パトリツィア・ルッソ(Patrizia Russo)(イタリア)

2018年6月24日掲載。

ワンポイント: 2010年5月(40歳?)、ルッソの「2005年のCancer」論文が撤回された。撤回理由はデータねつ造・改ざんである。2015年12月26日(45歳?)、「2008年のCell Prolif」論文中に盗用画像があると指摘された。画像の使い回しがあり、ねつ造・改ざんである。しかし、本人は否定し、2009年、論文出版時のイタリア国立がん研究所(National Institute for Cancer Research (IST) in Genoa)・研究員から、サンラッファエーレ・ピサーナ病院(IRCCS San Raffaele Pisana)・研究員に移籍していた。処分なし。損害額の総額(推定)は1億1600万円。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説

5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

パトリツィア・ルッソ(Patrizia Russo、写真出典)は、イタリア国立がん研究所(National Institute for Cancer Research (IST) in Genoa)・研究員から、2009年、イタリア・ローマのサンラッファエーレ・ピサーナ病院(IRCCS San Raffaele Pisana)・研究員に移籍した。専門はがん生化学で医師免許はない。

2010年5月(40歳?)、ルッソのイタリア国立がん研究所(IST)の「2005年のCancer」論文が撤回された。撤回理由はデータねつ造・改ざんである。

2009年11月4日(39歳?)、イタリア国立がん研究所(IST)の研究公正機関(Institutional Office for Research Integrity:UIR)が正式な調査を行なった結果、ルッソの論文にデータねつ造があったと発表した。しかし、9人の共著者がいて、ネカト者を誰と特定できなかった。

この2009年(39歳?)、ルッソはイタリア国立がん研究所(IST)からイタリア・ローマのサンラッファエーレ・ピサーナ病院(IRCCS San Raffaele Pisana)・研究員に移籍した。

2015年12月26日(45歳?)、パブピアがイタリア国立がん研究所(National Institute for Cancer Research (IST) in Genoa)・研究員だった時のパトリツィア・ルッソ(Patrizia Russo)の「2008年のCell Prolif」論文中に盗用画像があると指摘した。画像の使い回しもあり、ねつ造・改ざんと思われる。しかし、ルッソ本人はねつ造・改ざんを否定した。

イタリア国立がん研究所(National Institute for Cancer Research (IST) in Genoa)。写真出典

サンラッファエーレ・ピサーナ病院(IRCCS San Raffaele Pisana)。写真出典

  • 国:イタリア
  • 成長国:イタリア
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:ジェノヴァ大学(推定)
  • 男女:女性
  • 生年月日:不明。仮に1970年1月1日生まれとする。NIHのポスドクになった1998年を28歳とした
  • 現在の年齢:54 歳?
  • 分野:がん生化学
  • 最初の不正論文発表:2005年(35歳?)
  • 発覚年:2009年(39歳?)
  • 発覚時地位:サンラッファエーレ・ピサーナ病院・研究員
  • ステップ1(発覚):第一次追及者(詳細不明)は「パブピア(PubPeer)」の匿名者
  • ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②イタリア国立がん研究所(IST)の研究公正機関(Institutional Office for Research Integrity:UIR)。③裁判所
  • 機関・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 所属機関の事件への透明性:1回目は実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)。その後なし(✖)。
  • 不正:ねつ造・改ざん、盗用
  • 不正論文数:3報撤回
  • 損害額:総額(推定)は1億1600万円。内訳 → ①研究者になるまで5千万円だが、研究者をやめていないので損害額はゼロ円。②研究者の給与・研究費など年間2000万円だが、研究者をやめていないので損害額はゼロ円。③院生の損害が1人1000万円だが、損害額はゼロ円。④外部研究費の額は不明で、額は②に含めた。⑤調査経費(イタリア国立がん研究所(IST)の研究公正機関と学術誌出版局)が5千万円。⑥裁判経費が2千万円。⑦論文出版・撤回作業が1報につき100万円、撤回論文の共著者の損害が1報につき100万円。3報撤回=600万円。⑧研究者の時間の無駄と意欲削減が4千万円
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:処分なし。本人がネカトを否定している。
  • 日本人の弟子・友人:不明

