官庁:キツネ撲滅計画(Fox Eradication Program):タスマニア州政府(Tasmanian government)(豪)

2020年11月23日掲載 

ワンポイント:タスマニア州政府(Tasmanian government)は2002年~2014年の12年間にわたって4千万ドル(約40億円)の経費をかけてキツネ撲滅計画(Fox Eradication Program)を実施した。しかし、その間、タスマニアでは、1匹のキツネの捕獲どころか、1匹の死体も、確実な目撃情報もなかった。つまり、キツネは生息していなかったのだ。2016年、イヴァン・ディーン参議院議員(Ivan Dean)は、キツネ撲滅計画の根拠となるデータはねつ造だと主張し、公的調査を要求した。2017年、タスマニア公正委員会(Tasmanian Integrity Commission)のリチャード・ビンガム委員長(Richard Bingham)は、1年にわたる調査の結果、データねつ造はなかったと発表した。国民の損害額(推定)は40億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.日本語の解説
3.事件の経過と内容
4.白楽の感想
5.主要情報源
6.コメント
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●1.【概略】

https://www.portnews.com.au/story/6579188/bushfire-and-ferals-a-recipe-for-disaster/

オーストラリアのタスマニア州政府がキツネ撲滅計画(Fox Eradication Program)を実施した。その実施の根拠がねつ造データに基づいているかどうか、が事件の本旨である。

2003年、タスマニア州政府(Tasmanian government)はタスマニア島の複数の場所に多数のキツネが生息している信じこんで、毒餌を使ったキツネ撲滅計画(Fox Eradication Program)を開始した。

そして、2002年~2014年の12年間にわたって4千万ドル(約40億円)の経費をかけてキツネ撲滅計画(Fox Eradication Program)を実施した。

しかし、その間、及び2020年の現在に至るまで、タスマニアでは、1匹の生きたキツネの捕獲どころか、1匹のキツネの死体も見つかっていない。確実な目撃情報もない。つまり、普通に考えれば、キツネは生息していなかった。

元警察長官のイヴァン・ディーン参議院議員(Ivan Dean)は、キツネ撲滅計画の根拠となるデータがねつ造だ、と長年主張していた。

2016年10月、ディーン議員は、タスマニア公正委員会(Tasmanian Integrity Commission)にネカト調査を申し立てた。

2017年、タスマニア公正委員会(Tasmanian Integrity Commission)のリチャード・ビンガム委員長(Richard Bingham)は、1年にわたる調査の結果、データねつ造はなかったと発表した。

公式にはこの事件はシロなのでタイトルに「無罪」と加えるべきだが、調査報告書は公表されておらず、ディーン議員は、調査結果を信用していない。データねつ造はなかったとの結論は、なんとなく胡散臭い。それでタイトルに「無罪」を入れなかった。

環境保護のため、キツネ撲滅計画は続けた方が良いとする意見もある。本記事ではキツネ撲滅計画の是非を議論する意図はないので、この議論は展開しない。

タスマニア国立公園野生生物保護局(Tasmanian Parks and Wildlife Service)のあるタスマニア州・ホバートの街。2013年1月28日(月)、白楽撮影

  • 国:オーストラリア
  • 集団名:タスマニア州政府
  • 集団名(英語):Tasmanian government
  • ウェブサイト(英語):https://www.tas.gov.au/
  • 事件の概要:タスマニア州政府がキツネ撲滅計画(Fox Eradication Program)を実施した。その実施の根拠がねつ造データに基づいているかどうかが事件の本旨である
  • 事件:キツネ撲滅計画(Fox Eradication Program)
  • 事件の首謀者:タスマニア国立公園野生生物保護局(Tasmanian Parks and Wildlife Service)の責任者(?)
  • 分野:野生生物
  • 不正年:2002年~2014年の12年間
  • 発覚年:2016年
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はイヴァン・ディーン参議院議員(Ivan Dean)が長年追及
  • ステップ2(メディア):「ABC News」、他
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ): ①タスマニア公正委員会(Tasmanian Integrity Commission)
  • 不正:ねつ造
  • 不正論文数:該当論文は不明
  • 被害(者):自殺者、健康被害者はなし
  • 国民の損害額:キツネ撲滅計画が無駄だったとして、40億円(大雑把)
  • 結末:ねつ造なし

●2.【日本語の解説】

なし

●3.【事件の経過と内容】

★背景

オーストラリアには元々キツネは生息していなかった。

1845年、アカギツネ(赤狐、red fox、Vulpes vulpes、写真 by National Park Service , パブリック・ドメイン, リンク)(本記事ではキツネと書く)が欧州からオーストラリア本土に導入された。

1998年5月31日、1匹のキツネがオーストラリア本土のメルボルンの貨物に紛れて海路、タスマニア島に侵入した(以下の図、出典)。この侵入はビデオで撮影されていたので確実だが、1匹では繁殖できないので、生態系保護の観点からは脅威にならなかった。

