2019年6月11日掲載
白楽の意図:2019年2月、欧州のモンテネグロが国としてネカト禁止法(正式にはZakon o Academskom Integritetu、英語:Law on Academic Integrity)を制定した。世界で最初である。制定の主役である教育省・高等教育局長のムベラ・クルペヨヴィッチ(Mubera Kurpejović)にミコ・タタロビッチ(Mico Tatalovic)記者がインタビューした。その「2019年3月の撤回監視(Retraction Watch)」記事を読んだので、紹介しよう。【白楽の手紙】:小保方晴子様へ。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.論文概要
2.書誌情報と著者
3.日本語の予備解説
4.論文内容
5.関連情報
6.白楽の感想
7.白楽の手紙
8.コメント
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【注意】「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。ポイントのみの紹介で、白楽の色に染め直してあります。
●1.【論文概要】
論文に概要がないので、省略。
●2.【書誌情報と著者】
★書誌情報
- 論文名:Montenegro just made plagiarism illegal. What does it hope to achieve?
日本語訳:最近、モンテネグロは盗用を違法にした。何を達成しようとしているのか? - 著者:Mico Tatalovic
- 掲載誌・巻・ページ:Retraction Watch
- 発行年月日:2019年3月25日
- 引用方法:
- DOI:
- ウェブ:https://retractionwatch.com/2019/03/25/montenegro-just-made-plagiarism-illegal-what-does-it-hope-to-achieve/#more-88753
- PDF:
★著者
- 単著者:ミコ・タタロビッチ(Mico Tatalovic)
- 紹介:Knight Science Journalism Fellows, 2017-18: A Profile of Mićo Tatalović
- 写真:https://ksj.mit.edu/current-fellows/200-tatalovic-mico/
- 履歴:https://www.linkedin.com/in/micotatalovic/?originalSubdomain=uk
- 国:英国
- 生年月日: クロアチアのリエカ(Rijeka, Croatia)生まれ。現在の年齢:39 歳?
- 学歴:2003-2006年に英国のオックスフォード大学(University of Oxford)で学士号取得:生物学、2006-2008年にケンブリッジ大学(University of Cambridge)で修士号:動物学、2008―2009年にインペリアル・カレッジ・ロンドン(Imperial College London)で科学コミュニケーションを習得。
- 分野:科学コミュニケーション、編集
- 論文出版時の地位・所属:「Nature」・ニュース編集者:New s Editor, Nature Research (Publishing)(2018年9月-2019年4月)
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★被インタビュー者
- ムベラ・クルペヨヴィッチ(Mubera Kurpejović)
- 紹介:http://www.mpin.gov.me/ministarstvo/kabinet/Mubera_Kurpejovic/
- 写真:https://kodex.me/clanak/155254/od-danas-drugi-krug-za-strucno-osposobljavanje-visokoskolaca
- 履歴:http://www.mpin.gov.me/ministarstvo/kabinet/Mubera_Kurpejovic/
- 国:モンテネグロ
- 生年月日:1982年12月18日、モンテネグロのロジャイェ(Rožaje)生まれ。現在の年齢:42 歳
- 学歴:2005年にモンテネグロ大学法学部(Univerziteta Crne Gore)、学士号取得
- 分野:政治
- 被インタビュー時の地位・所属:2010年9月9日(27歳)以来、教育省・高等教育局長:pomoćnik ministra prosvjete i nauke za visoko obrazovanje.
