「間違い」:ギルソン・カン(Gilson Khang)(韓国)

2016年7月20日掲載。

ワンポイント:撤回論文数は22報で撤回論文世界ランキング第16位だが、事件内容はほとんど不明であり、大学からの処罰なし。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.研究内容
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
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●1.【概略】

ギルソン・カンギルソン・カン(Gilson Khang、写真出典)は、韓国の全北大学(ちゅんぶく だいがく)(전북대학교、Chonbuk National University、地図)・教授で、専門は生物工学である。医師ではない。

2016年7月25日現在、カンの22論文が撤回され、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文世界キングの第16位である(研究者の事件ランキング)。The Retraction Watch Leaderboard – Retraction Watch at Retraction Watch

22報の撤回の理由は何なのか? ねつ造・改ざんなのか? 盗用なのか? 別の理由か?

この事件の英語解説が全くない。不思議だ。

なお、全北大学(ちゅんぶく だいがく)(전북대학교、Chonbuk National University)は、国立大学で、「Times Higher Education」の大学ランキング(2015-2016年)で韓国第14位である(World University Rankings 2016 | Times Higher Education)。

4088524韓国の全北大学(ちゅんぶく だいがく)(전북대학교、Chonbuk National University)。写真出典

  • 国:韓国
  • 成長国:韓国
  • 研究博士号(PhD)取得:米国・アイオワ大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:1960年生まれ。仮に1月1日生まれとする。
  • 現在の年齢:64 歳
  • 分野:生物工学
  • 最初の不正論文発表:2008年(48歳)?
  • 発覚年:2014年(54歳)?
  • 発覚時地位:全北大学・教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はギルソン・カン本人またはギルソン・カン研究室の室員と思われる。カンが論文の撤回を学術誌編集局に申し出ている
  • ステップ2(メディア):なし
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌編集局
  • 不正:自己盗用、引用忘れ
  • 不正論文数:撤回論文数は22報
  • 時期:研究キャリアの初期か中期
  • 結末:調査していないのだから、処分なし

●2.【経歴と経過】

出典:①http://www.termis.org/voting_bios/2015//Gilson%20Khang.pdf、②http://www2.convention.co.jp/11jsrm/japanese/pdf/program/08_kyoiku.pdf

  • 生年月日:1960年生まれ。仮に1月1日生まれとする。
  • 1981年(21歳):韓国の仁荷大学(いな だいがく)(Inha University)・学士号。高分子化学技術専攻
  • 1985年(25歳):韓国の仁荷大学(いな だいがく)(Inha University)・修士号。高分子化学技術専攻
  • 1987年2月 ~ 1998年7月(27 ~38歳):韓国化学研究所(Korea Research Institute of Chemical Technology (KRICT))・研究員
  • park1991 ~ 1995年(31 ~35歳):米国のアイオワ大学(University of Iowa)・院生。研究博士号(PhD)取得。Joon B. Park教授(写真出典)研究室
  • 1998年(38歳):韓国の全北大学・助教授
  • 2004年(44歳):韓国の全北大学・準教授
  • 2009年(49歳):韓国の全北大学・正教授

●5.【不正発覚の経緯と内容】

ギルソン・カン22016年7月19日現在、撤回論文数は22報で、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文世界キングの第16位である(研究者の事件ランキング)。The Retraction Watch Leaderboard – Retraction Watch at Retraction Watch

この事件の英語解説がない。となると、状況の把握が難しい。

「撤回監視(Retraction Watch)」サイトから情報を探ろう。

しかし、「撤回監視(Retraction Watch)」サイトにリンクが3つあるが、内2つはリンク切れだった。

リンクが生きている1つをみると、以下の「2013年のJournal of Pharmaceutical Investigation」論文が2014年10月に撤回されていた。理由は、自己盗用で、撤回依頼は第一著者である。(http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs40005-013-0090-3

  • Preparation/characterization of solid dispersions and enhancement of dissolution rate on celecoxib as BCS II class
    Jung Hwan Lee, Young Lae Kim, So Jin Lee, Jaewon Yang, Jin Young Park, Eun Young Kim, Dongwon Lee, Gilson Khang, Journal of Pharmaceutical Investigation (2013)

