2024年12月30日掲載 【長文注意】
白楽の意図:米国ミネソタ大学のカール・エリオット教授(Carl Elliott)が2024年5月に『The Occasional Human Sacrifice』(医学研究での人身御供)を上梓した。この本は研究者倫理ではなく、生命倫理の範疇である人体実験スキャンダルを暴露した内部告発者を扱っている。研究者倫理事件でも告発問題は大きいので白楽ブログで紹介する。書評1本と著者へのインタビュー論文1本を紹介する。
書評によれば、この本は、告発者は損するだけだと述べている。内部告発者は追放され、解雇され、訴えられ、不正行為で告発され、友人を失い、家族を失う。他方、不正者はほぼ処罰されず、報酬を与えられ、ノーベル賞までもらえる。内部告発者は歴史から消され、不正者は賞賛され続ける。
というわけで、バカバカしくて告発などやってられません! では、人は、どうして、告発するのだろう?
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.日本語の予備解説
2.レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)の「2024年6月のFor Better Science」論文
3.アユルディ・ダール(Ayurdhi Dhar)の「2024年8月のMad in America」論文
7.白楽の感想
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【注意】
学術論文ではなくウェブ記事なども、本ブログでは統一的な名称にするために、「論文」と書いている。
「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。
記事では、「論文」のポイントのみを紹介し、白楽の色に染め直し、さらに、理解しやすいように白楽が写真・解説を加えるなど、色々と加工している。
研究者レベルの人が本記事に興味を持ち、研究論文で引用するなら、元論文を読んで元論文を引用した方が良いと思います。ただ、白楽が加えた部分を引用するなら、本記事を引用するしかないですね。
●1.【日本語の予備解説】
★用語の定義
英語の「whistleblower」は「英辞郎」だと「whistle-blower」とでる。その日本語訳は、
【名】〈米話〉内部告発[通報]者、密告者、公益通報者◆可算◆職場の不正を通報する人。(“whistle-blower”:英辞郎 on the WEB Pro Lite)である。
エリオットは「whistleblower」を「内部告発者、つまり、自らの組織の不正を暴露する組織の内部関係者」と定義し、「活動家、ジャーナリスト、批評家、反対者(activists, journalists, critics, dissenters)」とは異なるとしている。
白楽は「whistleblower」は「笛を吹く人」なので「内部/外部を問わず、不正を告発する人」だと思うが、英語のこのレベルのニュアンスは自信がない。
しかし、第2章のタスキギー実験で、エリオットはピーター・バクストンを「whistleblower」として取り上げているが、ピーター・バクストンはタスキギー実験に関与していないし、加害者・被害者や加害者・被害者の所属機関とは何のつながりもない。彼は基本的に部外者だった。だから、ピーター・バクストンを「whistleblower」とするのはおかしい、とレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)は指摘している。
他にもエリオットの記述には甘い箇所があり、エリオットの「whistleblower」は、厳密に「内部告発者」を指すとは思えない。
しかし、白楽の本記事では、内部告発者とかいしていく。
★カール・エリオット(Carl Elliott)の著書『The Occasional Human Sacrifice』
カール・エリオット(Carl Elliott)が2024年5月14日に『The Occasional Human Sacrifice: Medical Experimentation and the Price of Saying No』という著書を出版した。邦訳書は出版されていない。タイトルを意訳すると『医学研究での人身御供』となる。
以下、書誌情報と表紙の出典はアマゾン。
• 出版社:W W Norton & Co Inc
• 発売日:2024年5月14日
• 言語:英語
• ハードカバー :355ページ
• ISBN-10:1324065508
• ISBN-13: 978-1324065500
• 寸法:16 x 3.05 x 23.88 cm
カール・エリオット(Carl Elliott)はどのような人か?
「Carl Elliott (philosopher) – Wikipedia」によると以下のようだ。
カール・エリオット(Carl Elliott)(1961年7月25日生まれ)は、米国のミネソタ大学(University of Minnesota)の哲学科の教授である。
エリオットは、ミネソタ大学の臨床試験で自殺したダン・マーキンソンのことを調査し、ミネソタ大学の不正行為を追求した人として有名である。
マーキンソン事件の概略を、以下に述べておこう。出典:「Death of Dan Markingson – Wikipedia」
ダン・マーキンソン(Dan Markingson、1976年11月25日~2004年5月8日)は、ミネソタ州セントポール出身の精神疾患を持つ男性で、ミネソタ大学の臨床研究の最中に自殺した。この臨床研究は、倫理的に問題となった。
ミネソタ大学の担当者は、大衆の大きな批判、多数のニュース報道、外部調査の圧力にもかかわらず、臨床研究を実施した医師を11年間も擁護した。
自殺11年後の2015年3月、ミネソタ州の監視機関は、深刻な利益相反、金銭的動機、研究のズサンな監督、非常に脆弱な状態の患者に臨床研究に参加するよう圧力をかけたこと、大学関係者による誤解を招くような一連の公式声明など、重大な倫理違反があったと結論した。
その後まもなく、ミネソタ大学は精神医学関連の臨床研究への参加者募集を停止した。
★人体実験についての日本語の解説
- 人体実験事件そのものを解説している。内部告発に焦点を当てていない。 → 土屋 貴志(つちや たかし):1999年度大阪市立大学インターネット講座「人体実験の倫理学」目次
第5回 米国における人体実験と政策
●2.【レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)の「2024年6月のFor Better Science」論文】
★読んだ論文
- 論文名:“The Occasional Human Sacrifice” by Carl Elliott – Book review
日本語訳: - 著者:Leonid Schneider
- 掲載誌・巻・ページ:For Better Science
- 発行年月日:2024年6月12日
- ウェブサイト:https://forbetterscience.com/2024/06/12/the-occasional-human-sacrifice-by-carl-elliott-book-review/
- 著者の紹介:レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)。過去に登場しているので省略
●【論文内容】
★はじめに
カール・エリオットの新書『The Occasional Human Sacrifice』に対する私(レオニッド・シュナイダー)の書評です。
この本は、医学研究における大きなスキャンダルを暴露した内部告発者について書いています。
