2017年9月27日掲載。
ワンポイント:ジョージ・メイソン大学・教授(男性)で、議会から依頼され、気候問題に関する報告者「2006年のウェグマン・リポート」を発表したが、2009年(66歳?)、盗用(盗用ページ率38%)だと指摘された。ジョージ・メイソン大学は調査の結果、調査報告書を非公開にしたままで、盗用はなかったと発表した。このジョージ・メイソン大学の調査は妥当性を欠いていると、大きく批判された。さらに、「2006年のウェグマン・リポート」を基に「2008年のComput. Stat. Data Anal.」論文を発表したが、この論文も盗用と指摘された。学術誌・編集部も盗用と判定し、今度はジョージ・メイソン大学も盗用とみなした。論文は撤回された。ウェグマンの辞職・解雇なし。盗用者は共著者のヤスミン・サイード(Yasmin H. Said)かもしれない。損害額の総額(推定)は9300万円。ウェグマン事件は、2011年ランキングの「「The Scientist」誌の選んだ「2011年の大事件」」の第5位である。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
エドワード・ウェグマン(Edward J. Wegman、写真出典)は、米国のジョージ・メイソン大学(George Mason University)・教授で、専門は数学(気象統計学)だった。
2009年(66歳?)、ウェブサイト「ディープ・クライメイト(Deep Climate)」とコンピュータ科学を専門とするネカト・ハンターのジョン・マッシー(John Mashey)が、「2006年のウェグマン・リポート(Wegman Report)」に盗用を見つけた。
2012年2月(69歳?)、ジョージ・メイソン大学は、「「2006年のウェグマン・リポート(Wegman Report)」にはネカト行為はありませんでした」と発表した。ただし、「2006年のウェグマン・リポート(Wegman Report)」を土台にした「2008年のComput. Stat. Data Anal.」論文は盗用だと判定し、研究チームリーダーのウェグマン教授にその責任があるとした。
実際の盗用実行犯は若い女性で共著者のヤスミン・サイード(Yasmin H. Said)かもしれない。ただし、公式の発表はないので、本記事では、エドワード・ウェグマン(Edward Wegman)がネカトをしたという流れで話を進めた。
なお、「2006年のウェグマン・リポート(Wegman Report)」は盗用だけでなく、その内容の妥当性に関しても疑問視されているが、本ブログはネカト・ブログなので、内容の妥当性については議論しない。
「The Scientist」誌の選んだ「2011年の大事件」の第5位である(Top Science Scandals of 2011 | The Scientist MagazineR)。
→ 2011年ランキング | 研究倫理(ネカト)
ジョージ・メイソン大学(George Mason University)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:米国
- 研究博士号(PhD)取得:アイオワ大学
- 男女:男性
- 生年月日:1948年生まれとの記載があるが、そうすると、20歳で博士号を取得したことになり、異常に早い。1965年の大学卒業時を22歳として、1943年1月1日生まれとした
- 現在の年齢:81 歳?
- 分野:数学(気象統計学)
- 最初の不正論文発表:2006年(63歳?)。公式には不正ではないとされた
- 発覚年:2009年(66歳?)
