「利益相反」:ハーバート・ベンソン(Herbert Benson)(米)

2020年1月19日掲載 

ワンポイント:2019年ネカト世界ランキングの「1」の「10」に挙げられたので記事にした。2015年4月(80歳)、ハーバード大学医科大学院・教授でストレス解消学では著名なベンソンは「2015年のPLoS One」論文を発表した。ペンシルベニア大学・名誉教授のジェームズ・コイン(James Coyne)に、利益相反が指摘され、2019年4月12日(84歳)、学術誌は論文を撤回した。ベンソンは無処分。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ハーバート・ベンソン(Herbert Benson、ORCID iD:?、写真出典)は、米国のハーバード大学医科大学院(Harvard Medical School)・教授、マサチューセッツ総合病院・ベンソン・ヘンリー心身医学研究所(Benson-Henry Institute for Mind Body Medicine at Massachusetts General Hospital)・創設者・名誉所長で、専門は心臓学とストレス解消学である。

本事件はネカトではなく利益相反である。論文での利益相反は読者をダマしているので、クログレイである。

ベンソンはストレス解消の著名な医学者であり、190報以上の学術論文を発表し、12冊の著書を出版している。日本語に翻訳された著書は『今すぐできる! 高血圧を下げる方法』(2010年)、『リメンバー・ウェルネス―医学がとらえた癒しの法則』(1997年)などがある(本の表紙出典はアマゾン)。

2015年4月(80歳)、ベンソンは「2015年のPLoS One」論文を発表した。

ペンシルベニア大学・名誉教授のジェームズ・コイン(James Coyne)が、ベンソンの論文は利益相反を秘匿していると追及した。

2019年4月12日(84歳)、著者の誰一人も同意しなかったが、「PLoS One」編集部は「2015年のPLoS One」論文を撤回した。

ベンソン・ヘンリー心身医学研究所(Benson-Henry Institute for Mind Body Medicine)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 医師免許(MD)取得:ハーバード大学医科大学院
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男性
  • 生年月日:1935年、米国のニューヨーク州ヨンカーズで生まれた。仮に1935年1月1日生まれとする
  • 現在の年齢:89 歳?
  • 分野:ストレス解消学
  • 問題論文発表:2015年(80歳)
  • 発覚年:2015年(80歳)
  • 発覚時地位:ハーバード大学医科大学院・教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はペンシルベニア大学・名誉教授のジェームズ・コイン(James Coyne)。学術誌に通報し、自分のブログに公表
  • ステップ2(メディア):ジェームズ・コイン(James Coyne)のブログ、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②ハーバード大学医科大学院は調査していない
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査していない
  • 大学の透明性:調査していない(✖)
  • 不正:利益相反
  • 不正論文数:1報
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

  • 生年月日:1935年、米国のニューヨーク州ヨンカーズで生まれた。仮に1935年1月1日生まれとする
  • 1957年(22歳):ウェズリアン大学(Wesleyan University)で学士号取得:生物学
  • 1961年(26歳):ハーバード大学医科大学院(Harvard Medical School)で医師免許(MD)取得
  • 1970年(35歳):ハーバード大学医科大学院(Harvard Medical School)・助教授
  • 1972年(37歳):同・準教授。その後、教授
  • 2015年4月(80歳):後に問題視される「2015年のPLoS One」論文を発表
  • 2019年4月12日(84歳):「2015年のPLoS One」論文が撤回

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
話が上手。
講演動画:「Herbert Benson – The Relaxation Revolution: Enhancing Health Through Mind Body Healing – YouTube」(英語)39分10秒。
WGBHForumが2012/09/10 に公開

【動画2】
話が上手。
インタビュー動画:「Herbert Benson on Transcendental Meditation as Technique against Stress Related Disorders – YouTube」(英語)(ドイツ語字幕付き)7分09秒。
wocomoHUMANITYが2019/12/03 に公開

●4.【日本語の解説】

以下は事件の解説ではない。たくさんある中で、古いのと新しいのを引用した。

日本人は、ハーバート・ベンソン(Herbert Benson)のリラックス術が大好きである。ハーバード大学メディカルスクール・教授という権威が大好きなのかもしれない。

