ポール・コーナック(Paul H. Kornak)(米)

ワンポイント:医療記録のねつ造で治験者が死亡

【概略】
10FF4[1]ポール・コーナック(Paul H. Kornak、写真出典)は、米国・ニューヨーク州のオールバニ・ストラットン退役軍人省病院(Albany Stratton VA Medical Center)で、米国・退役軍人省(Department of Veterans Affairs)の研究コーディネーターとして勤めていた。研究博士号(PhD)も医師免許も取得していない。

1990年代、製薬会社は新薬をドンドン開発し、患者を対象に臨床試験(治験)を行なうのが盛んだった。研究コーディネーターは、臨床試験にどの患者を参加させるのかを調整するのが仕事だった。

コーナックは医師免許偽造で重詐欺罪の前科があったが、前科を秘匿し、1999年、オールバニ・ストラットン退役軍人省病院の研究助手に採用された。間もなく、同じ勤務場所で、米国・退役軍人省の研究コーディネーターになった。

医師ではないのに医師のように振る舞い、横暴で暴言も多く、病院内ではコマッタ人のようだっただが、彼を信頼する患者も多かった。なお、当時のオールバニ・ストラットン退役軍人省病院の職場は少し荒れた状況だったようだ。

2001年(49歳?)、コーナックは医療記録を48件ねつ造・改ざんし、公的機関に報告していた。さらに、本来、参加できないがん患者を臨床試験にを参加させていた。参加した患者2人が死亡した。

2005年11月21日(53歳?)、 刑事事件になり、コーナックに71か月(5年11か月)の実刑と罰金約64万ドル(約6,440万円)が科された。

2006年、研究公正局はコーナックの研究ネカト・過失致死に対し、締め出し年数(debarment)を終身とした。終身の締め出し処分を受けた研究者は、2015年11月9日現在まで、3人しかいない(研究者の事件ランキング)。

Stratton-VA-Medical-Center-1-1024x688米国・ニューヨーク州のオールバニ・ストラットン退役軍人省病院(Albany Stratton VA Medical Center) 写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男性
  • 生年月日:1951年頃。仮に、1952年1月1日とする
  • 現在の年齢:65 (+1)歳
  • 分野:治験調整
  • 最初の不正記録:1992年(40歳)
  • 発覚年:2011年(49歳)
  • 発覚時地位:米国・退役軍人省の研究コーディネーターで米国・ニューヨーク州のオールバニ・ストラットン退役軍人省病院に勤務
  • 発覚:
  • 調査:①裁判所。②研究公正局。
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正数:48件
  • 時期:キャリアの初期から
  • 結末:解雇。71か月(5年11か月)の実刑と罰金約64万ドル(約6,440万円)。申請不可年数は終身。

【経歴と経過】
不明点多い。

  • 生年月日:1951年頃。仮に、1952年1月1日とする
  • xxxx年(xx歳):xx大学を卒業
  • 1999年2月(47歳?):米国・ニューヨーク州のオールバニ・ストラットン退役軍人省病院(Albany Stratton VA Medical Center)の研究助手
  • 2000年10月(48歳?):米国・退役軍人省(Department of Veterans Affairs)の研究コーディネーター。勤務場所はオールバニ・ストラットン退役軍人省病院
  • 1999年5月~2002年6月(47-50歳?): ねつ造・改ざんデータを報告
  • 2001年6月11日(49歳?): ねつ造・改ざんデータで患者が死亡
  • 2003年1月(51歳?):オールバニ・ストラットン退役軍人省病院を解雇
  • 2005年11月(53歳):裁判所の判決は71か月(5年11か月)の実刑と罰金約64万ドル(約6,440万円)
  • 2006年(54歳?):研究公正局は、ポール・コーナック(Paul H. Kornak)にデータねつ造・改ざんがあったと発表した

【不正発覚の経緯と内容】

1992年12月16日(41歳?)、コーナックは医学大学院の卒業証明書を偽造し、医師免許を取得した。

1993年4月23日(42歳?)、卒業証明書の偽造がバレ、ペンシルヴァニア州で、1995年11月8日までの3年間の執行猶予付の有罪(重詐欺罪)となった。

医学大学院の研究コーディネーターのクラスを受講した。

1999年2月(47歳?)、上記の前科を隠して、米国・ニューヨーク州のオールバニ・ストラットン退役軍人省病院(Albany Stratton VA Medical Center)の研究助手に採用された。

2000年8月15日(48歳?)、米国・退役軍人省(Department of Veterans Affairs)の採用宣誓書に「前科がない」と記入し、サインした。

2000年10月(48歳?)、退役軍人省の研究コーディネーターを兼務した。勤務場所は変わらず、オールバニ・ストラットン退役軍人省病院である。がん研究関係の研究をコーディネイトし、治験プロトコール、データ管理、規則遵守などを行なう仕事である。

コーナックは医師免許を持っていないのに、患者には医師のように振る舞った。病院は見て見ぬふりをした。ボスの医師・ジェームス・ホランド(James A. Holland)はいい加減でちゃんと対処しなかった。

