7-145 ジェームズ・ヘザーズが論じるネカト有罪論

2024年4月30日掲載 

白楽の意図:大学のネカト調査は、長期間に及び、信頼性が低く、調査内容はしばしば秘密にされる。そのような不正の原因や過程の調査よりも、不正の結果を重視し、単に不正関係者全員に責任を負わせる厳格責任(Strict liability)を主張する、ネカト問題の論客であるジェームズ・ヘザーズ(James Heathers)の「2024年3月のjames.claims」論文を読んだので、紹介しよう。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
2.ジェームズ・ヘザーズの「2024年3月のjames.claims」論文
7.白楽の感想
8.主要情報源;
9.コメント
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【注意】

学術論文ではなくウェブ記事なども、本ブログでは統一的な名称にするために、「論文」と書いている。

「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。

記事では、「論文」のポイントのみを紹介し、白楽の色に染め直し、さらに、理解しやすいように白楽が写真・解説を加えるなど、色々と加工している。

研究者レベルの人が本記事に興味を持ち、研究論文で引用するなら、元論文を読んで元論文を引用した方が良いと思います。ただ、白楽が加えた部分を引用するなら、本記事を引用するしかないですね。

●2.【ジェームズ・ヘザーズの「2024年3月のjames.claims」論文】

★読んだ論文

●【論文内容】

この論文は難解である。

ジェームズ・ヘザーズ独特の文体が何を言いたいのか、わかりにくい(というか、ところどころ、白楽はわからなかった)。

それで、以下は、白楽が消化したところだけを記載した。

★厳格責任(Strict liability)

研究が偽造されたら、誰が悪いか?

現在の最良の答えは「その偽造行為に直接の責任があると結論された人」である。

その結論は、大学がする。

しかし、大学のネカト調査は、長期間に及び、信頼性が低く、調査内容はしばしば秘密にされる。

そして、その大学の結論は、しばしば、明らかにおかしい。

1つの代替案は、偽造行為に関係した者全員に責任を負わせることだ。

そう、関係者全員です。厳格責任(Strict liability)です。

★仕組み

あなたは、学術論文を発表したチームの一員だったとする。

通常、外部の関係者が、論文のネカト疑惑を指摘する。

指摘された疑惑は、筆頭著者および/または責任著者が所属する大学が調査する。

調査の結果、論文にねつ造、改ざん、または盗用があったと結論された。

全員に責任が科され、罰せられる。

それで終了。

とても簡単である。

しかし、現実は、このような簡単さではない。

大学はネカトの責任が誰にあるのか不正行為のプロセスを調査する。

関係者全員を解放しないまま、長期に及ぶ調査になる。そして、そこには、大学の隠蔽と愚行が幅を利かす。

データは偽物だった。

誰がそれを偽造したのか?

もちろん、責任の度合いは大きく異なる。

もしあなたが偽造論文の著者なら、偽造データと知らず、共著者に騙された、または、偽造論文と知らず、共著者に加えられた。その可能性は十分にある。

あるいは、あなたがデータを偽造し、他人をダマした可能性もある。

調査委員会は、あなたの数年分の古い電子メールを素人っぽく調べて、調査の最後に、あなたの責任はxx%(0%から100%の間)だと結論する。

私(ジェームズ・ヘザーズ)は以前、これらの調査は概して遅く、不必要に秘密主義で、規則に縛られ、無能で、相手を小ばかにした、役に立たない調査だと述べた。

なぜなら、そうだからだ。

しかし、調査委員には同情する。

調査委員は、ネカト調査の訓練も受けず、報酬もなく、そこそこレベルから途方もないプレッシャーの下で、通常の仕事に加えて、複雑な作業を強いられる。

不快な作業である。

数年、時には何十年も前の乱雑でクセのある、走り書きの実験ノート、複雑なデータ、記録、そして、信用できない証人の証言、または証言してくれない証人たち。

ネカト調査の複雑さが、さらに一層、調査をこじらせる。大幅に。

そして、信じられないほど締め切りが緩いので、熱心に調査する気力がそがれる。

調査に値する十分な証拠があっても、泥沼になる。

上層部は、十分な根拠などどうでもいいから、とにかく結論を出すよう、調査委員に強いる。

だから、調査委員は、十分な根拠に基づいた結論を出すことをしない。

厳格責任(Strict liability)にすれば、この臆病な人たちの一連の行為を回避できる。

「誠実な間違い」だったかどうかの判定をすればいいだけだ。

この判定は、通常、問題の原因や理由を特定するよりもはるかに簡単である。

ネカト疑惑論文の背後にあるデータや資料にアクセスすることなく、証人の証言を得ることなく、この決定を下すことができる。

公開された論文データを分析すればいいだけだ。多くの場合、容易である。

必要な内部記録へ公式にアクセスできる権限を持っていれば、なおさら簡単である。

そして、ネカト論文に関与した者全員に責任を科し、罰する。

厳格責任(Strict liability)である。

★調査の困難さ

ところが現状は厳格責任(Strict liability)になっていない。

で、誰に責任を科すのか? 

