シルヴァン・レズネー(Sylvain Lesné)、カレン・アッシュ(Karen Ashe)(米)

2022年7月28日掲載 

ワンポイント:レズネーはフランス生まれ育ち、研究博士号(PhD)を取得した2002年(27歳)、米国のミネソタ大学(University of Minnesota)のアッシュ教授のポスドクになった。現在、同大学の準教授である。ポスドク時代の「2006年3月のNature」論文はアルツハイマー病の「アミロイド仮説」を強力に支持し、被引用回数は2269回と極めて高く、論文は2万1千回もアクセスされた。ところが、16年後の2022年7月21日、「Science」誌がデータねつ造疑惑を記事にした。アルツハイマー病の研究界は大騒ぎ。日本でも大騒ぎ。ミネソタ大学がネカト調査検討中。いずれ、研究公正局案件(多分)。国民の損害額(推定)は2兆円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

シルヴァン・レズネー(シルヴァン・レスネ、Sylvain Lesné、Sylvain E Lesné、ORCID iD:https://orcid.org/0000-0001-9411-1868、写真出典)は、フランス生まれ育ちで、米国のミネソタ大学(University of Minnesota)・準教授になった。医師免許は持っていない。専門は神経生物学(アルツハイマー病)である。

カレン・アッシュ教授(Karen Ashe、写真出典)は、レズネーのミネソタ大学・ポスドク時代の上司で、専門は神経生物学(アルツハイマー病)である。

今回問題視されたのは「2006年3月のNature」論文で、レズネーは第一著者でアッシュ教授が最後著者である。

2022年7月27日現在、「Science」誌の記事掲載から1週間後だが、ミネソタ大学がネカト調査を検討中とある。多分調査し、研究公正局案件になると思われる。

2022年7月27日現在、クロ濃厚という印象だが、レズネーとアッシュ教授がシロなのかクロなのか、クロなら単独犯なのか、共犯なのか、まったく不明である。

本記事では、レズネーを中心に、アッシュ教授を脇役に解説した。

追求した人は、ヴァンダービルト大学(Vanderbilt University)・助教授でアルツハイマー病研究者のマシュー・シュラグ(Matthew Schrag、37歳)である。

2022年7月21日の「Science」記事の書いた人は、チャールズ・ピラー(Charles Piller、写真出典)記者である。

本記事の記載内容は、発覚して1週間以内の情報である。後で間違いだと気がつく部分があると思うので、読者は、そのつもりで読んでください。

ミネソタ大学(University of Minnesota)。写真出典

★シルヴァン・レズネー(Sylvain Lesné)を中心に

  • 国:米国
  • 成長国:フランス
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:フランスのカーン・ノルマンディー大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:1974年x月x日。仮に1974年12月31日生まれとする。フランスで生まれた
  • 現在の年齢:47 歳?
  • 分野:神経科学
  • 不正疑惑論文発表:2003~2018年(28~43歳)の15年間
  • 発覚年:2022年(47歳)
  • 発覚時地位:ミネソタ大学・準教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はヴァンダービルト大学(Vanderbilt University)・助教授でアルツハイマー病研究者のマシュー・シュラグ(Matthew Schrag、37歳)
  • ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「Science」、追従記事多数
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌「Science」。②ミネソタ大学・調査委員会が調査開始(多分)。③研究公正局(多分)
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。まだ未調査
  • 大学の透明性:調査中(ー)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:「パブピア(PubPeer)」では、2003~2018年(28~43歳)の15年間に出版した14論文にコメントがある。カレン・アッシュ(Karen Ashe)は内、2論文しか共著になっていない。撤回論文はない
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:現在なし/li>
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は2兆円(大雑把)。2022年、NIHはアミロイドを含むプロジェクトに約16億ドル(約1600億円)をあてている。10年以上研究しているし、製薬企業も研究しているので、2兆円(大雑把)とした。

●2.【経歴と経過】

★シルヴァン・レズネー(Sylvain Lesné)

主な出典:Sylvain Lesné (0000-0001-9411-1868)