- 発覚時地位:ジョージ・メイソン大学(George Mason University)・教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者はウェブサイト「ディープ・クライメイト(Deep Climate)」とコンピュータ科学を専門とするネカト・ハンターのジョン・マッシー(John Mashey)で、政府部局とジョージ・メイソン大学に通報し、ウェブサイトにアップした
- ステップ2(メディア): ウェブサイト「ディープ・クライメイト(Deep Climate)」。「USA TODAY」紙のダン・ヴェルガノ(Dan Vergano)記者
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ジョージ・メイソン大学・調査委員会。2つの調査委員会を設けた
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 不正:盗用。1つは公式には盗用ではないとされた。1つは盗用。
- 不正論文数:2報。1報撤回(盗用論文)
- 時期:研究キャリアの後期
- 損害額:総額(推定)は9300万円。内訳 → ①研究者になるまで5千万円。研究者をやめてないので損害額は0円。②研究者の給与・研究費など。研究者をやめてないので損害額は0円。③院生の損害は0円。④外部研究費は数億円はあると思うが、盗用なので、損害は0円。⑤調査経費(大学と学術誌出版局)が5千万円。⑥裁判はすぐ取り下げたので、経費100万円。⑦論文出版・撤回作業が1報につき100万円、撤回論文の共著者の損害が1報につき100万円。1報撤回=200万円。⑧研究者の時間の無駄と意欲削減が4千万円
- 結末:辞職なし。教授職を維持
●2.【経歴と経過】
主な出典:http://web.archive.org/web/20100609135746/http://www.galaxy.gmu.edu/stats/faculty/wegman.resume2.pdf
- 生年月日:1948年生まれとの記載があるが、そうすると、20歳で博士号を取得したことになり、異常に早い。1965年の大学卒業時を22歳として、1943年1月1日生まれとした
- 1965年(22歳?):セントルイス大学(St. Louis University)を卒業。学士号。数学
- 1967年(24歳?):アイオワ大学(University of Iowa)で修士号取得。数学
- 1968年(25歳?):アイオワ大学(University of Iowa)で研究博士号(PhD)取得。数学
- 1968-1973年(25-30歳?):ノースカロライナ大学チャペルヒル校(University of North Carolina)・統計学科・助教授
- 1973-1978年(30-35歳?):同・準教授
- 1978-1983年(35-40歳?):アメリカ海軍研究局(Office of Naval Research)・統計確率プログラム・ディレクター
- 1982-1986年(39-43歳?):アメリカ海軍研究局(Office of Naval Research)・数学部門長
- 1986年(43歳?):ジョージ・メイソン大学(George Mason University)・教授
- 2006年(63歳?):後で盗用と指摘された報告書を提出
- 2009年(66歳?):盗用が発覚
- 2017年9月26日現在(74歳?):ジョージ・メイソン大学(George Mason University)・教授のまま、Department of Computational and Data Sciences – Faculty Profile: Edward Wegman、(保存版)
●3.【動画】
【動画】
2015年4月の講演:「アイオワ大学統計保険数理学科(University of Iowa, Department of Statistics and Actuarial Science) 」(英語)7分37秒
TStatistics and Actuarial Science が2015/07/09 に公開
●4.【日本語の解説】
★2014年7月20日:masudako「ある研究室での盗作連発(Wegman & Said)」
エドワード・ウェグマン(Edward J. Wegman、写真出典)。
