イリーナ・スタンチェワ(Irina Stancheva)(英)

2019年9月30日掲載 

ワンポイント:ロシア国籍を持ち、ブルガリアのソフィア大学(University of Sofia)を卒業、スイスで博士号を取得、英国のエディンバラ大学(University of Edinburgh)・講師(Reader)になった。2015年5月(45歳)、パブピアが論文画像に疑念を表明した。2017年6月(47歳)、エディンバラ大学は調査結果を未公表のまま、スタンチェワを解雇し、論文撤回を学術誌に要請した。エディンバラ大学は5論文がネカト、パブピアは12論文を問題視した。3論文が撤回された。国民の損害額(推定)は5億円(大雑把)。

【追記】
・2019年10月15日の撤回告知:Retraction: Regulation of MBD1‐mediated transcriptional repression by SUMO and PIAS proteins | The EMBO Journal

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.白楽の手紙
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

イリーナ・スタンチェワ(Irina Stancheva、ORCID iD:、写真出典)は、ロシア国籍を持ち、ブルガリアのソフィア大学(University of Sofia)を卒業、スイスで博士号を取得、英国のエディンバラ大学(University of Edinburgh)・ポスドク、その後、同大学の講師(Reader)になった。医師ではない。専門は細胞生物学(クロマチンとDNA)だった。

2015年5月(45歳)、パブピアがスタンチェワの論文画像に疑念を表明したのがネカト追及の最初である。結局、1997-2011年(27-41歳)の15年間の12論文が問題視された。

2017年6月(47歳)、エディンバラ大学は調査結果を未公表のまま、スタンチェワを解雇し、論文撤回を学術誌に要請した。そして、スタンチェワ事件を封印してしまった。

2018年6月18日(48歳)、ネカトハンターのレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)の努力で、エディンバラ大学が撤回すべき論文としたのは、2000-2005年(30-35歳)の5論文だけだったということがわかった。

5論文の中には、2011年にガードナー国際賞を受賞し、ノーベル賞・候補者と言われたエイドリアン・バード教授(Adrian Bird)が最後著者の「2005年のMol Cell.」論文も含まれていた。

しかし、パブピアが指摘しているネカト論文はもっと多い。エディンバラ大学・調査委員会がヒヨった、あるいはズサンだった公算が高い。

スタンチェワ研究室があったエディンバラ大学(University of Edinburgh)のヒュー・ロブソン棟(School of Biomedical Sciences, Hugh Robson Building)。写真出典

  • 国:英国
  • 成長国:ブルガリア
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:スイス連邦工科大学チューリッヒ校
  • 男女:女性
  • 生年月日:不明。仮に1970年1月1日生まれとする。1997年にポスドクになった時を27歳とした
  • 現在の年齢:51 歳?
  • 分野:細胞生物学
  • 最初の不正論文発表:エディンバラ大学は2000年(30歳)、パブピアは1997年(27歳)
  • 不正論文発表:エディンバラ大学は2000-2005年(30-35歳)の5報、パブピアは1997-2011年(27-41歳)の15年間の12報
  • 発覚年:2015年(45歳)
  • 発覚時地位:エディンバラ大学・講師(Reader)
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はパブピアの匿名者(詳細不明)
  • ステップ2(メディア):レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①エディンバラ大学・調査委員会
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:機関以外が詳細をウェブ公表(⦿)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:エディンバラ大学は5論文、パブピアは12論文を問題視した。3論文が撤回
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分:解雇
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は5億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

参考:①:Lab members | Stancheva Lab 、②:Irina Stancheva | LinkedIn、③:WiLS Database – Expert Women in Life Sciences

  • 生年月日:不明。仮に1970年1月1日生まれとする。1997年にポスドクになった時を27歳とした。ロシア国籍を持っているので、ロシア生まれと思われる
  • 19xx年(xx歳):ブルガリアのソフィア大学(University of Sofia)で学士号取得:生化学・分子生物学
  • 1992‐1997年(27歳):スイスのスイス連邦工科大学チューリッヒ校・細胞生物学研究所(Institute of Cell Biology, ETH Zurich)で研究博士号(PhD)を取得。指導教員はDr Jose M. Sogo
  • 1997年9月(27歳):英国のエディンバラ大学(University of Edinburgh)・ポスドク
  • 1997年(27歳):ネカト行為はじめる
  • 2002年4月(32歳):キャンサー・リサーチUK(Carcer Research UK)・フェローになり、エディンバラ大学で研究室主宰
  • 2004年7月(34歳):ウェルカムトラスト(Wellcome Trust Centre for Cell Biology)に参加
  • 2012年(42歳):エディンバラ大学・講師(Reader)
  • 2015年5月(45歳):ネカトが発覚
  • 2017年6月(47歳):エディンバラ大学・講師(Reader)を解雇