  • 生年月日:1974年x月x日。仮に1974年12月31日生まれとする。フランスで生まれた
  • xxxx年(xx歳):xx大学(xx)で学士号取得:化学
  • 1999年9月~2002年9月26日(24~27歳):フランスのカーン・ノルマンディー大学(Université de Caen-Normandiel)で研究博士号(PhD)を取得:生化学
  • 2002年(27歳):米国のミネソタ大学(University of Minnesota)・ポスドク。カレン・アッシュ(Karen Ashe)研究室
  • 2009年12月1日~2016年5月25日(34~41歳):米国のミネソタ大学(University of Minnesota)・助教授
  • 2016年5月26日(41歳):同・準教授
  • 2022年7月21日(47歳):「Science」誌が研究不正を指摘
  • 2022年7月27日(47歳)現:ミネソタ大学・準教授職を維持:Sylvain Lesné, PhD, MSci | Medical School – University of Minnesota

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
2分38秒のところで「シルヴァン・レズネー」と紹介。
シルヴァン・レズネー(Sylvain Lesné)の講演動画:「From the Lab: Untangling Alzheimer’s Disease with Sylvain Lesné – YouTube」(英語)1時間22分33秒。
UMN College of Continuing & Professional Studies(チャンネル登録者数 2820人 )が2017年10月7日 に公開

【動画2】
カレン・アッシュ(Karen Ashe)の研究の話しの動画:「Why Karen Ashe Does What She Does – YouTube」(英語)1分23秒。
UMN Health(チャンネル登録者数 4340人)が2016/02/16 に公開

●4.【日本語の解説】

発覚してまだ1週間なのに、日本語の記事がたくさんある。

エーザイ株式会社は2022年7月25日、開発中の製品との関係を伝えた。なかなか、適切です。

日本社会は、普段、外国のネカト事件など、ほとんど見向きもしないのに、今回は、どうしてこんなに迅速でかつ多い?

以下は網羅していない。

★2022年7月22日:著者名不記載(食品安全情報blog2):「神経科学の画像探偵がたくさんのアルツハイマー論文に偽造の兆候を発見し、この病気の優勢な理論を脅かす」

出典 → ココ、(保存版) 

Matthew Schragがアルツハイマー病の関係論文に、ラットでの認知機能低下に関連するタンパク質を測定したウエスタンブロットを含む数十の疑わしい画像を発見

Cassava Sciences社が開発中の実験的アルツハイマー薬Simufilamはアミロイドβの脳への沈着を阻止することで認知機能を改善すると主張されている。しかしSimufilam関連論文に偽造の疑いがあるとしてSchragが調査に参加した。彼は改変されたあるいは重複画像を同定した。しかしこれがきっかけで別の不正の調査に関わることになり、アルツハイマー病研究で最も多く引用されている論文の一つを疑う知見を得た。その2006年Natureに発表された影響力のある論文の主著者はSylvain Lesnéである。もしSchragの疑いが正しいなら、アミロイドβサブタイプがラットの認知症の原因であるという説が幻になる。Scienceは6ヶ月の調査でSchragの疑いを強く支持する結果を得た

★2022年7月23日:著者名不記載(niponnese):「神経科学者はアルツハイマー病の研究における不規則性を主張している」

出典 → ココ、(保存版) 

シュラグは、脳内のアミロイドの蓄積がADを引き起こすという仮説を支持するために、何人かの著名な研究者が画像を変更し、それらを何年にもわたって再利用したと主張しています。

続きは、原典をお読みください。

★2022年7月24日:Yuta Kashino

★2022年7月25日:著者かどうか不明だが、佐々木小夜子(問合せ先:執行役 コーポレートコミュニケーション担当)(エーザイ株式会社):「米国科学誌Scienceに掲載されたAβ関連論文について」

出典 → ココ、(保存版) 

エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役 CEO:内藤晴夫)は、2022年7月22日に米国科学誌Scienceに掲載された記事に関して、当社が開発中の抗アミロイドβプロトフィブリル抗体「レカネマブ」とは一切関係がないことをお知らせいたします。

同記事はAβオリゴマーの一種であるAβ*56に関する研究論文の信憑性について調査がされていると報じていますが、本件はレカネマブとは一切関係がありません。レカネマブは、201試験においてAβ除去作用と臨床症状悪化抑制の相関関係が認められており、現在、臨床第Ⅲ相Clarity AD試験を実施中です。