著者のカール・エリオット(Carl Elliott)は、米国のミネソタ大学(University of Minnesota)・哲学科の生命倫理学(bioethics)の教授です。
彼はまた、彼自身がマーキンソン事件(case of Dan Markingson)の内部告発者です。
エリオットがミネソタ大学に着任する数年前、アストラゼネカ社(Astra Zeneca)がスポンサーだった抗精神病薬の臨床試験で、精神病患者のダン・マーキンソン(Dan Markingson)が自殺した。
この臨床試験は精神科医のスティーブン・オルソン準教授(Stephen Olson、写真出典)が担当していたが、非常に非倫理的なことをしていた。
しかし、オルソン準教授は大学から守られ、被害者マーキンソンの母親は大学から非難され悪者扱いをされた。 → 2022年10月6日:How a Suicide in a Clinical Trial Turned a Bioethicist Into a Whistleblower | MedPage Today
エリオットは7年間、マーキンソン事件で正義のために戦い、マーキンソン事件は医療倫理に大きな教訓を与えた。しかし、同時に、エリオット自身は、同僚や上司から嫌われ、排斥された。
この経験が、エリオットを歴史的な患者虐待事件の内部告発者を調べ、本を書くように駆り立てた。
この本は、エリオットが自分の大学であるミネソタ大学に対して正義の戦いを始めて以降、彼を支えてくれたエリオットの同僚であるリー・ターナー(Leigh Turner、写真出典)に捧げられている。
私(レオニッド・シュナイダー)はWWノートン出版社(WW Norton)から書評のために本を受け取った後、電子メールでエリオットに連絡した。
それまで会ったことも話したこともなかったし、メールでも話したことはなかったが、彼は私と私の活動をよく知っていた。
エリオットの本は、患者虐待や組織的な隠蔽について記述しているのではなく、内部告発者の人物と人格について記述している。
本書の大部分は内部告発の心理に関するものである。
一般的に、内部告発者を、強迫観念的で反社会的なトラブルメーカー、復讐に燃える敗者、または完全な裏切り者と、認識することがよくある。
エリオットは、他の人が不正を見ても沈黙しているのに、ある人は発信・発言・通報・告発する。そのような内部告発者はどのような性格・特性なのかを特定しようとした。
しかし、エリオットが立てたすべての仮説は失敗した。内部告発者はそれぞれが、かなり異なり、内部告発者に特徴的な性格・特性は見つからなかった。
この本は、結局、告発者は損するだけだと述べている。内部告発者は追放され、解雇され、訴えられ、不正行為で告発され、友人を失い、家族を失う。内部告発行為に報酬は与えられない。
他方、不正者はほぼ処罰されず、報酬を与えられ、ノーベル賞までもらえる。
内部告発者は歴史から消され、不正者は賞賛され続ける。
★1章~7章
この本は7章から成り、2~7章は6件の異なる医療スキャンダルとその内部告発者を記述している。
エリオットは内部告発者の背景、個人史、動機に焦点を当て、内部告発者の特徴的な性格・特性・条件を探した。
内部告発者にはあらゆる困難が待ち受けている可能性が高いのに、なぜ彼らは告発したのか、それがエリオットの本の内容である。
彼らを告発に駆り立てたのは「オナーコード/名誉規範/倫理規定(honour code)」(守るべき約束事、称賛される行動)なのだろうか? → Code of honor – Wikipedia
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★第1章
第1章は、リチャード・ニクソン(Richard Nixon)の内部告発者を例に挙げながら、エリオットが若い頃から今日まで取り憑かれている政治スキャンダルについて詳細に論じている。
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★第2章
第2章は、アメリカの医学的人種差別の模範となったタスキギー梅毒(Tuskegee syphilis)の研究を記述している。 → The Untreated Syphilis Study at Tuskegee Timeline | The U.S. Public Health Service Untreated Syphilis Study at Tuskegee | CDC
→ タスキギー梅毒実験 – Wikipedia
そこでは、梅毒を治療しないと、梅毒がどのように進行していくのかを観察するのが研究目的だった。
それで、梅毒に感染した黒人男性を治療しなかった。
白人医師たちは、患者が痛みを伴ってゆっくり死んでいくのを観察していた。
この研究は1932年に開始された。
その時点で、ペニシリンは発見されていた(1928年にフレミングが発見)。1940年頃、ペニシリンは実用化されたが、タスキギー梅毒実験の患者には使用されなかった。
1975年、43年間続けたタスキギー梅毒実験を止めた。
止めた理由は、1972年のニュース報道に続く世論の抗議が激しかったためだった。
メディア報道は、部外者だった公衆衛生局(Public Health Service)の職員・ピーター・バクストン(Peter Buxton、写真Public Domain、出典)が告発したのが切っ掛けだった。
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★第3章
第3章は、アメリカの巨大な精神医学施設であるウィローブルック州立学校(Willowbrook State School)の事件である。
この施設は極めて不潔だったが、その施設で、精神障害のある子供たちに、意図的にA型肝炎およびB型肝炎を感染させたウィローブルック肝炎研究について記述している。
[白楽の脇道:東京都港区に「Willowbrook International School」がある。東京都港区のこの私立の施設は幼児の英語教育をしているスクール(塾)だが、第3章の現場である「Willowbrook State School」と類似の名前である。港区のスクール(塾)に「Willowbrook International School」という名前を付けた意図は何なのだろうか? ウィローブルック州立学校の事件を知らないのだろうか? ウィキペディア英語版に「Willowbrook State School – Wikipedia」という項目がある。命名する前に検索すれば、すぐわかる。ウィローブルックはニューヨーク州のスタテンアイランドにある地区の名前なので、調べないで、命名したのかもしれない]
内部告発者は、若い医師で活動家のマイク・ウィルキンス(Mike Wilkins。写真(出典)は、2019年の写真で、老人になっている。ウィローブルック州立学校の前)で、子供たちの状況を改善しようと活動し、結局、解雇された。
そして、マイク・ウィルキンスは内部告発をした。
1972年のドキュメンタリー「Willowbrook: the Last Great Disgrace(ウィローブルック:最後の大きな不名誉)」は、そこで行なわれていた子供たちへの虐待を映像で示している。
無知な両親に強要して同意を得、子供たちに肝炎を感染させた主任研究者は、ニューヨークの小児科医ソール・クルーグマン(Saul Krugman、写真出典)だった。
1955年から1970年にかけて、クルーグマンは子供たちに肝炎ウイルスを注射するか、感染した子供たちの糞便を含むチョコレートミルクを飲ませた。
彼の目的は、自分が開発した肝炎ワクチンが効いていることを証明することだった。 → 2020年のフォーブスの記事:The Hideous Truths Of Testing Vaccines On Humans
