2024年9月15日掲載
ワンポイント:グリムシャーは、ダナ・ファーバー癌研究所(Dana-Farber Cancer Institute)・所長である。2024年1月2日、ネカトハンターのショルト・デイヴィッド(Sholto David)が、グリムシャーを含め、ダナ・ファーバー癌研究所・上層部の4人のデータねつ造・改ざんを「For Better Science」記事で指摘した。グリムシャー自身がネカト実行者ではないだろうが、ダナ・ファーバー癌研究所はハーバード大学・医科大学院の中核病院・研究施設なので、「またかよ、ハーバード大学」である。米国の学術界のトップクラスの人々の研究不正が指摘され、米国民の学術研究への不信が強くなっている。撤回論文は2報。グリムシャーは2024年10月1日付けで所長辞任予定。現在、ネカト調査中。国民の損害額(推定)は50億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
ローリー・グリムシャー(ローリー・グリムチャー、Laurie Glimcher、Laurie H Glimcher、Laurie Hollis Glimcher、ORCID iD:?、写真出典)は、米国のダナ・ファーバー癌研究所(Dana-Farber Cancer Institute)・所長で、医師免許所持者。専門は免疫学、臨床医学では骨粗鬆症学である。後半は医学系の組織経営である。
グリムシャーは、2024年に発覚したダナ・ファーバー癌研究所・上層部の4人のデータねつ造・改ざん事件の1人である。
ダナ・ファーバー癌研究所(Dana-Farber Cancer Institute)のローリー・グリムシャー(Laurie Glimcher)所長(CEO)、ウィリアム・ハーン(William Hahn)(最高執行責任者chief operating officer)、臨床研究のプログラム・ディレクターであるアイリーン・ゴブリアル(Irene Ghobrial)、多発性骨髄腫センターのプログラム・ディレクターであるケネス・アンダーソン(Kenneth Anderson)。
4人の論文出版は基本的に各人別々に行なっているので、集団で共謀してネカト行為をしていたわけではない。
それで、事件を個別に扱う。
今回は、所長(CEO)のローリー・グリムシャー(Laurie Glimcher)を扱う。
2024年1月2日、ネカトハンターのショルト・デイヴィッド(Sholto David)が、グリムシャーを含め、ダナ・ファーバー癌研究所・上層部の4人のデータねつ造・改ざんを「For Better Science」記事で指摘した。
グリムシャー自身がネカト行為者ではないだろうが、ダナ・ファーバー癌研究所は不祥事続きのハーバード大学・医科大学院の中核病院・研究施設なので、「またかよ、ハーバード大学」と受け取られた。
米国の学術界のトップクラスの人々の研究不正が指摘され、米国民の学術研究への不信が強くなっている。
2024年9月3日(73歳)、ダナ・ファーバー癌研究所は、グリムシャーが2024年10月1日付で所長を辞任すると発表した。後任の所長は腫瘍内科の部長であるベンジャミン・エバート(Benjamin L. Ebert)が就任する。
2024年9月14日(73歳)現在、ネカト調査中だと思うが、所長辞任でネカト調査はチャラになるかもしれない。
- 国:米国
- 成長国:米国
- 医師免許(MD)取得:ハーバード大学・医科大学院
- 研究博士号(PhD)取得:なし
- 男女:女性
- 生年月日:1951年生まれ。仮に1951年1月1日生まれとする
- 現在の年齢:73歳?
