パトリシア・エリザルデ(Patricia Elizalde)(アルゼンチン)

2023年5月10日掲載 

ワンポイント:エリザルデは実験生物医学研究所(Instituto de Biología y Medicina Experimental (IBYME))・主任研究員(教授相当?)である。2022年8月(65歳?)、パブピアで、15論文の画像の異常が指摘された。現在、実験生物医学研究所はネカト調査中。クロなら国民の損害額(推定)は5億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

パトリシア・エリザルデ(Patricia Elizalde、Patricia V. Elizalde、Patricia Virginia Elizalde、ORCID iD:https://orcid.org/0000-0002-5923-9898、写真出典)は、アルゼンチンの国立科学技術研究評議会(CONICET)傘下の実験生物医学研究所(Instituto de Biología y Medicina Experimental (IBYME))・主任研究員(教授相当?)で、医師免許は持っていない。専門は乳癌の細胞生物学(ErbB-2/HER2)である。

2022年8月(65歳?)、パブピアでウェスタンブロット画像がねつ造・改ざんではないかと指摘されたのが、ネカト発覚の発端である(推定)。

2022年8月29日(65歳?)、アニュラス・インコンスタンス(Aneurus Inconstans)記者が「For Better Science」記事でパトリシア・エリザルデ(Patricia Elizalde)のネカト疑念を解説した。

パブピアでは、2001~2022年(44~65歳?)の22年間に出版した15論文のウェスタンブロット画像が問題視されている。

2022年9月(65歳?)、実験生物医学研究所はネカト調査を開始した。

2023年5月9日(66歳?)現在、ネカト調査中と思われる。

実験生物医学研究所(Instituto de Biología y Medicina Experimental (IBYME))。写真出典

  • 国:アルゼンチン
  • 成長国:アルゼンチン
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:ブエノスアイレス大学
  • 男女:女性
  • 生年月日:不明。仮に1957年1月1日生まれとする。1981年に最初の修士号を取得した時を24歳とした
  • 現在の年齢:67歳?
  • 分野:乳癌の細胞生物学
  • 不正論文発表:2001~2022年(44~65歳?)の22年間
  • ネカト行為時の地位:実験生物医学研究所・若手研究員、上級研究員(準教授相当?)、主任研究員(教授相当?)
  • 発覚年:2022年(65歳?)
  • 発覚時地位:実験生物医学研究所・主任研究員(教授相当?)
  • ステップ1(発覚):第一次追及者(詳細不明)の研究公正局への公益通報
  • ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「For Better Science」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①実験生物医学研究所・調査委員会
  • 研究所・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査中なので
  • 研究所の透明性:調査中(ー)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:撤回論文なし。パブピアで15報が疑念
  • 時期:研究キャリアの中期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)。ネカト調査中
  • 処分:なし、調査中なので
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:クロなら総額(推定)は5億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典: Biographical Sketch

  • 生年月日:不明。仮に1957年1月1日生まれとする。1981年に1つ目の修士号を取得した時を24歳とした
  • 1981年(24歳?):アルゼンチンのブエノスアイレス大学(Buenos Aires University)・理学部(School of Sciences)で1つ目の修士号取得:有機化学
  • 1984年(27歳?):同大学で2つ目の修士号取得:生物化学
  • 1989年(32歳?):同大学で研究博士号(PhD)を取得:生物化学
  • 1990年(33歳?):米国のジョージタウン大学(Georgetown University)・ポスドク
  • 1990~1994年(33~37歳?):アルゼンチンの実験生物医学研究所(Instituto de Biología y Medicina Experimental (IBYME))・研究員
  • 1994~2006年(37~49歳?):同・上級研究員(準教授相当?)
  • 2001~2022年(44~65歳?)の22年間:疑念論文出版
  • 2006年(49歳?):実験生物医学研究所・主任研究員(教授相当?)
  • 2022年8月(65歳?):パブピア、次いで「For Better Science」でデータねつ造・改ざんが指摘された
  • 2022年8月(65歳?):ネカト調査委員会設置
  • 2023年2月22日(66歳?):ネカト調査中
  • 2023年5月9日(66歳?)現在:従来の職・地位を維持:実験生物医学研究所・研究者リスト(2023年5月3日保存

