2021年3月8日掲載
ワンポイント:この事件は、2020年ネカト世界ランキングの「4E」の「3」に挙げられたので記事にした。シイ・ウーは中国出身で、米国のハーバード大学医科大学院/マサチューセッツ総合病院(Harvard Medical School/Massachusetts General Hospital)・準教授になった。2019年8月(44歳?)、ウー準教授の「2019年9月のNature」論文が出版されるとすぐ、ルーン・リンディング教授(Rune Linding)が画像の異常に気がつき、ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)に伝えた。ビックが解析し、ツイッターとパブピアで問題を公表した。論文は撤回されたが。ウー準教授はネカト犯ではなく、第一著者のジシャオ・ニウ(Jixiao Niu)がネカト犯と思われる。しかし、大学はネカト調査をしていない。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
シイ・ウー(Xu Wu、ORCID iD:?、写真出典)は、米国のハーバード大学医科大学院/マサチューセッツ総合病院(Harvard Medical School/Massachusetts General Hospital)・準教授で医師ではない。専門は医薬品化学である。
ウー準教授はネカト犯ではないようだが、研究主宰者なので、ウー準教授を中心に話を進める。
2019年8月(44歳?)、ウー準教授の「2019年9月のNature」論文が出版された。するとすぐに、ドイツのベルリン・フンボルト大学(Humboldt-Universität zu Berlin)のルーン・リンディング教授(Rune Linding)が論文の画像がおかしいと、ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)に伝えた。
ビックはツイッターとパブピアで問題点を指摘し、学術誌とハーバード大学医科大学院/マサチューセッツ総合病院に通報した。
2020年7月(45歳?)、ビックの指摘の10か月後、著者たちはデータ異常を認め、「2019年9月のNature」論文を撤回した。
ビックは、「論文の問題点を私は3分で見つけたのに、「Nature」編集部は10か月もかかった!」と、撤回までに10か月もかかった「Nature」編集部を非難した。
印象としては、ウー準教授はネカト犯ではない。第一著者のジシャオ・ニウ(Jixiao Niu)がネカト犯と思われる。しかし、ハーバード大学医科大学院/マサチューセッツ総合病院がネカト調査をしていないのでハッキリしたことは不明である。
この事件は、2020年ネカト世界ランキングの「4E」の「3」に挙げられた。
ハーバード大学医科大学院/マサチューセッツ総合病院(Harvard Medical School/Massachusetts General Hospital)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:中国
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:ペンシルバニア大学
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1975年1月1日生まれとする。2005年にノバルティス研究財団ゲノム研究所・研究員になった時を30歳とした
- 現在の年齢:49 歳?
- 分野:医薬品化学
- 不正論文発表:2019年(44歳?)
- 発覚年:2019年(44歳?)
- 発覚時地位:ハーバード大学医科大学院/マサチューセッツ総合病院・準教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者はベルリン・フンボルト大学(Humboldt-Universität zu Berlin)のルーン・リンディング教授が(Rune Linding)で、ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)に通報
- ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査していない?
- 大学の透明性:調査していない(✖)
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:1報
- 時期:研究キャリアの初期から
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
- 処分:なし
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
ジシャオ・ニウ(Jixiao Niu)の経歴は不明で、省略した。
★シイ・ウー(Xu Wu)
出典:①Xu Wu | LinkedIn、②Wu, Xu
- 生年月日:不明。仮に1984年1月1日生まれとする。2005年にノバルティス研究財団ゲノム研究所・研究員になった時を30歳とした
- xxxx年(xx歳):中国の北京大学(Peking University)で学士号取得:化学
- xxxx年(xx歳):米国のペンシルバニア大学(University of Pennsylvania)で修士号取得:化学
- 2001 – 2004年(26 – 29歳?):米国のスクリップス研究所(Scripps Research Institute)で研究博士号(PhD)を取得:生化学。ピーター・シュルツ教授(Peter G. Schultz – Wikipedia)
- 2005年1月(30歳?):米国のノバルティス研究財団ゲノム研究所(Genomics Institute of the Novartis Research Foundation)・研究員
- 2011年4月(36歳?):米国のハーバード大学医科大学院/マサチューセッツ総合病院(Harvard Medical School/Massachusetts General Hospital)・助教授
- 2013年(38歳?):最古のネカト論文出版
- 2016年3月(41歳?):同大学・準教授
- 2019年(44歳?):不正研究が発覚
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★発覚
2019年8月(44歳?)、シイ・ウー(Xu Wu)の「2019年9月のNature」論文が出版されるとすぐに、ドイツのベルリン・フンボルト大学(Humboldt-Universität zu Berlin)のルーン・リンディング教授(Rune Linding、写真出典)は、論文の画像がおかしいことに気がつき、ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik、写真出典)に伝えた。
2019年8月29日(44歳?)、ビックが解析し、シイ・ウー(Xu Wu)の「2019年9月のNature」論文の画像がおかしいとツイッターで指摘した。
From a paper published in @nature yesterday by @HarvardMed scientists.
I just reported it to the EiC, with shaking hands and pounding heart because scary to see that this passed #peerreview and editorial screening in such a high impact journal. pic.twitter.com/uYiQj7BS95— Elisabeth Bik (@MicrobiomDigest) August 29, 2019
同じ日、珍しいことだが、学術誌「Nature」編集部がビックのツイッターに「ありがとう」と返事をした。
「2019年9月のNature」論文の書誌情報を以下に示す。
- Fatty acids and cancer-amplified ZDHHC19 promote STAT3 activation through S-palmitoylation.
Niu J, Sun Y, Chen B, Zheng B, Jarugumilli GK, Walker SR, Hata AN, Mino-Kenudson M, Frank DA, Wu X.