2009年、Deep Climateとなのるカナダのブロガー(ブログのサイトはhttp://deepclimate.org/ )が、Wegman報告書の記述の出典を調べはじめた。当初、Rapp (2008)の本との類似性を見つけて、RappがWegman報告書に匿名でかかわったのではないかと疑ったそうだが、Rappから違うと言われた。その類似部分は、実はBradley (1999)の文章であり、Rappは引用であることの表示が不明確であるもののこの本を参考文献としてあげてはいたが、Wegman報告書はあげていなかった。
ここで、計算機科学者(常勤職からは引退しているらしい) John MasheyがDeep Climateと協力して、テキストの比較をした。その結果、Wegman報告書の文章には、Bradleyのテキストとの類似性が高く、細かい変更はあるものの写しと認められる部分があった。
Bradley自身もこれを問題にし、2010年3月、GMUに調査を要請した。GMUは調査手続きにはいったものの、その進行は遅かった(Deep Climateブログ 2010年10月8日、12月23日; Bradley 2011)。そして、Deep Climateブログの2012年2月22日の記事によれば、GMUの調査委員会は、(次に述べる別件は盗作と認めたのだが)、2006年の報告書については不正はないとしてしまった。
これにはDeep Climateは不満であり、Bradleyも不満にちがいない。ただし不正としない側の理屈をあげるとすれば、この報告書は学術論文や学術的著書とちがって学者のオリジナリティが問われるものではなく、そして問題の箇所は序論のうちで古気候学の基礎知識を述べた部分であり必ずしも出典を示す必要はないと考えられる。
しかしWegman報告書にあった盗作はこれだけではなかった。
Wegmanは、Saidが第1著者となってComputational Statistics & Data Analysisという雑誌に論文を出した(Saidほか, 2008)。ところが、これに(やはり序論部分だが)、Wasserman & Faust (1994)やde Nooyほか(2005)の社会ネットワーク解析の教科書およびWikipedia記事からの出典を明示しない写しがあることが指摘され、2010年、雑誌発行者はこの論文を取り消し(retracted)扱いにした(論文は今も雑誌ウェブサイトに置かれているが、大きく「RETRACTED」という字が表示される)。GMUの調査委員会も、これについては研究不正がありWegmanに研究チームリーダーとしての責任があるとした。
また、Wiley社が始めたWiley Interdisciplinary Reviews (WIREs)というシリーズのComputational Statisticsの雑誌は、Wegmanが編集委員長、Saidも編集委員をつとめていた(編集委員長を助けるためにその関係者が編集委員にはいること自体はまずいことではないと思う)。そこにのせた、最適化について(Said and Wegman 2009, Deep Climate 2011年10月4日)と色の利用について(Wegman and Said 2011, Deep Climate 2011年3月26日, 5月15日)のレビュー論文についても盗作箇所がある疑い(およびじゅうぶんな査読を受けていない疑い)が指摘されている。雑誌編集者も問題があることを認め、著者に書きなおしを要請したそうだ。また、編集委員長は他の人に代わり、WegmanとSaidは編集委員からはずれた。
●5.【不正発覚の経緯と内容】
【日本語の解説】で引用した「masudako「ある研究室での盗作連発(Wegman & Said)」」に盗用発覚の経緯が詳しく述べられている。以下は補遺的な記述にしたので、上記と合わせてお読みください。
2005年、エドワード・ウェグマン(Edward J. Wegman )は、米国議会のジョー・バートン(Joe Barton)議員に気候変動の報告書を作成するよう依頼された。
2006年(63歳?)、ウェグマン教授は、91ページの「2006年のウェグマン・リポート(Wegman Report)」を発表した。報告書の正式名称は「Ad Hoc Committee Report on the ‘Hockey Stick’ Global Climate Reconstruction」である。
→ 全文PDF:http://www.uoguelph.ca/~rmckitri/research/WegmanReport.pdf
著者は3人で、第一著者のウェグマンの他に、デヴィッド・W・スコット教授(David W. Scott、ライス大学(Rice University))と、ヤスミン・サイード(Yasmin H. Said、ジョンズ・ホプキンズ大学(Johns Hopkins University))の2人がいた。
