クレイグ・フリアー(Craig Frear)(米)

2020年10月21日掲載 

ワンポイント:ワシントン州立大学(Washington State University)・助教授で院生のフリアーは、「2011年7月のCLEAN: Soil, Air, Water」論文でデータねつ造・改ざんをした。フリアーのかつての研究室仲間だったサイモン・スミス(Simon Smith)がフリアーのネカトを追求し、大学に通報した。2015年3月(51歳?)、ワシントン州立大学・調査委員会は、フリアーが「意図的に実験データを改ざんした」と結論した。しかし、処分なし。フリアーは民間企業に転職した。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

クレイグ・フリアー(Craig Frear、ORCID iD:?、写真出典)は、米国のワシントン州立大学(Washington State University)・助教授で医師ではない。専門は農学(バイオ廃棄物エナジー)である。

2011年(47歳?)、クレイグ・フリアー(Craig Frear)がワシントン州立大学(Washington State University)・助教授で院生の時、「2011年7月のCLEAN: Soil, Air, Water」論文を出版した。助教授で院生というのは日本では珍しいけど、マー、事実でした。

フリアーのかつての研究室仲間だったサイモン・スミス(Simon Smith)は、ワシントン州環境省に就職し、消化槽(digester)で生成されるガスの品質を評価する研究を行なっていた。

2012年(48歳?)、フリアーの論文発表の約1年後、 スミスはガス生産の化学モデルを作成し、そのモデルの検討に、フリアーのDVO消化槽データを使えないかと、フリアーに依頼した。

フリアーが了解したので、「2011年7月のCLEAN: Soil, Air, Water」論文を入念に分析した。そして、異常なデータ(ねつ造・改ざんデータ)があることに気がついた。それで、ワシントン州立大学に通報した。

2013年7月(49歳?)、ワシントン州立大学はスミスからの疑惑通報を受け、ネカト調査を開始した。

2015年3月13日(51歳?)、ワシントン州立大学・調査委員会は、調査報告書をまとめ、フリアーが「意図的に実験データを改ざんした」と結論した。ただ、ワシントン州立大学はフリアーを処分しなかった。

2015年8月(51歳?)、フリアーはワシントン州立大学・助教授を辞職し、レジニス社(Regenis)・研究技術部長(Director of Research and Technology)に転職した。

2020年10月20日(56歳?)現在も同社に在職している:Regenis – Anaerobic Digester Construction Company

ワシントン州立大学(Washington State University)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:ワシントン州立大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1964年1月1日生まれとする。1982年に高校を卒業した時を18歳とした
  • 現在の年齢:60 歳?
  • 分野:農学
  • 最初の不正論文発表:2011年(47歳?)
  • 不正論文発表:2011年(47歳?)
  • 発覚年:2012年(48歳?)
  • 発覚時地位:ワシントン州立大学・助教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はフリアーのかつての研究室仲間だったワシントン州環境省のサイモン・スミス(Simon Smith)で、ワシントン州立大学に公益通報
  • ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」、「Seattle Times」、他
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ワシントン州立大学・調査委員会
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:あり。全文(24頁):https://assets.documentcloud.org/documents/2680590/WSUMisconductInvestigation.pdf
  • 大学の透明性:実名発表し調査報告書(調査委員名付き)がウェブ閲覧可(◎)。一部黒塗りがある。何を黒塗りしたのかわからない
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:1報が撤回
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 職:事件後に移籍し研究職を続けた(◒)
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

参考:Craig Frear | LinkedIn

  • 生年月日:不明。仮に1964年1月1日生まれとする。1982年に高校を卒業した時を18歳とした
  • 19xx年(xx歳):聖オラフ大学(St. Olaf College)で学士号取得:化学および神学
  • 19xx年(xx歳):ミネソタ大学(University of Minnesota-Twin Cities)で学士号取得:科学コミュニケーション
  • 19xx年(xx歳):コロンビア大学(Columbia University)で修士号取得:教育管理
  • 2003年2月-2015年8月(39-51歳?):ワシントン州立大学(Washington State University)・助教授
  • 20xx年(xx歳):ワシントン州立大学(Washington State University)・大学院に入学
  • 2011年(47歳?):後で問題になる「2011年7月のCLEAN: Soil, Air, Water」論文を出版
  • 201x年(xx歳):ワシントン州立大学(Washington State University)で研究博士号(PhD)を取得:工学
  • 2012年(48歳?):不正研究が発覚
  • 2013年7月(49歳?):ワシントン州立大学がネカト調査開始
  • 2015年3月13日(51歳?):ワシントン州立大学が調査の結果クロとの報告書作成
  • 2015年9月(51歳?):レジニス社(Regenis https://www.regenis.net/about/)・研究技術部長(Director of Research and Technology)
  • 2016年1月5日(52歳?):メディアがネカト事件を報道
  • 2020年10月20日(56歳?)現在:レジニス社・在職:Regenis – Anaerobic Digester Construction Company

