2022年3月4日掲載
ワンポイント:モタウンはツワネ工科大学(Tshwane University of Technology)・教授(多分)・学部長補佐で南アフリカのスター科学者である。2016年6月(45歳?)、モタウンの「2016年2月のJ Ethnopharmacol.」論文に自己盗用があると指摘された。大学は調査を開始し、調査中なので停職処分に科した。調査結果の発表がないが、2017年(46歳?)、大学は停職処分を解除した。状況不明の事件。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
シャーリー・モタウン(Shirley Motaung、Shirley Keolebogile Motaung、Shirley C K M Motaung、Keolebogile Shirley Caroline Mamotswere Motaung、ORCID iD:https://orcid.org/0000-0001-8503-9868、写真出典)は、南アフリカのツワネ工科大学(Tshwane University of Technology)・教授(多分)で学部長補佐、医師免許はない。専門は民族薬理学である。
モタウンは、現在、南アフリカで唯一、生物医工学の博士号を持つ黒人女性で、南アフリカのスター科学者である。
2016年6月(45歳?)、オランダのライデン大学教授で「J Ethnopharmacol.」のロバート・ベルポート編集長(Robert Verpoorte)が、モタウンの「2016年2月のJ Ethnopharmacol.」論文には、別の論文で出版した図の自己盗用があると指摘した。
2016年12月7日(45歳?)、ツワネ工科大学は、モタウンの調査を開始し、調査結果が出るまで、標準的な方法として、モタウンを停職処分に科した。
2017年xx月xx日(46歳?)、ツワネ工科大学は、モタウンの停職処分を解除した。
2022年3月3日(51歳?)現在にいたるまで、しかし、調査の結果は公表も報道もされていない。停職処分の解除前に、何があったのか、詳細不明である。
白楽は南アフリカのネカト事情を掴めていない。学内政治抗争が背後にあるのかもしれない。
ツワネ工科大学(Tshwane University of Technology)。写真出典
ツワネ工科大学(Tshwane University of Technology)。写真出典
- 国:南アフリカ
- 成長国:南アフリカ
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:ツワネ工科大学と米国のカリフォルニア大学デービス校
- 男女:女性
- 生年月日:不明。仮に1971年1月1日生まれとする。1989年に大学・学部に入学した時を18歳とした
- 現在の年齢:53 歳?
- 分野:民族薬理学
- 不正論文発表:2016年(45歳?)
- 発覚年:2016年(45歳?)
- 発覚時地位:ツワネ工科大学・教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者はオランダのロバート・ベルポート編集長(Robert Verpoorte)
- ステップ2(メディア):南アフリカの地元紙「Sowetan Live」など
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②ツワネ工科大学・調査委員会
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)
- 不正:自己盗用
- 不正論文数:1報。但し、撤回なし、懸念表明もなし
- 時期:研究キャリアの中期から
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
- 処分:停職処分、数か月(?)
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
出典:①:Keolebogile Shirley Caroline Mamotswere Motaung (0000-0001-8503-9868)、②: Prof. Keolebogile Shirley Motaung — Inspiring Fifty: South Africa
- 生年月日:不明。仮に1971年1月1日生まれとする。1989年に大学・学部に入学した時を18歳とした
- 1989年1月12日~1992年5月1日(18~21歳?):南アフリカのツワネ工科大学(Tshwane University of Technology)で学士号(N. Dip.)取得:生物医学
- 1993年2月1日~1996年12月1日(22~25歳?):南アフリカのヨハネスブルグ大学(University of Johannesburg)で学士号(B. Tech)取得:生物医学
- 2000年2月1日~2003年12月1日(29~32歳?):南アフリカのツワネ工科大学(Tshwane University of Technology)で修士号(N. Dip.)取得:生物医学
- 2006~2010年(35~39歳?):ツワネ工科大学と米国のカリフォルニア大学デービス校(University of California, Davis)で研究博士号(PhD)を取得:生物工学
- 2010年1月1日~2014年1月1日(39~43歳?):南アフリカのツワネ工科大学(Tshwane University of Technology)・上級講師
- 2014年1月1日(43歳?)~現:南アフリカのツワネ工科大学(Tshwane University of Technology)・教授
- 2015年月(44歳?):グローバル・ヘルス・バイオテク社(Global Health Biotech)を設立し社長就任
- 2016年12月(45歳?):不正研究が発覚し停職処分
- 2017年xx月(46歳?):停職処分は解除
- 2020年11月1日(49歳?)~現:南アフリカのダーバン工科大学(Durban University of Technology)・教授
●3.【動画】
以下は事件の動画ではない。
【動画1】
グローバル・ヘルス・バイオテク社の製品宣伝動画:「Prof Shirley Motaung founder of Global Health Biotech」(英語)0分58秒。
2018年4月21日に公開 以下をクリック
https://www.facebook.com/watch/?v=558274381238924
【動画2】
インタビュー動画:「Vaccines and COVID-19 in South Africa | Are vaccines safe? | STEAMInation – YouTube」(英語)35分53秒。
SIAkhula Digital チャンネル登録者数 131人が2020/06/25に公開
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★教授で起業家
シャーリー・モタウン(Shirley Motaung、写真出典)は南アフリカのツワネ工科大学(Tshwane University of Technology)・教授(多分)で、現在、南アフリカで唯一、生物医工学の博士号を持つ黒人女性である。
モタウンは2015年にグローバル・ヘルス・バイオテク社(Global Health Biotech)を設立し社長に就任した。
★経緯
2016年2月(45歳?)、モタウンは「2016年2月のJ Ethnopharmacol.」論文を出版した
- Effects of resveratrol on collagen type II protein in the superficial and middle zone chondrocytes of porcine articular cartilage.