★1998年3月:AS Web:アメリカの会報から(1997.春号)POWER OF THE MIND

出典 → ココ、(保存版) 

「ヨガやダンスセラピーやいわゆる手かざし療法のような ものは主流になってきたのでしょうか?」「これらの治療の効果は科学的 研究によって裏付けられているのでしょうか?」。正確に言うと「NO」 です。

しかしながら、ハーバート・ベンソン博士によれば(心臓学者で ハーバード医科大学助教授、リラクゼーション反応の研究で知られて いる)、「心が静まる時、身体の調子はよくなる(整う)」ということ です。

“POWER OF THE MIND(心の力)”をうかがい知るには、小さな 子供が軽い怪我をしたときのことを思い浮かべてみれば良いのです。 怪我が深刻なものでないなら、愛する人に痛いところにキスして もらえば、子供の痛みは魔法のように消えてしまうでしょう。これは、 いかに心が身体に影響を与えるかの、医学的言葉を使うならプラシーボ (偽薬)の良い例です。

★2019年4月16日:maite:ストレスや心配事による疲労が長期間続いた

出典 → ココ、(保存版) 

ハーバード大学メディカルスクール教授のハーバート ベンソン博士は、改善されないようなストレス状態を断ち切るためには、リラクセーション反応を引き出すことが有効で、2つのアクションが必要だといいます。

1つめは、日常から離れること。
2つめは、反復するアクティビティに取り組むこと。

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★ジェームズ・コイン(James Coyne)

ジェームズ・コイン(James Coyne)が本事件の第一次追及者である。本事件で問題視した学術誌「PLoS ONE」の長年の査読者でもあった。

ジェームズ・コイン(James Coyne、1947年10月22日生まれ、現在 76歳、写真出典)は、ペンシルベニア大学(University of Pennsylvania)の精神医学の名誉教授で、生命科学研究の問題点を批判する優れたハンターである。
 → James C. Coyne – Wikipedia
 → Coyne of the Realm | James C. Coyne, PhD

例えば、2015年、コインはニューヨーク大学(New York University)・教授のガブリエレ・エッティンゲン(Gabriele Oettingen 、写真出典)の本『Rethinking Positive Thinking』を、臨床心理学の研究を無視して偽科学を積極的に推進していると批判した。さらに、この本の宣伝キャンペーンとして、彼女自身の息子が彼女の本についてウィキペディアの記事を書いていると指摘した。

また、2017年、英国の「慢性疲労症候群のPACE臨床試験」研究が論争の的になった時、コインは学術誌「Journal of Health Psychology」の2人の共同編集者が陰でデタラメをしていると攻撃した。この問題は、ある意味、意見の相違ともいえるが、彼の共同編集者を批判した。

★発覚の経緯

2015年4月(80歳)、ベンソンは以下の「2015年のPLoS One」論文を発表した。著者6人の4番目である。

  • Gotink RA, Chu P, Busschbach JJ, Benson H, Fricchione GL, Hunink MG.
    Standardised mindfulness-based interventions in healthcare: an overview of systematic reviews and meta-analyses of RCTs.
    PLoS One. 2015 Apr 16;10(4):e0124344. doi: 10.1371/journal.pone.0124344. 

2015年10月(80歳)、ジェームズ・コイン(James Coyne)が、ベンソンの論文は利益相反を秘匿していると「PLoS One」編集部に通報した。

つまり、ベンソンを含め、6人の共著者は、マインドフルネス製品を販売しているベンソン・ヘンリー心身医学研究所(Benson-Henry Institute for Mind Body Medicine)で働いていたのに、そのことを論文に示していなかった。

「PLoS One」はジェームズ・コインの指摘に対応し、調査を始めた。 

2017年、「PLoS One」はベンソンの「2015年のPLoS One」論文の訂正を行なった。
 → PLOS One corrects undeclared conflicts of interest for 5 articles from Bensen-Henry Institute for Mind Body Medicine | Coyne of the Realm

2017年3月(82歳)、コインは、訂正された「2015年のPLoS One」論文には、メタ分析にも問題があると指摘した。その中には、誤解を招く表現で自分たちの製品を宣伝している。つまり、論文を利用して、ベンソン・ヘンリー研究所の製品を宣伝していると指摘した。

