2018年1月4日掲載。
ワンポイント:テネシー大学のコミュニケーション & インフォメーション大学(Communication and Information at the University of Tennessee, Knoxville)の教授で、2015年9月(62歳)、「州政府リーダーシップ財団」に調査報告書を送付し、115,000ドル(約1150万円)の報酬を受け取った。この調査報告書が盗用だったが、盗用部分を訂正した訂正版を送付し、報酬を返還しなかった。裁判になり、結審していない。大学から処分されていない。盗用文書は盗用部分を直せばおとがめなし? そんなバナナ。損害額の総額(推定)は3650万円。
【追記】
・2019年5月2日記事:University of Tennessee prof Stuart Brotman settles plagiarism lawsuit
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
スチュアート・ブロットマン(Stuart N. Brotman、写真出典http://jem.cci.utk.edu/users/stuart-brotman)は、米国のテネシー大学のコミュニケーション & インフォメーション大学(Communication and Information at the University of Tennessee, Knoxville)・教授で、専門はジャーナリズム学だった。
但し、学者というより、米国政府の政策者、コンサルタント、弁護士、作家、編集者、非営利団体役員など多彩な活動家である。数冊の書籍、300報以上の文書を出版している。「The Telecommunications Deregulation Sourcebook」など数冊の編集委員を務めている。.
2015年9月(62歳)、スチュアート・ブロットマン教授は、「州政府リーダーシップ財団」に依頼された調査報告書を作成し、115,000ドル(約1150万円)の報酬を受け取った。
2015年10月(62歳)、この調査報告書に多数の盗用がみつかった。
この調査報告書は、研究論文や著書ではない。出版公表する予定だったかもしれないが、盗用を指摘された時点では公表されていなかった。ブロットマン教授は、調査報告書の訂正版を提出し、報酬を返さなかった。
「州政府リーダーシップ財団」は盗用した調査報告書では使えないと、改訂版を使用しなかった。そして、裁判で、ブロットマン教授に報酬を返還するよう要求した。
2018年1月3日(65歳)現在、裁判の決着はついていない。テネシー大学はブロットマン教授の盗用を調査していないし、処分もしていない。
さて、文書や研究論文ではネカトは厳罰を受けるのに、調査報告書は盗用が発覚しても、訂正すればペナルティなしでよいのか?
日本では、政治家の海外視察報告書に盗用が見つかっても、訂正しておとがめなし。・・・なんかヘンだ。盗んだ商品を返して済むなら警察いらない。
テネシー大学(University of Tennessee, Knoxville)。写真出典http://wkrn.com/2016/03/01/new-filing-shows-ut-internal-investigation-found-athletes-committed-sex-assaults-remained-on-campus/
テネシー大学のコミュニケーション & インフォメーション大学(Communication and Information at the University of Tennessee, Knoxville)の2016年度・修士院生たち。写真出典http://www.cci.utk.edu/phdprogram
- 国:米国
- 成長国:米国
- 法務博士(Juris Doctor)取得:カリフォルニア大学バークレー校
- 研究博士号(PhD)取得:なし
- 男女:男性
- 生年月日:1952年12月5日
- 現在の年齢:72 歳
- 分野:ジャーナリズム学
- 最初の不正論文発表:2015年(62歳)
- 発覚年:2015年(62歳)
- 発覚時地位:テネシー大学のコミュニケーション & インフォメーション大学・教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は、「Phoenix Center for Advanced Legal and Economic Public Policy Studies」の研究者であるジョージ・フォード博士(George Ford)で、ブロットマン教授と共に「州政府リーダーシップ財団(State Government Leadership Foundation)」に雇われた。盗用を「州政府リーダーシップ財団」に公益通報した
- ステップ2(メディア): 「USA TODAY」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①州政府リーダーシップ財団。②裁判所
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 不正:盗用
- 不正文書数:1報。学術論文ではなく調査報告書
- 盗用ページ率:不明
- 盗用文字率:不明
- 時期:研究キャリアの後期
- 損害額:総額(推定)は3650万円。内訳 → ①。②。③。④115,000ドル(約1150万円)の報酬。⑤調査経費(州政府リーダーシップ財団)が500万円。⑥裁判経費が2千万円。⑦。⑧
- 結末:辞職なし。裁判中
●2.【経歴と経過】