当時、オールバニ・ストラットン退役軍人省病院は、この地区の中心的な病院として、数種類の抗がん剤の臨床試験(治験)を行なっていた。また、コーナックは、臨床試験であるFeAST研究班 (FeAST:Iron [Fe] and Atherosclerosis Study)の地区コーディネイターで、この地区のデータを集めて本部に報告する立場だった。

1999年5月14日(47歳?)~2002年6月10日(50歳?)、ところが、コーナックは、臨床試験の報告書に、データの削除・ねつ造・改ざんしたデータを記載していたのである。

臨床試験(治験)としては、アヴェンティス(Aventis)社のタキソテール(taxotere:Tax325) が試験されていた。タキソテールは胃がんに対する抗がん剤で、適用してはいけない患者が指示されていて、クレアチニン量の値はその指標の1つだった。

また、同じアヴェンティス(Aventis)社の前立腺がんに対する抗がん剤・Tax327、さらに、ILEX Oncology社の膀胱がんに対する抗がん剤・ジフルオロメチルオルニチン(DFMO)の臨床試験(治験)も行なわれていた。

★ジェームス・ディジョルジョ(James DiGeorgio、71歳)

2001年5月25日~2001年6月11日(49歳?)、コーナックは、がん患者の71歳の退役空軍軍人ジェームス・ディジョルジョ(James DiGeorgio)の治験の計画を立てた。

実は、患者・ディジョルジョはクレアチニン量の値から判断して、タキソテール(Tax325)治験に適さない腎臓・肝臓の状態だった。コーナックは、書類を改ざんし、5月31日に治験に参加させた。

患者・ディジョルジョは12日後の6月11日に死亡した。

★カール・ストゥビング(Carl M. Steubing、78歳)

06drugs3_1842001年、1944年12月にベルギーでドイツ軍と戦った「バルジの戦い」の勲章を持つカール・ストゥビング(Carl M. Steubing、78歳、写真)は、胃食道がんと診断された。

白髪に豊かなバリトンの声を持つカールは、音楽教育と結婚式写真の仕事を退職し、24歳若い妻・ジェーン・ストゥビング(Jayne Steubing)と7人の子供、3人の孫に囲まれ、教会のコーラスの指揮、絵画、ゴルフ、釣りと多忙な日々を過ごしていた。

78歳のカールは、まだ、がんに負けたくなかった。新薬を使う治験がると聞いて、研究コーディネータのコーナックに聞くと、「あなたは、参加者として完璧です」と言われた。カールは、新薬を使う治験に参加できると言われ、「まだ生きられる」と小躍りして喜んだ。。

しかし、がんの既往症があり、腎臓機能は低下していた。政府の書類をみれば、本当は、治験に参加できないクレアチニン量の値を示していた。コーナックは、健康状態が基準値に達していないことを知りながら、カールの医療記録を改ざんし治験に参加させたのである。

2001年、カールは、3種の薬剤を使う化学療法を6周期行なった。毎回、治療を受けるたびに体調がひどくなり、入院していた。

2002年3月、そして、カール・ストゥビングは亡くなった。

★裁判(刑事事件)と研究公正局

上記のように、2001年6月と2002年3月、治験患者が死亡した。

時期は定かではないが、コーナックの医療記録のねつ造・改ざんがバレた。コーナックの上司のジェームス・ホランド医師(James A. Holland)の杜撰な管理も明るみに出た。

2003年1月(51歳?)、コーナックとホランド医師はオールバニ・ストラットン退役軍人省病院を解雇された。

ディジョルジョの妻とストゥビングの妻は、コーナック、ホランド医師、米国・退役軍人省を訴えた。

06vets_lgカール・ストゥビング(Carl M. Steubing)の妻・ジェーン・ストゥビング(Jayne Steubing) 写真

2005年1月(53歳)、裁判所で、コーナックは、退役軍人ジェームス・ディ・ジョルジョ(James DiGeorgio)の過失致死、患者の医療記録のねつ造・改ざん、公的機関にねつ造・改ざんのデータを報告したことを認めた。有罪である。

2005年11月21日(53歳?)、 コーナックに71か月(5年11か月)の実刑と罰金が科された。罰金は、アヴェンティス(Aventis)社に約49万ドル(約4,900万円)、ILEX Oncology社に約1万4千ドル(約140万円)、政府に約14万ドル(約1,400万円)、計約64万ドル(約6,440万円)だった(①Electronic Reading Room > Notice of Opportunity for Hearing (NOOH) Kornak, Paul H. 5/04/09、②Fraud earns researcher time in jail | The Scientist Magazine®

ジェームス・ディ・ジョルジョの妻・ジュディス・ディ・ジョルジョ(Judith DiGeorgio)は、「夫は、オールバニ・ストラットン退役軍人省病院をとても信頼していました。他の病院のことを聞いても、決して他の病院に行きたいと言いませんでした。夫にしたひどいことを、オールバニ・ストラットン退役軍人省病院は、恥と感じないんですか!」と、やり場のない怒りをぶつけている。

