コウノスケ・ワタベ(Kounosuke Watabe、渡部浩之輔)(米)

2025年8月15日掲載

ワンポイント:渡部は1981年11月に京都大学で農学博士号(甲)を取得後、渡米し、ポスドクを経て南イリノイ州立大学・教授になった。20年以上勤務した後の2015年(63歳?)、ウェイク・フォレスト大学医科大学院・教授に移籍した。2024年5月(72歳?)、ネカトハンターのケビン・パトリック(Kevin Patrick)が渡部の2018~2022年の論文に重複画像があると指摘。現在、3論文が撤回、6論文が訂正されている。ウェイク・フォレスト大学がネカト調査しているかどうか不明。国民の損害額(推定)は5億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
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●1.【概略】

コウノスケ・ワタベ(Kounosuke Watabe、渡部浩之輔、ORCID iD:?、写真出典)は、日本の京都大学で1981年に博士号(応用生化学)を取得し、その後、米国のウェイク・フォレスト大学・医科大学院(Wake Forest University School of Medicine)・教授になった。医師免許は持っていない。専門はがん転移である。

日系人なので、以後、なるべく、渡部浩之輔または渡部と記載する。

2024年5月(72歳?)、ネカトハンターのケビン・パトリック(Kevin Patrick)が渡部の2018~2022年の論文に重複画像があると指摘した。

2025年8月14日(73歳?)現在、3論文が撤回、6論文が訂正されている。

ウェイク・フォレスト大学がネカト調査しているかどうか不明。

渡部は、NIHから約13億円の研究費を得ているので、今回の事件は研究公正局のクロ案件になると思う。ただし、ネカト実行者は渡部ではなく、室員の誰かだろう。

wakeforestschoolofmedicine-sliderウェイク・フォレスト大学・医科大学院(Wake Forest University School of Medicine)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:日本
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:京都大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1952年1月1日生まれとする。2008年7月8日の記事に56歳とあった
  • 現在の年齢:73 歳?
  • 分野:がん転移
  • 不正論文発表:2018~2022年(66~70歳?)の5年間
  • ネカト行為時の地位:ウェイク・フォレスト大学・医科大学院・教授
  • 発覚年:2024年(72歳?)
  • 発覚時地位:ウェイク・フォレスト大学・医科大学院・教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はネカトハンターのケビン・パトリック(Kevin Patrick)で、「パブピア(PubPeer)」に記載
  • ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ウェイク・フォレスト大学が調査しているかどうか不明。②研究公正局は発表なし
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査しているかどうか不明
  • 大学の透明性:調査していない?(ー)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:3報撤回、6報訂正
  • 時期:研究キャリアの後期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:なし
  • 対処問題:
  • 特徴:外国で活躍する日本人研究者
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は5億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:①:Kounosuke Watabe | Walsh Medical Media | 15914、②:Kounosuke Watabe | Scholar Profiles and Rankings | ScholarGPS

  • 生年月日:不明。仮に1952年1月1日生まれとする。2008年7月8日の記事に56歳とあった
  • 1976年(24歳?):xx大学(xx)で学士号取得:xx学
  • 1978年(26歳?):xx大学(xx)で修士号取得:xx学
  • 1981年11月24日(29歳?):日本の京都大学(Kyoto University)で研究博士号(PhD)を取得:応用生化学
  • 1984~1987年(32~35歳?):米国のアリゾナ大学(University of Arizona Health Science Center)・ポスドク
  • 1987年(35歳?):米国の南イリノイ州立大学・医科大学院(Southern Illinois University School of Medicine)・準教授、後に正教授
  • 2013年(61歳?):ミシシッピ大学(University of Mississippi)・教授
  • 2015年(63歳?):ウェイク・フォレスト大学・医科大学院(Wake Forest University School of Medicine)・教授
  • 2018~2022年(66~70歳?):この5年間に発表した9論文に、後に重複画像が指摘され、訂正や撤回
  • 2024年5月(72歳?):重複画像があると指摘された
  • 2025年8月14日(73歳?)現在:従来職を維持

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★研究人生

渡部浩之輔(写真出典)は1981年11月24日に京都大学で農学博士号(甲)を取得した。指導教授は駒野 徹 だったと思われる。 → 農学博士号 | CiNii Research

2008年(56歳?)、米国の南イリノイ州立大学・医科大学院は、2,150万ドル(約21億5千万円)をかけ、新しいがんセンター(SimmonsCooper Cancer Institute)を設立した。

当時その大学の教授だった渡部はこの設立に尽力した、と新聞報道された。 → 2008年7月8日:SIU School of Medicine’s cancer institute almost ready

2015年(63歳?)に移籍したウェイク・フォレスト大学では、2016年にがん研究のための280万ドル(約2億8千万円)の寄付金を得ていた。その寄付金で大学は3つの教授職を設け、渡部はその1つを務めている。

★獲得研究費

コウノスケ・ワタベ(Kounosuke Watabe、渡部浩之輔)は、NIHから1988~2025年の38年間に48件、計12,852,602ドル(約12億8526万円)の研究費を獲得していた。 → RePORT ⟩ Kounosuke Watabe