経歴は部分記載。出典:①Stuart Neil Brotman (born December 5, 1952), American law educator, management consultant, communications executive | Prabook 。②Stuart N. Brotman | School of Journalism & Electronic Media
- 1952年12月5日:米国・ニュージャージー州に生まれる
- 1974年(21歳):ノースウェスタン大学(Northwestern University)で学士号取得:ジャーナリズム学(Communication Studies and Mass Media)
- 1975年(22歳):ウィスコンシン大学マディソン校(University of Wisconsin-Madison)で修士号取得:コミュニケーション学(Communications)
- 1978年(25歳):カリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley)で法務博士(Juris Doctor)を取得
- 1978—1981年(25—28歳):米国商務省電気通信情報局(National Telecommunications and Information Administration)・調査官、その後、審議官
- 1981—1984年(28—31歳):コミュニケーションズ・ストラテジーズ社(Communications Strategies Inc.)・社長
- 1984年(31歳):スチュアート・ブロットマン・コミュニケーション社(Stuart N. Brotman Communications)・社長
- xxxx年(xx歳):ブルッキングス研究所(Brookings Institution)の上級フェロー
- 2004—2005年(51—52歳):ミュージアム・テレビ&ラジオ社(Museum television & Radio)・社長
- xxxx年(xx歳):テネシー大学(University of Tennessee)・教授。2016年1月(63歳)に就任したのかもしれない
- 2015年10月(62歳):「州政府リーダーシップ財団(State Government Leadership Foundation)」への報告書に盗用が発覚
●3.【動画】
【動画1】
講演の動画:「Conference Welcome & Broadband Plan Overview, Pt. 1」(英語)2分20秒頃登場。
DpiKingsが2010/11/15 に公開
●5.【不正発覚の経緯と内容】
2015年?、伝統的なケーブル会社とブロードバンド企業は、米国政府・連邦通信委員会(FCC: Federal Communications Commission)との戦いを始めた。
ワシントンDCに拠点を置く右翼擁護団体の「州政府リーダーシップ財団(State Government Leadership Foundation)」は、「連邦通信委員会が現在の権限を越えて事件を調査できるようにするための政策と法律を調査し欲しい」と、、スチュアート・ブロットマン(Stuart N. Brotman)とジョージ・フォード博士(George Ford)を雇い入れた。
2人とも、コミュニ―ケーション分野とその法律と公共政策に詳しい専門家だった。
スチュアート・ブロットマン(Stuart N. Brotman)は本記事の主役で、テネシー大学(University of Tennessee)で「メディア管理と法学」教授である。
ジョージ・フォード博士(George Ford)は、「Phoenix Center for Advanced Legal and Economic Public Policy Studies」の研究者で、本事件では端役である。
2015年9月、スチュアート・ブロットマン教授は、「州政府リーダーシップ財団」に報告書を送付し、報告書の報酬である115,000ドル(約1150万円)を受け取った。
2015年10月、報告書提出の1か月後、ジョージ・フォード博士がブロットマンの報告書を読み、多数の盗用個所を見つけて「州政府リーダーシップ財団」に報告した。
「ブロットマンは、フォード博士の同僚のローレンス・スピワク(Lawrence Spiwak)の文章を、出典の記載なく逐語盗用していました。また、政府間A1関連の米国政府諮問委員会「研究A-121」、および米国司法省の要約を盗用していました」と「州政府リーダーシップ財団」の弁護士であるリンダ・D・ハリス(Linda D. Harris)が述べている。
但し、盗用分析表は公表されていない。白楽は、盗用ページ率と盗用文字率を把握できていない。
盗用の指摘を受け、「州政府リーダーシップ財団」は、ブロットマン教授に支払ったお金の返却を求めた。
一方、ブロットマン教授は、盗用の指摘を受け、一度提出した報告書を文献記載基準に合うよう脚注と引用先を加え、さらにいくつかの追加研究を無料で行なった。盗用部分を修正した報告書を再提出し、盗用の痕跡はわずかだと述べた。
ブロットマン教授は、後に、「「州政府リーダーシップ財団」は改訂された報告を受け取った時、ブロットマン教授に何も不平を述べなかった」と主張している。
さらに、ブロットマン教授は「本当は、「州政府リーダーシップ財団」は、報告書の結論が気に入らないのだが、盗用を言い訳に、お金の払い戻しを望んでいるのだ」と指摘している。
ところが、「州政府リーダーシップ財団」は、2015年11月までに、訴訟を起こすとブロットマン教授を脅した。