★2022年7月26日:川勝康弘(ナゾロジー):「アルツハイマー病の原因をアミロイドβとする重要論文での捏造疑惑の詳細」

出典 → ココ、(保存版) 

論文捏造でアルツハイマー研究の基礎が揺らいでいます。

米国ヴァンダービルド大学(Vanderbilt University)のマシュー・シュラグ氏(Matthew Schrag)と学術誌『Science』をはじめとした調査により、アルツハイマー病研究に最も強い影響を与え、アルツハイマー病の原因がアミロイドβであることを強く示した『Nature』に掲載された論文に、捏造の可能性が示唆されました。

もし捏造が事実であるなら、これまでアミロイドβをターゲットにした製薬会社の投資やアミロイドβの研究に熱意を注いだ研究者たちの努力の多くが危機にさらされるでしょう。

★2022年7月27日:松岡由希子(ニューズウィーク日本版):「アルツハイマー病の原因はアミロイドβ、とした重要論文で画像操作の可能性が明らかに」

出典 → ココ、(保存版) 

米ミネソタ大学(UMN)のシルヴァン・レーヌ准教授らの研究チームは、2006年3月16日付の学術雑誌「ネイチャー」で、「『アミロイドベータスター56(Aβ*56)』というオリゴマー種がアルツハイマー病に関連する認知障害に寄与している可能性がある」との研究論文を発表した。

アルツハイマー病の早期治療における有望な標的として「アミロイドベータスター56」が注目され、この研究論文はこれまでに2269本の学術論文で引用されている。

しかし学術雑誌「サイエンス」は2022年7月21日、6カ月にわたる調査の結果、「この研究論文は画像操作され、結果が捏造されたおそれがある」と報じた

続きは、原典をお読みください。

★2022年7月27日:著者名不記載(ABEMA Prime):「16年前の論文に捏造疑惑…世界の研究者の長年の努力は無駄に?今後の研究や創薬への影響は?『アルツハイマー征服』著者に聞く」

出典 → ココ、(保存版) 

アメリカの科学誌『Science』が認知症の一つであるアルツハイマーの研究論文について捏造の疑いがあると報じた。

【映像】アルツハイマー論文に捏造疑惑…治療薬開発に影響は? → 以下の画像をクリック

 指摘を受けたのはイギリスの科学誌『Nature』が2006年に掲載した論文で、用いられた画像が研究者の都合の良い結果になるよう操作されたものだったというのだ。

 全世界に5500万人以上いるといわれる認知症患者の6~7割を占めているとされるアルツハイマー。待ち望まれている効果的な治療法の研究にも影響があるのではないかと、波紋が広がっている。

続きは、原典をお読みください。

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★シルヴァン・レズネー(Sylvain Lesné)

シルヴァン・レズネー(Sylvain Lesné、写真出典)はフランスで生まれ育ち、2002年9月(27歳)、フランスのカーン・ノルマンディー大学(Université de Caen-Normandiel)で研究博士号(PhD)を取得した。

その2002年(27歳)、米国のミネソタ大学(University of Minnesota)のカレン・アッシュ教授(Karen Ashe)の研究室のポスドクになった。

2009年12月1日(34歳)、同・大学・助教授に就任し、7年後の2016年5月26日(41歳)に準教授に昇進した。

今回問題視されたのは「2006年3月のNature」論文である。レズネーは第一著者でアッシュ教授が最後著者である。

この論文は、アルツハイマー病の「アミロイド仮説」を強力に支持した。論文は学術界で注目を浴び、被引用回数は2269回と極めて高く、論文は2万1千回もアクセスされた。

論文が発表されてから2週間も経たないうちに、アッシュ教授は名誉ある神経科学のPotain Gold Medalを受賞した。

シルヴァン・レズネー(Sylvain Lesné)のグラントを調べると、単独ではNIHからもNSFからも獲得できていない。 → Grantome: Search: Sylvain Lesné

しかし、2021年5月、レズネーはNIHから5年間のR01グラント(2022年に$764,792(約7600万円))が採択された。 → RePORT ⟩ RePORTER

