2020年8月10日掲載
ワンポイント:ペトコビッチはニシュ大学(University of Niš)・教員で、数百論文を出版しているが、多数論文撤回者でもある。撤回論文ランキングの世界第26位(25撤回論文)に登場したので記事にした。25報の撤回論文中の22報は、イラン人の多数論文撤回者(世界第13位、38撤回論文)のシャハボディン・シャムシャーバンド(Shahaboddin Shamshirband)と共著の論文なので、シャムシャーバンドがネカト犯かもしれない。しかし、残り3報(2014年が1報、2017年が2報)は共著ではないのペトコビッチがネカトをしたと思われる。ニシュ大学はネカト調査をしていない。撤回理由は、盗用、自己盗用、査読偽装である。国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
ダリボル・ペトコビッチ(Dalibor Petković、写真出典)はニシュ大学(University of Niš)・教員で職位は不明である。専門は電子工学。
2020年8月9日(36歳)現在、ダリボル・ペトコビッチ(Dalibor Petković)は、撤回論文ランキングの世界第26位(25撤回論文)にランクしている。つまり、ペトコビッチは多数論文撤回者である。
→ 2020年7月13日更新:「撤回論文数」世界ランキング | 白楽の研究者倫理 、(2020年8月9日保存版) → 2020年8月9日保存:The Retraction Watch Leaderboard – Retraction Watch
撤回論文25報のうち22報がシャハボディン・シャムシャーバンド(Shahaboddin Shamshirband)と共著論文だった。
シャムシャーバンドはイランの多数論文撤回者である。2020年8月9日現在、撤回論文ランキングでは世界第13位で、撤回論文数は38報である。撤回理由は、盗用、自己盗用、査読偽装などである。
→ コンピューター学:シャハボディン・シャムシャーバンド(Shahaboddin Shamshirband)(イラン) | 白楽の研究者倫理
ということで、ペトコビッチの撤回論文25報のうち22報はシャムシャーバンドがネカト犯かもしれない。
しかし、残りの「2014年のNatural Hazards」論文と「2017年のJournal of Intelligent Manufacturing」の2論文の計3報は、シャムシャーバンドが共著者になっていない。従って、シャムシャーバンドがネカト犯ではない。3報の著者を見ると、3報全部の著者になっているのはペトコビッチだけである。それで、少なくともこの3報は、ペトコビッチが盗用、自己盗用、査読偽装したと思われる。
そして、「2014年のNatural Hazards」論文が2020年5月に、2報の「2017年のJournal of Intelligent Manufacturing」論文が2019年11月と2020年1月に撤回された。
なお、ペトコビッチが所属するニシュ大学(University of Niš)がペトコビッチのネカト調査をした形跡がない。白楽は、セルビアの研究公正体制を十分理解していないが、一般的に、ネカト調査に熱心ではない大学はかなりある。ネカト調査がされていないからといってペトコビッチがネカト犯ではないとは言えない。
本記事では、一応、ペトコビッチをネカト犯とした。
このような事情なので、ネカト発覚の経緯を含め、ネカト状況はほとんど不明である。
ニシュ大学(University of Niš)・機械工学部(Faculty of Mechanical Engineering)。写真出典
- 国:セルビア
- 成長国:セルビア
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:ニシュ大学
- 男女:男性
- 生年月日:1984年1月24日、セルビアで生まれた
- 現在の年齢:40 歳
- 分野:電子工学
- 最初の不正論文発表:2014年(30歳)
- 不正論文発表:2014-2016年(30-32歳)の3年間
- 発覚年:2017年(33歳)
- 発覚時地位:ニシュ大学・教員(助教授?)
- ステップ1(発覚):第一次追及者は学術誌・編集部
- ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査していない
- 大学の透明性:調査していない(Ⅹ)
- 不正:盗用、自己盗用、査読偽装
- 不正論文数:25撤回論文
- 時期:研究キャリアの初期から
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
- 処分:なし
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は2億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
参考:① Dalibor Petković、(保存版)
- 生年月日:1984年1月24日、セルビアで生まれた
- 2008年(24歳):ニシュ大学(University of Niš)で学士号取得:電子工学
- 2012年(28歳):同大学で研究博士号(PhD)取得:電子工学
- 20xx年(xx歳):同大学・教員:電子工学
- 2016年5月18日(32歳):同大学・教員(助教授?)に在職
- 2016年9月(32歳):ネカトが発覚
- 2020年8月9日(36歳)現在:ニシュ大学・教員に在職:Dalibor Petković、(2020年7月10日保存版)
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★多数の論文出版
ダリボル・ペトコビッチ(Dalibor Petković)は、2012年8月から2016年9月までの4年間で、学術誌に105報の論文を出版している。つまり年間26報のペース、2週間に1報のペースで論文を出版した。
論文のおおさは、リサーチゲイト(ResearchGate)にも示されていて、246報も出版している。
→ Dalibor Petković’s research works | University of Niš, Niš (NIS) and other places
イラン人で多数論文撤回者(世界第13位、38撤回論文)のシャハボディン・シャムシャーバンド(Shahaboddin Shamshirband)と共著の論文も多い。上記のResearchGateでヒットした246報のうち、57報がシャムシャーバンドと共著だった。
→ コンピューター学:シャハボディン・シャムシャーバンド(Shahaboddin Shamshirband)(イラン) | 白楽の研究者倫理
ニシュ大学のウェブサイトにペトコビッチの紹介サイトがある(Dalibor Petković)。そのサイトに多数の出版論文がリストされている。数えてみると2009-2016年に121論文を出版していた。内、87論文がシャムシャーバンドと共著だった。2016年までしかないのは、サイトは2016年5月18日に最終更新をされているからである。
左がシャハボディン・シャムシャーバンド(Shahaboddin Shamshirband)で右がダリボル・ペトコビッチ(Dalibor Petković)。写真出典
ところが、ペトコビッチはシャムシャーバンドと、どこでどのように知合ったのか? 2人の間に師弟関係はない。同じ研究室に所属していたこともない。白楽は2人の出会いがわからない。
★多数論文撤回者
2020年8月9日(36歳)現在、ダリボル・ペトコビッチ(Dalibor Petković)は、撤回論文ランキングの世界第26位(25撤回論文)にランクされている。従って、ペトコビッチは多数論文撤回者である。
撤回論文25報のうち22報がシャハボディン・シャムシャーバンド(Shahaboddin Shamshirband)と共著の論文だった。
★不正の内容と実行犯
ペトコビッチが所属するニシュ大学(University of Niš)がネカト調査委員会を設置してペトコビッチのネカト調査をした形跡はない。
学術誌の撤回公告では、共著者のシャムシャーバンドが盗用、自己盗用、査読偽装の不正を行なったとある。査読偽装を見つけているので、学術誌がシャムシャーバンドの論文を精査して見つけたものと思われる。
→ コンピューター学:シャハボディン・シャムシャーバンド(Shahaboddin Shamshirband)(イラン) | 白楽の研究者倫理
ペトコビッチがこの不正にどのように加担していたのか?