- 分野:免疫学
- 不正疑惑論文発表:2003~2015年(52~64歳)の13年間の11論文
- ネカト疑惑行為時の地位:ハーバード大学・医科大学院・教授、コーネル大学・医科大学院・学部長
- 発覚年:2024年(73歳)
- 発覚時地位:ダナ・ファーバー癌研究所・所長
- ステップ1(発覚):第一次追及者はネカトハンターのショルト・デイヴィッド(Sholto David)で、「For Better Science」記事として発表
- ステップ2(メディア):「For Better Science」、「パブピア(PubPeer)」、「Harvard Crimson」、「Science」など多数
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ダナ・ファーバー癌研究所・調査委員会、調査中
- 研究所・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査中なので
- 研究所の透明性:調査中(ー)
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:撤回2報、パブピアで11論文にコメント
- 時期:研究キャリアの後期
- 職:事件後に、研究室は残し研究職を続けたが、所長を辞任した(▽)
- 処分:なし。調査中なので
- 対処問題:研究公正を軽視する本人の言動あり
- 特徴:米国の学術界のトップクラスの研究不正なので、米国民の学術研究への不信が強くなる
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は50億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
主な出典:① ウィキペディア英語版:Laurie Glimcher – Wikipedia、② The American Association of Immunologists Oral History Project
- 生年月日:1951年生まれ。仮に1951年1月1日生まれとする
- 1972年(21歳):ハーバード大学ラドクリフ・カレッジ(Radcliffe College of Harvard University)で学士号取得:xx学
- 1976年(25歳):ハーバード大学・医科大学院(Harvard Medical School)・卒業:医師免許取得
- 1976~1991年(25~40歳):マサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital)・研修医。 → NIHで免疫学。 → マサチューセッツ総合病院でリウマチ学の専門医。 → ハーバード大学・医科大学院(Harvard Medical School)でゆっくりと昇進
- 1991~2012年(40~61歳):ハーバード大学・公衆衛生科大学院(Harvard School of Public Health)・教授とハーバード大学・医科大学院(Harvard Medical School)・教授
- 1997~2017年(46~66歳):米国のブリストル・マイヤーズ スクイブ社(Bristol-Myers Squibb )の取締役。大学と民間企業を兼任?
- 2003~2015年(52~64歳):この13年間の11論文にパブピアのコメントがある
- 2012~2016年(61~65歳):コーネル大学・医科大学院(Weill Cornell Medical College)・学部長、コーネル大学の医療問題担当プロボスト(Provost for Medical Affairs)
- 2016年2月(65歳):ダナ・ファーバー癌研究所(Dana-Farber Cancer Institute)・所長
- 2024年1月2日(73歳):研究不正が発覚
- 2024年9月3日(73歳):2024年10月1日付でダナ・ファーバー癌研究所の所長を辞任すると発表。研究室は残し研究職を続ける
●3.【動画】
以下は事件の動画ではない。動画はたくさんある。
【動画1】
「ローリー・グリムシャー」と自己紹介。
なお、「Dana-Farber」を「デイナ・ファーバー」と発音しているが、「ダナ・ファーバー」が日本語に定着しているので、変更しなかった。
1人で語っている動画:「Laurie H. Glimcher, MD – Oral History | Dana-Farber Cancer Institute- YouTube」(英語)36分11秒。
Dana-Farber Cancer Institute(チャンネル登録者数 4.58万人) が2023/10/28 に公開
【動画2】
「ローリー・グリムチャー」と紹介。
インタビュー動画:「From Bench to Fireside: Laurie Glimcher, MD, Dana-Farber Cancer Institute & John Connolly, PhD, PICI – YouTube」(英語)6分54秒。
Parker Institute for Cancer Immunotherapy(チャンネル登録者数 265人) が2022/10/04 に公開
●4.【日本語の解説】
★2024年1月30日:著者不記載(crisp_bio):「ダナファーバー癌研究所, 6本の論文の撤回と, 31本の論文の修正に向かう」
[出典] “Errors found in dozens of papers by top scientists at Dana-Farber Cancer Institute” Science News Staff. Science 2024-01-22. https://doi.org/10.1126/science.z0oibzm
癌研究において最も知名度の高い研究機関の一つであるダナファーバー癌研究所 (Dana-Farber Cancer Institute: DFCI)が、所長と3人の上級研究員による数十本の論文が “絶望的に誤りが多い (hopelessly corrupt with errors)”とフリーランスのデータ調査者から指摘されたことを受け、内部調査の結果、撤回または訂正する必要があると判断した。