★カレン・アッシュ教授(Karen Ashe)

カレン・アッシュ教授(Karen Ashe、似顔絵の右:出典)は、中国人の研究者のもと、米国で生まれ育った。

17歳でハーバード大学に入学した時は1年生を飛び越して2年生から始めた天才少女だった。

1982年、27歳で、ハーバード大学医科大学院(Harvard Medical School)で医師免許を取得し、同時にマサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology、MIT)で研究博士号(PhD)を取得した。

カリフォルニア大学サンフランシスコ校での研修医時代は、ノーベル賞受賞者のスタンリー・プルシナー(Stanley Prusiner)の研究室で、神経障害を引き起こす感染性タンパク質であるプリオンの先駆的な研究に貢献している。

アッシュ教授の生まれ育ち・学歴・研究キャリアは、米国のトップ・エリートである。

なぜ、ミネソタ大学(University of Minnesota)の教授かと言えば、両親がそこの教授だったことと、その地で生まれ育ったからだと思う。

アッシュ教授は多額の研究費を得ている。

1990~2021年の32年間に72件のNIHグラントと1件のNSFグラントを獲得している。とても優秀である。以下、2018~2021年の7件のNIHグラントを示した。 → Grantome: Search: Karen Ashe

★アルツハイマー病の「アミロイド仮説」

アルツハイマー病の原因は、脳組織の中にアミロイドβペプチドが蓄積するためだというのが、「アミロイド仮説」である。 → アミロイドβタンパク質 – 脳科学辞典

1906年、ドイツの病理学者アロイス・アルツハイマー(Alois Alzheimer)は、亡くなった認知症患者の脳に斑点(老人斑)やタンパク質の沈着物がみられることを最初に発見した。

福井大学の濱野忠則らの画像。出典:https://www.u-fukui.ac.jp/wp/wp-content/uploads/press-release_-Tadanori-Hamano.pdf

1984年、アミロイド・ベータ(Amyloidβ、略してAβ)(42個のアミノ酸のペプチド)が老人斑の主成分として特定された。 → Glenner GG, Wong CW.:Alzheimer’s disease: initial report of the purification and characterization of a novel cerebrovascular amyloid protein – PubMed

多くの科学者は、Aβの蓄積が脳内の神経細胞を損傷し機能不全を引き起こし、結果として、認知症になるという流れを受け入れている。

そうなら、アミロイドの脳内沈着を阻止すれば、アルツハイマーを治療できるということになる。それで、現在、世界のあちこちで、その方向での医薬品開発が熱心にすすめられている。

国立長寿医療研究センター・神経遺伝学研究部・飯島浩一・部長の説明を以下に引用しよう(画・関谷倫子、榊原泰史(神経遺伝学研究部)※一部、bioRENDERを用いて作画した) → 出典:https://www.ncgg.go.jp/ri/column/01.html保存版

アルツハイマー病は、老化に伴いアミロイドβと呼ばれるペプチド(42個のアミノ酸が鎖状につながった分子)が、脳に溜まることが原因だと考えられています(図)。

アミロイドβは、健康な人の脳の中にも存在しますが、脳の中で分解されたり、脳の中から排出されたりするので、すぐに脳の中に溜まることはありません。しかし、老化やその他の理由で、脳の中で老廃物を処理する能力が弱まると、溜まってきたアミロイドβがお互いにくっつきあって(これを重合といいます)、ますます分解や排出を受けにくくなります。するとそれらが次第に大きくなり、老人斑(アミロイド斑)と呼ばれる大きなかたまりを形成します(図1)。この老人斑が、脳にたくさん溜まってくると、神経細胞が死んでしまい、脳が正常に働かなくなるために、認知症を発症すると考えられています。この考え方は、「アミロイド仮説」と呼ばれています。

★レズネーとアッシュ教授の「アミロイド仮説」への貢献

ミネソタ大学のカレン・アッシュ教授(Karen Ashe)の「アミロイド仮説」への貢献は以下のようだ。

1990年代半ば、カレン・アッシュ教授(Karen Ashe)は大量のヒトAβを合成するトランスジェニック・マウスを作成し、マウスの脳に老人斑(Aβ凝集体)を作るのに成功した。

