2020年7月20日掲載
ワンポイント:【長文注意】。日本のネカト抑止策を立案・施行する場合、証拠に基づいた抑止策を立案することが重要で、さらに、その施策の効果を測定できることが極めて望ましい。白楽は長年、有効なネカト抑止策を摸索してきたが、今回ようやく、撤回論文数でネカト行為数を測定することでネカト抑止策の効果を測定できると考えた。撤回論文数の年次変化を調べたが、文部科学省のネカト・ガイドラインの制定、小保方事件などのネカト大事件の後に、撤回論文数が激減することはなかった。
ただ、撤回論文数は2010年以降、徐々に減っていた。その理由がなかなか掴めなかったが、「多数論文撤回者」がネカト論文を出版できなくなったためだと突き止めた。日本の撤回論文数991報の約4割は、8人の「多数論文撤回者」の論文だった。多数論文撤回者を見つけ、処分したことで、撤回論文出版数、つまり、ネカト行為数が減った。
結局、ネカト抑止策としては、多数論文撤回者(常習的ネカト「行為」者)を生まない施策が効果的である。多数論文撤回者はしかし、特に悪徳な研究者というわけではなく、周囲が阻止しないためにズルズルとネカト論文を出版し続けた結果である。従って、ネカト抑止策はすべての研究者を対象とした施策と同じで、①社会と学術界がネカトを注視し警告する「関心」、②ネカトを必ず見つけ通報する「必見」、③通報されたネカトを必ず厳罰に処す「必厳罰」である。なお、日本人の撤回論文は撤回監視データベース(Retraction Watch Database)からデータを抽出し解析した。
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目次(赤字をfクリックすると内部リンク先に飛びます)
1.基本的考え方
★2種類の施策
★証拠に基づいた施策
2.ネカト抑止策のターゲット
★ネカト「行為」がネカト「事件」に至る過程
★ネカト「行為」≠ネカト「事件」
★ネカト「行為」数は「撤回論文」数に比例
3.撤回論文数を探る
★J-STAGE(ジェイ・ステージ)
★CiNii(サイニィ)
★パブメド(PubMed)
★撤回監視データベース(導入部分)
4.撤回監視データベース
★撤回監視データベース
★日本の問題論文
★撤回理由
★研究分野
★当局調査
★撤回論文数の年次変化
★結論:撤回論文数でネカト抑止策を立案
5.従来のネカト抑止策
★ダニエル・ファネーリ(Daniele Fanelli)
★日本の従来のネカト抑止策を検証
★ネカト発覚者数との比較
6.今後のネカト抑止策
★多数論文撤回者
★研究習慣病でネカト
★多数論文撤回者のネカト「行為」防止
★多数論文撤回者を生まない
★ネカト「行為」の防止
7.白楽の感想
《1》不完全
《2》山中伸弥
《3》ネカト抑止策(駄)
8.付録
9.コメント
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●1.【基本的考え方】
★2種類の施策
ネカト抑止策を立案・施行する場合、効果の期間・規模に関して2つのタイプがある。どちらの抑止策なのかを計画及び評価に組み込む必要がある。
- 徐効施策・・・直後~2年で顕著な効果はでないが、インフラ整備の基盤施策である。10年・20年にわたり徐々に効果が続く長期施策
- 即効施策・・・直後~2年で効果がでる即効的な短期施策。
★証拠に基づいた施策
施策は、①将来を見据えた、②国民のための施策でなければならないが、③事実に基づいたものでなければならない。事実とは検証可能な科学的データである。
基本は、「データ無くして施策なし」。つまり、科学的データに基づいて抑止策を立案・実施する。
「事実に基づいた」ネカト抑止策の立案・実施が必須だが、さらに抑止策の評価で2つの選択肢がある。第1の選択肢が最優先で、第2の選択肢は、仕方なしの妥協策である。
第1の選択肢は、「効果の科学的測定」である。一般的に、施策は、一度誤った方向に進めると、ほとんど訂正できない。屋上屋を重ね、誤った方向のまま進んでしまう。それを正すには、ネカト抑止策の実施後、その効果を測定し、抑止策に効果があったのか? あったらな、どれほど効果があったのか? を測定し判定する。期待する効果がなければ、誤った方向なので、施策を見直す。
しかしながら、ネカト抑止策の効果を科学的に測定しにくい(できない)場合もある。その場合、第2の選択肢になる。
第2の選択肢は、「中枢の攻撃」である。ネカト抑止策の効果を測定できる場合も・できない場合も、ネカト行為が多発している部分を改善すれば、ネカト行為が減少すると期待できる。
そのためには、ネカト行為が多発している部分を把握しなければならない。その把握には、もちろん、科学的データに基づいたものでなくてはならない。
そもそも、日本のネカト抑止策はこれらの視点が全くなかった。官僚と専門家が自分の思い込みで「データ無くして」施策を立案し、実施してきた。そして、策定したガイドライン、予算投入したプロジェクトが有効だったのかどうか、現在でも、効果を判定しないし、できていない。
1例を挙げる。
文部科学省は、2012年から2017年までの5年間、「大学間連携共同教育推進事業」の1つとして「研究者育成の為の行動規範教育の標準化と教育システムの全国展開(CITI Japan プロジェクト)」を助成した。目的は、大学院生の研究倫理教育をシステムとして確立するためである。 → 大学間連携ポータル 研究者育成の為の行動規範教育の標準化と教育システムの全国展開
この時期、ネカト抑止策で喫緊に求められていたのは、日本でのネカト行為・事件の激減だったはずだ。そのための最重要ターゲットは、科学的データによれば「教授」である。
→ 以下の表の出典:ネカト・クログレイ事件データ集計:日本編(2019年) | 白楽の研究者倫理
上記データそのものは2019年に発表したが、「教授」がネカト事件を最も多く起こしたことを示したデータは2011年に既に発表している。
「CITI Japan プロジェクト」は科学的データを無視して、日本ではほとんどネカト事件を起こさない「大学院生」(割合は10%)を対象にしてしまった。
そして、「CITI Japan プロジェクト」は終了してから3年たつが、どれほどネカト抑止に効果があったのか抑止策の効果を測定していない・できていない。「CITI Japan プロジェクト」は、「即効施策」ではなく、「徐効施策」という面があると思うが、立案時にその意識がないので、基盤構築もできているのかどうかハッキリしない。
「CITI Japan プロジェクト」はまったく意味がないというわけではないが、ネカト抑止策効果は低く(データがないので推定)、もっと有効な立案・施策をしてほしかったと、つくづく思うのである。
●2.【ネカト抑止策のターゲット】
★ネカト「行為」がネカト「事件」に至る過程
ネカト「行為」がネカト「事件」に至るには数段階ある。どの段階をターゲットにネカト抑止策を立案するか?
