ジュディス・トーマス(Judith M. Thomas)、ジュアン・コントレラス(Juan Contreras)(米)

ワンポイント:子弟で8年間もデータ改ざんし、師は10年間の締め出し処分

【概略】
medium_Researchers%200708ジュディス・トーマス(Judith M. Thomas、女性、写真左、出典)は、米国・アラバマ大学バーミンガム校(University of Alabama at Birmingham)・外科学・教授(Professor of Surgery)で、医師ではない。専門は移植免疫(腎臓)だった。

ジュアン・コントレラス(Juan Luis R. Contreras、男性、写真右、出典)は、米国・アラバマ大学バーミンガム校(University of Alabama at Birmingham)・助教授で、医師だった。コントレラスはジュディス・トーマスのかつてのポスドクだった。

2006年、データ改ざんが発覚した。アラバマ大学バーミンガム校が調査に入り、後に、研究公正局も調査に入った。

2009年7月7日、研究公正局は2人にデータ改ざんがあったと公表した。ジュディス・トーマスは60代である、締め出し処分(debarment)をジュディス・トーマスに対し10年間、コントレラスに対し3年間とした。10年以上の締め出し処分を受けた研究者は、2015年12月1日現在まで、7人しかいない(研究者の事件ランキング)。

University_of_Alabama_at_Birmingham_Campus_from_Vulcan米国・アラバマ大学バーミンガム校(University of Alabama at Birmingham)。写真出典

★ジュディス・トーマス(Judith M. Thomas)

  • 国:米国
  • 成長国:
  • 研究博士号(PhD)取得:あり
  • 男女:女性
  • 生年月日:不明。仮に1945年1月1日とする
  • 現在の年齢:79歳?
  • 分野:移植免疫
  • 最初の不正論文発表:1998年(43歳?)
  • 発覚年:2006年 (61歳?)
  • 発覚時地位:アラバマ大学バーミンガム校・教授
  • 発覚:不明
  • 調査:①アラバマ大学バーミンガム校・調査委員会。②研究公正局。~2009年7月7日
  • 不正:改ざん
  • 不正論文数:16報。撤回論文数は10報
  • 時期:研究キャリアの後期から
  • 結末:辞職

★ジュアン・コントレラス(Juan Contreras)

  • 国:米国
  • 成長国:
  • 研究博士号(PhD)取得:
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1955年1月1日とする
  • 現在の年齢:69歳?
  • 分野:移植免疫
  • 最初の不正論文発表:1998年(33歳?)
  • 発覚年:2006年 (51歳?)
  • 発覚時地位:アラバマ大学バーミンガム校・助教授
  • 発覚:不明
  • 調査:①アラバマ大学バーミンガム校・調査委員会。②研究公正局。~2009年7月7日
  • 不正:改ざん
  • 不正論文数:ジュディス・トーマスのデータでは16報。撤回論文数は10報
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 結末:辞職

【経歴と経過】
2人ともほとんど不明。

★ジュディス・トーマス(Judith M. Thomas)

  • 生年月日:不明。仮に1945年1月1日とする
  • 19xx年(xx歳):xx大学を卒業
  • 19xx年(xx歳):xx大学で研究博士号(PhD)を取得した
  • xxxx年(xx歳):アラバマ大学バーミンガム校・教授
  • 2006年(61歳?):不正研究が発覚する
  • 2008年1月10日(63歳?):アラバマ大学バーミンガム校・教授を辞職
  • 2009年7月7日(64歳?):研究公正局がデータ改ざんがあったと公表した

★ジュアン・コントレラス(Juan Contreras)

  • 生年月日:不明。仮に1955年1月1日とする
  • 19xx年(xx歳):xx大学を卒業
  • 19xx年(xx歳):xx大学で医師免許を取得した
  • xxxx年(xx歳):アラバマ大学バーミンガム校・助教授
  • 2006年(51歳?):不正研究が発覚する
  • 2009年7月6日(54歳?):アラバマ大学バーミンガム校・助教授を辞職
  • 2009年7月7日(54歳?):研究公正局がデータ改ざんがあったと公表した

【不正発覚の経緯と内容】

renalfig04腎臓移植。出典:移植外科 腎臓移植 | 広島大学大学院 医歯薬保健学研究院 応用生命科学部門 消化器・移植外科学

10390_bジュディス・トーマス(Judith M. Thomas)の研究室では、アカゲザル(写真出典)を用いて腎臓移植での免疫拒否反応を研究していた。2種類の免疫抑制剤(Immunotoxin FN18-CRM9と15-deoxyspergualin (15-DSG))の免疫抑制効果を実験していた。