2001年、タスマニア国立公園野生生物保護局(Tasmanian Parks and Wildlife Service)は、11〜19匹のキツネをタスマニアに放したと報告した(以下の新聞記事、出典)。

タスマニアにキツネを導入した理由を、白楽は理解できていないが、オーストラリア本土にキツネを導入したのは、狩猟を楽しむためだった、とある。同じ理由かもしれない。

このキツネが繁殖し、タスマニアの生態系を撹乱することが危惧された。

★キツネ撲滅計画

キツネはタスマニアの生態系を破壊する。それで、キツネを排除する運動が活発化した。

メディアは、一般の人々がキツネの目撃情報とキツネの物理的証拠を報告するように奨励するキャンペーンを展開した。しかし、報告されたキツネの死体のほとんどは、オーストラリア本土でのキツネの死体だった。つまり、キツネの死体が写っている写真の背景はタスマニアの風景とは異なっていた。それでもその死体の写真を根拠に、タスマニアにキツネが生息していると主張した。

結局のところ、タスマニアにおけるキツネの存在、分布、根絶に関する主張の根拠は、都合のよい死体データ、逸話的なキツネの目撃情報に基づいていた。

ところが、タスマニア州政府は、タスマニアにキツネが生存している「確固たる証拠」があると信じてしまった。

2003年、タスマニア州政府(Tasmanian government)はタスマニアの複数の場所に多数のキツネが生息している信じこんで、毒餌を使ったキツネ撲滅計画(Fox Eradication Program)を開始した。

そして、2002年~2014年の12年間にわたって4千万ドル(約40億円)(5千万ドルという記事もある)の経費をかけてキツネ撲滅計画(Fox Eradication Program)を実施した。

2005年、キツネ撲滅計画を実施して2年間が経過した。この時点で、タスマニアでは誰も生きたキツネを見ておらず、キツネの存在を証明する科学的証拠が全くなかったが、この年、糞の中のmtDNAを分析するとキツネ由来のものと合致するというデータを提示し始めた。

つまり、山野で動物の糞を採取し、その中のmtDNAがキツネ由来のものなので、キツネが生息しているという論法である。

2012年、それから7年後、キャンベラ大学(University of Canberra)のスティーブン・サーレ教授(Stephen Sarre、写真出典)らは、以下の論文に示すように、動物の糞を見つけるように犬を訓練し、1万個の糞を採取し、56個(後に61個と改訂)の糞がキツネ型を示したと報告した。

タスマニアのキツネ分布の生息地固有のモデルを作成し、キツネが現在繁殖していると結論付けた。

しかし、2014年、サーレ論文発表の2年後、クライブ・マークス(Clive A Marks、写真出典)らが、上記の論文はオカシイと、異議を唱える論文を発表した。

【動画1】
クライブ・マークス(Clive A Marks)とイヴァン・ディーンが登場するニュース動画「Expert queries fox eradication program – YouTube」(英語)1分57秒。
ABC News (Australia)が2010/07/19に公開

【動画2】
ニュース動画「Fox taskforce feels the heat – YouTube」(英語)2分00秒。
ABC News (Australia)が2011/05/23に公開

サーレ論文はキツネ特有のmtDNAがあるとして、タスマニアで動物の糞を集め、56個(後に61個と改訂)の糞がキツネ型を示したので、タスマニアのキツネが生息していると主張した。

マークス論文は、しかし、調べると、他の動物の糞のmtDNAでもキツネと出る「擬陽性」が起こるので、サーレ論文で使用した方法ではキツネ特有のmtDNAを特定できない、と結論した。

つまり、糞のDNAデータを含め、タスマニアにおけるキツネの存在、分布、根絶に関する主張の根拠は、ねつ造・改ざんではないけれど、結論を都合よく解釈するズサンな研究だったのだ。

なお、一般論として、広大な陸地から脊椎動物を根絶できた例は人類史上ないそうだ。

タスマニアの陸地の面積の約1%ほどの小さな島からでもキツネを根絶できた例はない。だから、タスマニアにキツネの生息を確認できたとしても、キツネを根絶できると考えるのは人間の能力の過大評価と誤解に基づく、バカげた施策だとされている。

そして、2020年の現在に至るまで、タスマニアには1匹のキツネも見つかっていない。

★調査

元警察長官で現在は参議院議員のイヴァン・ディーン(Ivan Dean – Wikipedia、写真出典)は、キツネ撲滅計画の根拠となるデータはねつ造だ、と長年主張している。

(1)
2001年、タスマニア国立公園野生生物保護局(Tasmanian Parks and Wildlife Service)は、11〜19匹のキツネをタスマニアに放したと報告したことになっている。しかし、後に、タスマニア警察の調査では、タスマニアにキツネを放した証拠が見つかっていない。つまり、データねつ造と思われる。

