7-164 マフディ・シャリアティ(Mahdi Shariati)の引用/査読カルテル

2025年1月10日掲載

白楽の意図:ベトナムで頻発した引用不正、査読偽装、論文工場、大学ランキング不正操作に対抗するトゥ・ズオン(Tu Duong)の戦いを「7-163 ベトナムの活発な研究公正運動」に書いた。今回はその関連記事である。ベトナムのトンドゥックタン大学・非常勤教授のシャリアティの悪行(引用/査読カルテル)を解析したフレデリック・ジョエルヴィング(Frederik Joelving)の「2024年10月のRetraction Watch」論文を紹介しよう。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.日本語の予備解説
2.ジョエルヴィングの「2024年10月のRetraction Watch」論文
7.白楽の感想
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【注意】

学術論文ではなくウェブ記事なども、本ブログでは統一的な名称にするために、「論文」と書いている。

「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。

記事では、「論文」のポイントのみを紹介し、白楽の色に染め直し、さらに、理解しやすいように白楽が写真・解説を加えるなど、色々と加工している。

研究者レベルの人が本記事に興味を持ち、研究論文で引用するなら、元論文を読んで元論文を引用した方が良いと思います。ただ、白楽が加えた部分を引用するなら、本記事を引用するしかないですね。

●1.【日本語の予備解説】

★2025年1月5日:7-163 ベトナムの活発な研究公正運動

7-163 ベトナムの活発な研究公正運動

●2.【ジョエルヴィングの「2024年10月のRetraction Watch」論文】

★読んだ論文

●【論文内容】

★論文販売の宣伝

2023年、米国の研究者A(匿名希望)は、ベトナムのトンドゥックタン大学(Ton Duc Thang University)・土木工学・非常勤教授であるマフディ・シャリアティ(Shariati, Mahdi、写真出典)から「論文を発表する素晴らしい機会(A great opportunity to publish an article)」という件名の電子メールを受け取った。

以下は「撤回監視(Retraction Watch)」が公開したその電子メールの冒頭部分(出典:同)。全文(2ページ)は → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2024/10/Email-from-Shariati-redacted.pdf
シャリアティは、研究者Aの論文を読み、その質の高さに感銘を受けたと述べ、「あなたと協力し、あなたの素晴らしい論文を共同で発表できることを光栄に思います」と付け加えた。

共著で論文発表する利点として次の提案をした。

  1. 出版の保証:私たちの共同論文は、インパクトファクターの高い権威ある学術誌に掲載されることを保証します。これで、あなたの研究が高い評価と注目を得られます。
  2. 生涯引用:私と提携することで、あなたの論文は生涯引用されつづけ、学術界での評価が高まりつづけます。連携は、あなたの研究成果が幅広い研究者に読まれ、引用される機会を提供します。

★超人的な研究者

クラリベイト社(Clarivate)のWeb of Science によると、シャリアティは12,000回以上引用され、工学分野で被引用数が最も多い研究者の一人だった。なお、ここではマレーシアのマラヤ大学所属である。 → Mahdi Shariati – Web of Science Researcher Profile(以下の図出典も)

シャリアティは大手出版社の学術誌の査読者を頻繁に務めており、2023年はSage社とMDPI社の学術誌の両方のゲスト編集者を務めていた。 → Mahdi Shariati (0000-0002-0440-7612) – ORCID

しかし、シャリアティから共同研究の申し出を受けた研究者Aは、シャリアティのプロフィールが「非常に疑わしい」と感じた。

シャリアティの Google Scholarページ(‪Mahdi Shariati‬ – ‪Google Scholar‬)によると、彼は中国の安徽工科大学(あんきこうかだいがく、Anhui University of Technology)に所属していて、安徽工科大学の最多被引用者・第1位だった。 → Anhui University of Technology Ranking and Analysis(以下の図出典も)‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬

と同時に、ベトナムのズイタン大学(DTU:Duy Tan University)でもトップランクの科学者に名を連ねていた。 → 27 DTU Researchers featured among the World’s Top 2% Scientists List in 2022 – Tin tức Đại học Duy Tân(以下の図出典も)

★疑惑

ベトナムでは最近、引用操作などの出版行為が厳しい監視対象となっている。

シャリアティの所属をマレーシア、中国、ベトナムなど複数の国の大学だと書いてきたが、最近の論文では、所属大学をエクアドルのキトにあるUTE大学(UTE University)としていた。