以下の「研究ネカト事件対処の4ステップ説」を参考にポイントを抽出しよう。 → 1‐3‐1.研究ネカト事件対処の4ステップ説 | 白楽の研究者倫理。
- ステップ1「第一次追及者」・・・研究ネカトはネカト遭遇者またはネカトハンターが最初に見つけ、通報する。第一次追及者がいなければ、研究ネカト事件は発覚していない。
- ステップ2「マスメディア」・・・第一次追及者の声は小さい。新聞、テレビ、雑誌、ウェブサイトが問題視しなければ、事件はもみ消されてしまう。
- ステップ3「当局(オーソリティ)」・・・社会的に権威・権限が認められている組織が、研究ネカトを「公式」に調査し、シロ・クロを判定する。クロと判定した場合は「ペナルティを科す」。結果を公表する。
- ステップ4「後始末」・・・研究ネカトの全貌と本質を深く研究する。研究ネカトが起こらないようにシステムを改善する。研究ネカトが起こった時、適正に対処するシステムを構築する。
★ネカト「行為」≠ネカト「事件」
ネカト「行為」がネカト「事件」に至る過程で、まず、ネカト「行為」≠ネカト「事件」ということをしっかり認識しておく。
ネカト「事件」数は、ネカト「行為」数ではない。
一般的に認識されているネカト数は、メディアが報道したネカト「事件」の数である。メディア(含・個人的なウェブ)が報道しなければ、事件にはならないし、「行為」があったのかどうかもわからない。
表2のネカト「らしき行為」がネカト「事件」に至るプロセスを説明しよう。
以下の数値は、日本での数値である。日本の調査データはないので、米国の調査データに白楽が収集した日本の「事件」を加味した数値である。
ネカト「らしき行為」が10,000件あったとする。自分の周囲でネカト「らしき行為」を見た・聞いた院生・研究者などをネカト遭遇者と呼ぶが、ネカト遭遇者が当局(学術誌や大学・研究機関)に通報する割合は1%と言われている。それで「通報」は100件となる。なお、「通報」件数は公表されないので測定不能である。
なお、推測だが、ネカト「らしき行為」の内、ネカト「行為」は1割程度と思えるので、一応、表に記載した。以後、ネカト「行為」にはネカト「らしき行為」を含む場合もある(厳密に分けていない。というか、分けるのはほぼ不可能)。
通報された情報には「ガセネタ」「勘違い」や「通報者の非協力」などのケースがかなりあり、当局(学術誌や大学・研究機関)は「調査」しない。また、ネカトとの証拠があっても、当局(学術誌や大学・研究機関)が「調査」しないケースも、実は、かなりある。それで、「通報」の4割を調査したとする。「調査」件数は40件となる。なお、「調査」件数は公表されないので測定不能である。
調査に入る場合、クロと想定してから調査に入るので、調査結果でクロになる割合は高い。「調査」の7割がクロと推定される。「クロ」件数は28件となる。しかし、「クロ」件数は当局(学術誌や大学・研究機関、米国だと研究公正局も)が発表しないことが多く、外部からは把握できないので測定不能である。
学術論文がクロと判定すれば、学術誌は論文を撤回する。また、大学(や研究所)が調査の結果、クロと判定すると、学術誌に論文の撤回を要請する。ただ、大学(や研究所)から撤回要請があっても、放置している学術誌もある。「撤回論文」件数を20件と推察した。学術誌は撤回論文を100%公表する。それを、民間の「撤回監視(Retraction Watch)」がほぼ100%ブログに記載し、撤回監視データベースにリストする。つまり、「撤回論文」件数はほぼ100%把握できる。測定可能である。
大学(や研究所)はネカト「らしき行為」の調査でクロと判定すると、多くの場合、ネカト教員(や研究員)を処分する。しかし、クロと判定し処分しても、大学(や研究所)は何も発表しない場合がある。また、クロと判定しても処分しない場合はまず何も発表しない。発表しない割合を3割と推察した。それで、「大学の発表」件数を10件とした。つまり、「大学の発表」件数は「クロ」の約7割である。「大学の発表」は大学のウェブサイトに掲載される場合もされない場合もあり、その比率は不明である。そして、日本の「大学のクロの発表」をほぼ100%記載しているブログは「ミスコン・プレイ 研究不正・盗用さん (@plagiarismfraud) / Twitter」と「「社会」のブログ記事一覧-世界変動展望」である。ただ、これらのサイトの情報は手作業で集計するしかなく、実用上、日本の「大学のクロの発表」件数を簡単に見ることはできない。一応、測定可能とする。
「撤回論文」20件、「大学の発表」10件のうち、8件ほどが新聞などの産業メディアで「報道」される。「報道」されると、ほぼ100%、「ミスコン・プレイ 研究不正・盗用さん (@plagiarismfraud) / Twitter」や「「社会」のブログ記事一覧-世界変動展望」を含めたいくつかのネカトウオッチャーが記事にする。ただ、情報は集計しにくい。白楽の一覧表が唯一のリストである。つまり、「報道」件数はほぼ100%把握できる。測定可能である。
この「報道」でようやく、一般社会はネカトがあったと認識、つまり、ネカト「事件」があったと認識する。最初に述べたように、ネカト「行為」≠ネカト「事件」で、現在、ネカト「らしき行為」の0.08%しかネカト「事件」になっていない。
ネカト抑止策の本当の狙いは、ネカト「行為」数の抑制だが、とどのつまり、ネカト「行為」数は測定不能なので、これを指標にネカト抑止策の効果を評価することはできない。
前述したように、ネカト抑止策の実施後、その効果を科学的測定しなければ施策の評価ができない。
白楽は、従来、マスメディアが「報道」したネカト「事件」を指標に日本のネカトを分析していたが、表2で見るように、ネカト「行為」をより大きく反映する指標は「撤回論文」であることがわかる。つまり、ネカト「行為」数は「撤回論文」数に比例している。
なお、論文の撤回理由の約60%はネカトやクログレイだが、編集上のミスなどの理由もあり、「撤回論文」があれば、必ずそこにネカト「行為」があったとは限らない。
その辺を含めて、次に日本の「撤回論文」について実態を調べよう。
●3.【撤回論文数を探る】
日本の撤回論文数をどのように探るか?