【動画1】
監視カメラ動画:「教育省・高等教育局長・ムベラ・クルペヨヴィッチ(Mubera Kurpejović, generalna direktorica Direktorata za visoko obrazovanje u Ministarstvu prosvjete) – YouTube」(モンテネグロ語)2分29秒。
Univerzitet Crne Goreが2019/04/17 に公開
●3.【日本語の予備解説】
★モンテネグロ
以下出典:モンテネグロ基礎データ | 外務省
面積:13,812平方キロメートル(福島県とほぼ同じ)
人口:62万人(2017,世銀統計)
首都:ポドゴリツァ(人口約15万人,2011年国勢調査)
民族:モンテネグロ人(45%),セルビア人(29%),ボシュニャク(9%),アルバニア人(5%)等(2011年国勢調査)
言語:モンテネグロ語(公用語),セルビア語等
★モンテネグロのネカト禁止法(学術公正法、Law on Academic Integrity)
2016年、モンテネグロ政府は、「欧州議会の基準を適用することで、高等教育界の公正を高めるために腐敗と戦う」ことを始めた。
2017年5月16-17日に「学術公正 – モンテネグロの成果と将来の展望」という2日間のワークショップがモンテネグロのベチチ(Bečići)で開催された。その要旨(13ページ)がウェブ上にアップされている。
→ http://etico.iiep.unesco.org/sites/default/files/akademski_integritet-izvjestaj-eng-feb_2018_0.pdf
ワークショップの一場面。出典http://etico.iiep.unesco.org/sites/default/files/akademski_integritet-izvjestaj-eng-feb_2018_0.pdf
2019年2月8日、モンテネグロ・教育省はネカト禁止法(学術公正法)を起草し国会に提出した。この法律は、盗用を含め学術公正を侵害するあらゆる行為を禁止し、高等教育における学術的な価値を維持・促進することを目的としている。また、この問題に対処する規範委員会(Ethics Committee)も設置した。
→ 2019年2月8日の「EU・エウリュディケー(Eurydice)」記事:Montenegro: a Law on Academic Integrity soon to be adopted | Eurydice
以下がネカト禁止法(学術公正法)(Zakon o Academskom Integritetu、英語:Law on Academic Integrity)だが、モンテネグロ語なので条文の日本語訳はできません。内容は「4.【論文内容】」で解説します。以下の文書をクリックすると、PDFファイル(12ページ)が別窓で開く。
●4.【論文内容】
●《1》序論
質問1.周辺国には学術公正法を制定してないのに、モンテネグロはなぜその法律を必要としたのですか?
ムベラ・クルペヨヴィッチ
学術公正法(Law on Academic Integrity)の制定は、国として学術公正の質を高く維持し、学術公正の違反は有害だと認識すること、市民がこの問題の重要性を認識することが重要だという国家の決意表明です。 この特別な法律を制定することは、モンテネグロにおける盗用を防止するシステムが実現可能だという調査から生まれました。
この法律は大学、労働組合、NGOが参加した部門間ワーキンググループの成果で、欧州評議会(Council of Europe)およびその専門家からの支援もありました。
質問2.盗用は特にモンテネグロで広まっているのですか?
ムベラ・クルペヨヴィッチ
モンテネグロは盗用問題に直面している唯一の国ではありません。しかし、学術公正法(Law on Academic Integrity)は盗用だけでなく、学術公正を侵害する学生(学部生・院生)の詐欺的行為も対象にしています。さらに、科学研究でのデータねつ造・改ざんも対象にしています。
この法律は、ギフト・オーサーシップ(gift authorship、贈呈著者)も禁止しています。
学術公正法は、以下のすべてが学術公正の原則に違反していると見なします。
試験やレポートで、他者の回答・内容をコピーペースト、承認されてない方法の使用、他人に代わって試験やレポートをする、試験でのカンニング、その他の不正行為。(白楽の理解:ネカトやカンニングだけでなく、代筆や論文代行業者に依頼したエッセーや論文の提出も禁止している)。
質問3.新法は学術的不正行為どうを解決すると思いますか?
ムベラ・クルペヨヴィッチ
まず第1に、この学術公正法(Law on Academic Integrity)は学術の公正さについての個人の意識を高めます。また同時に、すべての教育関係者に影響を与え、教師が子供たちに盗用(コピーペースト)の害と論文の書き方や引用法を教えるようになると思います。そのような環境を構築することで、学術公正を侵害する状況をかなり避けられると思います。
第2に、学術公正法により、すべての著者は、その論文がオリジナルな論文であるとする確認書に署名しなければなりません。違反すると、刑事的処分が科されます。
第3に、学術公正法はまた、すべての大学・研究機関に規範委員会(Ethical Committee)の設置を義務付けています。大学・研究機関レベルで学術公正の維持・促進をするためです。
第4に、学術公正違反を規定する国家レベルの規範委員会(Ethics Committee)を、国として初めて導入します。同委員会は、様々な学術分野の7名の著名な専門家で構成されます。また、倫理憲章(Charter of Ethics)も採択する予定です。
上記の大学・研究機関レベルそして、国家レベルの規範委員会による良質で透明な仕事、そして明確な手続きと法の完全な実施を通して、私たちのシステムはより質の高いものとなり、学術公正に反する行動が抑制されるでしょう。
質問4.この法律で有罪となった学者にどのようなペナルティが科されますか?
