サム・ユン(Sam Yoon)、チャンファン・ユン(Changhwan Yoon)、サンドラ・リョム(Sandra Ryeom)(米)

2025年2月20日掲載 

ワンポイント:英国のネカトハンターであるショルト・デイヴィッド(Sholto David)が摘発したコロンビア大学・腫瘍外科のサム・ユンと部下のチャンファン・ユン、共同研究者のサンドラ・リョムの事件。サム・ユンを主役に書く。サム・ユンは優秀な臨床医だが、2008~2023年(39~54歳)の16年間の16論文が2024年に撤回された。撤回論文は、スローン・ケタリング記念がんセンター・監督医師時代に出版した論文が多い。国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)。この事件は、2024年ネカト世界ランキングの「より良い科学のために」の「第3位」である。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
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●1.【概略】

サム・ユン(Sam Yoon、Sam S Yoon、S. Sunghyun Yoon、ORCID iD:?、写真3人の左:出典)は、アジア系米国人(推定)で、米国のコロンビア大学アービング・メディカルセンター(Columbia University Irving Medical Center)・腫瘍外科部長(Chief, Division of Surgical Oncology)で、医師である。専門は腫瘍外科である。

サム・ユンは、コロンビア大学に着任する前の2012~2021年(43~52歳)、スローン・ケタリング記念がんセンター(Memorial Sloan-Kettering Cancer Center)の監督医師(Attending Surgeon)だった。ネカト論文はその時に出版した論文に多い。

チャンファン・ユン(Changhwan Yoon、윤창환、https://orcid.org/0000-0002-8420-9818、写真3人の中央)は、韓国で研究博士号(PhD)を取得後、2012年、米国のスローン・ケタリング記念がんセンターのサム・ユン研究室のポスドクに着任した。

サム・ユンとチャンファン・ユンの 2人の姓は同じだが、親戚かどうか不明である(多分、親戚ではない)。姓が同じなので本記事ではフルネームで書く。

2013~2023年にサム・ユンと共著で出版したチャンファン・ユンの14論文が撤回された。

チャンファン・ユンが来る前のサム・ユンの撤回論文は2報だったから、チャンファン・ユンが来てからの撤回論文数が14報というのは、急増と言えるだろう。

サンドラ・リョム(Sandra Ryeom、写真3人の右)は、アジア系米国人と思われる。ペンシルベニア大学・医科大学院(University of Pennsylvania School of Medicine)・助教授を経て、2021年、コロンビア大学アービング・メディカルセンター(Columbia University Irving Medical Center)・準教授になった。

サンドラ・リョムは、ペンシルベニア大学・医科大学院時代にサム・ユンと共著で出版した2008~2021年の10論文が2024年に撤回された。10 撤回論文の7論文はチャンファン・ユンとも共著である。

白楽記事では、サム・ユンを主役に、チャンファン・ユンとサンドラ・リョムを脇役で書く。

2023年10月、英国のネカトハンターであるショルト・デイヴィッド(Sholto David)がサム・ユンらの論文のネカトをパブピアで指摘し、2023年11月、「より良い科学のために」記事にまとめて発表した。

結局、サム・ユンの2008~2023年(39~54歳)の16年間の16論文が2024年に撤回された。

2025年2月19日(56歳)現在、サム・ユンが疑惑論文を多数出版したスローン・ケタリング記念がんセンターがネカト調査中である。

調査結果は発表されていない。サム・ユンとサンドラ・リョムは処罰を受けていない。従来職に在職している。

チャンファン・ユンは辞職(解雇?)し、スローン・ケタリング記念がんセンターに在職していない。

この事件は研究公正局が取り扱う案件になるだろう。

スローン・ケタリング記念がんセンター(Memorial Sloan-Kettering Cancer Center):世界で2番目に優れたがん病院。写真出典

コロンビア大学アービング・メディカルセンター(Columbia University Irving Medical Center)。By Mightychip26; cropped by Beyond My Ken (talk) – Own work, Public Domain, Link