このマウスは認知症のような症状を示し、アルツハイマー病の優れた実験動物になった。

レズネーとアッシュ教授らはこのトランスジェニック・マウスの脳にAβ*56(アミロイド・ベータ・スター・56と発音する)と呼ばれるこれまで知られていなかった分子量56 kDaのオリゴマーを発見した。その論文が今回問題視されている「2006年3月のNature」論文である。

同論文で、単離したAβ*56を若いマウスに注射すると、マウスの記憶能力が劇的に低下した、と報告している。

この論文は、Aβ*56がマウスに認知症を引き起こす決定的な証拠を示していて、「2006年3月のNature」論文は、当時の学界にセンセーションを巻き起こした。

Aβ*56は、アルツハイマー病の研究で発見された物質で、記憶障害を引き起こす可能性のある脳組織の最初の物質である。

「ネイチャー」誌は、「Aβ*56はアルツハイマー病の最大の容疑者である」という内容の社説記事を発表し、アルツハイマー病のフォーラムである「アルツフォーラム(ALZFORUM)」は「Aβのスター誕生?(Aβ Star is Born?)」と、持ち上げた。

アッシュ教授は論文出版から2週間も経たないのに、Aβ*56の研究で、神経科学分野での著名な「ポタムキン賞(Potamkin Prize )」を受賞した。

2022年、NIHはアミロイドを含むプロジェクトに約16億ドル(約1600億円)をあてている。これは、アルツハイマー病の全資金の約半分である。

★発覚の経緯

2021年8月(47歳)、ヴァンダービルト大学(Vanderbilt University)・助教授でアルツハイマー病研究者のマシュー・シュラグ(Matthew Schrag、37歳、写真出典)は、後にレズネーの「2006年3月のNature」論文のネカト発見に至る電話を受けた。

この電話は、キャッサバ・サイエンシズ社(Cassava Sciences, Inc.)の開発したアルツハイマー病の治療薬・シムフィラム(simufilam)に関するものだった。この話は既に記事にしたし、ここの書くと長く・複雑になるので、簡単に触れるだけにする。 → ホァウヤン・ワン(Hoau-Yan Wang)、リンゼイ・バーンズ(Lindsay Burns)、キャッサバ・サイエンシズ社(Cassava Sciences, Inc.)(米) | 白楽の研究者倫理

シュラグは、アルツハイマー病の論文に研究不正がないか調査した。そして、レズネーの数十報の論文に明らかに改ざんされた画像、重複使用の画像を見つけたのだ。シュラグは調査内容をNIHに送った。

「Science」誌は、シュラグの調査に基づき、シュラグの協力のもと、レズネーの論文を6か月間調査した。

「Science」誌は、ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik、左写真出典)と英国のジャナ・クリストファー(Jana Christopher、右写真出典)の2人の画像アナリストに独立に、シュラグの調査結果を評価するよう依頼した。

いくつかの操作は、画像処理中に不注意に発生したデジタル・アーティファクトの可能性はあるとした。しかし、全体的にシュラグの調査結果は説得力があり健全だとビックは結論し、クリストファーもほぼ同じ意見だった。

2022年7月21日、チャールズ・ピラー(Charles Piller)記者がその結果を記事に掲載した。

レズネーが第一著者でアッシュ教授が最後著者の「2006年3月のNature」論文はネカト論文だったのだ。

2269回も引用され、2万1千回もアクセスされた「Nature」論文にデータねつ造があると、誰が思ったか?

この画期的な論文は、16年間にわたって世界のアルツハイマー病の研究を誤解させてきた。

アルツハイマー病の「アミロイド仮説」を信じて、キャッサバ・サイエンシズ社(Cassava Sciences, Inc.)は「アミロイドベータ(Ab)の脳沈着をブロックする」タンパク質を抑制することで、アルツハイマー病を治療しようと医薬品・シムフィラム(simufilam)を開発した。シムフィラム(simufilam)は、食品医薬品局(FDA)に承認されたが、臨床試験のデータねつ造疑惑で、キャッサバ・サイエンシズ社(Cassava Sciences)の株価は大暴落し、約3600億円を失った。 → ホァウヤン・ワン(Hoau-Yan Wang)、リンゼイ・バーンズ(Lindsay Burns)、キャッサバ・サイエンシズ社(Cassava Sciences, Inc.)(米) | 白楽の研究者倫理