第一著者のウェグマン(左)、不明(中央)、ヤスミン・サイード(Yasmin H. Said)(右)(写真出典)。
ヤスミン・サイードは、2005年にジョージ・メイソン大学のウェグマン研究室で研究博士号(PhD)を取得したばかりである。
2009年(66歳?)、ウェブサイト「ディープ・クライメイト(Deep Climate)」とコンピュータ科学を専門とするネカト・ハンターのジョン・マッシー(John Mashey、写真出典)が、「2006年のウェグマン・リポート(Wegman Report)」に盗用を見つけた。
91ページ中の35ページに盗用があったと指摘した。盗用ページ率は38%である。しかも、誤り、偏見、意味を変えた記載も頻繁にあると指摘した。
以下のPDFの左欄が「2006年のウェグマン・リポート(Wegman Report)」で右欄が被盗用文章である。着色部分が同じ単語である。出典:2012年2月の「ディープ・クライメイト(Deep Climate)」。
wegman-social-networks-v-2-1
盗用発見者のジョン・マッシー(John Mashey)は、政府部局に「2006年のウェグマン・リポート(Wegman Report)」の盗用に関する資料を送付した。と同時に、ジョージ・メイソン大学(George Mason University)の研究公正副学長補のアウラリ・デード(Aurali Dade、写真出典 リンク切れ)にも送付した。
★「2010年のUSA TODAY」記事
→ 2010年11月21日のダン・ヴェルガノ(Dan Vergano)記者の「USA TODAY」記事:Experts claim 2006 climate report plagiarized – USATODAY.com
「USA TODAY」紙も独自に調べ「2006年のウェグマン・リポート(Wegman Report)」は盗用だと報じた。
同時に以下のネカト権威者たちからの意見も掲載した。
英国の出版規範委員会(Committee on Publication Ethics)のエリザベス・ウェイジャー(Elizabeth Wager)によれば、「他人のテキストやアイデアをクレジットなし複製使用することは、大学の研究倫理基準に違反する」。つまり、出版規範委員会の基準では、「2006年のウェグマン・リポート(Wegman Report)」は盗用である。
コーネル大学の物理学者・ポール・ギンスパーグ(Paul Ginsparg)は、 「実際、かなりのショックです。私の予備的な判定では有罪です」。
盗用検出専門家のガーナー教授(ヴァージニア工科大学)は、「彼らは他人の文章を文献を示さず使用している。私がこのレポートの査読者なら、盗用を見つけましたと編集者に報告するレベルです。ウェグマン・リポートには不適切な箇所がたくさんあります」と述べている。
オハイオ州立大学のネカト委員長を務めるロバート・コールマン(Robert Coleman)は、「被盗用文章と並べれば、盗作は明白です」と指摘している。
★2012年:ジョージ・メイソン大学はシロと判定
2010年10月、ジョージ・メイソン大学は調査委員会を設置し、調査を開始した。
2011年5月、ネイチャー(Nature)誌・編集長は「ジョージ・メイソン大学の調査が遅いことに失望しました。ジョージ・メイソン大学のネカト規則では調査は1年以内に終了するとあるのに、すでに、1年2か月が経過しています。ネカト調査が長いのは誰の利益にもなりません。大学広報部はおそらく時がたてば皆忘れてしまうことを期待しているかもしれませんが、適切な期限内に、可能な限り迅速に解決すべきです」と述べた。
→ 2011年5月25日の「Nature」 記事:Copy and paste : Nature : Nature Research
2011年5月、ヤスミン・サイードが第一著者でウェグマンらと共著の「2008年のComput. Stat. Data Anal.」論文が撤回された。この論文は、「2006年のウェグマン・リポート(Wegman Report)」を土台にしていた。書誌情報を以下に示す。
- Social networks of author–coauthor relationships
Yasmin H. Said, Edward J. Wegman, Walid K. Sharabati 1, John T. Rigsby
Comput. Stat. Data Anal.