★サム・ユン(Sam Yoon)の立場で

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 医師免許(MD)取得:カリフォルニア大学サンディエゴ校・医科大学院
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男性
  • 生年月日:1968年10月x日。仮に1968年10月1日生まれとする
  • 現在の年齢:56歳
  • 分野:腫瘍外科
  • 不正論文発表:2008~2023年(39~54歳)の16年間
  • ネカト行為時の地位マサチューセッツ総合病院・準教授、コーネル大学・医科大学院・教授、スローン・ケタリング記念がんセンター・監督医師、コロンビア大学アービング・メディカルセンター・腫瘍外科部長
  • 発覚年:2024年(55歳)
  • 発覚時地位:コロンビア大学アービング・メディカルセンター・腫瘍外科部長
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はネカトハンターのショルト・デイヴィッド(Sholto David)で、「パブピア(PubPeer)」と「より良い科学のために」で指摘
  • ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「より良い科学のために」、「New York Times」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①スローン・ケタリング記念がんセンター・調査委員会が調査中
  • 研究所・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査中
  • 所属機関の事件への透明性:調査中(ー)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:16論文が撤回。「パブピア(PubPeer)」で32論文にコメントあり
  • 時期:研究キャリアの中期・後期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:なし。調査中だから
  • 対処問題:大学隠蔽
  • 特徴:有力臨床医の長年(16年間)のネカト
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

★サム・ユン(Sam Yoon)

主な出典:S. Sunghyun Yoon, MD | Columbia University Department of Surgery

  • 1968年10月x日:米国(?)で生まれる
  • 1986年9月~1990年6月(17~21歳):ハーバード大学(Harvard University)で学士号取得:生物学
  • 1990年9月~1994年6月(21~25歳):カリフォルニア大学サンディエゴ校・医科大学院(UC San Diego School of Medicine)で医師免許取得
  • 1994~199x年(25~xx歳):マサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital)・研修医
  • 199x~xxxx年(xx~xx歳):スローン・ケタリング記念がんセンター(Memorial Sloan-Kettering Cancer Center)・フェロー
  • 2005?~2011?年(xx~xx歳):マサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital)・準教授
  • 2008~2023年(39~54歳):この16年間の16論文が2024年に撤回された
  • 2011?~20xx年(42?~xx歳):ペンシルベニア大学・医科大学院(University of Pennsylvania School of Medicine)・教授
  • 20xx~20xx年(xx~xx歳):コーネル大学・医科大学院(Weill Cornell Medical College)・教授
  • 2012~2021年(43~52歳):スローン・ケタリング記念がんセンター(Memorial Sloan-Kettering Cancer Center)・監督医師(Attending Surgeon)
  • 2012年(43歳):チャンファン・ユン(Changhwan Yoon)が研究室に加わる
  • 2021年(52歳):コロンビア大学アービング・メディカルセンター(Columbia University Irving Medical Center)・腫瘍外科部長(Chief, Division of Surgical Oncology)
  • 2024年(55歳):研究不正が発覚
  • 2025年2月19日(56歳)現在:従来職を維持している

★チャンファン・ユン(Changhwan Yoon)

主な出典: Changhwan YoonChanghwan Yoon (0000-0002-8420-9818) – ORCID

  • 生年月日:不明。仮に1981年1月1日生まれとする。2003年に学士号を取得した時を22歳とした
  • 2003年(22歳?):韓国の東国大学(トングクだいがく、Dongguk University)で学士号取得:生物学
  • 2012年(31歳?):韓国の漢陽大学(ハニャンだいがく、Hanyang University)で研究博士号(PhD)取得:分子生化学
  • 2012年10月1日(31歳?):米国のスローン・ケタリング記念がんセンター(Memorial Sloan-Kettering Cancer Center)・ポスドク、サム・ユン(Sam Yoon)研究室
  • 2013~2023年(32~42歳?):この11年間の15論文が2024年に撤回された。15論文のうち14論文はサム・ユンと共著
  • 2021年9月1日(40歳?):コロンビア大学アービング・メディカルセンター(Columbia University Irving Medical Center)・研究員。サム・ユンの移籍に同行
  • 2024年(43歳?):研究不正が発覚
  • 2024年(43歳?):従来職を辞職(解雇?)
  • 2025年2月19日(44歳?)現在:行方不明

★サンドラ・リョム(Sandra Ryeom)

主な出典: Sandra Ryeom, PhD

  • 生年月日:不明。仮に1980年1月1日生まれとする。根拠は見た目だけ
  • xxxx年(xx歳):ウェルズリー大学(Wellesley College)で学士号取得:物理学
  • xxxx年(xx歳):コーネル大学・医科大学院(Weill Cornell Graduate School of Medical Sciences)で研究博士号(PhD)取得:細胞生物学と遺伝学
  • xxxx年(xx歳):ペンシルベニア大学・医科大学院(University of Pennsylvania School of Medicine)・助教授(?)
  • 2008~2021年(28~41歳?):この14年間の10論文が2024年に撤回された。全部、サム・ユンと共著
  • 2021年(41歳?):コロンビア大学アービング・メディカルセンター(Columbia University Irving Medical Center)・準教授
  • 2024年(44歳?):研究不正が発覚
  • 2025年2月19日(45歳?):従来職を維持