共犯者なのか単なる被害者(ネカト被災者)だったのか、ハッキリしない。
撤回論文25報のうち22報がシャムシャーバンドと共著なので、22報はシャムシャーバンドがネカト主犯だとしよう。しかし、残りの3報は、誰が不正をしたのか?
撤回された3論文を以下にリストした。以下の「2014年のNatural Hazards」論文が2020年5月に、2報の「2017年のJournal of Intelligent Manufacturing」論文が2019年11月と2020年1月に撤回された。
3論文で全部著者になっている人はペトコビッチだけである。ペトコビッチ自身が盗用、自己盗用、査読偽装の不正を行なったと思われる。学術誌が論文を精査してペトコビッチのネカト見つけたものと思われる。
- Adapting project management method and ANFIS strategy for variables selection and analyzing wind turbine wake effect
Petković Dalibor, Ab Hamid Siti Hafizah, Ćojbašić Žarko, Pavlović T. Nenad:
Natural Hazards, DOI: 10.1007/s11069-014-1189-1, Volume 74, Issue 2, November 2014, pp. 463-475 - Estimation of contact forces of underactuated robotic finger using soft computing methods
Srdjan Jovic, Nebojša Arsić, Ljubomir M. Marić, Dalibor Petković
Journal of Intelligent Manufacturing. 10.1007/s10845-016-1292-0. (2017). - Analysis of influential factors for predicting the shear strength of a V-shaped angle shear connector in composite beams using an adaptive neuro-fuzzy technique.
Mansouri, I. & Shariati, Mahdi & Safa, Maryam & Ibrahim, Z. & Tahir, Mahmood & Petković, D.
Journal of Intelligent Manufacturing. 10.1007/s10845-017-1306-6. . (2017).
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
リサーチゲイト(ResearchGate)によれば、ダリボル・ペトコビッチ(Dalibor Petković)は246報の論文を出版している。 → Dalibor Petković’s research works | University of Niš, Niš (NIS) and other places
★撤回論文データベース
2020年8月9日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文データベースでダリボル・ペトコビッチ(Dalibor Petković)を「Dalibor Petković」で検索すると、31論文がヒットし、25論文が撤回されていた。Retraction Watch Databaseの上右「Nature of Notice」の右にチェックを入れ、「Retraction」にすると、撤回論文(数)が表示される。
25撤回論文のうち22論文がシャハボディン・シャムシャーバンド(Shahaboddin Shamshirband)と共著の論文だった。
★パブピア(PubPeer)
2020年8月9日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ダリボル・ペトコビッチ(Dalibor Petković)の論文のコメントを「Dalibor Petković」で検索すると3論文にコメントがあった。3論文はシャハボディン・シャムシャーバンド(Shahaboddin Shamshirband)と共著の論文だった。
●7.【白楽の感想】
《1》手段を選ばず
本記事の助演であるシャハボディン・シャムシャーバンド(Shahaboddin Shamshirband)は、イラン人の多数論文撤回者(世界第13位、38撤回論文)である。
→ コンピューター学:シャハボディン・シャムシャーバンド(Shahaboddin Shamshirband)(イラン) | 白楽の研究者倫理
シャムシャーバンドは、盗用、自己盗用、査読偽装の不正と、論文数を増やすために「手段を選ばず」不正を働いたという印象がある。
そして、本記事の主役のペトコビッチもまた、シャムシャーバンド と同様に、論文数を増やすために「手段を選ばず」不正を働いたという印象を受けた。
《2》詳細が不明
撤回論文ランキングの世界第26位(リストで26番目、25撤回論文)に登場したので記事にしたが、ペトコビッチ事件は詳細が不明である。ペトコビッチ自身がネカト犯という確証はない。
事件の詳細が不明だと、「どんな人が、どの状況で、どうして?」がわからない。
セルビアのネカト処理事情もわからないままである。
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、日本に飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●9.【主な情報源】
① ダリボル・ペトコビッチ(Dalibor Petković)に関する「撤回監視(Retraction Watch)」記事群:Search Results for “dalibor petkovic” – Retraction Watch
② 2016年9月15日記事:prljavi pokvareni prevaranti – Page 9 – Nauka – Parapsihopatologija™
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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