リタンカー・マジュムダル(Ritankar Majumdar)(米)

2022年10月25日掲載 

ワンポイント:2022年9月1日(39歳?)、発覚から3年後、研究公正局は、NIH/国立がん研究所(NIH/National Cancer Institute)・ポスドクだったマジュムダルの3件の研究費申請書、1報の出版論文、1本の投稿原稿、17件の研究発表にデータねつ造・改ざんがあったと発表した。2022年8月15日から3年間の監督期間(Supervision Period)処分を科した。なお、マジュムダルはインドに育ち、インド理科大学院(Indian Institute of Science)で研究博士号(PhD)を取得し、2014年(31歳?)、NIH/国立がん研究所(NIH/National Cancer Institute)・ポスドクになった。記事執筆時点では、撤回論文は1報。国民の損害額(推定)は3億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

リタンカー・マジュムダル(Ritankar Majumdar、ORCID iD、写真出典)は、インドに育ち、インド理科大学院(Indian Institute of Science)で研究博士号(PhD)を取得し、米国のNIH/国立がん研究所(NIH/National Cancer Institute)・ポスドクになった。専門は細胞生物学である。

ネカト発覚の経緯は不明であるが、2019年(36歳?)に投稿した論文原稿のネカトが指摘されているので、同じ研究室の上司または同僚が見つけ通報したと思われる。本記事では、ボスのキャロル・ペアレント教授(Carole Parent)が見つけ通報したとする。

発覚時期は、2019年(36歳?)と思われる。

研究公正局がネカト調査を終え、クロと判定した2021年(38歳?)頃、マジュムダルはNIH/国立がん研究所を辞職した(させられた)。

2022年9月1日(39歳?)、発覚から3年後、研究公正局(ORIロゴ出典)は、NIH/国立がん研究所(NIH/National Cancer Institute)・ポスドクだったマジュムダルの3件の研究費申請書、1報の出版論文、1本の投稿原稿、17件の研究発表にデータねつ造・改ざんがあったと発表した。

2022年8月15日(39歳?)から3年間の監督期間(Supervision Period)処分を科した。3年間の監督期間(Supervision Period)処分は普通の処分である。

NIH/国立がん研究所(NIH/National Cancer Institute)・ベセスダ・キャンパス。白楽は昔、ここで数年過ごした。2015年の小雨の午後。白楽撮影。

下は、上の写真とほぼ同じ位置(1981年)。右が白楽。

  • 国:米国
  • 成長国:インド
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:インド理科大学院
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1983年1月1日生まれとする。2001年に大学・学部に入学した時を18歳とした
  • 現在の年齢:41 歳?
  • 分野:細胞生物学
  • 不正発表:2015~2019年(32~36歳?)の5年間
  • 発覚年:2019年(36歳?)
  • 発覚時地位:NIH/国立がん研究所・ポスドク
  • ステップ1(発覚):第一次追及者をボスのキャロル・ペアレント教授(Carole Parent)とする
  • ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」、「パブピア(PubPeer)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①研究公正局
  • 研究所・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 研究所の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:3件の研究費申請書、1報の出版論文、1本の投稿原稿、17件の研究発表。2022年10月24日現在、撤回論文は1報
  • 時期:研究キャリアの初期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分: NIHから3年間の監督期間(Supervision Period)処分
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は3億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:Ritankar Majumdar (0000-0001-6624-0187)

  • 生年月日:不明。仮に1983年1月1日生まれとする。2001年に大学・学部に入学した時を18歳とした
  • 2001~2005年(18~22歳?):インドの西ベンガル工科大学(West Bengal University of Technology)で学士号を取得:生物工学
  • 2005~2012年(22~29歳?):インドのインド理科大学院(Indian Institute of Science)で研究博士号(PhD)を取得:分子生物学
  • 2012~2021年(29~38歳?):NIH/国立がん研究所(University of Nebraska Medical Center)の細胞分子生物学部(Laboratory of Cellular and Molecular Biology)・ポスドク。ボスはキャロル・ペアレント教授(Carole Parent)
  • 2019年(36歳?):不正研究が発覚(推定)
  • 2022年8月2日(39歳?):研究公正局がネカトと発表

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★インド出身

リタンカー・マジュムダル(Ritankar Majumdar)はインドで生まれ育ち、インド理科大学院(Indian Institute of Science)で研究博士号(PhD)を取得し、米国のNIH/国立がん研究所(NIH/National Cancer Institute)・ポスドクになった。

ボスはキャロル・ペアレント教授(Carole Parent、写真出典)である。

ペアレント教授はNIH/国立がん研究所(University of Nebraska Medical Center)の細胞分子生物学部(Laboratory of Cellular and Molecular Biology)・代理部長(Deputy Chief)とミシガン大学・医科大学院(University of Michigan Medical School)・教授を兼任している。

