企業:ヘパリン粗悪品(Heparin Adulteration):サイエンティフィック・プロテイン・ラボラトリーズ社(Scientific Protein Laboratories)(中国)

2017年10月9日掲載。

ワンポイント:2008年、ヘパリン製剤を使用した米国人の785人に重度の健康被害が出て、少なくとも81人が死亡した。原因は中国のサイエンティフィック・プロテイン・ラボラトリーズ社、つまり、常州凱普生物化学有限公司(Changzhou SPL Co., Ltd)が汚染ヘパリン製剤を作り、米国の製薬企業・バクスターインターナショナル社に納入したからだ。米国・食品医薬品局(FDA)が対策に乗り出した。日本には被害はなかった。損害額の総額(推定)は991億5千万円(当てずっぽう)。ヘパリン粗悪品事件は、「全期間ランキング」の「歴史上の10大医学スキャンダル:2013年2月20日」の第7位である。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.日本語の解説
3.事件の経過と内容
4.白楽の感想
5.主要情報源
6.コメント
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●1.【概略】

ヘパリン(heparin)製剤。写真出典(注:本事件の製品ではない)。

本事件は、研究データや臨床試験データのねつ造・改ざん事件ではない。盗用事件でもない。汚染医薬品のために米国人の785人に重度の健康被害が出て、少なくとも81人が死亡した事件である。純正な医薬品を粗悪な医薬品としたので、「改ざん」と分類した

サイエンティフィック・プロテイン・ラボラトリーズ社(Scientific Protein Laboratories)は、米国・ウィスコンシン州(Wisconsin)のワウナキー(Waunakee)に1976年、オスカー・マイヤー社(Oscar Mayer)が設立した製薬企業である。2017年10月8日現在も存在している。サイト → ココ

1999年12月13日、サイエンティフィック・プロテイン・ラボラトリーズ社は中国江蘇省(Jiangsu)常州(Changzhou)に米中合弁会社として中国のサイエンティフィック・プロテイン・ラボラトリーズ社、つまり、常州凱普生物化学有限公司(Changzhou SPL Co., Ltd)を作った。

常州凱普生物化学有限公司(Changzhou Scientific Protein Laboratories Co., Ltd、略して、Changzhou SPL Co., Ltd)を本記事では「常州SPL社」(じょうしゅう エスピーエル しゃ)と記載する。

米国の製薬企業・バクスターインターナショナル社(Baxter International)は、常州SPL社が製造したヘパリン(heparin)製剤を米国内で販売していた。

ヘパリン製剤は、豚の小腸を加工して作る医薬品で、血液凝固を防ぐ作用がある。当時、人口透析を必要とする45万人の米国人がヘパリンを常用していた。

バクスター社は2007年に3500万本のヘパリン製剤を販売し、米国のヘパリン市場の半分以上を占めていた。

2008年、常州SPL社が製造したヘパリン製剤の一部が汚染されていた。

この汚染医薬品を使用した米国人の785人が重いアレルギー被害が出て、少なくとも81人が死亡した。日本にはバクスター社のヘパリン製品は輸入されていないので、日本での健康被害者はいなかった。

