ジュリア・プリジョン(Julia Pridgeon)(米)

2018年5月22日掲載。

ワンポイント:農務省の農業研究局(ARS:Agricultural Research Service)・水圏動物健康研究所(Aquatic Animal Health Research Laboratory)・研究員だった。2016年(41歳?)、「2013年のVaccine」論文がデータねつ造・改ざんで撤回された。通報者は共著者で上司のフィリップ・クレシウス(Phillip H. Klesius)と思われる。損害額の総額(推定)は4億4200万円。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

ジュリア・プリジョン(Julia Wei Pridgeon、写真出典)は、米国・農務省の農業研究局(ARS:Agricultural Research Service)・水圏動物健康研究所(Aquatic Animal Health Research Laboratory)・研究員で、専門は動物治療学(魚類ワクチンの開発)だった。水圏動物健康研究所は所員が16人ほどの小さな研究所である。

2016年(41歳?)、「2013年のVaccine」論文がデータねつ造・改ざんで撤回された。通報者は共著者で上司のフィリップ・クレシウス(Phillip H. Klesius)と思われる。

プリジョンは辞職した(解雇?)。

農務省・農業研究局のネカト事件は、同じ生命科学系のネカト事件なのに、健康福祉省・研究公正局の事件と大きく異なり、調査結果を公表しない。新聞、テレビなどの大衆メディアが事件を報道しない。

米国・農務省の農業研究局(ARS:Agricultural Research Service)・水圏動物健康研究所(Aquatic Animal Health Research Laboratory)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国(?)
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:オーバーン大学
  • 男女:女性
  • 生年月日:不明。仮に1975年1月1日生まれとする。2002年にオーバーン大学で研究博士号(PhD)を取得した。この時を27歳とした
  • 現在の年齢:49 歳?
  • 分野:動物治療学
  • 最初の不正論文発表:2013年(38歳?)
  • 発覚年:2016年(41歳?)
  • 発覚時地位:農業研究局・水圏動物健康研究所・研究員
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は上司のフィリップ・クレシウス(Phillip H. Klesius)と思われる。所属の研究所に公益通報
  • ステップ2(メディア): 「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①水圏動物健康研究所・調査委員会。②学術誌・編集部。
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 所属機関の事件への透明性:発表なし(✖)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:1報撤回
  • 時期:研究キャリアの中期から
  • 損害額:総額(推定)は4億4200万円。内訳 → ①研究者になるまで5千万円。②研究者の給与・研究費など年間2000万円が15年間=3億円。③院生の損害が1人1000万円だが、院生はいないので損害額はゼロ円。④外部研究費の額は不明で、額は②に含めた。⑤調査経費(研究所と学術誌出版局)が5千万円。⑥裁判経費なし。⑦論文出版・撤回作業が1報につき100万円、撤回論文の共著者の損害が1報につき100万円。1報撤回=200万円。⑧研究者の時間の無駄と意欲削減が4千万円
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)。
  • 処分:辞職(解雇?)

●2.【経歴と経過】

  • 生年月日:不明。仮に1975年1月1日生まれとする。2002年にオーバーン大学で研究博士号(PhD)を取得した。この時を27歳とした
  • 1997年?(22歳?): xx大学で学士号取得
  • 2002年(27歳?):米国のオーバーン大学(Auburn University)で研究博士号(PhD)を取得:昆虫学。ジャンジアン・ルー(Zhanjiang (John) Liu)教授。
  • 2002年(27歳?):米国のオーバーン大学(Auburn University)・ポスドク
  • 2007年(32歳?):農務省の農業研究局(ARS:Agricultural Research Service)・医農獣医昆虫学センター(ARS Center for Medical, Agricultural and Veterinary Entomology)から論文出版。このセンターの研究員?
  • 2007年(32歳?):米国のエモリー大学医科大学院(Emory University School of Medicine)から論文出版。この大学の研究員を兼任?
  • 2010年(35歳?):農務省の農業研究局(ARS:Agricultural Research Service)・水圏動物健康研究所(Aquatic Animal Health Research Laboratory)から論文出版。この研究所の研究員?
  • 2013年(38歳?):後に撤回する「2013年のVaccine」論文を出版
  • 2016年(41歳?):不正研究が発覚する
  • 2016年(41歳?):農業研究局・水圏動物健康研究所を辞職(解雇?)