●2.【経歴と経過】

不明多い:Patrizia Russo | LinkedIn

    • 生年月日:不明。仮に1970年1月1日生まれとする。NIHのポスドクになった1998年にを28歳とした
    • xxxx年(xx歳):イタリアのジェノヴァ大学(University of Genova)で研究博士号(PhD)を取得(推定)
    • 1998-2001年(28-31歳?):米国のNIH・国立がん研究所(National Cancer Institute)・ポスドク。Patrick M. O’Connor研究室
    • 2002-2009年(32-39歳?):イタリア・ジェノヴァのイタリア国立がん研究所(National Institute for Research on Cancer)・研究員
    • 2008年(38歳?):後で問題となる「2008年のCell Prolif」論文を発表
    • 2009年(39歳?):イタリア・ローマのサンラッファエーレ・ピサーナ病院(IRCCS San Raffaele Pisana)・研究員、コンサルタント。IRCCSはIstituto di Ricovero e Cura a Carattere Scientificoの略
    • 2015年(45歳?):「2008年のCell Prolif」論文がデータねつ造・改ざんと指摘されるが、本人は否定した

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★「2005年のCancer」論文

2010年5月、ルッソの「2005年のCancer」論文が撤回された。撤回理由はデータねつ造・改ざんである。
→  Retraction

 その9か月前の2009年10月6日(39歳?)、論文のデータ公正性に懸念表明がされていた。

イタリアのジェノバにあるイタリア国立がん研究所(IST)の研究公正機関(Institutional Office for Research Integrity:UIR)が正式な調査を行なった。

2009年11月4日(39歳?)、研究公正機関(UIR)は次の調査報告書を発表した。
→  Retraction

1)内部調査が終了し、今後の調査は予定されていない。
2)論文にデータのねつ造/複製の証拠が含まれている。
3)すべての著者にデータの懸念を伝えた。何人かの著者は、上記の2の結論を認めたが、他は認めなかった。しかし、誰もデータねつ造/複製の責任を認めなかった。

それで、ルッソも処分を受けることはなかった。

その2009年(39歳?)、ルッソはイタリア・ローマのサンラッファエーレ・ピサーナ病院(IRCCS San Raffaele Pisana)・研究員に移籍した。IRCCSはIstituto di Ricovero e Cura a Carattere Scientificoの略である。

★「2008年のCell Prolif」論文

2015年12月26日(45歳?)、パブピアがパトリツィア・ルッソ(Patrizia Russo)の「2008年のCell Prolif」論文中の画像の盗用を指摘した。
→ PubPeer – Role of alpha7-nicotinic acetylcholine receptor in human non…

左がルッソの「2008年のCell Prolif」論文で、右が被盗用画像である。出典:パブピア。https://pubpeer.com/publications/7DAED62EC79A5F085F3394F62642A1#5

被盗用画像は論文中の画像ではなく、Cell Signaling Technology社の製品カタログの画像だった。
→ CST – Caspase-9 (C9) Mouse mAb

Cell Signaling Technology社の代表は、自分たちが作った画像で、「2008年のCell Prolif」論文が出版される前の2005年10月にウェブにアップしたと述べている。

一方、「2008年のCell Prolif」論文の最後著者で、サンラッファエーレ・ピサーナ病院の研究員であるルッソは画像の盗用を否定している。とはいえ、ルッソは過去に3論文を撤回した前科がある。

ルッソは、画像は別のもので、論文が画像を盗用したかどうか、現在、イタリアの裁判所が審理中だと述べた。

結局、ジェノヴァの刑事裁判所のボッシ裁判官((Boss)は、ルッソが盗用ではなかったと判定した(らしい)。イヤ、逆にクロと判定したかも。

白楽は、イタリア語がよくわからない。以下、イタリア語の裁判記録である。以下の文書をクリックすると、PDFファイル(2.58 MB、5ページ)が別窓で開く。

なお、この論文は他にも画像の異常が指摘されている。

2015年12月27日、図5 Cの電気泳動バンドが以前の論文の画像の流用だと指摘された「Unregistered Submission: (commented December 27th, 2015 2:42 AM and accepted December 27th, 2015 6:30 AM)」。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/7DAED62EC79A5F085F3394F62642A1#4