クルーグマンは1995年に亡くなったが、生前、このウィローブルックの件で自分自身を最高レベルの倫理の権威者だと主張し、偉い役職、肩書き、多数の賞を集め続けた。 → 1986年のクルーグマン論文:Willowbrook Hepatitis Studies Revisited: Ethical Aspects | Clinical Infectious Diseases | Oxford Academic
クルーグマンは医学界で広く称賛され続けた。
例えば、米国小児科学会の会長に選出された。その後、ロバート・コッホ・ゴールド・メダル(1978年)、ジョン・ハウランド賞(1981年)、メアリー・ウッダード・ラスカー公共サービス賞(1983年)など、医学界で最も権威のある賞を受賞した。今日でもクルーグマンの擁護者がいる。
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★第4章
第4章は、フレッド・ハッチンソンがん研究センター(Fred Hutchinson Cancer Research Center)の倫理委員会のメンバーだった内部告発者ジョン・ペサンド(John Pesando、写真出典)について書いている。
上司の主任研究者であるドナル・トーマス(Donnall Thomas、写真左出典)は、フレッド・ハッチンソンがん研究センターの臨床ディレクターであり、危険なアカハラ加害者として恐れられ、みんな、彼を恐れて沈黙を守っていた。
トーマスは、骨髄移植がレシピエントの体に重篤な免疫反応を引き起こす場合に起こる移植片対宿主病 (Graft-versus-host disease)の研究をしていた。
トーマスはドナーの骨髄細胞を抗体で処理しT細胞を除去することで、安全に移植できるとした。 → トーマスの「プロトコル126」
抗体薬は、トーマスと彼の同僚の給与を払っていたジェネティックシステムズ社(Genetic Systems)が提供していた。
しかし、この「プロトコル126」で治療を受けたがん患者85人のうち84人が死亡した。
トーマスは動物実験なしに人体実験を行なったのだ。
また、トーマスがそう決めたため、患者は皆、標準的な治療をしてもらえず、ダマされて臨床試験に参加させられていた。
内部告発者ジョン・ペサンドは、トーマスが計画した臨床研究の全てに賛成し、承認すると期待されていた。
しかし、ペサンドは、それらを全て拒否しただけでなく、あらゆるところが問題だと通報し抗議した。
2001年、ペサンドの活動は、シアトル・タイムズ新聞社に届いた。 → 2001年のシアトル・タイムズ記事:THE WHISTLEBLOWER He saw the tests as a violation of ‘trusting, desperate human beings’: Seattle Times
しかし、内部告発者のペサンドは皆から嫌われた。
そして、結局、トーマスに対する捜査は、トーマスが1990年にノーベル生理学・医学賞を受賞したところで終わった。 → E. Donnall Thomas – Facts – NobelPrize.org
トーマスは2012年に亡くなったが、生命科学界の英雄として、彼の死後も称賛され続けている。 → 2024年1月の論文:Profile of a Pioneer: E. Donnall Thomas – ScienceDirect
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★第5章
第5章は、1960年から1971年にかけて、シンシナティ大学病院(University of Cincinnati Hospital)で少なくとも90人の進行がん患者に致命的な全身放射線を浴びせたシンシナティ放射線実験(Cincinnati radiation experiments)についてである。 → Cincinnati Radiation Experiments – Wikipedia
主任研究者は、シンシナティ大学のユージン・センガー放射線科医(Eugene Saenger、写真出典)だった。
この研究の目的はただ一つ、大量の全身放射線を浴びせることで、人々をどのように殺せるのかを正確に研究することだった。
米国・国防総省・ペンタゴンが研究を支援した。
将来の核戦争に備え、人間に原爆を浴びせると、どのように死んでいくのかを研究したのである。
人体実験に選ばれたのは癌患者で、彼らはいずれ死ぬので、消耗品と見なされた。
癌患者は皆、高名な医師から新しい治療法だという誤った希望を与えられ、無邪気に放射線を浴びることに同意した。
しかし、現実は、惨めでひどい苦痛を伴いながら死んでいった。
内部告発者はマーサ・スティーブンス(Martha Stephens、写真出典)だった。
彼女は医者ではなかった。それどころか、医学や医療倫理にも全く無関係だった。
マーサ・スティーブンスはシンシナティ大学の英語学の若い助教授で、1972年にセンガーの巨大な人間虐待を止めさせるため、そして1993年に集団訴訟で被害者を助けるために、センガーを告発した。しかし、2回とも、訴訟は敗訴した。
センガーは、2007年9月30日に亡くなるまで、名誉が与えられ、称賛され続け、現在も、シンシナティ大学の放射線科で尊敬されている。 → Dr Eugene Saenger (1917-2007) – Find a Grave Memorial
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★第6章
第6章は、ニュージーランドの「不幸な実験(Unfortunate Experiment)」についてである。
ニュージーランドの国立女性病院(National Women’s Hospital)の婦人科医だったハーブ・グリーン(Herb Green、Herbert Green、Herb Green – Wikipedia、写真 By Doctor Alice – Own work, CC BY-SA 4.0、出典 )は、上皮内がん(carcinoma-in-situ)と呼ばれる前がん病変(precancerous lesions)は子宮頸がん(cervical cancer)を引き起こさないという仮説を立てた。
国立女性病院の当時の治療ガイドラインでは、上皮内がんは手術する義務があった。
しかし、自分の仮説を証明するために、グリーンは、1966年以降、上皮内がんと診断された女性を手術しないで、ただ観察するだけの臨床試験を始めた。
その結果、グリーンの患者のほとんどは子宮頸がんを発症し、死亡した。
内部告発者は、コルポスコピーを担当する医師のビル・マッキンドー(Bill McIndoe、写真出典)だった。
コルポスコピー(英: Colposcopy)とは、腟の外にカメラ機器を置き、腟の奥にある子宮頸部を拡大観察する検査法(コルポスコピー – Wikipedia)
マッキンドーはその臨床試験でグリーンと協力することが期待されていたが、すぐに内部告発を始めた。
マッキンドーと弟子のロナルド・ジョーンズ(Ronald Jones)らは、1984年の論文でハーブ・グリーンの悲惨な臨床試験を告発したが、医療界の関心を得られなかった。 → 1984年論文:The invasive potential of carcinoma in situ of the cervix – PubMed
このスキャンダルは、フェミニスト活動家と力を合わせることで、ようやく世間に広まった。
本書の他の事件との違いは、グリーンは最終的に有罪となり、1988年に全米調査委員会によって制裁を受けた。
告発したマッキンドーは1969年に亡くなったが、マッキンドーの弟子であるジョーンズが活動を引き継いだ。
本書の著者・エリオットはジョーンズにインタビューしている。