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
研究の話しの動画:「Irina Stancheva – Biological Science」(英語)1分11秒。
2012に公開

●5.【不正発覚の経緯と内容】

以下の内容の大半は、レオニッド・シュナイダーの記事による。
 → レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のイリーナ・スタンチェワ(Irina Stancheva)に関する記事群:Irina Stancheva – For Better Science

スタンチェワ事件はネカトハンターのシュナイダーが指摘しているように、箝口令がしかれているためか、メディアはほとんど報道していない。それで、以下の記述はシュナイダーの記事に大きく依存する。一方的な見方があるかもしれない。

★経緯

2015年5月(45歳)、パブピアがイリーナ・スタンチェワ(Irina Stancheva、写真出典)の論文データに疑念を表明したのがネカト追及の最初である。結局、1997-2011年(27-41歳)の15年間の12論文を問題視した。

2016年10月(46歳)、シュナイダーがスタンチェワの論文データに疑念があることをエディンバラ大学に問い合わせた。この問い合わせにエディンバラ大学が対応し、調査を迅速に進めた。

2017年6月(47歳)、エディンバラ大学はスタンチェワを解雇し、論文撤回を学術誌に要請し、スタンチェワ事件を封印してしまった。

一方、スタンチェワは、大学の声明で対し、「これらの論文は、実験室で一生懸命研究した代表的な研究成果です。画像データをねつ造・改ざしていません。それに、論文内容は、他の研究所の研究者に再現されていました」と身の潔白を訴えた。

2017年10月13日(47歳)、シュナイダーはスタンチェワの調査報告書についてエディンバラ大学に対して情報公開請求を行なった。論文撤回の決定について、またスタンチェワの指導教授・メンターであるリチャード・ミーハン(Richard Meehan)も調査対象だったかも尋ねた。

2017年11月16日(47歳)、エディンバラ大学は、プライバシーと秘密情報という理由で、情報公開請求を拒否した。以下の文書をクリックすると、PDFファイル(2.58 MB、5ページ)が別窓で開く。

2018年3月(48歳)、シュナイダーは、何億円もの公金が使われた研究不正の調査結果を国民は知る権利がある、隠蔽は許されないと主張し、さまざまな手法で情報公開を試みた。何回か拒絶されたが、結局、スコットランド情報コミッショナー(Scottish Information Commissioner)から、いくつかの情報を入手することに成功した。

2018年6月18日(48歳)、スコットランド情報コミッショナーの命令に従い、エディンバラ大学はスタンチェワの撤回論文リストをシュナイダーに送付してきた。

撤回すべき論文は2000-2005年(30-35歳)の次の5報だった。「2000年のGenes Development:」、「2001年のEMBO Journal」、「2003年のMol Cell」、「2004年のMol Cell」、「2005年のMol Cell」。

【ねつ造・改ざんの具体例】

エディンバラ大学がシュナイダーに送付した撤回論文リストにある2つの論文を以下に見ていこう。

★「2005年のMol Cell.」論文

「2005年のMol Cell」論文の書誌情報を以下に示す。エディンバラ大学・調査委員会は論文を撤回するよう指示したが、2019年9月29日現在、撤回されていない。

この論文の第一著者はオックスフォード大学の著名な遺伝学者であるロブ・クローゼ教授(Rob Klose – Wikipedia)である。クローゼの教授就任は2017年(39歳)なので、論文出版時は、次に述べるエディンバラ大学のバード研究室で博士号を取得したばかりだった。

論文の最後著者はノーベル賞・候補者のエイドリアン・バード教授(Adrian Bird – Wikipedia、写真出典も)である。2011年にノーベル賞受賞者の登竜門でもある「ガードナー国際賞」を受賞している。「サー」の称号も持っている。

エディンバラ大学関係の著名な2人の研究者が共著者だったから、エディンバラ大学は撤回論文リストを公表したくなかったのだろうと、シュナイダーは推測している。

どの部分がどのように不正だったのか、シュナイダーはパブピアで指摘された図で示している。白楽はそれを借用した。

★「2001年のEMBO Journal」

エディンバラ大学がシュナイダーに送付した撤回論文リストの1論文・「2001年のEMBO Journal」を以下に見ていこう。エディンバラ大学・調査委員会は論文を撤回するよう指示したが、2019年9月29日現在、撤回されていない。

どの部分がどのように不正だったのか、シュナイダーはパブピアで指摘された図で示している。白楽はそれを借用した。

重複している画像を隣に並べるとは、手口が大胆というか、稚拙というか、なかなか、あからさまです。

★「2002年のDev Biol.」論文

エディンバラ大学が撤回論文リストに入れていない論文でもネカトデータがある。

「2002年のDev Biol.」論文を以下に見ていこう。エディンバラ大学・調査委員会は論文撤回を指示していないので、モチロン、2019年9月29日現在、撤回されていない。