●3.【動画】

【動画1】
ニュース動画:「A Columbia Surgeon’s Study Was Pulled. He Kept Publishing Flawed Data. – The New York Times」(英語)3分31秒。
2024/03/15 に公開
https://www.nytimes.com/video/science/100000009361577/cancer-studies-flawed-data.html

●4.【日本語の解説】

★2024年2月16日:著者不記載(innovaTopia):「胃がん研究の不正確データ問題、コロンビア大学主任教授の論文撤回に端を発する科学界の信頼危機」

出典 → ココ、(保存版) 

2021年に発表された胃がん研究が、不正確なデータを含むとして数ヶ月後に出版社によって正式に撤回された。この研究は、Dr. Sam S. Yoon(コロンビア大学医療センターのがん外科部門の主任)によって行われたもので、撤回後は理由について何も言及されていない空のウェブページが残された。この研究には、異なる生物系統における別々の実験を示すとされた細胞の同一の配置や、他の治療法を説明する以前の論文で使用された腫瘍を持つマウスの写真が含まれていた疑わしいデータが存在していた。

Dr. Yoonと彼の研究チームは、2008年以降、疑わしいデータを含むと公に指摘された26の論文を発表しており、そのうちの1つはこの月に医学雑誌によって撤回された。これらの研究の多くは、Dr. Yoonがメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターに勤務していた時に行われた。現在、メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターはこれらの研究について調査を行っている。コロンビア大学医療センターは、科学的な整合性に関する懸念については検討すると述べているが、具体的な申し立てにはコメントを控えている。

続きは、原典をお読みください。

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★研究人生

サム・ユン(Sam Yoon)は、大学学部をハーバード大学で過ごし、1994年6月(25歳)、カリフォルニア大学サンディエゴ校・医科大学院(UC San Diego School of Medicine)で医師免許を取得した。

サム・ユンは、2012~2021年(43~52歳)、スローン・ケタリング記念がんセンター・監督医師(Attending Surgeon)を務めていた。

スローン・ケタリング記念がんセンター(Memorial Sloan Kettering Cancer Center – Wikipedia)は、世界でその優秀さ1~ 2を争うがん病院と言われている。

2021年(52歳)、サム・ユンは、コロンビア大学アービング・メディカルセンター(Columbia University Irving Medical Center)・腫瘍外科部長(Chief, Division of Surgical Oncology)に栄転し、現在もその職にある。

2024年(55歳)、スローン・ケタリング記念がんセンター時代に出版した多くの論文に、研究不正を指摘された。

★獲得研究費

サム・ユン(Sam Yoon、Sam S Yoon、S. Sunghyun Yoon)は、NIHから2006~2021年の31年間に13件、計4,770,081ドル(約4億7700万円)の研究費を獲得していた。 → RePORT ⟩ Sam Yoon

2011~2021年の11件は、ペンシルベニア大学・医科大学院(University of Pennsylvania School of Medicine)のエム・セレステ・サイモン教授(M. Celeste Simon)と共同代表のグラントである。

以下に3例示す。

★発覚の経緯

2023年11月10日(49歳?)、英国のネカトハンターであるショルト・デイヴィッド(Sholto David)がコロンビア大学・腫瘍外科のサム・ユンとその部下のチャンファン・ユンのネカト事件を「より良い科学のために」記事に発表したことで、事態が動き出した。 → 2023年11月10日のショルト・デイヴィッド(Sholto David)の「より良い科学のために」記事:Memorial Sloan Kettering Paper Mill – For Better Science

その直前の2023年10月、Mycosphaerella arachidisがパブピアでサム・ユン論文の画像操作を指摘している。Mycosphaerella arachidisはデイヴィッドのパブピア名である。 → Sholto David(@addictedtoigno1)/ X

★ネカトの経緯:2008年

まず、サム・ユンがハーバード大学に在籍していた時の「2008年3月のClin Cancer Res.」論文に、画像重複があった。

サンドラ・リョム(Sandra Ryeom)を含め7人の共著者の誰もが、この画像重複に気が付かないのは不思議である。チャンファン・ユン(Changhwan Yoon)はこの時点では登場していない。

2023年10月、Mycosphaerella arachidisがパブピアで指摘した:画像出典 → https://pubpeer.com/publications/FBEB2A59E5D44D28D99858DD1D0653

★ネカトの経緯:2010年

サム・ユンがペンシルベニア大学・医科大学院(University of Pennsylvania School of Medicine)に在籍していた時の「2010年2月のCancer Res」論文にも、画像重複があった。