★懐疑派

「2006年3月のNature」論文は画期的な発見である。

レズネーとアッシュ教授は、その後、2022年の現在に至る16年間で、別々にまたは共同で、Aβ*56に関する多くの論文を発表している。

しかし、世界中の他の研究室からは、Aβ*56を検出したというの論文が少ししか報告されていない。その数は1桁に満たない。

米国のケンタッキー大学(University of Kentucky)のアルツハイマー病の専門家であるドナ・ウィルコック教授(Donna Wilcock、写真出典)は、「精製された」Aβ*56の研究に長い間、常に懐疑的だった。

Aβ*56オリゴマーは不安定なので、自動的に他のタイプのオリゴマーに変わる。Aβ*56オリゴマーを精製したとしても、サンプル中に複数のタイプのオリゴマーが存在する可能性がある。

実際、いくつかの研究室がAβ* 56の検出を試みたが失敗した。検出を発表した論文もほとんどない。学術誌は否定的な結果に興味がないので、検出失敗の論文は出版されない。また、アッシュ教授のような著名な研究者の主張と矛盾する研究成果を発表することを多くの研究者は躊躇する。

それで、認知効果がAβ*56のみによるものだというアッシュ教授に批判的な論文は今までほとんど出版されていなかった。

★数百の画像が疑惑

テキサス大学サンアントニオ校(University of Texas, San Antonio)のジョージ・ペリー教授(George Perry (neuroscientist) – Wikipedia)、 カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のジョン・フォーサイス教授(John Forsayeth)など、一流の画像アナリストでアルツハイマー病の一流研究者に「Science」誌が依頼してシュラグの調査結果を評価してもらった。

彼らは、シュラグの調査結果をほぼ正しいと認め、レズネーの70論文の数百の画像に疑念があると指摘した。

フォーサイス教授は、「研究成果を発表する時、室員の持ってきたデータを慎重に精査しなくてなならないアッシュ教授は明らかにその非常に重要な義務を果たすのに失敗しました」と、指摘した。

ケンタッキー大学(University of Kentucky)のアルツハイマー病の専門家であるドナ・ウィルコック教授(Donna Wilcock)は、驚くほど露骨な画像操作があると指摘した。

画像分析で有名なネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik、写真出典)は、著者はさまざまな実験の写真をつなぎ合わせ、仮説に合うように実験データを改ざんしてデータを作成したように思えると、述べている。

2013年に神経科学でノーベル賞を受賞したスタンフォード大学(Stanford University)のトーマス・スードフ(Thomas C. Südhof – Wikipedia)は、「最も明らかな被害者はNIHとこの分野の研究者です。NIHは助成した研究費が無駄になった。そして、この分野の研究者のほとんどは、レズネーの論文を土台に研究を組み立てているからです」と述べた。

なお、レズネーは「Science」誌の問い合わせに答えていない。

また、ミネソタ大学の広報官はレズネーのネカト調査を検討していると述べている。

今後、ミネソタ大学によるネカト調査、その後、研究公正局の調査になると思われる。そうなると、数年かかるので、レズネー事件の決着は3年後の2025年頃だろう。

★カレン・アッシュ(Karen Ashe)のコメント

カレン・アッシュ教授(Karen Ashe)は「Science」誌が提起した書面による質問に答えることを拒否した。

そして、「私はまだAβ* 56を信じています」。「私はこの研究に引き続き興奮しており、初期的であるが有望な結果を持っています。Aβ療法がまだ機能する理由を説明できる可能性はあると信じています」と述べている。

「Science」誌には答えなかったが、アッシュ教授はパブピアやALZFORUMでは長いコメントを書いている →  2022年7月22日のマドリン・ロジャーズ(Madolyn Bowman Rogers)記者の「ALZFORUM」記事のコメント欄:Sylvain Lesné, Who Found Aβ*56, Accused of Image Manipulation | ALZFORUM