実験の手順は、まず、アカゲザルの1つの腎臓を取り除き、そこに他の腎臓を移植する。この時点から免疫抑制剤を投与する。そして、1か月後、2回目の手術で、もう1つの腎臓を取り除く。その後のアカゲザルの健康指数を測定する。体内には新しく移植した腎臓だけが残り、その機能異常は、健康指数に直ちに反映する。というものだった。

ところが、2人は、少なくとも32匹のアカゲザルで、2回目の手術を行わなかった。従って、アカゲザルは健康に生き、免疫抑制剤の効果が高いような結果が得られた。これは、明白なデータ改ざんである。なお、実際に手術するハズの人はジュアン・コントレラスで、ジュディス・トーマスは、研究総括の立場だった。

2人はNIHから2,300万ドル(約23億円)の研究助成を受けていた。

2006年1月27日、ジュディス・トーマスはアカゲザルの2つ目の腎臓が取り除かれていないことに、気が付いた。手術担当のジュアン・コントレラスを非難し、データ改ざんだと大学に伝えた。ジュアン・コントレラスはトーマスのかつてのポスドクで、医者である。

アラバマ大学バーミンガム校は調査を開始した。

アラバマ大学バーミンガム校の調査では、しかし、調査が進むにつれ、ジュディス・トーマスは2006年1月27日以前にも2つ目の腎臓が取り除かれていないことを知っていて、何も対処しなかったことを突き止めた。

研究室を主宰しているジュディス・トーマスは、研究ネカトの責任があることを認めた。ただ、2人とも、意図的に研究ネカトをしたのではないと、不正行為を否定した。

データ改ざん論文は1998年~2005年までに出版された16論文に及び、8年間も続いていた。この間、当然ながら、NIHへの研究費申請書でも研究ネカトが行なわれた。

marchase-photojpg-5f9720014aed2c952008年1月、アラバマ大学バーミンガム校の調査委員会は、ジュディス・トーマスにデータ改ざんがあったという報告書をまとめた。この件を担当したアラバマ大学バーミンガム校の研究担当副学長はリチャード・マーチェス(Richard Marchase、写真出典)は、「2人が研究ネカトをした理由がわからない」と述べている。

2008年1月10日、ジュディス・トーマスは、調査報告を受け、アラバマ大学バーミンガム校を辞職した。この時、研究室には6-10人の院生、テクニシャン、ポスドクが在籍していた。

2009年7月6日、ジュアン・コントレラス(Juan Contreras)はアラバマ大学バーミンガム校・助教授を辞職した。

2009年7月7日、研究公正局が2人がクロとする調査結果を公表した(【主要情報源】①)。締め出し処分(debarment)は、ジュディス・トーマスが10年間でコントレラスは3年間となった。

ジュディス・トーマスは、2009年に60歳代で退職はそう遠くない。一方、ジュアン・コントレラスはトーマスのかつてのポスドクだったのだから、まだ退職するには若い。その後、医師だからどこかで臨床医として働いているだろう。

【論文数と撤回論文】

研究室主宰者のジュディス・トーマス(Judith M. Thomas)を中心に調べた。

2015年12月1日、パブメドhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedで、ジュディス・トーマス(Judith M. Thomas)の論文を「Judith M. Thomas [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2008年までの7年間の23論文がヒットした。

「Thomas JM[Author]」で検索すると、1925年~2015年の791論文がヒットした。全部が、本記事のジュディス・トーマスの論文とは思えない。

2015年12月1日現在、1998~2005年の8年間の10論文が撤回されている。10論文のうち5論文がジュアン・コントレラス(Juan Contreras)と共著である。 