(2)
そして、2007年4月、ディーン議員は、キツネ撲滅計画の根拠となるデータはねつ造なので、ネカト調査すべきだと主張した。

この時、しかし、一次産業大臣のデイヴィッド・ルエリン(David Llewellyn (Australian politician) – Wikipedia、写真By Drallewellyn Own work CC BY-SA 3.0, Link)は、「キツネはタスマニア州にいる。2006年、コナーラ(Conara)でキツネが殺された。明かにキツネはいる。調査は必要ない」と述べた。

(3)
そして、2016年10月、ディーン議員は、タスマニア公正委員会(Tasmanian Integrity Commission)にデータねつ造の調査を申し立てた。

2017年、タスマニア公正委員会(Tasmanian Integrity Commission)のリチャード・ビンガム委員長(Richard Bingham、写真出典)は、1年にわたる調査の結果、データねつ造はなかったと発表した。

「データねつ造と主張するに足る十分な証拠はありません。調査結果をまとめると、不正行為があったと結論付けるのに十分な事実上の根拠がないという結論に達しました」と述べた。

ディーン議員は、「調査報告書は、キツネ撲滅計画にデータ不正がなかったことを何も示していません。この調査は最初から結論ありきで、示したすべての証拠の多くはセットアップされたものです。不正を否定する明確な物理的証拠はまったくありません」と、調査結果を受け入れないと発表した。

イヴァン・ディーン(Ivan Dean – Wikipedia、写真出典。(ABC News)

●4.【白楽の感想】

《1》政府絡みのネカト

政府絡みのネカトはどの国もそうだけど、事実がそっちのけになってしまう。時の政権が自分たちに都合の良いように結論する。その時の権力者が歴史を作ってしまう。

タスマニア州政府(Tasmanian government)は2002年~2014年の12年間にわたって4千万ドル(約40億円)の経費をかけてキツネ撲滅計画(Fox Eradication Program)を実施した。しかし、その間、タスマニアでは、1匹のキツネの捕獲どころか、1匹の死体も見つかっていない。確実な目撃情報もない。つまり、普通に考えれば、キツネは生息していなかった。

こうなれば、誰がどう見たって、キツネ撲滅計画は大失敗である。約40億円は無駄だったということになる。

その責任者は、もともとキツネが生息していなかったのに、生息しているというデータを出した研究者とそれを信じた官僚・政治家である。

しかし、時の政権は4千万ドル(約40億円)の経費をかけた施策が失敗だったと認めると大きな失点になる。それで、クロをシロと強弁した。

タスマニア公正委員会(Tasmanian Integrity Commission)のリチャード・ビンガム委員長はなさけない人だが、クロをシロと強弁するのに加担した。しかし、彼がその職にあるのは現政権のおかげなので、ヒヨッたのだろう。

日本は残念ながら、ご存じのように「モリカケ桜」をはじめ、忖度過剰はタスマニアよりもひどい。

本来なら、事実を追及する組織は、政権と切り離す必要がある。白楽はお茶大の同僚が主張していた新三権分立が望ましいと思う。日本も米国も立法・司法・行政の三権は、もう分立していないが、その三権分立ではない。

新三権分立は「ポリデミア(政界の意味の新語)」「アカデミア」「マスメディア」の三権分立である。

しかし、これを確立するのは相当難しい。日本の「アカデミア」「マスメディア」はもうほとんど自律性と尊厳を失ってしまった。

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●5.【主要情報源】

① キツネ撲滅計画事件ウェブサイト: Tasmanian Fox?
② 2007年4月19日の「ABC News」記事:Government says foxes are in Tasmania – ABC News
③ 2015年のPLoS ONE論文:Caley P, Ramsey DSL, Barry SC (2015) Inferring the Distribution and Demography of an Invasive Species from Sighting Data: The Red Fox Incursion into Tasmania. PLoS ONE 10(1): e0116631. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0116631
④ 2016年2月29日のアレックス・ブリュッハー(Alex Blucher)記者の「ABC News」記事:Fake fox evidence complaint contains new information, MLC says – ABC News
⑤ 2016年11月29日のドミニク・シュワルツ(Dominique Schwartz)記者とアレクサンドラ・ブリュッハー(Alexandra Blucher)記者の「NewDaily」記事:Tasmania’s Multi-million-dollar fox hunt ‘likely based on hoax’
⑥ 2017年12月18日のティム・モーガン(Tim Morgan)記者の「ABC News」記事:Fox finding: Inquiry clears Tasmanian eradication team of fabricating evidence – ABC News
⑦ 2017年12月19日の「news.com.au」記事:Foxes in Tasmania: $40m corruption probe into fake poo保存版

★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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