ライアン・アシェリン(Ryan Asherin)(米)

ワンポイント:州保健医療局の調査官がデータねつ造・改ざん

【概略】
無題ライアン・アシェリン(Ryan Asherin、写真未発見)は、米国・オレゴン州保健医療局(Oregon Health Authority)の調査官(Surveillance Officer)・主任研究官(Principal Investigator)だった。専門は公衆衛生。

2015年6月1日(xx歳)、研究公正局は、アシェリンの研究報告書と論文にデータねつ造・改ざんがあったと発表した。

marD0007a米国・オレゴン州保健医療局(Oregon Health Authority) 写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明
  • 現在の年齢:
  • 分野:公衆衛生
  • 最初の不正論文発表:xxxx年(xx歳)
  • 発覚年:2011年?(xx歳)
  • 発覚時地位:米国・オレゴン州保健医療局(Oregon Health Authority)の調査官(Surveillance Officer)・主任研究官(Principal Investigator)
  • 発覚:オレゴン州保健医療局・内部監査
  • 調査:①米国・オレゴン州保健医療局(Oregon Health Authority)・調査委員会。~2011年8月12日。②研究公正局。~2015年6月1日
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正数:56件の感染報告書。論文1報、論文原稿1報
  • 時期:
  • 結末:辞職または解雇。2年間(通常は3年間)の申請不可

【経歴と経過】
ほぼ不明。

  • 生年月日:不明
  • xxxx年(xx歳):xx大学を卒業
  • xxxx年(xx歳):米国・オレゴン州保健医療局(Oregon Health Authority)の調査官(Surveillance Officer)・主任研究官(Principal Investigator)
  • 2011年頃(?)(xx歳):データねつ造・改ざんに疑念を持たれる
  • 2011年8月12日(xx歳):オレゴン州保健医療局を辞職または解雇
  • 2015年6月1日(xx歳):研究公正局は、アシェリンの研究報告書と論文にデータねつ造・改ざんがあったと発表した

【不正発覚の経緯と内容】

米国・オレゴン州保健医療局(Oregon Health Authority)(OHA)は、正確な保健医療データに基づいて、オレゴン州の公衆衛生に関する政策と施策を決定する使命がある。

2011年頃(推定)、オレゴン州保健医療局は、職員であるライアン・アシェリン(Ryan Asherin)の報告書に異常な数値が記載されていることに気が付いた。それで、徹底的な調査を開始した。

米国・オレゴン州保健医療局は調査結果を研究公正局に報告した。なお、ライアン・アシェリンは2011年8月12日現在、オレゴン州保健医療局を辞職または解雇されている。

2015年6月1日(xx歳)、研究公正局は、アシェリンの報告書(ケースレポート)と2報の論文にデータねつ造・改ざんがあったと発表した。

論文2報のうち1報は「JAMA Internal Medicine」誌への投稿原稿である。もう1報は、論文というよりレポートで、2012年3月出版のアメリカ疾病予防管理センター(CDC:Centers for Disease Control and Prevention)へのレポート「Morbidity and Mortality Weekly Report」だった。

報告書(ケースレポート)でのねつ造・改ざんは56件に及んだ。内容は、オレゴン州クラマス郡(Klamath County, Oregon)の細菌・クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)に関するものだった。

(1)患者の人口統計データ、患者の健康情報、クロストリジウム・ディフィシル感染についての回答で報告書(ケースレポート)にねつ造データを記載した。

(2)患者の医療記録に記載されているデータを省いて、報告書(ケースレポート)に改ざんデータを記載した。

なお、クロストリジウム-ディフィシルは以下のようだ(横浜市衛生研究所:クロストリジウム-ディフィシル感染症について)。

クロストリジウム-ディフィシル(あるいはクロストリジウム-ディフィシレ)感染症(Clostridium difficile infection:CDI)については、病院・老人施設等における入院患者・入居者等での集団発生が見られることがあります。院内感染を起こす菌としてMRSA(methicillin-resistant Staphylococcus aureus : メチシリン耐性黄色ブドウ球菌。マーサ)等とともに注意する必要があります。
クロストリジウム-ディフィシル感染症は、すべての年齢層で見られますが、65歳以上の老人での発生が多いです。また、老人に限らず、免疫機能が低下している人たちでの発生が多いです。

17059734-mmmainクロストリジウム・ディフィシル 写真出典

【追記:2015年9月12日】

2015年9月11日、アメリカ疾病予防管理センターは次の報告を公表した(Notice to Readers: The Effect of Falsified Clostridium difficile Infections Surveillance Data on Results Reported in MMWR)。

アシェリンの2012年3月出版のアメリカ疾病予防管理センター(CDC:Centers for Disease Control and Prevention)のレポート「Morbidity and Mortality Weekly Report」を分析しなおした。その結果、アシェリンのデータを全部削除しても、アメリカ疾病予防管理センターの分析結果の結論は変わらなかった。

【論文数と撤回論文】

2015年6月23日、パブメドhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedで、ライアン・アシェリン(Ryan Asherin)の論文を「Ryan Asherin[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2007~2014年の8年間の10論文がヒットした。

10論文にライアン・アシェリンが第一著者の論文はない。最終著者の論文もない。

所属と論文タイトルから推察して、本記事のライアン・アシェリンの論文は2011年の以下の1報だけと思われる。

上記論文のライアン・アシェリンの所属はOregon Public Health Departmentとなっている。

2015年6月23日現在、撤回論文はゼロである。

【白楽の感想】

《1》不明点だらけ

この事件は不明点だらけである。ライアン・アシェリン(Ryan Asherin)がどのような人か見えてこない。学歴・職歴がわからない。研究活動は見えてこない。顔写真も見つからない。研究公正局の報告書から判断して、医師でも博士号取得者でもない。第一著者の論文はないし、最終著者の論文もないから、研究者というより、行政サイドの医療技術者なのだろう。

通常は3年間の申請不可も2年間にしたことから、ねつ造・改ざんの悪質度は低いと判断されたようだ。アシェリンは、自分が行なったねつ造・改ざんが「研究上の重大な不正」であるという認識が低かったかもしれない。多分、研究規範(倫理)教育を受けていないと思われる。

実は、こういう立場・状況の研究関連従事者は日本にも世界にも大勢いる。こういう人が研究ネカトを犯さないためにも、原因や経過(できれば防止策も)を詳しく報告することは有益だと思う。

本事件は不明点だらけで、事件を参考にして、ねつ造・改ざんを防ぐ方策を考えようとしても、何も得られない。

《2》研究公正局の仕事は遅すぎる

研究公正局は、通常は3年間の申請不可を、アシェリンに対して2年間にした。ということは軽微な研究ネカトだったということだ。

アシェリンは2011年8月12日には、オレゴン州保健医療局を辞職または解雇されている。ということは、オレゴン州保健医療局の調査はこの時点でほぼ終了していた(又は山場は超えていた)はずだ。

それなのに、研究公正局の発表は2015年6月1日と、その4年後である。どうして、軽微な研究ネカトの調査に4年もかかったのだろう? 研究公正局の仕事は遅すぎる。

【主要情報源】
① 2015年5月29日の「論文撤回監視(Retraction Watch)」記事:Oregon public health employee faked 56 infection case reports: ORI – Retraction Watch at Retraction Watch
② 2015年6月1日、研究公正局の報告:Case Summary: Asherin, Ryan | ORI – The Office of Research Integrity
③ 2015年6月2日の「Food Safety News」記事:Audit Finds Former Oregon Health Researcher Faked Clostridium Reports | Food Safety News