心理学「自己盗用」:ロバート・スタンバーグ(Robert Sternberg)(米)

2019年3月4日掲載

ワンポイント:スタンバーグはコーネル大学(Cornell University)・教授で、1,500報以上の論文を出版し、2,000万ドル(約20億円)以上の助成金を獲得した心理学の巨人である。2018年(68歳)、英国のレスター大学(University of Leicester)の院生・ブレンダン・オコナー(Brendan O’Connor)がスタンバーグの多量の自己盗用を指摘した。トータル3論文が撤回。国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

ロバート・スタンバーグ(Robert J. Sternberg、写真出典)は、米国のコーネル大学(Cornell University)・教授で、専門は心理学である。2003年(53歳)にアメリカ心理学会の会長も務めた。

スタンバーグは1,500報以上の論文を出版し、2,000万ドル(約20億円)以上の助成金を獲得した心理学の巨人である。

2002年の「Review of General Psychology」では、スタンバーグは20世紀の心理学者・引用ランキングで、第60位番目にランクされた。

スタンバーグの研究主題は知性、創造性、知恵の3つで、これらと親密さ、愛、憎しみの関係についても研究した。その業績は、「スタンバーグの三頭理論(鼎立理論) (triarchic theory of intelligence)」が有名である。また、愛に関する理論も有名で、日本語版ウィキペディアに「愛の三角理論(Triangular theory of love)」がある。

また、日本語に翻訳された著書は『アメリカの心理学者 心理学教育を語る』(2000年)、『愛の心理学』(2009年)など4冊もある(本の表紙出典はアマゾン)。

2018年(68歳)、英国のレスター大学(University of Leicester)の院生・ブレンダン・オコナー(Brendan O’Connor)がスタンバーグの文章に多量の自己盗用があると指摘した。

なお、用語について一言。本記事では自己盗用(self-plagiarism)としたが、英語は「text recycling」、つまり、「文章再使用」とある。行為は同じなので、本記事では自己盗用を使用した。本ブログでは、自己盗用をネカトではなくクログレイとしている。

コーネル大学(Cornell University)。写真出典By sach1tb – http://www.flickr.com/photos/sach1tb/274991658/, CC BY-SA 2.0, Link

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 研究博士号(PhD)取得:スタンフォード大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:1949年12月8日
  • 現在の年齢:69歳
  • 分野:心理学
  • 最初のクログレイ論文発表:?
  • 発覚年:2018年(68歳)
  • 発覚時地位:コーネル大学・教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は英国のレスター大学(University of Leicester)の院生・ブレンダン・オコナー(Brendan O’Connor)。ツイッターで公益通報
  • ステップ2(メディア): ニック・ブラウン(Nick Brown)、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)
  • クログレイ:自己引用、自己盗用
  • クログレイ論文数:多数。9論文が問題視され、3論文が撤回
  • 自己盗用ページ率:
  • 自己盗用文字率:
  • 自己引用率:ある論文では77%
  • 時期:研究キャリアの?期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分: なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。内訳 ↓

  • ⑩損害額(大雑把)の場合:10億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

  • 1949年12月8日:米国・ニュージャージーで生まれる
  • 19xx年(xx歳):イェール大学(Yale University)で学士号取得
  • 1975年(25歳):スタンフォード大学(Stanford University)で研究博士号(PhD)を取得
  • 1975-2005年(25-55歳):イェール大学(Yale University)・助教授、後、準教授、教授:心理学
  • 2003年(53歳):アメリカ心理学会(American Psychological Association)・会長
  • 2005年(55歳):タフツ大学(Tufts University)・学部長
  • 2013年(63歳):ワイオミング大学(University of Wyoming)・学長
  • 2013年(63歳):コーネル大学(Cornell University)・教授
  • 2018年(68歳):多量の自己盗用が発覚

●3.【動画】

ネカト事件の動画はみつからなかった。

【動画1】
研究話の動画:「ロバート・スタンバーグ:成功する知性(Robert J. Sternberg – Successful Intelligence) – YouTube」(英語)10分41秒。
The Brainwaves Video Anthologyが2014/10/27 に公開

●4.【日本語の解説】

ネカト事件の日本語解説はみつからなかった。

★2015年12月18日:てっちゃん先生「愛って一体何なんだ? ロバートスタンバーグの場合【愛の三角形理論】」

出典 → ココ (保存版)

