アリリオ・メレンデス(Alirio Melendez)(シンガポール)

【概略】
alirio_melendez アリリオ・メレンデス(Alirio J. Melendez、写真出典)は、ロシアのモスクワ大学で医学を学び、英国・グラスゴー大学で研究博士号(PhD)を取得し、シンガポールのシンガポール・ナショナル大学(National University of Singapore)・教授になった。専門は免疫学で、免疫細胞の細胞内情報伝達を研究していた。

2011年(41歳?)、匿名の公益通報によりねつ造・改ざんが発覚した。

2015年2月6日現在、14論文が撤回されている。しかし、メレンデスは不正を認めていない。

  • 国:シンガポール
  • 成長国:ロシア、英国
  • 研究博士号(PhD)取得:英国・グラスゴー大学(University of Glasgow)
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に、1970年1月1日生まれとする
  • 現在の年齢:54歳?
  • 分野:免疫学
  • 最初の不正論文発表:2002年(32歳)
  • 発覚年:2011年(41歳?)
  • 発覚時地位:英国・リバプール大学・教授
  • 発覚:公益通報
  • 調査:①シンガポール・ナショナル大学。調査期間:2011年3月~2012年12月19日の1年7か月。②英国・リバプール大学
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:撤回論文数は14報。他に不審論文あり
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 結末:英国・リバプール大学・教授を辞職

【経歴と経過】
経歴は主に【主要情報源②】。

  • 生年月日:不明。仮に、1970年1月1日生まれとする。
  • 19xx年(xx歳):ロシアのモスクワ大学(Moscow State University)で医学を学ぶ。医師免許取得(推定)
  • 1998年?(28歳?):英国・グラスゴー大学(University of Glasgow)・大学院生、分子医学のジャネット・アレン(Janet Allen)教授研究室で研究博士号(PhD)取得
  • 1998年(28歳?):フランス・パリのロシュ研究所(Institut de Recherche Jouveinal/Parke-Davis)のポスドク
  • 1999年8月(29歳?):同、上級研究員
  • alirio M2001年5月-2009年(31- 39歳?):シンガポール・ナショナル大学(National University of Singapore)・準教授、その後、教授(推定)。写真出典
  • 2007年(37歳?):英国に移住。2009年までシンガポール・ナショナル大学の身分を維持
  • 2007年(37歳?):シンガポール・ナショナル大学の若手研究者賞(Young Researcher Award)・受賞
  • 2009年(39歳?):英国・グラスゴー大学(University of Glasgow)・教授
  • 2010年(40歳?):英国・リバプール大学(University of Liverpool)・教授
  • 2011年3月(41歳?):研究ネカトの公益通報を受けシンガポール・ナショナル大学が調査開始
  • 2011年4月(41歳?):英国・リバプール大学(University of Liverpool)停職
  • 2011年11月(41歳?):英国・リバプール大学(University of Liverpool)辞職

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1994年~2001年、英国・グラスゴー大学(University of Glasgow)・分子医学・教授だったジャネット・アレン(Janet Allen)。メレンデスの博士論文指導者。写真出典

【不正発覚・調査の経緯】

ttworm2011年3月(41歳?)、メレンデス(写真出典)のシンガポール・ナショナル大学在籍時の約70論文に研究ネカトがあると、匿名の公益通報があった。シンガポール・ナショナル大学(National University of Singapore)は調査を開始した。

2011年7月、2011年2月の「Nature Immunology」のオンライン論文が撤回された。これが最初の撤回論文である。その後、次々と論文が撤回され、この文章を書いている時点では、撤回論文は14論文に及んでいる。今後、もっと増えるかもしれない。

2012年12月19日、シンガポール・ナショナル大学(National University of Singapore)は1年7か月の調査を終え、メレンデスの21論文にねつ造・改ざん・盗用があったと結論した。これらの不正に、共著者や同僚など他の人は関与しておらず、メレンデスの単独犯とした。

ただ、どの論文が研究ネカトだったかを公表しなかった。また、調査報告書も公表しなかった。

「ネイチャー」記者の質問に、大学の広報者(女性)は、どれが不正論文かは秘密事項であり、調査報告書は永久に公表しないと答えた(白楽は、不審な対応・異常な回答だと思う)。メレンデスの対応についても大学は何も答えなかった。