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】 
「パトリシア・エリザルデ」と紹介。研究インタビュー動画:「Investigación en cáncer de mama (Entrevista a la Dra. Patricia Elizalde) – YouTube」(スペイン語)5分27秒。
IBYME CONICET(チャンネル登録者数 462人)が2012/06/23 に公開

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★実験生物医学研究所(Instituto de Biología y Medicina Experimental (IBYME))

1947年、アルゼンチンの生理学者・バーナード・ウッセイ(Bernardo Houssay)は「糖代謝での脳下垂体前葉ホルモンの役割の発見」でノーベル生理学・医学賞を受賞した。

そのバーナード・ウッセイが受賞3年前の1944年、アルゼンチンのブエノスアイレスに実験生物医学研究所(Instituto de Biología y Medicina Experimental (IBYME))を設立した。

パトリシア・エリザルデ(Patricia Elizalde、写真出典)は、その実験生物医学研究所(Instituto de Biología y Medicina Experimental (IBYME))の研究員として、1990年(33歳?)に着任し、33年間務めている。

★発覚の経緯

2022年8月(65歳?)、ウェスタンブロット画像がねつ造・改ざんではないか、とパブピアで指摘されたのがネカト発覚の発端だと思う。

2022年8月29日(65歳?)、アニュラス・インコンスタンス(Aneurus Inconstans)記者が「For Better Science」記事でパトリシア・エリザルデ(Patricia Elizalde)のネカト疑念を解説した。

パトリシア・エリザルデ(Patricia Elizalde)の出版論文はパブメドで41報ある。その3分の1以上の15報にウェスタンブロット画像のねつ造・改ざん疑念が指摘されている。

2001~2022年(44~65歳?)の22年間に出版された15報である。

しかし、エリザルデは何ら対応しない。

実験生物医学研究所も、当初、対応しなかった。

パブピアで疑念視されている15報のうち11報は、エリザルデの右腕であるセシリア・プロイエッティ(Cecilia Proietti、写真出典)が共著者である。

ネカト者は、エリザルデなのか? プロイエッティなのか、他の室員か?

★ネカト調査委員会

レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)が実験生物医学研究所にエリザルデ(Patricia Elizalde)のネカト疑念を通報した。

2022年8月29日、アニュラス・インコンスタンス(Aneurus Inconstans)記者が「For Better Science」でエリザルデのネカト疑念を指摘した。

2022年9月1日、これらを受けて、「For Better Science」記事の 3日後、実験生物医学研究所・副所長のマリオ・ペシェニー(Mario Pecheny、写真出典)がレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)に以下のメールを送ってきた。

本日(2022年8月31日)の会議で、国立科学技術研究評議会(CONICET)・理事会は、3人の上級研究員で構成する科学委員会を設置し、事件の正式かつ迅速な調査を開始することを決定しました。

2023年5月9日(66歳?)現在、それから8か月が経過した。しかし、国立科学技術研究評議会(CONICET)からも実験生物医学研究所(Instituto de Biología y Medicina Experimental (IBYME))からも何も発表はない。

エリザルデは在職している。

どうなっているんだろう? と思いますよね。

実は、2023年2月xx日、アニュラス・インコンスタンス(Aneurus Inconstans)がマリオ・ペシェニー副所長(Mario Pecheny )に問い合わせていた。

すると、2023年2月22日、ペシェニー副所長は、調査中と返事してきた。

2023年5月9日(66歳?)現在、それから2か月経ったけど、その後、まだ何も発表されていない。

【ねつ造・改ざんの具体例】

パトリシア・エリザルデ(Patricia Elizalde)の疑念論文はパブピアで15報指摘されている。訂正・撤回は1報もされていない。

適当に2報選んで以下にねつ造・改ざんの具体例を示す。2報ともセシリア・プロイエッティ(Cecilia Proietti)が第一著者だった。

以下に示さないが、昨年・2022年の論文でも類似のねつ造・改ざんをしている。つまり、ごく最近までねつ造・改ざんを続けている。

★「2015年10月のMol Endocrinol」論文

「2015年10月のMol Endocrinol」論文の書誌情報を以下に示す。2023年5月9日現在、撤回されていない。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/6CDE69307B24554056CE80D064FE9E