以下に2024年の4件と2025年の1件を示す。最後尾のグラントは受領額が1ドル。ナンカの間違い? ・・・ではないようだ。

★発覚と対処

2024年5月(72歳?)、ネカトハンターのケビン・パトリック(Kevin Patrick)がパブピア(PubPeer)で渡部が2018~2022年の5年間に発表した論文に重複画像があると指摘した。

それで、3論文が撤回、6論文を訂正となった。 → Wake Forest Lab: Retractions & Corrections – Google スプレッドシート

ケビン・パトリックは重複画像が不正行為の結果かどうかわからないと述べている。

ウェイク・フォレスト大学はネカト調査をしているのかどうか、不明である。

研究公正局の動きも不明である。

「撤回監視(Retraction Watch)」は、渡部にもコメントを何度要請したが、渡部はコメントしていない。また、ウェイク・フォレスト大学の戦略コミュニケーション担当副学長補佐マーク・アンダーソン(Mark Anderson)に電話とメールでコメントを要請したが、返答はなかった。

要するに、ネカト発覚後の対処はほとんど不明である。

【ねつ造・改ざんの具体例】

撤回論文が3報ある。1報を選んで、そのネカト部分を以下に示す。

―――――――以下は「2021年1月のNat Commun.」論文―――

論文は、Nat Commun. 2021 Jan 20;12(1):474. doi: 10.1038/s41467-020-20733-9。

180回も引用されている重要な論文だが、2025年5月22日に撤回された。 → 撤回公告

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/C5EF6208DF5CB184D61EE597DD6EBB

 

下図では、同じマウスの画像の縦横比を変えて再使用している。操作が意図的ですね。

これも、下図では、同じマウスの画像を縦横比を変えて再使用している。操作が意図的ですね。

同じマウスの画像の再使用。

同じ細胞の画像の再使用。

他にもあるけど省略。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

データベースに直接リンクしているので、記事閲覧時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えている(ことがある)。

★パブメド(PubMed)

2025年8月14日現在、パブメド(PubMed)で、コウノスケ・ワタベ(Kounosuke Watabe、渡部浩之輔)の論文を「Kounosuke Watabe[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2025年の24年間の142論文がヒットした。

「Watabe K」で検索すると、1965~2025年の61年間の 529論文がヒットした。

本記事で問題にしている研究者以外の論文がかなり含まれていると思われる。

2025年8月14日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、2021~2022年の3論文が2025年に撤回されていた。

★撤回監視データベース

2025年8月14日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでコウノスケ・ワタベ(Kounosuke Watabe、渡部浩之輔)を「Kounosuke Watabe」で検索すると、 3論文が撤回されていた。

2021~2022年の論文が2025年に撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2025年8月14日現在、「パブピア(PubPeer)」では、コウノスケ・ワタベ(Kounosuke Watabe、渡部浩之輔)の論文のコメントを「”Kounosuke Watabe”」で検索すると、12論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》研究公正局

NIHから約13億円の研究費を得ているので、コウノスケ・ワタベ(Kounosuke Watabe、渡部浩之輔)の今回の事件は研究公正局のクロ案件だと思う。

通常なら、ウェイク・フォレスト大学が調査し、研究公正局に報告すると思われるが、この過程は公表されないので、現在、調査中なのかどうかわからない。

コウノスケ・ワタベ(Kounosuke Watabe、渡部浩之輔)、写真出典:https://web.archive.org/web/20250214215231/https://school.wakehealth.edu/faculty/w/kounosuke-watabe

《2》ネカト実行者

渡部浩之輔の論文3報が2025年に撤回された。その論文は2021~2022年(69~70歳?)の2年間に出版された。

「パブピア(PubPeer)」にコメントが付いた論文は2015~2022年に発表した12論文だが、63~70歳の時の論文である。

常識的に考えて、69(63)~70歳の正教授が、人生で初めて研究不正をするとは思えない。

本件は、長らく研究不正をし続けていたのが、最近バレた、というケースではないようだ。

ということは、室員の誰かがネカト実行者で、渡部はそれを見抜けなかったケースだと思われる。

と言っても、渡部は共著者だし、研究室主宰者なので、責任は大きい。

ただ、大きな処罰が科されたとしても、2025年8月14日現在、73歳(推定)なので、退職(retire)で終わるだろう。このペナルティ・システムが良いとは思えないけど。

《3》外国在住の日本人研究者 

日本人研究者が外国の大学・研究所でネカト事件を起こし、クロと認定されたケースが100件はないが、2桁数はある。

米国の研究公正局がクロと認定した事件は、2015年の藤田亮介事件が最後で、ここ10年間はない。

しかし、今回のワタベ事件のように、日本に在学・在職した日本人・外国人が米国でネカト疑惑を受けた(含・クロ認定)ケースは、生命科学系だけで現在33人いる。 → 「生命科学」(米国)の検索欄に「日本」と入れる

ここ10年、増えているのか減っているのか、よくわからない。

米国でネカト疑惑を受けた(含・クロ認定)日本人研究者に共通の特性があるように思うが、白楽は解析できていない。

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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●9.【主要情報源】

① 2025年7月15日のエイブリー・オラル(Avery Orrall)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Wake Forest cancer lab blames ‘honest mistakes’ for retractions – Retraction Watch