ロバート J. スタンバーグ氏による 「愛の三角形理論」を基に製作いたしました

こちらの製品は愛を育むための3つの成分で構成されています
↓↓

■愛情
感情的、身体的、性的、情熱的な一般的な男女の関係を意味する愛
「強い動機を促す」

■親密
好意や一体感、似た者同士や慣れ親しんだ友人関係を意味する愛
「感情的距離感を縮める」

■献身
関係に関する責任や義務、意識、コミットメントを意味する愛
「認識を強める」

スタンバーグ氏によると
愛はこの3つの要素の組み合わせで成り立っていると言われています

そしてこの3要素が十分に満たされた状態をパラーバクティ

つまり

「完成されたな愛」なのです

●5.【不正発覚の経緯と内容】

【クログレイ以外の事件】

スターンバーグは、クログレイ以外の事件も起こしている。大きく2つあるが、ネカト・クログレイではないので軽く記す。

★ワイオミング大学・学長

2013年7月(63歳)、スターンバーグは、ワイオミング大学の第24代学長に就任した。スターンバーグ学長は大学を試験偏重から倫理重視に切り替える改革に取り掛かった。

学長に就任してから3週間後、教務主任(provost)と学務担当副学長に辞任を求め、彼らを辞任させた。 次の4か月間で、スターンバーグ学長の意見に反する3人の副教務主任(associate provost)と4人の学部長を辞任させた。

上層部役員の急速な辞任でワイオミング大学は不安定になった。

2013年11月15日(63歳)、学内の抵抗にあい、スターンバーグ自身がワイオミング大学・学長を辞任せざるを得なくなった。スターンバーグは大学・管理運営の改革に失敗したということである。

★自己引用

2015年(65歳)、スターンバーグは、心理学では著名な学術誌「Perspectives on Psychological Science」の編集委員を務め始めた。編集委員として、2016年-2018年に外部の査読がほぼない解説論文を8報、この学術誌に掲載した。 これらの解説論文 に、100人以上の心理学者が懸念を表明した。査読がほぼないだけでなく、これらの解説論文の引用文献をみると、その42%-65%は自分の論文を引用していたという極端な自己引用だったからである。

2018年4月下旬(68歳)、解説論文に対する懸念表明とソーシャルメディアからの圧力で、任期を1年半残して、編集委員を辞任した。

具体的な数値をあげると、学術誌「Perspectives on Psychological Science」の7 解説論文の351文献の内、161文献が自己引用だった。以下はその一部の例で、自己引用率はは46%である。なお、別の論文では、66文献の内51文献が自己引用(77%)だった。
→ 2018 年3月29日のエイコ(Eiko)の記事:7 Sternberg papers: 351 references, 161 self-citations – Eiko Fried https://eiko-fried.com/sternberg-selfcitations/


【自己盗用】

★発覚

以下の主な出典 → 2018年5月2日のアリソン・マクック(Alison McCook)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:A new “data thug” is born ? Retraction Watch

2018年4月26日(68歳)、英国のレスター大学(University of Leicester)の院生・ブレンダン・オコナー(Brendan O’Connor、写真出典は同ツイッター)がスターンバーグの自己盗用に気が付き、ツイッターにアップした。

ニック・ブラウン(Nick Brown、写真出典)は、ジェームズ・ヘザーズ(James Heathers)、ヨルダン・アナヤ(Jordan Anaya)、ティム・ファン・デル・ゼー(Tim van der Zee)などと共に、ブライアン・ワンシンク(Brian Wansink)の事件をSNSで追及していた。
→ ブライアン・ワンシンク(Brian Wansink)(米) | 研究倫理(ネカト、研究規範)

それで、ブレンダン・オコナーはニック・ブラウン(Nick Brown)に相談した。ニック・ブラウンはこの手の事件の追求方法をオコナーに伝授した。

ブレンダン・オコナーはスターンバーグが自己盗用をした論文の3つの学術誌「School Psychology International」「Journal of Creative Behavior」「ZDM Mathematics Education」に連絡した。前2者の学術誌からは感謝と調査をする旨の肯定的な返事がきた。一方、最後の学術誌「ZDM Mathematics Education」は調査を拒絶する否定的な返事が来た。