どの部分がどのように不正だったのか、シュナイダーはパブピアで指摘された図で示している。白楽はそれを借用した。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2019年9月29日現在、パブメド(PubMed)で、イリーナ・スタンチェワ(Irina Stancheva)の論文を「Irina Stancheva [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2016年の15年間の22論文と2019年の撤回告知1報がヒットした。

「Stancheva I[Author]」で検索すると、1976~2017年の42年間の44論文と2019年の撤回告知1報がヒットした。指導教授・メンターであるリチャード・ミーハン(Richard Meehan)との共著論文は8報あった。

2019年9月29日現在、「Stancheva I[Author] AND Retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、「2004年のMol Cell.」1論文が2019年3月に撤回されていた。

★撤回論文データベース

2019年9月29日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文データベースでイリーナ・スタンチェワ(Stancheva, Irina)を検索すると、4論文がヒットし、3論文が撤回されていた。Retraction Watch Databaseの上右「Nature of Notice」の右にチェックを入れ、「Retraction」にすると、撤回論文(数)が表示される。

★パブピア(PubPeer)

2019年9月29日現在、「パブピア(PubPeer)」はイリーナ・スタンチェワ(Irina Stancheva)の9論文にコメントしている:PubPeer – Search publications and join the conversation. 

「Stancheva」で検索すると12論文にコメントがある:PubPeer – Search publications and join the conversation.

●7.【白楽の感想】

《1》ズサン 

イリーナ・スタンチェワ(Irina Stancheva、写真出典)のネカト論文は、エディンバラ大学は2000-2005年(30-35歳)の5報だとした。一方、パブピアが1997-2011年(27-41歳)の15年間の12報を問題視している。

画像ねつ造の具体例を見ると、電気泳動バンドの重複使用や加工である。しかし、同じ図を隣に並べている画像もあり、ねつ造の手口が大胆というか、稚拙というか、あからさまだ。

こんなあからさまでも、査読者はネカトと見抜けず、多くの読者も異常に思わず、10-20年も経ってから異常だと指摘された。

それにしても、スタンチェワは27歳の時に出版した論文にデータねつ造が指摘されているので、同じ27歳の時に取得した博士論文も怪しいだろう。

ただ、ネカト調査は20年在職していた英国のエディンバラ大学が行なった。スイスのスイス連邦工科大学チューリッヒ校・細胞生物学研究所(Institute of Cell Biology, ETH Zurich)で研究博士号(PhD)を取得しているが、スイス連邦工科大学チューリッヒ校は調査しないだろう。

エディンバラ大学で研究室を主催してからも、スタンチェワには単著や2人著者の論文がある。細胞生物学の論文では単著や2人著者は珍しい。単著や2人著者はネカトが発覚しにくい。

エディンバラ大学・調査委員会は2000-2005年(30-35歳)の5報をネカトとしたが、パブピアは1997-2011年(27-41歳)の12報を問題視している。本記事で示したように、シュナイダーもエディンバラ大学の調査報告書に疑義を示している。スタンチェワのネカト論文はエディンバラ大学・調査委員会 が5報としたが、もっとあるだろう。

その場合、エディンバラ大学・調査委員はヒヨったか(つまりネカト)、またはズサンだったのどちらかだろう。このいい加減さは、どう処罰すべきなのだろうか? 調査委員のズサン・ネカトを問題視できるシステムがない。

《2》ネカト予防法 

スタンチェワ事件を振り返って、ネカトを防ぐには、どうあるべきだったか?

1つ目は、各国で研究公正意識を高めることである。スタンチェワはロシア国籍を持っているので、ロシアで生まれ育ったのだろう。ロシアの研究公正意識は低い。その後、ブルガリアのソフィア大学(University of Sofia)に留学した。ブルガリアの研究公正意識は、白楽は調べたことがないので、よくわからない。いずれにせよ、各国は研究公正意識を高めることである。

2つ目は、発展途上国からの留学生は、研究公正意識がゆるい院生が多い。特に女性は甘やかされがちである。スタンチェワはスイスの名門中の名門・スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH Zurich)で博士号を取得したが、スイスの院生時代に、かなり厳しく躾けられるべきだった。

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日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい(富国公正)。正直者が得する社会に!
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●9.【主要情報源】

① レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ記事:Irina Stancheva – For Better Science、(保存版)
② 2018年7月23日のレイチェル・ペルス(Rachael Pells)記者の「Times Higher Education」記事:Edinburgh requests retraction of papers by sacked cell biologist | Times Higher Education (THE)
③ 2018年7月23日のスカニャ・チャルチャンドラ(Sukanya Charuchandra)記者の「Scientist」記事:University of Edinburgh Demands Retraction of Researcher’s Papers | The Scientist Magazine®
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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