ジョーンズは「2022 年科学の自由と責任賞(Scientific Freedom and Responsibility Award)」を受賞した。
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★第7章
最後の第7章は、スウェーデンのカロリンスカ医科大学(Karolinska Institutet)のパオロ・マッキャリーニ(Paolo Macchiarini、写真出典)のプラスチック気管移植についてであり、本書で唯一の最近の医療スキャンダルである。 → パウロ・マッキャリーニ(Paolo Macchiarini)(スウェーデン) | 白楽の研究者倫理
書評を書いたレオニッド・シュナイダーは、シュナイダー自身のブログ「For Better Science」でマッキャリーニ事件について、非常に詳しく事件を取り上げてきた。
そのウェブサイトでは、2016年2月の最初の記事から、最近の刑務所の判決、および追加の不正行為の調査結果と論文撤回に関する最新の報道まで掲載している。 → 2023年10月11日記事:Swedish investigation spoils Macchiarini cover-up at Lancet – For Better Science
マッキャリーニ事件の詳細は、英国のリバプール大学(Liverpool University)のパトリシア・マレー教授(Patricia Murray)の内部告発と熱心な追及活動のおかげで解明されてきた。
マレー教授はでストックホルムのマッキャリーニ裁判で証人専門家も務めた。
多大な貢献をしたもう一人の内部告発者は、米国・フィラデルフィア出身のエリザベス・ウォックナー(Elizabeth Woeckner)で患者の権利を擁護した。
著者エリオットは、マッキャリーニがカロリンスカ医科大学で行なった3人のプラスチック気管移植のうちの2人に焦点を当てて記述した。その2人、アンデマリアム・ベイエネ(Andemariam Beyene)とイェシム・セティール(Yesim Cetir)は、死亡した。
著者エリオットは、カール・ヘンリック・グリンネモ(Karl-Henrik Grinnemo)、マティアス・コルバスシオ(Matthias Corbascio)、オスカー・サイモンソン(Oscar Simonson)、トーマス・フックス(Thomas Fux)の4人のカロリンスカ医科大学の内部告発者と、スウェーデンのテレビでマッキャリーニのドキュメンタリー「エクスペリメンテン(Experimenten)」を制作した映画監督のボッセ・リンドクイスト(Bosse Lindquist)を記述している。
以下の写真出典はドキュメンタリー「エクスペリメンテン(Experimenten)」
Dokument inifrån: Experimenten – 1. Stjärnkirurgen | SVT Play
著者エリオットは、マッキャリーニの治療法を初期に批判したベルギーの外科医ピエール・デラエール(Pierre Delaere)を簡単に言及しただけだった。
ここまでは、7章の概要の途中までだが、書評を書いたレオニッド・シュナイダーは、エリオットの著書に大きく失望した、と書いている。
マッキャリーニ事件に関して世界で一番、情報提供してきたシュナイダー自身の事を引用していなかったからだ。
シュナイダーは、自分を内部告発者だとは主張していないが、彼のブログ「For Better Science」は、マッキャリーニ事件を網羅的で詳細に記載した世界で最も重要な情報源なのだ。
シュナイダーのブログ「For Better Science」は、大学教員やジャーナリストがマッキャリーニ事件について講義したり、記事を書いたり、査読付きの論文や著書を書いたり、テレビのドキュメンタリーを作ったりするときに、日常的に使用されている。しかし、ほとんど場合、出典が記載されないし、謝辞もない。
エリオットの本の参考文献セクションに、マッキャリーニ事件についてもっと知りたいと思っている読者のために、少なくともシュナイダーのブログ「For Better Science」を言及すべきだったが、エリオットはそうしていない。
シュナイダーはエリオットに手紙を書き、内部告発者のパトリシア・マレー教授とエリザベス・ウォックナーに言及することを特に望んでいたこと、また、「For Better Science」に言及して欲しかったと伝えた。
エリオットは、著書では多くの話を省かなければならなかったと弁解した。また、著書は「大学の不正を暴露する大学内の告発者、つまり内部告発者、について」書いたのであり、エリザベス・ウォックナーを非常に高く評価しているが、適切に言えば、内部告発者ではないと説明した。
しかし、パトリシア・マレー教授は、その定義からしても適切な内部告発者であると、シュナイダーは指摘したが、エリオットは、その指摘に対して回答していない。
おかしい。
●3.【アユルディ・ダール(Ayurdhi Dhar)の「2024年8月のMad in America」論文】
★読んだ論文
- 論文名:Our Medical System Protects Wrongdoers and Punishes Whistleblowers: An Interview with Carl Elliott
日本語訳:私たちの医療システムは、不正行為者を保護し、内部告発者を罰しています:カール・エリオットへのインタビュー - 著者:Ayurdhi Dhar
- 掲載誌・巻・ページ:Mad in America
- 発行年月日:2024年8月7日
- ウェブサイト:https://www.madinamerica.com/2024/08/our-medical-system-protects-wrongdoers-and-punishes-whistleblowers-an-interview-with-carl-elliott/
- 著者の紹介:アユルディ・ダール(Ayurdhi Dhar、写真出典は本論文)。
- 学歴:2011年にインドのデリー大学(University of Delhi)で修士号(心理学)、2017年に米国のウェスト・ジョージア大学(University of West Georgia)で研究博士号(PhD)(意識と社会学)取得
- 分野:心理学、科学ジャーナリズム
- 論文出版時の所属・地位:①インドのアミティ大学(Amity University)・助教授(心理学)、②Mad in South Asia創設者・編集長(Founder and Editor-in-Chief、Mad in South Asia)、③Mad in Americaリサーチ・ニュース・チームの一員(MIA Research News Team)。経歴の出典
●【論文内容】
【音声】
カール・エリオット(Carl Elliott)へのインタビューの内容を編集し文章にしたのが本論文である。
45分37秒のインタビューを聞くことができる。
白楽ブログは、インタビュー音声を貼り付けていないので、聞きたい人は、原著にアクセスされたし。
★カール・エリオット(Carl Elliott)の人となり
カール・エリオット(Carl Elliott)は、ミネソタ大学の哲学・ジャーナリズム・マスコミュニケーション学科の著名な教授である。
エリオットは、医療および製薬業界に対する批判的な調査で知られ、影響力のある生命倫理に関する発言をしている。
彼の最新の著書『The Occasional Human Sacrifice』(医学研究での人身御供)は、臨床試験や精神医学研究における汚職や医療過誤を暴露する内部告発者の悲惨な状況を描写した。
写真出典:https://www.bostonglobe.com/2024/05/07/arts/carl-elliott-occasional-human-sacrifice-review/