なお、Journal of Pharmaceutical Investigation誌はドイツのシュプリンガー社(Springer)が出版しているが、韓国薬学会(Korean Society of Pharmaceutical Sciences and Technology)の学会誌である。パブメドの分析対象の学術誌にリストになっていない。

この事件の英語解説がないし、「撤回監視(Retraction Watch)」サイトの情報も不備だとなると、自力で探索することになる。

見つけた資料によると、以下の3論文が撤回されていた。

  • Topical Drug Delivery System to the Nail
    [Tissue Eng. Reg. Medicine, 5(4-6), 706-722, 2008]
    Sik Il Ahn, Jong Hak Park, Jun Hee Lee, Yun Tae Kim, Dae Sung Kim, Won Kim, Hyung-Shik Shin, John M. Rhee and Gilson Khang
  • Biopharmaceutical Correlation of Insoluble Drugs using Lipid-base Formulations
    [Tissue Eng. Reg. Medicine, 5(4-6), 750-757, 2008]
    Jun Hee Lee, Jae Soo Jeong, Sang Wook Park, Dae Sung Kim, Won Kim, Sik Il Ahn, Jong Hak Park, Yun Tae Kim, Hyung-Shik Shin, John M. Rhee and Gilson Khang
  • Recent Advances of the Improvement of Bioavailability for Poorly Water Soluble Drugs by Solid Dispersions
    [Tissue Eng. Regen. Medicine, 6(1-3), 43-51, 2009]
    Jun Hee Lee, Jeong Ku, Young Hyun Lee, Jong Hak Park, Dae Sung Kim, Won Kim, Sik Il Ahn, Yun Tae Kim, Dongwon Lee, Il-Sou Yoo, John M. Rhee, Han-Koo Lee and Gilson Khang

これら3論文は、重要な総説を1つ引用し忘れたという理由で、論文を撤回した。

なお、Tissue Eng. Reg. Medicine誌は、2004年創刊時にカンが編集長になり、2004年1月~2008年12月に編集長、その後、2012年現在まで編集委員をしていた学術誌で、パブメドの分析対象の学術誌になっていない。

22報の撤回論文の4つだけが特定できたが、他は不明である。GilsonKhang

●6.【論文数と撤回論文】

2016年7月19日現在、パブメド(PubMed)で、ギルソン・カン(Gilson Khang)の論文を「Gilson Khang [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2010~2016年の17年間の124論文がヒットした。

2016年7月19日現在、パブメドでは1論文も撤回されていない。訂正論文は1報だけあった。

Journal of Pharmaceutical Investigation誌やTissue Eng. Reg. Medicine誌は、パブメドの分析対象の学術誌ではない。それで、パブメドでは1論文も撤回されていなかったのだ。撤回した他の18論文もパブメドの分析対象ではない学術誌の論文と思われる。

●7.【白楽の感想】

《1》事件内容がほとんど見えない

2016年7月19日現在、カンの撤回論文数は22報で、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文世界キングの第16位である(研究者の事件ランキング)。The Retraction Watch Leaderboard – Retraction Watch at Retraction Watch

しかし、22撤回論文の内の4論文しか特定できていない。1論文は自己盗用、3論文は引用し忘れである。18撤回論文はどの論文なのか、撤回理由は何なのか、不明のままである。

特定できた4論文の学術誌は、パブメドの分析対象ではない。そういうマイナーな学術誌に“いい加減”な論文を多数出版し、内、22論文を撤回したと思われる。

ただ、カンの論文が研究ネカトだという報道はない。もっとも、この事件の英語報道が全くない。不思議だ。韓国語の記事は調べていない。

ギルソン・カン本人が論文撤回を学術誌編集局に申し出ているので、4論文の問題点はギルソン・カン本人またはギルソン・カン研究室の室員が見つけたと思われる。

しかし、22報も撤回論文があるのは、単なるミスを通り越している。所属大学が調査すべきだろう。

●8.【主要情報源】

ない。

★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。강길선_교수_2

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