Volume 52, Issue 4, 10 January 2008, Pages 2177-2184
撤回理由は、盗用である(RETRACTED: Social networks of author–coauthor relationships – ScienceDirect)。
2012年2月、調査開始してから1年4か月後、ネイチャー編集長に「遅すぎ」と叱責されてから9か月後、「2008年のComput. Stat. Data Anal.」論文が撤回されてから9か月後、ジョージ・メイソン大学は調査を終えた。
教務局長(provost)のピーター・スターンズ(Peter Stearns、写真出典)は、驚いたことに、「「2006年のウェグマン・リポート(Wegman Report)」にはネカト行為はありませんでした。背景を記載する部分に他の論文の文章を広範に言い換え、繰り返し使用している事実はあります。しかし、ここでの言い換えや繰り返し使用は盗用ではありません」と発表した。
ナントいう判定だ。
そして、調査委員名を匿名にし、委員を秘匿したのだ。
「2006年のウェグマン・リポート(Wegman Report)」を土台にした「2008年のComput. Stat. Data Anal.」論文の盗用は、大学の別の委員会が調査した。こちらの調査委員会の委員名も匿名だった。
その結論は、「盗作があり、研究チームリーダーのウェグマン教授にその責任がある」とした。
大学の調査報告書は公表されなかったが、ウェグマン教授は「戒告書」を受け取ったと発表された。
被盗用者の1人でマサチューセッツ大学(University of Massachusetts)・気候システム研究センター・所長のレイモンド・ブラッドリー教授(Raymond S. Bradley、写真出典)は、2010年にウェグマン教授の盗用を告発していた。
ブラッドリー教授はジョージ・メイソン大学の「盗用はなかった」発表に、憤慨した。「この調査結果はジョージ・メイソン大学の学生に、文献提示なしで他人の文章を使用してもよいと教えているようなものだ」と皮肉った。
コロンビア大学の統計学者であるアンドリュー・ゲルマン教授(Andrew Gelman)は、2013年の「American Scientist」で、「ウェグマン教授は、おそらく、出典記載しないで他人の文章を繰り返し使用・発表した最も有力な統計学者だ」と不名誉さを銘記している。
→ To Throw Away Data: Plagiarism as a Statistical Crime » American Scientist(保存版)。
★2015年:2億円の賠償金裁判
以下の出典:Ed Wegman, Yasmin Said, Milt Johns Sue John Mashey For $2 Million | DeSmogBlog
2015年3月24日、ウェグマンとヤスミン・サイードは1年前から準備し、弁護士のミルト・ジョンズ(Milt Johns、写真同)を介して、盗用告発者のジョン・マッシー(John Mashey)を裁判に訴えた。
もう1人の盗用告発者は「ディープ・クライメイト(Deep Climate)」の運営者だが、このサイトはカナダにあるので、米国の裁判所に訴えるには、難しい。それでジョン・マッシーだけを訴えたようだ。
訴状の内容は次のようだった。
ジョン・マッシーの陰謀と悪意で多大な損害を被った。損害賠償として懲罰的な意味を込め、200万ドル(約2億円)をジョン・マッシーに要求する。
2015年4月30日、しかし、最初の審理が行なわれる前にウェグマンとサイードは自発的に訴訟を取り下げ、裁判は終わった。なお、その翌日、ミルト・ジョンズ弁護士は別の法律事務所に移籍した(訴訟取り下げとの関係はよくわかりません)。
★誰が盗用?
ジョージ・メイソン大学は「2006年のウェグマン・リポート(Wegman Report)」は盗用ではないとした。一方、「2008年のComput. Stat. Data Anal.」論文は盗用とした。しかし、ウェグマンもサイードも盗用実行者ではないとしている。では誰が実行者なのだ? なんかヘンだ。
本記事では、資料から判定して、「2006年のウェグマン・リポート(Wegman Report)」も盗用とみなして以下、話を進める。イヤ、「盗用とみなして」どころか、盗用はハッキリしていると思えるのだが、マーいい。盗用として進めます。
「2006年のウェグマン・リポート(Wegman Report)」の3人の著者のうち誰が盗用したのか? は明確に示されていない。
ジョージ・メイソン大学は「盗用はなかった」と判定したため、当然、誰が盗用の実行者なのかを詮索していない。また、ウェグマン・リポートは学術誌に掲載された論文ではないので、学術誌は調査していない。
つまり、誰が盗用したかについて、当局の見解は得られない。
皆さんと白楽が推察するしかない。
ヤスミン・サイード(Yasmin H. Said、写真Photo by Evan Cantwell 出典)はウェグマンの院生だった女性で、2005年に博士号を取得したばかりだ。
「2006年のウェグマン・リポート(Wegman Report)」はウェグマンとサイードとライス大学(Rice University)のデヴィッド・W・スコット教授(David W. Scott)が著者だった。