2024年1月2日に、ウエールズ在住の細胞生物学・分子生物学の博士号持ちながらて失業中のSholto Davidが、PubPeer (パブピア) と呼ばれる研究者が発表された研究を批評したり議論したりできるサイトのブログ”For Better Science” に”Dana-Farberications at Harvard University”と題する記事を投稿した [*1]。その記事は挑発的な「基礎研究に何十億ドルも投資しているにもかかわらず、がん研究の進歩が遅いのはなぜだろう?その根源はアジアのペーパー・ミル (paper mill)にあるわけではないし、シチリアの大学にあるわけではない。彼らはアメリカの権威ある研究機関を模倣しているだけなのだ。中でも模倣に値する研究機関として、ハーバード大学とそのダナ・ファーバー癌研究所以上の権威はない」という書き出しに続いて、DFCI理事長兼CEOのLaurie Glimcher、最高執行責任者 (COO) のWilliam Hahn、シニア副理事長のIrene Ghobrial、DFCIセンター長のKenneth Andersonが共著した1997年から2017年までの論文57本に問題あり、と指摘した。なお、Davidは、過去3年間、2,000以上の論文に「問題あり」のフラグを立ててきた [*2]。
続きは、原典をお読みください。
★2024年1月31日:toyft(Toy’s Blog):「権威ある癌研究所がデータ捏造疑惑を受けて研究を撤回」
ハーバード大学医学部の主要教育機関である権威あるダナファーバー癌研究所(DFCI)は、データ偽造疑惑を受け、いくつかの研究を撤回し、他の研究の訂正を要請した。
NBC Newsによると、ボストンを拠点とするDFCIは、現在進行中の疑惑調査の一環として、6件の研究の撤回と31件の研究の訂正を要請した。この問題には4人の管理者と上級癌研究者が関与していると報じられている。
「最高経営責任者(CEO)兼社長のローリー・グリムチャー博士の共著4本を含む50本以上の論文が、継続的な調査の対象となっている。
続きは、原典をお読みください。
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★研究人生
ローリー・グリムシャー(Laurie Glimcher、写真出典)はロシア・ユダヤ系の米国人で、父親は39歳でハーバード大学・医科大学院で整形外科の教授に就任した。
娘であるローリー・グリムシャーもハーバード大学・医科大学院で学び、40歳でハーバード大学・医科大学院の教授に就任した。
全米科学アカデミー、全米医学アカデミー、アメリカ芸術科学アカデミー、アメリカ哲学協会の会員に選出されているし、2014年にロレアルユネスコ科学女性賞、2018年に米国免疫学会生涯功労賞など、たくさんの賞を受賞している。
医学界のエリート中のエリートである。
2016年2月(65歳)、ダナ・ファーバー癌研究所(Dana-Farber Cancer Institute)の所長に就任したが、その時、ハーバード大学・医科大学院の医学部長就任の話もあったそうだ。
★獲得研究費
ローリー・グリムシャー(Laurie Glimcher、Laurie H Glimcher)は、NIHから1985~2024年の40年間に259件、計181,210,045ドル(約1,812億円)の研究費を獲得していた。 → RePORT ⟩ Laurie Glimcher
膨大な研究費である。白楽ブログで記事にした研究者の中で、多分、研究費獲得額で最高(グループの1人)だと思う。
★発覚の経緯
ショルト・デイヴィッド(Sholto David、写真出典)は英国のニューカッスル大学・医学部(Medical School, Newcastle University)で細胞分子生物科学の学士号を取得した英国のネカトハンターである。
2024年1月2日、ショルト・デイヴィッドはダナ・ファーバー癌研究所・上層部の4人のデータねつ造・改ざんを「For Better Science」記事で指摘した。 → ショルト・デイヴィッド記者(Sholto David)の「For Better Science」記事:Dana-Farberications at Harvard University – For Better Science
4人は、ダナ・ファーバー癌研究所(Dana-Farber Cancer Institute)のローリー・グリムシャー(Laurie Glimcher)所長(CEO)、ウィリアム・ハーン(William Hahn)(最高執行責任者chief operating officer)、臨床研究のプログラム・ディレクターであるアイリーン・ゴブリアル(Irene Ghobrial)、多発性骨髄腫センターのプログラム・ディレクターであるケネス・アンダーソン(Kenneth Anderson)。
グリムシャーの3論文、ハーンの12論文、ゴブリアルの10論文、アンダーソンの16論文に「データねつ造・改ざん」が含まれていたと述べた。そのうち5論文はアンダーソンとゴブリアルの共著だったが、他は4人の中での共著論文ではない。
デイビッドは、人工知能画像解析ソフトウェアImageTwinと手動で、論文のデータに異常があることを見つけた。
例えば、ローリー・グリムシャー(Laurie Glimcher)の
「2012年5月のHum Mol Genet」論文の画像の異常を、2013年11月、別の人が指摘していた。 → https://pubpeer.com/publications/29AAEBE60566320997C264E9F83048
「2006年4月のScience」論文の画像の異常を、2018年5月、別の人が指摘していた。 → https://pubpeer.com/publications/F8412B40F19248D295532E8EA593F4
★デイヴィッドの指摘
以下断らない限り、この項の図の出典 → ショルト・デイヴィッド記者(Sholto David)の「For Better Science」記事:Dana-Farberications at Harvard University – For Better Science
ショルト・デイヴィッド(Sholto David)はローリー・グリムシャー(Laurie Glimcher)の3つの論文のデータ異常を指摘した。うち、2つの論文を以下に示す。
【1つ目の「2003年4月のNat Immunol.」論文】
- Plasma cell differentiation and the unfolded protein response intersect at the transcription factor XBP-1.
