ジュフン・ハ(하주헌、Joohun Ha)(韓国)

2022年2月23日掲載 

ワンポイント:慶熙(キョンヒ)大学(Kyung Hee University)・教授のジュフン・ハは、出版した11論文が訂正、1論文が懸念表明、3論文が撤回された。パブピア(PubPeer)では、2003(38歳?)~2019年(54歳?)の26論文にコメントがあり、驚くような不正疑惑状況である。大学はネカト調査をしていない。無処分。国民の損害額(推定)は3億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ジュフン・ハ(Joohun Ha、하주헌、ORCID iD:0000-0002-2704-9547、写真出典)は、韓国の慶熙(キョンヒ)大学(Kyung Hee University)・教授で医師免許は所持していない。専門は生化学である。

ネカト発覚の経緯は不明だが、ジュフン・ハの「11論文が訂正、1論文が懸念表明、3論文が撤回」という、驚くようなネカト疑惑状況である。

撤回された3論文は全部「J Biol Chem.」論文で、「2003年10月」論文、「2005年3月」論文、「2008年2月」論文、の3 論文が2018年10月24日に撤回された。

パブピア(PubPeer)では、2003(38歳?)~2019年(54歳?)に出版した26論文にコメントがある。

慶熙(キョンヒ)大学(Kyung Hee University)は、ジュフン・ハ教授の論文撤回やネカトに関して、何も発表していない(少なくとも英語では)。ネカト調査をしていないと思われる。

2022年2月22日(57歳?)現在、ジュフン・ハは慶熙(キョンヒ)大学・教授職を維持している:Joohun Ha — Kyung Hee University220221保存版

慶熙(キョンヒ)大学(Kyung Hee University)。写真出典

  • 国:韓国
  • 成長国:米国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:米国のパデュー大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1965年1月1日生まれとする。1983年に大学に入学した時を18歳とした
  • 現在の年齢:59 歳?
  • 分野:生化学
  • 不正論文発表:2003(38歳?)~2019年(54歳?)
  • 発覚年:2018年(53歳?)
  • 発覚時地位:慶熙(キョンヒ)大学・教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は不明
  • ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①「J Biol Chem.」の研究公正部長のカオル・サカベ(Kaoru Sakabe)。②慶熙(キョンヒ)大学はネカト調査をしていない?
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。ネカト調査をしていない?
  • 大学の透明性:調査していない?(✖)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:11論文が訂正、1論文が懸念表明、3論文が撤回。パブピア(PubPeer)では、2003(38歳?)~2019年(54歳?)に出版した26論文にコメントあり
  • 時期:研究キャリアの中期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は3億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

  • 生年月日:不明。仮に1965年1月1日生まれとする。1983年に大学に入学した時を18歳とした
  • 1983~1987年(18~22歳?):米国のカリフォルニア大学バークレー校 (University of California, Berkeley)で学士号取得:分子生物学
  • 1987~1994年(22~29歳?):米国のパデュー大学(Purdue University)で研究博士号(PhD)を取得:生化学・分子生物学
  • 1994~1996年(29~31歳?):同大学・ポスドク
  • 1996年3月~2002年3月(31~37歳?):韓国の慶熙(キョンヒ)大学(Kyung Hee University)・助教授
  • 2002年4月~2007年3月(37~42歳?):同・準教授
  • 2007年4月(42歳?):同・正教授
  • 2018年(53歳?):不正研究が発覚し、3論文撤回
  • 2022年2月22日(57歳?)現在:慶熙(キョンヒ)大学・教授職を維持:Joohun Ha — Kyung Hee University220221保存版

●5.【不正発覚の経緯と内容】

ジュフン・ハ(하주헌、Joohun Ha)は「11論文が訂正、1論文が懸念表明、3論文が撤回」という、驚くような記録の保持者である。

11論文が訂正ということは、「うっかり」間違えたレベルの間違いとは思えない。

撤回された3論文は全部「J Biol Chem.」論文である。

つまり、「2003年10月のJ Biol Chem.」論文、「2005年3月のJ Biol Chem.」論文、「2008年2月のJ Biol Chem.」論文、の3報が2018年10月24日(53歳?)に撤回された。

「J Biol Chem.」の研究公正部長はカオル・サカベ(Kaoru Sakabe)は何がネカト調査のきっかけになったのかは明らかにしていない。

ただ、撤回は論文発表の10~15年後なので、共著者やジュフン・ハ研究室の室員が通報したとは思えない。

慶熙(キョンヒ)大学(Kyung Hee University)は、ジュフン・ハ教授の論文撤回やネカトに関して、何も発表していない。ネカト調査をしていないと思われる。