ムベラ・クルペヨヴィッチ
学術公正法(Law on Academic Integrity)は盗用を刑事犯罪とします。
処罰は明白です。
権限のある当局が盗用であると判断した論文・作品(職業的、科学的、芸術的)は、無効と見なされます。
教育機関は、学術公正法に違反したすべての成績、賞、職、称号を無効にし、また、無効にする義務を負います。
さらに、刑法及び学術公正法に基づき、各教育機関の規則に応じて、罰金を含めた刑罰が科されます。
質問5.モンテネグロのこの努力はEUに加盟するために何らかの役割を果たしていますか? EU加盟の要件に関連していますか?
ムベラ・クルペヨヴィッチ
EUには学術公正を規制する法律はありません。しかし、教育の質と教育・学術上の腐敗防止は間違いなくモンテネグロのEU加盟に重要な役割を果たします。
●5.【関連情報】
① 2019年5月の「EducationWorld」記事:Montenegro: Stern anti-cheating laws – EducationWorld
過去25年間に欧州評議会のコンサルタントを務めてきたオックスフォード高等教育政策研究センター(Oxford Centre for Higher Education Policy Studies)の客員研究員であるデニス・ファリントン(Dennis Farrington、写真出典)は、他の国々も同様の規則を採用することを検討する可能性が高いと述べている。
「学術的な不正行為に対処するための新しい法律を制定するよう、至るところからプレッシャーがかかっていて、モンテネグロが主導権を握っています」とファリントンは指摘している。
一方、ジュネーブ大学と提携している「学術詐欺および盗用に関する国際行動研究所(International Institute for Research and Action on Academic Fraud and Plagiarism)」の議長でジュネーブ大学・教授のミシェル・ベルガダ(Michelle Bergadaà、写真出典)は、ネカトが新しい「独裁的法律」で解決できると考えるのは「ばかげている」と批判している。 「法律は常に社会の変化の後について行きます。モンテネグロの新法が学術公正問題を解決できるかどうかは不明です」、と批判している。
●6.【白楽の感想】
《1》モンテネグロ
欧州の小国・モンテネグロ、なかなかヤリマスネ。学術公正では大国と呼んでいいですね。
それにしても、ムベラ・クルペヨヴィッチ(Mubera Kurpejović)は27歳で教育省・高等教育局長に就任している。大学も首席で卒業。超優秀なんですね。
《2》盗用禁止法
記事のタイトル「Montenegro just made plagiarism illegal」、つまり、「モンテネグロは盗用を違法にした」だったので、盗用だけを禁止する法律を制定したと、最初は勘違いした。
日本や米国では法律として著作権法がある。時々、白楽は、「著作権法」と「研究倫理での盗用」の守備範囲がどうなっているのだろうと不思議に思うことがある。どうして、すべての盗用を著作権法で調査・処罰しないのか? と。
なお、盗用禁止法は、2018年7月、インドが世界で最初に導入している。インドでは現在盗用検出ソフトで院生の修士論文・博士論文の盗用、研究者の論文の盗用をチェックしている。
今回の記事を読むと、モンテネグロの学術公正法は、盗用に限らずネカト全般、さらにはクログレイも禁止している。違反すると刑事罰を与える法律で、インドの盗用禁止法よりもかなり前進、というか、次元が異なるほど斬新である。
モンテネグロの学術公正法のように刑事罰を与える学術公正法を日本に導入すると(気配はみじんもありませんが・・・)、「研究不正大国」と呼ばれている日本は、一転して、「研究公正大国」と呼ばれるだろう。
●7.【白楽の手紙】
《1》小保方晴子様へ
小保方様、あなたはスーパースターです。
研究倫理に向き合い、数年かけてネカトを習得し、日本のネカト問題の改善に取り組んで下さるようお願い申し上げます。
小保方さんの生命科学の専門知識と研究経験、研究倫理でモミクチャニにされた過去、超有名人。これらの強力な利点をすべて生かして、3年後または6年後に参議院議員・比例区で当選し、立法側からネカト問題を改善するという道筋です。
モンテネグロで、ムベラ・クルペヨヴィッチ(Mubera Kurpejović)がネカト禁止法を制定したように、日本にネカト禁止法を制定してください。日本を「研究公正大国」にして下さい。
私で役立つなら、協力を惜しみません。
白楽ロックビル
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日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい(富国公正)。正直者が得する社会に!
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
●8.【コメント】
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