Iwakoshi NN, Lee AH, Vallabhajosyula P, Otipoby KL, Rajewsky K, Glimcher LH.
Nat Immunol. 2003 Apr;4(4):321-9. doi: 10.1038/ni907. Epub 2003 Mar 3.
話がズレるけど、第一著者の日本人らしい姓の「イワコシ」は、「Neal N Iwakoshi」なので、多分、日系米国人で、日本育ちの日本人ではない。
話を戻す。
ーーーー以下の図1aの赤枠・青枠のバンドが同じ画像である。
ーーーーー以下の図1fの赤枠のバンドも同じ画像である。
ーーーーーーーーー
【1つ目の「2005年8月のJ Exp Med.」論文】
- XBP-1 specifically promotes IgM synthesis and secretion, but is dispensable for degradation of glycoproteins in primary B cells.
Tirosh B, Iwakoshi NN, Glimcher LH, Ploegh HL.
J Exp Med. 2005 Aug 15;202(4):505-16. doi: 10.1084/jem.20050575.
以下に示すように、パブピアで論文の図5Dに重複画像(以下の緑枠)があると指摘された。
その時、なんと、グリムシャーは、「第一著者のxxに聞くべきです。xxは〇〇研究室にいました(“You should reach out to Dr. Hidde Ploegh- the first author, Dr. Boaz Tirosh was in his laboratory.”)」と返事した。
まるで他人事のような反応に、パブピアで指摘した人は怒った。
「なんてこった。この論文はあなたの論文なんでしょう。あなた自身で聞いて回答すべきです!」
マー、偉くなる人の通例として、「栄誉は自分が取り、不正の責任は他人に押し付ける」。
ーーーーーーーー
さらに、グリムシャーの疑惑が深まるのは、グリムシャーは、チリのネカト疑惑者のクラウディオ・ヘッツ(Claudio Hetz)と12論文も共著で発表していたことだ。
→ クラウディオ・ヘッツ(Claudio Hetz)(チリ) | 白楽の研究者倫理
グリムシャーは研究公正を無視・軽視したことで偉くなったのか、と疑いたくなるような、言動や経歴である。
★調査
ダナ・ファーバー癌研究所のバレット・ローリンズ研究公正官(Barrett J. Rollins、写真出典)は、直ちにネカト調査を開始した。
★所長辞任
2024年9月3日(73歳)、ダナ・ファーバー癌研究所は、2024年10月1日付で、グリムシャーは所長を辞任すると発表した。ただ、グリムシャーの免疫学研究室は残すとのことだ。
後任の所長は腫瘍内科の部長であるベンジャミン・エバート(Benjamin L. Ebert)が就任する。
2024年9月14日(73歳)現在、グリムシャーのネカト調査が進行中だと思うが、所長辞任でネカト調査はチャラになるのかもしれない。
なお、グリムシャーの所長辞任は論文ネカトだけが原因ではないとも言われている。
グリムシャーは、2023年に、ダナ・ファーバー癌研究所とブリガム・アンド・ウィメンズ病院(Brigham and Women’s Hospital)との数十年にわたる関係を終わらせ、代わりにベス・イスラエル・ディーコネス医療センター(Beth Israel Deaconess Medical Center)と組むことを決めた。
この決定に強い批判が起こっていることも辞任の大きな理由らしい。
●【ねつ造・改ざんの具体例】
ねつ造・改ざんは、既に一部具体的に示したが、以下に別の論文でのねつ造・改ざんを示す。
撤回されたネカト論文が2報ある。
撤回論文のネカト部分と撤回理由を以下に示す。
★「2006年4月のScience」論文
「2006年4月のScience」論文の書誌情報を以下に示す。ローリー・グリムシャー(Laurie Glimcher)はダナ・ファーバー癌研究所に所属していた。2024年4月19日に撤回された。
- RETRACTED: Proapoptotic BAX and BAK modulate the unfolded protein response by a direct interaction with IRE1alpha.
Hetz C, Bernasconi P, Fisher J, Lee AH, Bassik MC, Antonsson B, Brandt GS, Iwakoshi NN, Schinzel A, Glimcher LH, Korsmeyer SJ.