2006年2月24日(54歳?)、研究公正局は、通常3年間である申請不可年数をコーナックには終身とした。

2008年、ホランド医師にも1年の実刑判決が下された(http://www.circare.org/lex/07cr202_20080317.pdf)。

【論文数と撤回論文】

2015年7月12日現在、パブメドhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedで、ポール・コーナック(Paul H. Kornak)の論文を「Kornak P [Author]」で検索すると、1987年と2000年の2論文がヒットした。

2論文とも、所属と論文タイトルから推察して、本記事のポール・コーナックの論文ではないと思われる。

2015年7月12日現在、2論文とも、撤回されていない。

【白楽の感想】

《1》医療技術者の研究ネカト

ライアン・アシャリン(Ryan Asherin)(米)に比べると、顔写真があり、ポール・コーナック(Paul H. Kornak)の人物像は幾分わかる。医師でも博士号取得者でもない。論文はないので、研究者というより、行政サイドの医療技術者である。

しかし、この事件は、動機や研究ネカトの実行状況が把握しにくい。

医師でも博士号取得者でもないこういう立場・状況の研究関連業務者・医療技術者は日本にも世界にも大勢いる。こういう人が研究ネカトを犯さないためにも、原因や状況を詳しく報告・分析することは有益だと思う。

コーナックはいわゆる悪徳医療関係者の部類である。ボスの医師・ジェームス・ホランド(James A. Holland)が無能だったことも不運だった。しかし、もう少し打つ手はなかったのだろうか? 悪徳医師・医療関係者は日本にもいるが、米国にもいる(2015年6月18日の記事:Authorities arrest 243 people in $712 million Medicare fraud | Reuters)。事件発生と防止策はイタチゴッコだろうが、それでも、事件を参考に最も有効な事件の防止策を練り・実施することは重要だ。

《2》時系列

事件の時系列が今まで述べた研究ネカトと大きく異なる。

2001年に研究ネカトで患者が死亡する → 2003年にコーナックは解雇 → 2005年に裁判 → 2006年研究公正局が報告 → 2009年連邦政府の「Federal Register」。

通常の研究ネカトの調査は、研究機関 → 研究公正局 → 裁判所であるが、今回は、裁判所が先に調査したので、調査の順番は、研究機関 → 裁判所 → 研究公正局となった。

研究公正局は2006年に報告した。通常、すぐに「Federal Register」が発表されるのに、発表は3年後である。さらに、2006年の研究公正局の報告は2013年11月25日に更新されている。

裁判が終わった事件を、研究公正局が調査する意味がどれほどあるのだろうか? それに、研究公正局の動きも奇妙である。単純な研究ネカト事件ではなかったのだろうか?

《3》申請不可が終身

研究ネカトで患者が死亡したのだから、通常は3年間の申請不可を研究公正局が終身にしたのは納得できる。

終身は今(2015年7月)まで3人しかいない。他の2人は、「エリック・ポールマン(Poehlman)(米) 」と「ヨン・スドベ (Jon Sudbø) (ノルウェー)」である。

【主要情報源】
① 2005年2月6日、デボラ・ソンタグ(Deborah Sontag)の「New York Times」記事:Abuses Endangered Veterans in Cancer Drug Experiments – The New York Times
② 2006年の研究公正局年次報告書の48~49ぺージ:Paul H. Kornak, Stratton VA Medical Center, Albany, New York  → 元はNOT-OD-06-042: Findings of Scientific Misconduct
③ 2009年7月20日の米国連邦政府の「Federal Register」:Federal Register | Paul H. Kornak: Debarment Order
④ 2013年11月25日更新の研究公正局の報告:Case Summary: Kornak, Paul H. | ORI – The Office of Research Integrity
⑤ 裁判記録
(1)コーナック: Criminal No. 03CR436, USDC, N.D. of N.Y. (Plea and Cooperation Agreement) 2005-01-19: http://www.circare.org/lex/03cr436.pdf
(2)2003-01-02ジェームス・ホランド医師: FDA 483 Issued to James A. Holland M.D. Stratton VA Medical Center.: http://www.bioethicswatch.org/foia/strattonva483_20030102.pdf
(3)2007-04-24ジェームス・ホランド医師: Criminal No. 07CR202, USDC, N.D. of N.Y. (Criminal Information): http://www.circare.org/lex/07cr202_20070424.pdf
(4)2007-04-24ジェームス・ホランド医師: Criminal No. 07CR202, USDC, N.D. of N.Y. (Plea Agreement) 2007-04-24: http://www.circare.org/lex/07cr202_plea.pdf
(5)2008-03-17ジェームス・ホランド医師: Criminal No. 07CR202, USDC, N.D. of N.Y. (Sentencing Memorandum): http://www.circare.org/lex/07cr202_20080317.pdf
→ 他の関連資料も含め:Index of (In)Famous Research and High Profile Cases
⑥ 記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。