【論文数と撤回論文】
パブメドhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedで、アリリオ・メレンデス(Alirio J. Melendez)の論文を「Melendez AJ[Author]」で検索すると、1998年~2012年の15年間の63論文がヒットした。

2015年2月6日現在、2002-2011年の10年間の14論文が撤回されている。撤回論文の研究機関は全部、シンガポール・ナショナル大学である。

最新(2011年)の1論文。

最古(2002年)の1論文。

【事件の深堀】

★本人は7論文は「責任ない」と主張

メレンデスは自分はシロだと主張している。2013年10月16日付けで、主張をウェブにアップしている(Statement AJ Melendez 16 Oct 2013 | Prof AJ Melendez)。

シンガポール・ナショナル大学が不正だと報告した論文群の内、少なくとも以下の7報は、私にはなんら責任がないことを強調しておきたい。それらの論文は、他の研究室が行なった論文で、私はアドバイスや試薬の提供をしたが、それ以上のことをしていない。論文は下記の通りである。

  1. Int. J Biochem Cell Biol 2010 Feb; 42(2):230-40. Jayapal M, Bhattacharjee RN, Melendez AJ, Hande MP.
  2. World J Biol Chem 2010 Nov 26; 1 (11): 321-6. Lai WQ, Melendez AJ, Leung BP.
  3. J Immunol 2009 Jul 15;183(2):1413-8. Lai WQ, Irwan AW, Goh HH, Melendez AJ, McInnes IB, Leung BP.
  4. Blood 2009 Jul 9;114(2):318-27. (NUS repport concern of plagiarism) Dai X, Jayapal M, Tay HK, Reghunathan R, Lin G, Too CT, Lim YT, Chan SH, Kemeny DM, Floto RA, Smith KG, Melendez AJ, MacAry PA.
  5. J Cell Physiol 2008 Mar; 214(3); 796-809. Newman JP, Banerjee B, Fang W, Poonepalli A, Balakrishnan L, Low GK, Bhattacharjee RN, Akira S, Jayapal M, Melendez AJ, Baskar R, Lee HW, Hande MP.
  6. Nitric Oxide 2008 Mar; 18(2), 136-45. Peng ZF, Chen MJ, Yap YW, Manikandan J, Melendez AJ, Choy MS, Moore PK, Cheung NS.
  7. Neuropharmacology 2007, 53, 687-98. Peng ZF, Koh CH, Li QT, Manikandan J, Melendez AJ, Tang SY, Halliwell B, Cheung NS.

★本人は「シロ」と主張

2013年10月24日付けでも、自分はシロだとの主張をウェブにアップしている(paper-by-paper review | Prof AJ Melendez)。

無題無実なら自分で無実を証明しなさいと多くの人に言われるが、そのためには、シンガポール・ナショナル大学の研究室にある自分のデータにアクセスする必要があるが、アクセスは許可されていない。また、シンガポール・ナショナル大学の担当者と話し合いたいと申し入れているが、彼らは私の要求を一度も認めたことがなく、また、何も返事してこない。

シンガポール・ナショナル大学は、「私が有罪」という報告書を作成し、関係者は『報告書は完全である』と述べているが、秘密文書扱いという理由で、外部の人は報告書を見たことがない。私は、報告書を見せられた時、直ちにいくつかの間違いを発見し、訂正するように求めた。ただ、私は訴訟を起こすことも想定している。裁判で、いたずらに私が不利になったり権利を失うのを恐れて、シンガポール・ナショナル大学の許可なしにこの報告書を公表するつもりはない。

しかし、私は、私のキャリアを大きく損傷した調査に重大な失策があったと思う。それで、私は、問題とされた1つ1つの論文の状況を説明しようと考えた。私は、これが、私への疑念に対する質問への回答となると望んでいる。

という書き出しで、27論文をリストし、1つ1つの論文について、シンガポール・ナショナル大学の指摘に対し、メレンデスは、自分がシロだと主張している点を解説している。