ヘパリン粗悪品事件は、「全期間ランキング」の「歴史上の10大医学スキャンダル:2013年2月20日」の第7位である。

中国・常州(Changzhou)の中国常州凱普生物化学有限公司(Changzhou SPL Co., Ltd)。写真出典

  • 国:中国。サイエンティフィック・プロテイン・ラボラトリーズ社の本社は米国にあり米国人が被害者になった米国の事件である。しかし、汚染医薬品は中国で製造され、この事件は一般的に中国の事件として扱われているので、中国とした
  • 集団名:サイエンティフィック・プロテイン・ラボラトリーズ社。実際はその中国の子会社の中国のサイエンティフィック・プロテイン・ラボラトリーズ社、つまり、常州凱普生物化学有限公司。本記事では略して、「常州SPL社」(じょうしゅうし エスピーエル しゃ)と記載した。
  • 集団名(英語):Scientific Protein Laboratories。実際はその中国の子会社のChangzhou Scientific Protein Laboratories (Changzhou SPL Co., Ltd)
  • 集団名(中国語):中国常州凱普生物化学有限公司
  • 集団の概要:中国常州凱普生物化学有限公司(常州SPL社と略す)は米国のサイエンティフィック・プロテイン社(SPL)が55%、中国の常州天普製薬有限公司(TECHPOOL)が45%出資し、1999年12月13日に設立した米中合弁会社。法人の代表は米国人のデビッド・ストランセ社長(David Strunce)である。化学企業と登記され、医薬品企業としては登記されていなかったので、中国の国家食品薬品監督管理局(国家薬監局)の検査を受けていなかった。米国内での薬品販売に必要な米国・食品医薬品局(FDA)の検査も受けていなかった。しかし、ヘパリン製造は2004年に米国・食品医薬品局(FDA)から認可されていて、製品はすべて米国へ輸出されていた。
  • 事件の首謀者:常州SPL社の部長のヴァン・ワン(Van Wang)?
  • 分野:医薬品製造
  • 不正年:2008年
  • 発覚年:2008年
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は米国各地の臨床医である。患者の死と異常な症状を各州健康局に報告し、最終的に米国・食品医薬品局(FDA)に伝わった
  • ステップ2(メディア): 「New York Times」など多数
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ): ①米国・食品医薬品局(FDA)。②中国の国家食品薬品監督管理局(国家薬監局)。③裁判所?
  • 調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 不正: 医薬品の汚染(製法の改ざん)
  • 不正論文数:0報。論文データのねつ造・改ざんではない
  • 被害(者):米国で、785人に重いアレルギー被害が出て、少なくとも81人が死亡した。
  • 損害額:総額(推定)は991億5千万円。内訳 → ①汚染薬品を注射され亡くなった81人の人生破滅代を1人10億円(当てづっぽう)=810億円。最初の霜害賠償金は、2011年6月9日、1人の死亡者の遺族に約6250万円支払うようにとの判決が出たので1人10億円は過大評価だが、ここでは1人10億円とした。さらに、死亡していない785人の健康被害者に1人平均1000万円の損害賠償として78億5千万円(当てづっぽう)。計888億5千万円。②米国の医薬品監督体系の信用失墜と対策に10億円(当てづっぽう)。③裁判経費を1億円。④調査経費(各州健康局、米国・食品医薬品局)が5千万円。
  • 結末:白楽は刑罰や賠償金額を把握できていない

●2.【日本語の解説】

日本語の解説が多数ある。

厚生労働省・医薬品食品局の対応が一番早かった。関係企業へも通知し見事である。すばらしい。

★2008年3月10日:厚生労働省・医薬品食品局の「ヘパリンナトリウム製剤の自主回収(クラスⅡ)について」

出典 → ココ

厚生労働省s0422-4d

 

★2008年3月14日 (金):化学業界の話題「血液凝固防止ヘパリン製剤 自主回収」

出典 → ココ(保存版)

厚生労働省は10日、血液凝固防止作用があり、透析治療に不可欠なヘパリンナトリウム製剤について、米国内で副作用が疑われる報告が相次いだことから、予防的な措置として、国内メーカー3社が自主回収を始めたと発表した。

米食品医薬品局(FDA)が2月28日、昨年12月以降に米Baxter製のヘパリン製剤を投与された448人がアレルギー反応を起こし、21人が死亡したと発表した。FDAによると、Baxter が仕入れている米国のScientific Protein Laboratories (SPL) と、同社の中国JVのChangzhou (常州)SPLの原液を使ったヘパリン製剤の一部から不純物が見つかった。

扶桑薬品工業、大塚製薬工場、テルモの3社が、米国SPL社から原液を輸入していた。

米紙によると、原因はまだ不明だが、中国のChangzhou SPL製の原液が疑われている。

まず、Changzhou SPL は化学会社として扱われており、中国医薬食品局の管轄下になく、米FDAも米国で販売される医薬品原体の製造開始以後、検査をしたことがない。

2月にFDAがChangzhou SPL を視察した結果、記録に不備があること、ヘパリン原液のコンタミを防ぐ手段をとっている証拠がないことが明らかにされた。また製造指示書も不十分なものであるしている。

国内3社は「国内で製造販売したヘパリン製剤から、現時点では不純物は見つかっていない。副作用報告もない」としている。
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米国製の医薬品が実は中国の原料を使っており、それがこんな杜撰なやり方でつくられ、チェックもされていなかったとは驚きである。