ただ、ブレンダン・オコナーはスターンバーグ本人には連絡しなかった。

2018年4月27日、最初にツイートした翌日、ニック・ブラウンの手法を真似て、ブレンダン・オコナーはツイッターで「スターンバーグの自己盗用をみんなで探そう」とクラウドソーシング(crowdsourcing on Twitter)を始めた。

★自己盗用の具体例

クラウドソーシング(crowdsourcing on Twitter)に呼応して、ニック・ブラウン(Nick Br own)やジェームズ・ヘザーズ(James Heathers)がスターンバーグの自己盗用の数々をウェブにアップした。

自己盗用の具体例をニック・ブラウン(Nick Brown)のブログ記事から示そう。
→ 2018年4月25日のニック・ブラウン(Nick Brown)のブログ記事:Nick Brown’s blog: Some instances of apparent duplicate publication by Dr. Robert J. Sternberg

【例1:「2010年のSchool Psychology International」論文】

WICS: A new model for school psychology
Robert J. Sternberg
School Psychology International 31(6):599-616
December 20, 2010
https://doi.org/10.1177/0143034310386534

以下の緑色は「2010年のJournal of Cognitive Education and Psychology (JCEP).」論文と同じ文章部分。
黄色は2007年の論文と同じ文章部分。

【例2:論文名を省くが着色部分が自己盗用文章】

【例3:論文名を省くが着色部分が自己盗用文章】

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

スタンバーグは1,500報以上の論文を出版した。とても多作である。

2019年2月22日現在、2019年の出版論文(除・印刷中)が以下のように12論文もある。出典:Robert Sternberg | Cornell College of Human Ecology

これら12論文に自己引用と自己盗用がどれほどあるのか、誰も調べていない。昨年(2018年)4月に指摘された後の論文だが、どうでしょう。どう思います?

  1. Sternberg, R. J. (2019). Article writing 101: A crib sheet of 50 tips for the final exam. In R. J. Sternberg (Ed.), Guide to publishing in psychology journals (2nd ed., pp. 173-180). New York: Cambridge University Press.
  2. Sternberg, R. J. (2019). Creativity is not enough: The WICS model of leadership. In B. Mainemelis & Epitropaki, O., & Kark, R. (Eds.), Creative leadership: Contexts and prospects (pp. 139-155). New York: Routledge.
  3. Sternberg, R. J. (2019). Ethical considerations in submitting articles. In R. J. Sternberg (Ed.), Guide to publishing in psychology journals (2nd ed., pp. 251-258). New York: Cambridge University Press.
  4. Sternberg, R. J. (2019). Evaluation of creativity is always local. In I. Lebuda & V. P. Glaveanu (Eds.), The Palgrave handbook of social creativity research (pp. 393-406). New York: Palgrave-Macmillan.
  5. Sternberg, R. J. (2019). Final comments about publishing in psychology journals. In R. J. Sternberg (Ed.), Guide to publishing in psychology journals (2nd ed., pp. 261-264). New York: Cambridge University Press.
  6. Sternberg, R. J. (Ed.) (2019). Guide to publishing in psychology journals (2nd ed.). New York: Cambridge University Press.
  7. Sternberg, R. J. (2019). Is gifted education on the right path? The ACCEL model of giftedness. In D. Sisk, B. Wallace, & J. Senior (Eds.), Handbook of gifted education (pp. 5-18). Thousand Oaks, CA: Sage.
  8. Sternberg, R. J. (2019). Preface. In R. J. Sternberg (Ed.), Guide to publishing in psychology journals (2nd ed., pp. xi-xii). New York: Cambridge University Press.
  9. Sternberg, R. J. (2019). Theories and hypotheses. In R. J. Sternberg (Ed.), Guide to publishing in psychology journals (2nd ed., pp. 54-64). New York: Cambridge University Press.
  10. Sternberg, R. J. (2019). Titles and abstracts. In R. J. Sternberg (Ed.), Guide to publishing in psychology journals (2nd ed., pp. 33-36). New York: Cambridge University Press.
  11. Sternberg, R. J. (2019). Writing a high-impact article. In R. J. Sternberg (Ed.), Guide to publishing in psychology journals (2nd ed., pp. 165-172). New York: Cambridge University Press.
  12. Sternberg, R. J. (2019). Writing for your referees. In R. J. Sternberg (Ed.), Guide to publishing in psychology journals (2nd ed., pp. 131-140). New York: Cambridge University Press.