★『The Occasional Human Sacrifice』(医学研究での人身御供)について
質問: あなたの新著『The Occasional Human Sacrifice』(医学研究での人身御供)について、あなたの話と経験を教えてください。
エリオットの回答:
2008年の夏でした。
友人のポール・トスト記者(Paul Tosto)から、彼とジェレミー・オルソン記者(Jeremy Olson)がセントポール・パイオニア新聞(St. Paul Pioneer Press)に書いた臨床試験での死亡記事について、私に感想を求めてきました。 → 2008年5月18日記事:The death of Subject 13 | Atypical Antipsychotics
それでその記事を読んだのですが、私は、強い衝撃を受けました。
中央:ダン・マーキンソン(Dan Markingson)24歳、左:母、右:友人。2001年。写真出典
ダン・マーキンソン(Dan Markingson)という青年が、精神病の発作に苦しんで、私たちの大学(ミネソタ大学)の教育病院に運ばれました。
マーキンソンは、暴力をふるい、妄想に取りつかれ、大量殺人を犯し、母親を殺すと脅していました。それで、ミネソタ大学病院で治療を受けることになったのです。
多くの臨床医に診てもらった結果、マーキンソンは精神病で、自分で物事を判断する能力がなく、神経弛緩薬の服用に同意する能力がないと判断されました。
マーキンソンは自分自身や他人にとって危険だと診断され、民事拘禁命令(civil commitment order)下に置かれ、病院の施錠された部屋に収容されました。
ミネソタ州では、精神科医の治療勧告に従うと同意すれば、施錠された部屋を避けることができるのです。
マーキンソンの精神科医はそれを推奨しました。
通常なら、マーキンソンは標準的な治療を受けることになるのだが、実際は、そうではなかった。3つの抗精神病薬の臨床試験に申し込むように求められたのです。
製薬会社のアストラゼネカ社(AstraZeneca)がスポンサーの臨床試験でしたが、マーキンソンは同意書に署名した。
母親であるメアリー・ワイス(Mary Weiss)は、マーキンソンが同意書に署名したことを知り、とても驚き、動揺した。
マーキンソンは暴力的で、彼女を殺すと脅していたために、施錠された部屋に収容されていました。しかも、マーキンソンは民事拘禁命令を受けており、神経遮断薬の服用に同意する能力がないと診断されていた。
メアリー・ワイスはマーキンソンを臨床試験に参加させたくなかった。
担当医は、マーキンソンは大人で、同意は彼(マーキンソン)の決定であり、あなたの決定ではないとメアリー・ワイスに言った。
それで、マーキンソンは臨床試験に参加した。
その後の4か月間、メアリー・ワイスは、マーキンソンを臨床試験からなんとか抜けられないかと、努力を続けた。
その間、マーキンソンは徐々に元気をなくし、思考が大きく揺れていき、シャワーを浴びなくなり、とても興奮するようになった。
メアリー・ワイスは、マーキンソンが今にも爆発しそうだと担当医に伝えた。
その間も、メアリー・ワイスは臨床試験からマーキンソンを抜けさせようと必死に行動した。
研究コーディネーターや精神科医局にメールを送り、電話をし、手紙を書いた。しかし、満足のいく返事は得られなかった。
「誰かに何とか対応してもらうには何が必要でしょうか? マーキンソンは誰かを殺すか、自殺しなければならないのですか?」と、研究コーディネーターにメアリー・ワイスが必死に電話した記録が、留守番電話に残っていた。
その3週間後、マーキンソンは実行した。
2004年5月8日、カッターナイフで自分の喉を切り裂き、首をほぼ切り落とし、自分の身体を切断した27歳のマーキンソンの遺体が自宅の風呂場で見つかった。そこには、「私は笑顔で行ないました」というメモがあった。
これがセントポール・パイオニア新聞(St. Paul Pioneer Press)に掲載された話である。 → 2008年5月17日記事(2016年5月19日更新):Dan Markingson had delusions. His mother feared that the worst would happen. Then it did. – Twin Cities
私が大きなショックを受けた理由は、マーキンソン事件は私が長年研究してきたテーマと強く関係し、かつ、事件は私たちの大学(ミネソタ大学)で起こったからである。
ミネソタ大学の精神科医局には何人もの友人がいた。
私は責任を感じた。
このような被害者は、マーキンソンだけではないかもしれないと気になり始めた。
施錠病棟の患者を臨床試験の治験者にしていないと、どうやって確認できるのか?
私はミネソタ大学の人々に尋ね始めた。
しかし、誰も特に動揺しているように見えなかった。興味を持っているようすもなかった。
――白楽のお節介――論文に関連する情報――
日本語でマーキンソン事件を解説しているサイトは見つからなかった。 → ダン・マーキンソン ミネソタ大学 精神医学研究 – Google 検索
英語版の「Death of Dan Markingson – Wikipedia」で探ると、以下の情報が見つかった。
マーキンソンの主治医はミネソタ大学精神科のスティーブン・オルソン準教授(Stephen Olson、写真出典)だった。
ミネソタ大学精神科には、マーキンソン事件以前にも研究不正の重大な過去があったが、大学のリーダーたちは教員からの批判を無視し、マーキンソンが自殺したときに正当な調査を行なうことを拒否し、事件から世間の注目をそらすために誤解を招くような発言を繰り返した。
ダン・マーキンソン(Dan Markingson、1976年11月25日 – 2004年5月8日)は、ミネソタ大学で倫理的に物議を醸した精神医学研究で自殺した。ミネソタ大学は、国民からの大きな批判、多数のニュース報道、外部調査のための圧力にもかかわらず、ほぼ11年間、オルソン準教授の行動を擁護した。
2015年3月、州の監視機関による調査で、深刻な利益相反や金銭的インセンティブ、研究の不十分な監督、マーキンソンが非常に脆弱な状態にある間に研究に参加するようマーキンソンに圧力をかけたこと、など一連の重大な倫理違反が指摘された。その上、大学関係者は誤解を招くような公式声明を発表していた。
マーキンソン事件には多くの倫理的問題が関与しているので、現在では米国の多くの大学の生命倫理コースでケーススタディとして使用されている。[白楽注:日本の大学で使用しているかどうか、知りません]
★大学、同僚、その他の人々の反応
質問:あなたが情報を求めたとき、大学、同僚、その他の人々はどう反応しました?
エリオットの回答:
話した人にもよりますが、多くの人は、「うわー、それはまずいと思うけど、あなたには何ができるの?」という反応でした。大学運営者は、あからさまに、拒否的な反応をしました。
反応はおおむね次のようです。
「いいですか、あなたはこの臨床研究で何が起こったのかを知らないでしょう。新聞に書かれていることを信じてはいけません。もしその記事を信じているのなら、かなり世間知らずです。
臨床試験では、時々、治験者は死にますが、よくあることです。それは臨床試験の一部です。ダン・マーキンソンは明らかに精神的に病んでいたのです。精神科医や大学を責めるのは不公平です」。
人々の反応から、私は、ダン・マーキンソンの母親であるメアリー・ワイス(Mary Weiss)に何らかの責任があるのではないか、と思った。
メアリー・ワイスは、執念深く、支離滅裂で、息子との関係に問題を抱え、大学を非難しようとしている人物として描かれていた。
それで、私は彼女と会ってみることにした。