★2008年3月21日:AFP.「米食品医薬品局、ヘパリンの汚染物質を「コンドロイチン硫酸」と特定」

出典 → ココ(保存版)

米国で死者19人と深刻なアレルギー患者数百人を出した可能性のある中国製原料を含む血液凝固阻止剤ヘパリン(heparin)について、米食品医薬品局(US Food and Drug Administration、FDA)は19日、含まれていた汚染物質を「過硫酸化コンドロイチン硫酸(OSCS)」と特定したことを明らかにした。

ヘパリンは心臓発作患者の治療に一般的に使われている。問題の製薬に含まれる有効成分の大半は、中国江蘇省(Jiangsu)常州(Changzhou)の工場で、米ウィスコンシン(Wisconsin)州に拠点を置くサイエンティフィック・プロテイン・ラボラトリーズ(Scientific Protein Laboratories)との共同事業で生産され、販売元の米製薬会社バクスターインターナショナル(Baxter International)に供給されていた。

FDAによると、検出されたOCSは特殊な型で通常自然界には存在せず、人為的に合成された可能性がある。ヘパリンへの混入経路は調査中で、混入が偶発的なものか意図的なものかは現時点では不明であり、意図的なものであるとの証拠も得られていないという。

★2008年5月 7日:化学業界の話題「血液凝固防止ヘパリン製剤問題のその後」

出典 → ココ(保存版)

本年2月28日、米食品医薬品局(FDA)は、昨年12月以降に米Baxter 製のheparin 製剤を投与された448人がアレルギー反応を起こし、21人が死亡したと発表した。FDAによると、Baxter が仕入れている米国のScientific Protein Laboratories (SPL) と、同社の中国JVのChangzhou (常州)SPLの原液を使ったheparin 製剤の一部から不純物が見つかった。

その後米国では785人に重いアレルギーなどの副作用が確認され、少なくとも81人の死亡例がheparin との関連が疑われている。

★2013年6月18日:森川安理(薬学博士)「ヘパリン事件」

出典 → ココ(保存版)。閲覧は要登録(無料)。

2008年初頭、米国食品医薬品局(FDA)は、透析患者で重篤な急性過敏症状が発生し、一部の患者は死亡しているという報告を受けました。透析患者は、血液凝固抑制剤として使用されているヘパリンを注射されていました。いずれもバクスター社が製造したものでした。

ヘパリンは、豚の小腸から、粘膜成分として抽出され、精製して製品となります。バクスター社のヘパリン原薬は、米国のScientific Protein Laboratories (SPL)社が中国で設立した合弁会社Changzhou (常州)SPL社で生産されていました。

FDAは、SPL社のヘパリン原料、ヘパリン製品の調査を行い、2008年4月中国で製造されたヘパリン中にOSCS (Over Sulfated Chondroitin Sulfate) が混入されていることを突き止めました(文献1)。ヘパリンに偽薬が混入したために、薬害事件が起きたのです。

以下、内容を引用しないが、事件内容を解説している日本語記事は多数ある。

★他

●3.【事件の経過と内容】

★ヘパリン(heparin)

事件とは関係ないけど、白楽はかつてヘパリンを日常的に実験で使用していたので、ヘパリンに親近感を感じている。

1916年、ヘパリンが発見された。1935年から医療用に使用されている。

1916年、ジョンズ・ホプキンス大学の医学生マクリーンがイヌの肝臓から抗凝固物質ヘパリンを発見した。

ヘパリン (heparin) は抗凝固薬の一つであり、血栓塞栓症や播種性血管内凝固症候群 (DIC) の治療、人工透析、体外循環での凝固防止などに用いられる。ヘパリンの原料は牛や豚の腸粘膜から採取されるが、牛海綿状脳症 (BSE) 発生後の現在は健康な豚から採取されたものがほとんどである。

肝細胞から発見されたため “heparin” と名付けられた(hepato- は「肝の」という意味)が、小腸、筋肉、肺、脾や肥満細胞など体内で幅広く存在する。化学的にはグリコサミノグリカンであるヘパラン硫酸の一種であり、β-D-グルクロン酸あるいは α-L-イズロン酸と D-グルコサミンが 1,4 結合により重合した高分子で、ヘパラン硫酸と比べて硫酸化の度合いが特に高いという特徴がある。この分子中に多数含まれる硫酸基が負に帯電しているため、種々の生理活性物質と相互作用する。(ヘパリン – Wikipedia