公式に盗用とされた「2008年のComput. Stat. Data Anal.」論文はヤスミン・サイードが第一著者でスコット教授は著者に入っていない。
それで、「2006年のウェグマン・リポート(Wegman Report)」の著者の1人であるスコット教授は盗用候補者からハズそう。
残るのは、ウェグマンとサイードの2人である。となれば、どちらかが盗用実行者と思われる。公式な調査結果がないので、断定できないが、根拠のない推論を述べれば、イヤイヤ、根拠のない推論はやめましょう。
なお、ヤスミン・サイードは2017年9月26日現在、ジョンズ・ホプキンズ大学(Johns Hopkins University)のサイトで検索してもヒットしない。在籍していないようだ。Search | Johns Hopkins University
●6.【論文数と撤回論文】
2017年9月26日現在、グーグル・スカラー(http://scholar.google.co.jp/schhp?hl=ja)でエドワード・ウェグマン(Edward Wegman)の撤回論文を「(retraction OR retracted) author:” Edward Wegman”」で検索すると、105件がヒットした。以下の撤回論文もヒットした。撤回理由は、盗用である。
- Social networks of author–coauthor relationships
Yasmin H. Said, Edward J. Wegman, Walid K. Sharabati 1, John T. Rigsby
Comput. Stat. Data Anal.
Volume 52, Issue 4, 10 January 2008, Pages 2177-2184
●7.【白楽の感想】
《1》重要な書類の盗用
論争となっている地球温暖化問題の報告書で盗用が見つかった。
注目を集めているのに、どうして、盗用するんだろう? 注目を集めているのだからネカトはすぐに発覚するハズだ。
脇が甘い。
イヤイヤ、今までと同じように論文をまとめたのだ。今までも盗用していたので、同じように盗用したのだ。今までの論文はそれほど注目されなかったから盗用がバレなかったが、今回は注目されたので、盗用がバレた。
《2》誰の資金? 調査結果の非公開
ジョージ・メイソン大学は調査結果を公表しない。調査の結論もおかしい。なんか裏がある印象だ。
この態度に多くの研究者が抗議した。
米国政府の資金が使われた研究でネカトが発覚した。つまり、研究に国民の税金が使われている。ネカトなら税金が不当に使われたことになる。そのネカト調査の結果を公表しないということは、資金を提供している国民に不誠実である。
「撤回監視(Retraction Watch)」もジョージ・メイソン大学の態度を非難し、改善を要求した。
日本も調査結果を公表しない大学が多い。税金で資金援助している国民には知る権利がある。調査結果を公表しない大学なら、国公私立を問わず、国は一切の補助金を停止したらどうでしょう。不正の加担に白楽のカネを使うな! 皆さんだってそう思うでしょう。
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●8.【主要情報源】
① ウィキペディア英語版:Edward Wegman – Wikipedia
② ウィキペディア英語版:Wegman Report – Wikipedia
③ 2010年11月21日のダン・ヴェルガノ(Dan Vergano)記者の「USATODAY」記事:Experts claim 2006 climate report plagiarized – USATODAY.com、(保存版)
④ 2011年5月15日のダン・ヴェルガノ(Dan Vergano)記者の「USATODAY」記事: Climate study gets pulled after charges of plagiarism – USATODAY.com、(保存版)
⑤ 2012年2月22日のダン・ヴェルガノ(Dan Vergano)記者の「USATODAY」記事:University reprimands climate science critic for plagiarism、(保存版)
⑥ 2012年3月16日の「Deep Climate」記事:Wiley cover-up: Complete Wegman and Said “redo” hides plagiarism and errors | Deep Climate、(保存版)
⑦ 「DeSmogBlog」の「Edward Wegman」記事群:Search | DeSmogBlog
⑧ 2011年5月17日以降。エドワード・ウェグマン(Edward Wegman)に関する「撤回監視(Retraction Watch)」記事群:You searched for Edward Wegman – Retraction Watch at Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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