Nature. 2019 Sep;573(7772):139-143. doi: 10.1038/s41586-019-1511-x. Epub 2019 Aug 28.PMID: 31462771
ビックは、ツイッターした2019年8月29日に、パブピア(PubPeer)でも問題画像を指摘した。
以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/E4899D88BEA541BAA80ADD7945F228
図3A
上図3Aの2段目のバンドが同じだという証拠(ビックではなく#14 Neoachmandra Deltoideaの指摘)。
上の図3A以外にも異常な画像がある。以下に示す。
図3D(改訂版)
図2J
★論文撤回
2020年7月(45歳?)、ビックの指摘を受けて10か月後、著者たちはデータ異常を認め、「2019年9月のNature」論文を撤回した。ただ、論文の結論は再現できたとも述べている。 → 2020年7月の撤回公告:Retraction Note
ビックは、10か月前にネカトを指摘した時、指摘した日に「Nature」編集部が「ありがとう」と返事したのに、撤回までに10か月もかかったことに憤慨している。「論文の問題点を私は3分で見つけたのに、「Nature」編集部は10か月もかかった!」
その10か月で、多くの研究者がこの「2019年9月のNature」論文を正しいと思い込んで読んでいるハズだ。このことによる混乱、不信、時間・エネルギー・カネの無駄が起こった。
事実、「2019年9月のNature」論文は少なくとも5回引用されてしまった。
「Nature」編集部がネカト論文の不当な影響を10か月間、黙認していたかのようだ。
★ネカト犯
撤回公告に誰がネカト犯かの説明はない。
ハーバード大学医科大学院/マサチューセッツ総合病院はネカト調査をしたのかどうか不明である。少なくとも、ネカト調査に関する情報がウェブ上にない。
ただ、ネカトの指摘以前にあったシイ・ウー(Xu Wu)研究室のサイトは閉鎖されたように大きく変わった。 → 以前のサイトの保存版
そして、第一著者のジシャオ・ニウ(Jixiao Niu)は以下の「2012年のJournal of Biological Chemistry」論文でも画像の操作で論文を撤回していた。 → Withdrawal: DNA damage induces NF-κB-dependent microRNA-21 up-regulation and promotes breast cancer cell invasion – Journal of Biological Chemistry
「パブピア(PubPeer)」でジシャオ・ニウ(Jixiao Niu)の論文のコメントを「Jixiao Niu」で検索すると、本記事で問題にした「2019年9月のNature」論文を含め6論文にコメントがあった。
印象としては、ジシャオ・ニウ(Jixiao Niu)がネカト犯だろう。放置すると、これからもネカト行為をするだろう。
なお、ジシャオ・ニウ(Jixiao Niu)は中国出身のポスドクだと思うが、経歴は不明である。男性なのか女性なのかわからない。
●【ねつ造・改ざんの具体例】
上述したので省略。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2021年3月7日現在、パブメド(PubMed)で、シイ・ウー(Xu Wu)の論文を「Xu Wu [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2021年の20年間の596論文がヒットした。
2021年3月7日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、本記事で問題にした「2019年9月のNature」論文・1論文が2020年7月に撤回されていた。
★撤回監視データベース
2021年3月7日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでシイ・ウー(Xu Wu)を「Xu Wu」で検索すると、0論文が訂正、0論文が懸念表明、本記事で問題にした「2019年9月のNature」論文・1論文が2020年6月17日に撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2021年3月7日現在、「パブピア(PubPeer)」では、シイ・ウー(Xu Wu)の論文のコメントを「”Xu Wu”」で検索すると、本記事で問題にした「2019年9月のNature」論文を含め3論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》ネカト犯
印象としては、シイ・ウー準教授(Xu Wu、写真出典)はネカト犯ではないようだ。論文の第一著者のジシャオ・ニウ(Jixiao Niu)がネカト犯と思われる。
ハーバード大学医科大学院/マサチューセッツ総合病院(Harvard Medical School/Massachusetts General Hospital)はネカト調査をしていない。
放置すると、ジシャオ・ニウ(Jixiao Niu)は、これからもネカトをするだろう。
でも、どうして、ウー準教授は「自分はネカトしていない、第一著者に責任がある」、と言わないのだろう。
フランシス・アーノルド(Frances Arnold)は、「第一著者に責任がある」と言っている。 → 化学:フランシス・アーノルド(Frances Arnold)、インハ・チョ(Inha Cho、조인하、曹仁河)(米) | 白楽の研究者倫理
デチー・ムー(Dezhi Mu)も、「第一著者に責任がある」と言っている。 → デチー・ムー、母得志(Dezhi Mu)(中国) | 白楽の研究者倫理
実は、ウー準教授がネカト者ということなのか?
《2》遅い
ビックは10か月前にネカトを指摘した時、指摘した日に「Nature」編集部が「ありがとう」と返事したのに、撤回までに10か月もかかったことに憤慨している。「論文の問題点を私は3分で見つけたのに、「Nature」編集部は10か月もかかった!」
一般的に、大学のネカト調査は遅いし、研究公正局も遅い、そして、学術誌も遅い。
遅いと、ネカト論文の二次被害が広がる。論文を読む研究者は被害者である。また、ネカト者もそうだが、ネカト被災者の後始末やその後の計画を立てられないので二次被害が広がる。いいことは1つもない。
早く対処する仕組みを作れないものか。
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。しかし、もっと大きな視点では、日本は国・社会を動かす人々が劣化している。どうすべきなのか?
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●9.【主要情報源】
① 2020年6月18日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Figure “anomalies” prompt Harvard group to retract Nature paper – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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