★ヘパリン粗悪品事件を一言でまとめると

「サイエンティフィック・プロテイン・ラボラトリーズ社の中国の子会社(常州SPL社)が、2008年、汚染ヘパリン製剤を作り、米国で販売した。使用した米国人の785人が重いアレルギー症状を示し、少なくとも81人が死亡した」、である。

汚染医薬品が見落とされた理由の1つは、常州SPL社は化学企業と登記され、医薬品企業としては登記されていないので、中国の国家食品薬品監督管理局(国家薬監局)の検査を受けていなかった。

また、米国内での薬品販売に必要な米国・食品医薬品局(FDA)の検査も受けていなかった。

汚染物質はヘパリンと化学的に類似の「過硫酸化コンドロイチン硫酸(OSCS)」だった。バイアルの5~20%が汚染されていた。

「過硫酸化コンドロイチン硫酸(OSCS)」の値段はヘパリンの100分の1と安いので、安い類似品で増量したと思われる。となると、汚染はアクシデントではなく意図的で、金銭的にトクしようとしたからだ。

★時系列

ここの記述は表を含め森川安理(薬学博士)「ヘパリン事件」に依存している。同じ字句を再使用した部分もある。
出典 → ココ(保存版)。閲覧は要登録(無料)。

2007年10月、11月、12月、以下の表に示すように、米国内でヘパリン投与時の死者・アレルギー症例数が急増した。

表の元データ → Postmarket Drug Safety Information for Patients and Providers > Information on Adverse Event Reports and Heparin

2008年1月25日、米国のバクスター社は、同社のヘパリン製品の一部を自主回収し始めた。

2008年2月21~26日、米国・食品医薬品局(FDA)はヘパリン原薬を製造した「常州SPL社」を査察した。

驚いたことに、常州SPL社の製造指示書は不十分で、製品の汚染を防ぐ方法に大きな欠陥があった。見つかった常州SPL社の具体的な欠陥は以下のようだ。

  • 記録に不備があった。
  • ヘパリン原液の汚染を防ぐ十分な対策を立てていないかった。
  • 材料として納入するのに不適格と判定した製造会社の原料を使用していた。
  • ヘパリン製造設備が不潔だった。そもそも定期的に洗浄されていなかったし、洗浄の基準がなかった。
  • 製品を検査する際の検査測定基準が示されておらず、適合性、正確性、検出限界が示されていなかった。

ヘパリンの原料はブタの小腸粘膜で、中国の小さな個人作業場で製造したものを常州SPL社は素材として仕入れていた。作業場は衛生的配慮に欠けていた。というか、衛生的配慮どころか、昔ながらの前近代的な作業場だった。

昔の貧しい日本もそうだった。衛生的配慮は二の次、三の次だった。だからこそ発展途上国の製品は安い。今の日本を含め先進国はそれを知りつつ安く仕入れている。これが現実でしょう。

ヘパリンの製造現場はグロテスクである。

グロテスクが嫌いな人、食事中の人は以下3枚の写真をスキップして下さい。OKな人は写真をクリックすると拡大します。

写真の出典は
上:https://sites.google.com/site/iowaheparinproduction/engineering-docs/heparin-processing
中央:https://sites.google.com/site/iowaheparinproduction/engineering-docs/heparin-processing
下:http://bobnrox.squarespace.com/journal/2008/6/24/heparin-its-a-great-drug-if-it-doesnt-kill-you-first.html

2008年2月28日、米国のバクスター社は、同社のヘパリン製品の全部を回収すると発表した。

2008年3月10日、前述したように、日本の厚生労働省・医薬品食品局が「ヘパリンナトリウム製剤の自主回収(クラスⅡ)について」の通達を出した。

2008年4月21日、米国・食品医薬品局(FDA)は常州SPL社の責任者は中国系米国人のヴァン・ワン(Van Wang、左の写真出典)に警告状(Warning Letter)を送付した。
→ Changzhou SPL Company, Ltd ( a/k/a “Kaipu”) 21-Apr-08