  1. Elevated T regulatory cells in long-term stable transplant tolerance in rhesus macaques induced by anti-CD3 immunotoxin and deoxyspergualin.
    Asiedu CK, Goodwin KJ, Balgansuren G, Jenkins SM, Le Bas-Bernardet S, Jargal U, Neville DM Jr, Thomas JM.
    J Immunol. 2005 Dec 15;175(12):8060-8.
    Retraction in:
    Asiedu C, Goodwin K, Balgansuren G, Jenkins SM, Le Bas-Bernardet S, Jargal U, Thomas J, Neville DM Jr. J Immunol. 2006 Aug 1;177(3):2023
  2. The immune decision toward allograft tolerance in non-human primates requires early inhibition of innate immunity and induction of immune regulation.
    Hutchings A, Wu J, Asiedu C, Hubbard W, Eckhoff D, Contreras J, Thomas FT, Neville D, Thomas JM.
    Transpl Immunol. 2003 Jul-Sep;11(3-4):335-44.
    Retraction in:
    Transpl Immunol. 2009 May;21(1):56
  3. Transplantation: tolerance.
    Hutchings A, Thomas JM.
    Curr Opin Investig Drugs. 2003 May;4(5):530-5. Review. Retraction in: Curr Opin Investig Drugs. 2009 Aug;10(8):882
  4. Allele-specific in situ analysis of microchimerism by fluorescence resonance energy transfer (FRET) in nonhuman primate tissues.
    Lobashevsky AL, Jiang XL, Thomas JM.
    Hum Immunol. 2002 Feb;63(2):108-20.
    Retraction in:
    Hum Immunol. 2008 Dec;69(12):893
  5. STEALTH in transplantation tolerance.
    Hutchings A, Hubbard WJ, Thomas FT, Thomas JM.
    Immunol Res. 2002;26(1-3):143-52. Review.
    Retraction in:
    Thomas JM. Immunol Res. 2008;40(1):95
  6. STEALTH matters: a novel paradigm of durable primate allograft tolerance.
    Thomas JM, Hubbard WJ, Sooudi SK, Thomas FT.
    Immunol Rev. 2001 Oct;183:223-33. Review.
    Retraction in:
    Thomas JM, Hubbard WJ, Sooudi SK, Thomas FT. Immunol Rev. 2008 Aug;224:295
  7. Durable donor-specific T and B cell tolerance in rhesus macaques induced with peritransplantation anti-CD3 immunotoxin and deoxyspergualin: absence of chronic allograft nephropathy.
    Thomas JM, Eckhoff DE, Contreras JL, Lobashevsky AL, Hubbard WJ, Moore JK, Cook WJ, Thomas FT, Neville DM Jr.
    Transplantation. 2000 Jun 27;69(12):2497-503.
    Retraction in:
    Thomas JM, Eckhoff DE, Contreras JL, Thomas FT, Neville DM Jr, Lobashevsky A, Hubbard WJ, Cook WJ. Transplantation. 2006 Aug 27;82(4):577
  8. Peritransplant tolerance induction in macaques: early events reflecting the unique synergy between immunotoxin and deoxyspergualin.
    Thomas JM, Contreras JL, Jiang XL, Eckhoff DE, Wang PX, Hubbard WJ, Lobashevsky AL, Wang W, Asiedu C, Stavrou S, Cook WJ, Robbin ML, Thomas FT, Neville DM Jr.
    Transplantation. 1999 Dec 15;68(11):1660-73.
    Retraction in:
    Marchase RB. Transplantation. 2008 Aug 15;86(3):482
  9. Tolerability and side effects of anti-CD3-immunotoxin in preclinical testing in kidney and pancreatic islet transplant recipients.
    Contreras JL, Eckhoff DE, Cartner S, Frenette L, Thomas FT, Robbin ML, Neville DM Jr, Thomas JM.
    Transplantation. 1999 Jul 27;68(2):215-9.
    Retraction in:
    Marchase RB. Transplantation. 2008 Aug 15;86(3):482
  10. Peritransplant tolerance induction with anti-CD3-immunotoxin: a matter of proinflammatory cytokine control.
    Contreras JL, Wang PX, Eckhoff DE, Lobashevsky AL, Asiedu C, Frenette L, Robbin ML, Hubbard WJ, Cartner S, Nadler S, Cook WJ, Sharff J, Shiloach J, Thomas FT, Neville DM Jr, Thomas JM.
    Transplantation. 1998 May 15;65(9):1159-69.
    Retraction in:
    Thomas JM, Contreras JL, Wang PX, Eckhoff DE, Asiedu C, Hubbard WJ, Cartner S, Thomas FT, Robbin ML, Nadler S, Cook WJ, Sharff J, Neville DM Jr, Shiloach J. Transplantation. 2008 Mar 27;85(6):920.

【白楽の感想】

《1》情報が少ない

この事件の情報が少ない。一般に、1990年代と2000年前半は研究ネカトの情報が少ない。

理由は事件への関心が低かったからだろう。

【主要情報源】
① 2009年7月7日、研究公正局の報告:ジュディス・トーマス(Judith M. Thomas)NOT-OD-09-118: Findings of Scientific Misconduct、ジュアン・コントレラス(Juan Contreras)NOT-OD-09-119: Findings of Scientific Misconduct
② 2009年7月8日のボブ・シムズ(Bob Sims)の「AL.com」記事:UAB animal transplant studies by two researchers found falsified | AL.com
③ 2009年7月13日のボブ・グラント(Bob Grant)の「The Scientist」記事:Renal researchers faked data | The Scientist Magazine®
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