パブピアはこの論文は図のすべてに異常があると指摘している。全部は示さないが、もう1つ示そう。

2015年12月27日、図3aの電気泳動バンドが画像の頻繁な流用だと指摘された「Unregistered Submission (commented January 5th, 2016 5:24 AM and accepted January 5th, 2016 6:24 AM)」。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/7DAED62EC79A5F085F3394F62642A1#5

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

2018年6月22日現在、パブメド(PubMed)で、パトリツィア・ルッソ(Patrizia Russo)の論文を「Patrizia Russo [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2018年の17年間の77論文がヒットした。

「Russo P[Author]」で検索すると、1946~2018年の73年間の1633論文がヒットした。本記事で問題にしている研究者以外の論文が多いと思われる。

2018年6月22日現在、「Russo P[Author] AND Retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、3論文が撤回されていた。

  1. Addition or removal of guideline directed medical therapy in ambulatory patients with heart failure with reduced ejection fraction relative to change in symptom severity: An analysis from the PINNACLE (Practice Innovation and Clinical Excellence) Registry®.
    Ibrahim NE, Song Y, Cannon CP, Doros G, Trebnick A, Russo P, Ponirakis A, Alexanian C, Januzzi JL Jr.
    Int J Cardiol. 2018 Mar 1;254:222-223. doi: 10.1016/j.ijcard.2017.10.096. Epub 2018 Jan 28. No abstract available. Retraction in: Int J Cardiol. 2018 Mar 1;254:R1
  2. Inhibition of nonneuronal alpha7-nicotinic receptor for lung cancer treatment.
    Paleari L, Negri E, Catassi A, Cilli M, Servent D, D’Angelillo R, Cesario A, Russo P, Fini M.
    Am J Respir Crit Care Med. 2009 Jun 15;179(12):1141-50. doi: 10.1164/rccm.200806-908OC. Epub 2009 Jan 16. Retraction in: Sznajder JI. Am J Respir Crit Care Med. 2010 Dec 1;182(11):1456
  3. Tumor necrosis factor enhances SN38-mediated apoptosis in mesothelioma cells: the role of nuclear factor-kappaB pathway activation.
    Russo P, Catassi A, Malacarne D, Margaritora S, Cesario A, Festi L, Mulé A, Ferri L, Granone P.
    Cancer. 2005 Apr 1;103(7):1503-18. Retraction in: Cancer. 2010 May 1;116(9):2285.

★パブピア(PubPeer)

2018年6月22日現在、「パブピア(PubPeer)」では、パトリツィア・ルッソ(Patrizia Russo)の3論文にコメントしている:PubPeer – Search publications and join the conversation.

●7.【白楽の感想】

《1》イタリアはいい加減

パトリツィア・ルッソ(Patrizia Russo)の論文でのデータねつ造・改ざんは明白である。しかし、本人がネカトを認めない。ネカト論文を発表した時に所属していたイタリア国立がん研究所(IST)はねつ造と判定したが、実行者を特定できなかった。

そのすぐ後、ルッソはサンラッファエーレ・ピサーナ病院(IRCCS San Raffaele Pisana)・研究員に移籍した。この移籍はネカト疑惑からの逃避だろう。移籍してしまえば、前機関は処分ができない(しにくい)。

サンラッファエーレ・ピサーナ病院は移籍前のネカト行為を勘案していない。それで、ルッソは解雇されていない。

一般的に、イタリアの大学・研究機関はネカトの調査、そしてその後のネカト者の処分に大甘である。そして、当然ながら、イタリアの研究者はネカト行為にルーズである。

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●8.【主要情報源】

① 2016年4月6日のシャノン・パラス(Shannon Palus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Does this scientific image look familiar? It’s from a catalog – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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