2015年2月17日掲載、2024年5月25日更新
ワンポイント:メレンデス はシンガポール・ナショナル大学(National University of Singapore)・準教授だった。2011年(44歳?)、ねつ造・改ざんが発覚し、2012年12月19日(45歳?)、調査の結果、シンガポール・ナショナル大学はメレンデスの21論文にねつ造・改ざん・盗用があったと発表した。ただ、調査報告書を公開しなかった。メレンデスは大学の調査はヘンで、自分はシロだとウェブサイトで主張した。2015年6月21日(48歳?)時点で、メレンデスの撤回論文数は17報で、「撤回論文数」世界ランキングの13位(番号15)になった。この事件は「大学のネカト調査不正」事件の印象がある。国民の損害額(推定)は3億円(大雑把)。
ーーーーーーー 目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
アリリオ・メレンデス(Alirio Melendez、Alirio J. Melendez、Alirio Melendez-Romero、写真出典)は、ロシアのモスクワ大学で医学を学び、英国のグラスゴー大学で研究博士号(PhD)を取得し、シンガポールのシンガポール・ナショナル大学(National University of Singapore)・準教授になった。専門は免疫学で、免疫細胞の細胞内情報伝達を研究していた。
2011年(44歳?)、匿名の公益通報によりねつ造・改ざんが発覚した。
2012年12月19日(45歳?)、シンガポール・ナショナル大学は1年7か月の調査を終え、メレンデスの21論文にねつ造・改ざん・盗用があったと結論した。
ただ、大学は、どの論文が不正なのかを秘匿し、調査報告書を永久に公表しないとした。
2013年10月(46歳?)、メレンデスは大学の調査はヘンで、自分はシロだとウェブサイトで主張した。
白楽は、メレンデスの主張に同意できる点があり、「大学のネカト調査不正」事件だと思った。
2015年2月6日(48歳?)時点で、メレンデスの14論文が撤回された。しかし、メレンデスは不正を認めていない。ということは、一部あるいは全部、共著者や室員の仕業かもしれない。
2015年6月21日(48歳?)時点で、メレンデスの撤回論文数は17報になり、「撤回論文数」世界ランキングの13位(番号15)となった。
2024年5月24日(57歳?)現在、30位でも29報の撤回論文が必要なので、メレンデスはランク外になっている。
2024年5月24日(57歳?)現在、メレンデスは中国の深圳国際交流学院(Shenzhen College of International Education)・生物学の教員である。
シンガポール・ナショナル大学(National University of Singapore)。写真出典
- 国:シンガポール
- 成長国:ロシア、英国
- 研究博士号(PhD)取得:英国のグラスゴー大学(University of Glasgow)
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に、1967年1月1日生まれとする。ベネズエラ出身かも(根拠)。 1985年に大学入学した時を18歳とした
- 現在の年齢:57歳?
- 分野:免疫学
- 不正行為:2002~2011年(35 ~ 44歳?)の10年間
- 不正行為時の地位:シンガポール・ナショナル大学・準教授、教授(推定)
- 発覚年:2011年(44歳?)
- 発覚時地位:英国のリバプール大学・教授
- ステップ1(発覚):匿名者がシンガポール・ナショナル大学に通報
- ステップ2(メディア):「Nature 」、「Times Higher Education」、「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①シンガポール・ナショナル大学。調査期間:2011年3月~2012年12月19日の1年7か月。②英国のリバプール大学
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:調査したが、報告書を隠蔽(✖)
- 不正:ねつ造・改ざん・盗用
- 不正論文数:大学は21報に不正と結論。14報撤回
- 時期:研究キャリアの中期
- 職:移籍し研究職を続けた(◒)ようだが、2013年以降は論文を出版していないので、実質的には、研究職をやめた・続けられなかった(Ⅹ)
- 処分:英国のリバプール大学・教授を辞職(解雇?)
