スティーヴン・イートン(Steven Eaton)(英)

2015年2月14日掲載、2024年4月25日更新

ワンポイント:イートン は米国の製薬企業・アプテュイト社(Aptuit)の英国・エジンバラ支所の研究員だった。2001年~2009年の9年間、抗がん剤の臨床前試験データを改ざんしていたことが、 2009年(43歳)、社内検査で発覚した。2013年4月17日(47歳)、裁判の結果、3か月の刑務所刑が科された。ネカトで刑務所送りになった英国の最初の事例である。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。

ーーーーーーー 目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント?
ーーーーーーー?

●1.【概略】

スティーヴン・イートン(Steven Eaton、顔写真は見つからなかった)は、米国の製薬企業アプテュイト社(Aptuit)の英国・エジンバラ支所の研究員で、医薬品の動物安全性試験を担当していた。

2009年(43歳)、2001年~2009年(35 ~ 43歳)の9年間、イートンが抗がん剤の臨床前試験データを改ざんしていたことが、社内検査で発覚した。

すぐに、解雇された。

2013年4月17日(47歳)、裁判の結果、3か月の刑務所刑(懲役または禁錮)という実刑判決が下された。

「研究上の不正行為」で刑務所送りになった英国の最初の事例である。

アプテュイト社(Aptuit)は2017年にエボテック社(Evotec company )になった。写真出典

  • 国:英国
  • 成長国:?
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男性
  • 生年月日:仮に、1966年1月1日生まれとする。2013年4月17日の記事に47歳とあったので
  • 現在の年齢:58 歳
  • 分野:動物安全性試験
  • 不正行為:2001~2009年(35 ~ 43歳)の9年間
  • 不正行為時の地位:アプテュイト社・社員
  • 発覚年:2009年(43歳)
  • 発覚時地位:アプテュイト社・社員
  • ステップ1(発覚):社内の抜き打ち検査
  • ステップ2(メディア):「Nature 」、「New Scientist」、「Science」、「New York Times」、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):英国の医薬品・医療製品規制庁(MHRA)と英国・優良試験所規範監視局(UK GLP Monitoring Authority、UK GLPMA)。調査期間は2年半
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:0報
  • 時期:研究キャリアの中期
  • 結末:解雇。3か月の刑務所刑(懲役・禁錮)
  • 特徴:研究ネカトで刑務所送りになった英国の最初の事例
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】 国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

不明点多し。

  • 生年月日:仮に、1966年1月1日生まれとする。2013年4月17日の記事に47歳とあったので
  • 19xx年(xx歳):xx大学を卒業
  • 1997年(31歳)頃:米国の製薬企業アプテュイト社(Aptuit)の英国・エジンバラ支所で、医薬品の動物安全性試験を担当
  • 2001年(35歳):データ改ざんを始める
  • 2009年(43歳):データ改ざんが発覚
  • 2009年(43歳):解雇
  • 2013年4月17日(47歳):裁判の結果、3か月の刑務所刑

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★「優良試験所規範」Good Laboratory Practice Regulations 1999

「優良試験所規範」(GLP:Good Laboratory Practice)は、1972年にニュージーランドとデンマークが採用した試験検査の精度確保のための標準作業手順である。現在は世界各国が制定している。生命科学分野では、医薬品開発のための非臨床試験(動物試験等、特に安全性試験)において、データの信頼性を確保する規範となっている。

世界保健機関(World Health Organization, WHO)もGLPハンドブックをだしている。

英国では、健康省(Department of Health)の医薬品・医療製品規制庁(Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency、MHRA)が、医薬品および医療機器の認可および安全性を管轄している。

英国では、すべての医薬品の試験所には届け出と監査の義務がある。その医薬品・医療製品規制庁が1999年に法律・「優良試験所規範1999」(Good Laboratory Practice Regulations 1999)を制定した。

★状況

150205 screen_shot_2013-03-13_at_11.24.11[1]スティーヴン・イートン(Steven Eaton)は、米国のアプテュイト社(Aptuit、写真出典)の英国・エジンバラ支所で、アストラゼネカ社(AstraZeneca)やロシュ社(Roche)などの製薬企業に依頼された医薬品の動物安全性試験を担当していた。

実験動物に医薬品を投与して、副作用があるかどうかを試験する臨床前試験で、この試験で医薬品の安全量を測定する。

★発覚

2001年(35歳)、イートンはデータ改ざんを始めた。 → An important announcement for Aptuit customers concerning the recent MHRA notification

データ改ざんをした理由は、金銭を得る目的ではなく、研究能力がないのでまともに測定できない能力不足をごまかすため、また、怠惰が原因だと、後に指摘された。

2009年2月(43歳)、アプテュイト社(Aptuit)の英国・エジンバラ支所で、社員の抜き打ち検査をした時、イートンの液体クロマトグラフィーの測定値に異常が見つかった。