学術発表は、数種類ある。①学術誌(含・大学紀要)の論文、②学会・学術講演会での口頭発表とその要旨(文書)、③学術書籍(含・教養書、非専門家向けコラム)、④学術申請・報告書(含・研究費申請書・報告書、特許申請書)、⑤修士論文・博士論文、⑥研究室・学内発表(口頭・文書)、⑦その他。
日本の場合、上記の学術発表の日本語版と外国語版がある。外国語版の外国語のほとんどは英語である。
もっとも重要視されている学術発表は、「①学術誌(含・大学紀要)の論文」の英語版である。日本なので、「①学術誌(含・大学紀要)の論文」の日本語版もそれなりに重要だろう。
従って、このあたりの撤回論文をデータベースから探れると、ネカト「行為」数を推定できる状況になると考えた。
★J-STAGE(ジェイ・ステージ)、★CiNii(サイニィ)、★パブメド(PubMed)、★撤回監視データベースを探った。
この調査は冗長だし、「J-STAGE(ジェイ・ステージ)、CiNii(サイニィ)、パブメド(PubMed)」は調査の結果、重要性は低いと判断したので、本文から省き、付録1に記載した。
ここでの結論を書くと、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベース(Retraction Watch Database)が使えると判断した。
撤回論文を探った時の5つの問題、(イ)撤回論文ではない論文が含まれる点、(ロ)撤回理由がわからない点、(ハ)撤回された論文の元々の出版年がわからない点、(ニ)著者が外国人の場合がある点、(ホ)分野が生命科学の限定される点、などがすべての問題は、撤回監視データベースを使うことで、すべて解決された。
それで、結局、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベース(Retraction Watch Database)を使用した。
分析は次章に示す。
●4.【撤回監視データベース】
撤回監視データベースのデータ収集は2020年5月6日~7日、及び、2020年7月11日~15日に行なった。5月と7月の2か月間でデータは若干増え、数値に若干ギャップが生じたが、得られた数値をそのまま使った。それで、数値の整合性は若干欠ける。ゴメン。
★撤回監視データベース
2018年10月、「撤回監視(Retraction Watch)」は撤回監視データベース(Retraction Watch Database)を、検索可能なデータベースとして正式にリリースした。1970年代から現在に至るまでの問題のある出版論文18,000報が撤回論文(Retraction)、訂正論文(Correction)、懸念表明論文(Expression of Concern)に分類され、学会要旨を含めてデータベース化された。現在、この種のデータベースとして、世界最大で最も包括的なデータベースである。(7-53 撤回監視データベースから学ぶ | 研究者倫理)
対象とする論文は、①英語、②全学問分野、である。
★日本の問題論文
日本の問題論文は1,099報で、撤回が991報(90.2%)、訂正が46報(4.2%)、懸念表明が62報(5.6%)だった。
米国・科学庁(U.S. National Science Foundation)の各国の論文集計値で、日本は2003~2016年に全分野で1,481,747報の論文を発表している。
表4の991報は、全期間の撤回論文数である。2003~2016年に発表した論文に限定すると、撤回論文数は628報だった。
論文撤回率は、628/1,481,747=0.0004238、つまり、0.042%である。2,340報の論文当たり1報が撤回された。
世界のすべての分野の論文撤回率は0.04%なので、日本の論文撤回率0.042%は世界標準である。
★撤回理由
日本の撤回論文(991報)の撤回理由は、ねつ造/改ざん310報(31.3%)、盗用39報(3.9%)、重複253報(25.5%)、不信頼103報(10.4%)などである(表5)。大まかにはネカトに分類されるこれらを合計すると約70%で、クログレイの著者在順が約10%を占めた。検索語は、付録2に記載した。
各国別のデータがないので比較しにくいが、印象として、日本の特徴は、ねつ造/改ざんが多く、盗用が少ない。
論文撤回の理由はネカトが約70%で、クログレイが約10%なので、ネカトとクログレイの頻度の指標を論文撤回数で測定できるに違いない。
★研究分野
日本の撤回論文(991報)の研究分野を調べた。
撤回監視データベースは研究分野を大きく7分野に分けている。1つの論文が複数の研究分野に振り分けられるので、研究分野は重複している。
第1位は医学(HSC)で604報(60.9%)だった。第2位が生物・生化・神経(BLS)で547報(55.2%)と接近していた。
第3位は、かなり下がって、理工(PHY)の146報(14.7%)である。人文(HUM)、社会(SOC)、経済/技術(B/T)、環境(ENV)はずっと少ない。
つまり、第1位の医学(HSC) と第2位の生物・生化・神経(BLS)を合計すると116.1%と100%を超えた。これは、分野を重複してカウントしているためで、白楽が全体を100%にした時の割合を求めると、撤回論文の83.3%(43.7%+39.6%)が生命科学の論文ということになった。
なお、撤回監視データベースの研究分野の分類が一般の分類と少し違う面がある。
例えば、「経済/技術(B/T)」に「コンピューター学」が入っていた。「コンピューター学」は日本の分類では「理工」である。また、「環境(ENV)」に「食品科学」が入っていた。「食品科学」は日本の分類では「農学」でここでは「生物・生化・神経(BLS)」の中に入る。
★当局調査
日本の撤回論文(991報)に当局が調査した論文数は、388報である。内訳は以下の表7に示す。重複して調査しているので、合計は128.4%になり、100%を超えた。
所属大学・研究所が調査し、論文撤回を要請し、論文撤回になるケースが79.9%と多い。第三者機関による調査も37.6%と多い。日本からの論文なので、米国・研究公正局の調査による論文撤回は0.8%と少ない。
撤回論文が元々出版された年を、1996年以降、図8に示した。1996年以降、徐々に増加し、論文数は2010年に69報のピークを打った。
撤回論文数は、2010年に69報のピークを打った後、2019年まで下降している。但し、論文撤回は論文出版の数年後(かなり大まかには約5年後)まで起こるので、5年後に測定すると、2015年以降、上昇していた、となるかもしれない。現時点では、2015年以降の数値は直近ほど増加するだろう。
撤回論文数の年平均は41報である。つまり、日本は後に撤回される論文を毎年41報出版していた(いる)ことになる。
★結論:撤回論文数でネカト抑止策を立案
「撤回監視データベース」の撤回論文を分析した結果、日本のネカト抑止策の方向を次の3点に絞れる。
第1点:撤回論文数で測定
論文の撤回理由はネカトが約70%で、クログレイが約10%だった。ネカト行為やクログレイ行為の発生数を撤回論文数で測定できる。
第2点:生命科学を対象
1章で述べた第2の選択肢は、「中枢の攻撃」である。「中枢の攻撃」として、ネカト行為が多発している部分を改善すれば、ネカト行為を減少できる。生命科学は撤回論文の研究分野の83.3%を占めたので、生命科学を対象にネカト防止策を強化すればよい。
第3点:ネカト抑止策の効果測定
生命科学分野で社会的な大事件や有効な制度改革が行なわれれば、ネカト行為やクログレイ行為が減少する。その結果、投稿論文にネカト行為やクログレイ行為が減少し、結果として、撤回される論文数が減る。
ネカト行為やクログレイ行為は決定的には原稿作成時に行なわれる。原稿作成から論文発表まで数か月~1年なので、影響は1年後の撤回論文数で測定できる。1年後は、2年後かもしれないが、そのくらいの期間で影響が出る。撤回論文を測定することで、ネカト抑止策の効果を測定できる。
逆に言うと、撤回論文数が減る1~2年前のネカト抑止策や社会的な大事件がどのようなものだったかを特定すれば、ネカト防止に有効だったか否かを検証できる。
●5.【従来のネカト抑止策】
これで、ようやく従来のネカト抑止策を具体的に評価できる。
★ダニエル・ファネーリ(Daniele Fanelli)
ネカト抑止策として、ダニエル・ファネーリ(Daniele Fanelli)は「2015年6月のPLoS ONE」論文で、次のように述べている。
→ 7-44 出版プレッシャーでネカトするわけじゃない | 白楽の研究者倫理
現在いくつかの国のネカト政策として採用されている論文出版プレッシャーを軽減する政策は有効ではない。ネカト行為を減らすには、①ネカト行為の告発・処理の規則と仕組みの強化、②研究者間の透明性と相互批判の促進、③早期キャリア研究者(院生やポスドクなど)の指導とトレーニングの強化、をすることが重要である。
ネカト抑止策の3分類は、①規則・仕組み、②研究文化、③教育・研修、である。