サンドラ・リョム(Sandra Ryeom)が共著者になっている。チャンファン・ユン(Changhwan Yoon)はこの時点では登場していない。論文は2024年10月15日に撤回された。

2023年10月、Mycosphaerella arachidisがパブピアで指摘した:画像出典 → https://pubpeer.com/publications/69A5124145252FA928A5D693DB6E0C

図6D 右下の緑色枠の肺が同じ画像

補助画像2の黄色枠の細胞が同じ画像

★ネカトの経緯:チャンファン・ユン(Changhwan Yoon)

2012年、サム・ユンの研究室のポスドクにチャンファン・ユン(Changhwan Yoon、写真出典)が韓国から着任した。

チャンファン・ユンが来てから、ネカト論文の頻度が急増した。2人の姓は同じだが、親戚なのかどうか不明である(多分、親戚ではない)。

チャンファン・ユンと共著の論文が2013~2025年の13年間に42論文あり、うち、16論文が2024年に撤回された。

以下、2報の撤回論文を取り上げ、問題点を示す。この2報では、サンドラ・リョムは共著者になっていない。

★「2013年11月のMol Cancer Ther.」論文

「2013年11月のMol Cancer Ther.」論文に、画像重複があった。論文は2024年11月4日に撤回された。

2023年10月、Mycosphaerella arachidisがパブピアで指摘した:画像出典 → https://pubpeer.com/publications/696E6DF1DB84C1034BA854BEB5E31F

図4B 赤色枠の画像が同じ画像

★「2014年8月のClin Cancer Res」論文

「2014年8月のClin Cancer Res」論文に、画像重複があった。論文は2024年10月15日に撤回された。

2023年10月、Mycosphaerella arachidisがパブピアで指摘した:画像出典 → https://pubpeer.com/publications/40C438DF6B1B6BF8F7F65CA2E3D7D6

図3fと図4A 同色枠の画像が同じ画像

【ねつ造・改ざんの具体例】

画像重複である。

上記したので省略。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

データベースに直接リンクしているので、記事閲覧時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えている(ことがある)。

★パブメド(PubMed)

2025年2月19日現在、パブメド(PubMed)で、サム・ユン(Sam Yoon、Sam S Yoon、S. Sunghyun Yoon)の論文を「Sam Yoon[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2025年の24年間の236論文がヒットした。

チャンファン・ユン(Changhwan Yoon)との共著論文は、2013~2025年の13年間の42論文がヒットした。

サンドラ・リョム(Sandra Ryeom)との共著論文は、2005~2025年の21年間の38論文がヒットした。

2025年2月19日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドのサム・ユン(Sam Yoon、S. Sunghyun Yoon)の論文撤回リストを検索すると、14論文が撤回されていた。

14撤回論文のうち12論文はチャンファン・ユン(Changhwan Yoon)と共著だった。

14撤回論文のうち9論文はサンドラ・リョム(Sandra Ryeom)と共著だった。9撤回論文のうち7論文はチャンファン・ユン(Changhwan Yoon)とも共著だった。

★撤回監視データベース

2025年2月19日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでサム・ユン(Sam Yoon、Sam S Yoon、S. Sunghyun Yoon)を「Yoon, Sam S」で検索すると、 1論文が懸念表明、16論文が撤回されていた。

2008~2023年(39~54歳)に出版された16論文が2024年に撤回された。

16撤回論文のうち2013~2023年に出版された14論文はチャンファン・ユン(Changhwan Yoon)と共著だった。

16撤回論文のうち10論文はサンドラ・リョム(Sandra Ryeom)と共著だった。サンドラ・リョムの撤回論文は全部で、2008~2021年の14年間の10論文で、すべてサム・ユンと共著だった。

チャンファン・ユン(Changhwan Yoon)は、15論文が撤回されていた。

サム・ユンと共著ではない論文1報は、「2020年のCell Death & Disease」論文で、チャンファン・ユンの所属はスローン・ケタリング記念がんセンター(Memorial Sloan-Kettering Cancer Center)だった。

★パブピア(PubPeer)

2025年2月19日現在、「パブピア(PubPeer)」では、サム・ユン(Sam Yoon、Sam S Yoon、S. Sunghyun Yoon)の論文のコメントを「Sam Yoon」で検索すると、32論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》ネカト実行者は誰? 

今回のサム・ユン事件では、サム・ユン(Sam Yoon)を主役に、サンドラ・リョム(Sandra Ryeom)とチャンファン・ユン(Changhwan Yoon)を脇役に記述した。

しかし、誰が直接のネカト実行者なのか?