しかし、実際に会ってみると、彼女は、私が話した大学運営者や精神科医のそれとは全く異なっていた。
彼女はミネソタ大学に対して訴訟を起こしたが、ミネソタ大学は州立大学なので、法定免責(statutory immunity)で保護されており、訴えることはできない、と裁判官は訴訟を棄却した。
その後、ミネソタ大学は、訴訟関連費用として彼女に56,000ドル(約560万円)を払うよう要求した。
結局、ミネソタ大学は、56,000ドル(約560万円)の要求を取り下げることと引き換えに、メアリー・ワイスに上訴しないことを同意させた。
メアリー・ワイスは私に、「病院の記録、宣誓供述書、裁判記録など何でも見ることができます。私は私の弁護士に頼んで、あなたがすべてを利用できるようにします。訴訟のメリットは自分で決めればいいです」と言った。
それで、私はそうした。
それで、いろいろ資料を分析した後の私の結論は、メアリー・ワイスは正しく、大学は間違っていた。
大学は私に対しとても欺瞞的だった。大学は私が誤解するように誘導していた。
★内部告発者の幻滅
質問:あなたが著書に書いた事件では、不正行為を大学に通報すると、大学は解雇や人格を否定し、強く激しく攻撃しています。内部告発者は違う対応を期待していたので、失望し幻滅します。この幻滅感をもう少し詳しく教えてい下さい。
エリオットの回答:
内部告発者は、理想主義と楽観主義で行動します。
もし、告発が何の役にも立たないと思っていたなら、告発しないでしょう。
内部告発者になるには、他人が不正を知ったとき、あなたと同じように憤慨するだろうという信念を持たなければなりません。
その怒りは、あなたの味方となる友人や同僚に広がり、権力を持つ規制当局が行動を起こし、問題を解決する、と期待して告発するのです。
しかし、内部告発しても、通常、そのように進みません。
当局は行動を起こしません。
だれも憤慨しません。多くの場合、友人は去り、同僚は大学側の立場をとります。
そして、現実的な反撃がやってきます。つまりあなたの価値観と世界観が崩壊する事態がやって来ます。
告発者は、裏切り者と見なされます。医師は、大学病院から追放され、医学界コミュニティとの関係が断ち切られます。
社会的にも価値観的にも、自分のアイデンティティを再構築しようともがき悩みます。
これらは、私自身の経験でもあります。
私は、大学で働く多くの仲間と、無駄な試みを必死にたくさんしました。
2010年、私は「マザー・ジョーンズ(Mother Jones)」誌にマーキンソン事件について書きました。写真(左:ダン・マーキンソン(Dan Markingson)、右:母)の出典はその記事 → 2010年9月記事:The Deadly Corruption of Clinical Trials – Mother Jones
私は、記事を書くことで、マーキンソン事件が全国的な注目を集めること、そして、臨床研究のスポンサーに対して国民の怒りを引き起こし、大学が行動を起こし、外部調査を委託すること、を期待しました。
しかし、そうはなりませんでした。
全く逆の扱いを受けました。
私は学術コミュニティから嫌われ、友人や同僚を失いました。
しかし、その後の5年間、元ミネソタ州知事のアルネ・カールソン(Arne Carlson)の協力を得て、ミネソタ大学に対して2件の外部調査が行なわれました。
その中で最も重要なのは、監視機関であるミネソタ州の立法監査官室(Office of the Legislative Auditor)による調査でした。
ミネソタ州の立法監査官室は私が指摘したすべての点を事実だと確認し、パイオニアプレス(Pioneer Press)紙が報告したすべても事実だと確認しました。
研究監視システムに深刻な問題があると指摘した別の調査と合わせ、私たちは前進しているように思えました。
しかし、
ミネソタ大学はメアリー・ワイスに補償をしなかった。
ミネソタ大学は公式な謝罪をしなかった。
ミネソタ大学は臨床試験を担当した医師を処罰しなかった。
単に、ミネソタ大学は向精神薬の臨床試験を一定期間停止することに同意しただけだった。
私たちの活動は、失敗だった。この活動に費やした数年間はすべて無駄だったと感じました。
★希望
質問:研究者や医師は、ある程度、大学・学術界・社会に影響力を持っていても、不正行為の証拠を示して内部告発するのはとても難しい。その状況下では、医療被害者にどのような希望があるのでしょうか?
エリオットの回答:
この疑問の答えを得るために、私は医療スキャンダルを集めて研究し、共通するパターンを拾い出そうと考えました。
研究を始めると、それは信じられないほど憂鬱でした。
憂鬱になったのは、スキャンダルが浮上すると、大学は正しい対処をしなかったという事実が共通するパターンだったからです。
私はまだ、大学が正しく対処したケースに一度も出会っていません。
大学はマスメディアの取材・報道を妨害し、内部告発者を中傷・攻撃し、絶対にというほど謝罪しません。
大学は不正を行なった研究者を処罰しないだけでなく、非常に頻繁に、彼らに助成金を与えたり、科学賞を授与したりして、称えます。
これは、何度も何度も目にしたパターンです。
虐待され・騙された患者(臨床試験対象者)は、圧倒的に脆弱です。
彼らは精神疾患者、精神障害者、子供、刑務所や施設に収容されている人たちです。
彼らは貧しく、教育を受けていません。この種の搾取に対して脆弱です。
そして、内部告発をする人は非常にまれです。
私はこの本で6件の事件を扱いましたが、実際は、もっと多くのスキャンダルがあります。
多くのスキャンダルで、医師、看護師、研究者、管理者、弁護士は何十年も前からこれらの不正行為を知っていたのに、誰も何も言わなかったのです。
内部の誰かが声を上げることはめったにありません。そして、声を上げても、成功することはめったにありません。
質問にお答えしますが、この状況下で、わずかな希望の光は、内部告発者の間に何らかの連帯があれば、成功の確率が高くなるということです。
もう一つの希望の光は、実際に改革につながったごく少数のスキャンダルでは、別の何かが同時に進行していたということです。
例えば、1972年にアメリカで発表された有名な事件、タスキギー梅毒実験(Tuskegee Syphilis Study)では、その事件で騙され、搾取され、虐待された被験者は全員、貧しい黒人男性でした。この事件での「別の何か」は、1960年代と1970年代に起こった公民権運動です。 → タスキギー梅毒実験 – Wikipedia
ニュージーランドでは、子宮頸がんの前兆を持つ女性に対して「不幸な実験」がされました。この事件での「別の何か」は、女性運動でした。 → 2017年11月の記事:What New Zealand’s “Unfortunate Experiment” Can Teach Us – Mad In America
ウィローブルック州立学校(Willowbrook State School)のスキャンダルは、施設に収容された精神障害児をA型肝炎およびB型肝炎ウイルスに感染させた事件です。この事件での「別の何か」は、障害者権利運動でした。 → Willowbrook State School – Wikipedia
ただ、大きな社会運動と交差したことで大きな変化が得られたケースはありません。
精神医学研究の濫用による被害者に何とかして希望を与えるのは、私たちの挑戦です。
★虐待とみなさない訓練
質問:あなたは、医師、看護師、研究者が何年もの間何も言わなかったと述べました。あなたは別の記事(Doctors Can Be Socialized to Cooperate in “Unthinkable Practices,” Says Bioethicist )で、ほとんどの医療関係者は研究対象者(患者)の虐待を不正行為と見なしていない。医療教育訓練を通して虐待だと見なさないように訓練されていると書いています。詳しく教えてください。