調査はとても難しい。

例として、米国のニューヨーク市立大学医科大学院のホァウヤン・ワン(Hoau-Yan Wang)のネカト調査を挙げる。 → ホァウヤン・ワン(Hoau-Yan Wang)、リンゼイ・バーンズ(Lindsay Burns)、キャッサバ・サイエンシズ社(Cassava Sciences, Inc.)(米) | 白楽の研究者倫理

調査の難しさは、実際に調査プロセスを見てみないと、皆さんは信じないだろう。 → 調査報告書: CITY UNIVERSITY OF NEW YORK FINAL INVESTIGATION REPORT OF Associate Professor Hoau-Yan Wang, Ph.D.

以下、ジェームズ・ヘザーズが示した調査報告書のポイントを白楽がグーグル翻訳し張り付けた。カッコと下線は白楽。
王博士はホァウヤン・ワン(Hoau-Yan Wang)である。

同委員会は、31件の申し立てのうち14件について、王博士による意図的な科学的不正行為を強く示唆する証拠を発見した。 しかし、王博士が基礎となる元のデータや研究記録を提供しなかったことと、代わりに検査する必要があった公開された画像の品質が低かったため、私たちはこの主張の正当性を客観的に評価することができませんでした。 申し立てで特定された出版物の大半について、検証可能なオリジナルデータを要求し、それに基づいて申し立てで述べられている不正行為が実際に行われたかどうかを判断するための編集措置を講じることを推奨します。

最後に、私たちの調査により、ワン博士によるデータ管理と記録保管における長年にわたるひどい違法行為が明らかになりました。 31件の疑惑に関する一次データや研究ノートは存在しない可能性が高いと思われる。 このため、この委員会は、申し立てで引用された出版物に記載されている実験から数値がどのように作成されたのかを客観的に判断することができなかった。 したがって、王博士は、申し立てで特定された出版物をめぐる懸念に直接対処するために委員会に必要なデータと研究記録を提供できなかった。 したがって、王博士の研究の完全性(公正さ)は依然として非常に疑わしい。

報告書全文も、上の段落に示したのと同様に、調査委員の無力な怒りに満ち溢れている。

つまり、ホァウヤン・ワン(王博士)は、重大なネカト行為で告発されたが、約1年半にわたって調査委員会をかく乱していた。

データに関する質問をすると、ホァウヤン・ワン(王博士)は、ファイルを紛失したと弁明した。また、コロナに感染した時、ボーとしてファイルを消去したと弁明した。

さらに、パソコンをいとこに貸したり、データを記録した紙で紙飛行機に作ったり、文字通り、過失を認める以外、メチャクチャな行為を挙げて弁明した。

調査委員はイライラして、ひどく腹を立てた。なぜなら、調査委員は「なぜ」・「どのように」など、不正行為をしたプロセスを再構築しようとしていたからだ。

ホァウヤン・ワンのような悪質な研究者が、このように限りなく厄介な戦略を展開する理由の1つは、本来、研究不正に科される重い罪を、愚かで無能な研究者がした軽い罪に格下げできるからである。

愚かで無能な研究者を演じ、答えを粉飾するのは、自己防衛なのである。

イライラした調査委員は疑惑者を愚かで無能な研究者だと非難し、調査を終えている。

研究ネカトで追及された研究者は、不誠実で意地悪な対応をしたとしても、しかし、だからといって愚かではない。彼らは嘘をつき、曖昧にし、時間を浪費し、ぼんやりとし、調査を遅らせ、故意に誤解させ、故意につまづかせる。

そして、その戦術が成功し、研究不正者を悪魔から単なる愚か者に格下げになるのを知れば知るほど、そういう行動にでる研究不正者は増える。

基本的に、調査委員会はもて遊ばれているということだ。

こんな漫才、やらない方がずっとマシである。

単に論文を引用したり・読んだりしたいだけの研究者にとって、論文内容は正確であるべきだが、論文内容が正確ではなかった原因や過程などどうでもいいことだ。

●7.【白楽の感想】

《1》厳格責任(Strict liability) 

大学のネカト調査は、長期間に及び、信頼性が低く、調査内容はしばしば秘密にされ、調査結果はおかしい。

誰がどうしてどのように偽造したかなど、従来、大学のネカト調査はネカトのプロセスを解明しようとしてきた。

ジェームズ・ヘザーズ(James Heathers)の主張は、プロセスの解明ではなく、「偽造論文がある。偽造行為に関係した者全員、つまり論文著者全員に責任を負わせる」厳格責任(Strict liability)である。

とてもシンプルである。

自動車の交通違反に例えよう。

自動車が信号を無視して走行した。

警察官が見つけ交通違反で処分した。

その際、どうして、どのように信号無視したかを調べない。信号無視した結果、規則違反でペナルティを科すだけである。

単純である。

プロセスの解明は別途、研究者が研究すれば良い。

プロセスの解明とネカト者の処分を切り離す。

この視点、重要かもしれない。

ジェームズ・ヘザーズ(James Heathers)。写真出典:https://retractionwatch.com/2020/06/19/i-agree-with-your-conclusions-completely-and-your-paper-is-still-terrible/

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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