血液中の医薬品の濃度の測定値である。

この測定値を元に医薬品の投与量を決めるので、効能や副作用を考える時の重要なデータだった。

アプテュイト社は、すぐに、医薬品・医療製品規制庁(MHRA)に報告した。

★調査

英国の医薬品・医療製品規制庁(MHRA)と英国・優良試験所規範監視局(UK GLP Monitoring Authority、UK GLPMA)は、アプテュイト社の協力のもとに調査を開始した。

アプテュイト社が試験した数百の医薬品のデータを2年半かけて調査した結果、2001年~2009年の9年間、イートンは抗がん剤の臨床前試験データの内、イートンにとって良いと思えるデータを選択して報告していた。

このデータ改ざんで、医薬品に副作用があっても、副作用は見過ごされる結果になっていた。

データの信頼性を損なう行為(データ改ざん)は、イートン個人の行為であって、アプテュイト社が会社ぐるみで関与したという証拠は見つからなかった。

イートンのデータ改ざんで、英国の新薬開発が遅れたが、患者の健康被害をもたらすことはなかった、と報告された。[白楽注:ンなわけない。ウソでしょう]

なお、アプテュイト社(Aptuit)の英国・エジンバラ支所はこの事件を受けて2011年に閉鎖された。なお、アプテュイト社(Aptuit)は、閉鎖は事件と無関係だと述べている。[白楽注:ウソでしょう]

★裁判

150205 edinburghsheriff[1]エジンバラ地方裁判所(Edinburgh Sheriff Court) 写真出典

2013年4月17日(47歳)、エジンバラ地方裁判所(Edinburgh Sheriff Court)は、「優良試験所規範1999」(Good Laboratory Practice Regulations 1999)違反で、イートンに3か月の刑務所刑(懲役または禁錮)の判決を下した。

もしイートンのデータを信じて医薬品が認可されていたら、がん患者の健康が損なわれるのは確実だったと、裁判官は述べている。

「優良試験所規範1999」法が施行されてから14年経つが、初めての実刑判決だった。3か月という期間はこの法律が定めている刑罰の上限である。

弁護士・ジム・スティーブンソン(Jim Stephenson)は、「イートンは仕事上のプレッシャーがきつかったことと、不正を働いていた時期に個人的問題も抱えていた。データ改ざんで彼に金銭的収入はなかったので、金銭収入が目的ではなく、動機は不明である。それに、彼は、そもそも科学研究ができるタイプの人間ではなかった」と述べている。

150205 s216_gerald-heddell[1]医薬品・医療製品規制庁の監査執行基準局(Inspection, Enforcement and Standards)局長のジェラルド・ヘデル(Gerald Heddell、写真出典)は、英国で研究者に初めての刑務所刑が科されたのに対して、「有罪判決を歓迎する。国民の健康を害する研究者には実刑を科すというメッーセージだ」と述べている。

【改ざんの具体例】

論文でのネカトではない。

改ざんの具体例は上記した。ここに再掲しない。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

データベースに直接リンクしているので、記事を閲覧した時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えていると思います。

★パブメド(PubMed)

2024年4月24日現在、パブメド(PubMed)で、スティーヴン・イートン(Steven Eaton)の論文を「Steven Eaton[Author]」で検索すると、16論文がヒットした。

ただ、ファーストネームが異なる、所属が異なるなどで、全16論文とも、ココで問題にしているスティーヴン・イートン(Steven Eaton)の論文ではないようだ。

企業で、医薬品の安全性試験を仕事としていたので、論文は発表していないのだろう。

★撤回監視データベース

2024年4月24日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでスティーヴン・イートン(Steven Eaton)を「Steven Eaton」で検索すると、0論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2024年4月24日現在、「パブピア(PubPeer)」では、スティーヴン・イートン(Steven Eaton)の論文のコメントを「”Steven Eaton”」で検索すると、0論文にコメントがあった。?

●7.【白楽の感想】

《1》刑務所で服役 

「研究上の不正行為」で研究者が裁判の被告になり、研究者が刑務所で服役することは、かつてはなかった。

2013年4月17日、裁判の結果、スティーヴン・イートン(Steven Eaton)に3か月の刑務所刑(懲役・禁錮)が科された。英国で最初の実刑例であり、歴史的な事件である。

それで、「研究上の不正行為」で世界的に実刑(懲役、禁錮、拘留)判決がでた研究者を調べてみた。

ーーーここから、2015年2月14日時点の情報

「研究上の不正行為」で世界で最初に投獄された研究者は、米国のエリック・ポールマン(Eric Poehlman)で、2006年6月28日、刑期は1年1日の実刑判決が下った。