「2015年のPLoS One」論文の編集者はアリスティディス・ヴェヴェス(Aristidis Veves、写真出典)はハーバード大学医科大学院・教授である。論文著者もハーバード大学医科大学院所属なので、コインは、編集者が論文の利害関係者になっているとも指摘した。

2019年4月12日(84歳)、著者の誰一人も同意しなかったが、「PLoS One」編集部は「2015年のPLoS One」論文を撤回した。
 → 2019年4月12日の撤回公告:Retraction: Standardised Mindfulness-Based Interventions in Healthcare: An Overview of Systematic Reviews and Meta-Analyses of RCTs

なお、コインは、メタ分析にも問題があると指摘した時、論文撤回を求めていなかった。商業目的で学術誌を利用・誤用している悪徳研究者と、利用される学術誌を問題視したかっただけだ。

私は、商業目的で査読済み論文を発表したいと考える悪徳研究者に利用されてしまう「PLoS One」のオープンアクセスと甘い編集を非常に心配しています。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2020年1月18日現在、パブメド(PubMed)で、ハーバート・ベンソン(Herbert Benson)の論文を「Herbert Benson」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2018年の17年間の54論文がヒットした。

「Benson H」で検索すると、1924~2020年の97年間の499論文がヒットした。

2020年1月18日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、本記事で問題視した「2015年のPLoS One」論文・1論文が2019年4月12日に撤回されていた。

★撤回論文データベース

2020年1月18日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文データベースでハーバート・ベンソン(Herbert Benson)を「Benson, Herbert」で検索すると、本記事で問題視した「2015年のPLoS One」論文・1論文がヒットし、1論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2020年1月18日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ハーバート・ベンソン(Herbert Benson)の論文のコメントを「Herbert Benson」で検索すると、本記事で問題視した「2015年のPLoS One」論文・1論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》権威って何? 

功成り名遂げた人は社会を私物化しがちである。

今回の事件のハーバート・ベンソン(Herbert Benson)は、ハーバード大学に自分の名前を冠したベンソン・ヘンリー心身医学研究所(Benson-Henry Institute for Mind Body Medicine)を持っているのだから、功成り名遂げた人である。

そういう人が、論文を自分の金儲けの宣伝に悪用する。地位と権力を手中にすると、人間は誠実になれない。

こう書いたが、実は、ネカト事件をいろいろ調べて(調べる前から思っていたが・・・)、白楽は逆の方が多いと感じている。

つまり、元々、社会を私物化しがちな人が、功成り名遂げる。
元々、誠実ではない人間が、地位と権力を手にいれる。

このことは、日本でも地位と権力を持つ人々にピッタリあてはまる。もちろん全員ではないが傾向としては多いと思う。

だから、規則や個人の倫理を高めても、そういう人に地位と権力を与える社会システム(つまり昇進システム)を変えないと、状況は変わらないだろう。

《2》強いサポート・システム

ジェームズ・コイン(James Coyne)のような生命科学(経験)者が生命科学の不正を追及する。素晴らしい!

日本でも何人かいる。例えば、榎木英介上昌広村中璃子小川和宏森山芳則・榎本秀一、などなど。

生命科学ではない研究者として、菊地重秋、東北大学・総長を糾弾した研究者たち(日野 秀逸, 高橋 禮二郎, 松井 恵, 大村 泉)、などなど。。

研究(経験)者かどうか不明だが、不正を追及している人たちもいる。例えば、

しかし、海外と比べると、日本はネカトを防止するパワーが圧倒的に足りない。

1つ目は、社会で重要な機能を担っている第一次追及者を支える強いサポート・システムがないため。

2つ目は、メディアが貧困なことだ。ネカト事件では、大学の発表したことしか報道しない。どうして自分で掘り下げた取材をしないのだろう? 国民に事実を伝えていない。

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、日本に飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●9.【主要情報源】

①  ウィキペディア英語版:Herbert Benson – Wikipedia
②  2019年4月17日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:PLOS ONE pulls highly cited mindfulness paper over undeclared ties, other concerns – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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