★研究公正局

ネカト発覚の経緯は不明であるが、2019年(36歳?)に投稿した論文原稿にネカトが指摘されているので、同じ研究室の上司または同僚が見つけ通報したと思われる。本記事では、ボスのキャロル・ペアレント教授(Carole Parent)が見つけ通報したことにした。

発覚時期は、2019年(36歳?)と推定される。

2022年9月1日(39歳?)、研究公正局はマジュムダルが3件の研究費申請書、1報の出版論文、1本の投稿原稿、17件の研究発表でデータねつ造・改ざんしていたと発表した。

2022年8月15日から3年間の監督期間(Supervision Period)処分を科した。3年間の監督期間(Supervision Period)処分は普通の処分である。

3件の研究費申請書は以下の通り。研究公正局の発表のコピペです。期間は2018~2019年(35~36歳?)。

  1. R01 AI145072-01, “Signal relay during directed cell migration,” submitted to the National Institute of Allergy and Infectious Diseases (NIAID), NIH, on 06/04/2018.
  2. R01 AI145072-01A1, “Signal relay during directed cell migration,” submitted to NIAID, NIH, on 04/16/2019.
  3. R01 AI152517-01, “Signal relay during directed cell migration,” submitted to NIAID, NIH, on 08/16/2019, funded from 07/10/2020-6/30/2025.

1報の出版論文は以下の通り。研究公正局の発表のコピペです。2016年(33歳?)の論文。

  1. Exosomes Mediate LTB4 Release during Neutrophil Chemotaxis. PloS Biol. 2016 Jan 7; 14(1):e1002336; doi: 10.1371/journal.pbio.1002336 (hereafter referred to as “PloS Biol 2016”). Retraction in: PLoS Biol. 2021 Jul 7;19(7):e3001320; doi: 10.1371/journal.pbio.3001320.

1本の投稿原稿は以下の通り。2019年(36歳?)に投稿した論文原稿である。

  1. Biogenesis of Leukotriene B4-Containing Exosomes at the Nuclear Envelope. Manuscript accepted for publication in Nature Cell Biology in 2019 and withdrawn (hereafter referred to as the “NCB manuscript”).

17件の研究発表は以下の通り。研究公正局の発表のコピペです。期間は2015~2016年(32~35歳?)。

  1. LTB4-synthesizing enzymes aggregate on nuclear lipid rafts that bud exosomes to mediate signal relay during neutrophil chemotaxis. Poster Presentation at the University of Maryland (UMD) in 2016 (hereafter referred to as the “UMD 2016 presentation”).
  2. Exosome secretion as an effective mechanism of LTB4 -mediated signal relay in migrating neutrophils. Oral presentation at the American Society for Exosomes and Microvesicles (ASEM) on 10/17/2015 (hereafter referred to as the “ASEM 2015 presentation”).
  3. Chemotactic gradient amplification through the release of extracellular vesicles during eukaryotic chemotaxis. Oral presentation at Collective Dynamics in Microorganisms and Cellular Systems (CDMCS) on 05/25/2016 (hereafter referred to as the “CDMCS 2016 presentation”).
  4. Signal Relay is Mediated by Exosome Release during Dictyostelium and Neutrophil Chemotaxis. Oral presentation at International CIM (Cells in Motion) Symposium 2015 on 09/14/2015 (hereafter referred to as the “CIM 2015 presentation”).
  5. Do ESCRTS DR(ea)M of nuclear MVBs? Interplay of ESCRT Dependent and Independent processes in Exosome Biogenesis during Relay of Chemotactic Signals in Neutrophils. Poster presentation at Directed Cell Migration Gordon Research Conference (GRC) from 01/22/2017-01/27/2017 (hereafter referred to as the “GRC 2017 presentation”).
  6. Nuclear Lipid Microdomains as a Novel Niche for Exosome Biogenesis: Interplay of ESCRT Dependent and Independent Processes During Relay of Chemotactic Signals in Neutrophils OR Do ESCRTs DR(ea)M of nuclear MVBs? Oral presentation at Directed Cell Migration Gordon Research Seminar (GRS) on 01/21/2017 (GRS2017.pptx) (hereafter referred to as the “GRS 2017 presentation”).
  7. Lab Meeting on 02/13/15 (hereafter referred to as “Lab Meeting 02/13/15”).
  8. Lab Meeting in August 2015 (hereafter referred to as “Lab Meeting 08/2015”).
  9. Lab Meeting on October 7, 2016 (hereafter referred to as “Lab Meeting 10/07/2016”).
  10. Lab Meeting in July 2016 (hereafter referred to as “Lab Meeting 07/2016”).
  11. A series of fortunate events. Lab Meeting in December 2016 (hereafter referred to as “Lab Meeting 12/2016”).
  12. Lab Meeting on November 4, 2015 (hereafter referred to as “Lab Meeting 11/04/2015”).
  13. Exosome secretion as an effective mechanism of LTB4 mediated signal relay in migrating neutrophils. LCMB Presentation in 2015 (hereafter referred to as “LCMB 2015 presentation V1”).
  14. Exosome secretion as an effective mechanism of LTB4 mediated signal relay in migrating neutrophils. LCMB Presentation in 2015 (hereafter referred to as “LCMB 2015 presentation V2”).
  15. Extracellular Vesicles mediate signal relay during Chemotaxis. LCMB Seminar in 2014 (hereafter referred to as “LCMB 2014 seminar”).
  16. Data compilation for LCMB Seminar in 2016 (hereafter referred to as “LCMB 2016 seminar data 1”).
  17. A series of fortunate events: Do ESCRTs DR(ea)M of nuclear MVBs? Oral presentation at LCMB in 2016 (hereafter referred to as “LCMB 2016 seminar data 2”).