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
研究紹介動画:1分27秒頃と3分57秒頃にクレイグ・フリアー(Craig Frear)が登場する。
「Anaerobic Digestion: Beyond Waste Management – YouTube」(英語)2分15秒。
WSU CAHNRSが2013/05/01に公開
以下をクリックしてください。
https://www.youtube.com/watch?time_continue=97&v=Ei49Z4oeUtY&feature=emb_logo

【動画2】
6分26秒ごろ「クレイグ・フリアー」と紹介。
研究紹介動画:6分49秒頃にクレイグ・フリアー(Craig Frear)が登場する。
「Bioenergy and Biofuels: The Biomass Resource in Washington- YouTube」(英語)57分54秒。
UW Videoが2009/04/29に公開

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★グラント

クレイグ・フリアー(Craig Frear)は、2007年に科学庁(NSF)からSmall Business Innovation Research (SBIR)のフェーズⅠのグラントを受領している。研究費8万ドル(約800万円)(Grantome: Search)。

★「2011年7月のCLEAN: Soil, Air, Water」論文

米国には9000万頭の牛がいて、その排泄物の処理は大きな問題である。クレイグ・フリアー(Craig Frear、写真出典)は、環境にやさしく経済的な排泄物の処理方法を模索していた。

ワシントン州には約200個の嫌気的消化槽(anaerobic digester)があり、バクテリアを使用して家畜の排泄物をメタンガスに変換し、発電している。

2011年(47歳?)、クレイグ・フリアー(Craig Frear)がワシントン州立大学(Washington State University)・院生・助教授の時、「2011年7月のCLEAN: Soil, Air, Water」論文を出版した。

この論文では、ワシントン州リンデンにあるヴァンダー・ハーク酪農場(Vander Haak Dairy)のDVO消化槽(DVO社製)で、家畜の排泄物にレストランの食品廃棄物などの廃棄物を混ぜて「共消化」することで、110%もバイオガスの生産が向上すると報告した。

★発覚の経緯

フリアーのかつての研究室仲間だったサイモン・スミス(Simon Smith)は、ワシントン州環境省に就職し、消化槽(digester)で生成されるガスの品質を評価する研究を行なっていた。

2012年(48歳?)、フリアーの論文発表の約1年後、 スミスはガス生産の化学モデルを作成し、そのモデルの検討に、フリアーのDVO消化槽データを使えないかと、フリアーに依頼した。

フリアーが了解したので、「2011年7月のCLEAN: Soil, Air, Water」論文を入念に分析した。

そして、スミスはデータが異常だと思い始めた。実際に投入したよりも多くのミネラルができていたのだ。

スミスは、それで、フリアーからもらったデータを実験室のコンピューターに記録されていたデータと比較した。すると、フリアーのデータは10グラム、20グラム、または30グラムなどの数値を追加していた。つまり、データの微調整(改ざん)が見つかった。

スミスは、この改ざんで、DVO消化槽は実際よりも多くのメタンを生成しており、底部に砂利やくぼみが蓄積されていないようにしていた。

DVO消化槽は底の部分からゴミを取り除くためのドアがないので、「5年後か10年後には故障するでしょう」とスミスは指摘した。「2011年7月のCLEAN: Soil, Air, Water」論文で、フリアーはこの懸念を軽視していた。

★ネカト調査

2013年7月(49歳?)、ワシントン州立大学はスミスからの疑惑通報を受け、ネカト調査を開始した。この時、フリアーはワシントン州立大学・助教授だった。

データ改ざんを指摘され、フリアーは次のように弁解(説明)した。

再実験したのですが、そのデータをなくしました。

というのは、2008年3月の暴風雨で、ワシントン州立大学の研究室に置いてあった実験ノートが農場の「ふん尿だめ」に吹き飛ばされたのです。それに、2008年2月、実験ノートをコピーしたファイルやデータが入ったコンピューターを、アイダホ州ルーイストンにある姉の家で紛失しました。