●5.【不正発覚の経緯と内容】

不正発覚の経緯は不明である。

ジュリア・プリジョン(Julia Pridgeon)Photo by Neil Sanscrainte. https://www.ars.usda.gov/oc/images/photos/mar09/d1381-1/

2013年(38歳?)、ジュリア・プリジョン(Julia Pridgeon)は、農業研究局(ARS:Agricultural Research Service)・水圏動物健康研究所(Aquatic Animal Health Research Laboratory)の研究員(?)として、「2013年のVaccine」論文を出版した。

2016年8月31日(41歳?)、学術誌「Vaccine」編集部は、編集長の判断で、「2013年のVaccine」論文を撤回すると発表した。水圏動物健康研究所の調査の結果、表4のデータがねつ造・改ざんだったと伝えられたのが撤回理由である。但し、プリジョンは撤回に同意していなかった。
→ RETRACTED: Development of live attenuated Streptococcus agalactiae as potential vaccines by selecting for resistance to sparfloxacin – ScienceDirect

表4の一部を論文から探り、以下に示す。

測定値の数字である。これは、第三者には、どこがねつ造・改ざんされたのかわからない。

論文の著者は2人しかない。つまり、ねつ造・改ざんを見つけた告発したのは、もう1人の著者で上司のフィリップ・クレシウス(Phillip H. Klesius、写真出典)だろう。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

2018年5月21日現在、パブメド(PubMed)で、ジュリア・プリジョン(Julia Pridgeon)の論文を「Julia Pridgeon [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2003~2016年の14年間の62論文がヒットした。

「Pridgeon JW[Author]」で検索すると、2003~2016年の14年間の70論文がヒットした。本記事で問題にしている研究者の論文ではない論文が多いと思われる

2018年5月21日現在、「Pridgeon JW[Author] AND retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、本記事で挙げた「2013年のVaccine」論文、1論文が2016年8月に撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2018年5月21日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ジュリア・プリジョン(Julia Pridgeon)の論文のコメントはない:PubPeer – Search publications and join the conversation.

●7.【白楽の感想】

《1》詳細は不明

この事件の詳細は不明です。

ジュリア・プリジョン(Julia Pridgeon)がどうしてネカトをする状況になったのか読み取れない。

で、ネカト防止策は、この事件からは学べない。

ただ、測定値のねつ造・改ざんだと、撤回された「2013年のVaccine」論文だけが不正で、他の論文にネカトがないとは信じがたい。

ジュリア・プリジョンは論文を多産している。水圏動物健康研究所の調査報告書をウェブ上に公開していないから何とも言えないが、他の論文を調査していないのではないか。

《2》農務省のネカト事件

農務省・農業研究局(ARS:Agricultural Research Service)傘下の研究所の研究員がデータねつ造・改ざんをした。

農務省・研究員のデータねつ造・改ざん事件は、珍しい。白楽のブログで解説したのは初めてである。ただ、農薬・ネオニコチノイドに絡むコクハラ事件で農業研究局の研究者を記事にしたことがある。
→ 国研:「コクハラ」:農薬・ネオニコチノイド(neonicotinoid):ジョナサン・ラングレン (Jonathan Lundgren) 対 農務省・農業研究局(USDA・ARS(Agricultural Research Service))(米) | 研究倫理(ネカト)

プリジョン事件は農務省でのネカト事件の典型例かどうかわからないが、同じ生命科学系のネカト事件なのに健康福祉省・研究公正局の処理とは以下の点で大きく異なる。

  1. 農務省は事件の調査に関する情報をウェブに掲載しない。
  2. 新聞、テレビなどの大衆メディアが事件を報道しない。

米国人がこのブログを読んでいるとは思わないが、ネカト事件は詳細を公開した方が米国のためにも良いと思うよ。ネカト対策を立てるには、実態の分析が第一歩だからだ。

いや待てよ。米国人がこのブログにコメントしたことがあったな。
→ 気象学:ネッド・ニコロフ(Ned Nikolov)(米) | 研究倫理(ネカト)

このブログを読む人が世界中にいるのだろうか? 

イヤイヤ、コメントしてきたのは本人だった。自分のことが記事になっていたのでコメントしてきたのだろう。

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●8.【主要情報源】

① 2016年8月26日のダルミート・チャウラ(Dalmeet Singh Chawla)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:USDA finds “evidence of manipulation” in vaccine study – Retraction Watch

ジュリア・プリジョン(Julia Pridgeon)https://www.ars.usda.gov/ARSUserFiles/np104/Wingbeats2010(2).pdf

★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●コメント

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