この分類を少し改変しよう。
NHKなどのメディアがネカト問題を大きく取り上げる、また、世間がネカト事件(例:小保方事件)を大きく報道すると、一般社会だけでなく研究者もネカト行為への関心が高まり、ネカト行為をしなくなる・あるいは止めると期待できる。
ネカトは悪いと知りつつ得だからする行為なので、飲酒運転と同じだと、以前解説した。
→ 1‐3‐3.研究ネカト飲酒運転説 | 白楽の研究者倫理
飲酒運転防止キャンペーンで世間一般が飲酒運転に目を光らせ、飲酒運転を許さない飲酒運転排斥文化となり、飲酒運転が減る。
同じようにネカトをとらえ、「②研究文化」は、研究者コミュニティだけの文化ではなく、一般社会を巻き込んだ「②ネカト排斥文化」としよう。この場合、NHKなどのメディア報道、大きなネカト事件(例:小保方事件)は「②ネカト排斥文化」のジャンルに入る。
それで、まとめると、ネカト抑止策は、①規則・仕組み、②ネカト排斥文化、③教育・研修、の強化である。
★日本の従来のネカト抑止策を検証
2000年以降、「①規則・仕組み、②ネカト排斥文化、③教育・研修」を強化した日本のネカト抑止策及び大きなネカト事件は、以下の通りだ。年代的に並べた。
2000年11月:藤村新一事件勃発 ②
2002年:米国・ベル研のシェーン事件 ②
2004年10月:米国・ベル研のシェーン事件をNHKテレビ「史上空前の論文捏造」で放映 ②
2004年:盗用検出ソフトのアイセンティケイト(iThenticate)導入 ①
2006年6月:松本和子事件勃発 ②
2006年8月:文部科学省の研究不正対応ガイドライン(初版)発表 ①
2006年9月:村松秀が『論文捏造』出版 ②
2010年8月:米国で「撤回監視(Retraction Watch)」が稼働 ①
2011年12月:加藤茂明事件勃発 ②
2012年4月:5年間のCITI Japan プロジェクト発足 ③
2012年10月:米国でパブピア(PubPeer)が稼働 ①
2013年3月:ディオバン事件勃発 ②
2014年2月:小保方晴子事件勃発 ②
2014年7月:NHKスペシャルが『調査報告 STAP細胞 不正の深層』を放映 ②
2014年8月:文部科学省の研究不正対応ガイドライン(改訂版)発表 ①
2015年4月:文部科学省・研究公正推進室・設置 ①
2015年4月:日本医療研究開発機構(AMED)発足、研究公正に研究費支援 ①
2016年4月:科学技術振興機構(JST)に研究公正ポータルサイト設置 ①③
2016年4月:黒木登志夫が『研究不正 科学者の捏造、改竄、盗用』(中公新書)出版 ②
年代的に並べてみると、不思議なことに2016年4月以降、2020年7月現在まで、ネカト抑止策及び大きなネカト事件は見られない。ここ4年間、日本は「ネカトが静かな時代」にいる。
上記のリストは、大きなネカト事件が起こると、その1~2年後に日本政府が「①規則・仕組み」を新たに制定したことも示している。
1章で述べたように「即効施策」は「直後~2年で効果がでる即効的な短期施策」である。上記のリストのどの項目が「直後~2年」に論文撤回数が減少するという効果を出しただろうか?
図8を以下に再掲しよう。
2010年以降「撤回論文」数が減少し始めたのはどうしてだろうか? 2010年の1~2年前に「日本のネカト抑止策及び大きなネカト事件」に何があったのか?
リストから探ると、
2010年8月:米国で「撤回監視(Retraction Watch)」が稼働 ①
の1件しかない。
「撤回監視(Retraction Watch)」の稼働が日本の撤回論文数の減少、つまり、日本のネカト「行為」の減少を引き起こしたとは考えにくい。納得がいかない。
2006年8月の文部科学省の研究不正対応ガイドライン(初版)は、徐効施策(基盤施策)なので、このガイドラインがゆっくりと効果を与え始めた可能性はある。
ここまで分析しておきながらナンだが、リストした項目、つまり、「①規則・仕組み、②ネカト排斥文化、③教育・研修、の強化」はどれも効果があったとは言えない状況になってきた。
困った。
何が原因で、2010年以降の撤回論文数が徐々に減少してきたのか?
頭が悪い白楽は煩悶した。コロナ禍は関係ないが、モンモンとした。実は、この記事は5月に書いていたが、問題が解けず、2か月もウジウジとした。
★ネカト発覚者数との比較
上の「図8:日本の撤回論文数の年次変化:論文出版年」を、以前調べた「図9:日本のネカト・クログレイ発覚者数の年次変化」(以下)と比較してみた。
→ ネカト・クログレイ事件データ集計:日本編(2019年) | 白楽の研究者倫理
「図8:日本の撤回論文数の年次変化:論文出版年」と「図9:日本のネカト・クログレイ発覚者数の年次変化」は大きく異なる。
上述したように、1996年以降、撤回論文数は徐々に増えて、2010年の68報をピークに、2019年まで減少している。しかし、ネカト発覚者数(図9の青色)は、2011年まで10件未満/年だったが、2012年に37件と急増した2012年-2018年の直近7年間はバラついているが約20件で、傾向としては若干だが増化しつつある。
「図9:日本のネカト・クログレイ発覚者数の年次変化」のネカト発覚者数の年次変化を眺めても、ネカト発覚者数に影響を与えた「日本のネカト抑止策及び大きなネカト事件」はコレコレですと言える状況にならない。
さらに、困った。
そして、ある日、ようやく、多数論文撤回者に思い至った。ネカト「行為」数は「撤回論文」数に比例しているので、同じ人がたくさんのネカト「行為」をすれば、その人の論文がたくさん撤回される。
つまり、初めてネカト「行為」をする研究者のネカト防止と、常習的なネカト「行為」研究者に対するネカト防止は、その効果が異なるハズだ。後者のネカトを防止できれば「撤回論文」数は大きく減少する。
●6.【今後のネカト抑止策】
★多数論文撤回者
撤回監視データベース(Retraction Watch Database)を分析していくと、比較的少数の著者が、膨大な数の論文を撤回する「多数論文撤回者」がいることがわかる。
事実として、「撤回論文数」世界ランキングの3位以内に2人、6位以内に4人、11位以内に在日日本人が6人いた。6人とも生命科学の研究者。
このことは、世界的に見て、日本の学術界、特に生命科学界が研究ネカトに無関心であること、また、日本の研究規範システムに大きな欠陥があること、を反映している。学術界、特に生命科学界、および、政府は真剣に取り組むべきだ。(出典:「撤回論文数」世界ランキング | 白楽の研究者倫理)
現在および過去に、「撤回論文数」世界ランキングにランクされた人は以下の8人で、撤回論文数の多い順にリストした。
- ヨシタカ・フジイ(Yoshitaka Fujii)、藤井善隆(東邦大学) (日本)(撤回論文数:183)
- ヨシヒロ・サトー(Yoshihiro Sato)、佐藤能啓(弘前大学)(日本)(96)
- ジュン・イワモト(Jun Iwamoto)岩本潤(慶應義塾大学)(日本)(74)
- ユウジ・サイトー(Yuhji Saitoh)、斎藤祐司(東京女子医科大学)(日本) (53)
- シゲアキ・カトー(Shigeaki Kato)、加藤茂明(東京大学) Shigeaki Kato(日本) (40)
- ナオキ・モリ(Naoki Mori)、森直樹(琉球大学)(日本) (31)
- ワタル・マツヤマ、松山航(鹿児島大学)Wataru Mastuyama(日本)(17)
- ノリユキ・タカイ、高井教行(大分大学)Noriyuki Takai(日本) (13)
8人の撤回論文数の合計は507報だった。ただ、この数字には撤回論文上位4人の共著論文もかなりあった。その重複論文を数えるのが面倒なので、概算で100報とした。重複論文数を100報とすると、重複しない論文は差し引きの407報となる。
4章で示したように日本の撤回論文数は991報で、上記8人のこの407報は、ナント、約4割(41%、407報)を占めていた。
つまり、上記8人のネカト「行為」を阻止できていれば、日本のネカト「発覚行為」の約4割は防止できていた。
図8を以下に再掲しよう。
1996年以降、徐々に増加し、論文数は2010年に69報のピークを打った。2010年に69報のピークを打った後、2019年まで下降している。
撤回論文数は2010年のピークで69報だった。しかし、この2010年の8人の多数論文撤回者の撤回論文数を単純に合計すると30報になった。つまり、上記の図8の数値に多数論文撤回者の論文が大きく寄与していた。
従って、「多数論文撤回者」のネカト「行為」を防げば、撤回論文は大きく減少し、結果として、日本のネカト「発覚行為」数は減少するに違いない。
★研究習慣病でネカト
8人の多数論文撤回者の論文の動きを見ると、8人全員、論文は2014年出版までで、2015年以降、多数論文撤回者の撤回論文は出版されていない。
「多数論文撤回者」は撤回論文をどうして発表しなくなったか? つまり、「多数論文撤回者」のネカト「行為」をどう止めることができたか?