- 対処問題:「大学のネカト調査不正」(推定)、大学が21報不正としたのに14報しか撤回していないので「学術誌怠慢」
- 特徴:ネカト者とされた本人がウェブサイトで無実を主張
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】 国民の損害額:総額(推定)は3億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
経歴は主に、(1): Alirio Melendez-Romero | LinkedIn、(2): University of Glasgow tight-lipped over ethics inquiry | Times Higher Education (THE)。
- 生年月日:不明。仮に、1967年1月1日生まれとする。ベネズエラ出身かも(根拠)。 1985年に大学入学した時を18歳とした
- 1985~1992年(18 ~ 25歳?):ロシアのパトリス・ルムンバ民族友好大学(Российский Университет Дружбы Народов)で医学を学ぶ。医師免許取得(推定)
- 1992~1995年(25~ 28歳?):英国のグラスゴー大学(University of Glasgow)・学士号取得:生化学
- 1995~1998年(28~ 31歳?):英国のグラスゴー大学(University of Glasgow)・研究博士号(PhD)取得:分子医学。指導教授はジャネット・アレン(Janet Allen)
- 1998年(31歳?):フランス・パリのロシュ研究所(Institut de Recherche Jouveinal/Parke-Davis)のポスドク
- 1999年8月(32歳?):同、上級研究員
- 2001年5月~2009年(34 ~ 42歳?):シンガポール・ナショナル大学(National University of Singapore)・準教授、その後、教授(推定)。写真出典
- 2007年(40歳?):英国に移住。2009年までシンガポール・ナショナル大学の身分を維持
- 2007年(40歳?):シンガポール・ナショナル大学の若手研究者賞(Young Researcher Award)・受賞
- 2009年(42歳?):英国のグラスゴー大学(University of Glasgow)・教授
- 2010年(43歳?):英国のリバプール大学(University of Liverpool)・教授
- 2011年3月(44歳?):研究ネカト疑惑の通報を受け、シンガポール・ナショナル大学が調査開始
- 2011年4月(44歳?):英国のリバプール大学(University of Liverpool)停職
- 2011年11月(44歳?):英国のリバプール大学(University of Liverpool)辞職
- 2012年12月19日(45歳?):シンガポール・ナショナル大学は調査の結果、メレンデスの21論文にねつ造・改ざん・盗用があったと結論した
- 20xx~20xx年(xx~ xx歳):サウジアラビアのキング・ハーリド大学(King Khalid University)・教授。論文出版なし
- 20xx~ 2024年5月24日(xx~ 57歳?)現在:中国の深圳国際交流学院(Shenzhen College of International Education)・生物学の教員。論文出版なし
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★研究人生
アリリオ・メレンデス(Alirio Melendez、Alirio J. Melendez、Alirio Melendez-Romero)は、ロシアのパトリス・ルムンバ民族友好大学(Российский Университет Дружбы Народов)で医学を学んだ。
その後、1992~1995年(25~ 28歳?)、英国のグラスゴー大学(University of Glasgow)で学士号を取得(生化学)し、1998年( 31歳?)、同大学で研究博士号(PhD)を取得した。指導教授はジャネット・アレン(Janet Allen、写真出典)だった。
2001年5月~2009年(34 ~ 42歳?)、シンガポール・ナショナル大学(National University of Singapore)・準教授、その後、教授(推定)を務めた。
2011年3月(44歳?)、匿名者がシンガポール・ナショナル大学時代のメレンデスの論文に対してネカトの告発をしたが、その時、メレンデスは英国のリバプール大学(University of Liverpool)・教授に移籍していた。
★発覚
2011年3月(44歳?)、メレンデス(写真出典)のシンガポール・ナショナル大学在籍時の約70論文に研究ネカトがあると、匿名の公益通報があった。
シンガポール・ナショナル大学(National University of Singapore)は調査を開始した。
2011年7月(44歳?)、メレンデスの「2011年2月のNature Immunology」論文が撤回された。これが最初の論文撤回である。
その後、次々と論文が撤回された。
★大学がクロと結論
2012年12月19日(45歳?)、シンガポール・ナショナル大学(National University of Singapore)は1年7か月の調査を終え、メレンデスの21論文にねつ造・改ざん・盗用があったと結論した。
この研究不正に、共著者や同僚など他の人は関与しておらず、メレンデスの単独犯だとした。
ただ、どの論文が研究ネカトだったかを公表しなかった。また、調査報告書も公表しなかった。
「ネイチャー」記者の質問に、大学の広報者(女性)は、どれが不正論文かは秘密事項であり、調査報告書は永久に公表しないと答えた[白楽は、措置は異常だと思う]。
なお、2015年2月6日(48歳?)時点で、メレンデスの14論文が撤回されていた。
2015年6月21日(48歳?)時点で、メレンデスの撤回論文数は17報に増え、「撤回論文数」世界ランキングの13位(番号15)になった。
2024年5月24日(57歳?)現在、撤回論文は14論文である。なお、17報の撤回論文数が減った理由を白楽は把握できていない。
★7論文は「責任ない」とメレンデスは主張
2013年10月16日(46歳?)、シンガポール・ナショナル大学がクロと発表した約10か月後、メレンデスは7論文には関与していないとウェブサイトで主張した(Statement AJ Melendez 16 Oct 2013 | Prof AJ Melendez)。
シンガポール・ナショナル大学が不正だと報告した論文群の内、少なくとも以下の7報は、私にはなにも責任がないことを強調しておきたい。それらの論文は、他の研究室が行なった研究で、私はアドバイスや試薬の提供をしたが、それ以上のことをしていない。論文は下記の通りである。
- Int. J Biochem Cell Biol 2010 Feb; 42(2):230-40. Jayapal M, Bhattacharjee RN, Melendez AJ, Hande MP.