Science. 2006 Apr 28;312(5773):572-6. doi: 10.1126/science.1123480.
Retraction in: Science. 2024 Apr 19;384(6693):280. doi: 10.1126/science.adp1104.
2014年11月x日以降、複数人が、論文中の複数の画像に再使用や不適切な切り貼りがあると指摘した。
以下は、その指摘の一部を示した。
以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/C6B3AB4AA887C2D05639A8B0729124
――――――――――以下は図2B。指摘は2014年11月x日
――――――――――以下は図2A。指摘は2020年5月x日
――――――――――以下は図3A。指摘は2020年7月x日
ブロットの左側赤字が示すように、レーンが10、9、と数が合わない。11レーンもある。メチャクチャである。
★「2013年5月のCell Host Microbe.」論文
「2013年5月のCell Host Microbe.」論文の書誌情報を以下に示す。2018年4月11日に撤回された。
- The unfolded protein response element IRE1α senses bacterial proteins invading the ER to activate RIG-I and innate immune signaling.
Cho JA, Lee AH, Platzer B, Cross BCS, Gardner BM, De Luca H, Luong P, Harding HP, Glimcher LH, Walter P, Fiebiger E, Ron D, Kagan JC, Lencer WI.
Cell Host Microbe. 2013 May 15;13(5):558-569. doi: 10.1016/j.chom.2013.03.011.
Retraction in: Cell Host Microbe. 2018 Apr 11;23(4):571. doi: 10.1016/j.chom.2018.03.005.
「撤回公告」によると、著者たちは論文出版したデータ(図3G、4A、4C)を再現できなかった。それで結論も確証できない。それで論文を撤回する。とあった。
――――――――――以下は図3G。出典は原著。赤色は撤回(Retraction)の印の一部
――――――――――以下は図4A。出典は原著
――――――――――以下は図4C。出典は原著。赤色は撤回(Retraction)の印の一部
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
データベースに直接リンクしているので、記事閲覧時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えている(ことがある)。
★パブメド(PubMed)
2024年9月14日現在、パブメド(PubMed)で、ローリー・グリムシャー(Laurie Glimcher、Laurie H Glimcher)の論文を「Laurie H Glimcher [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、1995年の1論文と、2002~2024年の23年間の202論文の計203論文がヒットした。
2024年9月14日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、2論文が撤回されていた。
★撤回監視データベース
2024年9月14日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでローリー・グリムシャー(Laurie Glimcher、Laurie H Glimcher)を「Laurie H Glimcher」で検索すると、 2論文が撤回されていた。
「2013年5月のCell Host Microbe.」論文が、2018年4月11日に撤回された。また、「2006年4月のScience」論文が、2024年4月19日に撤回された。
★パブピア(PubPeer)
2024年9月14日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ローリー・グリムシャー(Laurie Glimcher、Laurie H Glimcher)の論文のコメントを「Laurie H Glimcher」で検索すると、2003~2015年(52~64歳)の11論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》腐敗
ノーベル賞受賞者の研究不正は大きな問題だけど、研究組織・管理職の研究不正も大きな問題である。
ハーバード大学はたくさんの教授のネカトや性不正が発覚しているが、学長の盗用も発覚した。
そして、今回は、ダナ・ファーバー癌研究所の所長を含めた複数人の上層部のネカト発覚である。
ネカトを実行した人はこれら上層部の人たちではなく、共著者の誰かだと思う。
しかし、自分が著者に名を連ねている論文の不正である。責任はある。
ダナ・ファーバー癌研究所はハーバード大学・医科大学院(Harvard Medical School)の中核病院・研究施設なので、「またかよ、ハーバード大学」という気分にさせ、米国の最高峰の大学・研究所のなさけない状況に、米国民は学術研究(者)に不信感を募らせている。
研究組織・管理職は研究不正の規則を設け、摘発・調査し、処分する立場である。
ところが、グリムシャーの言動や共著者の経歴から判断して、グリムシャーは研究公正に正面から向き合っていない。
むしろ、グリムシャーは研究公正を無視・軽視で偉くなったのかと疑いたくなる言動をしている。
コレでは、学問研究の道理が成り立たない。
世間と研究倫理学者は、ハーバード大学とダナ・ファーバー癌研究所が腐敗・堕落しているとみるわけだ。
《2》資質
2024年1月にネカトハンターのショルト・デイヴィッド(Sholto David)がダナ・ファーバー癌研究所の上層部のネカト論文を指摘して、いろいろなメディアが大きく取り上げた。