前項の8人の「多数論文撤回者」の状況を少し詳しく見ていこう。
8人のうち、2人はネカト行為発覚が原因で自殺している(佐藤能啓2017年1月、松山航は2007年11月)。松山航は世間に公表され、鹿児島大学が調査を開始した3週間後に自殺した。もちろん、それ以降、ネカト論文を発表していない(できない)。
8人のうち、他の6人はネカト発覚後、世間に公表され、大学から処分された。森直樹は琉球大学を失職後、裁判で勝訴し、復職し、その後論文発表を再開した。しかし、この6人はその後、撤回論文を発表していない。
つまり、多数のネカト論文を発表してきた「多数論文撤回者」だが、ひとたび、ネカト行為が発覚し、それ相応の処分を科された後は、ネカト論文を発表していない。つまり、ネカト行為をしていない(と思える)。
8人の内のランキング上位5人は撤回論文数が多く、図が見にくいの下位3人の撤回論文数の年次変化を図にした。
この図からわかるように、「多数論文撤回者」はある年、突然、撤回論文を発表しなくなる。つまり、ある年、突然、ネカト「発覚行為」を止める。
「③教育・研修」など、あるいはマスメディアのネカト事件報道など「②ネカト排斥文化」を受けて、自主的にネカト「行為」を止めたか?
イヤイヤ、全部、ネカトが発覚し、世間に公表され、世間から糾弾される状況になったために、ネカト「行為」ができなくなった(あるいは、止めた)のである。
つまり、「生活習慣病でメタボ」になったように、「多数論文撤回者」は「研究習慣病でネカト」になっているのである。「習慣」化しているので、「止めた方がいい」と「③教育・研修」で言われた程度、あるいは「②ネカト排斥文化」程度で止めないし、止められない。
泥棒の常習犯に「他人の物を盗んではいけません」と教えても、「いけない」のを承知で盗んでいるのだから、効果はない。つまり、「③教育・研修」は効果がない。
研究者間の透明性と相互批判の促進を強化できれば、ネカト行為が発覚しやすくなるので、「②ネカト排斥文化」の強化は少しは効果があるだろう。
しかし、「多数論文撤回者」は既にその影響を受ける状態ではないし、メディアでネカト事件を大騒ぎしても、「多数論文撤回者」は「我関せず」なので、ほぼ効果はない。
★多数論文撤回者のネカト「行為」の防止
では、「多数論文撤回者」のネカト「行為」をどうすると止めることができるのか?
実際に、前項の8人の「多数論文撤回者」のネカトはどのように防止できたか?
繰り返しになるが、重要なので、繰り返す。
「③教育・研修」は効果がない。「②ネカト排斥文化」の強化は少しは効果がある程度だ。
では、8人全員が、実際にネカト行為をやめたのは何か?
ネカトが発覚し、世間に公表され、世間から糾弾される状況になったからである。
ステップ1「第一次追及者」が追求したことでネカト行為が発覚し、ステップ2「マスメディア」が報道し、世間に公知となり、ステップ3「当局(オーソリティ)」の所属大学が処分し、学術誌が論文撤回したことで、ネカト行為をやめたのだ(2人は自殺)。
→ 1‐3‐3.研究ネカト事件対処の4ステップ説 | 白楽の研究者倫理。
つまり、ネカト行為が発覚・処分される「①規則・仕組み」が有効だった。
言い換えると、「多数論文撤回者」のネカト行為は、ネカトを発覚しネカト者を処分したことで止まった。
従って、「①規則・仕組み」を強化することで、「多数論文撤回者」のネカト行為を止めさせられる。
ネカト発覚の発端はステップ1「第一次追及者」である。ネカト行為の発見・告発がしやすい「①規則・仕組み」にすることや、ステップ3「当局(オーソリティ)」のネカト処分を強化することがネカト行為抑制に効果的だろう。
なお、一度、ネカト行為の発見・告発と処分をすれば、研究者はネカト行為を2度としないのか。それとも、再犯を繰り返すのか、データがないので不明である。
米国をはじめ世界のほとんどの国は、ネカト者を学術界から排除している。ところが、驚く事に、どういう根拠によるのか不明だが、日本は、停職3か月などの処分後、復職を認めている。そして、この復職の是非の研究・議論がない。
ネカト犯者の処分後のネカト再犯率や研究生産性、学生・院生・ポスドクへの教育効果など、一度処分されたネカト犯者のその後の教育・研究活動について、研究・議論が必要だが、それがないまま、世界の常識と異なる処分を日本はしている。
★多数論文撤回者を生まない
では、そのそも、「多数論文撤回者」を生まないようにするにはどうすればいいか?