- World J Biol Chem 2010 Nov 26; 1 (11): 321-6. Lai WQ, Melendez AJ, Leung BP.
- J Immunol 2009 Jul 15;183(2):1413-8. Lai WQ, Irwan AW, Goh HH, Melendez AJ, McInnes IB, Leung BP.
- Blood 2009 Jul 9;114(2):318-27. (NUS repport concern of plagiarism) Dai X, Jayapal M, Tay HK, Reghunathan R, Lin G, Too CT, Lim YT, Chan SH, Kemeny DM, Floto RA, Smith KG, Melendez AJ, MacAry PA.
- J Cell Physiol 2008 Mar; 214(3); 796-809. Newman JP, Banerjee B, Fang W, Poonepalli A, Balakrishnan L, Low GK, Bhattacharjee RN, Akira S, Jayapal M, Melendez AJ, Baskar R, Lee HW, Hande MP.
- Nitric Oxide 2008 Mar; 18(2), 136-45. Peng ZF, Chen MJ, Yap YW, Manikandan J, Melendez AJ, Choy MS, Moore PK, Cheung NS.
- Neuropharmacology 2007, 53, 687-98. Peng ZF, Koh CH, Li QT, Manikandan J, Melendez AJ, Tang SY, Halliwell B, Cheung NS.
★「シロ」とメレンデスは主張
上記の8日後の2013年10月24日付けで、自分はシロだとの主張をウェブにアップした(paper-by-paper review | Prof AJ Melendez)。
無実なら自分で無実を証明しなさいと多くの人に言われるが、そのためには、シンガポール・ナショナル大学の研究室にある自分のデータにアクセスする必要があります。しかし、アクセスを許可してくれません。また、シンガポール・ナショナル大学の担当者と話し合いたいと申し入れているが、彼らは私の要求を一度も認めたことがなく、また、何も返事をしてきません。
シンガポール・ナショナル大学は、「私が有罪」という報告書を作成し、関係者は『報告書は完全である』と述べているが、秘密文書扱いという理由で、外部の人は報告書を見たことがありません。
私は、報告書を見せられた時、直ちにいくつかの間違いを発見し、訂正するように求めました。ただ、私は訴訟を起こすことも想定しています。裁判で、いたずらに私が不利になったり権利を失うのを恐れ、シンガポール・ナショナル大学の許可なしにこの報告書を公表するつもりはありません。
しかし、私は、私のキャリアを大きく損傷した調査に重大な失策があったと思っています。それで、問題とされた1つ1つの論文の状況を説明しようと考えました。私は、これが、私への疑念に対する質問への回答となることを望んでいます。
という書き出しで、27論文をリストし、1つ1つの論文について、シンガポール・ナショナル大学の指摘に対し、メレンデスは、自分がシロだと主張している点を解説している。 27論文は多いので、最初の1論文だけ記述する。興味のある方は、原典をご覧ください。
- 論文:Peng ZF, Koh CH, Li QT, Manikandan J, Melendez AJ, Tang SY, Halliwell B, Cheung NS. Neuropharmacology 2007, 53, 687-98.
