科学庁 (NSF)も同様の措置を取った。
2013年2月、米国・農務省・食品農業研究所(National Institute of Food and Agriculture)も同様の措置を取った。(UNL | Responsible Conduct of Research | Research Responsibility(保存版))。
つまり、米国のすべての理系の学部生・院生・ポスドクは実質的に研究倫理教育が義務化されている。
教育は誰がどう担当するか?
米国の大学には研究倫理官が必ずいるので、その教員が科目を開設しているケースがあるだろう。《白楽は、米国を含めた外国の研究倫理教育を網羅的に調べていない》。 → 参考:齋藤芳子「米国における 大学院生向け研究倫理教育コースの設計」2008年。
米国・ネブラスカ大学は、CITI プログラムの研究倫理コースをオンラインで習得するとなっている(CITI – Collaborative Institutional Training Initiative)。網羅的に調べたわけではないが、米国の多くの大学はそうしていると思う。
文系の訓練生は?《白楽は、十分調べていない》
ハーバード大学・経営学では「企業倫理」の受講が必修だ(2014年10月2日、佐藤 智恵「ハーバードが「倫理」を必修にする理由、日経ビジネスオンライン(保存版)。全文閲覧は有料)
- 組織:各大学が、科目として設定
- 必修?:必修
- 政策と予算等:
- 直面している問題、改善しようとしている点:
- 政策、システムの特徴:
●7.【日本語記事】
白楽は「米国の研究ネカト」を含め何度も執筆してきた。その都度、日本語の記事をチェックした。
→ 0‐1.白楽の「研究規範」関連文章・講演 | 研究倫理(ネカト)
日本語書籍として、以下の「研究倫理」本があり、その一部に、「米国の研究ネカト」事情が記載されている。
- 山崎茂明 『科学者の不正行為―捏造・偽造・盗用』 丸善、東京、2002年。ISBN 978-4621070215。
山崎茂明の著書検索:Amazon.co.jp: 山崎茂明 - 白楽ロックビル(2011):『科学研究者の事件と倫理』、講談社、東京: ISBN 9784061531413
- 黒木登志夫 『研究不正(中公新書)』 中央公論新社、東京、2016年。
そして、いままで、なんとなく、ウェブ上に「米国の研究ネカト問題」の日本語解説文がたくさんあると思っていた。今回、検索して、日本語解説文がとても少ないことに驚いた。
- 2014年1月31日:中村征樹(大阪大学全学教育推進機構)「海外(特に米国)の行政機関における研究不正への対応状況等」
- 2015年4月24日:上山隆大(政策研究大学院大学)「米国における研究開発のガバナンス: 「研究不正」はアカデミアの影の部分」
- 2015年4月30日:未来工学研究所:平成26年度文部科学省における基本的な政策の立案・評価に関する調査研究 「研究不正に対応する諸外国の体制等に関する調査研究」報告書
●8.【主要情報源】
① 各文章ごとに記載したので、まとめて記載しない
②ウィキペディア英語版:Scientific misconduct – Wikipedia・・・対応する日本語サイト「科学における不正行為」は間違いも多く、問題が多すぎ。
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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