研究者が「多数論文撤回者」になる過程は、ネカト行為者のすべてに共通している。
「多数論文撤回者」が特別に極悪な研究者で、「1回論文撤回者」はたまたま魔が差した善良な研究者というわけではない。
研究者がたまたま、1回ネカトをし、ネカト論文を発表した。それが発覚しなかった。そして、もう1回ネカトをし、ネカト論文を発表した。それも発覚しなかった。この連続で誰かに止められなかったので、「多数論文撤回者」になってしまったのである。単に、ズルズルと同じ道を歩いてきて、連続ネカト犯、ネカト常習者になってしまったのである。
「撤回論文数」世界ランキングにリストされた8人の日本人研究者を例に挙げてきたが、この8人以外のネカト者も、その多くは連続ネカト犯(複数論文撤回者)と同じである。それは、1~2回のネカト行為が発覚しないケースが多いからだ。
[脱線話。日本人の論文撤回者は平均何報の論文が撤回されているのか、一度、全部調べる必要があると思っている。しかし、博士論文に相当するほどの手間・時間・エネルギーがかかりそうで、白楽は、多分、調査できない。だれか、調査し論文にしませんかね]。
「撤回論文数」世界ランキングにリストされていない論文撤回者も複数の論文が撤回されている。つまり、複数回のネカト行為をしてきたということだ。
例えば、先月(2020年6月)にネカト疑惑で調査中と発表された昭和大学・医学部の上嶋浩順(うえしま ひろのぶ)の論文も、2020年7月18日現在、既に6論文が撤回されている。2016年の2報、2018年の2報、2019年の2報の計6論文が2020年4~6月に撤回された。昭和大学が調査中なので断定を避けるが、ネカト行為を複数回(少なくとも6回)してきたと思われる。 → 参考:2020年6月12日の「世界変動展望」記事:上嶋浩順、大嶽浩司 昭和大の2論文が撤回!捏造!! – 世界変動展望
ということで、ほとんどの論文撤回者は複数の撤回論文がある。つまり、ネカト行為を複数回してきた。ネカト1回目に発覚するのは「マレ」と思われる。
「多数論文撤回者」が特別に極悪な研究者で、「1回論文撤回者」はたまたま魔が差した善良な研究者というわけではない。両者の間に人格的・倫理的な差はない。
大きな違いは、「多数論文撤回者」の周囲にたまたま「第一次追及者」がいなかった、あるいは、「第一次追及者」はいたのだが、注意された所属大学や学術誌がその注意を無視したのである(例:藤井善隆事件)。それで、ネカト行為をズルズルと続け、数年後には「多数論文撤回者」になってしまったのである。
従って、「多数論文撤回者」を生まないようにするにはどうすればいいかの答えは、「多数論文撤回者」に対する特別の方策ではなく、すべての研究者に対するネカト「行為」防止策と同じである。
次項で、ネカト「行為」の防止策を述べて本記事を終わりにしよう。
★ネカト「行為」の防止
5章で述べたように、ネカト抑止策のポイントは、「①規則・仕組み、②ネカト排斥文化、③教育・研修、の強化」、である。
「③教育・研修」は、初めてネカト「行為」をする研究者(院生)を減らすかもしれない。しかし、常習的ネカト「行為」者に対して、ほとんど効果がないだろう。つまり、「徐効施策」である。
そして、初めてネカト「行為」をする研究者(院生)と、常習的ネカト「行為」者に対するネカト抑止策は異なる。
8人の「多数論文撤回者」が日本のネカト「発覚行為」の4割を占めていた。8人以外にも多数の常習的ネカト「行為」者がいたハズで、データはないが、常習的ネカト「行為」者は日本のネカト「発覚行為」の8割ほどになるだろう。
従って、「即効施策」としては、常習的ネカト「行為」者をターゲットにしたネカト抑制策が必要である。
常習的ネカト「行為」者は、既にネカトをしているので、「③教育・研修」はネカト抑制効果はなく、むしろ、「③教育・研修」することで、彼らに上手なネカト方法を教えることになる。
ネカト抑止策はすべての研究者を対象としたネカト「行為」防止策と同じで、①社会と学術界がネカトを注視し警告する「関心」、②ネカトを必ず見つけ通報する「必見」、③通報されたネカトを必ず厳罰に処す「必厳罰」である。
「必見」と「必厳罰」を強化する施策としては、研究ネカトを犯罪とみなし、警察が捜査し、クロなら刑罰(懲役、禁錮、罰金、拘留、没収)を科すことが、日本が採るべきネカト抑制策である。
ネカト「行為」の防止策は、別の記事で書いている。そちらをご参照ください。
研究ネカトをする状況は飲酒運転とよく似ている。それなら、飲酒運転を減らすのと同じ工夫で研究ネカトを減らすことができるだろう。というわけで、「関心」「必見」「必厳罰」の3本柱をネカト対策の基本に設定した。
〇1‐3‐2.研究ネカトは警察が捜査せよ! | 白楽の研究者倫理
研究ネカトは「不適切だが違法ではない」とされてきた。しかし、ズルして論文を発表し、職・地位・研究費・名声を得る行為で、本来なら採用・昇進・採択・受賞する人の機会を奪う。多額の研究費(1件で数億円など)を無駄にし、多数の人に健康被害(含・死亡)をもたらす。学術界は聖域でも治外法権でもない。研究ネカトを犯罪とみなし、警察が捜査し、クロなら刑罰(懲役、禁錮、罰金、拘留、没収)を科すべきだ。法制度・社会制度の改革を望む。白楽は今まで、日本に研究公正局を設置するよう主張していたが、もういい。警察が捜査すればいい。
●7.【白楽の感想】
《1》不完全
ネカト抑止策としては、「常習的ネカト「行為」者を生まない施策が効果的である」とした。その施策の効果は論文撤回数で測定できるとした。
自分で提唱して、ナンだが、しかし、この施策に欠陥がある。
欠陥1.ネカト「行為」数を測定できないので、「撤回論文」数を測定することで、施策の有効性を測定するとした。しかし、ネカト「らしき行為」は10,000件(ネカト「行為」は1,000件)の内の20件が「撤回論文」数である。つまり、0.2%に凝集した数値で、全体を憶測するのは、基本的に無理がある。当然、精度が落ちる。
解決には、ネカト「行為」数をもっと直接に測定する方法を模索したい。
例えば、《3》に書いたが、「ネカトホットライン・・・ネカト助言機関の創設」も候補になるかも。つまり、日本全国からネカト「らしき行為」の通報を受付け、その通報数をネカト「らしき行為」数とカウントするという考えだ。しかし、この場合、ネカト「らしき行為」を見聞きしても通報率は1~3割だろう。そして、世間が騒げば通報数は増える。通報数は、ネカト「らしき行為」数とはかなり異なるだろう。また、ネカト「らしき行為」とネカト「行為」は異なる。う~ん。
欠陥2.論文はネカト「行為」が発覚し、調査後、論文に問題があるとされてから撤回される。ネカト「行為」は行為後すぐに発覚する場合もあれば、5年~10年後の場合もある。大きくバラつくが、ネカト「行為」の約5年後に論文が撤回されるとしよう。となると、本記事は「効果の科学的測定」をうたい「即効施策」の施策を立案・提唱しているのに、約5年たたないと、「効果の科学的測定」ができない施策を立案・提唱したことになる。ここに、基本的な矛盾がある。
解決には、う~ん。結局、少し日和って、「即効施策」だが、5年後に評価するとしよう。う~ん、白楽は不満だ。
《2》山中伸弥
以下は、「ネカト・クログレイ事件データ集計:日本編(2019年)」から、相当部分を再掲した。
2018年1月、京都大学iPS細胞研究所の36歳の特定拠点助教がデータねつ造事件を起こした。ノーベル賞受賞者の山中伸弥所長が謝罪した。この助教の雇用期限が2018年3月だったこともあり、山中伸弥所長は「ポスト不足と不安定雇用がネカトの原因」だと発言し、メディアが追従した。
36歳の特定拠点助教がデータねつ造事件に限って「ポスト不足と不安定雇用がネカトの原因」だと発言したと思うが、世間は一般的なネカト防止策と受け取ってしまった。
この指摘はネカト問題を大きくゆがめてしまう。「ポスト不足と不安定雇用がネカトの原因」なら、ネカト防止策は、「期限付きではない研究職ポストを増加すべき」という施策になり、白楽が本記事で提唱した方向とはトンデモないほど異なる方向になる。
ネカト事件を起こした研究者の職位データを見れば、ネカト・クログレイ事件者に占める助教の割合は12%でしかない。
→ 以下の表の出典:ネカト・クログレイ事件データ集計:日本編(2019年) | 白楽の研究者倫理
12%に焦点を当てて対策を立てたら88%はどうなるのだ。ネカト・クログレイ問題を調べれば、ネカト・クログレイ問題の解決のためには52%を占める教授・准教授をターゲットにすべきことはすぐわかる。
ネカト事件を起こす人は「医学部・教授」に多いことは、以下に示すように、白楽は2011年に既に指摘している。
①白楽ロックビル(2011):『科学研究者の事件と倫理』、講談社、東京: ISBN 9784061531413
②白楽ロックビル (2011年9月30日). “明治~平成(136年間)の研究者・技術者・教授の事件と倫理