エリオットの回答:
医療トレーニングについて理解しなければならないのは、トレーニングを始める前の医学生は、当然のことですが、何も知らないということです。
何も知らず、病気や弱い立場の患者を扱うことを許されている状況は、非常に危険です。
医療の訓練を受ける医学生は見習いです。また、医療訓練は多くの場合、非常に権威主義的です。
人は、馴染みのない状況に置かれると、周りを見回して、他人がしていることと同じことをします。
そのため、馴染みのない状況に置かれたとき、最初の直感で、何か異常で問題があると感じても、その印象を捨てて、「指導者であるこの人たちは私よりもずっと多くのことを知っていて、これが通常行なわれている方法だ」、と受け入れてしまいます。
私の著書の中で印象に残ったのは、スタテンアイランド(Staten Island )のウィローブルック州立学校(Willowbrook State School)のスキャンダルでした。
それは、米国で最大の精神障害児の施設で、信じられないほど不潔で、非常に過密な状態でした。
1970年代初頭、マイク・ウィルキンス(Mike Wilkins、写真左出典)という若い内科医(写真は高齢時)と彼の同僚であるビル・ブロンストン(William Bronston 、写真右出典)は、ウィローブルック州立学校で働き始めた。
当時、ベトナム戦争時代で、彼ら2人はベトナム戦争に加担するのを避けるために、米国政府の公衆衛生局(Public Health Service)で医師として働いていた非常に社会意識の高い左寄りの活動家でした。
ウィローブルック州立学校(Willowbrook State School)の動画があります(以下)。
この動画を見ると、この学校は、驚くほど悲惨で強制収容所のような最悪の施設でした。
初めて見たときは、私は涙がこぼれました。信じられないほど酷い施設で、胸が痛みました。
服を着ていない子供たちは、明らかに知的障害者で、コンクリートの床に自分が排泄したの尿の上に横たわっています。何時間も何日も何日も何もすることがなく、誰も彼らを見ていない。地獄のようです。
このような状況にある子どもたちを見て、「ここは異常だ、問題がある。改革すべきだ」と言う人をなかなか想像できません。
しかし、マイク・ウィルキンスとビル・ブロンストンという2人の部外者はこの場所を見て、「なんてことだ、ここは犯罪現場だ! 改革すべきだ」と言ったのです。私は素晴らしいと思いました。
他の何百人もの人々が何十年もそこで働いていて、何も悪いところがないと感じていたのに、彼らは「これは犯罪だ! 異常だ、問題がある」と言ったのです。
マイク・ウィルキンスとビル・ブロンストンは、ウィローブルック州立学校を徹底的に改革するために、そこで働く医師、看護師、スタッフを組織することにしました。
今までそこで働いていた人たち自身は、施設が異常で問題があるとは思っていませんでした。
しかし、マイク・ウィルキンスとビル・ブロンストンの指摘と、患者である子供たちの親が病棟を訪問し、抗議するようになって初めて、施設が異常で問題があると思うようになったのです。
ここで、私の疑問を2つ挙げます。
1つ目は、あのような場所で長く働き、改革に抵抗していた人は、どのように改革できるのか? (ここ、白楽はうまく訳せません。原文は「One, how is it possible for anybody to work in that place for so long and resist any reform?」)
2つ目は、物事を違った角度から見たこの2人は、他の人と何が違ったのか?
★アブザハブ事件
質問:あなたの本を読むと、大学はその権力を行使して不正行為を告発した人を黙らせています。しかし、教授個人が権力を乱用した場合、大学は彼らを支援しています。最も厄介なケースの1つは、精神科医のファルーク・アブザハブ(Faruk Abuzzahab)の非倫理的行為です。それにもかかわらず、2003年、アブザハブはアメリカ精神医学会の優秀生涯フェローシップ賞(Distinguished Life Fellowship Award)を受賞しました。悪事を働く者が保護され、認められ、顕彰されるのは理不尽です。
エリオットの回答:
私が初めてファルーク・アブザハブ医師(Faruk Abuzzahab、写真出典)に出会ったのは、彼が開業医だった時です。
アブザハブ医師が、「私は長年、ミネソタ大学の教員でした。私はミネソタ州精神医学会の倫理委員会の委員長でした。それで、倫理学について多くの経験を積んでいます。ただ、私が行なっていた調査研究で問題があり、倫理学の授業を受けなければならないと言われました。あなたの倫理学のクラスを、受講しても大丈夫ですか?」と自己紹介した時です。
当時、私は「もちろん、いいですよ」と答えました。その頃の私は、とても世間知らずでした。今なら、彼のような人の要求に、決してイエスとは言いません。
数年後、ツインシティー(Twin Cities)に新しい臨床試験施設がオープンし、研究者のリストにアブザハブの名前が載っているのを目にしました。
彼は私のクラスの受講生だったので、どんなトラブルに巻き込まれていたのだろう、と興味をもちました。
それで、彼の懲戒処分のコピーを医療ライセンス委員会からもらいました。
すると、ある臨床試験で彼の治療を受けていた患者46人が死傷した、とありました。その中には、私たちのミネソタ大学の教育病院で行なわれた臨床試験も含まれていて、自殺者も多くいました。
医療ライセンス委員会は彼の医療ライセンスを短期間停止し、彼を他の誰かの監督下で再教育させ、彼に倫理コースを受講するように命じたのです。
私は唖然としました。なぜ、この種の記録を持つ医師を雇って臨床試験を行なうのでしょうか?
彼の名前をグーグルで検索すると、この事件が掲載された新聞記事を見つけました。 → 白楽はその新聞を見つけられなかった。別のメディアとして、2017年7月28日のCBS記事:Twin Cities Doctor Resigns Medical License After Accusations Of Over-Prescription – CBS Minnesota
何回か探し、これかなと思う新聞記事をようやく見つけた。 → 2007年6月3日記事:After Sanctions, Doctors Get Drug Company Pay – The New York Times
アブザハブ医師は製薬業界とのつながりが強く、多くの臨床試験を実施していました。
製薬業界はアブザハブ医師をレインメーカー(Rainmaker、とても優れた成果を上げる人)で金儲けのうまい人と見ていました。
繰り返しになりますが、臨床試験の被験者は非常に脆弱で、多くの場合、統合失調症や薬物乱用の問題を抱えていました。
アブザハブ医師は基本的に、収益を上げる方法として、問題を抱えた被験者と知りながら臨床試験に参加させ、しばしば不適格な研究を行なっていたのです。
★利益相反
質問:私は事件全体を通して別の特徴を見つけました。医師から研究者まで、製薬業界からお金を受け取ったり、つながりを持っていても、買収や腐敗はない、贈り物をもらっても医療姿勢・行為に影響はないと、主張する。同時に、あなたも指摘されているように、これらのことが医療姿勢・行為に影響をする十分な証拠があります。業界が後援する臨床試験は、業界側が有利になる結果を発表しています。医師や研究者は、自分たちは科学的な証拠に従うと強調していますが、製薬業界とのつながりが研究者に影響を与えるという証拠があるわけですね。
エリオットの回答:
これは私たちが何十年も見てきた癒着構造です。そして、現在、良い方向に変化していません。悪い方向への変化しか見られません。
はい、全体として、製薬業界からの金品贈答が医師・研究者の医療姿勢・行為に影響を与えるという豊富なデータがあります。