しかも、シャリアティのLinkedInプロフィールによれば、彼はオーストラリアに拠点を置き、客員研究員または教授としてリモートで勤務していると書いていた。 → 2025年1月8日、白楽が調べると、その記述はなかった(削除された?): Mahdi Shariati | LinkedIn

撤回監視・論文著者のジョエルヴィングはシャリアティに、共著と提案した論文原稿の出版と被引用を、論文投稿前にどうして保証できるのかと、電子メールで問い合わせたが、返事はこなかった。

保証できるのは、引用/査読カルテルが稼働しているからなのだ。

撤回監視のデータベースによると、シャリアティの3論文は、重複出版、盗用、著者名操作、画像操作などの理由で撤回されていた。 → Retraction Watch Database

ネカトハンターのニック・ワイズ(Nick Wise)は、シュプリンガー・ネイチャー社の学術誌『Engineering With Computers』の以下の論文は、シャリアティが査読したと指摘した。

上記の論文は、シャリアティと引用契約した研究者の61論文を引用していた。

上記の論文は、ナント、出版前に「著者に名前を加えることができます」、と著者在順を売る宣伝を、メッセージ・プラットフォームのTelegram でしていた(以下出典:PubPeer)。

シャリアティが査読をした他の2つの論文も、パブピア(PubPeer)で問題点が指摘されていた。

1つの論文は、CT スキャンから疾患を診断するためのニューラル ネットワークの使用に関する以下の論文だが、この論文は、「El-Hoseny M」または「Elhoseny M」の論文を35報も引用していた。

以下に示す積層マイクロシステムの安定性解析に関する別の論文では、「Elhoseny M」の論文を46報も引用していた。

「Elhoseny M」は、シャリアティの引用/査読カルテルの会員または顧客だと思われる。

ワイズはさらに、「私が指摘した論文と同様の論文は他にもたくさんあり、それぞれシャリアティによる異常な引用が数十論文はある」と述べている。

シャリアティの電子メールのドメインは、カヴィル・グループ(Kavir Group)が所有し、モジタバ・シャリアティ(Mojtaba Shariati)が率いるオーストラリアのカルット・コンサルティング社(Calut Consulting)の関連ドメインから送信されていた。  → Publish Research Papers with Top Scientists’ Guidance | Calut Consulting

LinkedInによると(2025年1月8日現在削除されている)、モジタバ・シャリアティはイランの建設会社であるシャリアティ・コーポレーション(Shariati Corporation)の社長でもある。

モジタバ・シャリアティ(Mojtaba Shariati)とブログ記事の主役であるマフディ・シャリアティ(Mahdi Shariati)は姓が同じなので、同一人物なのか、親族なのか、それとも、無関係なのか、不明である。

カルット・コンサルティング社(Calut Consulting)はウェブサイトで次のように述べている。FAQ | Calut Consulting

私たちは、原稿の準備から適切な学術誌の選択、論文の投稿、論文改訂の支援など、論文が出版されるまでの出版プロセスのあらゆる段階を支援します。

ウェブサイト(About Us | Calut Consulting)によると、同社のチームには「環境科学、土木工学、機械工学、人工知能、健康科学など、複数の分野にわたって多様な専門知識、高度なスキルを持つ研究者や専門家」がいるという。

「引用/査読カルテルに参加している人物Xが、人物Xのカルテルを暴露したことを知ったら、人物 Xはカルテルを利用して、私たち全員(私と私の同僚)を攻撃し排除するでしょう。人物Xのネットワークは巨大です」と情報源の研究者Aは匿名でいたい理由を説明した。

●7.【白楽の感想】

《1》引用/査読カルテル 

情報源の研究者Aは「人物Xのネットワークは巨大です」と述べている。

世界に引用/査読カルテルがいくつあって、学術論文界にどれだけ浸透しているのか?

ネカトハンターが引用/査読カルテルを叩くのはわかり易い。

しかし、ネカトハンターが個人的にモグラたたきしても追い付かないと思う。

善玉学術出版社と引用/査読カルテルとの、現在の戦いの状況はわからないが、世界の学術界連合とか、学術出版社全体が乗り出して研究成果公表システムを浄化しないと、解決しない気がする。

引用/査読カルテルが扱う論文数を年間数十万論文(数値の根拠は薄弱です)とし、1本1万円なら、得られる収入は数十億円になる。

日本人がどれだけ絡んでいるのか?

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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