【ねつ造・改ざんの具体例】

2022年9月1日(40歳?)の研究公正局の発表に、各研究費申請書・論文のネカト部分が指摘されている。

しかし、言葉で説明されてもわかりにくい。撤回された1論文のネカト部分を以下に詳しく見てみよう。

★「2016年1月のPLoS Biol」論文

研究公正局がネカトと指摘した「2016年1月のPLoS Biol」論文の書誌情報を以下に示す。2021年7月7日に撤回された。

実際はもっとネカト箇所が指摘されているが、以下に2つ示す。

最初に結論を書くが、これらのネカト箇所は出版した論文を見ていてもわからない。一緒に研究した人、あるいは、生データを知っている人しかわからない。やはり、ネカトは同じ研究室の上司または同僚が見つけ通報したと思われる。

――――――図2Aと図2D

図2Aと図2D は別の実験のデータとあるが、同じ画像の別の部分を使用していた(図の出典は原著)。

――――――図2F

図2F は免疫ゴールドの量を数値化したグラフだが、数値はねつ造・改ざんした数値だった(図の出典は原著)。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2022年10月24日現在、パブメド(PubMed)で、リタンカー・マジュムダル(Ritankar Majumdar)の論文を「Ritankar Majumdar [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2009~2021年の13年間の29論文がヒットした。

29論文の内、2014 ~2021年の11論文がボスのキャロル・ペアレント教授(Carole Parent)と共著である。

2022年10月24日現在、「Retracted Publication」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、本記事で問題にした「2016年1月のPLoS Biol」論文・1論文が2021年7月7日に撤回されていた。

★撤回監視データベース

2022年10月24日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでリタンカー・マジュムダル(Ritankar Majumdar)を「Ritankar Majumdar」で検索すると、0論文が撤回されていた。

ヘンだな、と思って、調べると「Ritankar」の最後の「r」のない「Ritanka Majumdar」で検索するとヒットした。

本記事で問題にした「2016年1月のPLoS Biol」論文・1論文が撤回されていた。

撤回監視データベースの収録ミスである。

★パブピア(PubPeer)

2022年10月24日現在、「パブピア(PubPeer)」では、リタンカー・マジュムダル(Ritankar Majumdar)の論文のコメントを「Ritankar Majumdar」で検索すると、本記事で問題にした「2016年1月のPLoS Biol」論文を含め2論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》日本の異常 

研究公正局の報告書に書いてあるが、リタンカー・マジュムダル(Ritankar Majumdar、写真出典)のネカトは、出版前の投稿原稿も対象になっている。さらに、研究室のミ-ティングでの発表も対象になっている。

日本の文部科学省は、驚くことに、これらを不正の対象にしていない。つまり、日本では研究不正ではないのだ。

2014年の「「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」に係る質問と回答(FAQ):文部科学省」には以下のようにある。

どうしてこんな規則を制定したのか?

論文は出版後にネカトなら、出版前でもネカト。いつどこでもネカトはネカト。

日本からの投稿論文が外国でネカトと判定されても、日本ではネカトではない。オカシイでしょう。

つまり、研究不正は国際基準なのに、日本では研究不正ではない、という深刻な異常が起こっている。

政治家が何度も唱える「日本は先進国の価値観と同じ価値観を共有・・・」、「していません」。

こんなんで、国際共同研究、できるんでしょうか?

何とか早く、この異常を解消すべきである。

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●9.【主要情報源】

① 研究公正局の報告:(1)2022年9月1日:Case Summary: Majumdar, Ritankar | ORI – The Office of Research Integrity。(2)2022年9月7日の連邦官報:FRN Ritankar Majumdar 2022-19263.pdf 。(3)2022年9月7日の連邦官報:Federal Register :: Findings of Research Misconduct。(4)2022年9月12日:NOT-OD-22-212: Findings of Research Misconduct
② 2021年7月14日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Researcher committed misconduct while at NIH, say institutes — but is allowed to publish a revised version of a paper – Retraction Watch
③ 2022年9月1日のエリー・キンケイド(Ellie Kincaid)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Former NCI postdoc faked data, says federal watchdog – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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