2人目は、米国のスコット・ルーベン(Scott S. Reuben)で、2010年2月24日、医療詐欺のため刑期6か月の実刑判決が下った。

3人目になるところだったのが、米国のルク・ファン・パライス(Luk van Parijs)で、刑期6か月が求刑された。しかし、2011年6月13日、6か月の自宅謹慎、400時間のコミュニティサービス、61,117ドル(約611万円)の大学への支払いという温情の判決がなされた。

ーーーここまで、2015年2月14日時点の情報

イートン事件が起こった2013年頃の米英の傾向として、「研究上の不正行為」に対して厳罰化が進む状況で、徐々に実刑(懲役、禁錮、拘留)が科される方向だった。

カネ・地位・健康被害・キャリア妨害など社会に損害を与え、他人の人生・健康に損害を与えるので、実刑は当然だという意見が多かった。

日本では、まだ実刑を科されたネカト者はいないが、白楽は、日本も、「研究上の不正行為」を犯罪とみなすべきだ、と主張している。刑法の対象にし、刑罰(懲役、禁錮、罰金、拘留、没収)を科すのが妥当だと思う。法制度の改革を望む。

2024年4月現在、欧米で投獄された研究者は、2015年2月14日時点より増えているが、しかし、ネカトを犯罪化する動きは、欧米では大きくない。

イートン以降、「優良試験所規範」(GLP)違反で刑罰を科した英国の例を積極的に調べていないが、「優良試験所規範」(GLP)違反や研究ネカトで刑罰を科した英国の事例はないと思う。

研究ネカトとは少し異なるが、病院の3人の看護師が患者の診療データをねつ造し刑罰を科された英国の事件があった。

2016年8月2日、診療データのねつ造を「(患者の)ネグレクト」という罪状にし、看護師のベルトゥラーノ(46歳)に懲役4か月、ナタリー・ジョーンズ(42歳)は地域社会貢献、レベッカ・ジョーンズ(31歳)に懲役8か月の判決が下された。 → ラウロ・ベルトゥラーノ(Lauro Bertulano)、ナタリー・ジョーンズ(Natalie Jones)、レベッカ・ジョーンズ(Rebecca Jones)(英) | 白楽の研究者倫理

米国でも、研究ネカトで刑罰を科した例は多くない。

刑罰化が低調になってきた理由をシッカリ調べていないが、一説によると、損得勘定だと言われている。

つまり、訴訟にするとスタッフに負担がかかる。かつ、弁護士費用、裁判費用など、コストが高額になる。その額を上回るお金を回収できないと、起訴しないという説だ。

確かに、金銭的損得は大きいだろうが、「不正を防止する」「社会秩序を保つ」「研究公正の推進」など、人間社会には、金銭よりも優先する価値観がある。どうなっているのだ?

《2》被害のごまかし

このような事件でいつも思うのは、関係者全員が被害の実態をごまかしているということだ。 

2001年~2009年の9年間、イートンは抗がん剤の臨床前試験データを改ざんしていた。9年間もである。

それでも、当局は、患者の健康被害をもたらすことはなかった、と発表している。

うそでしょう。

それなら、9年間のデータは何の役にも立っていなかった、ということ?

臨床前試験データで安全性に問題なしとした医薬品を、臨床試験の患者に投与したハズだ。その患者たちの健康を損なったに違いない。

ただ、患者に健康被害を与えたことを直接、証明するのはむつかしい。臨床試験の患者だとなおさらである。

それに、患者の健康被害があったとすれば、企業も官庁も大きく非難される。責任を問われる。

それで、アウンの呼吸で患者の健康被害なしとした。

一般的に言って、当局に都合の良いこのような疑惑的なケースはごまんとある。日本にもまん延している(と思う)。

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の協力もあり、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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●9.【主要情報源】

① 2013 年4月17日のアダム・マーカス()記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:UK researcher who faked data gets three months in jail – Retraction Watch at Retraction Watch
②? 2013年4月17日のリチャード・グレイ(Richard Gray)記者の「Telegraph」記事:Scientist jailed for faking medicine test results – Telegraph
③ 2013年3月21日のアンディ・エクスタンス(Andy Extance)記者の「Chemistry World」記事:Court convicts ex-Aptuit researcher over drug data | Chemistry World ④ 2013 年4月17日の記者不記載の「BBC News」記事: Scientist Steven Eaton jailed for falsifying drug test results – BBC News
⑤ 2013 年4月19日の記者不記載の「Conversation」記事:UK researcher sentenced to three months’ jail for faking data
⑥ 2013年5月3日のベリル・リーフ・ベンダーリー(Beryl Lieff Benderly)記者の「Science 」記事:?A Prison Sentence for Altering Data | Science | AAAS

★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作Categories品ではありません。

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