それで、ブロットマン教授はローレンス・レイボウィッツ弁護士(Lawrence Leibowitz)を弁護士に雇い、ブロットマン教授の方から訴訟を起こすという、先制攻撃を行なった。
つまり、両者の言い争いが裁判所に持ち込まれ、ノックスビル連邦地方裁判所が審理することになった。
「州政府リーダーシップ財団」のハリス弁護士は、盗用を主張し、ブロットマン教授に支払った謝礼の払い戻しを要求するという反訴書を裁判所に提出した。
ブロットマン教授はテネシー大学でジャーナリズムの学生を指導している教授だが、新聞記者がテネシー大学の広報担当者にこの件でのコメントを依頼した。しかし、テネシー大学の広報担当者は「ノー、コメント」だった。
2016年9月のテネシー大学のコミュニケーション & インフォメーション大学(Communication and Information at the University of Tennessee, Knoxville)・教授陣。上段中央がブロットマン教授。https://www.cci.utk.edu/faculty-news-andsager-brotman-rtaylor-white-prentiss
2016年4月、「州政府リーダーシップ財団」はブロットマン教授の報告書ではなくフォードの報告書を採用し公表した。
2016年8月、 「州政府リーダーシップ財団」は、ブロットマン教授に支払ったお金の返却を求めた。
裁判での議論は、ブロットマン教授が実際に盗用したのか、それとも財団との契約に違反したのか(盗用した報告書だったので)というよりも、どんな法律が適用できるかが中心になっている。
ブロットマン教授は、たとえ彼が盗用したとしても、著作権侵害の訴訟を起こすことができるのは被盗用者だけだと主張した。
「州政府リーダーシップ財団はブロットマン教授が著作権を侵害したことを訴えていない」とハリス弁護士は反論する。
「ブロットマン教授は盗用を犯したことで適切な報告書を作成できませんでした。それで契約に違反することになり、私どもの財団は、契約に従った報告書を用意することができませんでした。そればかりか、ブロットマン教授は「州政府リーダーシップ財団」に損害を及ぼす可能性のある盗用を犯したのです」。
2018年1月3日(65歳)現在、裁判中である。決着はついていない。次回の審理は2018年5月22日の非陪審審理(Bench Trial)とある。
●6.【論文数と撤回論文】
学術論文のネカトではないので、省略。
ブロットマン教授はこの分野で重要な本を書いている。『Communications Law and Practice (Communications Law Series)』
Loose Leaf ¥ 333,263 より
発売日: 1995/08 https://www.amazon.co.jp/Communications-Law-Practice-Commercial/dp/9995256185
しかし、33万円強とはいい値段ですね。
●7.【白楽の感想】
《1》盗用の修正
研究論文で盗用すると、米国の研究者は解雇されるなど、厳罰が下される。日本では解雇されないが、何らかの懲戒的な処分をされることが多い。
では、今回のブロットマン事件のように調査報告書に盗用があっても、訂正すればペナルティなしでよいのか?
盗用は知的財産を侵害するという違反行為だから、研究論文であろうと調査報告書であろうと同じ違反行為である。だから、訂正版を提出したからよいというブロットマン教授の主張はおかしい。
ブロットマン教授の考え方で学生を教育してはならない。コミュニケーション & インフォメーション大学は調査し、ブロットマン教授を解雇すべきだ。
一方、少し次元は異なるが、日本の政治家で、海外視察の報告書に盗用が見つかった例は多い。その場合、日本社会は修正しておとがめなしという対応をしている。これはかなりマズイ。
福岡市議会の民主党会派「民主・市民クラブ」の議員4人が欧州を行政視察した際の報告書に、書籍やインターネット上の百科事典「ウィキペディア」からの盗用があったことが[2012年5月]12日、分かった。執筆を担当した田中慎介議員は「注釈に参考文献を記すことを失念していた。結果的に盗用ととられても仕方ない」として、近く報告書を修正する考えを示した。(欧州視察報告書に書籍やネット上の「ウィキペディア」から盗用 民主・市民クラブ – ななみん)
盗んだ商品を返して済むなら警察いらない。
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●8.【主要情報源】
① ウィキペディア英語版:Stuart N. Brotman – Wikipedia
② 2017年6月2日。ジェイミー・サッターフィールド記者(Jamie Satterfield)の「USA TODAY」記事:Right-leaning advocacy group wants its $115K back from UT journalism professor、(保存版)
③ 裁判記録:Brotman v. State Government Leadership Foundation (3:16-cv-00712), Tennessee Eastern District Court
④ ブルッキングス研究所(Brookings Institution)でのスチュアート・ブロットマン(Stuart N. Brotman)の記事集:Stuart N. Brotman
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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