サム・ユンは臨床医で、臨床に多忙で、多分、研究に十分の時間が取れない。

ポスドクで研究専従のチャンファン・ユンがネカト実行者だと思うが、チャンファン・ユンが共著者になっていない論文でも撤回されている。

調査結果を待つしかないが、調査結果が出てもはっきり指摘されないかもしれない。

普通に考えれば、誰が直接のネカト実行者なのかすぐわかると思うのだけど、公式なネカト調査は数年がかりで、すごく時間がかかる。なんかヘン。

《2》ネカト者ほど出世する? 

分かってみると、サム・ユンは2008~2023年(39~54歳)の16年間、不正論文を出版していた。

ということはズルして出世した(気がする)。つまり、ネカト者ほど出世する(気がする)。

そして、サム・ユンの撤回論文・疑惑論文には多数の有力研究者がいた。それら有力研究者はどうして論文のネカトに気が付かなかったのか?

自分が著者の論文なのに、論文原稿をまともに読んでいないことになる。多数の有力研究者がそうだとすると、共著者のチェック機能は「ない」ということになる。

そうでないなら、論文にネカトがあることを知っていて何も言わなかった?

「朱に交われば赤くなる」ように「ネカトに交わればネカトになる」のか、「類は友を呼ぶ」ように「ネカトはネカトを呼んだ」のか?

例えば、本文中には記載しなかったが、ペンシルベニア大学・医科大学院(University of Pennsylvania School of Medicine)のエム・セレステ・サイモン教授(M. Celeste Simon、写真出典)は2021年に米国科学アカデミー会員に選ばれた有力教授である。

しかし、サム・ユンと共著で出版した2016~2021年の4論文が撤回されている。 → Retraction Watch Database: M. Celeste Simon

パブピアでは、エム・セレステ・サイモン教授の21論文も疑惑視されている。

ネカト処分の白楽原則:「受益者有責の原則」・・・論文著者は著者としての利益を得るので、その論文に不正が見つかれば、不正者として責任がある。

エム・セレステ・サイモン教授にも研究不正の責任があるが、彼女は誠実に対応しない。

不正者は大学に守られ出世すると、ミネソタ大学のカール・エリオット教授(Carl Elliott)が2024年5月の著書に書いている。 → 7-162 カール・エリオット:不正者を守り告発者を罰する現実 | 白楽の研究者倫理

それで、「ネカト者に交わってネカトを受け入れた」人たち、「ネカト志向だったのでネカトに呼ばれた」人たちは、出世する。ウ~ン、そうかも。

イヤ、そんなことがあってはいけない。

《3》姑息

サム・ユン(Sam Yoon)は、姑息である。

2024年にサム・ユンの不正論文疑惑が暴露されると、コロンビア大学のサイト(https://columbiasurgery.org/sam-yoon-md)で、それまで「Sam Yoon」と名乗っていたのを、「S. Sunghyun Yoon」に変えたのである。

変えたのは、2024年4月17日~ 2024年7月14日の3か月の間にだ。

それまで「Sam Yoon」と名乗っていた (2024年4月17日の保存版)https://web.archive.org/web/20240417143705/https://columbiasurgery.org/sam-yoon-md

それを「S. Sunghyun Yoon」に変えた2025年2月19日現在のバージョン(2024年7月14日の保存版)https://web.archive.org/web/20240714125830/https://columbiasurgery.org/sam-yoon-md

不正疑惑者の「Sam Yoon」で検索しても、「S. Sunghyun Yoon」ならヒットしないためだ。

悪いヤツはどこまでも「悪く」、賢い人は、どこまでも「ズル」賢い。

コロンビア大学が4年前の2021年にサム・ユンを採用した時のサイトも、「Sam Yoon」から「S. Sunghyun Yoon」に変更した。つまり、隠蔽は個人レベルではなく大学ぐるみである。 → Columbia Creates New Surgical Oncology Division Under Dr. Sam Yoon | Columbia Surgery

そう、賢い大学は、どこまでも「ズル」賢い。

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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●9.【主要情報源】

About | Dr Sam Yoon
② 2023年11月10日のショルト・デイヴィッド(Sholto David)の「より良い科学のために」記事:Memorial Sloan Kettering Paper Mill – For Better Science
③ 2024年2月15日のベンジャミン・ミュラー(Benjamin Mueller)の「New York Times」記事:A Columbia Surgeon’s Study Was Pulled. He Kept Publishing Flawed Data. – The New York Times
④ 2024年3月20日の「New York Times」記事:More Studies by Columbia Cancer Researchers Are Retracted – The New York Times
⑤ 2024年10月16日のベンジャミン・ミュラー(Benjamin Mueller)の「New York Times」記事:Columbia Cancer Surgeon Notches 5 More Retractions for Suspicious Data – The New York Times