- シンガポール・ナショナル大学の指摘:図3Bのゲルの32kDaと17kDaのバンドの背景は、強度がはっきりと違い、形は直線的である。他のバンドをこの図に挿入したに違いない。さらに、図1BのDICグラフは後の論文(Nitric Oxide 2008)で再使用されている。
- メレンデスの説明:これは、シンガポール・ナショナル大学の調査がイイカゲンだということを示すものだ。この論文に対する私の関与は、マイクロアレイ実験についてアドバイスしただけである、私は実験計画を立てていないし、実行もしていない。論文の文章を執筆もしていない。この論文は別の研究室で作成されたもので、私は協力したけれども、マイクロアレイ実験についてアドバイスしただけである。他のどのようなデータの作成/分析もしていないし、執筆もしていない。
論文は8人共著で、メレンデスは第一著者でも最終著者でもない。5番目の著者である。となると、常識的には、実験の計画を立てていない、執筆していない、重要なデータの作成/分析はしていないというメレンデスの主張は正しいと思われる。白楽は、実態を知る由もないが、メレンデスの主張が正しいという印象を受けた。
写真出典
●【ねつ造・改ざん・盗用の具体例】
シンガポール・ナショナル大学(National University of Singapore)はメレンデスの21論文にねつ造・改ざん・盗用があったと結論したが、調査報告書を公表していない(隠蔽)。
14報の論文が撤回されたが、撤回公告はどの図表・文章がねつ造・改ざん・盗用なのか、具体的に示していなかった。
上記のメレンデスがシロと主張した以下の論文は閲覧有料なので、白楽は閲覧していない。
- 論文:Peng ZF, Koh CH, Li QT, Manikandan J, Melendez AJ, Tang SY, Halliwell B, Cheung NS. Neuropharmacology 2007, 53, 687-98.
従って、メレンデスが説明した以下の疑惑の図を具体的に示せない。
- シンガポール・ナショナル大学の指摘:図3Bのゲルの32kDaと17kDaのバンドの背景は、強度がはっきりと違い、形は直線的である。他のバンドをこの図に挿入したに違いない。さらに、図1BのDICグラフは後の論文(Nitric Oxide 2008)で再使用されている。
他の論文を検討していないが、ねつ造・改ざん・盗用の具体例を省略した。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
データベースに直接リンクしているので、記事を閲覧した時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えていると思います。
★パブメド(PubMed)
2024年5月24日現在、パブメド(PubMed)で、アリリオ・メレンデス(Alirio Melendez、Alirio J. Melendez、Alirio Melendez-Romero)の論文を「Alirio Melendez[Author]」で検索すると、2002~2013年の60論文がヒットした。
「Melendez AJ」で検索すると、1998~2022年の68論文がヒットした。
「Retracted Publication」でキーワードで分類すると、2002~2011年の10年間の14論文が撤回されていた。撤回論文の研究機関は全部、シンガポール・ナショナル大学だった。
最新(2011年)の撤回論文は以下の論文。
- The helminth product ES-62 protects against septic shock via Toll-like receptor 4-dependent autophagosomal degradation of the adaptor MyD88. Puneet P, McGrath MA, Tay HK, Al-Riyami L, Rzepecka J, Moochhala SM, Pervaiz S, Harnett MM, Harnett W, Melendez AJ. Nat Immunol. 2011 Apr;12(4):344-51. doi: 10.1038/ni.2004. Epub 2011 Feb 27. Retraction in: Nat Immunol. 2011 Aug;12(8):804.
最古(2002年)の撤回論文は以下の論文。
- Dichotomy of Ca2+ signals triggered by different phospholipid pathways in antigen stimulation of human mast cells. Melendez AJ, Khaw AK. J Biol Chem. 2002 May 10;277(19):17255-62. Epub 2002 Feb 20. Retraction in: J Biol Chem. 2013 Apr 5;288(14):10083.
★撤回監視データベース
2024年5月24日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでアリリオ・メレンデス(Alirio Melendez、Alirio J. Melendez、Alirio Melendez-Romero)を「Melendez, Alirio J」で検索すると、18論文がヒットしたが、撤回論文は14報だった。
★パブピア(PubPeer)
2024年5月24日現在、「パブピア(PubPeer)」では、アリリオ・メレンデス(Alirio Melendez、Alirio J. Melendez、Alirio Melendez-Romero)の論文のコメントを「Alirio Melendez」で検索すると、5論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》不明瞭
メレンデス事件は全貌がつかみにくい。
シンガポール・ナショナル大学は調査報告書を公表しない。
英国・リバプール大学は事件にコメントしない。
アリリオ・メレンデス(Alirio Melendez)は病気で大学を休んでいたり、記者の質問に回答しない。
一方、メレンデスは自分はシロだとウェブで主張している。
大学が正しいのかメレンデスが正しいのか、白楽にはわからない。
わかるのは、大学もメレンデスも誠実さに欠けているということだ。
そもそも、調査報告書を公表しないのを、大学は勝手に決めてよいのだろうか?