しかし、調べてみると、「パブピア(PubPeer)」では、それ以前に何度も、グリムシャーのデータ異常が指摘されていた。
それを、グリムシャーもダナ・ファーバー癌研究所も放置というか、無視していた。
そういう、ネカト指摘を無視する姿勢は、研究組織・管理職としては、かなり問題だと思う。
そういう資質の人間を昇進させてはいけない。
ある意味、このような管理者はズルして偉くなった人たちで、偉くなるにはズルした方がいい、と教えているようなものだ。
グリムシャー自身がネカト行為者ではないだろうが、ズルの恩恵を受けていたわけだ。
《3》良い
上記、否定的に書いたが、グリムシャーの良い面(というか米国の良い面)もある。
批判を受けて、所長を辞任することだ。
これは、スタンフォード大学の学長、ハーバード大学の学長、が辞任したのと同じような状況だ。
ところが、日本のトップは辞任しない。
研究者ではないが、兵庫県の斎藤知事が辞職しないのは異常である。
研究者でも、東北大学の井上明久などなど非を認めず、辞任しなかった学長・副学長が何人もいる。
最近では、2023年6月にネカト問題が指摘されてから1年3か月がたつ国立循環器病研究センターの大津欣也・理事長も、理事長を辞任しない。名古屋芸術大学の来住(きし)尚彦・学長も学長を辞任しない。京都工芸繊維大学・吉本昌広・副学長は辞任しないどころか学長に昇進した。
不正行為をしたかどうかネカト調査が終了するまで待つのではなく、「強い疑惑の渦中にあれば、組織内外からの信用・信頼が大きく欠ける。信用・信頼は組織の長として必須の要件なので、それが欠ければ、組織運営は順当に行なわれない」。
そういう倫理観・矜持に欠ける人をトップに選ぶ日本のリーダー選出文化に問題がある。
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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる
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●9.【主要情報源】
① ウィキペディア英語版:Laurie Glimcher – Wikipedia
② ◎2024年1月2日のショルト・デイヴィッド記者(Sholto David)の「For Better Science」記事:Dana-Farberications at Harvard University – For Better Science
③ 2024年1月12日のベロニカ・パウルスとアクシャヤ・ラヴィ記者(Veronica H. Paulus and Akshaya Ravi)の「Harvard Crimson」記事:Dana-Farber Cancer Institute Researchers Accused of Manipulating Data | News | The Harvard Crimson
④ 2024年1月22日のベロニカ・パウルスとアクシャヤ・ラヴィ記者(Veronica H. Paulus and Akshaya Ravi)の「Harvard Crimson」記事:Dana-Farber to Retract 6 Papers, Correct 31 Following Data Manipulation Claims | News | The Harvard Crimson
⑤ 2024年1月22日のエミリー・クレーン(Emily Crane)記者の「New York Post」記事:Harvard teaching hospital to retract papers by top researchers
⑥ 2024年1月22日のニュース担当スタッフの「Science」記事:Errors found in dozens of papers by top scientists at Dana-Farber Cancer Institute | Science | AAAS
⑦ 2024年1月23日のベス・モール(Beth Mole)記者の「Ars Technica」記事:Top Harvard cancer researchers accused of scientific fraud; 37 studies affected | Ars Technica
⑧ 2024年3月1日、ケルシー・パイパー記者(Kelsey Piper)の「Vox」記事:Fake cancer research and scientific fraud allegations hit the Dana-Farber Cancer Institute | Vox
⑨ 2018年5月21日のアリソン・アブリティス(Alison Abritis)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Caught Our Notice: A team from Harvard, Cornell, Cambridge, HHMI, and UCSF can’t reproduce a paper’s findings – Retraction Watch
⑩ 2024年9月3日、ダナ・ファーバー癌研究所の広報: Dana-Farber President and CEO Laurie Glimcher, MD, announces her plans to step down capping a highly successful tenure marked with discovery and innovation | Dana-Farber Cancer Institute
⑪ 2024年9月4日のベロニカ・パウルスとアクシャヤ・ラヴィ記者(Veronica H. Paulus and Akshaya Ravi)の「Harvard Crimson」記事:Dana-Farber CEO Laurie Glimcher To Step Down, Succeeded By Medical Oncology Chair | News | The Harvard Crimson
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
●コメント
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