ノーベル賞受賞者の山中伸弥の発言だが、山中伸弥はネカト問題の素人である。科学者なんだから、科学的データに基づいてネカト抑止策を発言して欲しい。
《3》ネカト抑止策(駄)
「科学的データに基づいて抑止策を立案・実施する」のが基本だが、ネカト問題を長年研究していると、次のような冗談的抑止策はどうだろうかと、考えたこともある。
現役ではないし老齢の白楽自身は実行できないと思うので、ネタをばらしてしまうが、どなたか、その気になったら実行してください。
白楽がネカト行為の抑止策になるかもしれないと、ある時、思ったプラン(駄)。
- 政治家を育てる。結局、法律を作らないと前進しない。研究ネカトを犯罪とする法律を作る。小保方晴子さんが参議院議員になってもらい、活動してもらう
- 日本の大学に少なくとも10講座分の「科学技術政治学」を創設。教員30人の確保、院生の育成
- メディア。NHKにドキュメンタリ―番組を作ってもらう。知り合いのプロデューサーにプランを持ちかけたことがあるが、失敗
- ネカト捜査を警察に。警視庁ネカト特別捜査室の創設
- ネカトハンターを優遇する法律を作る。告発に報奨金を授与。また、ネカトハンターの組織化
- 日本語版パブピアの開設
- NPO・研究公正改善機構(仮称)
- ネカトホットライン・・・ネカト助言機関の創設
- 研究倫理士1級:所属組織を越えて「研究倫理」を扱える資格。大学などで「研究倫理」を教えるには研究倫理士1級の資格が必要。各大学・事務局には必ず1人の研究倫理士2級保持者がいなければいけない。
ネカト検定 - ネカトの標語、イラスト公募。毎年、賞を授与。
- ネカト川柳募集:朝日新聞で発表。
白楽が ブログ始めた5月20日を ネカト記念日 作者:ネカト マチ (盗作) - ネカト記念日の制定。ネカト記念切手発行
- ネカト流行語大賞 毎年
- テレビのクイズ番組にネカトの話題を入れる
- 「警視庁ネカト特別捜査官」のテレビドラマ。映画。アニメ。漫画。
「ポール・フランプトン(Paul Frampton)」事件などを『ゴルゴ13』の1話にしてくださいと、原作を「さいとう・たかを」に送付したが、失敗 - ユーチューブで「ネカト番組」
- ネーミングライツ(命名権)を買って、ネカト球場を作る
- 日本ネカト党を作って参議院選に出馬する
(駄)です。ヒョウタンからです。ウフフ。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
●8.【付録】
付録1
3.【撤回論文数を探る】
★J-STAGE(ジェイ・ステージ)
J-STAGE(ジェイ・ステージ)は、文部科学省所管の独立行政法人科学技術振興機構(JST)が運営する電子ジャーナルの無料公開システム。1998年にプロジェクトがスタートした。正式名称は科学技術情報発信・流通総合システム。
J-STAGEは、医学・薬学系・工学系のジャーナルを中心に、自然科学・人文科学・社会科学分野の雑誌を収録している。使用言語別で見ると、38%が欧文で書かれた雑誌(欧文誌)、19%が日本語で書かれた雑誌(和文誌)、残りの43%が和欧混載誌となっている。
2012年9月現在、J-STAGEとCiNIIの二つが、日本語圏における学術文献の電子化プロジェクトの中心となっている。
J-STAGE – 電子ジャーナルの出版支援。主な対象は医理工系の査読つき学術雑誌。
CiNii – 医理工系および人文・社会科学系の学術雑誌と大学紀要の電子化と公開支援。
たまにCiNiiとJ-STAGEの両方で同じ文献が重複してPDF化されていることがある。こうした場合に、CiNiiのファイルは画像データで文字検索ができないが、J-STAGEのファイルはテキスト化されていて文字検索できるといった違いが生じる場合がある。
(出典:J-STAGE – Wikipedia)。
J-STAGE(ジェイ・ステージ)で「撤回」を検索すると72件ヒットした(2020年7月11日時点)。
資料名は多い順位以下の通りである。
日本血栓止血学会誌 (5)
臨床神経学 (4)
YAKUGAKU ZASSHI (3)
九州法学会会報 (3)
日本原子力学会和文論文誌 (3)
英語の「retratction」「retratcted」で検索すると0件がヒットした。
その他の情報もあるが、撤回論文数が72件とは少ない。これでは使えない。
★CiNii(サイニィ)
CiNii(サイニィ、NII学術情報ナビゲータ、Citation Information by NII)は、国立情報学研究所(NII、National institute of informatics)が運営する学術論文や図書・雑誌などの学術情報データベース。(出典:CiNii – Wikipedia)
CiNii(サイニィ)で「撤回」を検索すると2069件ヒットした(2020年7月11日時点)。しかし、ヒットした論文は「撤回」に関する論文で、「撤回論文」ではなかった。 → CiNii Articles 検索 – 撤回
「撤回論文」を検索すると5件ヒットした。
CiNii Articles 検索 – 撤回論文
「Retraction」を検索すると1733件ヒットした。但し、本文中に「Retraction」の単語があるのもヒットした。
→ CiNii Articles 検索 – Retraction
タイトルに「Retraction」といれて検索すると645件ヒットした。
→ CiNii Articles 検索 – Retraction
J-STAGE(ジェイ・ステージ)の撤回論文数は72件なので、CiNii(サイニィ)の645件の含まれると想定してよいだろう。
CiNii(サイニィ)の撤回論文645件は、1つずつ撤回告知を見ないと、(イ)撤回論文ではない論文が含まれる点、(ロ)撤回理由がわからない点、(ハ)撤回された論文の元々の出版年がわからない点、(ニ)著者が外国人の場合がある点、など非常に使いにくいデータベースになっていた。
これでは使えない。却下。
★パブメド(PubMed)
J-STAGE(ジェイ・ステージ)とCiNii(サイニィ)が却下され、日本のデータベースは役立たずということになったので、外国のサイトを探った。
パブメド(PubMed)のデータ収集は2020年5月6日~7日及び、2020年7月11日~15日に行なった。この2か月間でデータは若干増えているが、得られた数値をそのまま使った。それで、数値の整合性が若干欠ける。
パブメド(PubMed)は以下の通り。
米国国立医学図書館 (NLM : http://www.nlm.nih.gov/) では、1997年からPubMed(パブメド)を公開しています。PubMedでは、医学文献データベースMEDLINEを中心とした世界中の医学文献を無料で検索できます。
MEDLINEとは、世界約80カ国、5,200誌以上の雑誌に掲載された文献情報を検索できる医学文献データベースです。 日本で出版された雑誌は162誌がカレントな収録対象誌となっています(2009年10月現在)。医学用語や著者、雑誌名等のキーワードを手がかりに、文献の書誌情報(タイトル、著者名、雑誌名、抄録)を調べることができます。(出典:2010年1月、PubMedマニュアル:京都府立医科大学附属図書館)
パブメド(PubMed)で日本を「Japan」で検索すると、1,304,007報の論文がヒットした。
→ Japan – Search Results – PubMed
その内の撤回論文を「Retracted Publication」で探ると、649報がヒットした。つまり、出版論文の0.050%が撤回されたことになる。
Japan – Search Results – PubMed
撤回論文数の年別表示は、サイトがしてくれる(以下の図3)
撤回論文数の年次変化のデータはエクセルにダウウンロードできるので、上記の表を加工することも、下記のように、数値を読み取ることも可能である。
生命科学系の撤回論文は1983年に1報で始まり、2020年の2報まで、38年間に計649報あった。 なお、年は論文出版年ではなく、撤回公告年である。
2005年~2007年にピークがあり、毎年約46報の論文が撤回された。2012年から撤回論文数が減少した。
パブメド(PubMed)の撤回論文649件は、CiNii(サイニィ)の撤回論文645件とよく似ている。しかし、4つの問題のうちの2つ、(ロ)撤回理由がわからない点、(ハ)撤回された論文の元々の出版年がわからない点、は解決されていない。そして、(ホ)分野が生命科学の限定される点、という欠陥がある。
これでは使えない。却下。
★撤回監視データベース
「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベース(Retraction Watch Database)は、論文データベースで撤回論文を探った時の5つの問題、(イ)撤回論文ではない論文が含まれる点、(ロ)撤回理由がわからない点、(ハ)撤回された論文の元々の出版年がわからない点、(ニ)著者が外国人の場合がある点、(ホ)分野が生命科学の限定される点、などがすべて解決された。