ただ、データの平均値と標準偏差を含む結果だけは無事に保持できていたのです。

それで、元のデータを出発点として、10の整数倍の整数を追加して、保持できていたデータの平均値と標準偏差に合致するようデータセットを作成しました。

2014年9月(50歳?)、ネカト調査が終わる前、フリアーはワシントン州立大学・助教授を辞職し、レジニス社(Regenis)・研究技術部長(Director of Research and Technology)に転職した。

2020年10月20日(56歳?)現在、同社に在職している:Regenis – Anaerobic Digester Construction Company

レジニス社の副社長・ブライアン・ヴァン・ルー(Bryan Van Loo)は、嫌気性消化槽の知識と技術、それに管理能力があるからフリアーを雇用したと述べている。

2015年3月13日(51歳?)、ワシントン州立大学・調査委員会は、調査報告書をまとめ、フリアーが「意図的に実験データを改ざんした」と結論した。

また、利益相反にも違反したと指摘した。フリアーは、いくつかの特許を所有していて、論文に登場する企業と共同研究の契約もしていた。それらを明示していなかったのだ。

以下は2015年3月13日のワシントン州立大学調査報告書の冒頭部分(出典:同)。全文(24頁)は → https://assets.documentcloud.org/documents/2680590/WSUMisconductInvestigation.pdf

【ねつ造・改ざんの具体例】

省略。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2020年10月20日現在、パブメド(PubMed)で、クレイグ・フリアー(Craig Frear)の論文を「Craig Frear [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2006~2018年の13年間の20論文がヒットした。

2020年10月20日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文訂正リストを検索すると、0論文が訂正されていた。

★撤回監視データベース

2020年10月20日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでクレイグ・フリアー(Craig Frear)を「Craig Frear」で検索すると、 0論文が訂正、0論文が懸念表明、1論文が撤回されていた。

撤回論文は、本記事で問題にした「2011年7月のCLEAN: Soil, Air, Water」論文で、2016年2月1に撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2020年10月20日現在、「パブピア(PubPeer)」では、クレイグ・フリアー(Craig Frear)の論文のコメントを「Craig Frear」で検索すると、0論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》他の論文 

2011年(47歳?)、クレイグ・フリアー(Craig Frear)がワシントン州立大学(Washington State University)・院生・助教授の時、問題の「2011年7月のCLEAN: Soil, Air, Water」論文を出版した。

フリアーはその1~2年後には研究博士号(PhD)を取得している。

暴風雨でデータが吹き飛ばされただの、姉の家で紛失しただの、フリアーの弁解がオカシイ。データが紛失しても、データの平均値と標準偏差を含む結果だけが無事に保持できていた、というのもオカシイ。

要するに、意図的なねつ造・改ざんである。

となると、博士論文もネカトだろう。ワシントン州立大学はいくつかの論文をネカト調査したとあるが、博士論文に言及していない。博士論文のネカト調査もすべきである。

また、調査委員会は特許についてもネカト調査するよう勧告している。しかし、特許を調査したとの記載がない。実際に、調査したのだろうか?

調査がズサンな印象を受けた。

《2》ペナルティ

調査報告書はフリアーの処分に関して何も勧告していない。

ワシントン州立大学は処分しなかったようだ。

処分もズサンな印象を受けた。

https://www.regenis.net/news/kgmi-radio-interviews-craig-frear-on-phosphorous-recovery-system/

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●9.【主要情報源】

① 2015年3月13日:ワシントン州立大学(Washington State University)の調査報告書:(1)https://assets.documentcloud.org/documents/2680590/WSUMisconductInvestigation.pdf、(2)Borrell manure investigation report.pdf – Google ドライブ
② 2016年1月5日のブレンダン・ボレル(Brendan Borrell)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:A bullshit excuse? My lab notebook “was blown into a manure pit” – Retraction Watch
③ 2016年1月13日のサンディ・ドートン(Sandi Doughton)記者の「Seattle Times」記事:WSU seeks retraction, says researcher faked poop-to-power study data | The Seattle Times
④ 2016年1月15日のザック・アンダース(Zach Anders)記者の「Daily Evergreen」記事:Misconduct muck-up – The Daily Evergreen
⑤ 2016年1月14日の「Sky Valley Chronicle Washington State News」記事:WSU RESEARCHER FAKED DATA ON POOP STUDY<br>Says school investigative committee | BREAKING NEWS | Sky Valley Chronicle Washington State News
⑥ 2016年1月14日のサンディ・ドートン(Sandi Doughton)記者の「yakimaherald」記事:WSU says researcher faked poop-to-power study data | State News | yakimaherald.com
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