★撤回論文データベース

2019年3月3日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文データベースでロバート・スタンバーグ(Robert J. Sternberg)を検索すると、9論文がヒットし、3論文が撤回されていた。
→ Retraction Watch Databaseの上右「Nature of Notice」の右にチェックを入れ、「Retraction」にすると、撤回論文(数)が表示される。

★パブピア(PubPeer)

省略

●7.【白楽の感想】

《1》大学院・研究初期

ロバート・スタンバーグ(Robert Sternberg)は、25歳で、スタンフォード大学(Stanford University)の研究博士号(PhD)を取得し、直ぐに、イェール大学(Yale University)・助教授に就任した。若き俊才だったことは確かだ。

しかし、自己引用が異常に多い。それに、自己盗用も異常に多い。

どちらもネカトではないけど、クログレイである。

クログレイは公式には不正ではない。不正でないなら、ドンドン行なって何が悪いと言われると、悪くありませんと答えることになるが、それにしても、問題視されるほど、自己引用と自己盗用が多い。

2019年2月22日現在、2019年の出版論文が12報もあって、どれも単著である。2か月間に12報である。こんなに多作なら、この12報に自己盗用があるのかないのか不明だが、単著なので、自己盗用なしだとスゴイ執筆力である。

スタンバーグが多量の自己引用と自己盗用をいつから始めたのか誰も分析していないが、研究キャリアの初期からだと思われる。20代の初期の頃から多量の自己引用と自己盗用をしていたに違いない。

異常なほど多い自己引用と自己盗用で自分の論文を宣伝し、また論文を量産し、学術界で出世していったのだろう。学者として偉くなる1つの方法なのだろう。「ハイ、そうです。偉くなりたい皆さんは真似しょう」と勧めるわけにはいかないが・・・。

現在、自己盗用を排除する学術誌もあるが、研究公正局や文部科学省は不正としていない。そして、自己引用の頻度に関するルールはどこも定めていない。

《2》データ刺客(data thugs)

「撤回監視(Retraction Watch)」が第一発見者の院生・ブレンダン・オコナー(Brendan O’Connor)にインタビューした。

ブレンダン・オコナーは、ニック・ブラウン(Nick Brown)に相談し、ツイッターでスタンバーグの不正を「みんなで探そう」とクラウドソーシング(crowdsourcing on Twitter)を始めた。それで、ニック・ブラウン(Nick Brown)、ジェームズ・ヘザーズ(James Heathers)など有力どころが参加した。

しかし、「撤回監視(Retraction Watch)」はこのような人たちを「データ刺客(data thugs)」と呼んで否定的である。

一方、ブレンダン・オコナー自身は勇気をもって不正を指摘する個人、つまり「データ刺客(data thugs)」がもっともっと必要だと主張している。

白楽自身はネカトハンタ―ではないが、日本でもネカトハンターがもっと必要だと強く思う。

論文査読者がネカトを見つけることはとても少ない。ましてや文部科学省や大学・研究所がネカトを見つけるのはゼロである。

ネカトを見つけるのは、ネカトハンター(ボランティア)とネカト者にたまたま巻き込まれた関係者(ネカト被災者)である。
→ 1‐1‐1.ネカト・クログレイ事件データ集計(2019年):日本編 | 研究倫理(ネカト、研究規範)

ネカト被災者は「たまたま」なので育成しにくいが、ネカトハンターは育成しうる。ネカトハンターを育成すればネカト発覚・摘発が増え、ネカト監視体制が強化され、ネカト防止になる。

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日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい。正直者が得する社会に!
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●8.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:Robert Sternberg – Wikipedia
② ロバート・スタンバーグ(Robert Sternberg)についての「撤回監視(Retraction Watch)」記事群:Search Results for “Robert Sternberg” ? Retraction Watch
③ 2018年4月30日のコリーン・フラハティ(Colleen Flaherty)の「Inside Higher Ed」記事:Prominent psychologist resigns as journal editor over allegations over self-citation、(保存版)
④ 2018年4月25日のニック・ブラウン(Nick Brown)のブログ記事:Nick Brown’s blog: Some instances of apparent duplicate publication by Dr. Robert J. Sternberg、(保存版)
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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