2008年4月29日、米国議会で聴聞会。

バート・スタパック議員(Bart Stupak)が委員長で、常州SPL社のデビッド・ストランセ社長(David Strunce、右上の写真出典)に詰問した。ストランセ社長の左隣に常州SPL社の責任者のヴァン・ワン(Van Wang)が座っている。

聴聞会の様子が動画にアップされている(以下に)。

この聴聞会は、死亡した家族の家族が証言するように求められた最初の聴聞会だった。

オハイオ州トレドのリロイ・ハブリー(LeRoy Hubley、写真出典)は、65歳の妻・ボニー(Bonnie)と47歳の息子・ランディ(Randy)が亡くなったことを話した。2人とも透析を必要とする遺伝子腎臓病に罹患し、日常的にヘパリンを使用していた。

「クリスマスの音楽が滑らかに演奏される中、私たちはお別れしました」、とハブリー氏は涙をぬぐいながら、「そして、私の最愛の妻との48年間の深い愛が漂流してしまったのです」と話した。

リロイ・ハブリーは妻と息子の死後数週間のちに、妻と息子は汚染ヘパリンを投与されたために亡くなったと知らされた。

「今、私は妻と息子を失ったことの苦痛だけではなく、危険な医薬品がこの国で売られ、そのことが許されていた事実に強い怒りを感じています」とリロイ・ハブリーは聴聞会で述べた。

★裁判、賠償金

2011年6月9日、イリノイ州クック郡の巡回裁判所は、ヘパリン投与で死亡したスティーブン・ヨハンセン(Steven Johansen)の遺族に625,000ドル(約6250万円)を支払うよう、バクスターインターナショナル社(Baxter International, Inc.)と常州SPL社に命じた。この判決は全米で数百件起こっているヘパリン粗悪品事件訴訟の最初の判決である。
→ 2011年6月13日記事:Baxter and Scientific Protein Ordered to Pay $625,000 in Contaminated Heparin Case – Weil Gotshal | Product Liability Monitor

その後、被害者全員に対する賠償金の訴訟がどうなったのか、白楽はつかめていない。

ただし、2017年8月、ヘパリン粗悪品事件がらみの訴訟で、投資会社・アメリカンキャピタル社(American Capital Ltd)が8700万ドル(約87億円)を勝ち取っている。このことと賠償金との関係が、白楽は理解できていない。
→ 2017年8月3日記事:PE Firm Wins $87M In Contaminated Heparin Coverage Suit – Law360

★その後:ヘパリン製剤の改善

ヘパリン粗悪品事件の反省点を受け、米国、欧州、そして日本では、ヘパリン製剤に過硫酸化コンドロイチン硫酸が含まれていないという検査が義務化された。

米国薬局方 (USP)
→ 2009年 10月 http://www.nihs.go.jp/dbcb/Heparin/USP-heparin_Na.pdf

欧州薬局方 (EP)
→ 2010年 8月 http://www.nihs.go.jp/dbcb/Heparin/EP-heparin_Na.pdf

日本も2008年 7月 31日、ヘパリンナトリウムの純度試験 (5) 過硫酸化コンドロイチン硫酸が追加された。
→ http://www.nihs.go.jp/dbcb/Heparin/kokuji417.pdf
→ ヘパリン関連情報 | 国立医薬品食品衛生研究所 生物薬品部

kokuji417

 

★世界のヘパリン需要と中国のヘパリン製造の改善

現在、世界で必要なヘパリン量は2800万kgである。中国が世界で必要なヘパリンの半分である1400万kg生産し、欧州が800万kgを生産している。
→ 2016年10月10日のジャン=フランソワ・トランブレイ(Jean-François Tremblay)記者の「Chemical & Engineering News」記事:Making heparin safe | October 10, 2016 Issue – Vol. 94 Issue 40 | Chemical & Engineering News

米国は中国のヘパリン生産への規制を強め、ヘパリン1kgの生産に豚2000頭を要求している。

しかし、規制を厳しくすると、中国は豚の大量消費国だが、必要とするヘパリン生産量に対して豚の総頭数が足りなくなる。現状では、ヘパリン1kgの生産に豚1500頭が使用されている。