バンドの重複使用は明白。

――――――――――以下は図S1とS3

――――――――――以下は図1A

★「2005年6月のMol Cell Biol.」論文

「2005年6月のMol Cell Biol.」論文の書誌情報を以下に示す。2023年5月9日現在、撤回されていない。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/44D792F5F470E72955122046D9AFF0

バンドやレーンの重複使用が多数ある。ネカト満載の論文である。

――――――――――以下は図2A

――――――――――以下は図2B

――――――――――以下は図3Aと3B

――――――――――以下は図4A

――――――――――以下は図6

――――――――――以下は図8D

――――――――――以下は図9B

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2023年5月9日現在、パブメド(PubMed)で、パトリシア・エリザルデ(Patricia Elizalde、Patricia V. Elizalde)の論文を「Patricia Elizalde[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2023年の22年間の41論文がヒットした。

2023年5月9日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2023年5月9日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでパトリシア・エリザルデ(Patricia Elizalde、Patricia V. Elizalde)を「Patricia Elizalde」で検索すると、 0論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2023年5月9日現在、「パブピア(PubPeer)」では、パトリシア・エリザルデ(Patricia Elizalde、Patricia V. Elizalde)の論文のコメントを「Patricia Elizalde」で検索すると、2001~2022年(44~65歳?)の22年間に出版した15論文にコメントがあった。

再記するが、15報のうち11報は、エリザルデの右腕であるセシリア・プロイエッティ(Cecilia Proietti、写真出典)が共著者である。

●7.【白楽の感想】

《1》どうして? 

パトリシア・エリザルデ(Patricia Elizalde)は、2001~2022年(44~65歳?)の22年間も疑念論文を出版していた。

【ねつ造・改ざんの具体例】で示したように、素人でも、バンドやレーンの重複使用がハッキリわかる。それに、その重複使用が多数あるので、「ウッカリ間違えました」という単純ミスとはとても思えない。

ネカト調査中なので、断言できないが、エリザルデがネカト者だとすると、22年間のどこかで、研究室員や同僚が、この明白なネカトに気付いていたと思う。どうしてもっと早く対処しなかったのだろう?

もし気付いていないとしたら、研究データに対する無関心・ズサンさがはなはだしい。それだけで、研究者として失格だと思う。

エリザルデがネカト者ではないとすると、研究室員がネカト者である。となると、今度は、研究室の責任者であるエリザルデのデータに対する無関心・ズサンさがはなはだしい。これも、それだけで、研究者として失格だと思う。

白楽はアルゼンチンに滞在したことはない。アルゼンチンのネカト文化を把握していない。しかし、アルゼンチンの、イヤ、単にエリザルデ研究室だけかも知れないが、研究公正、ヘンです。

《2》ネカト遭遇悲劇

パトリシア・エリザルデ(Patricia Elizalde)は、下の写真で中央に座っている黒衣の女性である。10人の室員がいる。女性8人、男性2人と女性優位である。

誰がネカト者であれ、研究室の誰かがネカト者と結論されれば、秘書・院生・ポスドクなど全室員は悲惨なことになる。ネカト疑念が指摘されただけでも、研究室の全室員は大きなダメージを受ける。

パトリシア・エリザルデ(Patricia Elizalde)は中央に座っている黒衣の女性。https://archive.md/wip/6GmYW
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●9.【主要情報源】

① 2022年8月29日のアニュラス・インコンスタンス(Aneurus Inconstans)記者の「For Better Science」記事:Prof Elizalde’s Magic Cancer Research at CONICET – For Better Science
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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