日本も調査報告書(予備調査、本調査)を公表しない大学が結構多い。規則を改訂し、処罰化すべきだと思う。
《2》指導教授の責任
この事件の後、メレンデスの大学院時代の指導教授・ジャネット・アレン(Janet Allen)が英国政府の要職(英国政府の研究助成機関・Biotechnology and Biological Sciences Research Council の研究部長)を辞任した。アレンは、当時、英国・グラスゴー大学(University of Glasgow)・分子医学・教授だった。
辞任は、メレンデス事件と無関係と述べているが、関係しているに違いない。
一般的に、かつての弟子の研究不正は、大なり小なり、研究博士号指導教授に責任があると、白楽は考えている。
在籍している院生がネカト犯となった場合、日本はその時の教授を管理責任として処罰しているが、米国や欧州では、個人主義の価値観を反映して、指導教授の管理責任を追及していない。それで、院生のネカト行為責任を取って特定の役職を辞任する例は極めて珍しい。
かりに、研究博士号指導教授に責任を取らせるとして、どの程度の責任を取らせるのか? 基準は必要だろう。
なお、メレンデスのグラスゴー大学・院生時代の論文に撤回論文はないし、アレンとの共著論文(全部で9報)にも撤回論文はない。しかし、メレンデスが最初に発表した論文はグラスゴー大学・院生時代の1998年に出版した。その論文に続く8論文はアレンとの共著である。だから、メレンデスは、アレンの研究スタイルにほぼ100%染まっていると思える。
《3》インターネット時代
インターネット時代なので「研究上の不正行為」のシロ・クロの判定は、メディアがウェブサイトに記事をアップすれば、世界中の生命科学者、研究倫理学者、庶民は簡単に知ることができる。
同時に、ネカト者が自分にとって都合の良い主張をウェブサイトに公表できる。
その状況で、生命科学者、研究倫理学者、庶民が意見を述べ、劇場型というか、双方向型、フラット型、視聴者参加型で情報の拡散や、問題点の議論ができる。
メレンデスは自分はシロだと主張した根拠をインターネットで2回、公表している。
一方、シンガポール・ナショナル大学は調査報告書を公表しない。英国・リバプール大学はコメントしない。
となると、多くの人は、両大学のネカト調査に不審を抱く。
調査がズサンで間違いがある、とか、最悪、調査に不正があるので、調査報告書を公表しない、大学はコメントしないと、白楽は深読みしてしまう。
メレンデスに問題はあったのだろうが、白楽は、2つの大学の対応に大きな問題があると感じた。
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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の協力もあり、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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●9.【主要情報源】
① 「撤回監視(Retraction Watch)」記事群:alirio melendez Archives – Retraction Watch at Retraction Watch
② 2012 年12月19日のリチャード・ヴァン・ノールデン(Richard Van Noorden)の「 ex Chersonesus Aurea 」記事: ex Chersonesus Aurea: Alirio Melendez, former National University of Singapore immunologist, is a fraud
③ 2012年8月30日、ポール・ジャンプ(Paul Jump)の「Times Higher Education」の記事:University of Glasgow tight-lipped over ethics inquiry | General | Times Higher Education
④ 2012 年12月19日のリチャード・ヴァン・ノールデン(Richard Van Noorden)の「Nature」記事:Immunologist accused of misconduct in 21 papers : Nature News Blog
⑤ 2022年5月6日のジュディス・タン(Judith Tan)記者の「TheHomeGround Asia」記事:SMU calls the bluff of assistant professor, academic fraud discovered
⑥ 2011年10月12日のベン・ターナー(Ben Turner)記者の「Liverpool Echo」記事:Liverpool university academic Professor Alirio Melendez suspended over ‘fake’ research investigation – Liverpool Echo
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作Categories品ではありません。
●コメント
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