しかし、医師・研究者その人の頭の中で何が起こっているのかを判定する方法はありません。
私たちは、全体として、金品・サービス・名誉・役職などの贈与が意思決定に影響を与えることを知っています。それで、利益相反規則を定め、意思決定の適正な管理しています。
たとえば、裁判官は、裁判の結果に金銭的な利害関係がある場合、その裁判の担当を外れます。
ジャーナリストが取材対象に金銭的な利害関係がある場合、取材は許されません。
しかし、医学では、利益相反を回避していると称される方法は、単に開示することだけです。
あなたがお金を受け取っているという事実を隠さない限り、医師は、お金を受け取り続けることができます。
秘密の賄賂でない限り、賄賂は問題ないと言っているのです。贈収賄が公然と行なわれているわけです。
★利益相反の開示
質問:一部の研究では、利益相反を開示すると事態が悪化することが示されています。
エリオットの回答:
その通りです。1990年代は製薬会社の影響力が最悪の時代でした。製薬業界は、贈り物、講演活動、パーティー、会議のスポンサーなどを通じて、医師に巨大な影響を与えていました。
対策として、オープン・ペイメントのデータベース作成につながりました。 → Home | OpenPayments
このデータベースで、任意の医師を検索し、彼らが製薬業界からどれだけのお金を受け取っているのかを調べることができます。
しかし、状況は改善されていません。
多くの医師が製薬業界からお金を受け取っています。
それで、医師は、製薬業界からお金をもらうのが当たり前のようになりました。
●7.【白楽の感想】
《1》内部告発者
カール・エリオットは、臨床医学の研究で人を実験材料に扱った数件の事件を調べ、大学は不正者を守り告発者を罰している現実を著書『The Occasional Human Sacrifice』(医学研究での人身御供)で示している。
日本の似たような事件もあると思うが、誰が内部告発者でその内部告発者がどのような人生・状況だったのかに焦点を当てた日本の事例集を思いつかない。多分あると期待したいけど、白楽は、調べていない。
白楽は、日本の内部告発者の人生・状況に大きな興味がある。誰か、調べて発表してくれると、ありがたい。
白楽は、生命倫理学や医療倫理学の十分な知識はないが、カール・エリオットが記述した事件のいくつかは、日本でほとんど取り上げられていない、と思うがどうだろう。
また、「Death of Dan Markingson – Wikipedia」によると、被験者が死傷した以下の事件もある。
- ロンドンのPAREXELによるTGN1412研究(セラリズマブ)
- ナイジェリアのカノでのAbduhalli v. Pfizer訴訟
- フランスのレンヌでのBIA 10-2474研究
- イーライリリー社の研究所でのデュロキセチン研究におけるトレイシー・ジョンソンの自殺 [ 89 ]
- ジョンズ・ホプキンス大学医学部でのエレン・ロッシュの死亡[ 90 ]
- ロチェスター大学メディカルセンターでのニコール・ワンの死亡 [ 91 ]
- ニュージャージー州のCRIワールドワイド施設(現在は PRAヘルスサイエンスの一部)でのウォルター・ジョーデンの死亡[ 92 ]
- ペンシルバニア大学のジェシー・ゲルシンガーの死亡
これらの事件は日本でどれほど知られているのだろうか?
《2》自分の欠点
カール・エリオットの著書『The Occasional Human Sacrifice』(医学研究での人身御供)は、カール・エリオット自身が内部告発をして、ひどい目にあっていることもあり、内部告発者の活躍を顕彰する意図があったと思う。
しかし、第7章のレオニッド・シュナイダーの批判を読むと、カール・エリオット自身がマッキャリーニ事件の内部告発者を軽視している。
他人を批判しておいて、自分で同じことをしている。
それを、レオニッド・シュナイダーに指摘されても、配慮しない点、カール・エリオットも問題である。
といっても、白楽を含め人間は、自分の欠点は見えないのに、他人の欠点はよく見えるのも事実である。しかし指摘されれば、対応すべきでしょう。
ただ、指摘されても、対応しない人間が多いのも事実である(白楽を含め?)。
《3》大学は不正者を守り告発者を罰する
カール・エリオット(Carl Elliott)は、「大学は不正者を守り告発者を罰する」と述べている。
シュナイダーの書評によれば、この本は、「告発者は損するだけだ」と述べた著書だと評している。
内部告発者は追放され、解雇され、訴えられ、不正行為で告発される。多くは友人を失い、中には家族を失う。内部告発行為に報酬はない。
他方、不正者はほとんどの場合罰せられない。支援の印として報酬を与えられることさえある。内部告発者は忘れられ、歴史から消され、不正者は懐かしく思い出される。
カール・エリオットは米国の臨床試験での例を挙げているが、臨床試験だけでなくすべての学問分野でも同じだろう。
そして、米国だけでなく、欧州でも同じである。米欧だけでなく、他の国もそうだろう。
で、日本はどうだろう?
米国よりましなのか? 悪いのか?
日本では、ハンセン病患者の扱い、優生保護法による優生手術等、など医療そのものの問題もあるが、これらの問題が表面化したということは、告発者がいたはずである。
その告発者は誰で、どのような状況で告発に至り、その後、どのように扱われたのか、白楽は、浅学にして知らない。
臨床試験での不正以外にも、欧米での告発者は誰で、どのような状況で告発に至り、その後、どのように扱われたのか、興味がある。
欧米のネカト・クログレイでは、ネカトハンターと内部告発者が不正を告発している。ネカトハンターはそれなりに紹介され顕彰されるが、内部告発者はさほど注視されない。ネカト・クログレイでの内部告発者も情報が欲しいところである。
性不正・アカハラでも、「大学は不正者を守り告発者を罰する」。
カナダのプリンス・エドワード・アイランド大学のコリーン・マクアリー教授(Colleen MacQuarrie)も「大学は不正者を守り告発者を罰する」と述べている。 → 2021年12月9日記事:Harassment policy protects university, not victims, says UPEI prof | CBC News
白楽は、ネカト・クログレイの告発率を上げることで、ネカト・クログレイ行為を減らせると考えている。
それで、ネカト・クログレイの日本の内部告発者の実態をもっと知りたいが、断片的な記事を少し見た程度で、状況はつかめていない。そして、内部告発者の情報は得にくい。
2024年12月10日、「内部」告発者の状況をよくわからないまま、白楽自身が「外部」告発者として、日本のネカトを大学・研究所に通報することにした。 → 5C 日本の研究疑惑:通報と対処 目次(1) | 白楽の研究者倫理
2024年11月21日の毎日新聞・記事「内部告発後の解雇、後絶たず ビジネスでも必須な人権という視点 」によれば、内部告発者に関して、企業での改善が検討されている。
企業の間でも内部告発者への報復は後を絶たず、公益通報者保護法の改正に向けた議論が消費者庁の有識者検討会で進む。
- 通報窓口に従業員を置かない企業には刑事罰を科す
- 通報しないと約束させた合意を無効とすることや、通報者の探索の禁止を明記する
- 内部通報に対する報復の防止や救済です。違反に刑事罰を導入することや、通報後に解雇や懲戒処分を受けた場合、裁判でそれが報復ではないという立証責任を事業者に負わせる
企業だけでなく、是非、大学にも適用して欲しい。
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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。