「Science」記事で提起されたデータねつ造疑惑はレズネー博士が現在ミネソタ大学で正式に調査中であるため、指摘された画像に関するコメントはできない、と断りつつ、印象としては、提起された問題に誠実に答えようとしている。

かいつまんで書くと以下のようだ。

私の発表した研究(Liu et al。、2015; Ashe、2020)に基づくと、Aβは、タイプ1とタイプ2があることが明らかです。タイプ1(Aβ* 56)はマウスの記憶機能を損なう。タイプ2 はアミロイド斑に見られる。薬剤開発者はこのタイプ2を標的にしていて、タイプ1を標的とする臨床試験はありません。

「Science」記事では、2つのタイプを誤って混同しています。

アルツハイマー病の原因を理解し、患者にとってより良い治療法を見つけるために何十年も研究してきたので、主要な科学雑誌が私の研究をひどく誤って伝えていることを見るのは苦痛です。

【ねつ造・改ざんの具体例】

★「2006年3月のNature」論文

今回、最も問題視されたのは「2006年3月のNature」論文である。レズネーは第一著者でアッシュ教授が最後著者である。2022年7月14日、懸念表明が付いた。

パブピアでバンドの画像操作の指摘、それに対して、アッシュ教授が元データを提示して、丁寧に対応している。

バンドの画像操作はかなり微妙で、同じ画像なのか、出版社が論文出版の過程で、画像処理中に不注意に発生したデジタル・アーティファクトなのか、とてもわかり難い。

以下に「#13 Thrips urticae」が指摘した図2aの問題点を示すが、わかりにくので説明は止めた。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/8FF7E6996524B73ACB4A9EF5C0AACF?

――――――――――以下は図2a

★「2017年6月のProc Natl Acad Sci U S A.」論文

疑問視されている論文は14報もある。比較的最近の「2017年6月のProc Natl Acad Sci U S A.」論文を見てみよう。レズネーは最後著者でアッシュ教授は共著者に入っていない。

レズネーの画像操作は巧妙で、不正をとても見つけにくい。

以下に3つの不正画像を示すが、2番目は、簡単に理解できるのを選んだ。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/187EF2DC5FFB84CF7621228042AE24

――――――――――以下は図3で、「#1 Doronicum reticulatum」の指摘

一見わからないが、拡大しコントラストを付けると、同じ画像が出てくると説明されている。加工が巧妙で、説明されてもわかりにくい。

――――――――――以下は図S1で、「#2 Doronicum reticulatum」の指摘

同じ色で囲った部分が同じ画像。これはわかりやすい。

――――――――――以下は図S5で「#5 Elisabeth M Bik」の指摘

同じ色で囲った部分が同じ画像。わかりにくい。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2022年7月27日現在、パブメド(PubMed)で、シルヴァン・レズネー(Sylvain Lesné)の論文を「Sylvain Lesné[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2021年の20年間の37論文がヒットした。

カレン・アッシュ(Karen Ashe)は37論文の内、2006~2013年(31~38歳)の7年間の7論文で共著者になっている。

2022年7月27日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2022年7月27日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでシルヴァン・レズネー(Sylvain Lesné)を「Sylvain Lesné」で検索すると、 0論文が訂正、0論文が懸念表明、0論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2022年7月27日現在、「パブピア(PubPeer)」では、シルヴァン・レズネー(Sylvain Lesné)の論文のコメントを「Sylvain Lesné」で検索すると、本記事で問題にした「2006年3月のNature」論文を含め14論文にコメントがあった。

14論文は、2003~2018年(28~43歳)の15年間に出版した論文で、カレン・アッシュ(Karen Ashe)は内、2論文しか共著になっていない。

●7.【白楽の感想】

《1》湯気の立っている事件 

2022年7月21日、「Science」誌が「2006年3月のNature」論文のデータねつ造・改ざ疑惑を記事にしたのを受け、本記事を執筆した。レズネーはこの論文の第一著者でアッシュ教授が最後著者である。