【ねつ造・改ざんの具体例】

慶熙(キョンヒ)大学はネカト調査をしていないと思われる。

論文撤回公告で探った。

★「2003年10月のJ Biol Chem.」論文

「2003年10月のJ Biol Chem.」論文の書誌情報を以下に示す。2018年10月24日に撤回された。

2018年11月16日の撤回公告 → Withdrawal: PMC

以下の画像出典は原著論文。

ーーーーー
1点目。
図1Bの右側のACCイムノブロットのレーン1〜2はレーン3〜4 の再利用だった(番号ではなくレーンです)。

ーーーーー
2点目。
図1B(上図)の右側のpACCイムノブロットの最初のレーンが図2A(下図)に再利用されていた。

ーーーーー
3点目。
図1Bの左側のHIF-1αイムノブロットが図8A(下図)で再利用されていた。

ーーーーー
他の点を省略するが、他にも、イムノブロットの論文内での再利用があった。

学術誌が著者に問い合わせると、元データがないので、著者は上記の実験を繰り返した。そして、本質的には同じ結果が得られたので、著者は、この論文の結論に完全に自信を持っていると述べた。

しかし、論文中の画像の再利用に関して、著者は納得できる回答をしてこなかった。それで、論文撤回となった。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2022年2月22日現在、パブメド(PubMed)で、ジュフン・ハ(Joohun Ha、하주헌)の論文を「Joohun Ha[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2021年の20年間の157論文がヒットした。

「Ha J [Author]」で検索すると、1966~2022年の57年間の3,354論文がヒットした。本記事で問題にしている研究者以外の論文が多数含まれていると思われる。

「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、3論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2022年2月22日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでジュフン・ハ(Joohun Ha、하주헌)を「Ha, Joohun」で検索すると、 11論文が訂正、1論文が懸念表明、3論文が撤回されていた。

「2003年10月のJ Biol Chem.」論文、「2005年3月のJ Biol Chem.」論文、「2008年2月のJ Biol Chem.」論文、の3報が2018年10月24日に撤回された。

★パブピア(PubPeer)

2022年2月22日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ジュフン・ハ(Joohun Ha、하주헌)の論文のコメントを「Joohun Ha」で検索すると、2003~2019年に出版した26論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》スゴイ 

データねつ造箇所を「2003年10月のJ Biol Chem.」論文で示したが、指摘された画像が再使用だと言われても、白楽は、「なるほど」と簡単に納得できなかった。

誰が見つけたのか知らないが、それほど微妙な画像の再使用を、しかも15年前の論文の画像なのに、同じ画像が重複して使われていると見破った。その鑑識眼をスゴイと思った。

正義を通した学術誌「J Biol Chem.」のカオル・サカベ研究公正部長(Kaoru Sakabe)もスゴイと思う。

ただ、2021年10月21日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログに、カオル・サカベは学術誌「J Biol Chem.」をまもなく辞職し製薬業界に移籍すると書いてある。とても残念だ。 → 2021年10月21日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ: How JBC sold its Soul to the Devil – For Better Science

【動画1】
インタビュー動画:「Interview with Kaoru Sakabe, ASBMB’s Data Integrity Manager – YouTube」(英語)。
WebsEdgeMedicineチャンネル登録者数 1.4万人2019/04/09にアップ 

《2》百歩百歩 

ジュフン・ハ事件では、ジュフン・ハ(하주헌、Joohun Ha、写真出典)のデータねつ造・改ざんが明白なのに、本人は間違いで押し通し、大学は調査しない。

大学の隠蔽工作が勝った典型例である。

ジュフン・ハは、「11論文が訂正、1論文が懸念表明、3論文が撤回」という、驚くようなネカト疑惑状況である。

パブピア(PubPeer)では、2003(38歳?)~2019年(54歳?)に出版した26論文にコメントある。

慶熙(キョンヒ)大学(Kyung Hee University)は、ジュフン・ハ教授の論文撤回やネカトに関して、何も発表していない(少なくとも英語では)。ネカト調査をしていないと思われる。

「本人は間違いで押し通し、大学は調査しない」。この悪貨スタイルは、残念ながら、現在のシステムでは、通用する。

厚顔が勝ち、正義が負けることがあっても、たまたま一部でそうだっただけで、悪貨が良貨を「駆逐しない」ことを祈る。

唯一、正義を通したのは学術誌「J Biol Chem.」で、ジュフン・ハの同意なしで、3論文を撤回した。

しかし、このような厚顔が勝つネカト状況を防ぐ方法はないのだろうか?

慶熙(キョンヒ)大学の同僚や院生、韓国の同じ分野の研究者は、なんとも思わないのだろうか?

もっとも、白楽は、韓国を批判しにくい。日本も似た状況の五十歩百歩、イヤイヤ、百歩百歩なのだ。

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●9.【主要情報源】

① 2018年11月20日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Researcher in South Korea racks up three retractions and at least 10 corrections – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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