毎年中国で3億頭の豚がヘパリン生産に使用され、1760万kgのヘパリンが生産可能である。

ヘパリン粗悪品事件が起こった2008年に比べ、2017年現在、全体的に製品の安全性は改善されてきた。

しかし、依然として、ヘパリン製造の問題点は指摘されている。

2016年10月11日、米国・食品医薬品局(FDA)は中国のヘパリン供給業者一覧にリストされている会社・东营田东药业有限公司(Dongying Tiandong Pharmaceutical Co., Ltd.)の責任者リン・グオ( Lin Guo)に「粗ヘパリン供給業者を適切に監視していない」などと、警告状(Warning Letter)を送付した。→ ココ英語・中国語併記

改善を指摘されても、中国側の企業は規則・基準を守っていないのである。

●4.【白楽の感想】

《1》あいまいな事件

ヘパリン粗悪品は米国人の785人に重度の健康被害が出て、少なくとも81人が死亡した大事件である。米国のメディアが大きく報道した。日本での被害者は0人だが、日本のメディアも大々的に報道した。珍しい。

しかし、常州SPL社の誰が汚染した犯人なのか? はっきりしない。追及している節もない。

汚染物質はヘパリンと化学的に類似の「過硫酸化コンドロイチン硫酸(OSCS)」と結論されているが、「過硫酸化コンドロイチン硫酸(OSCS)」がアレルギーや死をもたらすという証拠は明確ではない。別の薬物が添加され、そちらが原因ではないかと詮索した記事もある。
→ Scientists Near Source of Altered Heparin – The New York Times

つまり、この事件では、汚染物質、汚染者、汚染の過程をしっかり追及・把握できていない。

中国の工場での不祥事なので、米国が追及できないからだ。そして、中国の国家食品薬品監督管理局(国家薬監局)は中国の失態を隠蔽したい。

中国の国家食品薬品監督管理局(国家薬監局)。出典

ただ、一般的に、「たくさんの医薬品の原料が中国で生産されているが、その衛生管理は不十分である」と指摘されている。

国際慣例に照らせば、輸入原料薬品の合法性および品質安全性は、輸入国が自国の関連法律に基づいて厳格にチェックすべきである。(「毒ヘパリン」番外—「わが国は欧米と共同で薬品安全監督管理を推進する」 – COUSSINET)

中国は以下に示すように、安全性に問題がある食品事件を他にも起こしている。医薬品も同等と思われる。日本は輸入した製品の品質を日本でシッカリチェックすべきである。

《2》防ぐ方法

どの組織や国もそうだろうが、組織や国の全体的レベルを上げないと、こういう問題はなくならない。政府、企業経営者、企業従業員、消費者の意識の全体的向上が必要である。

個々の問題点を指摘しても、指摘しきれない。

ヘパリン粗悪品事件を他山の石として、日本の研究ネカト問題を考える。日本の政府、学術界、メディア、各研究者、国民のすべてのレベルで研究公正を高めないと、日本の研究ネカトは減らないだろう。

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●5.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:2008 Chinese heparin adulteration – Wikipedia
② 2008年3月6日のガーディナー・ハリス(Gardiner Harris)記者とウォルト・ボグダニッチ(Walt Bogdanich)記者の「New York Times」記事:Drug Tied to China Had Contaminant, F.D.A. Says – The New York Times 、(保存版
③ 「New York Times」記事群:Scientific Protein Laboratories New York Times – Google 検索、(保存版
④ 2009年のジョン・ライター(Jon Christian Ryter)の記事:Jon Christian Ryter’s Conservative World、(保存版
⑤ 2008年11月13日のビル・パウエル(Bill Powell)記者の「TIME」記事:Heparin’s Deadly Side Effects – TIME、(保存済)
⑥ 2008年11月4日のラリー・グリーンマイヤー(Larry Greenemeier)記者の「Scientific American」記事:Heparin Scare: Deaths from Tainted Blood-Thinner Spur Race for Safe Replacement – Scientific American、(保存版
⑦ 2008年4月29日:  https://www.baxter.com/assets/downloads/SPL_testimony.pdf
⑧  2012年の論文(要旨無料閲覧。本文有料なので未閲覧):Case study: contamination of heparin with oversulfated chondroitin sulfate. – PubMed – NCBI
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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