つまり、本記事(2022年7月28日)の7日前に発覚した事件である。

ミネソタ大学がネカト調査中で、結論はでていない。もちろん、研究公正局の発表もない。

白楽ブログは、研究者倫理事件をいち早く伝えるブログではない。ある程度評価の定まった、つまり、発覚後、数か月~数年(時には、数十年)した、いわば確立・熟成した事件を記事にすることが通常である。

そうでなければ、ネカト発生の原因や問題点を把握し、ネカト予防策を立てるのに役立たない。スキャンダルを面白がって報道する芸能ニュースの立場とは一線画しているつもりだ。

ただ、時々、確立・熟成した事件を解説する、このスタイルは読者をダマしている面があるとも感じている。

事件発覚から数か月~数年(時には、数十年)経過してからの記事は、多少のゴタゴタはあっても、研究者倫理事件はすんなり調査・決着しているのだと、ある意味、読者に思わせている可能性がある。

もちろん、すんなり調査・決着する事件もあるが、多くの研究者倫理事件は、告発者への嫌がらせ、関係者間のいがみ合い、力関係、大学上層部の保身、隠蔽工作、学術界以外からの圧力、など紆余曲折を経て、事件の実態・評価が定まっていくのである。

それに、初期の報道が間違っていることもある。

そして、事件は年月とともに風化し、忘れ去られていく。政府・社会・学術界は、ほぼ100%、事件からなにも学ばずにである。

今回は、そのことを知った方がいいかなと、湯気の立っている事件の記事を書いてみた。

今後、本記事の内容に修正や追加があると思う。

シルヴァン・レズネー(Sylvain Lesné)研究室でお寿司を食べているようです。出典:https://lesnelab.org/people/保存版

《2》アミロイド仮説

アルツハイマー病の「アミロイド仮説」、どうなっていくのだろう?

Aβ*56の存在は否定されるのだろうが、多くの国民はそんなのどうでもいい。

アルツハイマー病の治療薬を早く見つけて欲しいだけだ。

後期高齢者になった白楽には、アルツハイマー病は、他人ごとではない。

なお、この記事は、頭痛、37.7度の発熱状態で書いている。

昨日、4回目のコロナワクチンを接種した。昨日は発熱しなかった。しかし、今日は、朝から、身体じゅうがダルい。頭と喉が痛い。発熱している。

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。しかし、もっと大きな視点では、日本は国・社会を動かす人々が劣化している。どうすべきなのか?
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●9.【主要情報源】

①-1  ウィキペディア英語版:Sylvain Lesné – Wikipedia
①-2  ウィキペディア英語版:Karen Ashe – Wikipedia
② ◎2022年7月21日のチャールズ・ピラー(Charles Piller)記者の「Science」記事:Potential fabrication in research images threatens key theory of Alzheimer’s disease | Science | AAAS
③ 2022年7月22日のロビン・ブリスボーン(Robin Brisbourne)記者の「Alzheimer’s Research UK」記事:Research misconduct is serious – but research into Alzheimer’s is still on track
④ ◎2022年7月22日のマドリン・ロジャーズ(Madolyn Bowman Rogers)記者の「ALZFORUM」記事:Sylvain Lesné, Who Found Aβ*56, Accused of Image Manipulation | ALZFORUM
⑤ 2022年7月22日のシンチン・イェン(新智元)記者の「知乎」記事:Science揭露奠基研究最大骗局:被引2300多次,重量级造假论文误导学界16年 – 知乎
同じ記事の英語版?:2022年7月25日の記事:Science exposes the biggest scam in groundbreaking research: cited more than 2,300 times, and heavyweight fake papers have misled the academic community for 16 years – iMedia
⑥ 2022年7月23日のウィリアム・アダムス(William Adams)記者の「Breaking U.S. News & Latest World News」記事:A shocking investigation puts doubt on the direction of Alzheimer’s research | List23: Latest U.S. & World News
⑦ 2022年7月25日のハワード・グレックマン(Howard Gleckman)記者の「Forbes」記事:Was Key Alzheimer’s Research Manipulated?
⑧  2022年7月27日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ記事:Silvain Lesné is a failed scientist – For Better Science
⑨ 2022年7月27日のチャーピン・ジン(差评君)記者の「风闻」記事:误导全球16年,百亿经费全泡汤?这次论文造假,没那么夸张。_风闻

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