Maepa M, Razwinani M, Motaung S.
J Ethnopharmacol. 2016 Feb 3;178:25-33. doi: 10.1016/j.jep.2015.11.047. Epub 2015 Dec 2.
2016年6月(45歳?)、オランダのライデン大学教授で「J Ethnopharmacol.」のロバート・ベルポート編集長(Robert Verpoorte、写真出典)は、モタウンの「2016年2月のJ Ethnopharmacol.」論文には、モタウンが別の論文で出版した図を再使用していると指摘した(自己盗用)。
2016年8月(45歳?)、骨関連臓器移植の非営利組織である「ボーンSA(Bone SA)」のミシェル・ナラヤン会長(Michelle Narayan、写真左出典)は、モタウンに研究費の助成をしていたが、モタウンの「2016年2月のJ Ethnopharmacol.」論文は利益相反に違反していると指摘した。
2016年12月7日(45歳?)、ツワネ工科大学のウィラ・デ・ルイター広報官(Willa de Ruyter、写真右出典)は、現在、モタウンの不正を調査中で、「調査が進行している間、スタッフを一時的に停職にするのは通常の手順です。調査結果が出るまで、標準的な懲戒処分が科されます」と停職中だと発表した。
モタウンの論文では、上記の「2016年2月のJ Ethnopharmacol.」論文以外に、以下の「2016年7月のIran Biomed J」論文の研究内容に対する反対もあった。[白楽註:白楽はこの「反対」の中身を理解できていない]
- Osteoinductive Activity of Selected Demineralized Bone Matrix Products from Donors of Different Ages.
Alaribe FN, Razwinani M, Maepa MJ, Bierman F, Motaung SC.
Iran Biomed J. 2016 Jul 25:Pii-IBJ-A-10-1994-1. Online ahead of print.
それで、モタウンは停職処分を科された。
★反論
モタウンの停職処分は不当だと、停職処分に抗議する手紙も提出された。
モタウンの停職処分発表の2日後、エドガー・ネサムヴニ・経営科学部長(Edgar Nesamvuni、写真左出典)は、ローレンス・ヴァン・シュターデン学長(Lourens van Staden、写真右出典)に「ボーンSAの問題は解決されていて、モタウンは何も契約違反をしていません」と伝えた。
ネサムヴニ・経営科学部長は、「ベルポート編集長はモタウンが自己盗用をしたと言っているが、研究不正をしたとは言っていない。それに、規則上、反論する機会と権利をモタウンに与えるべきだ」と述べた。
2017年xx月xx日(46歳?)、モタウンの停職処分は解除された。ただ、院生の指導は禁じられたままだった。
2022年3月3日(51歳?)現在、オランダのロバート・ベルポート編集長(Robert Verpoorte)は「2016年2月のJ Ethnopharmacol.」論文を自己盗用と指摘しながら、撤回していないし、懸念表明もつけていない。
なんかヘンである。
●【不正の具体例】
シャーリー・モタウン(Shirley Motaung)の「2016年2月のJ Ethnopharmacol.」論文に自己盗用した画像があると指摘された。
- Effects of resveratrol on collagen type II protein in the superficial and middle zone chondrocytes of porcine articular cartilage.
Maepa M, Razwinani M, Motaung S.
J Ethnopharmacol. 2016 Feb 3;178:25-33. doi: 10.1016/j.jep.2015.11.047. Epub 2015 Dec 2.
ただ、どの画像なのか指摘されていない。
また、利益相反に違反していると指摘されたが、どの部分が利益相反なのか、こちらも、特定されていない。それに、利益相反に違反していないという主張もある。
状況がヘンです。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2022年3月3日現在、パブメド(PubMed)で、シャーリー・モタウン(Shirley Motaung)の論文を「Shirley Motaung[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2011~2018年の8年間の7論文がヒットした。
2022年3月3日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。
★撤回監視データベース
2022年3月3日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでシャーリー・モタウン(Shirley Motaung)を「Motaung」で検索すると、 0論文が撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2022年3月3日現在、「パブピア(PubPeer)」では、シャーリー・モタウン(Shirley Motaung)の論文のコメントを「Shirley Motaung」で検索すると、0論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》詳細不明
モタウン事件の詳細は不明である。
自己盗用と指摘しながら、オランダのロバート・ベルポート編集長(Robert Verpoorte)は論文を撤回しないし、懸念表明もつけていない。なんかヘンである。
ツワネ工科大学は、不正の調査中だと停職にするのも、この処罰は、米国基準・国際基準にはない。疑惑があれば停職というのは、処罰する方はシンプルではあるが、処罰を受ける方はたまったもんじゃない。
調査結果が出るまで停職だと、被疑者は大変な損害を被る。冤罪だった時、どうするんだろう?
白楽は、モタウン事件がしっくり腑に落ちてこない。
背後に学内政治闘争があるらしい。
また、モタウンがスター科学者なので、男女差別問題や大学教授が起業していることへの嫉妬があるのかもしれない。写真出典
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●9.【主要情報源】
① 2016年12月8日のボンガニ・ンコシ(Bongani Nkosi)記者の「Sowetan Live」記事:TUT professor suspended for ‘plagiarism’
② 2018年2月12日のボンガニ・ンコシ(Bongani Nkosi)記者の「iol」記事:TUT senior professor accused of plagiarism
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