それで、結局、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベース(Retraction Watch Database)を使用した。
分析は次章に示す。
ーーーーーー
付録2
撤回監視データベースの検索語
- ねつ造/改ざん:Falsification/fabrication of data, images and results, and manipulation of results and images/// +Falsification/Fabrication of Data OR +Falsification/Fabrication of Image OR +Falsification/Fabrication of Results OR +Manipulation of Images OR +Manipulation of Results
- 盗用:Euphemism for plagiarism and plagiarism of article, data, images or text.///+Euphemisms for Plagiarism OR +Plagiarism of Article OR +Plagiarism of Data OR +Plagiarism of Image OR +Plagiarism of Text
- 重複:Duplication of article, data, image and text and euphemism for duplication./// +Duplication of Article OR +Duplication of Data OR +Duplication of Image OR +Duplication of Text OR +Euphemisms for Duplication
- 不信頼:Unreliable data, image or results./// +Unreliable Data OR +Unreliable Image OR +Unreliable Results
- 著者在順:Breach of policy by author, concerns/issues about authorship, forged authorship, lack of approval from author, and objections by author./// +Breach of Policy by Author OR +Concerns/Issues About Authorship OR +Forged Authorship OR +Lack of Approval from Author OR +Objections by Author(s)
- 著者不通/// +Author Unresponsive
- 再現不能:+Results Not Reproducible
- 汚染:Contamination of cell lines/tissues, materials or reagents./// +Contamination of Cell Lines/Tissues OR +Contamination of Materials (General) OR +Contamination of Reagents
- 利益相反///+Conflict of Interest
- 査読偽装/// +Fake Peer Review
- 学術誌/出版社の間違い/// +Error by Journal/Publisher
- 情報不足・情報なし///Notice – No/Limited Information
●コメント
注意:お名前は記載されたまま表示されます。誹謗中傷的なコメントは削除します
すいません、連投します(市民科学者なので、生活の合間に学問をしています。家事が一段落ついたので、先程の文章の続きを書きました)。
4.ネカト捜査を警察に。警視庁ネカト特別捜査室の創設
→これはむりです。日本刑法学会というのがあるんですが、ウェブサイトみてください。パットしないです。東大の敷地内にあるんですが、学会誌(『刑法雑誌』)も手に入りにくいし、最近までウェブサイトも古かったです。ハラスメント・研究公正のガイドラインもないです。この学会で、現在進行系で研究不正が行われているかもしれないです(笑)。
→その前に名誉毀損罪です。一橋大学で長年、講義中にヘイトスピーチをする米国人教員がおり、在日コリアンの院生(梁英聖さん)がハラスメント委員会に申し立てました。しかしハラスメント委員会が解決できず、しょうがないので院生は、大学の立地自治体の国立市の人権救済条例を利用しました。その件で、大学院生が学内でシンポジウムを開こうとしたところ、一橋大学総務課法規課から、「名誉毀損に触れないように」と2度に渡って指導があったそうです。
https://antiracism-info.com/2019/07/24/20190803/
大学での言論は、憲法21条(言論の自由)と憲法23条(学問の自由)で二重に守られているはずで、大学執行部が下位法の刑法を持ち出してくる(刑法名誉毀損罪も、公益性に対する免責がある)時点でおかしいです。
もし名誉毀損罪が存在するせいで、学問にさしさわりがあるなら、職業研究者は「法律を変える」ということもやるべきです。イギリスの名誉毀損罪が国際的に不評で、科学者団体がロビー活動をしたそうです。結果、2012年に名誉毀損法の改正があり、査読付科学雑誌は名誉毀損法の保護対象になったそうです。
法学者の書いた名誉毀損罪の本を読んでみたいと思って探したんですが、数が少ないです。弁護士が書いた本(実務書)はありますけど、法学者が書いた本が少ないです。『名誉毀損罪と表現の自由』(平川宗信著、有斐閣、1983)、『表現の自由と名誉毀損』(松井茂記著、有斐閣、2013)ぐらいで、内容が古いです。問題意識自体がないんじゃないでしょうか?
7. NPO・研究公正改善機構(仮称)
→NPO法人アカデミックハラスメントをなくすネットワークという団体が大阪にあります。「いっぱい相談が来ているらしい」と聴きました。
→科学技術振興機構(JST)で、「研究公正ポータル」と「科学と社会の対話」というのをやっている。JSTで、社会人が研究公正について話せる場を作って欲しいです。APRINの全国公正研究推進会議に行ったんですけど、大学人だけでシャンシャンでやっていて、「ダメだ」と思いました。
>1. 政治家を育てる。結局、法律を作らないと前進しない。研究ネカトを犯罪とする法律を作る。小保方晴子さんが参議院議員になってもらい、活動してもらう
→共産党の科学技術政策に、「アカデミックハラスメント」という文言はすでに盛り込まれています。研究公正はこの延長だと思います。
https://www.jcp.or.jp/web_policy/2019/06/2019-bunya51.html
2. 日本の大学に少なくとも10講座分の「科学技術政治学」を創設。教員30人の確保、院生の育成
→政治は座学で勉強するものではないと思います。やるものです。手や体を動かしたほうがいいと思います。「FREE」という学生団体があり、高等教育無償化を訴えています。貧困率が若年層で最大なので、大学生が政治参加をして、「授業料や消費税を下げて」と訴えていくというのは合理的だと思います。
→Change academiaという学生団体があって、第五次科学技術基本計画について考えるイベントをやったりしているようです。
→共産党の民青に入って活動しているという方もいらっしゃいます。
→市民科学者を育てる。学者にいじめられた国民というのが相当いる。例えば水俣病、薬害エイズ、福島の人など。東大の大学院に来てもらって、「こんな学者にならないでほしい」と話してほしいです。科研費で旅費と日当を出したらいいと思います。
(私は学者の元愛人という立場です。大学で知り合ったわけではなく、学外で声をかけられました。私がつきあっていた学者とは別の人なのですが、宮台真司(東京都立大教授)は渋谷で援助交際をする女子高生のフィールドワークや、ナンパのフィールドワークをしていました。元愛人が相当潜在しているはずです。
ひとつの拠点としては、公民館です。私は、男女共同参画センターがいいかもしれないと思っています。すでに男女共同参画センターにはセクハラ・パワハラ・モラハラ関係の図書が蔵書しています。私は日本女性学研究会と日本公民館学会に入会しました。
→「市民と科学の対話」という論点が出てきているので、ここを発展させたいです。
→シニア教員を解雇してほしいです。2月の全国公正研究推進会議で「研究倫理の講座を教授会の後に設定しているが、教授会に来ない」というぼやきがありました。教授会に来ない教授なんていらないです。就業規則を厳しくして、あまりに怠惰な人は解雇できるようにしてほしい。