27論文は多いので、最初の1論文だけ記述する。興味のある方は、原典をご覧ください。

  • 論文:Peng ZF, Koh CH, Li QT, Manikandan J, Melendez AJ, Tang SY, Halliwell B, Cheung NS. Neuropharmacology 2007, 53, 687-98.
  • シンガポール・ナショナル大学の指摘:図3Bのゲルの32kDaと17kDaのバンドの背景は、強度がはっきりと違い、形は直線的である。他のバンドをこの図に挿入したに違いない。さらに、図1BのDICグラフは後の論文(Nitric Oxide 2008)で再使用されている。
  • メレンデスの説明:これは、シンガポール・ナショナル大学の調査がイイカゲンだということを示すものだ。この論文に対する私の関与は、マイクロアレイ実験についてアドバイスしただけである、私は実験計画を立てていないし、実行もしていない。論文の文章を執筆もしていない。この論文は別の研究室で作成されたもので、私は協力したけれども、マイクロアレイ実験についてアドバイスしただけである。他のどのようなデータの作成/分析もしていないし、執筆もしていない。

論文は8人共著で、メレンデスは第一著者でも最終著者でもない。5番目の著者である。となると、常識的には、実験の計画を立てていない、執筆していない、重要なデータの作成/分析はしていないだろう。内容や実態を知らないが、メレンデスの主張が正しい印象を受ける。

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写真出典

【白楽の感想】

《1》 不明瞭

事件の全貌がつかみにくい。

シンガポール・ナショナル大学は調査報告書を公表しない。

英国・リバプール大学は事件にコメントしない。

メレンデスは病気で大学を休んでいたり、記者の質問に回答しない。

一方、メレンデスは自分はシロだとウェブで主張している。

《2》 指導教授の責任

彼の大学院時代の指導教授・ジャネット・アレン(Janet Allen)が英国政府の要職(英国政府の研究助成機関・Biotechnology and Biological Sciences Research Council の研究部長)から辞任した。アレンは、当時、英国・グラスゴー大学(University of Glasgow)・分子医学・教授だった。

辞任は、メレンデス事件と無関係と述べているが、関係しているに違いない。

一般的に、かつての弟子の研究規範違反は、大なり小なり、研究博士号指導教授に責任がある(白楽の考え。日欧米での公式な処理では責任を追及していない)。ただ、責任を取って特定の役職を辞任する例は極めて珍しい。

かりに、研究博士号指導教授に責任を取らせるとして、どの程度の責任を取らせるのか? 基準は必要だろう。

今のところ、グラスゴー大学・院生時代の論文に撤回論文はないし、アレンとの共著論文(全部で9報)に撤回論文はない。しかし、メレンデスが最初に発表した論文はグラスゴー大学・院生時代の1998年に出版している。その論文に続く8論文はアレンとの共著である。だから、メレンデスは、アレンの研究スタイルにほぼ100%染まっていると思える。

《3》 インターネット時代

「研究上の不正行為」のシロ・クロの判定は、劇場型というか、双方向型、フラット、裁判員裁判というか、研究者参加型の様相を呈している。

メレンデスは自分はシロだと主張している根拠をインターネットで2回、公表している。

一方、シンガポール・ナショナル大学は調査報告書を公表しない。英国・リバプール大学はコメントしない。となると、多くの人は、両機関の調査に不審を抱き、多分、ズサンだったり、調査事態に間違いや不正があるのだろうと感じる。そして、メレンデスを応援したくなる。

【主要情報源】
① リトラクチョン・ウオッチ(Retraction Watch)の記事群:alirio melendez Archives – Retraction Watch at Retraction Watch
ex Chersonesus Aurea: Alirio Melendez, former National University of Singapore immunologist, is a fraud
③ 2012年8月30日、ポール・ジャンプ(Paul Jump)の「Times Higher Education」の記事:University of Glasgow tight-lipped over ethics inquiry | General | Times Higher Education
④ 2012 年12月19日のリチャード・ヴァン・ノールデン(Richard Van Noorden)の「Nature」記事:Immunologist accused of misconduct in 21 papers : Nature News Blog